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「ガレス伯。お時間を取らせて申し訳ありません」
「いやいや。本当なら新年の挨拶後でもよかったんだけどね、あの時は他に人も居たからさ」
新年の祝いも終わり、ナーシャ村で開拓の噂が拡がる頃。
ガラリアが秘かに昭信の屋敷を訪れていた。試作品のチョコックッキーとチョコタルトをモグモグしながら興味深そうに続きを待つ。これから始まるのは対外的には秘密のお話である。
「まずは隻眼に関する処理ですね。適当にしていただければ助かります」
「公表しなきゃインテリジェンスカードのチェックに気を付ける必要なかったのに」
「何処かでする可能性はありましたし、実際、言っておく方が安全でしょう?」
「まーねー。隻眼だってバレたら引き抜きにあったり、攫われて囲われたりするからさ」
新年の祝いの席で『昭信は隻眼と知り合い』であると告げた。
それが奴隷のルミであるとは気が付かれてないだろうが、気が付かれたら面倒なことになる。僅か一年で隻眼になれること自体が異例だが、ガラリアは彼女が『数名で四十四層ボスと百戦以上した』ことを知っている。ということはそれまでに下層や中層でも同じことをした可能性に思い至る事も出来るわけだ。常人から見れば狂気の所業であるが……『伝世品を持った屈強の百獣王』のパーティーであれば不可能には聞こえないのが不思議である。そして想像可能な以上は、特定することも可能であるということだ。あくまで知り合いに収め、インテリジェンスカードのチェックを極限まで減らすには寄り親の協力が必要だろうし、その寄り親に攫われないためにはあの場での公表は必要なことになる。そこまでやっておけば、気が付いたとしてもリスクを避けて攫いなどしないだろう。
「まあ身内に隻眼がいるのはそれだけで厚意に値するからね、ボクとしても損じゃない。それはよいとして具体的な要求は何さ。ボクが新しく装備なんか必要ないことくらい分かってるでしょ?」
「木材の時に話した船の件ですよ。ナーシャが平和になった後で構いません」
「交易だっけ。そりゃ直ぐには動かせないけど……その時期ということは迷宮?」
「はい。暇になった時に『暇だろう。協力しろよ』と言われるのでは芸がない」
黙っておく手もあったのにわざわざ公表して釘まで刺すのは何故か?
それはガラリアならば特定しかねないと判断したのもあるが、取引を申し出るためだ。そこで船を出してもらい、海岸線の何処かにあるであろうフリーの迷宮を探したいのだという。そして『新しく見つけた迷宮に潜っているから暇ではない』という理由造りのために手を貸せと言うのだ。もちろん、そこから発展する話もある。
「領外からの危険を避けられる。有望な新人に討伐実績を渡せられる。ザっと考えてそのくらいのメリットかな? 交易のついでに探せってことなら別に構わないよ。で、君のメリットは?」
「ナーシャで得られるギルド神殿の一つを暗殺者ギルドにしようと思います」
「あー。補填かあ、まあ理由は分かるよ。新人にやらせる場合はボクからね」
ガラリアはまず大枠での妥協を持ち出してきた。
そのレベルでの利益ならば積極的に協力する気はない。と臭わせた上で、もっと利益を寄こせ……というのではなく、昭信側の利益を尋ねることで迂遠な聞き方をする。慌てて話をしたのでは貰いが少ない。あくまで配下の御願いを聞く態で、ひそかに自分の利益を回収するつもりなのだ。そしてその答えは暗殺者ギルドというものであった。ギルド神殿を回収するつもりであり、その予定によって『自分が討伐寸前まで潜ってから、新人に与えるならば、手持ちの予備を寄こせ』と昭信は返したのである。
「双方が納得するために先に情報を開示しましょう。これが暗殺者のデータです」
「へぇ……これはよく調べてる。ボクらが何となく把握している情報を、ここまで実地で研究しているとは思わなかったよ。これなら騎士団に暗殺者を入れる理由になるね。うん、ボクの所はともかく派閥全体で考えると大きなメリットだ。派閥としては積極的に協力する理由になるね」
昭信が渡したメモは暗殺者の仕様書である。
能力補助の傾向が知力と精神であり、パッシブスキル二つを持つことで詠唱共鳴がなくパーティー編成上の利点があること。そのスキルが状態異常の確率を大幅に上げ、敵から受ける状態異常の確率を減らすことが書かれている。そして『探索者のレベルに換算』することで、どの程度の成功率が見込めるかを記載してあるのだ。もちろん敵が抵抗する判定その後に来るので、100%の成功率になっても抵抗されること、それでも何度も攻撃し続ければいずれは高い確率での成功に収束すると記載してあった。
「君の所に騎士団のギルドと暗殺者ギルドがあれば、お試しで騎士の誰かを修行させるというアイデアもいい。派閥の長としては納得が出来るんだよ、生憎と僕は君らの寄り親だけど派閥の長じゃないんだけどね?」
「こういう物はいかがですか? ひもろぎと吸精です。ポイントの代わりに結晶で」
「ボクが解放会の値で寄り子たちに卸してもよいって? それは惹かれるにゃあ」
ガレス伯はあくまで中間の寄り親で、上にはもっと大きな貴族がいる。
だから自分の利益にはならないから何か寄こせとガラリアが言うと、昭信はひもろぎの聖銀ロッドと吸精のダマスカス鋼スタッフを机の上に置いた。もちろんガラリアが買い取るという意味ではなく、派閥内でガレス伯の組下になっている寄り子貴族たちに購入する権利を渡してもよいということ。そしてこの二つのアイテムに限らず、今後も納品するアイテムを紹介してもよいし、何だったら『隻眼に伝手があるから、作らせることも出来る』と教えることもできるだろう。それは確かにガラリアの利益になるだろう。
「うん、いいよ。そういう事なら君の意向を反映して船を出してもいい」
「ありがとうございます。ひとまずはペルマスク周辺などはいかがですか?」
「あー。確かにあの辺に迷宮あるって話だっけ。でも強くなり過ぎてないかな」
昭信はひとまずの目的としてペルマスク周辺を挙げた。
あの都市なら交易品は必ずあるし、木を全て切り倒しているのとガラス製造のために、木材の絶対的な需要があることは分かっている。ガラス製品を購入して他の地域に持っていけば高額で売れるため、経由地としては理想的な場所だ。なんだったら迷宮を探し出してから冒険者を交易中に乗せてしまってもよい。そして何より、傭兵を常備させるほどにモンスターが飛んでくるのだ。そこそこ近くに迷宮があるのは間違いがないだろう。
「誰も入ってないなら問題ないですよ。おそらく迷宮はモンスターを生み出すのにまったく力を使わない代わりに、己の成長や『子』のダンジョンを作る時には人間を食わないと駄目なんです。ですから町を滅ぼした迷宮は危険なほど育っていて、完全に手付かずの迷宮は育っていない可能性があります。まあ勝てないくらいに強かったら、情報をペルマスクの有力者に売ってしまい、討伐自体は任せてもよいのですけどね」
「人を食べないと成長しない……言われてみると確かにそうかもね」
「もし何処でも成長可能ならば、とっくに人類は滅亡してますからね」
「そりゃーそーだ。まっ、現時点の当初目標なら問題ないにゃ」
こうしてペルマスク周辺で迷宮を探すことになった。
もちろん迷宮自体は別の場所で見つかっても構わない。あくまで思いついた第一候補としては有望な場所なだけだ。それこそハキム老人辺りと話をして、手つかずの迷宮があればそこでもよいくらいである。ただ寄り親であり船を出せるガラリアを優先した方が、後々の利益に繋がること。そして国外勢力であるハキムとの関連はそこまで表に出す気もなかったのもあった。
「そういえば誰かが援護を求めてきたら手を貸してくれるかにゃ?」
「構いませんよ。買いたたかれるより独占可能な見知らぬ迷宮を一から攻略した方がよいだけで、身内の要請なら代価次第でしょう。新しい迷宮なんざ、その後でも十分に間に合います」
もちろん既定路線として援軍要請には応じるつもりだ。
ギルド神殿は欲しいし独占できるダンジョンがあれば好き放題にモンスターを乱獲できる。倒し易くドロップ品の美味しいモンスターが並んでいる階層があったら、薬師の一族を引き込んだように情報を売るのもよい。だが、あくまで派閥内の援軍要請があれば優先して答える。『暇だから無償で援護する』と言わないだけで、頼まれたら代価次第で答えると答えておいたのである。
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「儲かる階層だから構いませんが、あてもなく彷徨うのは緊張しますね、マスター。戦ったことのあるネペンテスなのでまだマシですけど」
「普通はこんなものだろう。第二迷宮だと弱いから忘れがちだがな」
年初めの迷宮攻略は五十三層のネペンテス相手である。
脅威という訳ではないが、この階層から地図が無いので地道に探索していく必要がある。昭信を始めとして狼人族は鼻を活かして周囲を探り、文字を書くのに慣れているルミが地図を記載する役目だ。グレースとルミはエレーヌの護衛を兼ねて後方警戒という役回りである。
「とはいえこれだけ広いと気が滅入りますね御屋形さま」
「四十層より先は上層と呼ぶが、同時に深層とも呼ぶ。迷宮の階層なんぞ便宜上であって本当に上に登ってるのか下に降ってるのか分からんが、広くなっているのは確かだな。ともあれ薬師の一族に紹介する以上は幾ら広くても構わん。全て利益になると思うしかないな」
シモーヌが珍しく弱気になっているが、どこまで本気だろうか?
もしかしたら愚痴を口にすることで気晴らしを促しているのかもしれないし、適当な場所で休憩を促しているのかもしれない。いずれにせよ以前から交渉してある薬師の一族との約定は果たせそうだ。実際には第二迷宮を討伐して弱体化してからだろうが、彼らにここから三層の周回を許可している。他の探索者が存在しない状態での探索なので気疲れするがドロップ品を取り放題なのだ。おそらく弱点である火属性魔法を中心に攻め立てる気だろう。
「旦那さま。これを」
「また結晶か? 珍しいな。……これは一緒に倒したキラービーから得たのか」
「ネペンテスから得られるツボ式食虫植物の方がよかったですかね、マスター」
「まあそうなんだが……。こういうのを物欲センサーというらしいぞ。欲しいと思っていたころには手に入らず、もうどうでもよいと思ったら手に入るんだ。とりあえず年始に続いて幸運だと思うしかないな」
暫く戦っていてグレースが結晶を持ってきた。
彼女はこの手の確認が得意と言うか、見落としがなく昭信が一番欲しそうな物を持ってくる。地味に確認するのが苦手ではないのと、昭信優先だからだろう。そしてルミと話しながら結晶が中々集まらない話に苦笑する。蜂の結晶が二つになったら、今は集めてないのでこのままストックだ。せめて三つになれば外陣メンバー用に集めようと思うのだが、そういう時に限って集まらないものである(そもそも結晶が落ちないが)。
「いかんいかん。こうするしかない、ああするしかない。それは確かだが、そういう義務感ではシモーヌの言う通り気が滅入るばかりだ。どうせこのままのペースでも夏の途中までに五十五層までは到達できるだろうよ。全体像を簡単に想像して、区画を六分割する。それぞれ一つ支持して、当てた者の好みの料理なり調度品を作ることにしよう。もちろんグレースやグスタフも参加するんだぞ」
「それは面白いですねアキノブさま。どうせなら楽しみましょうか」
「少し不謹慎ですが……お嬢様がそうおっしゃるなら」
「「……」」
昭信は今のゲンナリした気分を吹き飛ばす提案をした。
延々と探索するのは変わらないので、何かで気分を変えるしかない。油断せぬように緊張を保つ必要があるが、かといってプッツリ糸が切れるようなのも問題であろう。そのことを理解してエレーヌとシモーヌは賛成し、逆にグレースやグスタフは特に好みなどないので顔を見合わせて苦笑しあったという。
「確認ですがマスター。修練で挑む相手を指定するというのもアリですか?」
「構わんぞ。その時は一週間ほど好きな相手にしていい。複数入れ替えもアリだ」
「もっと楽しい試みにしませんか? みなでグレースみたいな恰好で給仕するとか」
「……それは堪忍してください。エレーヌさま」
この話に一番食いついたのはルミで、金稼ぎし易い敵との周回を望んだ。
村の有力者に頼まれたの素材でもあるのだろうとか思っていたら、エレーヌが思わぬ提案をしてくる。お嬢様である彼女からすれば、昭信が提案したメイド服が気になるのだろう。ただその提案を聞いたグレースが、自分の立場が無くなると泣きを入れたことが珍しかったくらいだろうか。とにもかくにも、一同は地図なき探索を午前と午後で別の迷宮にて行うようになったのである。
●リザルト
アキノブ・タケダ。狼人族。♂。24歳。英雄56レベル。
活性枠。入替枠。不要枠。
英雄56/百獣王50/勇者45/剣聖23/悪狼王17/剣術指南役49
獣戦士51/ソードマスター50/探索44/神官40/薬草採取士41/料理人35/剣豪50
村人5/錬金術師1/僧侶1/魔法使い1/戦士30/賞金稼ぎ1/騎士1/剣士50
更新順(古 → 新)
キャラクター再設定、鑑定、獲得経験値二十倍。詠唱省略。68p
6thジョブ。必要経験値十分の一。62p。余りは結晶>>MP>クリティカルなど。
ルミ。ドワーフ。♀。17歳。鍛冶師51レベル。+隻眼7レベル。
シモーヌ・ナーシャ。狼人族。♀。23歳。騎士50レベル + 聖騎士14レベル。
グレース。人族。♀。22歳。刺客17レベル。
エレーヌ。狼人族。♀。魔法使い48レベル。
というわけで将来の話と、今の苦労の話です。
●隻眼とか色々
ガレス伯なら色々気付くのと、気がついたら引き抜き……。
とかを避けるために釘刺したり、将来暇が出来た時に迷宮を討伐してギルド神殿を手に入れるための準備ですね。とりあえず交易する理由はあんまりないけど、商談を知って他所の町を知ればそれだけ巡る場所が増えます。もちろんギルド神殿は重要。ペルマスクで依頼して調整しているブツは、その為の代物でもあります。
●地味な探索
これまでも第二迷宮でやってますが、ひたすら自分達だけで探すのは神経を削ります。狼人族三人いるからまだ良いですが、見逃して不意打ちや囲まれるとか地獄ですからね。かといって楽観的なのもよくないので、「ちょっとした愉しみ」を用意することで避けるという他愛のないアイデアです。