異世界迷宮でロマンスを【完】   作:ノイラーテム

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小人閑居して不全を為す

「御屋形さま。そろそろ予想地図の五分割分を攻略しますが、それ以上に第二迷宮の進捗が著しいですね。やはり狭いというのもありますが、全体的にペースが早まっているのでしょう」

 

「俺たちは攻撃型のパーティーだからな。慎重に進むよりは合っているんだろう」

 

 興奮冷めやらぬのかシモーヌが何度も地図を見ている。

 

第一迷宮の地図は現在ルミが描いているので、すでに突破した第二迷宮の方を再確認しているのだ。それも仕方あるまい、何しろこの一週間で二層分を突破する事が出来た。地図がない階層ではこれまでにないペースであり、運が良かったことを除いても来週の間にもう一層突破できるのは確実である。現在四十層だから四十一層と半分くらいとして、次の週の半ばでさらに一層。一カ月以内に第二迷宮は四十四層を突破できそうな勢いであった。

 

「階層ボスと階層ボスの間は必ず繋がっているのが大きいかと思います。一日直進し続けて辿り着けないような階層はまずあり得ませんし、そんな構造であれば次の日に戻ってくるだけで構造が把握できるのでむしろ楽です。階層の広さに限界がある以上、迷わないように注意して移動し続ける以上は、何処かでボスを見つけるのは必然と言えるでしょう」

 

「ルミ。エレーヌさまの魔法が有効なのを忘れてもらっては困るぞ」

 

「シモーヌ。それを言うならアキノブさまのお力あってのことよ。私なんてまだまだだわ」

 

 女性陣は口数の少ないグレースを除いて好きな事を口にしている。

 

既に分かっていることやどうでも良いことを口にして気晴らししているわけだが、口数が多いのはストレスの反動であり、同時に喋っていても問題無いからこそペチャクチャと姦しい。嗅覚が優れているからこその、曲がり角でも不意打ちを受けることもない。余裕の現れであり、油断と言えなくもなかった。

 

「主殿。このままならばいずれ辿りつけると思うのじゃが、警戒すべきとしたら何かのう?」

 

「第一は他所の貴族の介入かな? 俺たちはともかく第二迷宮でレムゴーレム相手に戦ってる外陣メンバーは固定だからな。もしエレーヌを襲った盗賊より先に迷宮を見つけ、ギルドに報告をしていないだけだったら、誰も戦っていない時間帯に先回りできるからな。後は『いつも余裕だから』と油断しているところをバッサリというあたりか」

 

 この状況で珍しく口を開いたのはグスタフである。

 

女子が無駄口を利くのは精神衛生上のためだから仕方ない。そのことを理解した上で油断しないよう、適度に気を引き締めさせるように誘導したのだろう。だから昭信も『自分たちは問題ない』と女性陣を安心させつつ、外陣メンバーなら状況次第で全滅もあり得るとしたのである。

 

「マスター。その可能性はどのくらいあり得るのでしょうか?」

 

「ギルド職員を派遣しているガレス伯か、薬師の一族のどちらかが裏切ってない限りはまず無いだろうな。だがこういう得意の想定というものは検証を始めたら『場合によってあり得る』と考えておくべき状況になる。ガレス伯が裏切らずとも、ギルド職員が家族を人質に取られている。あるいは薬師の一族が悲願とする秘薬を、ナーシャ家を狙っている貴族が押さえてしまった……という場合だ。後は外陣メンバーの誰かが買収される可能性だが、これは仲間たち全てを出し抜くのは不可能だろうよ」

 

 ここでドワーフであり、外陣メンバーを身内と考えるルミが口を挟んできた。

 

彼女が危険性を知りたいというのはおかしな話ではないし、グスタフにとっても外陣メンバーは家族同然だ。口を挟んだことに文句を言うこともなく、むしろ自分も聞きたいとばかりに黙って先を促していた。

 

「ゲオルグとアメリアに家族を呼ぶように言っておきますかの?」

 

「そうだな。何か適当な役目というか仕事を発注しようか」

 

「そうなると心配なのはアウグストですね。お調子者なのもありますが、町内会のおじいさん達に可愛がられている分、彼からも親しいと思っているでしょうしね」

 

 昭信の話を聞いてグスタフとルミがそれぞれの案を出した。

 

こういうと何だがギルド職員や薬師の一族が動く可能性はあまりない。そこまでやったら他の有力者まで敵に回してしまうからだ。だがその点において外陣メンバーは都合がよい相手といえる。奴隷であり重要性が内陣メンバーより劣るからこそ、彼らを外陣メンバーとして補助戦力としているのである。もしナーシャ領を襲う者がいるとしたら、狙うべきは外陣メンバーのドワーフと考えて思案を巡らせたのである。

 

「エレーヌ。確認したいが町を作ると仮定して、街道拡張や宿泊施設を先に作ることにしているよな? その話にドワーフたちを絡ませられないか? 『先行で商店を開くことにしたが、儲かるか分からないので知り合いを呼んで、ナーシャ家に雇われる形にしてもらった』……という感じで」

 

「一か所に集めるのですか? 可能だと思いますわよ。来年の税も優遇すれば特に」

 

「では装備の一部を選別し、卸せるようにしておきますね。エレーヌさま」

 

「助かるわ。あなたの装備なら誰か買っていくでしょうしね」

 

 装備品や旅に必要な雑貨を扱う店を先行してオープン。

 

そんな計画を立てておけばドワーフの老人たちが集まっていてもおかしくはない。その集団に隻眼が作った装備を預けるのも変ではないし、ナーシャ村の装備を扱う店の者が文句を言ったら、ドワーフの店を経由して供給するようにすればよいだけである。それにこの話自体がナーシャ領にある二つの迷宮を攻略するまでの時間稼ぎなのだ。基本的には問題なく進むだろう。

 

「ひとまず安心しましたぞ。それで、第二にある危険は何でしょうかな?」

 

「迷宮ボスが五十六層であった場合だな。ボスタウルスの上のボスが、一体だけになり雑魚も存在しない代わりに、異様な強さを持ち合わせた場合の想定をしていない。五十五層までと比べて破格の強さである可能性がある」

 

 気の引き締めが終わったところでグスタフが話を切り替えた。

 

現在のただ進んで戦うだけの状態に対して、話題の転換で適度の緊張を保とうとしているのだろう。昭信にもそれが分かるので、今は必要のない将来の話をしておいた。

 

「五十四層は来週の頭にはボス部屋に到達する可能性があるからな。仮に討伐宣言を出せるまで捜索するとしても、今のペースなら五十五層もそう時間は掛からんだろう。もっと狭い第二迷宮ならば猶更だ。ならば想定よりも深い五十六層であることを前提に考えても悪くは無かろう」

 

 ボス部屋が見つかってないのは同じだが、簡易的に調べてるのでペースが早い。

 

だから直ぐに五十四層のボス部屋を見つけても、全ての場所を調べても問題ないくらいには気分が落ち着いていた。そして五十五層でも同じように進める可能性が高いので、今の内から五十六層が存在した場合に備えようと昭信は言うのだ。そうなるとただ敵が強くなるわけではない。

 

「御屋形さま、他の迷宮で戦い方を学ぶのはどうでしょう」

 

「地図が公開されている深い迷宮で、そこそこ浅い場所を選んで戦うわけか」

 

「はい。能力が数段階上である以外にも、戦闘方法が不明だから苦戦するのです」

 

「確かにな。迷宮で出現する敵はパターンが決まっている。ならば似たような段階の迷宮でなら試すことはできるか」

 

 シモーヌの提案は迷宮ボスが持つ恐ろしさの幾つかを分けて判断することだ。

 

階層を進むごとに強くなること。十一層ごとにモンスターの質自体が向上すること。雑魚と階層ボスとでは能力そのものが比較にならないこと。階層ボスと迷宮ボスでは更に能力が増強されていること。これら全てを初見のまま叩けば確かに危険だろう。だが他の迷宮……六十層以上の深さであり、最低でも五十五層から暫くの地図が公開されている場所ならば『ちょっと恐ろしいかも』で済んでしまうのだ。敵が出現するパターンが同じであるからこそ、三十三層までの情報があればそういった場所も推測自体は可能だった。

 

「流石に六十層を越えていては危険ですが、探せば試しに戦える階層にもいるかと」

 

「そうだな。理想をいえばもう少し戦い易いモンスターが五十六層・五十七層で、それまでの階層との強さと特殊性の差に慣れた後で挑めばよいというところか。確かクラータルが六十二層あたりで半分を越えているから、目安としてはもっと戦い易い階層にいるパターンだとありがたいな」

 

 迷宮はあちこちにあるし、情報公開されている場所も多い。

 

ナーシャの第二迷宮みたいに十層くらいまでしか公開していない場所もあるが、大抵は最深層付近以外は公開しているものだ。ナーシャでいえば第一迷宮の五十層までは公開しているし、五十三層までは寄り親の貴族も知っている。これが六十層を遥かに越えている迷宮であれば、それなりに戦い易い迷宮も存在すると思われた。それこそ一戦か二戦するだけならば、他の貴族が秘密にしている階層でも案内してくれる可能性はゼロではないだろう。

 

「マスター。それとは別に物理ダメージ軽減と火耐性だけでも全員分揃えてはいかがでしょうか? ボスタウルスの能力が三段階くらい強くなったと考えるとして、恐ろしいのは物理攻撃による体当たりや角での攻撃。少し下がって火属性の息吹など考えられます」

 

「そうだな。ルミは最上位の結晶と共にその辺りを頼む。情報はシモーヌに頼もう」

 

「お任せください、マスター」

 

「承知いたしました。御屋形さま」

 

 ルミの意見は相手の属性に合わせて準備するというこれまでの流れであった。

 

今までの作戦に間違いが無かったので、これを上書きするレベルで質を揃えれば安全というところだ。迷宮ボスの能力がいかに破格といえど、物理ダメージ削減の付いた装備を破壊し、更に中の人間まで刺し貫くというのは考え難かった。あくまで初撃の体当たりで装備を破壊し、戸惑った者へ即座に第二撃を放つ。その速度が限りなく素早いというくらいだろう。

 

(何というか『今まで通りに考えるべきではない』というのに固執し過ぎたな。シモーヌが言うように他の迷宮で練習できるし、ルミが言うように耐性を揃えれば何もできずにやられるということはあるまい。あとはいかにイレギュラーを抑えて俺たちの強みを押し付けるかだ。第二迷宮を先に討伐するのも、その一環なのだしな)

 

 昭信は『何か懸念があるか』と言われて真正直に答えていた。

 

原作では五十一層のボスは普通のボスとそれほど変わらなかったというが……。あくまで四十五層から徐々に戦い続けた影響もあるだろう。それを考えれば、ただでさえ二十三層から三十三層まではモンスターの格が上になっている。だから想像以上に強敵だった場合を考えたのだ。だが現状では第二迷宮を先に討伐し、弱体化したところで挑むつもりなのである。そこまで弱気になることもないと、油断こそ禁物ではあるが予定通り倒せる可能性もあると意識を切り替えたのであった。

 

「マスター。申し訳ありません。またしても失敗いたしました」

 

「前も言ったと思うがあまり気にするな。結晶に関してはライバルが出現するか次第だからな」

 

 翌週、最上位の結晶が出品されるオークションが開催されると聞き予定を変えた。

 

五十四層の捜索自体は順調に進み、六分割目で待機部屋とボス部屋を探り当てたのもあった。あとは残りの部分を捜索するか、五十五層の顔出しまでやるかを悩んでいたところだったので、急ぐこともないとオークションを優先。昭信たちは第二迷宮の方に注力したというわけである。

 

「それが……その……」

 

「何かあるのか? 不自然な値の上りや仲買人の結託とか」

 

「近い感覚を受けました。ハイコボルトは他にも使うと言われればその通りなのですが、三個全てに高額の値を付けていましたから。最上位のサイクロプスやトロールの結晶も落札していましたから最初は分かり難かったですが、既にハイコボルトを二つ落札しているのに、最後の一つまでお金を積んだのは少し執念深さを感じましたね」

 

 普通はスキル結晶の融合は必ず成功するわけではない。

 

だから同じ結晶を沢山揃えるのはあり得る可能性がある。その上で攻撃力五倍に防御無視(100%)など、汎用性の高い攻撃系の結晶は人気があるだろう。敏捷五倍や器用五倍がライバルさえ居なければ、それなりの価格で収まるのとは対照的である。だがルミはハイコボルトのカードまで全て落札しようとして、しかも複数を落札しているのに、最後の一つも高額で落札するのはおかしいと言う。確かにそんな気もするし、そうでない可能性もあるので微妙なところだ。

 

「普通なら『次も同じだったら考えよう』というところだが……先生(・・)はどう言っていた?」

 

「暫く落札は諦めた方がよいとおっしゃっていました。仲買人仲間には伝わってるようですね」

 

 昭信はここでシュナイドラー経由で話を聞いたかどうかをルミに確認した。

 

仲買人たちは裏で結束しており、そういった事情を知る者は多い。その上でシュナイドラーは薬師の一族であり、ナーシャ領とは軽い提携を結んでいるので臭わせ(・・・)をしてくれたのだろう。普通の仲買人なら『もう少し値を上げますか?』と聞いてから『粘ったのですが相手も必死で積み上げていました』と適当なことを言っていたかもしれない。

 

「あればこれからの攻略が楽になるが、相場の倍まで出して背景があるかを確かめる気にもなれんな。ここは今まで通り常識的な動きをしておいてくれ。エレーヌにガレス伯の所へ聴きに行ってもらい、俺の方は解放会で知り合ったアスターが在庫を持ってないか聞いてみる。あいつには装備品以外の交渉手段があるからな、最初に交渉を持ち掛けるには都合がいい」

 

「承知しました。スライムとコボルトの方は順調ですし、このまま進めます」

 

 あくまで『最上位のスキルを武器に付与したい者がいる』だけかもしれない。

 

その場合でも購入できないし、時間が経過すれば普通に購入できる可能性もある。だが同時に『誰かがナーシャ領の邪魔をして』、ハイコボルトを中心として汎用性の高い物を渡さないようにしている可能性もあるのだ。それを座して見守る気も無かったので、昭信はルミに常識的な価格で結晶購入を続けさせることにした。

 

(こちらも対抗するフリをして相手に資金を使わせることに意味はあまりないしな。ここは気が付かないフリでいこう。ガレス伯なら何か知っているかもしれんし……というか可能性は一つだけだろう。その上でガレス伯とアスターにハイコボルトの結晶を持っているか尋ねるくらいはして問題はあるまい。後は……ハキム老の名前で向こうの国で購入してもらうくらいかな。さて、何を渡したものか)

 

 昭信は盤外戦術でハイコボルトの結晶を用意することにした。

 

ひとまず一つあれば知力五倍のスキルを聖銀のロッドに付けることが出来る。そうなれば火属性が弱点のモンスターが揃っている階層に突入するため、今後の戦いが楽になるのは間違いなかった。時間そのものはあまり変わらずとも、大技が不要になるのでMP管理が楽になるのだ。長引いても弱点属性の範囲魔法二発が決まれば、他の者でも倒せるようになるだろう。そう思って交渉時に渡す情報であるとか贈り物に関して思案し始めるのであった。

 

●リザルト

 

アキノブ・タケダ。狼人族。♂。24歳。英雄57レベル。

 

 活性枠。入替枠。不要枠。

 

英雄57/百獣王51/勇者47/剣聖28/悪狼王22/開祖9

 

ソードマスター50/神官40/薬草採取士41/料理人35/剣豪50/剣術指南役50/探索者45

 

村人5/錬金術師1/僧侶1/魔法使い1/戦士30/賞金稼ぎ1/騎士1/剣士50/獣戦士51

 

 更新順(古 → 新)

 

キャラクター再設定、鑑定、獲得経験値二十倍。詠唱省略。68p

 

6thジョブ。必要経験値十分の一。62p。余りは結晶>>MP>クリティカルなど。

 

ルミ。ドワーフ。♀。17歳。隻眼17レベル。

 

シモーヌ・ナーシャ。狼人族。♀。23歳。騎士50レベル + 聖騎士21レベル。

 

グレース。人族。♀。22歳。刺客23レベル。

 

エレーヌ。狼人族。♀。魔法使い49レベル。




 という訳で迷宮攻略自体は進んでいます。

凄いアイデアで最適解……ではなく、「自分達に見合ったアイデア」だからですね。「がーといってびゅーと進んで、そこから一度戻って別方向にがーっと……」という感じの話を聞かされて、「ああ、なるほどね」と言えるハンタ-気質の狼人族パーティーだからですね。

●懸念
 人質対策をする意味はあまりないのですが、地道な探索をやってると「何か建設的なことがしたくなってる」だけですね。後は以前からの計画を、丁度良いから進めているだけ。

 迷宮ボスの方は戦ったら勝てると思うけど、想定より強かったから危険なので身構えているだけです。時間がないから第一迷宮を先に潰す! とやらない限りは第二迷宮からの討伐でまず倒せますので。

●結晶独占
 まあ嫌がらせの類ですね。自分達にも有用だからあえてやってる。
高額で買い取っても精々が数万、その程度の出費ではビクともしない人たちが、ただの嫌がらせでやってるだけですね。
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