異世界迷宮でロマンスを【完】   作:ノイラーテム

90 / 101
わだかまりに向き合う

「密集しているのは好都合だ。抑えるだけでいい。俺は左から攻める」

 

「聞いたな? 私が抑えた後でお前たちは右から掛かれ!」

 

「「はい!」」

 

 五十五層に入ってから昭信は二つの戦い方を模索していた。

 

この階層は敵がラフシュラブ・アニマルトラップ・ネペンテスと薬を落す敵ばかりだが、同時に動きが遅い相手でもあるのだ。戦いの経験を積むには丁度良いので、敵中央に切り込んで斬攪したり、あるいはソニックブレードを効果的に命中させる練習をしていた。キッカケとしてはこのソニックブレードという技があまりにも命中精度が悪いので、空間把握力を磨いて上手く当てることを目指したり、逆に無くても済む上にMP効率が悪いのだから牽制には使わない戦い方を模索しているのである。今回は切り込んで周囲を把握しながら戦う訓練であるといえよう。

 

(切り込むなら剣術指南級のジョブがあった方が安定するな。だが派生ジョブなど偶然発見した余禄、しかも既に上位のジョブを得ているのだと思えば頼るのはよろしくないか)

 

 この戦い方をするようになった当初、昭信は7thジョブにしていた。

 

剣術指南役を付けてシャープエッジのスキルでスイングスピードを上げていたのだ。パッシブスキルでスキルの使用を強く意識する必要はないし、普段やってるダッシュからの一撃必殺を行わないならば剣速が上がっている意味は大きい。ただそのためには経験値二十倍を十倍に落とす必要があるし、中位ジョブに頼りっぱなしなのもどうかと思うので、今では封印して実力を高めることに腐心していた。

 

(しかし、敵中に切り込むとリポストが便利になるな。ちゃんとイメージ出来ていれば発動するし、なんだったら技も同時併用できる。命中率という意味ではソニックブレードよりこっちの方が有用だろう。いや……ソニックブレードも発動できるのか。問題はやる意味があるかだが)

 

 昭信はラフシュラブとネペンテスに挟まれつつ冷静に対処する。

 

もっさりと動くラフシュラブは後回しにして、まずはネペンテスをスライスで両断。腕力が落ちてはいるが、既にエレーヌのファイヤーストームが効いているので問題はない。殴り掛かってくるラフシュラブを間髪容れずにリポストで迎撃。拳のような枝を弾いてやはりスライスで葬った。そして数が減ったところで次の敵に向かい、仲間に対して攻撃していたラフシュラブに後ろから斬り掛かってトドメを刺した。そして次の敵を捜して視線を巡らせる余裕まで見せている。

 

(今のネペンテスは消化液を飛ばそうとしていたと思うんだが……ソニックブームで迎撃できるのか? よく分からんが……どちらにせよ、『どこで使うのが理想的か』を含めた組み合わせには検証が必要だな。今までは安全性に寄り過ぎた。確実に倒せるのはよいが、今の方が手早く殲滅できるからな。状況によってはこういう戦い方も必要だろう)

 

 これまで昭信は移動しながらの攻撃を多用していた。

 

彼が習った流派の基本形であり、『自分が得意な戦術を押し付ける』という意味では正しい行為だ。どうせモンスターは学習しないのだし、『この距離から走り込めば先に相手を切り倒せる』という確信がある以上、無理にこの戦術を変える必要があるとは思っていなかった。だがこの階層で戦い始めて相手の動きが全体的に遅く、外側でヒット&アウェイのように一体ずつ片付けるよりも、敵中に切り込んで速攻で終わらせるやり方も悪くないと思ったのだ。滅多にあることではないがパーティーに何か問題が出たり、気を付けてはいるが別々のグループに挟み込まれた時は速攻で方を付ける必要があるのだから。

 

(ひとまずこのまま戦い方を練習して、何処かで動きの速い敵を相手にして速度差に慣れることにしよう。余裕がある時にこそ厳しい戦い方を学ぶべきだ。それこそ解放会のメンバーが居たらスキルを多用するわけにはいかんしな)

 

 昭信は帝国解放会のアスターに最上位の結晶を頼んでいた。

 

貴族間では金銭以外の条件が付随するらしいので、何かしらの頼まれごとをする可能性はあった。それこそ一階層か二階層分くらいは手伝うように要請があるかもしれないので、その時は見られてもよい戦い方をする必要があるだろう。またハキム老に『ハミトの修練を手伝ってもよい』と伝言を送ったため、そちらでも他の者と一緒に戦う可能性があった。それゆえに様々な戦い方を模索しているのである。

 

「ん? この臭いは……まさか……」

 

「御屋形さま。これはボス部屋の臭いだと思います」

 

「……」

 

 その日、昭信は五十五層のボス部屋を探し当てた。

 

正確にはその臭いを感じ取っただけだが、捜せば近くに待機部屋を見つけるのは難しくない。ボス部屋が壁面の一部だけを晒して、直ぐには辿り着けないなんてことは滅多にないからだ。予定よりも遥かに早かったので昭信が戸惑っていると、シモーヌが頷いて肯定の意を示した。おそらくは難しい顔をしているエレーヌも同様にボス部屋であると確信しているのだろう。

 

「どうする? 一度戦っておくのも悪くはないと思うが……」

 

「止めておきましょう、アキノブさま」

 

 昭信が確認を取ると珍しいことにエレーヌが口を出してきた。

 

今まで彼女はそこまでこういった話に口を挟んだことはなかった。戦略面では昭信に任せているし、戦術指揮もシモーヌに任せているからだ。領地の経営に関してのみ昭信と協議を行い、土地の有力者やガラリアと交渉するのがエレーヌが行なってきたことである。

 

「私……次の扉を見たら我慢できるか分かりませんわ」

 

「お嬢さま……。そのお気持ち、お察しします」

 

 エレーヌが口を出した理由は感情の抑制が出来ないからだという。

 

彼女の父親たちは五十五層で迷宮ボスに挑んで全滅したのだ。相性が悪かったのか、逆に楽勝でそのまま五十六層に挑んでしまい全滅したのかは分からない。昭信がいる以上は間違いなく階層ボスだけなら楽勝であろう(おそらくは迷宮ボスだったとしても相性で勝てる)。問題なのは五十六層に移動した時に扉があったら、そこは待機部屋ということになる。エレーヌが我慢しきれずに開けてしまえば、なし崩し的に迷宮ボス……それもモンスターの種類が一段階強化され、更に数が一体になったことで二段階強化された敵といきなり戦うことになる。エレーヌは感情にケリがつくまで止めておこうと言ったのである。

 

「分かった。五十五層をすべて探索してから薬の材料を取りに挑むとしよう。そのくらいの気持ちでいればいいさ」

 

「そうですよ! 村の人たちだって急がないって言ってたじゃないですか」

 

「アキノブさま、ありがとうございます。ルミもありがとう。いつか倒しましょう」

 

 昭信はあえて利益問題を口にして、ルミの方が村人の心情を説明した。

 

いつものように金庫番のルミが『薬の材料を採取しに行こう』といえば空気が悪くなるというのもあるが、気の利いたセリフを思いつかなかっただけだ。そしていつものセリフを取られたルミが横滑りで以前から聞いていた話をする。『いつもで攻略できるならば、もう少し先延ばしにしては?』と利益をもたらす迷宮に未練を残していたからだ。とはいえ先年まで困っていたのは父親が死んだからであり、その父親が迷宮攻略を先延ばしにしていたことに由来するのをエレーヌはよく知っていた。今では昭信の意見と同じくして、倒せる時にさっさと倒そうと思っていたので、あくまで二人が寄り添ってくれたことに礼を述べたのである。

 

「御屋形さま。第二迷宮はキラービーとなりますが、この流れで戦われますか?」

 

「ああ。久しぶりに当て難い相手が続く。お前たちには苦労を掛けるが、修練に付き合ってもらうことにしよう。こう言うとなんだが、第一迷宮ではゆっくりで大きな相手で、第二迷宮では小さく当て難い相手。ちょうどよい塩梅だからな」

 

 ここで話を切り替えようとシモーヌが午後の予定を確認した。

 

第二迷宮で戦うのは同じだが、今日から四十五層に突入するのだ。この階層はキラービーが相手であり、その次はマダムバタフライ、そしてパットバットと飛行系の相手が続く。いつもながら面倒な並びが続くのが第二迷宮であるが、空間把握には丁度良いと昭信は笑ったのである。

 

「そういえばルミ。ラブシュラブのボスとドロップ品はなんだ?」

 

「ラブシュラブのボスはラーフシュラブで、魔法陣での特殊攻撃は麻痺させる暗黒の靄を作り出します。ささくれた枝でも麻痺することがあるとされるので、麻痺耐性の無い方は注意してください。ドロップ品はイナウという削り掛けの仲間で、万能丸と違って状態異常しか治せませんが、上位のモンスターが行った状態異常でも解除できるそうです」

 

「専門的な代わりに上位互換化しているのか。将来を考えると悪くはない」

 

「今は使わないでしょうが、幾つか用意しておきたいですね。御屋形さま」

 

 今回は戦わないのだがせっかくなので情報を尋ねておいた。

 

するとHPもMPも回復する上に状態異常も治す万能丸よりは不便だが、状態異常専門であるために効果が高いイナウというアイテムが落ちるという。正確には薬ではないのだが、薬草採取士のスキルで加工可能であるという。

 

「よし。今日は一つ下のビーナストラップを巡って修練としよう。適当なところで切り上げて昼食なのはいつも通りだ」

 

「「はい」」

 

 こうして昭信たちは第一迷宮の当初予定である五十五層ボス部屋に到達。将来のために修練を繰り返しながら、第二迷宮を攻略していくのであった。

 

●リザルト

 

アキノブ・タケダ。狼人族。♂。24歳。英雄58レベル。

 

 活性枠。入替枠。不要枠。

 

英雄58/百獣王52/勇者47/剣聖30/悪狼王24/開祖12

 

ソードマスター50/剣豪50/探索者45/剣術指南役50/料理人40/神官43/薬草採取士44

 

村人5/錬金術師1/僧侶1/魔法使い1/戦士30/賞金稼ぎ1/騎士1/剣士50/獣戦士51

 

 更新順(古 → 新)

 

キャラクター再設定、鑑定、獲得経験値二十倍。詠唱省略。68p

 

6thジョブ。必要経験値十分の一。62p。余りは結晶>>MP>クリティカルなど。

 

ルミ。ドワーフ。♀。17歳。隻眼19レベル。

 

シモーヌ・ナーシャ。狼人族。♀。23歳。騎士51レベル + 聖騎士23レベル。

 

グレース。人族。♀。22歳。刺客25レベル。

 

エレーヌ。狼人族。♀。魔法使い49レベル。




 という訳で予定より早い五十五層ボス部屋到達と、特訓の話です。

●五十五層のボス部屋
 ある程度はサイコロで決めているので、今回はサクっと見つかりました。
ただ、それだけでは面白くないので「父親の仇」である話を混ぜ混ぜ。
ここで無理して戦っても意味がなく、第二迷宮の優先が正しいと頭では理解しているけど、どうなるか分からない。だから今は戦わないという話にしています。ヒロインはNPCではないので、独自のわだかまりがあるという話の一環ですね。

それにプラスして、今まで苦手にしていた『ソニックブレードは当らない』という派内に向き合い、「当てるよう頑張る」「いっそ使わない」という特訓を始めた感じ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。