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「この度はご招待ありがとうござます。ナーシャさま」
「いえ。不躾なお願いを聞いてくださりありがとうございます。薬師の方」
(レベル60超え数名を含む十名を寄こしたか。これは鍛えるためも兼ねているな)
やがて薬師の一族が精鋭を派遣してきた。
五十五層の探索終了宣言をしたので予定内だったが、意外であったのはその人数だ。第二迷宮の十七層で戦っていたパーティーが合流し、数名が故郷に一度戻ると称している。それを考えれば精鋭部隊で敵と戦い薬の材料を得ると同時に、一人か二人ずつ入れ替える予定であろう。敵は火属性魔法に弱い連中ばかりなので、比較的安全に育てられるからだ。それと同時に二パーティーが同じフロアにいれば、イザという時に合流できるので安全に戦えるのもあるだろう。昭信が以前に思っていた危険性など、とっくに解決済みという訳だ。
(60レベル超えの連中が不揃いなのは気になるな。いや……苗字が違う者もいる。ということは六十層以上の時は一族挙げて精鋭を集めるのか? 此処に来ているのは一部で、いずれ引退することを考えているなら分からんでもない。しかしそうなると一家で精鋭パーティー二つと下位の騎士団数チーム程度、一族全体で最精鋭をやはり一つか二つというところか。面白いな)
尋ねてないので詳細は不明だが、鑑定をするとある程度見えてくる。
苗字の違う者が多数混ざっているし、その者たちは色々と会話していた。それらを考えると久しぶりに会った者たちが会話を弾ませていると考えられる。そして一族全体の最精鋭が危険を承知でエリクシールの材料である威霊仙を取りに行くが、普段はそれぞれが自分の一家を率いる家長なのだと思えば不思議はなかった。そしてこの場に居ない60レベル超えの者たちは、今も一族が所有するダンジョンで薬の材料を採っているのだろう。
(一族の複数のチームを有するならもっと面白いやり方もできるんじゃないか? 例えば狼人族が多い俺たちなら、深層の地図を効率的に埋めるとかだ。八分割の捜索方法でいえば、ボス向きの最精鋭チームを分割して同時に二ライン、行きと帰りで四ライン……戦力を偏らせるなら三ラインを埋めていく。そして一度出発地点で情報を交換し合ってもう一度地図を埋めれば、殆どボス部屋の位置は特定できる)
昭信は薬師の一族とエレーヌの会話を聞きながら思案を進めた。
自分たちが苦戦したボス部屋捜索の手法に、二チーム制で高速討伐を行う方法を考案したのだ。今までは外陣メンバーは下層から中層を攻略する実力しかなかったので、上層に連れていくのは無理だと思っていた。だが最精鋭のメンバーを分割した上で、ボス部屋に挑む時のみ精鋭が合流すれば良いと気が付いたのである。
(今の主力がそのまま六十層以上で戦えるように育てるとして、外陣メンバーを五十層までなら通用するレベルで鍛えればどうだ? 薬草採取士や料理人は獣戦士などに入れ替えるとして……。魔法使いがネックだが次世代なら可能。今の世代でやるなら、貴族家からハミトのように魔法使いの子女を預かって育てるしかないか……思い付きの案ではあるし、ここまでだな)
そんな風に考えながら昭信は思案を一度中断した。
考えに熱中して色々と案を練るのは好きだが、魔法使いの数など難しい問題もある。自爆玉の材料を自由に得られるまでパーティーを鍛えたとしても六十層以降、場合によっては七十層以降に挑む必要があるだろう。修業や材料採取自体はクラータルの迷宮で可能であっても、それでは避けている帝国解放会での困難任務に挑むのと変わらないのだ。一度頭を冷やす必要性を自覚したのである。
「それでは我々を出し抜いて迷宮を攻略しないことを誓っていただけますか?」
「構いません。主目的は五十四層ですしね。それに我々の求める最上位結晶を交換していただける家との交渉、ここで裏切ることはありませんとも」
その頃には懇親会は最終段階へと移行していた。
エレーヌがハリード氏族から手に入れたツボ式食虫植物の最上位結晶を渡し、あちらの一族がハイコボルトの結晶をこちらによこしたのが見える。考えに夢中になってツボ式の方を鑑定するのが遅れたが、手前にあるハイコボルトはちゃんと確認できているので問題ないだろう。
「その誓い、このガラリア・ガストラフェス・アンカディアが見届けた。問題ないと思うが約定を破った場合は共同報復を行うので注意されたい」
(意外と言えばガレス伯もだな。薬師の一族が遠慮したので不要だったんだが……)
この懇親会にガラリアも参加してちゃっかり薬師の一族にも顔を売っている。
事前の根回し段階で『安全や戦闘効率のためにも五十五層を巡りたい』とは言わなかったので、あえて招待はしなかったのだ。だが事前にアポイントメントを取ってこちらに赴いており、仲介を行うならば文句の付けようがない。本来ならば仲介の労を取ってもらうだけでそこそこの報酬を払う必要があるのだ(その代わり名代で済むはずだが)。それを無償でやってくれるというならば受け入れる必要があった。その真意はこの後で尋ねなければなるまい。
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「いやー。いつの間にか最上位の結晶を手に入れてるなんて凄いにゃー」
「そちらこそいつの間にこの話を嗅ぎつけたんですか。まあお礼をする必要はあると思いますけれどね」
薬師の一族とは別れてガラリアとの会合。
悪戯っぽい表情を見せるガラリアは、暗に『最上位の結晶に関する仲介は要らなかった?』と尋ねてきた。それに対する昭信の答えは『複数の手段を用意していたが、お願いしたのは確かなのでお礼はちゃんとする』というものである。もちろんお願いに対する『力関係』が以前に戻り掛けているのは確かだろう。
「厄介ごとを押し付けようとした寄り子貴族に対して、貴女が仲介に立って俺たちにやらせてもいい。そういう流れでどうですか?」
「ボクとしてみればそれで構わないにゃ。うちの利益は守られるからね」
「それはどうも」
昭信たちが頼んだお願いのコストはキャンセル、代わりに別の物を支払う再契約。
ナーシャ家はガレス伯に対して頭を下げて何かをするのではなく、あくまでガラリア個人のお願いガレス伯としての要請に対して行動する。そこには採算を挟む余地があるし、他の寄り子貴族が押し付けてくる作業にもあまり差はない。ただし、彼らはガラリアにお願いする必要があり、ナーシャ家が包囲する部分が無かったことになるといってもいい。その上で、ガラリアは損をせず、同時に寄り子たちも解決手段としてのナーシャ家への伝手は残る。そんな塩梅の交渉となったのである。
「とりあえずさー。君って切り札は隠すタイプじゃない?」
「正確には『切り札を出す時は更に切り札を持て』という格言があるだけですね」
「にゃはは。何ともありがたい格言だねー。その人も乱暴者だったの?」
「王選の旗頭に粛清されかけましたが、目を潰しただけで済んだようですよ」
ガラリアが切り札を隠し持っていることに言及したので昭信はトボけておいた。
名作漫画と知られる昔の作品を読んだ時に気に入ったネタであるが、今回の件で利用できそうなので混ぜ込んでおく。王子同士の戦いとも小王たちの戦乱とも言わず、ただ王を争う抗争の中で乱暴者だった祖先が裏切られ、それ以降は用心するようになったのだと告げたのだ。ガラリアが『乱暴者なのに切り札』という分かり易い挑発を使ってきたので、日常的に複数の切り札を用意しているだけだと、裏切りではないことを示唆しておいたのだ。
「にゃるほどねー。ハリード氏族の人とはその縁で?」
「以前にペルマスク経由でチョコレートを大量に注文されたんですよ。そこで結晶その他をあちらの仲買人にお願いすることにしました。仲買人は一人に絞るのがセオリーですが、地方専任や国外の仲買人は別件ですからね」
ガラリアの方から話を振ってきたので、昭信は間を省いて話すことにした。
前々から付き合いがあって、その時点で結晶を支払いに充ててくれという話をしていた事。そして今回は最上位結晶が手に入らなかったので、差額はこちらで支払うから代わりに購入してくれと依頼していたのだと掻い摘んで説明をした。
「なるほどー。だから船を出してほしいが、特にあちらにとは言ってなかったと?」
「ええ。だからガレス伯との交渉権を譲るなら、それなりの報酬を払えと言ってます」
「迷宮の情報? それともギルド神殿を寄こせって?」
「場合によっては。まあ基本は前者ですね」
ここで晴らすべき疑念は切り札を持っていることではなくハリード氏族との共謀。
帝国や派閥を裏切るつもりは毛頭なく、途中で利益が一致したから共闘することにしただけの話だと告げた。事実、ハミトに聞くまでは『船を持つガレス伯との通商を求めている』とは知らなかったのだ。それ以前からの共謀を推測されても迷惑でしかない。それゆえに『ギルド神殿を回収できる迷宮を探している』から、ハリード氏族がその権利をくれるならガラリアに頼んだ『探索のために船を使ってほしい』という話を譲ってもよいと告げたのである。
「一応その言い分を信じるとしてもさあ……」
「ガレス伯。先に言っておくべき事があります」
「ん? 何かにゃ? 何かくれんの?」
「俺の切り札は広域探索技術ですよ」
執拗な追及に面倒くさくなった昭信は大まかに教えることにした。
ただし声のトーンを二つほど下げて不機嫌な様子を隠さないでおいた。せっつかなくても完成したらその内に教えるつもりだったのに、手元に試作品すらない時点でネチネチと追及されて面白いわけがない。まして裏切りとかまったく関係ないのに、その辺を情報を引っ張り出すための小ネタにされても面倒なだけである。
「放っておいても船の上で使ってみせる予定でした。陸だろうが海だろうがどこでも使えますが、歩いていれば辿り着ける陸よりも海の方が役立つでしょうね」
「えへへ。やだなー怒った? ねえねえお姉さんにしてほしいことある?」
「とりあえず恋人の前で色仕掛けするの止めてもらえません?」
「はーい。たのしみだな~」
昭信は望遠鏡技術には触れずに概要のみを説明した。
自分で簡単にやった時には画像が反転してしまったし、倍率もそこそこだったのでまだ公表する段階にはなかった。この段階で苦し紛れに教えるよりも、大まかな情報だけを教えて一度突き放したのだ。『役立つ技術を用意しているし、それを話す気もある。だがこれ以上つまらない芝居を続けるなら提供しない』と腹を立ててみせたといえる。もちろん腹を立てたのは間違いないので、挑発に引っかかった分だけ未熟ではあろう。だが船をどうするのかというイニシアティブはガラリアにあっても、有用な技術は昭信にあるし陸を歩いて移動できるとしたのであった。
「そんで君らはこの後どうすんのさ? あ、交易以外ね」
「第二迷宮は四十八層に入ったところなので、夏の間に条件クリアできます。街道整備と私道が終わって領内をくまなく探し、第三迷宮は存在しないと確信してから動くことになりますね」
さっきまでのやり取りを完全に切り替えたガラリアに昭信は苦笑した。
その問いに対して『第三迷宮が生まれてしまっているなら即座には潰さない』と答えて、それ以後……おそらくは秋以降にフリーになると伝えたのである。迷宮を攻略すると近隣の迷宮は弱体化するが、その期間はそれほど長いわけではない。その辺りのマネジメント込みで今後の予定を伝えたというわけである。
●リザルト
アキノブ・タケダ。狼人族。♂。24歳。英雄58レベル。
活性枠。入替枠。不要枠。
英雄58/百獣王52/勇者47/剣聖32/悪狼王26/開祖15
ソードマスター50/剣豪50/探索者45/剣術指南役50/料理人42/神官45/薬草採取士46
村人5/錬金術師1/僧侶1/魔法使い1/戦士30/賞金稼ぎ1/騎士1/剣士50/獣戦士51
更新順(古 → 新)
キャラクター再設定、鑑定、獲得経験値二十倍。詠唱省略。68p
6thジョブ。必要経験値十分の一。62p。余りは結晶>>MP>クリティカルなど。
ルミ。ドワーフ。♀。17歳。隻眼21レベル。
シモーヌ・ナーシャ。狼人族。♀。23歳。騎士52レベル + 聖騎士25レベル。
グレース。人族。♀。22歳。刺客27レベル。
エレーヌ。狼人族。♀。魔法使い50レベル + 魔導士1レベル(暫く秘密予定)。
という訳で徐々に話が終盤に近付いてます。
第一迷宮は探索終了宣言。第二迷宮も四十八層。あとちょっとでクリア可。
ただし、第三迷宮が存在しているかもしれないから、秋まで様子見な感じ。
(微妙なのは第二迷宮で人を殺しまくった主人公が悪いとも言える)
●最上位結晶の入手
ハリード氏族との交渉と、仲買人を使った購入で幾つか入手。
その内の一つを薬師の一族と交換して、ハイコボルトの数を揃えた感じですね。この時点でハイコボルト二つ以上あるので、知力五倍をロッドにつけて敏捷五倍を今直ぐつけるか? 装備微妙だし付けないよね……というところですね。なのでMP徴収のタクト(持っているだけでMP回復)でも作るんじゃないかと思います。そしてそうした姿を見せることで、他の交渉との交渉を楽にしてる感じですな。
●複数パーティー平行運用制への開眼
主人公たちには余裕なかったし、金持ちというか余裕ありまりな薬師の一族は複数同時パーティー平行前提。今回のことで複数パーティーを鍛えて運用することを覚えたので、一番面倒な地図埋めをさらに改良していくことになります。
今は「下位の騎士団を必死に育てる必要ある?」という感じでしたが、原作のハルツ公みたいに、帝国解放会入りしてそうなゴスラーのパーティーに相当するパーティーを狼人族込みで容易出来たら、速攻で迷宮攻略できるんじゃないかと気が付いた感じですね。こういう軍団編成(レイド)による効率化という概念が、あまりなさそうな世界観だからというのがあります。
●ガラリアのウザ絡み
自分ん所ところの寄り子が他所の大貴族と仲が良くなってて、海を隔てているとはいえ、協力関係気付いてたら警戒しますよね。実際にはそう思せておくことで、「怒ってるから洗いざらい喋る事!」と脅してるだけです。背景的に偶然なんだからいくらでも誤魔化せるわけだけど、あえて追及して見せるのもテクのうち。まあ主人公はそういう機微が理解できても空気読めないので腹を立てている姿を見せてしまうわけですけど。その辺も込みで転がされてる感じです。
●レベルとか
ハミトくんとか鍛えてることもあり、主人公は使ってないジョブが主に上がってます。他のメンバーはあんまり変わらないというか、五十五層に成ったのでペースがあがっているけど、ハミト君の分だけ遅れてるだけ。そしてエレーヌは魔導士が解禁されたけど、いくらなんでも一年は早いので、公表する予定はありません。こっそり教えるでしょうけどね。