異世界迷宮でロマンスを【完】   作:ノイラーテム

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ナーシャ領の解放

「泣いても笑ってもこれが最後! 必ずみんなで帰りましょう!」

 

「新しい盾は持ったな? 使い捨てでいいから無理はするなよ」

 

「はい、お嬢さま! 御館さま! 心して掛かります」

 

「こちらも問題はありません、マスター!」

 

 エレーヌの激励に昭信たちが応じ、シモーヌやルミが揃いの盾を掲げた。

 

この日のために用意したダマスカス鋼製の盾であり、あえて色を赤く色を塗っている。付与しているスキルは全て詠唱遅延で破壊されても惜しくない上に、魔法陣を展開すれば動きを止めれるように工夫していた。そして赤い色は闘牛士をイメージしているわけではなく……色彩の方に注目させて、人間の差を誤魔化すためである。そしてシモーヌは以前の武器に持ち替え、ミサンガからガーターベルトに変えて身代わりとダメージ逓増付きのアクセサリーに。ルミも同様のガーターベルトに付け替え、ダマスカス鋼製の剣へ詠唱中断と睡眠を付けた物を新調している。

 

「グスタフ、エレーヌは任せたぞ」

 

「心得ております。予備の盾も用意してありますでな!」

 

「これにて準備は終了。みなさん……いざ、進軍しましょう!」

 

「「はい!」」

 

 この日はグスタフもダマスカス鋼製の盾を用意していた。

 

予備の盾を紐でぶら下げ、それも含めて赤く塗装してある。イザとなったら盾を掲げて前に出ることで、『赤い盾を持った奴が正面に居る』と敵に錯覚させる作戦であった。やはりそれらの盾にも詠唱遅延が付与されており、殴ってもいいし相手が体当たりしてきても発動するかもしれない。

 

『ブモ、ブモ、ブモオオ!!』

 

 そして現れたのは迷宮ボスであるミノタウルスだ。

 

元の世界ではミケーネ文明がギリシャを支配したことに恨みを覚えて作られた伝承だと言うが、この世界にそんな物はない。ミノタのウルスではなく、ミノに似たタウルスであろう(ウルスは一族・眷属でタウルスは雄牛)。そのパワフルとタフネスは見ただけで分かる程であった。

 

(オーバードライビング、オーバーホエルミング)

 

 この日の昭信は第二迷宮と違って本気であった。

 

最初から切り札を切っているし、7thジョブにもしているが神官を付けるのでは無く剣術指南役を戻している。その上で開祖の『  』はシャープエッジに指定してあり、剣速と装甲貫通のパッシブスキルを二重にした本気モードである。オーバードライビングはスキルを強化する効果もあるので、その剣速は凄まじい領域にある。

 

「来い、デカブツ! 私が相手だ!」

 

『モ、モッ、モ! ブモー!』

 

(来たな)

 

 シモーヌが挑発したためか、敵は真っ直ぐ彼女を目指している。

 

その時には昭信は動き出しており、斜めに回り込む『借地』という『縮地』の派生技に移行していた。意識の外側から回り込む剣術の対人技であるが、ここでは十分に機能している。

 

「盾にヒビが!? 物理ダメージを削減しているのに! だがしかし!」

 

「装備破壊効果です! おそらく突撃(チャージ)には破壊効果があります!」

 

(スキルは失われたか? だが壊れ切ってないならまだ使える。そして勝機は掴んだ! スライス、バーストレイヴ! そして!)

 

 シモーヌは体勢を低く構えて上に攻撃を受け流したが盾にヒビが入った。

 

僅か一撃で装備が機能しなくなり付与された詠唱遅延は失われた可能性が高い。だがただの板切れになっても、まだ通常攻撃を受け止めるには十分な強度はあるようだ。もう一撃くらいは保つだろうし、強権の鋼鉄剣もあれば時間稼ぎには問題ない。この間で昭信は既に一撃目を浴びせており、移動しながら高速で追撃! 三撃目の為に態勢を整えすらしていた。

 

「……墳水! ウォーターストーム!」

 

「旦那さま、眠りが入りました……いえ、解除されたようです」

 

「問題無い! 後少しだ!」

 

「聞いたな! 保たせろ!」

 

 エレ-ヌ放ったウォーターストームが炸裂してミノタウルスの周囲を包む。

 

コストを無視して範囲攻撃を放っているため、多少暴れようがその効果範囲から逃れることなど出来ない。眠りの状態異常が入った瞬間に解除するのは運がなかったと言えるかもしれない。だが、既に勝負は決していた。昭信は第三撃として再びスライスを行使。意識よりも先に体が動いて四撃目を浴びせつつ、そこで改めてバーストレイヴを叩き込んだのである!

 

「まるで流星……あの時のような……三、四?」

 

「それ以上の速度です! 五発目!」

 

「正面を交代する暇もありませんでしたね」

 

「これで終わりだ!」

 

 オーバードライビングもオーバーホエルミングも既に効果が切れている。

 

だがシャープエッジの基本効果だけでも十分に速い。そして何十回・何百回と剣を振るい、体が覚えた動きは剣理を忘れていなかった。意識が追いつかずに大技を載せることが出来ずとも、剣を制御し続けて五回目の斬撃を以てミノタウルスを葬ったのである。

 

「旦那さま、これを」

 

「御苦労。二つ目のギルド神殿だな。エレーヌ、感想はどうだ?」

 

「驚いてますけど二回目ですので。それ以上に嬉しくてたまりません」

 

 ギルド神殿を回収したグレースから受け取り、そのままエレーヌへ。

 

この流れは第二迷宮と同じだが、エレーヌが微笑みながら涙ぐんでいるのが大きな違いだった。驚くようなことは無いが、ナーシャ領の迷宮を完全討伐して父親の仇をとることに成功したからだ。そして正式に男爵となってこの領地を継承することに何の問題もないのだと証明する事にもつながる。

 

「おめでとうございます、お嬢さま! 結婚式と就任式が楽しみですね!」

 

「そ、そうね。……今から緊張してきちゃったわ」

 

「大丈夫ですよ。痛いのは直ぐに終わりますので」

 

「も~そういうことを言ってるんじゃないの」

 

 シモーヌとエレーヌが泣き笑いしながら抱き合った。

 

従妹である二人はこの領地のために頑張ってきた。親世代が全滅して頼る者がいなくなり、心細い中で何とかしようと寄り親を頼ろうとして……その中で昭信と出逢って流れが変わった。そこから前向きに生きてようやく成し遂げた快挙である。僅か一年で成し遂げるとは思ってもみなかったのだろう。

 

「エレーヌ、もう一つ朗報がある。迷宮ボスと立て続けに戦ったのが良かったのか、あるいはボス相手に繰り返した成果なのか、魔道士になれるようだぞ」

 

「本当なのですか、アキノブさま!?」

 

「おめでとうございます。お嬢さま!」

 

 アキノブは黙っていた条件達成に告げて教えることにした。

 

あまりにも早いと不自然だが、既に二年目の夏である。ボス戦を何度も繰り返しており、迷宮ボスを二体も倒したとなれば、身内にくらい公表しても良いと思ったのだ。世間的に公表するのはもう少し先になるだろうけれど、これからの励みになるだろう。

 

「みなさん、ナーシャ領の完全解放に成功しました!」

 

「「おめでとうございます、領主さま!」」

 

 第一迷宮は村の中にあることもあって領民たちが駆けつけていた。

 

彼らに向けてギルド神殿を見せた後で宣誓し、領民たちもまた祝福を自分たちの領主に送っている。新しい町はまだ建設に着手もしていないが、これから余裕の範囲でゆっくりと行われるだろう。町割りの計画は既に始まっており、まずは街道沿いの宿場が温泉付きで開かれることになっていた。既に直営である高級装備品などのアンテナショップは用意されているので、いずれ街道を渡る人々が集っていくだろう。

 

「晴れてナーシャ男爵を名乗ることができます。王宮からは既に許可を得ておりましたが、この日を待っておりました」

 

「「ナーシャ男爵、万歳!」」

 

 有力者に根回ししていたこともあり、この話は既に広まっていた。

 

エレーヌの告知と共に祝福することばが広がっていく。そしてこの先に期待しているものも多いであろう。

 

「この二つを祝って、これより三日ほど料理と酒の代金をナーシャ家で持ちます。みんなでお祝いしましょう!」

 

「やったー! 飲むぞー!」

 

「ガハハ!」

 

 第二迷宮の時は全ての料金を十日間ほど『値引き』していた。

 

だが今回の発表では三日ほど『料理と酒』を完全無料化する。探索者たちは宿を引き払って出ていく者も多く、また薬なども直ぐには必要なくなるからである。彼らに対する補助が必要無くなり、また日にちを絞ったことで予算に問題が無くなったのである。

 

「これまでご苦労だった。ずっと共にいたために稼げなかったお前たちは、本人が希望しないグレースを除いて解放しよう。グレースも備忘録として適当な金額を算定するから、気分が変わったら自分を買い取れるようにしておく」

 

「ありがとうございます、主殿。いえ、アキノブさま」

 

「意思を汲んでくださり感謝いたします、旦那さま」

 

「……」

 

 グスタフとグレースに関してはスムーズに話が進んだ。

 

二人はナーシャ家に仕えることになるが、グスタフは村人と同じ家隷階級として自由民に近い立場を目指し、グレースは奴隷ではあるがいつでも解放可能な状態にしておく。これは二人の希望と役職的なものによる。グスタフは執事になるので奴隷のままでは問題があるし、逆に奴隷出身で行くあての無いグレースは解放されても戸惑うからだ。そして一番問題になるのはルミの立場である。

 

「ルミ、これからは正当な報酬を支払うことにする。その上で提案があるんだが、家を興してみないか?」

 

「い、家を興す……ですか? ベルク家を再興するのではなくてですか?」

 

「それが可能なら、それで構わんぞ。ただ先例を聞いたことがなくてな」

 

「先例が……ない……」

 

 昭信の語ったことにルミは驚いたようだった。

 

家を興すということにもだが、再興することが出来ないという話にも驚いているようである。おそらくは金も無ければ地位もない状態では不可能と考えるのは妥当で、思考は『自力では無理』という段階で止まり、それ以上先を考えた事は無いのだろう。だから『新しい家を興す』という案も無ければ、『本当に家が再興可能なのか?』を考えたこともないのだろう。

 

「貴族で軽度の粛清……追放が行われる時に、継承権を失わせるために奴隷にする処理がある。継承順位を手早く弄ったり、力を付けて継承者に返り咲くのを防ぐのに簡単な方法だからだ。だがそういう方法が存在するということは、おそらくギルド神殿で処理するから、新しく登録することは可能でも、削った『籍』を復活させる方法がないのだろう」

 

「新しく追加することは可能ても、復活させるのは無理……ですか」

 

「あくまで俺の知識の範囲であって、実は可能なのかもしれんがな」

 

「いえ……理解はできます。書類ではなくギルド神殿なら猶更です」

 

 昭信は原作でのセルマー伯爵家の処置を思い出していた。

 

ハルツ公らが苦肉の策として利用した以上は籍を戻すのは難しいはずだ。カサンドラおばばが目を掛けていたことから一族内での権力を持つことは可能でも、公式的な地位復活は難しいのだろう。そこで昭信が思いついた一発逆転の手段は、家を新しく興すことだった。

 

「そこで俺が思いついた方法としてはナーシャ家傘下の騎士家として登録するか、ルミのチームが迷宮を攻略して新しい貴族家となることだな。あるいは婚家として俺の家を登録して、その継承者としてルミを登録する方法でも構わない。もちろんどれを選ぼうが、あるいはそのままでも断ってくれても構わないぞ」

 

「……その、いきなりの話で考えがまとまりません」

 

「この案が可能か確認していないし、急がんよ」

 

「そうしてくださると幸いです」

 

 そこで昭信は新しい家を興す方法をいくつか考えた。

 

これまでもパーティーメンバーが貴族でないにせよ、準拠して自由民として家を興した例はあるはずだ。でなければ自由民の家を興す方法が、貴族の子弟が分家を興す以外になくなるので農家の存在などがおかしくなるのだ。そして思いついた方法が駄目だった場合に、こちらの世界に転移しても残っていた自分の家名をルミに与える方法を思いついた。婚家として名前が残る以上、その名前を利用できるはずだからだ。

 

「マスター。いえ、アキノブさま。どうしてこんなことを思いつかれたのですか?」

 

「俺にとってルミは一番親しく相談できるありがたい存在だからな。そのくらいは尽力すべきだろう? 恋人というほど甘くはないかもしれんが、下手をすると親兄弟より親しい相手だ。故郷を出て戻る気はないが、あちらに援助する気が起きなくてもルミには何でもしてやりたい。それはルミがいなければ、今の俺がいないからだ」

 

「あ、ありがとうございます。そこまで思ってくださり嬉しいですが、複雑です」

 

「ここで愛していると言うのもおかしくないか? ある種の愛ではあるが」

 

「そうですが、そこは愛で押し切る方が嬉しいですけどね」

 

 昭信はデリカシーはあっても空気は読めないので正直に話した。

 

ここで誤魔化すような性格はしていないし、これまで熱烈な愛を語った覚えも無ければ、体が小さいルミに強烈な情欲を覚えた覚えもない。相棒として頼もしいとか、親しく話し合って相談するのに一番ありがたい相手だ。友人以上恋人未満といえば少し足りない気がするし、家族と疎遠だった昭信から見れば家族以上というのも間違ってはいない。

 

「それになんだ。ルミに愛想をつかされて出て行かれるよりも、何でもする方が気分が楽だしな。迷宮を攻略するルミのチームを作る過程を考えて、それがナーシャ家の寄り子貴族として登録する必要があったとして、騎士団を用意するのも素材を用意するのも苦労にはならん。あとはケジメの問題というか……言葉にするのは難しいな」

 

「そうですね。言葉にならない……不思議とそんな気もします。確かに難しいです」

 

「後はそうだな、単純にカラバ侯爵が息子の嫁にしてもいいと言われても困るだろ」

 

「それはちっとも信用できないやつじゃないですか。監禁生活間違いないですよ」

 

 親しい人がいて、困っていたら全力を出すのは当たり前だろう?

 

昭信からしてみればそれだけの話に過ぎない。相手の迷惑になることもあるので押し付けはしないし、口に出せば出すほど胡散臭くなることがあるのも知っていた。それを承知で押し切る熱血漢でもない。引き抜かれても困るが、大切な相手を拘束したくないというのも正直な気持ちであった。この辺りは元の世界の常識に縛られた昭信がおかしいのであって、この世界の人間であれば妾として囲い、贅沢をさせて済ませている可能性もあった。仮に他の貴族が引き抜く場合も、そんなところであろう。ドワーフだったら子供が産めるというのは大きな違いではあるのだが……ではそういう相手がいないというのも微妙な話になる原因なのだろう。

 

「あら、結婚前からもう浮気の話ですか? アキノブさま」

 

「ふふふ。エレーヌさま、そこまでの話ではないですよ。ね? アキノブさま」

 

「そうだな。今のところは相手にされてない。まあ、エレーヌに嫉妬されたくないが、同時に呆れられたくもないというところでな」

 

 今回の件はエレーヌも同様の思いを抱いており、実は相談もしていた。

 

ナーシャ家がなんとかなったのは昭信の影響が大であるが、ルミがいなくては成り立たなかったのも確かだ。それにそもそもエレーヌは親しい友人であるルミの一家が鉱山を手放し、自ら奴隷になったことにも納得がいっていない。もし両親が無事であれば金を貸すなり、あるいは薬の材料を採りにいっていたかもしれない。もしナーシャ家が揺らいでいなければ、もっと資金があれば貸し出すことも出来たかもしれない。あるいは昭信がもっと早くやって来ていれば、間違いなく婚約者として何とかしていただろう。だからこそ、ルミに一家を興させるとか、どれも無理ならばアキノブの家を継承させるという話を相談されて賛成していたのだ。

 

「エレーヌ。俺は君に結婚してほしいと思っているが、ルミの家を興す方法を調べ尽くしてからで構わないか?」

 

「それはこちらのセリフです。たとえ宮廷に詰問されてでも貫きましょう」

 

「お二人とも。私を出汁に盛り上がらないでください。そこまでではないです」

 

 昭信とエレーヌが良い雰囲気になって、挟まれたルミは苦笑していた。

 

このままキスをして二人でベタベタされても気恥ずかしいからだ。そこにはルミが『家を興す』ということや『家族を再び作る』ということを真剣に考えて言いたかったこともあるだろう。だがこれからは時間が幾らでもあるし、そのための力も存在する。それをみんなで協力し合っていこう、そう決心する一同であったという。

 

●リザルト

 

アキノブ・タケダ。狼人族。♂。24歳。英雄61レベル。

 

 活性枠。入替枠。不要枠。

 

英雄61/百獣王55/勇者50/剣聖38/悪狼王32/開祖24

 

ソードマスター50/剣豪50/探索者45/料理人45/神官47/薬草採取士49/剣術指南役50

 

村人5/錬金術師1/僧侶1/魔法使い1/戦士30/賞金稼ぎ1/騎士1/剣士50/獣戦士51

 

 更新順(古 → 新)

 

キャラクター再設定、鑑定、獲得経験値二十倍。詠唱省略。68p

 

6thジョブ。必要経験値十分の一。62p。余りは結晶>>MP>クリティカルなど。

 

ルミ。ドワーフ。♀。17歳。隻眼26レベル。

 

シモーヌ・ナーシャ。狼人族。♀。23歳。聖騎士31レベル。

 

グレース。人族。♀。22歳。刺客33レベル。

 

エレーヌ。狼人族。♀。魔法使い52レベル + 魔導士1レベル




 という訳でナーシャ領の開放と、一応の最終回です。

後は備忘録というか、デザイナーズノートとして、オリジナルで作ったデータとか、迷宮とかその辺を一本。要望があれば後日譚とかですかね? 最後の方は「異世界迷宮でハーレムを」というより、「ウイザードリー」の漫画版みたいなノリでしたが。

●家を興せても、再興する手段がない
 原作のルティナを見る限り、元には戻せないのでしょうね。
ただ新しい自由民登録や、貴族には成れると思うので、その為に力を貸す。
それでも駄目ならば、システム的に残ってるタケダ家の名前を与える感じですね。この辺は元の世界の家が養子縁組とか、『名跡が絶えたのは惜しいので、●●を入れて復活させる』のノリです。
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