翌日の昼下がり。
真夏の陽射しが窓を白く染め、扇風機の羽がだるそうに回っていた。
上条たちは机を囲い、ステイルの持ってきた資料へ息を詰めるように見入っている。
「──これが“三沢塾”の内部構造だ」
ステイルが机の上に広げたのは、一枚の真新しい見取り図だった。
一見すればデパートの避難経路図のような整った図だが、ところどころに赤い線が引かれ、いくつかの教室の隅には奇妙な紋様が鉛筆で書き込まれている。図面の余白には小さな注釈が走り書きされていた。
「……オイ、何だこのメモは」
鈴科が眉を寄せ、図面の端を指でなぞる。
「凡そだが、術式の展開位置だ」
ステイルは淡々と答えた。声に余韻はないが、言葉の重みが部屋に残る。
「表向きは進学塾だが、内部構造は“儀式殿”に近い。恐らくだが生徒たちを媒介に、魔力を循環させる仕組みになっている」
「生徒たちを……魔力の燃料に?」
上条の呟きに、ステイルが小さく頷く。
「おそらく、アウレオルス=イザードは“
「“
上条がその名を繰り返すと、部屋の空気が一段冷えたように感じられた。
ステイルの瞳が細まり、口元に淡い光を宿す。
「古の賢者が夢想した“万能の奇蹟”。
世界の理を統合し、幻想すら創成する――本来、研究の俎上に載せることすら許されない禁術だ。
理論上は神をさえ従えるとされている。
……奴はその力でインデックスを救えると、今でも思い込んでいる。
すでに救われているという事実すら、知らないままね」
「なんだそれ……なんでもありじゃねぇか」
上条の声には驚きと嫌悪が混ざっていた。
“万能”という響きに心がざわつく。奇蹟という言葉の裏に潜むのは、必ず誰かの犠牲だ──そんな直感が、胸の奥を掻きむしった。
「だからこそ禁忌なんだ。
本来、一個人の寿命で、この術式の詠唱は不可能なんだ。
だからこそ奴は、生徒たちの精神を“循環させて”補うつもりなのだろう」
ステイルは図面を軽く叩き、赤く囲まれた部屋を指した。
「ここが中心だ。“主祭殿”として機能する部屋。おそらくアウレオルス自身はここに陣取っているはずだ」
指さされた方向を見ると、そこは「講師控室」と記されているだけだった。
だが、図面に書き込まれた注釈が、それが“表向きの姿”でしかないと雄弁に物語っている。
「……つまり、生徒たちを巻き込んで、強大な力を産み出そうとしてるわけか」
鈴科が椅子の背に肘を置き、つまらなそうに言う。
「否。巻き込まれているどころじゃない。彼らは“材料”だ。儀式が進めば進むほど、精神は削られ、正常な判断ができなくなる」
ステイルの声は冷たいが、その奥にかすかな怒りが灯っていた。
しばし沈黙が落ちた。
扇風機の回転音だけが、部屋の熱を押し返すように低く唸っている。
「……で、その材料になっている”塾生の皆様”とやらを救い出せばその儀式は中断されるのか?」
鈴科が気怠げに言った。
しかしその声音には、状況を冷静に見極める鋭さがあった。
「理屈の上では、そうだ」
ステイルは短く返す。
だが、その“理屈”という言い回しが、簡単にはいかないことを物語っていた。
「精神の連結はすでに始まっている。
無理に断ち切れば、反動で精神が破壊される。
……儀式の特性上、避けられない」
「……ッ」
上条の喉が鳴った。
「壊れるって……そんなの、助けるって言えねぇだろ……!」
「分かっている。しかし、アウレオルスの術式は“精神への干渉”が根幹だ。
一度組み込まれた精神を綺麗に引き剥がすには……」
ステイルは一度目を伏せ、そして上条を正面から見据えた。
「……君の“右手”しかない」
部屋が静まり返った。
扇風機の羽音がやけに遠く感じられる。
「三下のチカラ以外じゃどうにもならねェってことか」
鈴科は鼻で笑った。
だがその笑いには皮肉よりも、“判断の速さ”があった。
「まぁ、テメェが突っ込んで手ェ突っ込めば全部チャラになるんなら話は単純だな。ただ──」
鈴科は図面を指で叩き、赤い線で囲われた教室群を示す。
「そっちに行くまでに、“洗脳された連中”が山ほどいるンだろ?
三下一人で突破できるほど甘くはねェ」
ステイルも静かに頷く。
「生徒たちに罪はない。だが、彼らはアウレオルスの命令で動く兵隊だ。
正面突破するなら、鈴科の手助けが必要になる」
「チッ……面倒くせェがよ」
鈴科は椅子からゆっくり立ち上がった。
「邪魔する連中の足を止めりゃいいンだろ?
命令だろうが洗脳だろうが、“動き”さえ封じちまえばいい。
壊さずに止めるくらいなら、造作もねェ」
その声音は淡々としているのに、不思議な安心感があった。
上条は鈴科を見上げ、少しだけ息を漏らした。
「……悪いな、鈴科」
「勘違いすンなよ、三下」
鈴科は冷たく言い放つ。
「テメェに手ェ貸すんじゃねェ。
”胸糞悪い儀式”をぶち壊しに行くだけだ」
上条は、かすかに笑った。
ステイルはそんな二人を見て、静かに告げた。
「作戦はこうだ。
鈴科が正面から突入し、塾生たちの動きを封じる。
その隙に、上条当麻。君が主祭殿へ辿り着き、術式の根幹――あるいはアウレオルス本人を断つ。
僕は外側から結界の歪みを作り、魔力循環を乱すことで、全体の負荷を下げる」
そして、小さく息を吸う。
「……成功の可能性は五分だ。だが、この方法が最善でもある」
上条は強く頷いた。
「行こう。今救わなきゃ、間に合わなくなる」
「オォ、グダグダしてねェで行くぞ。
こんな茶番、長居する価値もねェ」
ちょっと想定していたとことずれがすごいから次は好きなもの描くかも
もしかした三沢塾編、ライブアドベンチャーズインワンダーランドるかもね