異世界迷宮でロマンスを【完】   作:ノイラーテム

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春の宴

「第一の迷宮において迷宮ボスが存在するであろう階層に辿り着きました。そして第二迷宮でも四十五層に突入し、攻略は最終段階に入りました」

 

「「おお……」」

 

 種蒔きが終わればナーシャ領では春の祭りが始まる。

 

村人たちは一年で最初の大仕事を終え、次の農作業に向けて動き出す前の一息である。領主主催の祭が始まり、この日のために用意された食事が振舞われる。そんな中で行われたエレーヌの演説に人々は聞き入っていた。この一年の体験として、人々を動かすタイミングだと知っていたからだ。

 

「聞いたことがあるかもしれませんが、これから新しく町を作るために二つの準備を始めます。一つは賦役によって税の一部を支払うことを認め、それによって街道を拡げたり林道・農道を拓きます。もちろん狩りや炭焼き、あるいは木材の切り出しに使っても構いません」

 

「使っても構わないということは……関所は無いと?」

 

「もちろんです。気楽に町へ赴いてほしいですからね」

 

「おお……それは助かりますな」

 

 行うとされた準備の内、最初の一つは去年の賦役に似ていた。

 

あの時は盗賊対策も兼ねて道を拡げただけだったが、今年はそれを大々的に行うだけの話だ。重要なのは領主家の金で道を拓く以上は、通行する者に関税を要求することもできる。だがそれをせず好きに使ってよいということは、森で生活の糧を得る者にとっては朗報だろう。もちろん開墾して自分の畑を持とうという者や、家を建てようとする者にとっても嬉しい知らせだ。

 

「道が増えることで盗賊が寄り付き難くなり、新しい迷宮が生まれても即座に発見できるでしょう。古き迷宮の討伐と合わせて、みなに安全な生活を約束します。これが一つ目の準備になります。そして二つ目の準備とは、定期的に騎士団の指導で迷宮に入ることで己を鍛えることを許します。もちろん探索者に払う費用はナーシャ家が持ちます」

 

「普段は個人で戦うのを助けてくださり、探索者を雇う金も出してくださると?」

 

「体を鍛えれば賦役も農作業も楽になりますからね。お互い様でしょう」

 

「「おお……」」

 

 二つ目の発表は個人の迷宮探索を助けるというものだ。

 

一人では雑魚を倒すのが精々だし、探索者を雇わなければパーティーを組んで能力補助を受けることもできない。所詮は村人なので体力だけ、農夫がいても腕力が多少上がる程度だ。それでも探索者……しかも領主の騎士団が引き連れるとなれば安全性が桁違いである。強いだけでなく立場の違いがあるので、跳ねっ返りの若者も素直に言うことを聞くからだ。少しずつでも強くなれば上の階層に行けるし、体力が付くことで農作業もやり易くなるだろう。

 

『みなに率いらせて村人たちを迷宮に潜らせるのですか、アキノブさま?』

 

『そうだ。迷宮がなくなることに対する穴埋めを兼ねて、これからも賦役による税の代納を用意しておけば不満もなくなる。ずっと続くなら自分たちで開拓することも考えて今のうちに鍛えておいた方がいいという理屈になり易いだろう? そうなるとすぐ傍に迷宮がある間なら引率するのも簡単だからな。この流れを農園主ではなく俺たちが利用する』

 

 この話を昭信が提案した時、エレーヌたちは質問を行った。

 

それに対する答えは、『これから起き得る話題』を自ら生み出し、『その先の決断』を自分たちの手で誘導。まさしく教え導いていくのだと説明した。

 

『御屋形さま。なぜ去年ではなく今年なのでしょうか? それをご説明ください』

 

『エレーヌとシモーヌには話したかもしれんが、去年の場合は追い詰められた領主家が民に頼ることになるからだ。だが今年、迷宮の脅威を打ち払った後ならば、この行いは領主の慈悲になる。元々迷宮で鍛え利益を得ていたのは一部の人間だった。だが今回の話で安全に鍛えられると成れば誰もが手を挙げるチャンスを得る。その慈悲を受け入れるのも、恐ろしいからと拒否するのも自由だ』

 

 次はシモーヌが質問したが、どちらかといえば話を展開させるためだ。

 

昭信によって根回ししていた流れで話を周囲に聞かせていったと言える。領民に優しい必要はないが、領地を安んじて国家に貢献するのは領主の役目だ。その根拠は迷宮を退治して周囲に平穏を齎しているからだ。だからこそ戦力を欲していたにもかかわらず去年は行っておらず、迷宮を倒せると確定した今年になって行うのである。その上で迷宮で己を鍛えるというチャンスを誰もが得られるならば民にとっても利益になるという。

 

『親方。質問してもいいですかね?』

 

『アメリア。何について確認したい? 構わんから言ってみろ』

 

『命令ならなんだってやるのが奴隷ですよ。でも何かメリットあります?』

 

『もちろんあるさ。奴隷から解放されても身を持ち崩したって話は一生付いて回る。たとえ疫病が原因だと知っていても、馬鹿にする奴だっているだろうな。だがここでお前らの強さを知れば舐めてくる奴はいなくなる。それに人格をジックリ見れるから、騎士団の拡充をしたとしても暴れるだけの奴は不合格に出来るだろ』

 

 命令ならやるが、稼げるモンスター退治より優先する必要があるのか?

 

アメリアが含みを持った質問を行うと、昭信は笑って『お前たちの将来のためだ』と答えた。奴隷上がりだと馬鹿にされなくなるのはこれからの一生で重要になってくる。だがここで一緒に戦い、全員が探索者相当で30レベル以上だと広まれば世間の見方も変わるだろうと告げたのだ。奴隷落ちして尚、僅か一年で自由の身を取り戻せる強者になったのだと言えるのだから。

 

『そういう事ならやらせてもらいますよ。文句はないね? あんたたち』

 

『文句などあるものか。毎日面倒を見るというのは勘弁してほしいがのう』

 

『ほうじゃほうじゃ。ガキどもの面倒を見るのは大変だからな。がははは!』

 

 こうして奴隷たちが村人たちの指導を行うことになった。

 

探索者の数を揃えるためにグスタフも参加して、場合によってはルミやグレースも一度探索者になるだろう。いずれにせよ、みんなで希望する村人たちを鍛える試みが始まるのであった。

 

「いずれこの村は一部が町造りのために移動することになるでしょう。しかし、みんな同じ村で育った仲間です。本日はその縁を繋ぐために、アキノブさまが料理を考えてくださいました!」

 

「古くなった食材を揚げ濃い味を付けて食べることもあるだろう? あれの改良だ」

 

「おお。この間のずっと温かいままの鉄皿ですな。なるほどチーズに浸して食べるのか。確かにこれならずっと楽しめますな」

 

 エレーヌに紹介され昭信がチーズフォンデュを用意した。

 

大きな揚げ物の鍋を用意して、そこで串揚げを大量に作る。そしてテーブルへ鋳物で作った小鉢をおいて中にチーズを入れて、そこに串揚げを浸すというものだ。もちろん小鉢は鋳物ゆえに石窯にもっていけばいつでも温め直せる。わざわざ作っていないが、大きな銅板を用意して焼いて置けば、その上でまとめて温め直せるだろう。

 

「もちろん油も食材も新しい物だ。欲しいだけ食べるといい」

 

「チーズ以外にも塩や魚醤がありますからね。愉しんでいってください」

 

 夫婦の共同作業というにはまだ早いし、小さなことでしかない。

 

だが昭信とエレーヌは二人でチーズフォンデュを広めていった。同じ物をみんなで分け合い、一番おいしいと思う組み合わせを教え合う。そんな流れを作り出してみんなで食事を始めたのである。

 

「面白い料理ですね。みんなで食べられるし、いつまでも温かいというのが面白いです。塩にも何か味付けしていますし、魚醤の方も甘めに仕上げてありますよね」

 

「これはフォンデュという料理の基本形だ。貴族相手にはチョコレートでやるつもりだ」

 

 そんな折に話しかけてきた美少年に昭信は不敵な笑みを浮かべた。

 

その少年は次の企画を聞いた瞬間に顔色を変える。何しろチョコレートの価値を知っているのだから当然だろう。近くにいる村の有力者とは立場が違っているのだから当然である。

 

「本当ですか!? ……失礼しました、あれは高額なのではありませんか?」

 

「高いなら高いでやりようはある。このチーズにも牛乳が混ぜてあるようにな」

 

「確かにチーズにしては柔らかくとろけていますね。温かいからかと思いました」

 

「食べ易くそして具に絡み易くする工夫だが、安価に抑えるコツでもある。チョコレートには酪を混ぜているが牛乳の方を好む者もいるだろう。そしてタップリと牛乳を混ぜて、他にも味付けの元となる物を入れれば手抜きではなくなるというわけだ。後は人の好みに合わせたとか、朝に食べるデザートだとでも説明すればいい」

 

 チョコレートは貴重でそれに対する知識も貴重な筈だった。

 

だが昭信は少年に対して一切隠しごとをしていない。彼が貴族だからというのもあるが、様々なことを彼に対して教えるつもりだからである。報酬もタップリいただくから問題など無いし、『次世代への移行』が始まった場合、彼とのつながりは重要になる。そうなったら知識や技術を返してもらうこともあるだろう。

 

「ハミト。お前さんがその格好で来たということは挨拶だけじゃないんだろう?」

 

「はい。貴方を師と仰ぎ、様々なことを教えてもらえと御爺さまはおっしゃっていました」

 

 少年の名前はハミト・ハリード・アンパッサン。言わずと知れた国外の大貴族ハキム老の孫であり、昭信の弟子となる人物であった。




 というわけで公式的に色々と動いています。

●公式発表
 前々から決めていることを村人に伝えただけですね。
でも根回しをやっていた人々も居るので『あの時の話だ。本当だったろう?』と有力者は周りに説明し、周りも『へへえ!』と形ばかり畏まってる感じです。関税無しの道とか、迷宮でレベルアップ指導とか分かり易い利益もあるのでありがたいのも確か。

●フォンデュ
 溶かしたチーズやチョコに漬けるだけの簡単なバージョンです。
流石に泉のように湧き出たりはしません(やったら奴隷たちが熱さで死ぬ)。

貴族にはチョコレートフォンデュを広めるつもりなのですが、そのついでにハミト君も登場。第二迷宮で攻略を進めるのは第一迷宮と同じ流れなので、飽きないために彼が登場した感じになります。

●レベルとか
 主人公のレベルは料理人とか薬草採取士がちょこちょこ上がってます。
これは第二迷宮では一部の上位ジョブを外したり、経験値倍率落して7thジョブにしてるからですね。
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