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「ようこそいらっしゃいました。まずはお名前をお聞かせ願えますか。苗字をお持ちの場合は苗字まで。爵位と継嫡家名は結構でございます」
「エレーヌ・ナーシャと申します」
「アキノブ・タケダだ。よろしくお願いする」
「シモーヌ・ナーシャです。よろしくお願いします」
試験の終わりに、冒険者に連れられて解放会の帝国ロッジへ。
今は冒険者がいないが、そのうちにグスタフが冒険者になるだろう。その時に探索者枠をどうするかは別にして、バトラーという褐色の肌の青年に迎え入れられた。継嫡家名というのはよく分からないと思うが、織田信長で言えば弾正忠家で三郎と名乗り、徳川家康で言えば松平宗家で二郎と名乗る『本家から数えて何番目に分岐した、今はどう名乗っているか』のことだと考えれば分かり易いのではないかと思う。ハルツ公で言えばハルト氏以降の系譜、公と僭称や敬称ではなく身分で名乗る家系となる(婚姻は同盟なので、カシアはセルム氏の系譜になる)。
「ルミです。失礼いたしますね」
「グレースです。御目汚しで申し訳ありません」
「グスタフと申します。お世話になりますぞ」
「エレーヌさま、アキノブさま、シモーヌさま、ルミさま、グレースさま、グスタフさまですね。わたくしはバトラーと申します。僭越ながら、当会に関することを説明。ご案内させていただいております」
バトラーは一度に全ての人間の名前を覚えていた。
原作でもあったように世俗の身分や役職などにこだわらないとか、ロビーで飲食が可能であったり、資料室で情報を探すことが可能であるとか教えてくれる。原作と違う人物が案内しているのは別の世界線なのか、それとも時間軸が違うのか、あるいは単に支部なのかもしれない。ただ、この時点で意味があるのは一つだ。
「様々な種族がいるのは解放会の理念と聞いたが、装備もここで扱っているのか。どのくらいの値で売買するんだ?」
「はい。会の方針として相互援助の目的で、それなりの値に抑えさせております。ただしポイントというものを発行し、単なる金銭ではなく互いへの尊敬と奉仕として換算。これを必要とするものとさせてもらっております」
目に付いたのが複数のパーティーがいること、そして装備品だった。
原作ではオリハルコンの槍・ダマスカス大鋼大盾と身代わりのミサンガが幾つかくらいだったと思ったが、そこそこアイテムが飾ってある。その全てがスキル付きの装備なのだろうし、もしかしたらそれ目当てで来ているパーティーもいるのかもしれない。
「解放会としての相互扶助という事は、騎士団用の雑多な装備ではなく、基本的にはコボルトを使用したスキル付き装備。そして身代わりのミサンガのようによく使われる必需品を置く。ミサンガなら一ポイント、属性抵抗装備や状態異常の抵抗装備であれば二ポイントというところかな?」
「正しくは素材の質でも変化いたしますが、おっしゃる通りになっております」
「そうか。装備更新で使わなくなった品でよければ持ってこよう」
「御心遣いに感謝いたします」
昭信はここで幾つかの条件を確認した。
昭信が持っている範囲で例えれば、毒防御の鉄製チェインメイルや加速の革鎧など、スキルが付いている装備であっても引き取らない。素材が鋼鉄製や竜革であろうと、そのレベルは試しに作った後は騎士団に着せるか、さもなければ売り払えば済む範囲である。だがコボルトを使った者は性能が良く、最低でも鋼鉄製で出来ればダマスカス鋼製ならば解放会のメンバーとしても欲しい装備になるからだろう。
「売却目的で製造なさるのですか? マスター」
「ああ。柵を気にせずに、しかも即金というならありがたいからな。帰ったらダマスカス鋼で盾や大盾でも作ってくれ。スロット付きがあったら木の結晶で強壮の盾とか、スライムで頑強の大盾を売ってみよう。ポイント自体は俺たちも使える装備を買うのに必要だから、スロットが付かない場合は買ってくることになるから、結晶の方は予定しておいてくれ」
バトラーと別れたところでルミが話を切り出してきた。
昭信はそれに頷きながら計画を簡単に練る。もっとも必要なのはスキル付き装備ではなく、スロットがたくさんついている装備の方だろう。原作でも登場したスロットが五つあるエナメルブーツなどが出品されていたら、即座に購入する必要があるからだ。もしこの場で存在していたら、身代わりのミサンガと共に睡眠添付の槍あたりでも売却していたかもしれない。
「分かりました。では
「そうだな。常時五ポイントを維持するとして、定期的に何かを新作として置きにくる。その結果、時々十ポイントになる程度で妥当じゃないかと思うぞ」
ここで重要なのはどの程度ならば自然な頻度かという話である。
いくら何でも毎回毎回、何かしらの装備を置きに来るというのも不自然である。売り出し中の鍛冶師が自分の名前を誇示するにしたって、そんなものはオークションでやるだろう。あくまで最初は不用になった良品であり、聖銀の盾が手に入ったから強壮のダマスカス鋼盾を売った、竜騎士を仲間にしない計画になったから大盾を売ることにした……くらいが自然であろう。後は身代わりのミサンガを定期補充して、余っているなら『隻眼への挑戦の過程で作った』と称して、何かを置く計画を立てたのである。
「やあ。アキノブ、ここではそう呼ばせてもらうよ。君も私のことを気軽にアスターと呼んでくれたまえ。外ではそうもいかないので窮屈だが……。なに、君の実力なら半年もすれば女男爵の婿として今と同じように話せるようになるさ」
「そういえばここでは身分も役職も関係ないのだったか。ではよろしく、アスター」
「……ええと、よろしくお願いします。アスター……さん」
「よろしくエレーヌさん。流石に男女では垣根を越えるのは難しいかな」
やがて遅れてやってきたアスターが軽妙に笑う。
表でのただ慇懃な感じがする挨拶よりも、多少ではあるが軽い。しかし本質は変わっていないというあたりか。昭信はともかくエレーヌは緊張して少しばかり口籠っていた。
「少々待たせてしまったようで申し訳ない。こんな予定では無かったのだけれどね」
「なに、ロビーを見学するのに丁度良かったさ。それで予定外とは何かあるのか?」
「この冬から来年にかけて大規模討伐を行うかどうかの所感を交換していたんだ」
「……なるほど。最低でも六十層を越える場所か。それは悩みどころだ」
アスターと昭信はロビーにたむろするパーティーを眺めた。
おそらくは各地で活躍する者の中で、比較的に動き易い者を集めたのだろう。貴族たちはそれぞれの領地に存在する迷宮を抱えており、いつでも救援に駆けつけられるわけではない。内心ではむしろ『自分たちのところにこそ援軍が欲しい』と思っている者すらいるだろう。つまり『動いても問題ない者』だけか、『積極的に動員』して迷宮を弱らせるかを相談したものと思われる。
「ちなみに君の所は?」
「発見されたばかりの第二を討伐出来ればいつでも」
「それは残念。君が来てくれるなら非常に頼りに思えたのだが」
「こちらとしても残念だな。何人かが上のジョブになるところなんだが」
アスターと昭信はコントのように肩をすくめ合った。
アスターはフリー戦力になっていると思われ積極的に討伐されるが、昭信は『第二から第一の順で攻略すれば、確実に行ける段階だ』と今は無茶できないことを告げたのである。ついでのように『今からジョブを変えるので慣らし運転するから、どちらにせよしばらく動けない可能性が高い』と告げたのであった。
「まあ早々に動員令は出ないさ。安心して地元の迷宮を攻略してほしい。ともあれ三日後にアキノブとエレーヌだけで来てくれ。入会の儀式は本人だけという慣例だからね」
「それは構わない。しかし、俺とエレーヌが同時入会の扱いなんだな」
「まあ婿も貴族の内というか、君が主体だから外せないよ」
(そういえば原作でも皇帝と近衛が同時入会だったな)
その日はこれで解散し、昭信たちは入会式の準備に入った。
当日は呼ばれた二人だけが入会式に参加し、ルミは装備を売った後で資料室に籠ってデータ検索、残るシモーヌ達は第二迷宮で適当な階層を周回しておくという話であった。もちろん残りの二日はいつものように迷宮で戦ったり、結晶やら装備を探して街へと赴いたという。
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「二人ともこれを着用せよ」
「は、はい! 失礼しますね!」
「確かダルマティカだったか? 残念だな。こういう感じの服装を騎士団で誂えようかと思ったんだが」
入会式において原作通りに白い服装を持ってきた。
鑑定するとダルマティカであり元の世界で言うと聖職者が着ていそうな服である。アルバもそんな感じの表現がされていたので、儀礼用のフォーマルな衣装のバリエーションは少ないのかもしれない。昭信はそんなことを思いながら、エレーヌの緊張を解きほぐす意味で冗談を口にした。
「別に構わないが解放会の者が見たら失笑するであろうな。運が悪かったと思って別の装束にするがよい」
「そうさせていただこう」
司会を務める男は昭信の冗談に対して真面目に答えた。
そろいの服装でダマルティカを選ぶことを止めはしないが、解放会の者が見たら恥ずかしい思いをするだろう。だから好きにしてよいが、別の衣装した方が無難だと淡々と説明していく。
「これより、帝国解放会へのアキノブの入会式を執り行う。推薦人は推薦の辞を」
「帝国解放会会員であるわたくしガラリアは、これなるアキノブの実力と品性を認め、帝国解放会に相応しい人物であると推薦するものである。アキノブは帝国解放会に新風と競合を持ち込み、迷宮と魔物の駆除への力となるであろう」
この辺りは原作と同じでメンバー以外はあまり差がない。
推薦人はガラリアであるし、立会人も原作に居なかった人物に変わっているだけだ。昭信も一々暗記してないので文言が違っているかも同じかも分からないだろう。
「アキノブの実力はわたくしアスターが確認した。もしも入会に反対の者がいるならば申し出るように」
「アキノブの入会に反対者はいないと認める」
どちらにせよ儀礼的なものなので差がある意味はない。
ここに居るのは立会人・推薦人・見届け人の三種類しかおらず、反対しそうな者は最初から選ばれていないのだから。
「帝国解放会へのアキノブの入会を認める。アキノブは、次の宣誓の言葉を復唱せよ」
「はい」
儀式は続いていく。もはや口を挟む余地はない。言われたことを繰り返すのみだ。
「わたくしは帝国解放会会員として、努力と研鑽を怠らず、迷宮と魔物の駆除にまい進することを誓う」
「わたくしアキノブは帝国解放会会員として、努力と研鑽を怠らず、迷宮と魔物の駆除にまい進することを誓う」
ここまでは基本的に口を挟む必要がなかったのもあり、特に異議なく進行していく。
「また、帝国解放会内部の情報を洩らさないことを誓う」
「また、帝国解放会内部の情報を洩らさないことを誓う」
問題があるとすればこの部分だろう。だが、『帝国解放会に関すること』でなければ問題あるまい。資料室で調べて、得た知識でなければ問題あるまい。あえて言うならば、後でバトラーなり誰かに尋ねるべきという程度である。
「入会式は以上だ。帝国解放会への入会を歓迎する」
「はい」
さて、本日のメインイベントがやってきてしまった。くだらないと思っていても、誰も彼もが通り抜けていく儀式である。
「引き続き二人の入会式を行なった後、新会員には入会儀礼として、自らの性的な恥ずかしい秘密を懺悔してもらう。帝国解放会会員として強く生まれ変わるために必要な儀礼だ」
「秘密か。意味は分かる。しかし人間関係を壊さないか?」
昭信はここで初めて異議を呈した。
戦術知識だのジョブ知識などは別に喋る必要はないのだし、思いついた知識が有益でも、取引で提供すればよい。だが、ここでは問題が二つある。まあ、一つは原作で知っていたので、もう一つが問題であろう。
「帝国解放会に入会した以上、暴露された秘密を明かすことはルール違反となる。どんな懺悔をしてもこの場から洩れることはないので、安心してくれ。なお推薦人と結婚相手については、近過ぎる場合もあるため、希望すればどちららか片方は席を外せることが可能である。後ろのエレーヌも、入会式の間に何を話すか考えておくように」
「分かった。そういうことならば俺の方は問題はない」
「え……あ? ほ、本当にですか? 本当に?」
「そうだ。好きな方を外したまえ」
こうして地獄の告白会が行われる。もちろん二人はお互いを外し合った。
残るガラリアが澄まし顔の裏でニヤニヤしている姿が想像できてしまう。実際に愉しんでいるであろうし、喋らないかもしれないが匂わせくらいはしてくる可能性はあった。
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「では、アキノブは自らの性的な恥ずかしい秘密を暴露するように。我を含めて他の者は、茶化したりせず、誠意をもって拝聴すること。ただし、秘密が十分に秘密でないと判断されるときには厳しく叱咤すること。アキノブはここへ」
「はい」
エレーヌが退出して、薄暗くなった場所で秘密の告白が行われる。
とはいえ、昭信からみればまだマシな部類だ。彼が通ったのは体育会系の大学だったので、色々なタイプの先輩(女性)がいたものである。中には後輩を性的に食ってしまう先輩もいただろうし、支えてあげたくなって後輩から見て口説きたくなる先輩もいたかもしれない。もちろん昭信が先輩になった時、後輩に対してそういう思いを抱いたことが皆無かと言えばそうでもない。武闘系の部活をやってたから、ヤリサーのようではなかっただけだ。
「始めよ」
「初めて読んだ艶本が忘れられずに、話が良いからと理由を付けて行ける町全ての古書店を廻った……とかでは駄目なのだろうな」
まずは軽くジャブ、駄目だろうとは思うが念のために聞いておく。
この程度ならば対したことはないし、原作主人公がやったようにこの世界で様々な服をコレクションしようとした……くらいでは駄目そうな気がした。
「理解は可能だが大したことはないな」
「興味は湧くね。どんな本だったのさ?」
「危険な任務に就いている男女たちが、ふと一人になった時に『迷宮側の人間』に入れ替わるという話だ。食料や薬品を入れ替えるなど様々な工作をして数々のパーティーを壊滅させ、偽者の番が男女の交わりをしたところでもう一方も入れ替わってしまうというものだ。主人公は最後まで抗い、迷宮側の人間だけでも倒そうと試みた辺りで続刊が出ていなかった」
当然のように司会は首を振り、ガラリアがツッコミを入れてきた。
少しばかり笑みがこぼれたような気がするのだが、このくらいなら『嘘の告白かどうか確かめるための質問』で済まされるのだろう。ちなみに昭信が読んだのは、某有名漫画家が同人誌時代のペンネームで商業誌に書いたもので、ガンアクションと妖怪退治の漫画が大人気になったので、続刊が出る気配は微塵も無かったという。
「それは……危険思想……むしろ危険に警戒を喚起する本なのか?」
「艶本にオチを求めちゃ駄目だよ。他にはないの? 寄り親で抜いたとか」
「ガラリア。不謹慎だぞ。そういう言い方をするならお前も出ていけ」
(こいつ……実際に食ったな。そういうタイプだ)
アスターが興味の入り混じった顔をすると、ガラリアは本性を出してきた。
その様子に司会は厳重注意を促し、昭信はゲンナリした顔で彼女の顔を眺めた。そこには『スタッフが美味しくいただきました』と書いてあり、まだ若かったであろう騎士団員……場合によっては寄り子貴族のチェリーボーイの性癖をぐっちゃぐちゃにしたものと思われる。
「なら……そうだな。性的にも恥ずかしいが、思い上がり的にも恥ずかしい思い出がなくはない。その件自体はよくある自慰の話なんだろうが、二番底の恥ずかしさを体験したことで、俺はそれまでの意識を改めることが出来た」
「ということは剣術道場での話かい? 実に興味があるね」
「へー。君らそういう仲? まあいいや、話を聞かせてよ」
「ふむ。分野が違う気もするが、期待が出来そうだな。続けよ」
仕方がないので昭信は己の恥ずかしい行為を話すことにした。
ただし、よく考えてみれば普通にあり得る話なので、つまらない告白でしかない。ただしこの世界では昭信は狼人族であり相当な強者だ、そんな人物が恥ずかしいというならばそこそこ期待できそうという流れになってくれた模様。
「剣術道場で居残りをするのは基本的に二種類の人間だ。貪欲に強くなろうとする者と、実力が及ばず徹底的にしごかれる者。そんな我々の面倒を見てくれる後輩だったり道場主の家族やら近所の者が、修行の場まで迎えに来てくれることもよくあった。その中に可愛らしい子が居たというとことまでは想像に難くないと思う」
「ああ、なるほど。ありがちな話だね。覚えがあるよ」
「その子を思って自慰をしたっての? つまらないんだけど」
「話は最後まで聴け。女顔の男だった可能性もあるだろう」
アスターはうんうんと頷き、ガラリアは露骨に面白くなさそうだと言った。
茶化すなと言われていたはずだが、このくらいだと許容範囲なのだろうか? あるいはよくある話なので、少しでも体験を引き出そうと見逃しているかもしれない。そして司会が『男に対しても自慰を行う可能性』に言及すると、アスターは苦笑しガラリアは一転して興味深そうな顔をした。
「こう言うとなんだが剣術道場に通う子や、狼人族は強い者に好意を持っていることが多い。自然と恋人でなくともそれに準じた関係になる者自体は多かった。探索者でも恋人ではない筈なのに、生死を分ける戦いの後では行為を行うようにな。当時一番強かったのは俺だったし、当然自分が選ばれると思っていたわけだ。そしていつも修練に際して着替える場所で、我慢できなくなって自慰を行った。問題はここから二段階の思い上がりに気が付いた事だな」
「騎士団では年上の者が下の者に時間を割くという、寵愛を授けるからな」
「そうですね。目を掛けた子くらいにしか時間を割いて面倒を見る余裕はないです」
「あれあれ、もしかして二人とも男の子に対して色々したことあるの? 両方?」
司会はマンツーマンの教えとして従士に騎士が手を出す話を思い浮かべたようだ。
アスターはそこまでではないが、自分を慕う女の子を相手すること自体は普通だったのだろう。実際に手を出すかは別にして、貴族の跡取りならば疑似的な恋人になりたがる者は多いだろう。そして全員が腐女子化して茶化そうとするガラリアを無視した。
「でもそのくらいで……ああ、そうか。その子は強さ基準じゃなかったのか」
「ええ。その子が好きだったのは俺などではなかった。共に過ごした時間自体にそう差はなかった筈だが、その子が好きだったのは……別の人物……俺より弱い奴だったということだ。思い上がって告白したり、押し倒そうとしないで良かったと、自分の思い上がりを恥ずかしく思ったよ。これは一つ目の底だな」
アスターが何かに気が付いたところで昭信はその推測を肯定した。
要するに昭信は自分がモテていると勘違いしていたが、現代社会では別に強さなど関係ないのだ。それこそ体育会系で仲がよくて親しい先輩とそういう関係になる子がそれなりに居たとしても、別に昭信を相手にするとは限らない。昭信が部活のエースで名門の生まれだからと言って、別に体育会系の大学ならば珍しくないのである(同じ部活かは別にして)。その上で、他の学校であったり隣近所、それこそネット社会で出会いは無数にあるのだ。昔の少年漫画の如く、部活のエースがモテるとは限らないのである。
「一つ目の底はそこで、急激に頭が冷えて自分の行いに思いを馳せた。そして神聖な道場で何てことをしてしまったのかを己が情けなくなった。ましてや狼人族は鼻が良いからな、俺如きの振る舞いなど気が付いて笑っていてもおかしくはなかったのだ。だが、これが二番目の底。アスターが疑問に思わなかったように、実はこのくらいのことはよくあった。昂った肉と体を鎮めるために白いモノを吐き出すどころか、我慢できない粗忽者は後輩を殴りつけて赤いモノでその場を汚した。そしてそれらを綺麗にするのは後輩たちの中でも格下の者であり、世話をする者だった。俺が見ている世界など、実に狭かったのだと……後輩の後輩が不祥事を起こした時に思い知らされたよ」
「よくある話ではあるが、まあ生まれ変わるという意味ではアリだとしよう」
「私は疑似的な恋人が始末するのを実際に見ましたが、運が良かったのでしょう」
「えーつまんないなあ……。でもまあ、二人が認めるなら仕方ないとしようか」
司会とアスターはそれぞれの思いでこの話を受け容れた。
自分がモテるなどと錯覚した昭信だが、この世界ではそこそこある話なのだろう。貴族の子弟がモテて、取り巻きやら側女として用意された侍女に手を付けるのはそこそこある話だ。ましてや成り上がるために剣術道場やら騎士団に入る者ならその傾向はあるだろう。そして下の者を殴りつけて制裁し、場合によっては強制的な性行為や衆道の中になる場合もあったかもしれない。そして綺麗な世界だけを見てきた昭信が、世界がそんな物だと理解したことを認めたのである。このことをガラリアは渋い顔で見ていたが、覚えがあるのかそれともエレーヌのお話を聞くのが本番なのか、この場では大人しくしていたという。
「これで全員の入会が無事認められた。入会儀礼はここまでとする」
「全員の入会を歓迎しよう」
「迷宮と魔物の駆除に力を奮ってほしい」
やがてエレーヌの告白も済んで儀式は無事に終了した。
顔を真っ赤にしたエレーヌに対してガラリアがニヤニヤしている気がするが、あまり気にしては駄目なのだろう。ハンドサインを教えたり、総会の話を続けて真面目に儀式を終えた。
「新会員にはドワーフ殺しとシュタルクセルツァーを一本ずつ用意する。片方はこの場で飲むが、もう一つは持って帰ってもよい」
「シュタルクセルツァーは喉にくるが面白いよな。味を付ければなおいい」
「なんだ、君は知っていたのか、面白くない。それとも何かいいアイデアでも?」
「ああ。果汁やスパイスで味を付けるんだが、組み合わせで次第で泡が吹き出るぞ」
司会が二本の飲み物を用意させ、自身は酒を要求していた。
その会話に昭信が横槍を入れて、何も知らないエレーヌへさりげなく援護射撃を行うと、アスターが珍しくつまらなさそうにしていた。優雅さを絵に描いたような男でも、炭酸飲料を吹き出す光景は愉しみらしい。
「アキノブさま……?」
「口からゲップを出させる水か、一口で倒れる酒による御遊びだよ」
「……シュタルクセルツァーにします。はあ……」
悪趣味な男たちの御遊びがまた起きるのだと昭信は教えてあげた。
その事を聞くとエレーヌは溜息を吐き、懐からハンカチを取り出して口元を押さえる準備をする。こういうのは予測できなければ致命的であるが、準備しておけば何とかなるものだ。
「では乾杯」
「「乾杯」」
こうして昭信たちは帝国解放会に入会したのである。
それぞれの尊厳が無事であったかは別にして、一つの節目を越えたと言っても過言ではないだろう。
という訳で後編です。今思えば前編と合わせて三分割すべきだったかもですね。ただ、次回はハキムさんの所へお邪魔して装備品を貰って来るので、戦闘無しが続くのもどうかなと思い、一気に片付けてます。
●継嫡家名
原作では特に出てないので、戦国大名の分家の名前を例にでっちあげました。
●バトラーとか人数とか話の前後とか、何時もの解放会と違うこと
原作の一部はともかく丸コピーしても仕方ないし、他の方の真似もどうかと思うので、色々変えてます。冬には総会があるという話だったので、それも混ぜた感じ。
エロ話に関しては適当です。女性は別なんじゃないの? とか思うのですが、それをやると他の作者さんの真似になりそうだし、新しい扉を開く意味で、「寄り親と奥さんの好きな方を外してもよい」としました。