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「五十四層の残りに関しては、五十五層で何面か分を捜索した後で、気晴らしに戻ってくる程度にしておこう。そうすれば薬師の一族に伝える内容について選択肢が持たせられる」
「その頃には第二迷宮は四十五層に達しているでしょう。よいかと思います」
「第二迷宮討伐を待って安全に戦うか、リスク覚悟で直ぐに戦うか選べますね」
昭信は第一迷宮での時間配分に関して腹案を述べた。
これに対して指揮担当のシモーヌは第二迷宮での進行予測を説明し、金庫番であるルミは利益性について言及した。第一迷宮のラスト三層は全て薬の材料が落ちる場所であり、戦えるならば利益性が高い。薬師の一族の精鋭ならばそのくらいの実力はあるだろう。その上で逡巡するとしたら一緒に戦う仲間がいないので危険なのと、魔法を連打するとドロップ品である強壮剤を飲む必要があるので効率が悪くなるのだ。それゆえに第二迷宮討伐後に第一迷宮が弱体化し、戦い易くなるのを待って戦うか、さもなければ昭信たちのパーティーが主戦場とする五十五層で共に戦うかを選ぶことになるだろう。そのどちらかならば安全性を確保出来るのだから。
「ボスのビーナストラップは二十一層で戦った雑魚のフライトラップに似ています。しかしその戦闘力と特殊性は段違いで、また優美と思えるほどの動きも有しているそうです。ただしどちらかと言えば積極性が低く、待ち受けて動く罠のようなタイプのようですね」
「なんだ。御屋形さまの敵ではないな。コイツが迷宮ボスなら楽だったろうに」
「どうだろうな? 迷宮ボスなら消化液で剣が溶かされるとかありそうだ」
「その場合は胴体にあたる茎を攻撃すれば問題ないそうです。マスター」
ルミがボスについて調べた情報を教えてくれる。
全体的に能力が優れているのは当然ながら、反射速度と特殊能力に優れているという。おそらくはカウンターの耐性で待ち受けながら、同時並行で魔法陣を展開するタイプだと思われた。攻撃すればカウンターで捕食し、攻撃しなければ魔法なり特殊攻撃を放つタイプなのだろう。
「セファロタスが消化液を飛ばしてくるのとは対照的だな。地味な差だが、地の強さはこちらの方が上かもしれん。油断しないようにいくか」
「「はい」」
行動がシンプルな分だけこっちの方が強いかもしれない。
そんな昭信の意見に異存がある者はなく、一同は五十四層のボス部屋へと挑んだ。思えば僅かな間にも成長するもので、以前はどんな相手かを昭信が口にしながら侵入したものだ。その時点で適当な意見も伝えて皆それに従うだけだった。しかし先行したパーティーの全滅による悪影響で、即座に攻撃をされた時から少しずつ変わっていった。事前に特徴を探りそれについて協議している。穴があったり重視した方がよい戦術があればそれも合わせて提案する。このことで戦いでも少しはチームワークが生まれた気がするし、総合的に戦闘力が増したのは間違いが無いだろう。
「……噴炎。ファイヤーストーム!」
(「バ-ストレイヴ、ソニックブレード! そして……スライスだ!」)
ボス部屋に侵入しながら唱えていたエレーヌの呪文が炸裂する。
周辺に火の粉が舞い、それを追い掛けるように剣圧が昭信の剣から放たれた。散りゆく炎の賛歌の中で一体目のビーナストラップの葉っぱ周辺に着弾。こちらが飛び込んだと勘違いした敵が葉っぱを閉ざす中、昭信は横滑り気味に一体目のビーナストラップを両断したのである。そしてその姿が煙になる頃には、体を沈めて次の移動を開始すべくダッシュ態勢に入っていた。
(やはり反動が無いのはありがたいな。……次だ、ソニックブレード!)
開祖が持つスキルの『 』の効果で昭信はソニックブレードを選択していた。
技の威力は向上しないし当て難い業なのだが、相手が動き回らない植物系ならば何とか命中させることが出来る。威力が分散してしまうがバーストレイヴを使えば剣圧の何処にあたっても一定の威力が出せることもあった。ソニックブレードを牽制に放ち、エレーヌの範囲魔法とダメージ逓増のシナジーで容易くボスを葬り去るコンボを成立させていたのである。
「……噴炎。ファイヤーストーム! や、やりましたよ!」
「流石です。お嬢さま! 我々でも敵を倒してまいりましょう」
(ん? そうか。弱点を突いているのと、俺がボスを優先しているからな。まあいい経験値二十倍のために無理して俺が倒すのも馬鹿馬鹿しいしな)
暫くして二度目の範囲魔法で雑魚が倒れていくのが見えた。
昭信は二体目のボスを倒したところであり、いつもより雑魚に対する攻撃力が高いので、雑魚を倒して回る余裕がなかったとも言える。またエレーヌが持つ蜂和のロッドにはダメージ逓増の他にレベル補正無視も付けているため、ダメージが減衰しないことも大きいのだろう。また昭信は格闘ゲームをやってないせいか、頭の中で瞬時に三つも四つも単語を浮かべるような経験が無かったのも出遅れに影響しているかもしれない(もちろんジョブを入れ替えて能力が大幅に下がっているのもある)。
「全力を出せばもう少し倒すのも早いんだろうがMP効率を考えるとこんなものか」
「得られる薬が強壮錠とはいえ、貯めておくのならば無駄遣いは惜しいですものね。でも、お任せくださいアキノブさま! ハイコボルトの結晶が手に入れば知力五倍が付けられるのでしょう? そうなればもっと楽に倒せるようになるかと思います」
自信が付いたのかエレーヌが輝くような笑顔を浮かべる。
確かに知力二倍と弱点属性というだけでこれなのだ。もし知力五倍が付いたならば昭信が必要とする技の総数もかなり減るだろう。戦い慣れればソニックブレードも不要になるし、無理やり当てるために併用している技も不要になるのだから。必要経験値二十分の一を切ったあたりから経験値問題を割り切り始めている昭信は、エレーヌが良いならそれでいいかと笑みを返したのである。
「そうだね。では今日も直進して向こう際を見極めたら、ボス相手の修練はビーナストラップを相手に繰り返してみようか。慣れればもっと楽に倒せるだろう」
「はい。五十五層は植物系ばかりですので、お嬢さまの魔法は心強いですから」
「何度も言うようですが、落ちるのは全て薬の材料というのもよいですしね」
「みんな、そこまで持ち上げてくれなくてもよいのよ。でも嬉しいわ」
昭信の言葉に対し、シモーヌもルミも先ほど口にしたのと同じ言葉を使った。
だがエレーヌとしても自分を励ましてくれているのだから満更ではないのだろう。素直に笑みを浮かべて頷き、その日も気分よく迷宮を攻略していったのである。
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「話は聞いているよ、災難だったね」
「グラングラット絡みだとは思うんだがな」
「どうかな。どちらかと言えばカラバ侯爵の方かもしれない。彼
帝国解放会のロビーでアスターと再会した。
貴族扱いではないのだからアポイントメントは不要だが、それはそれとして出逢えるかが分からない。解放会の用事を多めにしている状態だから領地は問題ないのだろうが、解放会重視状態だからこそ出逢えない可能性が高いのだ。
「なんだ。隻眼の話も聞いているのか。耳が早いな」
「この国にとって隻眼は貴重だからな。関心は抱くさ、その内の一人がカラバ侯爵ならば猶更ね」
昭信の伝手に隻眼がいるという情報を知らなければ先ほどの会話にはならない。
アスターがその事をほのめかすと昭信は両手を上げて、ペンとパピルスを二枚取り出した。そして一枚に三つの点とその後ろに下線を引いていく。要するに、その部分に何かを書く準備があるという前触れである。
「そうか。ならこの国には隻眼がもっと必要だな。有象無象ならばともかく、解放会向けに俺が試させた達成条件を記してもいい。それとは別に君が興味を持ちそうな話も用意できる」
「気前がいいな。それなら私はどちらの立場でも頷けるよ。結晶が要るのかい?」
「ああ。ハイコボルトが特に足りない。相手も隻眼だ、勘所を心得ている」
昭信はジョブに関する条件を用意することにした。
どうせ将来のライバルにしかならないし、いまから準備すれば次の世代でもナーシャ領には隻眼が存在するだろう。それを考えたら少しくらい情報を出したところで痛くもかゆくもない。いや、帝国解放会に隻眼が増えるならばもっとこの国も安全になるだろう。その意味でアスターに対する見せ札として隻眼の情報を開示してもよいと伝えたのである。
「生憎と出せる手持ちの中にハイコボルトはないな。身内に隻眼はいなかったのでそれほど熱心に集めてはいなかったんだ。知り合いに声を掛けるなら、彼らに対する報酬なり私への大きな見返りが必要になってしまうよ?」
「ソードマスター
「
「その上もだ」
隻眼の条件が解放会向けならば、ソードマスター系はアスター向けの情報だ。
昭信はソードマスターの能力とスキルをパピルスに簡単に記した。そして能力値を書いた場所から少し上に矢印を描き、新しい矢印を加えて能力値の簡易的な説明。そしてスキルのシャープエッジから隣に矢印を描き、その隣には矢印を伸ばさない。そして新しくキーンエッジと記してそこから矢印をやはり隣へと引いていく。
「知っているかもしれないがソードマスターの上のジョブは剣術指南役。知らない場合でも、剣士以外を含めて複数の部下のジョブを考察して様々な先を示せば経験はこなせる。おそらくは騎士のような派生ジョブを二人か三人以上は必要だろうな。その上は開祖で、不確定だが複数の系統に跨って攻撃技を身に着けた経験が必要になる。こちらもジョブ二つか三つ分以上だろう」
「おいおい。そこまでの情報をこの場で信じろって? 君の経験でもないのに?」
「信じなくてもいいぞ。俺も一人くらいは育てるだろうし、情報はその後でも……」
「そこまで見せておいてそれは殺生な。分かった。話をするまでは約束しよう」
昭信は見せ金としてジョブ名と簡単な考察だけを話してみた。
アスターが上のジョブになればそれだけで強化されるわけだし、仲がよい貴族が強くなるのはよいことだと言えるだろう。そして自分の経験を基に『ジョブの達成条件』を適当に脚色しながら考えていった。
「剣術指南役の条件を確信したのは騎士団の相談役を師がやっていたからだな。引き継いだ後も次の指南役候補にやらせていたが、おそらくは昔から自然に行う事だからあまり意識はしてなかったと思う。アスターも問題ないんじゃないか?」
「その辺はそうだな。言われてみれば分からなくもない。開祖の方は?」
「無名の技があって、それは経験した技を入れ替えられるそうだ」
「さながら無形の剣とでも言うべきなのかな? しかし困ったな」
昭信はソニックブレードやキーンエッジの情報をパピルスに書いていく。
アスターはその情報を穴が空くほどに見つめるのだが、既に最上位のジョブに関して悩み始めていた。巷では伝説のジョブであろうに到達する気でいるのは、自分に相当な自信を持っているのと貴族だから宛てがあるのだろう。
「複数の技を使いこなせというが、普通は迷宮で何年も戦い続けるんだぞ。それを二つ以上とはなんと深遠なことか。老境で至るのも仕方なき話なのかな」
「それはどうかな? 戦士の他に種族ジョブもあるだろう。強い技だと聞いている」
「アキノブ、君ね。君は狼人族だから構わないだろうが人間はそうもいかないんだ」
「色を目的としたメイドや奴隷には、御褥滑りで下を伴って教育するとも聞くぞ」
芝居掛かって悩んでみせるアスターに昭信は苦笑して提案した。
要するに色魔が持つ禁欲攻撃の話をしているわけだが、迂闊に話せないことを躊躇なく口にした昭信と、それに対して肩をすくめるアスターの応酬である。もちろん昭信は空気を読まないので、『引退するエロメイドと一緒に新人を一緒に抱いたらどうだ?』と新たに提案したのである。
「御褥滑りとは難しい言葉を知っているな。それは迂闊に言の葉に載せるのもったいなきお方の閨で用いられる言葉だよ」
「趣味人の間でも使われるだろ? 特に人の間ではな」
「そりゃあそうだがね。どういう顔で説得したものか」
「上手くいけば後一つ。剣豪なら直ぐだろ、励めよ」
アスターは洒落者貴族の顔のまま悩んでみせた。
これに対して昭信は『心当たりの相手がいるなら抱けばよいではないか』と苦笑している。もちろん開祖に至るまでの経験を積めるか自体が謎なので、そこまで真面目に取り合うのも馬鹿馬鹿しくはある。その辺りも含めてアスターと昭信は解放会のロビーで馬鹿話をしているに等しいのだ。
「何だったら四十四層あたりで一緒に戦うか? お前と俺なら三人でいけるぞ」
「それは何とも魅力的な提案だがね。今は次の迷宮に向けて忙しいんだ」
「地元に新しい迷宮が生まれたのか? 頑張ってくれ」
「そうさせてもらうよ。これが貴族の務めだからね」
こうして昭信はアスターに最上位の結晶について交渉を行った。
実際に手に入るかはアスター次第であるし、そこから先は相手先の貴族次第だろう。だが遠くない将来に何とかなるであろう可能性を得たのである。
というわけで時間を掛けて迷宮を攻略しつつ、徐々に交渉開始です。
解放会でお願いしたり、寄り親に交渉したり。まあその内に手に入るでしょう的な。
●カラバ侯爵の思惑
手下が喧嘩売られてるのと、素からナーシャ領を派閥として狙ってたので面白くない。でも帝国が認めたし、一応は決闘の結果なので動けない。それに加えて新しい隻眼がブイブイいってるのもあって、むかっ腹が立って邪魔してる感じです。まあ最上の結晶を買ってるだけだし、主人公が必要な結晶を、お金積んでるだけですからね。問題はないねって話。
●オマケ。主人公の欠点。
呪文三つ以上の連打は得意ではないです。
体育会で体を動かすのと、ゲーマーだけどあくまでTRPGとか非電源系なので(キャンプ先とかで遊ぶので)。格闘ゲームで「烈風拳! 烈風拳! ダブル烈風拳! レイジングストーム!」みたいなコンボはやった経験がないのもあります。たぶん、当たり判定の微妙な大パンチを強制的に当てさせるとか、登り技(斜め上と組み合わせて技入力してジャンプした瞬間に放つ業)の方が得意。