異世界迷宮でロマンスを【完】   作:ノイラーテム

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迷宮突破のドクトリン

「薬師の一族の性格とガレス伯の立証で抜け駆けの心配がなくなった。それと第二迷宮も四十八層に入ったことで、ここからは探索時間を大幅に偏らせることにした」

 

「つまり第一迷宮はボスを倒すくらいにするということでしょうか御屋形さま」

 

「そうだシモーヌ。こちらの方が倒し易いからな。あちらは修練用にする」

 

 ガラリアとの会合を経て昭信は考え方を変えた。

 

第一迷宮の五十五層でレベル上げを行いつつ、薬の材料を集める方針を中止。第二迷宮の四十八層から五十層にかけてのエリア探索を急ぐとしたのである。奇しくもモンスターの構成は真逆。ラフシュラブ・アニマルトラップ・ネペンテスの順であり、薬の材料を稼ぐという意味ではこちらの方が美味しいのである。

 

「それともう一つ意味がある。ボスが同じラーフシュラブだが七層分の差がある。練習相手としてはこちらの方がやり易いから、こちらで何度も倒してイナウを集めておき、雑魚狩りそのものは五十層でやった方が手早くモンスターを倒せるだろう。そうすれば……あちらで五十五層のボスを倒して、五十六層待機部屋に行くことも出来る筈だ」

 

「そう……ですわね。同じ……同じモンスターなのです。私も賛成します」

 

「お嬢さま……」

 

 昭信はエレーヌのトラウマに向き合うことにした。

 

彼女の両親は第一迷宮の五十五層ボス部屋で死んだと予想されている。第二迷宮の四十八層のボスと同じラーフシュラブであり、練習戦闘にピッタリだと昭信は口にした。だが実際に練習すべきなのは、エレーヌのトラウマなのだ。より難易度が低くて『別物だ』という認識により暴走し難い状態で克服しておくべきだと暗に告げたのである。もちろん四十八層の強さならば、エレーヌが多少暴走しても問題無く倒せるというのもあった。ボス戦のドロップや経験自体は美味しいので、トラウマを克服するまで何度でも戦うつもりであった。

 

「ともあれ第二迷宮に注力して出来た余裕で全体的に整えたい。まずヒューゴーを中心として外陣メンバーを鍛える。次に聖銀とオリハルコンの装備品に関する材料を買えるならば、迷宮で手に入れずに購入して試作してみる。そこに予算を割くという前提で、徐々にスキル装備も備えておくのもいいな」

 

「前に話していたよりも意図的に行うのですか? マスター」

 

「そうだ。ナーシャ領を平和にした後でおそらく面倒が増える」

 

「その前に……いえ、その時に備えて……ですか」

 

 増強計画は前々から存在したが、昭信はそれを進めるように言った。

 

外陣メンバーは既にレムゴーレムを手早く倒して稼げるようになっているし、そのうちに自分を解放できるほど金が貯まるだろう。成長計画としてはもはやテコ入れは不要で、出来ればもっと強い方が安全になって周回が早くなる程度だ。装備品も竜革とダマスカス鋼製の装備で満足しており、無理に上を目指すよりは量産してスキルスロット付き装備の確保を考えていた。そして最後にスキル付き装備品も収支を考えながら不自然でない程度の用意を考えていた。今回の言葉はそれらを一回り強化すると言えるし、『出来れば』という理想目標を明確な目的に据えるといえた。

 

「最上位の結晶を十分に集められるようになったが、俺たちの要請は消えてない。寄り子貴族が俺たちに強く言えなくなっただけで、ガレス伯に頼んだ事実は消えないんだ。他の貴族が余裕ぶって押し付ける筈だった案件も消える訳じゃないから、おそらくガレス伯に頼みこんで達成させようとするだろう。結果的にあの人が収支を調整して俺たちに要請するだろうな」

 

「その流れでナーシャ家が断るわけにはまいりません。ルミ、お願いしますね」

 

「分かりました。街を巡ってなんとかしてみます」

 

 昭信はガラリアとの話を皆に解説した。

 

もちろん当主であるエレーヌには話しているだろうし、彼女がシモーヌに話している可能性はある。だが『たぶん話が通じている筈』という状況よりも、ちゃんと説明した方がよいのは確かだ。周知して改めて全体方針として説明した形になる。

 

「装備に関しては自分のためになるから構いません。ですがヒューゴーたちは……」

 

「……御屋形さま。余所者や村人を鍛えていることに不満があるとお考えですか?」

 

「いや、別に彼らが現状に不満を覚えて出ていくことを警戒したわけじゃない。単に次以降の迷宮を攻略するのにその方がいいと思っただけだ。今やっている探索方法を拡充するのに、二パーティー以上でやれば時間を短縮できるからな。もちろん狼人族出身の獣戦士や、魔法使いがいた方がいいのは確かだが、中層までなら今でも十分可能だ」

 

 以前の計画と大きく違うのは外陣メンバーの扱いだった。

 

奴隷解放を自力で行えるように整えはしたが、良い待遇をしていれば留まってくれるだろう……という程度の拘束条件だった。実際にそのくらいの方が恩義に思ってくれる可能性が高いし、ナーシャ家の騎士として取り立てる話や十分な報酬を用意すれば残る確率が高い。だが確実ではないから、もっと内側の面倒な話に巻き込むのか? あるいはハミトや村人を鍛えることを契機として『不満を持っているのではと疑念を抱いたのでは?』というルミやシモーヌに、昭信は笑って薬師の一族を見て思った戦法を話し始めたのである。

 

「俺たちは目の前の目標を片付けつつある。そして油断なく確実に何とかするつもりだ。ならばその次は『手法を知っていれば、誰でも迷宮を攻略可能な道筋』じゃないかと思ったんだ。薬師の一族やエルフの大貴族を見る限り、四十層以降で戦えるパーティー一つと、五十層から六十層で戦えるパーティーを一つ、一世代に用意できれば容易に迷宮は攻略できる。そして狼人族とドワーフ族はそこに改良を重ねられるんだ」

 

「臭いによるボス部屋の探知……」

 

「それと鍛冶師による装備品ですか」

 

「そうだ」

 

 昭信の説明にシモーヌとルミが言葉を添えた。

 

二人の言葉に昭信は頷き、その意見が間違っていない。それらを駆使して『誰でも迷宮を攻略可能な道筋』を作るのだという。原作ではエルフのハルツ公が新しい迷宮を速攻で攻略していたが、自在に動かせるパーティーが幾つか存在し、臭いでの探知やら耐性装備が揃っていれば、意図的に攻略していくことは可能であろう。

 

「得意な方法を磨き抜き、独自の手法とすることを俺の故郷ではドクトリンと言った。『迷宮攻略のドクトリン』を作り上げ、それを伝えていけば子孫たちが困ることはないと思うんだ」

 

「アキノブさまに賛成ですわ。ただしナーシャ家に固執する必要はないと思います」

 

「お嬢さま!? それはどういう……」

 

「前から思ってたのよ」

 

 昭信は元の世界にある名称たちの戦略を思い浮かべた。

 

頼り過ぎても問題であるが、磨き抜いた手法はかなりの戦果を発揮する。人間相手の戦略はいずれ見抜かれ陳腐化するが、迷宮相手の手法ならば構うまい。そして彼の案に対してエレーヌは意外な事に、自分の家だけにこだわらないという。

 

「ルミが奴隷になった時も、私たちが苦境に陥った時も、みんなで手を取りあえば何とかなったはずなの。子供の理屈だとは分かっているわ……分かっているの頭の中ではね。それを駄目だ、家には家の理屈がある。自由民には自己救済権があり、貴族家にもまたプライドがある。そう言って世界を悪くしているのは大人の理屈。なら子供が我儘を口にして、目に見える範囲だけでも良くしたらどうして駄目なの?」

 

「エレーヌさま……」

 

「お嬢さま……」

 

 それは切実な言葉だった。この間までなら泣き言といってもよかった。

 

だが今ではそうではないのだ。ナーシャ領にある迷宮は既にチェックメイトが掛かっている。後は時間を掛けて程よい時に攻略するだけと言ってもよかった。そしてエレーヌが前々から悩んでいたことに、昭信が名案を持って現れたのである。彼は苦境にあって誰も助けてくれなかったエレーヌの手を取ってくれたのだ。ならば彼の提案を、もっと広めて何が悪いのかと思うのであった。

 

「人は夢想とか、ただのロマンというだろう。だが俺はそんなロマンが好きらしい。そして俺なんかが英雄というジョブを得たのも運命かもしれない。エレーヌの神殿と同じような能力を使えるのもまた運命だろう。あるいは君がその名前であることもまた運命かもしれない。だからエレーヌ、お前はお前の道を行け。俺が立ち塞がるものを切り拓こう」

 

「アキノブさま……」

 

「私もお役に立ちます!」

 

「私もです!」

 

「みんなありがとう!」

 

 以前にも言ったが昭信は縁という言葉が好きである。

 

同じ状況なのに何故か良くなったり悪くなったりする。それは唯の運であり、終わった後から見れば何かしらの原因があるものだ。だが昭信はあの日にこの少女を助けたことを、そして今また誓いを新たにすることに満足を抱いていた。この日、一同は気分よくボス部屋を突破。四十九層へと踏み出したのである。

 

●リザルト

 

アキノブ・タケダ。狼人族。♂。24歳。英雄59レベル。

 

 活性枠。入替枠。不要枠。

 

英雄59/百獣王53/勇者48/剣聖34/悪狼王28/開祖18

 

ソードマスター50/剣豪50/探索者45/剣術指南役50/料理人42/神官45/薬草採取士48

 

村人5/錬金術師1/僧侶1/魔法使い1/戦士30/賞金稼ぎ1/騎士1/剣士50/獣戦士51

 

 更新順(古 → 新)

 

キャラクター再設定、鑑定、獲得経験値二十倍。詠唱省略。68p

 

6thジョブ。必要経験値十分の一。62p。余りは結晶>>MP>クリティカルなど。

 

ルミ。ドワーフ。♀。17歳。隻眼23レベル。

 

シモーヌ・ナーシャ。狼人族。♀。23歳。聖騎士27レベル。

 

グレース。人族。♀。22歳。刺客29レベル。

 

エレーヌ。狼人族。♀。魔法使い50レベル + 魔導士1レベル(暫く秘密予定)。




 という訳でもう少しで大詰めです。
第二迷宮の方は「あれから二遊間で攻略した」と言えるレベル。
それでは寂しいので、何かしらのイベントを挟みながら進みます。

●材料購入して装備品作成
 世の中高レベル鍛冶師や転職後の隻眼って、聖銀とか足りない分を買ってると思うのです。なら装備幾つか分を金で揃えて、装備一式くらいは用意しても良いと思うのですよね。もちろん自分たちが付けるならば、主人公が街を巡ってスロット付きを探した方が早いのですが。この場合は『ナーシャ家に頼めば、借りを作るが聖銀装備一式、代価次第でスキル付きで用意してくれる」という状況に対応するためです。「やろうと思えば可能」と「いつでも可能」は話が違いますので。(三年もすれば六十層以降で戦って、自力で量産で可能でしょうが)

●子供の我儘 vs 大人の理屈
 私の好きなFSSで出て来る言葉です。
要するに「何が貴族の柵だ、やかましい!」という感じですね。
傲慢な大貴族が好き勝手をする事が許されるならば、子供たちが手を取り合って何が悪いのかという話。
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