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「ああ……本当に水が流れ出てきますね!」
「ここは開拓地に決まった場所だからな。取水の実験もやってる」
昭信はハミトたちを連れて山の一角に来ていた。
掘り起こされた土の中から綺麗な水が流れ出ている。よくみると水が出ている場所からはコンクリートが顔を出しており、凹の形をしたコンクリートに蓋がしてあるのが見えた。
「取水の実験……。何を確認しているんです?」
「長い間に土が崩れたり、水が出過ぎて染み出したりの確認。水を止める場所も用意しているから、ちゃんと制御できるかも確認しないとな。その上でここに溜池を作って、この周囲の畑に水を引くんだ」
ドロップ品である岩を砕いてセメントにして管を作っていた。
鋳物を作るための薬剤で型枠を作り、乾燥させたセメントがコンクリート製品になるのを待ってから埋め込んでいるわけだ。そしてハミトが砂漠で活用する日のためにも昭信は見学に連れてきたというわけだ。
「ハミトも注意しろよ。気付けないと水が染み出している場所を掘り起こされて、破壊してそこに簡易オアシスを作られかねない。水利の問題にもなるがそこに砦を作られたら厄介だ。もしどうしても駄目なら自分たちでそれをやった方がいい」
「なるほど。管理は徹底します。忠義に篤い者は沢山いますので」
「そのくらいでいい。こっちの失敗作はそれまでに改良しておくよ」
昭信は取水実験を管理する場所を示した。
途中に幾つもの蓋を可動式で作り、水がそれ以上進まないようにした場所である。もちろんここだけではいつか漏れ出るだろうが、上流にも同じような物が用意してあるので、合わせれば止めることが出来るという。その上で山小屋なども用意してあり、そこはこの地が開拓地になったら寝床や物置を併設した大き目の小屋を用意して、農園主の三男が独立した家を興して管理を行うという。
「あれ……あの方はガレス伯では?」
「そうだ。あちらはお前と逆で、水の災害を守る護岸として見学されている。……表向きにはな」
その時、ハミトは離れた位置で別のものを見学している女性に気が付いた。
そこは露出した山肌をコンクリートの蓋をかぶせたり、小川の向きをコンクリの壁で誘導している場所であった。同じコンクリート製品でも感心している部分はハミトと逆であり、海辺に領地を持つ彼女は土地の一部をコンクリートで固めた護岸工事の手法を見学するために来たということになっている。まだ彼女が取り入る程ではないので、別の物を見に来たと言うが……。
「やーやーお招きありがとー。そっちの子は君の新しい恋人かな?」
「何でも恋愛に結び付けるのは勘弁してください。知ってるでしょうに」
「えー? この技術を売ってくれるなら、御尻を捧げてもよいって顔してるよ~」
「そういう話にしたくないから言ってるんですよ。なんというか大規模騎士団の中で、目を掛けるためにそうすることもあるのは知ってますがね」
ガラリアはいつものガラリアだった。若干腐っている気もする。
きゃっきゃと笑う様子は昭信とハミトのどちらをからかっているのだろうか? 狼人族になってから衆道にまったく興味が無くなった昭信か(元からそのケはないが)、それとも地下水路の技術に感心しっぱなしのハミトにだろうか。あまり参考にはならなかったので、暇潰しというのが主な理由かもしれない。
「んじゃさ、本題に入ろうよ。ここに呼びつけた理由は何なのさ? その子のお願い聞いてくれって話じゃないよね?」
「そうですね。まずは本題である『第三迷宮の確認方法』を見せましょう」
「第三迷宮の確認方法……ですか? そんなことが可能なのですか?」
「出来る訳ないじゃん。つまり、分かり易くなる方法ってとこかな」
第二迷宮討伐前で、リーチが掛かっているという情報は一部のみに伝えてある。
貴族は即座に行動するなど無理な話だし体面もある。そこで親しい相手やガレス伯経由で御願いされた相手には、第二迷宮討伐前から教えておいて準備をさせているわけだ。早い段階から訪れていれば、あまった第一迷宮討伐解放までの間に修練やら素材集めなども可能だろう。その一環でガラリアにも情報を伝えており『見せたい物がある』と呼んでいたのである。
「ハミト、この筒に片目をあて屋敷の方を見てくれ。その間に俺はこれを書いておく」
「は、はい……え? 何です、これ? 物凄いハッキリ見えます!」
「ほにゃ!? ここからあそこ見えんの!? 貸して貸して~」
「その為の道具ですよ。今の角度を第一角とする……と」
昭信は鞄から板を取り出し、同じく筒と円盤を取り出して置いた。
筒を受け取ったハミトが屋敷の方を眺めると、くっきりと見えた姿に驚いた様子が見える。そしてガラリアまでが驚いて子供のようにはしゃぐ様子を見ながら、昭信は円盤の向きを板の上に書き込んだのである。
「ガレス伯。覗き込む時は太陽の方を見ないでください。それと、猫人族は昼間でも星が見えますよね? 目印にしている星があれば、太陽の方角以外で教えてください」
「ん? 別にいいけど……あそこだよ。だから貸して貸して~」
「ど、どうぞ。スゴイですよ! 物凄くはっきりと見えますから!」
「ふむ。第四角の方か、都合がいいな」
昭信は猫人族の瞳が光に反応するのを知っていた。
だから念のために太陽の方角を見ないようにと釘を刺した上で、昼間に見える星の位置を確認する。そしてはしゃぎまくる二人の反応を横目に、先ほどの板に星の位置を書き込んだのであった。
「別の場所からも見た方が納得できますよね? 今度はこの水を管理している上の取水口に行きましょう。そこからは別の光景が見えますよ」
「いくいく! ボクいっちゃう~」
「ボクも行きます!」
ジョブによる体力補正もあり、かなりの距離を三人はハイペースで登っていった。
途中にある木々を迂回することも気にならないほどで、特にはしゃいでいる二人は移動途中でも様々なものを見ながら愉しんでいる。時には木々であったり山の頂上を眺め、ああでもないこうでもないと悩むことすら愉しんでいるようだ。
「ハミトは先に屋敷を眺めて風呂の位置を教えてくれ。ガレス伯、さっきの星は?」
「そりゃ、あそこのままだけど何してるのかにゃー?」
「ありがとうございます。これですべての条件が整った」
昭信たちは山の中ほどにある取水口にやってきた。
さきと同じような仕掛けを施しているだけではなく、岩・砂利・砂と三段階のフィルターを設置することで汚れができるだけ入らないようにもしていた場所である。そこでも昭信はハミトとガラリアに声を掛け、必要なことを聞き出すと円盤を使って角度を確認。板に記していったのである。
「水に緩やかな勢いをつけるために、この場所は先ほどの場所より高く横に大きく離れた位置にいます。ガレス伯、エマーロ族は船にいますよね?」
「そりゃ航海士だからにゃ~。残りで使う食料とか水を計算してくれるにゃ」
「つまり大工たちが使ってる広さや距離を測る方法は覚えられますよね」
「まあ覚えたいかは別にして可能だと思うにゃ。ボクは勉強きらいだけど」
昭信は角度の隣に、三角測量の計算式を書き込んだ。
元の世界には古代エジプトの時代から存在するものだし、この世界にはカルクが存在するので問題無く使用できる。それどころかカルクのお陰で複雑な計算式であっても、知ってさえいれば当て嵌めるだけで機能できるのだ。
「そして先ほどの場所で計測した屋敷と星の位置を示す数字がこれ、この位置で計測した数字がこれです。俺は商人ではないのですが、カルクがあれば大まかな位置を数字だけで計算できるようになるでしょう。棒や紐を使って長さを固定化してしまえば、何も無い海の上で自分の位置が分かりますよ。もちろん砂漠であっても同じことです」
「え? マ!? ホント!? 本当なのかにゃ!?」
「本当なのでしょうか。砂漠でも使えるとして……」
「ああ。本当だ。問題は何のために使うかだな」
昭信は商人のジョブを覚えてないので即座の計算が出来ない。
日本の学生だったので二桁くらいまでなら時間を掛ければ暗算で、紙があれば五・六桁くらいまではいけるだろう。だがやったこともない三角測量を当てはめて、そこから地図を作ったり角度で表したりなど出来ないのだ。
「問題は何に使うかですが、正確な地図が作れれば海図……海の図や砂漠の図だって作れる。すると海流であるとか流砂であったり湧き水の位置も問題無く測れる。俺はこれらの技術で迷宮が存在するかを測るつもりですが、お二方ならもっと有意義な使い道が出来るでしょう」
「買ったにゃ! ぼうえんきょ? だっけ、それが一番だけど技術も買うにゃ!」
「ぼ、ボクもです! 出来れば円盤の方を御願いします!」
「これはまだ試作品だから完成してから声を掛けますよ」
ここで昭信は真の本題に入った。それは航法概念の売却である。
まだガラスが発達し始めたばかりでレンズが職人の手造りで生産されたばかりだ。当然ながら望遠鏡は存在しないか、一部の技術者が秘匿して自分のためだけに改良しているころだろう。だから同じようなことを考えていたとしても、自分で使う気がないから幾つものジャンルの職人に声を掛け、統合して改良する者などいないだろう。そして複数のジャンルの知識を統合できるならば、何も無い海の上であったり同じように何も無い砂漠でも問題無く移動できる手法を編み出せるのである。
「同じ場所で居住するのを好まないエマーロ族なら似たようなことも出来るでしょう。彼らをそれなりの報酬で雇って、今の内から計測方法を用意しておくといいですよ。俺からの注文ですが、合同で幾つかのダンジョンをアイン・ツヴァイ・ドライと連続開放したいですね。俺は複数チームで迷宮を素早く攻略する方法を編み出したいんです」
「乗ったにゃ! 貴族会議やら何やらで動かせない時じゃなきゃ大丈夫にゃ!」
「御爺さまに諮らなければ分かりませんが問題無いかと。最悪ボクが参加します!」
昭信はギルド神殿が欲しいとは言わなかった。だが結果的にそうなるだろう。
少なくとも前々から話を聞いていたガラリアはそう判断した。ハミトはそこまでではないものの、自分たちの領国の外にある場所や管理出来てない場所なら問題ないと思っている。どちらも海上での移動や砂漠での移動に難儀しており、複雑な海流に岩礁であるとか流砂に湧き水を簡単に計測できるなら、多少の出費などは軽い物だと理解していた。ガラリアに至っては自分の騎士団では無く、言う事を聞かせられる配下貴族でもよいのだから猶更である。
「そうですね。貴族になりたい有望な者もいるでしょうし、四つ以上の迷宮を攻略。俺の取り分は二つまでとしましょうか。その上でガレス伯の領地は監視されてるでしょうし、ペルマスクのあたりからハミトの氏族が支配するエリアを順次計測していく。そのデータは我々で共有するというのはいかがでしょうか?」
「四つ攻略で二つ、貴族志望を入れてOKね。急がないならそれで問題ないにゃ」
「そうですね……その条件なら、こちらで所有するギルド神殿を先渡しできるかと」
「あ! ズルイにゃ! ボクも同じ事できるにゃ!」
こんな感じで昭信は利害を調整した。
受け取るものはハミトの方が多いが、有望な新人に実績を与えてギルド神殿の一つを与えてよいならガラリアにも利が大きい。互いに情報を交換し合って航法を完成させ、何だったら望遠鏡や円盤の技術も知恵を出し合って改良できるだろう。昭信が用意できるのはスカウト活動でコンパス片手に測量して夜間移動した経験だけである。地図とコンパスがあれば移動できるが、そのための知識は存在しないので誰かに任せなければ意味がないのだ(ついでにいうとそこまでする利益もない)。
(第三迷宮は存在しないみたいだし、これでギルド神殿の在庫は四つかな? 一つは暗殺者で手持ち確定、一つは薬草採取士を設置することにしている。三つ目は商人ギルドあたりか……もう一つの使い道が悩ましいところだな。皮算用になるかもしれんし、ゆっくり考えるか)
昭信は交渉が無事に終わって安堵した。
最初にハミトに話を聞いて『これならいける!』と思ったのだ。その狙いが図に当たり、互いの利益を再調整してそれぞれがwin-win-winの構図に持ち込むことが出来た。昭信は人格者でこそないがゲーマーであり体育会系の男である。何かを成し遂げて図にあたれば嬉しいし、その成果は次の目標のために消費するリソースとして捉えていたのである。
●リザルト
アキノブ・タケダ。狼人族。♂。24歳。英雄60レベル。
活性枠。入替枠。不要枠。
英雄60/百獣王54/勇者49/剣聖36/悪狼王30/開祖21
ソードマスター50/剣豪50/探索者45/剣術指南役50/料理人42/神官45/薬草採取士48
村人5/錬金術師1/僧侶1/魔法使い1/戦士30/賞金稼ぎ1/騎士1/剣士50/獣戦士51
更新順(古 → 新)
キャラクター再設定、鑑定、獲得経験値二十倍。詠唱省略。68p
6thジョブ。必要経験値十分の一。62p。余りは結晶>>MP>クリティカルなど。
ルミ。ドワーフ。♀。17歳。隻眼24レベル。
シモーヌ・ナーシャ。狼人族。♀。23歳。聖騎士29レベル。
グレース。人族。♀。22歳。刺客31レベル。
エレーヌ。狼人族。♀。魔法使い51レベル + 魔導士1レベル(暫く秘密予定)。
という訳で以前からの話の集大成ですね。
●地図などない旅へ
地下水路を作って開拓地の準備をして、その過程で望遠鏡をお披露目。
コンパスもどき(磁石がないけど、猫人族による星の観察で代用)を使い
何も無い場所で位置を計測して、地図を作ったり航路を割り出す技術概念。
それらを販売する感じですね。
●ギルド神殿の使い道
使い道が多いので困るところです。まあ 利益用>転職用 なのは仕方がないです。そういう訳で、「ギルドを設置したら、設置主に純利益の一部が還元される」と前に規定した内容で考慮します。でないと転職用ばかりになりますからね。
1:薬草採取士ギルド(確実に一番儲かる)
2:暗殺者ギルド(強くない騎士団を育てられる。他家を招ける)
3:商業ギルド(新町が出来上がり、経営が軌道に乗れば儲かる)
4:未定
こんなところですかね。農夫ギルドがJAみたいに農夫に色々売るとかで
利益を吸い上げたり、一律で購入して商人に売るとかできるならば農夫ギルドかな? というところ。
●次回
いよいよ根回し終わって第二迷宮攻略。
ボス戦が終わったら、騎士団とか他家のお客さまとか鍛える感じになるでしょう。