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「五十四層では実験的に放射状に捜索を行っていく。囲まれない程度に行き着くまで真っ直ぐ進んで、『待機部屋』と『ボス部屋』が存在できるくらいのラインを横にずらして戻っていく」
「臭いの元を消していきながら、ボスの臭いを探すという事でしょうか御屋形さま」
「そうだ。俺たちのパーティーには狼人族が三人もいるしな。それを活かしてみる」
昭信はこの階層から探索方法を少し変更してみた。
五十三層では右手法・左手法のどちらかを用いることにして、近場から埋めるようにして地図を作りながら進んでいたのだ。しかしその結果は午後からは第二迷宮での探索に切り替えていることもあって、長丁場の探索となってしまったのである。
「ルート1をクリアして、何も感じなければ脇に逸れてルート2を戻っていく。そして最初の場所付近に辿り着いたら、今度はルート3・4という風に順次変更していく。その過程でアニマルトラップ以上の臭いの強さを感じたらボスであるビーナストラップである可能性が高い。そしてその部屋の隣に何も臭いを感じなければ待機部屋だろう。上手くいけば第二迷宮でも試し、地図の描き損ねが起きるようなら取りやめる」
「成功と失敗の基準が明確にできているならば問題ないと思います。マスター」
「そういう訳だ。任せたぞ、ルミ。
「地図に関してはお任せください」
昭信はバリバリの前衛型だが、こういった迷宮探索に関して不得意ではない。
元居た世界ではゲーマーでもあったのだから当然と言うべきだが、複数の探索手段や先頭に関するマネジメントが可能だった。高い火力による連続撃破をやった方が早いだけで、シモーヌに任せている戦闘指揮も可能だろう。五十三層でたまったうっぷんを、この五十四層で晴らそうというのかもしれない。
「思うんだが迷宮でボス部屋の捜索が困難であるのは、人間と違う感覚で配置を考えているからだろうな。人間だったら効率を考えてしまうが、『生物としての迷宮』からみればボス部屋から触手を伸ばすようなものだ。最終的に上下の階層と繋がっていればいいわけで、無意味な折り返しや閉じた部屋が出来ても構わないのだろうよ。ゆえに考えるべきは進路ではなく、必ず何処かの道が上下の階層と繋がっているということだ」
「確かに。無意味に閉じた部屋も魔物の溜り場になりますから無駄にはなりません」
「そういうことだ。法則があるとすれば待機部屋だが、あれも罠の一種かもな」
「ボス部屋に入ったら閉じてしまう扉を作るためと思えば分かる気もしますね」
ルミと話しながら進んでいくが、暫くして最初の行き止まりに辿り着いた。
五十三層の地図よりも若干ながら広いはずなので、その場所を迂回するようにして再び直進していく。やがて五十三層の地図よりも広い位置に辿り着き、そこから右回りで少し移動し、元の位置を目指して戻り始めたのである。
「アキノブさま。今日は見つかりませんでしたが、なんだか前より気分が楽な気がします。これはどういうことなのでしょうか?」
「おそらくは目的の当初案がはっきりしている事だな。『目的を遂げた』から少し気分が良くなったんだ。たとえば地図を八分割で捜索すればいつか辿り着くとして、手探りで一定の距離を探るよりも、一分割分の距離を踏破したという目に見えた成果がある。元から迷宮で延々と戦うことは覚悟していたわけだから、『今日の仕事をやり遂げた』という成功体験が気分を楽にしたんだろう」
同じ成果であっても、やり方で気分も成長も変わってくる。
たとえば二時間で終わる作業があったとして、『早めに終わったらもう少しやろう』『まだ時間があるからもう少しやろう』と作業を増やしていけば、精神面での耐性が付くし作業量も増えるから成果自体は上がるので特訓としては悪くない。だが気分の切り替えや余力を残して別のことをする場合に限っては、ソレは逆に効率を下げてしまうのだ。そう言った場合はむしろ『早く終わったから切り上げて、休憩でもしようか』ということになるだろう。もちろん現実にはいつまで経っても終わらない仕事というのもある訳で、『区切りなんか知るか、可能なら幾らでも仕事をしろ』ということもあるだろう。だが迷宮には必ず終点があるのだ、目的意識を持ってサッサと切り上げる方が精神的には楽に違いない。
「ともあれ五十四層はこのまま探索を進め、五十五層では少しアレンジしてみようか。ただ分かって居ることは薬を落とす植物系ばかりになるから、エレーヌのお陰で戦いそのものが少し楽なると思うぞ」
「そうですね。その時は弱点を突いて貢献させていただきます、アキノブさま」
こうして昭信は迷宮を放射状に進むという案を試し始めた。
八分割して今日は一分割分、残り六分割を終えるまでにボスの位置が判明する計画である。そして見つけてしまえばそのまま五十五層にいってもいいし、地図を埋めてしまって探索終了宣言を出すのもよいだろう。そうすれば薬師の一族次第で交渉も出来るのだから。
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「申し訳ありません、マスター。肝心のハイコボルトの結晶を入手し損ねました」
「構わん。何もかも初手で揃っては面白くない。それにハイコボルトは要だからこそ誰もが入手を目指す可能性がある。何処かで手に入れることもあるさ」
その週の休みの日、オークションに赴いていたルミが謝罪した。
最上位の結晶が幾つか出品されると聞いて購入に出かけたのだ。だが狙った物は落札できたが、合わせて狙っていたハイコボルトの結晶を入手し損ねたという。通常の結晶はコボルトとセットで、最上位の結晶はハイコボルトとセットで融合することで真価を発揮すると言ってもよい。同時に入手できなかったので暫くはお蔵入りだろう。その意味でルミは謝罪したのである。
「入手できたのは黒羊と大鵬。それとは別に鳥とコボルトになります」
「知力五倍と敏捷五倍、そして敏捷二倍か。問題ないどころかパーフェクトに近いと言っていい。ハイコボルト二倍の場合は使う機会こそあるが、すべての組み合わせが最大効果を発揮出来るわけでもないからな。それに比べてその二つは間違いなく俺たちの役に立つ。鳥も同時に入手出来たなら、当面の火力も補えるしな」
どうやら今回の結晶はかなり豊富で当たりだったようだ。
ルミがこれだけ入手できたということは、少し高めにしたことを除いても他にも幾つか存在したということである。おそらくはサイクロプスの最上位で攻撃力五倍などもあり、大抵の者はそちらを優先していたと思われる。もちろん普通の結晶も多めであり、相手に関わらず汎用性の高い兎やHP吸収なども出品されていたと思われる。
「大鵬は俺以外に使わないからもう狙わなくてもいい。黒羊はシモーヌも使えるし、失敗したから狙うという姿勢のために狙ってもいいだろう。次があればハイコボルト優先で、黒羊はそこそこ。他にも出ていたら軽く狙ってみるというところかな」
「そうですね。現状で大局を左右する程ではありませんのでそれでいいかと」
昭信は攻撃力五倍に固執しなかった。あってもよいが無理には狙わない路線だ。
検証した結果、攻撃力二倍は個人能力ではなく武器依存である。ということは最終的な固定値の底上げであり、能力値由来の技を使う方が高い火力が出易いのである。もちろんもっと強い雑魚が出てくれば話は別だが、まずは敏捷二倍の鳥の結晶を付け、ハイコボルトを手に入れたら大鵬の結晶で敏捷五倍を付けてもよいだろうと考えたのである。
「ひとまず一枠だけのスロットしかない装備に鳥の結晶を使おう。敏捷二倍はダマスカスの額金に付けておけば耳の邪魔にならないし、他の狼人族にとって価値が高いから売れるだろう。その上で今後に良い装備を手に入れたらそっちに敏捷五倍を付ける。スロット枠に固執するのも惜しいからな」
「確かにそうですね。私の槍やシモーヌさんのサーベルも結局一枠空けたままです」
「ルミが隻眼になったお陰で、トロールや人魚では惜しくなったからな」
以前にスロット四つのダマスカス鋼ガントレットを奪ってからかなり経過した。
だがスロット数が最大の装備は製造どころか、あちこちの街を巡っても見つかっていない。そこで製造面では一つだけスロットのあるダマスカス鋼や竜革の装備を作成し、これに耐性などの有用スキルを付けて入れ替えることにしたのだ。最大スロットの装備がないから防具を更新しないのはおかしな話だからである。そして皮肉なことに、その問題が解消されるよりも先にルミが隻眼になってしまった。こうなると『スロット数最大の装備でも、普通の結晶では惜しく思えてくる』という皮肉的な状態になってしまったのである。人魚の結晶を融合して水触剣を付ける予定の聖銀のサーベルなど、計画倒れで変化していなかった。
「ともあれ夏が終わるまでにグスタフも冒険者になれるだろう。それに合わせてあちこちの街で装備品を漁ってみよう。これまで金を払って数か所というところだが、冒険者がいるとなれば話が変わってくる」
「それでダマスカス鋼までは最大の物が探せそうですね。それ以上に関しては?」
「ルミがこれから作る装備を愉しみに生涯目標としよう。差し当たっては結晶だな」
「結晶さえあれば当面の戦力も資金は幾らでも用意できますからね」
間もなくエレーヌのレベルが50に達するが、グスタフはそれに遅れている。
単純にエレーヌ加入以降でも、最も交代可能なのが探索者枠の彼だったからだ。同じくらいの年代のヒューゴーを中心に何度も入れ替えて外陣メンバーを鍛えているので、必然的にレベルが低くなったと言えなくもない。だがそのグスタフも45レベル、夏までに50レベルに達するのは間違いがないだろう。
(結晶か。ルミが隻眼になったことを告げてフラヴィアやアスターに話を持ち込むか? ハキム老もだが上位の結晶は一家の財産として外に出していない可能性がある。高級装備の融通やスキル装備を渡せば、最も使うハイコボルトくらいなら余裕がありそうな気がするのだよな。とはいえそれはまだ先の話だ。行き詰ってもいないのに下手に出るほどじゃない)
こうして昭信は夏に向けて、いやそれ以降も含めて様々な計画を立てていった。現時点で購入し始めた最上位の結晶に関してもその一つだが、彼は貴族の柵というものを後に知ることになる。貴族同士の関係が実に面倒くさいということ思い知らされるのだ。
という訳で迷宮探索法の改良と装備の更新に関する認識の切り替えです。
●迷宮は無意味なランダム
人間が作るダンジョンと言うのは法則性というか、透けて見えます。
ゲームマスターになってダンジョン作ると分かるのですが、無意味な配置ってしたくないんですよ。逆にそういう意思が存在しない迷宮だと、無意味な通路とかループにみえる通路や、一階曲がって直ぐに終わる行き止まりとか、そういうのを平気で作るのではないかと思います。そしてその事が『この先はどうなっているのか分からん』と、人間は身構えてしまうのもあるのかもしれません。(完全に閉じた部屋が魔物部屋になって、徐々に壁が崩れていくことで、魔物部屋になるとか)
そういう訳で、迷わない程度にザックリ探索することにしました。
狼人族いるしニアピンくらいなら分かるやろ? なら突き進むわ! みたいな感じ。回転床とかワープゾーンとかテレポーターなんかないですからね。それだけでも有情。
●結晶の多いオークション
最上位の結晶とか一つでも高いのでしょうけど、宣伝するなら複数あった方がいいですよね。そこで一系統の目玉は一つ、複数系統を出してハイコボルトだけ複数。という感じのオークションがあった感じに成ります。とりあえず使う人が限られる知力五倍と敏捷五倍に余力を傾け、他の人たちは攻撃力五倍とか汎用性が高いのを優先してる感じ。