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「何から何まで世話になった」
「それはこちらのルミに言っていただきたい。彼女が隻眼を目指す一環として、ですからね」
フラヴィアがやって来て装備品の代金を渡しにきた。
その際に昭信は第二迷宮のレムゴーレム戦で実戦演習を見学させた。見学人である彼女は盾を持って防ぐだけ。その間に毒牙や睡眠添付を付けた装備で、外陣メンバーがひたすら攻撃するだけだ。その様子はシステマティックであり、フラヴィアが何も関与せずとも戦いがあっさり終わったことも含めて感心したという。
「そうか。その配慮、痛み入る」
「いえ。エレーヌさまにお願いされただけですから。それに結晶は非常に助かります」
フラヴィアはあえてルミ越しに昭信へ会釈をした。
ルミが隻眼になるための修練をしているのも確かだろう。だが昭信が幾つも配慮をしてくれたことを理解しつつ、その配慮を潰さない意味でも気が付かないフリをして挨拶に替えたのだろう。ルミの方でもそのことを理解し、ペコリと頭を下げた後は少し後ろに下がった。
「しかし、使っている装備品をもらってしまって良かったのか?」
「今回貰った結晶に、こちらで発注を掛けている結晶を合わせればどこかで成功するでしょう。それに結晶が間に合わない場合は、別の階層で戦えば済むだけの話ですから。竜革や薬など騎士団が集めて迷宮攻略の足しになる物は多いですから」
フラヴィアはこれから三百本を目指し、出来れば五百本を狙うという。
それだけの木材を短期間に集めることが出来れば、ナーシャ領が早々に達したことも含めて女性領主の手腕も鳴り響くと期待してのことだ。二つのスキル付き装備に支払った金を回収し、それ以上の利益を得るためというのもあるだろう。それゆえに昭信たちは早めに装備を引き渡して、その時間に余裕を与えたのだ……という理由を作った。実際には羊や蟻も含めて複数の結晶を手に入れる方が嬉しいからだが、それをあえて語る必要はあるまい。美しい誤解は幾らあってもよいのだから。
「では遠慮なく使わせていただこう。いずれまた何かお願いをするかもしれないが、その前にエレーヌ殿に義理を果たさなければな」
「いつでも遊びにおいでください」
「その時は素直に菓子をいただこう」
最後にフラヴィアはエレーヌに向けて笑みを見せて立ち去っていった。
そして昭信たちの方はこれから別の作業が待っている。売ってしまった装備を用意し直し、クラータル四十五層に挑まなければならないのだ。
「午後から帝国解放会の試験に赴く。四十五層自体は既に越えているが、念のために英雄のジョブは外しておくので、いつもより体が鈍く感じるかもしれない。気を付けておいてくれ」
「問題ありません御屋形さま。途中で現れるネペンテスは動きも鈍いですからね」
「ボスのセファロタスは滋養錠の材料を落とします。一回は惜しいですね。マスター」
指揮担当のシモーヌと金庫番のルミはいつも通りだ。
苦労が多少増えるとしても、それがどうしたという顔をしている。二人にとって怪我する程度は当然のことであるし、他の心配に比べたら大したことはないと思うタイプであった。シモーヌからしてみれば自分の上位互換にあたる存在と、『適切な間柄』になれたのでホっとしているところだ。ルミとしては予算の心配がまったくなくなり、結晶が沢山手に入ったのでいうことはなかった。
「私の旦那さまになる方が、かつてない記録で解放会入りするのも楽しみだったのですが、非常に残念です。アキノブさま」
「勘弁してほしいなエレーヌ。舐められなければそれでいいさ」
昭信は前日までの段階で時間を掛けてゆっくり討伐することは伝えていた。
運が良ければ五分も掛からずに討伐出来てしまう。当たり前の話だがそんな異様なペースで討伐してしまえば、どう考えても七十層以上の深い層に送り込まれるだろう。エリクサーや自爆玉の材料を取りに潜ることがあっても、それは将来の意欲目標でしかない。使命だと言われて死地に送り込まれたり、それが出来るような化け物だと思われたいとは思っていないのである。
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「これより帝国解放会へ入会するための試験を始めたいと思う。とはいえ君たちは四十九層に到達したそうだから心配はしていないよ。いつもやっていることを見せてくれれば構わないからね」
「そうさせていただきますね。参りましょうか、アキノブさま」
「ええ。恥ずかしくないように頑張らせていただきましょう」
アスターが見極め人になって四十五層へやってきた。
探索者数人が二つのパーティーを運び、待機部屋に移った段階でアスターのパーティーは四十六層の入り口に移動することになるだろう。この辺りは原作とほぼ同じであり特に差は見られなかった。あえて言うならば見極め人がソードマスターで、その護衛というか家臣筆頭が聖騎士というくらいである。
「下はホワイトキャタピラーだったのか。食虫植物と共にいるとは奇妙だな」
「迂回しますか? 御屋形さま」
「面倒だ。突き抜ける」
暫くしてネペテンスとホワイトキャタピラーの群れに出遭った。
ホワイトキャタピラーはボスであるシルバーキャタピラーと何度も戦ったこともあり、ロクサーヌほどの嗅覚がなくともよく覚えている。シモーヌの確認に首を振り、昭信はそのまま待機部屋まで直行することにした。
「先に行け。俺は左から片付ける」
「承知しました。私が前に出る、遅れるなよ!」
「「はい!」」
まずはシモーヌが突進して敵のヘイトを集めに掛かった。
真銀のサーベルで中央に居たネペンテスを切裂き、その脇を通って昭信は後ろに隠れているシルバーキャタピラーへと辿り着く。そのままスライスを放ち一閃、剣豪と英雄を外していることもあっていつもと違い一撃では倒せない。だがそれでよいのだ。
「ファイヤーストーム!」
(今だ、二撃目。そしてリポスト……)
エレーヌが範囲攻撃を放って視界が塞がっている間に、昭信は二撃目を与えた。
そして新しい技であるリポストに意識を向け、あえてホワイトキャタピラーが食いつこうとするのを待った。そのタイミングで敵の牙を軽く跳ね除けつつ、三撃目としてカウンターを入れながら次の敵に向かったのである。
「眠りました」
「よくやった。俺が代わる、隣の敵を牽制していろ」
「承知しました」
その頃にはグレースがシモーヌを回り込み、ネペンテスの茎を槍で突く。
付与に成功しても30%の確率で抵抗してしまうが、所詮は運に過ぎないので必ず抵抗するわけではない。今回は毒牙を用意してないこともあってそのまま眠っており、手が空いた昭信と入れ替わりでグレースは別の敵を眠らせに向かう。
「悪の獣のもののふの、百煉の力を解き放つ。致命! モータルストライク!!!」
「眠りました。いえ、目覚めて動きます。このまま戦いますね、旦那さま」
(リポスト。……ルミも回り込んでいたか。ならば連続で眠ったこと以外は順当だな)
昭信は到着と同時にネペンテスの袋部分ごと茎を切裂いた。
溢れ出る粘液に毒の痛みを感じるが、このランクの魔物ではそれだけでは毒を与えられないのだろう。昭信が構え直しながら周囲を観察していると、噴出するために破れた袋で毒液を圧縮しようとした。だが放とうとした段階でリポストが反応し、こちらに向けようとした袋を跳ね上げ、そのまま茎へトドメを放ち煙に替えたのである。
「二人はもう一体の芋虫に向かえ。俺はネペンテスを片付けていく」
「「はい」」
昭信は二体目を片付けた時点でフリーになった二人へ指示を出した。
リポストを使った最初の頃は地味な効果だと思ったが、『いつ反撃するか』を決めておけば条件達成と共に思い描いた攻撃が放てる。逆に言えばタイミングを指示していても、攻撃イメージをしなければならないということだ。だがその二つさえできるならば、その間に周囲を観察することも、注意深く移動する事も出来た。詠唱短縮があるから実は技も放てるのだが、流石にこの時点で気付くことは難しかったが、概ねこの時点で剣聖というジョブが持つ強さに実感を得ていたのである。
(スライスは動きが大人しいから通常攻撃に偽装できるのもよいが、やはり本番はジャンプしたり走りながらの攻撃時だろうな。反動で無様な真似を晒さずにすむ。やはり上位ジョブまでくれば基本的にアタリばかりか。あとはリポスト含めて使いこなすだけだな)
昭信は三体目として別のネペンテスに向かった。
どうやらシモーヌが詠唱中断を行なっていたようで、攻撃的な姿勢は見かけられない。昭信は『相手の動きと間合い』を見極めて、攻撃タイミングや射程を外すように動いていた。それだけに何が起きているかの観察力はそれなりにある。敵がこちらに気が付いて動き出したのを見て、一閃を浴びせつつ素早くリポストと念じ、筒状の部分で殴り掛かってきたところで僅かに浮かせるように刃を跳ね上げ、鋭く逆撃を浴びせるのだった。
「ファイヤーストーム!」
「流石はお嬢さま! ここからは締め時ですね。怪我をしないように参りましょう」
(二度目のファイヤーストームで大勢に決着がついた。シモーヌもよく見ている)
昭信のモータルストライクと被らないように詠唱してたエレーヌの範囲呪文。
それで戦闘に関しては殆ど終わりだった。シモーヌはこれ以上のMP消費は不要だが、負傷しないようにと全員に声を掛けたのだろう。昭信が来ていることにも気が付いており、無駄に攻撃せずに周囲への観察に気を配ったのかもしれない。いずれにせよ、彼女は戦闘指揮官として成長しつつあるということだろう。
「いやいや。実に無駄がないね。目を引き付ける役と攻撃役の連携が見事だ。それにしてもあれほど睡眠が決まるとは、あちらの子は暗殺者かね?」
「ええ。眠りは特に発揮され易い状態異常です。ただし発揮しても敵が抵抗したら終わりですので、今回は運が良かったのでしょう」
やがて待機部屋に辿り着いたがアスターはとても感心していた。
昭信の戦闘力が高いことは最初から予想していたためか、シモーヌのタンク役としての動きとグレースの睡眠添付について非常に感心していた。
「確かにそういう面はあるがね、それも含めて君の実力だよ。試みに尋ねるのだがね、もし武器を破壊する敵が出てくるとしたらどうする?」
「うちは探索者をエレーヌ嬢の護衛に残しています。その時はスキル付き武器を交換するだけですよ。何だったら身代わりも無くなれば、盾やオープンヘルムにして戦闘中に補充するまでです」
アスターはにこやかな笑みで本題を切り出してきた。
暗殺者は確かに強いが、迷宮ボスは武器を破壊してくると暗に説明したのだ。昭信は原作知識もあり、そういう情報があるならば備えるだけだと告げたのである。
「なるほどなるほど。確かに理屈だ。そういう敵が居るならば生産性も含めて領地を整え、独自の戦法を編み出すと。願わくは私を含めた同胞にもその研鑽を齎してほしいものだね」
「構いませんよ。貴族の柵がなければアウレリア卿にも無償で良かったのですし」
「ははは。それは達観し過ぎだね。我らはまだこの俗世で迷宮と戦わねばならない」
「ならばせめて、もう少しシンプルにいきたいものですね」
おそらくは、こういったレクチャーは定番の流れなのだろう。
原作でエステル男爵やハルツ公が口にした話をミックスして聞いているような気がする。この世界が原作と違う世界線だとしても、複合した人物などではない筈だ。それを考えれば、解放会に所属した者が理解しておくべき知識として伝えているのだろうと思われた。
「さて、名残惜しいが私は上で待っているよ。その時は君は真に我らが同輩となる。その時は対等の言葉で構わない」
「出来る限り努力しましょう」
アスターは羽根付き帽子をかぶり直して探索者と共に四十六層へ。
よくみれば最初に出逢った時とよく似ているが、こちらは装備品だった。鑑定し直すまで気が付かなかったが、あえて似せて幾つも用意しているのだろう。もし大雨に濡れても、翌日にはまったく同じ服装で現れそうな雰囲気があった。
「ではボスに挑むとするか。先に誰も居ないと分かっているのはありがたいが、油断はするなよ」
「「「はい!」」」
こうして昭信たちは四十五層のボスを倒して解放会の試験を無事に終えた。
全く遠慮が不要であったため、セファロタスが持つ『色が変わるたびに段階的に強くなる』という要素を一切出させずに完封。無駄に時間を費やしてから突破したという。
●リザルト
アキノブ・タケダ。狼人族。♂。24歳。英雄54レベル。
活性枠。入替枠。不要枠。
英雄54/百獣王49/勇者43/剣術指南役47/剣聖12
獣戦士51/ソードマスター50/探索44/神官40/料理人35/剣豪50/薬草採取士41
村人5/錬金術師1/僧侶1/魔法使い1/戦士30/賞金稼ぎ1/騎士1/剣士50
更新順(古 → 新)
キャラクター再設定、鑑定、必要経験値二十分の一。65
獲得経験値二十倍・5thジョブ。詠唱省略。79。余りは結晶促進。
ルミ。ドワーフ。♀。17歳。鍛冶師49
シモーヌ・ナーシャ。狼人族。♀。23歳。騎士48
グレース。人族。♀。22歳。暗殺者48レベル
エレーヌ。狼人族。♀。魔法使い44レベル。
という訳で帝国解放会の愉快な人々に出会いにいきます。
まあ序盤は前回の続きと言うか、隻眼用シナリオの最中なので仕方なし。
ただ、レベルは高くて貴族でも敬遠されていたフラヴィアさんも、丸くなったのでそのうち帝国解放会に推挙されるでしょう(四十五層で)。
●スキル装備の報酬
四十万ナールから結晶十個の代金を引いた程度。
コボルト4・蟻2・羊1・芋虫1・木2。このうちコボルト数個と羊1は懇意の仲買人から手に入る範囲で譲ってもらったとか。数日空いたのはその為(蟻は居やがる探索者の代わりに戦うという感じで、昭信たちと同じ経緯で持っていた。芋虫は予備で、木は木材納入中に拾った物)。
●アスター君メタい
原作をそのまま流用しているのもありますが、教える必要があるから話す。その方が正しい気がしてるので、あえて変えてません。ちなみにアスター君をソードマスターにしてるのは、解放会に洒落者を見てないのと、昭信君の術理(コンボ話)についていけるようにしてます。剣士ギルドからソードマスターにいくような奴は、道場で『対人コンボ』を習っているから人間と戦えばまず勝てる様に仕込まれてる感じ。
●セファロタス
四十五層で原作主人公が戦ってるのですが、特に名前も出なかったので捏造しました。もし名前があったら修正しますし、他の作者さんが『うちで出した名前だ! やめろ!』とおっしゃられたら他の名前を探します。また、後から書かれる作者さんが、「他のSSから流用するか」と思われたら好きに使ってください。名前の法則性を使う以上、何処かで被ると思われますので。
なお、ロクな戦闘描写が無かったのは食虫植物戦で思いつかなかったからです。かろうじて『紅葉するらしい』という記述を見て、段階的に強くなる……と決めたのですが、速攻型のうちの主人公には相性悪いんですよね。スキルの使い心地を試すために、もっと人間ホポイ敵を出すべきだったかもしれません。(ハルツ公みたいなノリで話す人が、「四十九層にいけるならあそこでいいだろう!」と提案するとか)
次回はいよいよイニシエイションとロッジ見学会になります。