異世界迷宮でロマンスを【完】   作:ノイラーテム

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新たな関係

「若! このような胡乱な輩の言うことを聞いてはなりませんぞ!」

 

「ハズム。このことは御爺さまも納得されている。お前も知っているだろう」

 

(特訓を始める前日にこれとは……。さて、これは不和が湧き出たのか、それともワザと演出しているのか……どちらかな)

 

 ハミトがやって来て歓迎会を行い、食事を終えた後に軽くミーティング。

 

チョコレートを混ぜたクッキーモドキやチョコレートタルトを食べながらのお話だ。しかし随行員である冒険者のハズムという壮年の男が文句を言い始めた。その姿に昭信は作為的なものを感じる。

 

「あえてハミトと呼び捨てさせてもらおう。その上でハミトよ、彼の言い分は正しい。俺に対する情報を彼はなんら知らないのだからな。そしてこういう時に重要なのは、言い分の正しさではなく前後の情報になる。お前ならば俺がそちらの一族に何を齎したかを知っているし、俺たちの状況も知っているだろう? 俺が騙す理由があると思うか?」

 

「師には我が一族を……ボクを裏切る理由がありません。利益になりませんから」

 

「そうだな。俺からすると小金如きで裏切る方が割りに合わない」

 

「ぐっ……」

 

 せっかくなので昭信はハミトを鍛える教材にすることにした。

 

歓迎会の延長なので話自体はエレーヌも聞いているので無駄にはならない。そして今の話はあちこちで応用が利くので今後に役立つこともあるだろう。もちろん突拍子もなくいきなり近付いてきた相手が利益を齎してくれたり、信用している相手が人質を取られて裏切っている可能性もあるので一概には言えないが……補足事項を加えれば問題無いだろう。

 

「俺がお前を裏切るとしたらエレーヌが人質に取られた時くらいかな? 他の仲間は残念ではあるが、一族の信条や大義を犠牲にするほどじゃない。もちろん騎士家を継ぐシモーヌや隻眼のルミは一族にとって大切な存在だ。だがお前の一族と揉めることを考えたら、涙を呑んで別の手段を選ぶだろうな。ここで重要なのは鼎の軽重ということだ」

 

「それぞれの大切な人を見る、危険が迫る前に守るということですね」

 

「そういうことだ。逆に大切な者がいない奴は金で動きかねんがな」

 

「注意しておきます」

 

 迷宮を攻略できる昭信からして大切な物は存在しない。

 

だから彼にとって需要なのは人間であり、第一に恋人でありナーシャ家の当主たるエレーヌが挙げられる。次に動く可能性があるとしてシモーヌやルミだが、もちろん彼女たちが捕まっていたら助ける。しかし人質としてハミトを殺せと言われても、報復でナーシャ家が危険になるので絶対に選択しない。そんなことになったら、恥を承知で方々に頭を下げ借りを作ってでも秘密裏に何とか出来る戦力をかき集めるだろう。

 

「さて、次は俺の言葉に利益が無いかもしれないから、危険だから聞くべきではない。その意見について是正しよう。まずハミトは俺の提案を聞いて無視しても構わないし、途中段階で何もせずに時間を潰していてもいい。信用してもらうためにも第二迷宮の階層は幾つか紹介するので、安全な階層で戦って、待機部屋でひたすら時間を潰してもよいわけだからな」

 

「そうですね。後で自分たちで一階層目に入っておけば危険もなくなります」

 

「いいアレンジだ。俺が戦力を見誤っていても、それなら移動し直せる」

 

「むう……」

 

 次に昭信は『信じるに値しない』という部分に目を向けた。

 

ここで考えられる否定材料は『危険であるから』と『利益が無いから』だ。そして決定権はハミトに譲るので、彼さえちゃんとしていれば何の問題も無いということになる。もちろん『今は信用させるためにこう言ってるだけだ』と言えなくもないが、この段階で口を挟む余地は無かった。だからこそ冒頭で文句を付けたハズムにも文句を口に出来ないでいた。

 

「今の話を効率的に進めるために最初に竜人族の子を少し鍛えようか」

 

「バドルをですか? その間に一階層目に入っておけということです?」

 

「それもあるが竜騎士の条件を達成しておこう。俺はその条件を知っているし、絶対に達成できる装備を用意できる。竜騎士は仲間の体力を大きく底上げすることが可能だから、お前が死ぬ可能性が下がるというわけだ。もちろん奴隷を鍛えるのは主人の役目という風習があるならば遠慮しておくがね」

 

 そして利益を齎す話として、昭信は竜人族の少女を鍛えることを申し出た。

 

ハミトを連れ出すと危険であるが、竜人族の少女はカモフラージュに用意された奴隷に過ぎない。また将来は竜騎士としてハミトを支えることを期待されているから少女のうちから近侍として色々と教えられているのだろう。竜騎士になる条件は大きな家であれば察しているものだが、装備まで用意するとなれば確実に昭信が知っていることを窺わせる。その上で『やってはいけない風習があるなら遠慮する』とまで言っているのだ。心情的にも反対する理由は無いだろう。

 

「そういうことならば願っても無いことです。ハズム、聞いたな? 何か問題があるか? 問題があるならば今のうちに聞いておこう」

 

「いえ……問題などあろうはずもございません。若の思し召しのままに」

 

(思ったより素直だな。やはり駄目出し担当なのか? まあ様子は見よう)

 

 ハミトが強めに受け入れると口にするとハズムという男は承諾した。

 

護衛としては戦力にならない少女が竜騎士になるならば問題ないというのもあるだろう。反抗分子が何かに付けて文句を口にしたにしては素直過ぎる。残る可能性は口を酸っぱくする『爺や役』を自認しているのが八割、さもなければ裏切り者が仕方がないと雌伏している可能性が二割くらいだろう。裏切り者なら竜騎士が敵になるのは面倒なので止めそうなもので、それを考えたら最終的に駄目出し『爺や役』であると昭信は判断したが、この段階で結論を出すのを止めておいた。

 

「次にヒルダを連れて適当な階層の雑魚戦と、もっと低い階層のボス戦を行う。必要ならば探索者にしてレベルを確認してもいい。理由は分かるか?」

 

「前者は英才教育でどの程度の効果があるかですよね。後者はボクと共にボスを?」

 

「そうだ。ボスの方が効率が良いが、パーティーが分かれたら駄目だからな」

 

 ダンジョンウォークは全員が入らなくても移動できるが、ボス部屋は無理だ。

 

そこで昭信は雑魚戦に関してどの程度のペースで戦えるのかをヒルダに見させるという。彼女もまた奴隷であるし、主人よりも先に命を懸けるのは当然のことなので受け入れられ易い。次にボス戦にも参加させれば、どの程度の階層のボスならばハミトに危険を感じさせずに倒すことが出来るかを把握可能だった。探索者にしてもよいというのは、レベルをアイテムボックスで測れるからである。

 

「ボス戦など危険です! 英才教育だけでも問題ないのでは!?」

 

「探索者がボクだけで、他の人へ事前に伝えてないなら問題ないよ。それにいつかは通る道、ボスとロクに戦ったこともない男を一族の誰が信じるというのだ? 経験を積むという意味では大金を払ってでも安過ぎるということはないさ」

 

 当然ながら、ボスと戦う事にハズムが反応した。

 

竜騎士や英才教育の話と違って明確に危険が存在するからだ。あり得ない話だがハミトを暗殺して『運悪く死んでしまった』と公表することすらできる。それこそ表向きには百獣王である昭信ならば、半数が敵に回っても皆殺しにして『それだけ危険だった』と公表可能だと暗に示唆したのだ。だがハミトはそれに対して、『迷宮の中層で探索者がいなくなれば、外に脱出するのは不可能に近い』と釘を刺したのである。

 

「その辺りの議論は後でやってくれ。ひとまず順番として英才教育だけで上げられるだけ上げる。先に言っておくと俺はボスが二体になる四十四層で四名による攻略が可能だからな。信用してくれるならば同時に二人鍛えられる。もちろん巻き込まれても死なないだけ事前に鍛えるから、それで満足するのも自由だ」

 

「その辺りはちゃんと考慮させていただきますね」

 

「ハミトさま! 危険ですぞ! 私は反対です!」

 

(断定はまだ早いが、ワザとらしいな。誘導とみるか)

 

 昭信は外陣メンバーにも施した特訓パターンを説明。

 

それを受け容れてみせる主人と反対する忠臣という構図を冷めた目で見ていた。本心でやっているにせよ、昭信たちにそう見せるにせよ、この場で聞いて答えてくれるはずもない。そして小芝居を見るのはある意味で苦痛を伴う行為といえた。

 

「その辺りはハミトの探索者レベルを見て自分たちで判断してくれ。俺はそれ以上の関与をしない。独立した貴族に対してあれこれ言い過ぎるのは問題だからな」

 

「御厚情ありがとうございますね。ハズム、少し控えておれ」

 

「は……申し訳ありませぬ」

 

 昭信が少し突き放した言い方をするとハミトは受け入れた。

 

もっともな事なのでハズムの方も口出しはしない。こうなればレベルを上げた後でハミトが判断することだろう。もちろん10レベルくらいで切り上げて、七階層や八階層で戦える程度に切り上げてもよいのだ。ヒルダは騎士になっているし、竜人族の娘を竜騎士にすればそれだけで死なない保証はできるだろう。

 

「そうだ。以前にも拝領した短剣へ無事にスキルが付与できた。やはり高級品が二本もあれば違うな。そこで約束通り、伝来の品を渡そう。鑑定や検証に関しては貸し出す品を含めて好きにしてくれ。持ってきた自前の装備の方が優れているなら使わなくてもいい」

 

「三つもスキルがある守り刀でしたね。大変な物を頂戴します」

 

「素材を考えれば二つ相当だがな」

 

「それでもですよ」

 

 昭信はどう成功したかは告げずにスキル結晶の融合に触れた。

 

もし伝世品の代価として受け取った二本の短剣に二重付与が成功したら、新しく伝世品を渡すと以前に告げていたのだ。鋼鉄の短剣にレベル補正無視・HP吸収・防御無視(40%)を付与した、登竜の鋼鉄短剣をハミトに……ハリード家に譲り渡すことになる。代価がどの程度の価格になるかは別にして、ハリード家の若者が自分を守るのに有用な装備となるだろう。

 

「改めて明日以降の予定を説明する。午前中は五十五階層の地図を埋めて終了。昼食に戻った時に状況確認。何も無ければ第二迷宮を攻略していく」

 

「御屋形さま。ボス戦を繰り返していた時間を使ってハミト殿を鍛えるのですね?」

 

「そうだ。ボス戦は修練以外にも予算対策というのもあるからな。置き換える」

 

「修業の受け入れでいただける報酬もありますし妥当だと思います。マスター」

 

 今度は主に身内相手にスケジュールを確認していく。

 

既に五十四層の地図は埋め終わっており、薬師の一族に探索終了宣言と『特別に』立ち入り許可を与える旨を伝えてある。後は五十五層の地図を埋めてしまい、薬師の一族が五十五層の立ち入り許可を求めてきたら、ガラリアを呼んで条件を締結して終了だ。 第二迷宮の攻略が終わるまでは問題無くモンスター狩りと薬の材料集めが行われるだろう。

 

「我々に時間を割いていただき、何から何まで申し訳ありません」

 

「いや。そちらが懇意にしている仲買人を使わせてもらえればそれで構わない。チョコレートの技術を売るのと引き替えに最上位の結晶を買う訳だから、お互いにとって利益のある事だ。対等な契約なのだから気にしなくていい。それに問題となる時間だって、お前たちが中層の中でも低い層なら戦えるまで鍛えたらそれで終わりだ」

 

 昭信たちはハミト達に余計な時間を使うことになるが、報酬は十分だった。

 

他国の仲買人をハキム老の名前で動かせるため、代金はこちら持ちであっても結晶を購入できるペースが早くなる。コボルトの収集などは特に効果が大きいし、あちらではカラバ侯爵が邪魔しないので最上位の結晶も買える可能性があるのが大きかった。またチョコレートの技術やレシピを売ることになっていたが、その代金は金ではなくハリード氏族が所有する最上位結晶と交換することになっている。ハイコボルトが複数個あるのは判明しているので、これからの戦いが楽になるのは間違いなかった。

 

「ハミト。確認するがこちらにどれだけ時間を使えるんだ? 他に目的の中で協力できるものがあれば代価次第で援助はしよう」

 

「実はナーシャ家の寄り親であるガレス伯と交易を望んでいまして。その申し出は助かります」

 

 ハミトのスケジュールを尋ねたが、その内容はある意味で納得がいく行為だった。

 

昭信だけと交流に来たというよりは、この地方の貴族たちと交渉に来たという方がしっくりくるからだ。その意味でガラリアが行っている海洋貿易に一口噛ませてほしいというのは渡りに船であった。

 

「アキノブさま。ガレス伯といえば……」

 

「ああ。こちらで『探索目的』に船を出してもらえることになっている。そして装備提供をすることで貸しを作る筈だったが、最上位の結晶入手の仲介でイーブンになっている状況だ。お互いに利益が出る範囲で協力できるだろう。ただし……絶対にガレス伯を動かせる『新しい切り札』を出すほどじゃない。どこまで話をするかはゆっくり考えてくれ」

 

 エレーヌが以前の件に口を出してきたことで昭信は頷いた。

 

あの一件に触れても構わないという合図であり、ここで昭信は協力し合える範囲の情報を提示した。派閥に装備を提供する貸しを作ったが、おそらくは交渉仲介で打ち消されている扱いだろうというところまでは説明する。そこであえてもっと良い切り札を持つが、それ以上説明しないというのは牽制であり、『絶対にハミトの協力が欲しいというわけではない』と釘を刺す行為である。協力したいが調子に乗られたいわけでは無いからだ。

 

「ということは我が家経由で『既に結晶の件は落ち着いた』、そう見せればよいのでしょうか? ガレス伯との交渉のさなかで?」

 

「それも可能だが、別の一族との交渉に使ってもいいな。勿論費用はこっち持ちだ」

 

「それなら御爺さまを説得できると思います」

 

 現在、他の寄り子貴族たちは様子見をしている。

 

ガラリア経由で『売っても構わない。だが金以外の要求もしたい』という水面下の交渉をしているところだ。だからガラリアに対する貸しはもう消えているようなものだが、ここから『更に借りを作る』という選択肢もなくはないのだ。だがハミトから最上位の結晶が手に入るならば、他の寄り子貴族たちは慌てるだろう。都合の良い条件を教えつけるつもりだったのに、階段を外された格好になる。今度は彼らの方が『やってほしかったこと』の代わりに、ナーシャ家やガラリアに借りを作る事になるだろう。ビリヤードのような貸し借りの押し付け合いが予想された。

 

「……念のために確認しますが、何を探索される予定なのですか? 協力できるかもしれません」

 

「なに、誰の土地でもない場所にある迷宮のギルド神殿を回収しにな」

 

「神殿の方がメインなのですか? しかも誰かにもらうのではなく?」

 

「貴族の借りは面倒だろう? だから自力でな。ああ、土地に興味はないぞ」

 

 ハミトは昭信の切り札ではなく目的について聞いてきた。

 

切り札は本当に存在するのかと言えば問題になるし、それを使って交渉してくれとは言えない立場だ。だが『望んでいる報酬次第では出せなくはない』と伝えると、昭信は『貸し借り無しでギルド神殿が欲しい』とだけ答えたのである。その上で『土地が欲しいわけではない』と付け加えたのは、『もしハリード氏族が有する土地の近くならば、その土地の方は渡してもいいぞ』と暗に告げて、縄張り争いをする気はないと補足したのである。

 

「なるほど。もしかしたら協力し合えるかもしれませんね。流石に海沿いというだけでは何とも言えませんけど」

 

「そうだな。俺たちとしても、場所は何処でもいいんだ」

 

 そして立ち寄る土地やその帰属と、ギルド神殿に関する権利に関して互いに歩み寄りを見せることにしたのであった。




 という訳で、ハミト君が来訪して最上位の結晶に折り合いが付きました。
これからは普通の結晶も含めて、かなり入手が楽になるでしょう。
つまり装備品を作ってオークションで売る事も出来る訳で、ナーシャ家の財政もまた格段に改善する事になります。

●ハミトのパーティー。
 探索者・騎士・冒険者・村人(竜騎士候補)・村人(魔法使い候補)・村人(戦士・剣士候補)というところです。もちろん女の子たちはハミト君のハーレム。彼に協力して少し強くしてあげて、第二迷宮で雑魚狩りしながら自分を鍛えることになるでしょう。

交渉に関してここから玉突き事故が起きて、あちこちの力関係が変化します。結晶も美味しいし、最上位の結晶のために貸し借りが増える筈だったけど、それがリセットされる。こう言った流れのために、ハミト君の修行を受け容れた感じですね。

●時間経過と第二迷宮の攻略状況
 四十六層でマダムバタフライ相手に戦ってます。
ハミト君関連で問題が無ければ、週の終わりまでに四十七層のパットバットと戦えるでしょう。レベルは微妙なので、次の回でまとめて表記します。
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