八月七日、真夏の太陽が容赦なく照りつける学園都市。
昼下がりの寮の一室では──。
「……あ゛っつぅ゛ぅ゛ぅ゛……」
上条が床に突っ伏し、団扇をぱたぱた振って呻いていた。
「みっともねェ。暑くなるから呻くな」
鈴科は冷凍庫を開けて、アイスの山を覗き込む。そこには棒アイスがぎっしり詰め込まれていた。
後ろからついてきた上条が冷蔵庫を覗き込む。
「……おい、いつの間にそんなに買い込んだんだよ!?」
「勝手に食ったら愉快オブな」
「ケチ言うなよ! 一本くらい──」
冷蔵庫の前で二人が言い合っていると、背後からのびてくる白い手。
「……ひんやり甘いもの……食べたいんだよ……」
インデックスが床を這いながら、アイスに向かってじりじりと進んでいた。
「うわっ!? ホラーかよ!」
「こらインデックス、勝手に持ってくンじゃねェ!」
「けちんぼーーっ!!!」
小さな争奪戦が始まり、冷凍庫の前は修羅場と化す。
結局、じゃんけんで勝敗を決めることになり、一本ずつ分け合った。アイスの棒を齧りながら、上条はぐでーっと畳に寝転ぶ。
「はぁ……俺の部屋、なんでこんなに暑いんだよ。冷房入れても全然効かねぇ」
「無駄に熱出してンじゃねェの」
鈴科は扇風機を横取りして自分の顔に風を当てながら、鼻で笑う。
「ちょっと! もっと風よこすんだよ!」
インデックスが割り込んでくる。扇風機を取り合い、三人は狭い部屋でごろごろ転がる。
──平和。
騒がしいのに、どこか居心地のいい空気。
やがてインデックスが言い出した。
「おなかすいたんだよ」
「さっきアイス食っただろ」
上条が呆れ声を上げるが、インデックスは当然のように首を振る。
「アイスは別腹なんだよ! ごはんはごはんなんだよ!」
「三下、食材は?」
「昨日の残りと冷凍品がちょろっとあったと思う」
「しゃァねェな……」
鈴科は立ち上がり、台所に向かった。
しばらくして、まな板を叩く小気味いい音、じゅうじゅうと油がはぜる音が部屋に響く。
鰹出汁の香りが湯気に乗って漂い、鼻腔をくすぐる。
「……なんか、デジャブを感じるな」
上条が呟いた頃には、もう部屋中が小料理屋のような匂いに包まれていた。
インデックスは机にぺたりと張り付き、涎を垂らしながら待機している。
「鈴科がご飯作ると料亭みたいになるんだよ! たのしみなんだよ!」
やがて、机に並んだのは彩り豊かな和食膳。
香ばしく焼き目のついた鯖の塩焼きからは白い湯気が立ち、ふわりとした卵焼きは断面から黄金色の輝きを放っている。冷や奴には細かく刻んだ青ネギが散らされ、冷えた陶器に露が滴っていた。
「ちょっ……お前ほんとに何者だよ……」
上条は呆然としながら箸を取る。
「味の文句は受け付けねェ。黙って食え」
三人で食卓を囲み、賑やかに箸を動かす。インデックスは「おいしいんだよ!」と感動しながら、ご飯をかき込んでいった。
◇
食後は少し静けさが訪れる。
窓の外では、夕暮れの風に混じって祭囃子が聞こえ始めていた。
「祭りか……花火も上がンのかね」
鈴科がアイスをかじるのを止め、ぽつりと呟いた。
「そりゃ上がるだろ。毎年恒例だしな」
上条は天井を見上げて苦笑する。
インデックスは窓辺に駆け寄り、外を覗き込んでいた。
「楽しそうなんだよ! 行きたいんだよ!」
「浴衣なんて持ってないぞ。それに出店の物を買うお金がですね……」
「別に出店や浴衣はいいんだよ! 三人で花火が見れれば!」
その一言に、二人も小さく笑って頷いた
わいわいとやり取りが続く。インデックスが呟いた言葉に、部屋の空気がふっと静まる。
しかし、その静けさを破ったのは──インターホンの無機質な音だった。
「……誰だよ、こんな時間に」
上条が怪訝そうに立ち上がり、ドアを開ける。
そこに立っていたのは、背の高い赤毛の男。
鋭い視線に、黒のロングコート。手には一本のタバコ。
「……久しいな、上条当麻」
ステイル=マグヌスが、煙を吐きながら薄く笑った。
後ろから顔を出していたインデックスの表情から、一瞬にして笑みが消える。
鈴科も無意識に身構えていた。
「なンだァ、神父サマがこんな時間に来訪か?」
ステイルの目は鋭く、言葉は冷ややかだった。
「時間がない。……お前たちに話がある」
緊張が室内を覆い尽くす。
そして──
つづく。
え? 原作まつりなんてやってなかっただろうって?これはユニヴァースが違うんで・・・
次回塾編