異世界迷宮でロマンスを【完】   作:ノイラーテム

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次の戦いのための戦い

「塩梅はどうだハミト」

 

「強くなった実感だけならなんとか。このお風呂には……まだ戸惑いますけど」

 

 迷宮攻略を進めながらハミトたちの修練もやっていた。

 

それが劇的に進んだのは、やはりハミトの探索者レベルが上がったり竜人族の少女が竜騎士となることで、事故による死亡の可能性が減ったことだろう。探索者レベルはアイテムボックスの数で目に見えて分かることもあり、うるさい爺やであるハズムも反対にし難くなったのである。

 

「そういえばそちらの風呂は蒸気風呂(サウナ)だったか」

 

「はい。天幕で湯殿を作って焼いた石に水を落として蒸気を充満させます。その蒸気も天幕を伝って雫になり、回収することができるのです。最後に汗を水で体を拭って汚れを落とします」

 

 必要は発明の母というが、砂漠地帯ではサウナが発達しているらしい。

 

水の三様のうち蒸気と水分の循環を利用して、少ない労力で蒸気風呂を用意できるからだろう。大量に水と薪を使うこちらよりも、もしかしたら風呂に入る回数が多いのかもしれない。

 

「それにしても驚きました。こんな場所にこれだけの水が湧いて出るのですね」

 

「正確には水源から木の管を通して送っているんだ。上水道という概念だが……ああ。そうか……その手があったか。ちょっと待ってくれよ……考えをまとめている。こちらから勝手に話しかけてすまんな」

 

 ハミトは離れにある湯船に驚いていた。

 

必要なだけ水を供給して、途中のボイラーで温めてお湯として送っている。間にあった鏡を張った扉とかボイラーそのものには驚いていないので、使用人が水汲みもしていないのに豊富に使用できる水量に驚いたようである。その言葉を聞いた昭信は思いついたアイデアを整理し始めた。

 

「今度、山へ行ってみるか? 上水道を反対側に伸ばしてあちら側へ町や畑を作ろうという計画が出ているんだ。管の材料はノンレムゴーレムやレムゴーレムから採れる岩を使ったセメントだから、十分な量さえ用意すれば砂漠にも水を引くことが出来ると思うぞ。暑さで蒸発させないために、地下水道(カレーズ)にする必要があると思うが」

 

「本当ですか!? それが可能ならとても凄いことだと思います!」

 

「本当だから落ち着け」

 

 昭信が地下水道(カレーズ)の案を述べるとハミトは興奮して立ち上がった。

 

はずみで可愛らしいモノがパーオンと主張するが、昭信は真顔でその姿を制止する。ここで笑おうものなら爺やであるハズムが黙っていないだろうし、ハズムが傍で聞いている以上はもっと重要な話をする必要もあるからだ。

 

「我が国は水で困っているんです。日々の生活にも困る有様で……もしそれが……」

 

「落ち着けと言ったぞ。岩を売るのも、岩を砕いてセメントで管を作る手法も売ることが出来る。だがその先をよく考えてから口に出せ。水が利権なのはこちらでも同じだ。お前の所だと下手をすると死人が出かねない」

 

 興奮冷めやらぬハミトに昭信は冷や水を浴びせた。

 

もちろん物理的な意味ではなく、精神的な比喩である。だがその意味するところは重要で、下手をすると死人が出るのは間違いなかった。

 

「死人が……」

 

「例えばハズムが水の利権を守るためにお前の一族に従っているとする。どうだ?」

 

「若を守ると誓ったことは覆せません。ですが家族に黙っていることもできません」

 

「その結果、ハズムが血気盛んな親族を殺害。あるいは逆もあり得るだろうな。行きつく果ては身内同士の争いになるだろう。勢力バランスの変更もあるやもしれん」

 

 ハズムに話を振ると心得たもので的確な回答をしてきた。

 

この屋敷にきてから豊富な水量を見て気が付いていたのかもしれないし、あるいは似たような騒動が過去にもあったのかもしれない。いずれにせよハミトが驚いて静かになる程度には衝撃的だったのだろう。

 

「ひとまず見学するとして、この件は持ち帰ってハキム老と共にゆっくり考えろ。持ち帰るだけでお前の成果の一つになるだろうが、基本的には水の利権は弄らず、供給している水の価格を多少引き下げる程度かもしれん。あるいは価格はそのままで、移動できる場所を延ばすだけというのもありえる。だがお前は俺以上に若いんだ、焦って問題を起こすな」

 

「はい……分かりました。我が師よ」

 

 昭信はハミトの様子を見て昔の自分を思い出した。

 

名案を思い付いたつもりで走り出すようにあれこれやった。次第にいくつか考えてながら走り出し、途中で結論を出して結果を出すようになった。今では仲間と相談してより良い方法や、問題に無い方法を導くようになった。それが出来るようになったのはつい最近であり、誰から文句の出ない案を用意できるのはいつになったら可能なのか分からないくらいだ。だがそれを棚に上げて、今の内から忠告しておく価値があると思ったのである。何しろハミトは未来の大貴族だ、昭信とは言葉の重みが大きく違うのだから。

 

「重要なのは現状よりも確実に良くなると周知すること。そして何処かに致命的な状況があるなら、そこだけは改善されると分かっていることだ。それだけ出来ていれば、大概のことはなんとかなる」

 

「そう……ですね。現状でもお爺さまが頑張られております。そこに地下水路の話が持ち込まれるだけでも改善されるでしょう。焦らないように気を付けますね」

 

 昭信は自分の体験をかみ砕いてハミトに教えていった。

 

そこには年若い弟分に偉そうなことを言いたいというのもあるだろうが、自分がやってきたことをハミトに教える過程で再解釈するためである。昭信は一を聞いて十を知る天才肌ではなく、様々なことを思い付き、その中でも自分が得意と思える方向に突っ走るタイプだった。だから次にこの体験を流用する時のために、ハミトに語る過程で自分の中で武道の技のように磨いていき思案を再解釈しているのだ。

 

「こういうと何だがこの領地でも最新の技術と考え方だからな。当然失敗はあるし、色々な失敗や改良もあるだろう。ある程度整ったところで渡すから『何処に施すべきか、本当にやって良いのか』を今の間に話し合ってみるといい。ガレス伯の交易船の話もなんとか持ち帰えれば、そっちの事情もかなり改善されると思うぞ」

 

「はい! そうしてみます! ハズム、お爺さまに報告を頼む」

 

「承知しました。若、暫し離れますがご自愛ください」

 

 長風呂になりそうなので適当なところで話を切り上げることにした。

 

上手くいってる時の話は長くなりがちなものだ。昭信はそのことを知っていたし、実際には裏で色々な問題が起きるものである。それらを今のうちに何とかするのがハキム老の役目であり、将来的に解決するのがハミトの役目であろう。

 

「マスター。オリハルコンの方は早々揃わないそうですが、聖銀製装備の方はそれなりに揃えてきました。何から製作しますか?」

 

「領主館に飾るから、見栄え重視で一式頼む。一応はスロット付きを目指してな」

 

「シモーヌさん用ではないのですね? スキル付きを目指すのは念のためですか?」

 

「ああ。量産するのは自力で素材を得られてからだな。それまでは探す方が早い」

 

 ルミがあちこちの街を巡って装備作成用の素材を購入してきた。

 

鍛冶師ギルドから隻眼が購入しているのでそれなりに値段は抑えられている。もちろん『いずれ我が街にも売ってくれ』というニュアンス込みだろうが、今は揃えられる方が重要だ。全員のレベルが上がった頃には六十層以降を根ざすので、自力で素材を用意できることもあるだろう。

 

「承知しました。ただ聖銀製装備の素材はシルバーサイクロプスやレムゴーレムのボスが出すそうなので、五十六層以降で出るそうです」

 

「ほう……それは面白いことを聞いた。シモーヌが色々調べているから考慮しよう」

 

「普通は五十六層の迷宮ボスのために、六十層で戦わないと思うのですけどね」

 

「考え方の差だな。俺にとっては二体に分かれてくれる方が倒し易い」

 

 ここでルミは鍛冶師ギルドから仕入れてきた情報を披露する。

 

五十六層から六十六層までのボスが落とすドロップ品の中に上級の装備を作ることが可能な材料があるという。例えばシルバーサイクロプスのボスであるゴールドサイクロプスは通常ドロップで聖銀製装備の材料であるアルジェントを、レアドロップでオリハルコンの材料の一部であるイコルを落とすという。考えてみればハートハーブのボスがエリクシールを作る為の威霊仙を落とすのだ、五十六層以降の迷宮にはそれだけの魅力が存在するのだろう。そしてボスタウルスのボスと練習戦闘をするために迷宮の情報を集めているのだ、良い場所があればついでに倒してもよいだろう。

 

「ともあれ、これでナーシャ家に協力するから力を貸してくれという自由民の家に貸与可能だという形が整う。寄り子貴族仲間の連中も『装備を融通してほしい』という可能性があるが……よほど困窮していないとそちらは言わんだろう。むしろ装備にスキルを付けてくれとねだるだろうな」

 

「素直にそう口にしてくれれば早いですし、気が楽なのですけどね」

 

「そうだな。『我々に貢献させてやってもよい』と言いかねん」

 

「ありそうですね、それ」

 

 領主の館に聖銀製の装備一式を置けば良いデモンストレーションになる。

 

騎士団全てにダマスカス鋼や竜革の装備を渡すというところまでは既に可能だ。その状態で聖銀製の装備が置いてあるならば、その段階までの装備が作成可能であり、スキル付与に失敗しても自作だから安価に付与できるということになる。迷宮を攻略するには力が足りないが、援助があれば可能かもしれない……そんな実力を持つ自由民の家があれば、ナーシャ家が援助して討伐させることも、何だったら一緒に修練したり、戦術を教えることも出来るだろう。聖銀製の装備は財力の象徴ではなく、貸し出せるだけの余裕があるという表れにするつもりなのだ。

 

「フルセット完成しました。見栄えが良い物は素材も使う物が多いので総費用は五十万ナール、市価で八十万というところですね」

 

「自分たちで使うなら四十万と作り直し分というところか。まあ妥当だろう」

 

「自分たちで素材を用意すれば無償……ドロップ品売却額で二十万です」

 

「いずれ修行を兼ねて倒しに行くのは確定だな。その方が気が楽だ」

 

 あくまでスキル無しの価格だが、武器・盾・胴鎧は素材が多い。

 

頭・手・足の装備はそれほど素材を使わないが、このランクの上級装備だと差があまりみられない。見栄えが良いというか、手足の大部分を覆うような装備だと素材を多く使うのもあるだろう。その材料費を実費で購入してきたので、かなりの出費だった。もっともナーシャ家はスキル付き装備品を売ることで気軽に稼げるようになったので、頑健のダマスカス鋼大盾やひもろぎの聖銀ロッドを解放会に売った金で十分賄えはした。このランクの装備品を自力で作れ、スロットを見切れるというのは十分な力だろう。

 

「希望すればこの鎧にスキルを付けることにして、部下用にダマスカス鋼と竜革で装備を用意する。寄り子になる必要はないが、一定期間共同作戦を採る事を条件に、貸与では無く譲渡とする。……この契約に乗ってくると思うか?」

 

「相手方がどこまで疑うかですが……第三者の立証があれば問題ないでしょう」

 

「よし。ナーシャ領が完全開放した辺りから、その手の希望者と接触するか」

 

「その辺りはエレーヌさまが考慮されておられると思いますよ」

 

 こうして昭信たちは徐々に解放後の準備を行い始めた。

 

第二迷宮に時間を費やすことにした影響もあり、既に四十九層も突破している。ここからは収益が高く自分達でも使える薬の材料を確保する意味でも、五十層を徐々に周回。ボス部屋を見つけたら迂闊に突破せず、その次が迷宮ボスの待機部屋であることを配慮しながら戦うことにしたのである。




 という訳で第二迷宮もリーチです。
迷宮の外に気を配り、完了したら終わらせる段階。
もし第三迷宮を見つけたら、速攻で四十層くらいまで探して、そこで第一・第二を潰して……という流れですね。

地下水道(カレーズ)
 山から木の管で上水道を作り風呂を用意する。
セメント製品で道路側溝を作り、それでセメントの管を作る。
それらを農地開拓に利用し、その光景を見せて地下水道を砂漠に作る。
おおよそこんな感じで使い回す布石でした。長かったけど、以前に別の場所で考えたネタの使い回しなので、複線張るのは難しくはなかった感じですね。

ともあれ砂漠の大貴族と太いパイプが作れるので、相手に部下・親族が舐めたことをして決裂しない限りは、末永くお友達でいられるでしょう。

●どの口が言うのか?
 主人公の昭信君は欠点の多い人格ですが、その事を自覚してるので他人に忠告します。余計なお世話だと言われることも覚悟しているというか、昭信君自体が口にしたことがあると思うので、その辺りは考慮しています。

●装備貸出 → 譲渡でいいよ。
 帰属にある貸し・借りとか寄り子とかの契約って、嫌う人は一定数いると思うんですよね。そういう人たちの中である程度信用がおける一家があれば、貸し出しから始めて戦術訓練を経て、レイドチームを作っても良いかなと思いました。というか、魔法使い候補の子供が生まれても居ないし、オークションで探すとかは原作のバラダム家崩壊後くらいじゃないと、チャンスはないでしょうからね。多分、自由民で貴族に成るのを狙ってる人を集めるのが早いと思う。
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