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「既にこの迷宮で戦われていた方は第一迷宮に移られています」
「よし! これより迷宮ボスを、この第二迷宮を討伐する! 抜かるなよ!」
「「はい!!」」
エレーヌが縁故のあるパーティーがいないことを告げると昭信は号令をかけた。
どうせ討伐できると分かっているのだ、時間を無駄にすることは無い。外陣メンバーも既に第一迷宮で戦っているはずだ。第二迷宮討伐後にどの程度、難易度が下がったかの感想も聞かせてもらうことになっている。後は迷宮ボスを討伐して昭信たちも移動するだけだ。
「以前戦ったホースマーメイドだが油断するな! グスタフ!」
「心得ておりますぞ、主殿! 皆、我が大盾の後ろへ!」
「「了解!」」
第二迷宮の五十一層ボスはホースマーメイド。
髪の毛(触手?)が無数のホースになった人魚で、この世界にやってきた地球の人間が見たらゴルゴーンと勘違いするかもしれない。四十五層から五十五層までのボスは能力が全体的に高く、その上で自分の得意分野が強い相手であった。ホースマーメイドの時点で魔法陣を使わない特殊能力を持ち、魔法陣自体の発生も速い高速詠唱タイプであった。その上位互換と考えて、今回はダマスカス鋼製の大盾を持ち込んでいる。
『……っ!』
こちらの全員が入り込んだ瞬間に、即座に放たれる特殊攻撃。
それは道行く者を全て巻き込む水の災いタイダルウェーブ! 寄せては返す大波が幾つも叩きつけられ、受ければダメージどころか動くこともままなるまい。だがしかし!
「……保ちましたぞ!」
「装備破壊無し! 御屋形さま! やれます!」
「それだけ判れば十分だ、そろそろ行くぞ!」
「「はい!」」
大盾を構えるグスタフは無事、出発前に身に着けたミサンガも問題ない。
少なくとも出の速い攻撃に装備破壊が存在しないとシモーヌは告げ、昭信たちが一斉に飛び出して攻勢に移る。真っ先に飛び出す昭信とそれに続くようにシモーヌ達もそれぞれの配置に付いていた。
『!』
「魔法陣! どちらか知らんが、絶対にやらせるな!」
「はい、御屋形さま!」
「はい、マスター!」
敵は即座に次の手を打ち魔法陣を展開させた。
高速発動する筈だったが、移動力増強で迫る昭信とシモーヌに、やや遅れて到着するルミ。三人の武器に付与された詠唱中断の効果を免れることはできない。少なくともこの段階の迷宮ボスでは、スキル効果を無効化するような能力はないのだろう。直撃した瞬間に魔法陣は掻き消え、振り回す爪も苦し紛れでは大したことは無かった。
「旦那さま。眠りと毒が入りました」
「解除する可能性がある、構わず攻撃し続けろ」
「「はい!」」
グレースの報告に頷きつつも昭信はスキルを使わずに攻め立て続けた。
五十層ならば迷宮ボスでも苦戦しないことは原作を読んで分かっている。それでも大盾を用意したのは念のためだし、今スキルなしで攻撃しているのもデータを集めるためであった。第一迷宮で戦った時は四十八層、階層的にはそう変わらない筈だ。ならば今感じている強さは、全て迷宮ボスとしての感触であると比較するためである。第一迷宮に移動してもう一度戦えば、弱体化でどの程度の差がつくかも更に分かるだろう。
「眼を閉ざして行く風に、仇はらえる武威を乗せ、噴土。サンドストーム!」
「このまま奴を削り続けろ! 大振りでは無く小刻みにだ!」
「やっています御屋形さま! ですが思ったよりも速い!」
「囲みを抜けて……これが迷宮ボスの力なのですか!?」
データ確認と安全な位置確保を兼ねてエレーヌは遅れて詠唱。
それに続いて昭信たちが二手目の攻撃順に入った。その間にホースマーメイドは暴れ続け、盾を持たないルミがいる位置へ抜けるようにして突破を図ろうとしていた。恐ろしいのはそれだけではなく、即座に出の速い特殊攻撃を放とうとしているようだ。
「お嬢さま!」
「問題ありません!」
「こちらは任せあれ!」
「ルミは下がれ!」
シモーヌの言葉にエレーヌとグスタフが声を返す。
こういう時のために一度目は攻撃せずに移動していたのだ。敵の特殊攻撃は近距離に向けて放たれ、ルミを含めた三人が巻き込まれる。だが水耐性と魔法ダメージ削減を全員が付けていることもあり、それほどのダメージは負っていなかった。ルミが下がりつつあるのも負傷では無く、槍の間合いを確保するためだ。
「申し訳ありません、マスター。体勢不十分な割りに恐ろしい力でした」
「お前が無事ならばそれでいい。しかし、これで特殊能力や魔法型とはな」
「肉弾戦を得意とするタイプなら包囲を突破されかねませんね、御屋形さま」
階層ボスは二体と雑魚だが、迷宮ボスは一体しかいない。
それは決して対処し易い相手というわけではないのだ。全体的な強さが増しており、能力値も特殊能力の解放速度もまったく違う。ただ移動するだけの歩幅や体全体の体幹があれば、簡単に人押しのけることもできる。膂力があるから手でかき分けながら移動すれば、それが攻撃であり同時に移動補助になってしまうわけだ。もし警戒してエレーヌたちが位置を変えていなければ巻き込まれただろうし、スキル付きの装備で対策しなければ牽制用の特殊能力だけでかなりのダメージを負ってしまっただろう。
「だが同時に限界も感じる。一体だけだから効きさえすれば状態異常で止めることが出来る。先んじて攻撃し続ければそれなりのペースで倒すことが出来る。受けに回って持久戦を仕掛ければ最悪の結果に繋がるだろうがな」
「そうですね御屋形さま。こいつはお嬢さまを狙ってません。そうすべきなのに」
「ああ。奴は相手の要を分かっていない。痛みだけなら同じとしか考えていない」
要するに迷宮ボスもまた、強いモンスターでしかないのだ。
武器種別の差と僅かな戸惑いから『突破可能だ』と判断してルミの下へ体を捻じ込ませた。反射的な知性は高いし、それを可能とする能力を備えている。そこから即時発動可能な特殊能力を持ち、『効率的に敵対者を巻き込んで攻撃』も出来た。だがそれだけだった。安全に弱点を突く攻撃が可能で、逆に脆さを持つエレーヌを狙わなかったのだ。グスタフがガードした可能性は高いが、それを除いても近くに居たルミと一番ダメージを与えていた昭信、巻き込む形でシモーヌと耐えることが出来る相手を狙ってしまったのである。つまり今の攻防で、敵に利することは何一つない。
「旦那さま。麻痺と眠りが入りました」
「御苦労。だが作戦はそのまま維持、攻撃し続けろ」
「「はい!」」
危険だと判断すれば即時に殺すつもりだったが、昭信は計測を続けた。
この状態ならば装備が破壊されることも無ければ危険なダメージを負うこともない。念のために7thジョブにして神官を入れてあるが、全体手当を使うかどうか戸惑う程であった。グレースが状態異常を与えた以上はおそらくその必要も無いだろう(とはいえジョブ変更を今は付けてないので、変更はできないが)。
「旦那さま。麻痺を解除、動き出します。代わりに毒が」
「やはり解除したな! 見たいものは見た、魔法を見る必要はない! 倒すぞ!」
「「はい!」」
暫くして何手目かに迷宮ボスは麻痺を解除した。
高い耐性があるからそもそも同時に効くことが少ないし、状態異常を解除する能力を有しているのだから当然ではある。焦点は昭信が大技を使わずに、通常攻撃と弱点への魔法攻撃のみで戦った場合、状態異常が早い段階で解除されるかどうかであった。結果としては解除するが決して早くはないというところだ。少なくともこの階層では迷宮ボスといえど状態解除の確率はそう高くないのだろう。
(原作で石化したら後は楽勝だったという理由も分かるな。ロクサーヌがいるから安定して攻撃し続けられるし、状態異常耐性ダウンを掛ければ石化か麻痺がどこかで通る。この階層では原作の流れが最適解だな。問題は状態異常を解除し易くなったり、運悪く直ぐに解除される場合だろう)
昭信はホースマーメイドにトドメを刺しながら結論をまとめた。
リポストが通じるかを試し、返す刀でもう一撃。更に半歩踏み込んで態勢を整え、敵が抜けようとする場所に回り込んで再びリポスト。封殺を心がけながら、仲間たちと共に攻撃を続けて打ち倒したのである。
「旦那さま、これを」
「ギルド神殿か、ご苦労。ルミ、そっちはどうだ?」
「いつもと同じです。レアドロップである『人魚の雫』が落ちましたが、『人魚の涙』の方と違ってこれは出易い方のレアですので、こんなものかと」
グレースがギルド神殿を拾ってくると昭信はしげしげと眺めた。
原作で読んだ通り奇妙な外見ではあるが見慣れてしまえばそう不思議でもない。保湿液としてそれなりに売れるドロップ品をついでのように手に入れ、勝利にあっけなさを感じたのである。
「エレーヌ。これを渡しておこう、凱旋の途中で領民たちに見せてやるといい」
「そ、そうですね。みんな喜ぶと思います!」
「「……」」
昭信がギルド神殿を改めてエレーヌに渡した。
彼女の方はどちらかといえば放心しており、ギルド神殿を受け取ることでようやく迷宮を攻略した実感が得られたようだ。二人が見つめ合い、微笑む様子を他の者たちは迷宮が収縮するまでの間、暫しそっとしておいたという。
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「皆さん! 私たちは二つめの迷宮を攻略しました!」
「「おお……」」
森に面した道に存在していた第二迷宮。その帰りを領民が迎えていた。
公開している範囲で戦っていた探索者たちが外に出て触れて回ったり、弱体化した筈の第一迷宮へと向かったことで知っていたのだろう。村の有力者たちはそろそろであると聞いていたこともあり、彼らに近い筋が常に確認していたことも影響しているかもしれない。
「これより八日後、領内をくまなく巡って新しい迷宮が無いかを確認します。何も無ければ十日後には、存在したとしても二十日後には一つ目の迷宮も攻略するでしょう」
「とうとうこの日が……」
「先代もお喜びでしょう」
以前から告知していたことと、迷宮で鍛えたり賦役での代納により不安は少ない。
これが迷宮だけで食っていた領地であれば、存在しなくなることに不安を覚え、いつまで経過しても討伐されないことに不安を覚える矛盾を抱えることだろう。領民たちの誰も不安を覚えないように誘導できたことで、エレーヌが統治する第一歩は成功といえよう。
「この領地が解放されることことになる記念すべき日々であり、仮に第三の迷宮が現れた時には皆さんに協力していただくことになるでしょう。そこで結晶を仲買人に託すのと同じ価格で買い上げると同時に、この領地での宿泊費や食事その他にナーシャ家から補助を出します。常識の範囲で支払いますので、値引きした売り主は後で申し出てください」
「太っ腹だ!! 今日は呑むぞ!」
「結晶持ってねえんだよなあ」
本来ならば無料にしたいところだが、そんな金は何処にもない。
そこで昭信の入れ知恵で補助金を出すことにした。常識の範囲で支払うから安くしてやってくれとしておけば、『うちは全額無償にしたから半分だけでもくれ』とは言わないだろう。酒なら最初の一杯だけ無料で、追加の酒や食い物はそれなりに安くする程度といったところだ。後は料理人なり家主の気分次第。自分も迷宮で戦っているからとか、あるいは賦役で安く上げることにしているからなど、それぞれの気分で値引きがされるに違いない。
「十日ごと……ですか? 大丈夫なんですよね、マスター?」
「最初の十日は貴族仲間を納得させる時間だな。次の十日は少し妖しいが、計測時間の更新を兼ねれば悪くはないな。まあそれまでに俺たちも他所の迷宮で修練を積めば問題無いだろう」
エレーヌとシモーヌが旧知の者たちと話し始めたので、ルミが尋ねてきた。
昭信としては最初の十日で終わらせる気なので、どちらかと言えば貴族たちを説得させるためだという。次の十日は第三迷宮が見つかった場合、可能な限り弱体期間を階層の後半に繋げるための措置で、今までの記録的には存在しないので『実力で倒す為の修行期間』であるという。
「他の迷宮で先に練習するという案ですよね。六十層以内で見つかったのですか?」
「いや。無かったので六十層がシルバーサイクロプス、六十一層がレムゴーレムという層で鍛えてからクラータルに行く。あそこは六十二層に居た筈だから、他で修行してから挑める。聖銀やオリハルコンの素材を集めながら強くなることにしよう」
先に同じモンスターと戦う案は以前から出ていた。
だが六十層までに第一迷宮と同じボスが出る迷宮が存在してないのだ。ボスタウロスまでは同じであっても、五十五層以降の階層が存在してないというパターンが多かったからである。そして昭信は第二迷宮で戦った感触を元に、今の段階ならば練習戦闘は不要であると考えていた。ゆえに時間を掛け過ぎて弱体化が解除されてしまった場合に、練習戦闘に行くことにしたのだ。
「ひとまず第一迷宮でホースマーメイドとの比較実験だな。弱くなっていれば問題ないし、大して変わりないならやはり修業は必要になる。後は可能ならば三十七層ボスのレオナールと、四十五層ボスのピークホッグとも戦ってみた方がいいかな。俺たちはともかく、外陣メンバーの修行に関わってくるからな」
「そうですね。まずは安全策でいきましょうか」
こうして昭信たちは第二迷宮を討伐し、迷宮というよりは貴族たちのスケジュールと戦うことになった。そして必要ならば内陣・外陣に関わらず、自分たちを鍛えてから第一迷宮の迷宮ボスであるミノタウルスと戦うことにしたのである。
という訳で第二迷宮との戦いも終わり、後は第一迷宮を残すのみです。
●ホースマーメイド
頭が無数のホースになった人魚。第二迷宮の五十一層ボスで迷宮ボス。
どうみても特殊能力と魔法特化型。でも迷宮ボスになってるからフィジカルも凄いんです。状態異常耐性が60%くらいあって、状態異常解除もそれなりなので強敵です。しかし、残念なことに主人公の敵ではないので、データを計測するための実験台になってしまいました。
・タイダルウェーブ(発生が早い特殊能力・移動阻害)
・メイルシュトローム(魔法陣を使う遅い特殊能力。渦巻き型)
・初級攻撃魔法・水・風(魔法陣展開型。速度は普通)
・フィジカル強化
・魔法陣展開速度強化
だいたいこういう感じの敵ですね。
正直な話、装備破壊ない時点で詰んでるというか、対策済みパーティーに勝てる能力はしてません。もし主人公がオーバーホエルミング・オーバードライビング・大技連打をしたら、何もできずに死亡確認されたでしょう。