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「この度はお招きありがとうございます。ハキム様のご配慮に皆も喜んでおりますことでしょう」
「いやいや。こちらこそ無理を通した、楽にされよ」
解放会への入会から前後してハキム老からの連絡がきた。
宝物を渡す準備が出来たので、案内する場所へ『エレーヌ抜きで』やってきてほしいと注文があったのだ。そこでダマスカス鋼製の装備二つと身代わりのミサンガをエレーヌに預け、彼女とルミは解放会へ売却に赴いている。
「ここはそなたら風に言うならば、『冬の宮殿』と呼んでおる避寒地じゃよ。雪は元より降らぬが、寒暖の差が少なくて過ごし易い」
「なるほど。御婦人方もリラックスされておられますし、良い地なのですね」
「この地と対をなす避暑地もあるのじゃが……我が一族の繁栄の象徴じゃな」
(砂漠地帯でこれほどの水量を持つオアシスを複数……狙われるはずだ)
説明を受けて昭信はハキムが孫の心配をしている理由がよく分かった。
天幕暮らしだと言うが、この冬の宮殿には防衛用の砦を兼ねて大きな建物が存在している。それらでオアシスに日陰を落とすと同時に略奪から守っているのだろう。天幕を反対側に回せば、水源をグルリと囲んで他者に水を汲ませることを許さないでいた。
「おお、そうじゃ。以前に教えてもろうた菓子の件じゃが、ことのほか人気でのう。食したいという親族も多くてな、どうじゃろう」
「では新作を含めてご披露いたしましょう」
ハキムの他愛ない言葉に昭信は全て頷いてみせた。
上下関係はハッキリとしておいた方が無難というのもあるが、砂漠のように隔離された場所では大貴族というよりは小国の王として接する方が正しいような気がしたのだ。また、ハキムが一族ではなく親族としか言わないことからも、この周囲に存在する別氏族を招待している可能性もあったからである。
「お御屋形さま。どうしてお嬢さまを伴ってはならぬのでしょうか? 大貴族の招待ともなれば、まずはお嬢さまの名前が挙がる筈では?」
「おそらくこの地では周辺部族から一人ずつ嫁を送ることで同盟を続け、子沢山で当然という考えがあるんじゃないかな。女性の立場は相対的に低いんだと思うぞ。国によっては逆な場所もあって、女性こそが太陽でその血を引くなら血統は確実だから、男の血筋は重視されない場所もあったはずだ。つまり、お国柄というやつだな」
控室に移動しながら、憤懣やるかたないシモーヌに昭信は推測を語った。
連絡を受けた時に『エレーヌは置いてきた方が良い』との忠告を受けたのが、家臣であり従姉としては許せまい。だが先ほどの広間にあたる場所でも、一人の男性に複数の女性が付いているようだった。もちろん奴隷を連れている可能性もあるのだが、鑑定で軽く見たところ見える範囲では全員が妻であり、実家の名前込みで記されていたのだ。それを考えたならばハレムかどうかは別にして、一夫多妻であるのは間違いがあるまい。
「なっ……女性の地位が低いと?」
「砂漠は環境が過酷だから男は直ぐに死ぬし、女が一人で生きる術も少ない。豊かな水を育むオアシスと耕作地帯が少ないから人間同士で争う可能性が高い。だが迷宮の存在があるからそうもいかない。その結果、生き残った男に嫁を送り合って同盟を無理やり維持するというところじゃないかな」
呆然とするシモーヌに昭信は元の世界の知識と、迷宮を組み合わせた。
砂漠の環境で死に、迷宮で死に、人間同士の争いで死ぬのか? 山の中で育ったシモーヌにとっては、水は豊富とは言えないが、その辺に食べる物が採れる環境だった。しかも迷宮は食料迷宮と呼ばれ、低層で食材が採れるのだ。この地の環境など想像できないのだろう。そして、それほどまでに過酷だと昭信が言い切るならば、否定できるだけの材料を持ち合わせていないのも確かである。
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「今日はいつも居ない子がいるから、せっかくだから順を追って新しい味を作ってみよう。何パターンか用意するので、自分好みのアレンジしたり、パーティーに合わせて変更するといい」
「よろしくお願いしますね!」
先ほどの穴埋めか、跡取りであるハミトが手伝いに来ていた。
新作を可能な限り早く味わいたいだけかもしれないが、事前に忠告したことも含めて、ハキムとハシムは他国の者との文化の差をちゃんと理解してフォローができるということなのだろう。
「基本形は酪や牛乳を中心に、さっぱりとして味わい深さをさせつつ、それを際立たせるスパイスを使う物。万人向けで無難だが、癖が無いのでトッピングなどで変化を持たせ易い。チョコレートやカラメルを掛けたり、焼き菓子と並べても良いし、茶の種類を変えるだけでも楽しめる」
「本当ですね! すっきりとして幾らでも食べられそうです」
昭信はバニラに似た香りのスパイスで作ったアイスを出した。
傍らにはタンポポ茶というかコーヒーモドキみたいな苦いタイプの茶を出している。甘いアイスを食べて苦い茶で舌を締める。それだけで無限に食べてしまえそうだ。砂糖を焦がして作ったカラメルシロップを垂らしたり焼き菓子を添え、酸味のある種類のハーブティーなどに茶を入れ替えるとイメージが少しずつ変わった。
「次にチョコレートを溶かして混ぜ込んだアイスだ。酪を多めにしてコクを出したり、抑える場合は牛乳にする。チョコレートではなくとも、味の強い豆類を摺り下ろしても良いだろうな。とにかくこちらは、少量でインパクトの強い味を愉しむ。合わせるのも少し固い焼き菓子や、いっそのこと乾燥させた種や豆菓子を載せるのもよいだろう」
「こういうの好きです! もっと欲しいですけど……我慢しますね」
「そうするといい。もう一つ……派生形もあるからな」
「はい。楽しみです」
ハミトは素直なタイプで、子供だからか食いしん坊のようだ。
少量だけ作ってみせた、サンプルとしてのチョコレートアイスを頬張った。流石によいところのぼっちゃんなので、鼻血が出るまでチョコレートやヒマワリの種を食べたりはしないだろう。だが笑顔で微笑む姿は同じ女装でも、以前に出逢った時の儚げな状態とは違う。やはり地元であるとか、宮殿の中というのもあるのだろう。どことなく朗らかで安心していた。
「バリエーションの最後としては果実や甘めの野菜を摺り下ろして汁を混ぜたもの。氷を削って食べる菓子に汁を掛けるのと同じだな。だが混ぜ込むことでサッパリとしたアイスに変化する。もちろん果実ごとに差が作れるぞ」
「あ、本当だ。こっちはガームでこっちはキュピコの味ですね」
「後はこの三つを元に、時間を掛けてバリエーションを増やすんだ」
「好みの味を探してみますね。その時は紹介させてください」
今回も少しだけアイスをパクパク。
味を食べ比べ、どんな味わいなのかを報告してくる。そのうちにお気に入りの味が完成したら本当に招待されそうであった。ちなみに御付きの侍女たちも一緒になってサンプルを食べ比べ、どうすべきかをメモに取っていたという。
「さて、最後にペルマスクで購入してきたこの器で締めくくろう。一番下にザックリとした味わいの焼き菓子、その上に基本形のアイスを載せて、さらに上に薄く切ったキュピコと焼き菓子を載せる。そして最後に溶かしたチョコレートを垂らせば完成だ」
「わぁ。凄い、色んなお菓子が積み重なって夢のようです!」
最後に教えたのは、いわゆるパフェである。
高さのあるガラスの器に土台の菓子を敷き詰め、その上にアイスを載せる。そして果実や焼き菓子を盛りつけ、チョコレートシロップで幾筋もの線を描いた。見た目にも華やかであるし、様々な味わいを邪魔しないように少しずつ食べることが出来た。それが可能なのも基本形となるバニラアイスもどきを中心として、それぞれが邪魔しないレベルで盛りつけたからだろう。
「この料理、どんな名前なんですか? 絶対にみんなに聞かれちゃいますよ!」
「名前はアラモード……パフェ……面倒だ。名前は『ペルマスク』で良いだろう」
「っ! 確かにペルマスクで購入した時計みたいですね!」
最後に作ったパフェにもハミト少年は感動したようだ。
余談であるがこの料理が後に人気を博し、名前とガラス製の器だけが先行して親族の中で広まってしまった。そして派遣された部下たちがこぞって『ペルマスクを作るので器をくれ!』『あの冷たい氷菓子を盛るためのガラスの器だ!』と意味の通らない問答に繋がるとは、今の昭信たちには想像することも出来なかったという(なお、エックハルトはとっても儲けた)。
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「この中から相応額の物を持ち出すが良い。面白い物が無ければ次回でも良い。また新しい菓子への返礼もある、多少の差であれば見て見ぬフリをしようぞ」
「ありがとうございます。つきましては荷物持ちにこちらの娘を選ばせてください」
「アイテムボックスを持たぬならば構わぬぞ」
「ありがとうございます」
そして待望の宝物庫へやってきた。ハキムは孫の笑顔を見たためか上機嫌である。
昭信としてはついでだし、有力者と縁深くなるのはよいことだ。どのみち名前付きの装備や伝世の品はないだろうということもあって、グレースのみを伴って宝物庫へと入って行った。
「さっそくスキル付きのダマスカス鋼製武器か。……次が聖銀やオリハルコン……真鉄もあるな。真銀はその魔法バージョンかな? 問題は……グレース、これを持てるか?」
「旦那さま、申し訳ありません。可能ですが、片手で戦闘は難しいと思われます」
「だろうな」
昭信はまず真鉄の片手剣を渡してみた。
だがドワーフかつ鍛冶師あるルミならともかく、人間であり暗殺者のグレースには難しいだろう。実際に所持以上のことは難しそうである。その武器が分かり易かっただけでスロットも多くなかったこともあり、真鉄の片手剣や近くにあった真銀の武器は選ばないことにした。流石に都合よくスロットが多い物はあまりないようだ。
「なら考えを変えて、まずはオリハルコンの両手剣を押さえておこう。一本だけなら強権付きなんだろうが、所詮は万が一を兼ねての予備だからな」
「僭越ながら、お持ちいたしましょうか? 旦那さま」
「構わないが、また試しに持ってもらうかもしれんぞ」
「それこそが望みです」
昭信は考えを変えて、まずオリハルコンの大剣を押さえておいた。
スロットが幾つかある物が何本か存在しており、その中でも三つの物を選んでおく。そして、同じコーナーにある片手剣の類を見合して鑑定していく。
(「アスターも持っていたオリハルコンのレイピアか。スロット数でも直ぐに装備できないという意味でも微妙だが……候補……いや、それならダマスカスで作る方がいいな。やはり防具か、珍品の類を選んだ方がいいのかな」)
「……」
次にオリハルコンの片手剣類を見たが、どれも微妙だった。
グレースが刺客になってから持たせるにしてもスロット数が少ないのが気になる。数あるダマスカス鋼製で選び抜けばスロット数四つの武器もあるわけで、無理にスロットが二つ・三つしかない装備を選ぶことはないと思ったのだ。何しろ暗殺者は状態異常が本体のようなものであり、攻撃力を求めているわけではないのだ。眼鏡付きのメイドさんから眼鏡を外すような決断はよろしくないであろう。
(ドルジェにアラ……金剛杵やウルミの仲間かな? 面白いがそれだけだ。やはりスロットのある武器は然う然うないか、さもなければスキルを付けたから別の場所に……あ、あった。戦士には微妙ではあるが、暗殺者には最適だな。暗殺用じゃなくて、護身用なのかもしれんが)
珍品コーナーの脇に短剣の類が置いてある。
狭い場所にたくさん置けるというのもあるし、持ち出す武器としては短剣は不人気というのもあるだろう。またスキルを付けるとしても、どうせなら威力の高い武器に付ける方が定石である。ゆえに短剣類は後回しにされ、場合によっては破壊して材料のするくらいのつもりで取り置かれていたと思われる。
「グレース。この短剣で戦えそうか? 主武装である場合、普段は使わないが副武装として同時に構える場合の感想を聞かせてくれ」
「こちらの短剣は普段使いでは片方のみならば戦えそうです。旦那さまとパーティーを組んだ状態であれば、持っているだけなら逆手に持てるかもしれません。こちらの短剣に関しては難しいと思います」
見つけたのは真鉄の短剣とオリハルコンの短剣である。
どちらもスロット五つが存在しており威力に関しては微妙だが、スキルを付与する対象としては問題がない。つまりスキル・ホルダーとしてこの短剣を使うと仮定して、条件次第で使い分けることを昭信は考えたのである。
(何だったら片方はHP吸収やMP吸収を付けて、守り刀として残すのもアリだな。状態異常モリモリの短剣と、吸収付きの護身用……次代では跡継ぎに予備武器として持たせるという感じか。悪くはないな。となると真鉄の方を回復用で、オリハルコンの方が主兵装か? それともサイズの問題でダマスカス鋼をメインにしておくか……)
昭信はこの時点で短剣二本を選ぶことにした。やはりスロット五つは正義である。
仮決定であって他に良い物があれば話は別だが、そう簡単にスロット五つなんて無いだろうとの判断をしてのものである。後はこの二つの金額が合わせていくらなのか? 短剣だから材料少なくて百二十万くらいなのか、あるいはハキムが価値観大盛りで百五十万くらいにしてくるかの差であろう。
(オリハルコンの剣と合わせてこれで二百五十万相当として……。少し惜しいが聖銀のロッドに持ち替えるのもありだな。あちらの真銀のロッドにスロットがあれば一択だったんだが……これで二百八十万程か。やはり後は鎧にして、あちらに良い物があれば微妙なやつを削ることにしよう)
昭信は思いきりが良い方なので、スロット最大の夢を捨てた。
今回は短剣二本でスロット五つ、そういう運命だったことにするのだ。オリハルコンの剣もあるからこれでガランが『返せ!』と言ってきても困らない。ゆえに適当に聖銀のロッドで埋めると、鎧のコーナーに向かったのである。
(神鉄の籠手は……アダマンタイトあたりの籠手なのか? それと真鉄の鎧に聖銀フルセット……惜しいな。どれもスロットが微妙だ。むしろここまでくると、エレーヌ用にそこそこのスロットで整えた方が確実だな)
そして期待していた防具は全部微妙であるというオチが付いてきた。
最高ランクの素材と思われる防具があったもののスロットが一つしかない。また真鉄の防具はスロットがなく、オリハルコンの防具や聖銀の鎧類は全部スロットが存在しないか一つ・二つの微妙な数であった。むしろ聖銀のティアラであるとか、聖銀を編み込んだケープの方がまだスロット三つと健闘している方である。本日のお宝は短剣二本というところでFAであろう。
「ふぁっふぁっふぁ。タケダ殿は随分と殊勝なのだな。最初に宝物庫を開けて中の物を売れと言ったのが嘘のようじゃて」
「あれはスキル結晶を落とし所にするための交渉術ですよ。本当に購入させていただけるとは思いませんでした。もし差額が残っているならば、また何か献上して予算を追加いたしましょう」
こうして昭信は二百五十万から三百万ナールくらいの品を選び終わった。
ハキムが三割り増し換算で要求しても問題無いようにというのもあるが、あまりがっついてあれもこれもと手を出すのもどうかと思ったのである。
「ほほう。というとまたぞろ伝世品かのう?」
「鯉の登竜にHP吸収と防御無視の付いている鋼鉄の短剣がありますよ。守り刀として持たされたものなのですが……こちらの二本はそれ以上の銘品のようです。チャレンジしてどちらかの二重付与に成功すれば、お孫のハミト殿の守り刀に進呈しても構いません」
ここでハキムの口にした冗談に昭信は肩をすくめてみせた。
付与にチャレンジするかは別にして、そういう事をしてもよいかもしれない。二本も銘品があれば片方は成功するかもしれない。両方成功しても既に鋼鉄製で存在するのだから、チャレンジして悪い道理はないと冗談めかして返答したわけだ。
「ふぁっふぁふぁふぁ。二重付与に挑戦するとは剛毅なことよ。しかし、それが可能であればそなたには運があるのだろうの。その運を孫に分けてもらおうか。その時はしかと金を払うし、こちらから受け取りに参らせようて」
「その時は私の運ではなく、ハミト殿の運が拓けたのでしょう」
こうして昭信はグレースの装備と、エレーヌへのお土産を手に帰還した。
確実に強化されるのはグレースであるが、エレーヌの方は現段階の装備自体が微妙である。魔法使いとして着実に強化されることであろう。だがそれ以上に、昭信が自分のために手に入れたことを喜ぶであろう。
●リザルト
ハキムからの貰い物。
・オリハルコンの剣(空き、空き、空き)
・オリハルコンの短剣(空き、空き、空き、空き、空き)
・真鉄の短剣(空き、空き、空き、空き、空き)
・聖銀のロッド(空き、空き、空き)
・聖銀のティアラ(空き、空き、空き)
・聖銀のケープ(空き、空き、空き)
解放会への売却品。
・強壮のダマスカス鋼盾
・頑健のダマスカス鋼大盾
・身代わりのミサンガ
・五ポイント
という訳でハキムさんのところで装備品をいただいてきました。
●砂漠部の文化
地球の文明と、迷宮を混ぜて説明してます。
こういう国もあるんだよ。人間同士で争うのは水がないからで、迷宮討伐の為に同盟として、周囲の部族から嫁貰って同盟組んでるんだよ。という感じですね。この辺は世界観を拡げるために用意した感じ。
●アイスとか
砂漠地方で『ペルマスク』という謎の料理が出来るそうです。
たぶんナポリタンやシベリアと一緒で現地では通用しない名前でしょう。
●宝物庫
残念ながらサイコロで決めたので、スロット付き良品は短剣二本。
あとは微妙な品になっています。スロット五そのものは出る判定で、微妙が二回。あとは何度振っても微妙。普通の武器や鎧とかは明らかに「望みの品」だったので、普段は使わない短剣だったら、考え方の問題で面白いかなと思いました。暗殺者なら良い品に出来るかな? と。ちなみに鋼鉄の短剣に付いているのは鯉の結晶で、レベル差無視です。強く成ったら使わないけど、弱い時代には有益という微妙極まる伝世品という捏造設定。