異世界迷宮でロマンスを【完】   作:ノイラーテム

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解放に向けて

「皆さん。五十層のボス部屋を見つけました。これ以降は詰めの段階に入ります」

 

「すべきことは三つ。一つ目は第三迷宮の存在確認。二つ目は将来に向けて全員の強化。三つ目は弱体期間の確実な運営だ」

 

 エレーヌと昭信は奴隷たちを含めてミーティングを行なった。

 

この日ばかりは外陣メンバーも関係ないというか、迷宮討伐後は奴隷の身分から解放できるように調整してあるので、彼らはもはや騎士団メンバーといって差し支えないからである。

 

「第三迷宮の存在確認とは、どのように行うのでしょうかアキノブさま」

 

「猟師や炭焼き職人など領内くまなく歩く者たちから丹念に話を聞き、あるいは迷宮に連れていっている領民が何気なく口にしている内容で、妙な違和感があれば覚えておく。そして開拓地の確認をする中で実際に確かめていく。第二迷宮の討伐完了までに第三迷宮が見つかれば予定変更だが、討伐後に見つかった場合はそのまま継続して改めて討伐する事になるだろう」

 

 現時点で第三迷宮は見つかってないので、あくまで確認作業である。

 

だが今後も円満な領内運営を行うのであれば、こういった管理は重要になる。今のうちから事情聴取やら噂集めのコツを覚えておいて損はないし、領内巡検は面倒だが獣や盗賊から領地を守るには欠かせないことだった。

 

「次に将来に向けての強化とは何でしょうか?」

 

「第三迷宮が存在しなくても、いずれ次の迷宮は現れる。その時になってモタモタすることが無いように、上の階層でも同時に二チーム以上の編成で戦えるようにしておきたい。俺たちが六十階層以降で戦える実力を身につけるのはもちろんだが、アウグストたちも指示さえあれば四十層以降で戦えるようにする。そうすればメンバーを混ぜることで、五十層を捜すところまでは探索できるからな」

 

 二つ目の目標は迷宮突破のドクトリン構築を目指す。

 

レムゴーレムと戦い始める前は30レベル+@というところだったが、戦い続けることで現時点で全員が30レベル後半に突入している。これからの期間で全員を育て上げれば40レベルを越えて、装備次第で四十層以降でも戦えるレベルまで到達するだろう。もっともグスタフが冒険者になる前提であるため、ヒューゴーが探索者枠として40レベルに近いところまで上げてある。それを考えればあながちむりな目標でもないだろう。

 

「四十層以降かあ。それっておいらたちがいっぱしの騎士団になるってことだよね」

 

「調子に乗るなアウグスト。主殿が『指示があれば』と言っておられたろう」

 

「お前はいつもそうじゃのう」

 

 昭信の話はまだ途中だというのにお調子者のアウグストが声を上げた。

 

他の者たちが窘めるのだが、その声にどこか誇らしげな音が感じられるのも無理はあるまい。昨年に奴隷落ちして、まさかたったの一年で奴隷から解放されるなど思ってもいなかったはずだ。ましてや四十層でも戦えて、迷宮解放の一助となれるならば誇らしくない筈がない。

 

「モンスターには相性があるからな。レムゴーレムと戦えたのを思い出せ、相手を知り己を知り、効率的なやり方さえ徹底できるならば安全に中層のボスすら倒すことが出来る。ちゃんと実力を高めて装備を用意することで、四十層以降でも戦えるようになるだろう」

 

「へへへ。分かってますよ、装備持って作戦ってのを皆で守ればいいんでしょ?」

 

「そうだ。真の実力的には三十層後半くらいだと思え。それを自覚すれば問題ない」

 

 昭信は認める部分と釘を刺す部分を分けた。

 

絶対に勝てる方法を編み出して教授するから勝てるということを徹底させる。このことで上層でも恐れることなどないと言い、同時に作戦を守らなければ死ぬと説明したのだ。そしてその裏には『ナーシャ家の用意する装備と作戦が無ければ、良い待遇を貰えるような活躍は出来ない』と背景を刷り込むためでもあった。それを自覚すれば安易に他所の引き抜きに応じる事は無いだろうし、教えた作戦と必要な装備を全て他所の貴族家が与えてくれるはずがないのだと理解させるためでもある。

 

「レムゴーレムのように戦い易い敵を倒して十年以上戦えば四十層以降の実力に届く。お前たちは与えた装備に基づく作戦で、他の人間の数倍のペースで倒している。普通の奴らはボス相手に一日十戦以上とか無理だからな。そしてヒューゴーやゲオルグは知っていると思うが、三十層のボス戦を繰り返すことで十年を五年以下に、四十層のボス戦で二年以下に縮めることができる。これが五十層になれば危険だが、迷宮が弱体化することでそれも安全に行えるだろう」

 

「おいらたちが五十層で戦う……と。危険じゃないですかい?」

 

「そうだ。だからこそ作戦は守れ、それさえできれば問題ない」

 

 昭信はここでヒューゴ-やゲオルグを例に挙げた。

 

ヒューゴーに関しては先ほども言ったがグスタフの代わりに探索者枠で戦うための準備を始めていた。ゲオルグはグレース加入前に内陣入りする可能性があったし、暗殺者として状態異常を付与し易くするために他の者たちよりも上の階層で戦っていたからだ。彼らと同じくらいの戦いをするだけで探索者相当でレベル30後半になれるし、五十層ならばもっと強くなれる。そして危険であるという確定情報を、迷宮の弱体化で補うと告げたのだ。

 

「話が飛びましたが、その迷宮の弱体化に関して教えていただけますか?」

 

「迷宮の生態は詳しく分かってはいないが、『子』にあたる迷宮を生み出すことがある。親は子からエネルギーを徴収するだろうし、モンスターを外に出す際の大枠も広がるだろう。子から得るエネルギーの種類次第では、迷宮そのものが成長できるかもしれない。だがこれは諸刃の剣であり、近隣にある迷宮が討伐された時、親は多大なダメージを受け弱体化されると言われている。お前たちならば『鉱山の支道』に例えると分かり易いんじゃないか?」

 

「ん? ああ……言われてみれば支道があれば儲けが増えますな」

 

「人も雇えるし鉱石の種類も増えるかもしれねえなあ。ただ……」

 

「迂闊に支道を増やすと崩落したり、水が怖えよな。なるほど」

 

 ドワーフたちはルミの家が経営していた鉱山で勤めていた。

 

だから鉱山に例えると分かり易い流れである。上がる収益で鉱山経営を良くすることもできるし、人員を増やして一家を大きくすることもできる。もちろん鉱石全てを掘り尽くす可能性もあるが、それを防ぐためにも支道を広げていくことには価値があるのだ。ましてや迷宮は枯渇という言葉が存在しない。『子』の迷宮を増やすことの意義は十分に分かるし、鉱山に置ける支道の崩落や地下水の湧出を考えれば、その危険性も直ぐに理解したのである。

 

「そもそも同じモンスターなのに階層一つ上がっただけで強いとかおかしいだろう? それを可能にしているのは迷宮に恐ろしい力があるからだ。『子』の迷宮が倒されたことで悪影響を受けることでかなり弱体化する。だから段階を経て強くなればお前たちも五十層での修練は、作戦を守る限り問題ないぞ」

 

「そういうことならついて行きますよ! なあみんな!?」

 

「こいつまた調子に乗りやがって。しゃーねえなあ!」

 

「アウグストはこうじゃねえとな。がははは!」

 

 昭信が言葉を連ねるより、お調子者が頷くだけで雰囲気が変わる。

 

もしこれで根回ししていたなら分からないでもないのだが、天然でやってるから才能の一つなのだろう。とはいえ根回しではないからこそ、誰かが引き抜いたらそっちにも乗ってしまう可能性がある。目が離せないというか、そのために手綱を握り直してよい待遇も約束する。なんというか得な男である。

 

「弱体化というのは大きな影響だ。公表すればそれだけ多くの者が楽に強くなろうとやってくるだろう。四十五層までは公表していることもあって相当な数に及ぶだろう。諍いに巻き込まれたり、ありもしない約束には注意しろ。『ガレス伯から聞いていませんかな?』と平然と嘘を吐いて、領主の館においた装備品を持っていくくらいかしかねん。ありもしない借財を口にして、お前たちの装備を取り上げるかもしれん」

 

「仮にもお貴族さまがそんな事はしねえとは思いたいんですが……」

 

「俺たちが協力するんだからこのくらいは当然とか言いかねねえ」

 

「馬鹿な貴族は本当に馬鹿だからなあ」

 

 昭信の言葉にドワーフたちが一斉に嫌な顔をする。

 

彼らは休みの時に迷宮の案内をしながら潜ったりしている。探索者がいないと階層移動もパーティー編成もできないので、お客を連れて戦うという傭兵仕事に相応の需要はあるのだ。それがナーシャ家に所属する騎士団見習いとなれば、強さに保証はあるし色々な人に雇われたことがあるのだろう。そしてその中には、ナーシャ領の様子を見にきた貴族や金持ちもいる訳である。

 

「そこでこれから各種任務に割り当て、休日も屋敷で休むという任務を与えておく。騎士団として全員でまとまって迷宮に赴き、あるいは民を鍛える作業に従事しておけ。少なくとも村では毅然と対応して、何者であれ『ここはナーシャ領です。ナーシャさまにお伺いください』ですませろ。それでなんとかなる。グラングラッドあたりが因縁付けてきたら逃げていい」

 

「そう言ってくださると助かりますぜ。あいつら本当面倒で」

 

「ですが迷宮内でチョッカイ掛けてきたらどうしやす?」

 

「事故は何処にでもあるものだ。だから向こうも警戒するさ」

 

 昭信は第三者に対して毅然とした対応を取ることにした。

 

これまで与えていた自由を一時的に剝奪し、奴隷の労働ではなく騎士としての任務を与えておくことにしたのだ。こういった時に起きるイチャモンというのは、どっちつかずだからこそ起きるのをよく知っていた。そして『迷宮内での諍いは死んでも事故だから、相手も警戒する』と口にしたのである。そこまで言われたらドワーフたちも腹を括るので問題はなくなるだろう。

 

「エレーヌ。確認したいが今のところ、『お客』はどうなっているんだ?」

 

「ガラリアさまから『お願い』されてるのは御三方ですね。地元より弱体化した第一迷宮で木材などを集めたいという方と、騎士団を鍛えたい方、装備品が欲しい方には値を付けた手紙を既に送っていますわ。もちろん聖銀製の装備やスキル付与したものに関しては結晶などで相談する内容ですね」

 

 ここで昭信が念のために確認を取るとガラリアから許可が出たらしい。

 

貴族間の交渉でちゃんと『ガレス伯の要請』を経た貴族は三家。それぞれに対応をしているし、探索者ギルドにも案内の要請をしているという。それ以外は条件が折り合わなかった相手か、さもなければ物見遊山でやってくる連中だ。まともに取り合わなくてよいし、装備を取り上げようとしたら派閥として対抗するので気にしなくてよいという。

 

「それはよかった。さて、話は長々としたがナーシャ領が解放されたらお前たちは晴れて自由の身だ。それだけの報酬や約束するし、ナーシャ家で働く限りは税金の免除や住処の保証をしてくれるとエレーヌは言っている。もちろん稼ぎの保証もな」

 

「ほ、本当ですか!? お嬢様……じゃなくて御領主さま!」

 

「ええ。その通りよ。みんなで頑張りましょうね」

 

「「おお!」」

 

 最後にそう締めくくると一同は熱気に包まれた。

 

騎士団として勤めるかは別にして、契約する料理人や薬草採取士など未来は明るいだろう。奴隷の身から自由となり、これからは領主付きの探索者として活躍できる。興奮するなというのが嘘であろう。ちょっとした宴会になり、肉と酒でその晩は騒ぐのであった。




 という訳でナーシャ領の解放、奴隷身分の解放の話です。

後は迷宮を順番に倒すだけ、そうなったらこの領地は救われるし、奴隷でもなくなります。まあ直ぐには攻略しないし、資材を回収したり、皆を強化したり、領地を見回ったりいろいろある訳ですが。ともあれ「吉日を選んで討伐」「連続開放してナーシャ領は平和に成った」「この地は解放され、奴隷からも解放された」と段階を経てなるでしょう。

●迷宮の弱体化
 奴隷たちにはピンと来ない話なので、鉱山に例えてます。
無限に湧き出る鉱山は凄いけど、支道を先に崩して本道を崩せば崩落するだろ。と言われて納得した感じですね。

今回の話は迷宮攻略が進んだだけですが、どちらかと言えば奴隷たちが今度も従ってくれるように根回ししてる一環になります。
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