鈴科がゆっくりとまぶたを開けると、部屋はすっかり橙色に染まっていた。
夕日の柔らかな光がカーテン越しに差し込み、空間全体を静かに包み込んでいる。まるで時間がゆるやかに流れ、世界がひと息ついているかのようだった。
深く息を吐き出し、鈴科は重たいまぶたを動かす。まだ眠気が残っているのか、視線はぼんやりとしている。
──隣には、インデックスがいた。
ソファの背もたれにもたれかかるように凭れ、微かな寝息を立てている。夕陽に染まった彼女の白銀の髪が、橙色と金色の中間の淡い光を帯びて揺れていた。
その輪郭はどこか儚く、まるで触れれば消えてしまいそうな繊細さを漂わせている。
「……呑気なもんだな」
誰に言うでもなく、鈴科の低い声が静かに漏れた。苛立ちや呆れは一切なく、むしろわずかに滲む安堵の色だけがそこにあった。
肩からずれていた毛布を、指先でそっと持ち上げて彼女の肩にかけ直す。ふわりと温かな感触が戻ったのを感じて、インデックスはかすかに身じろいだ。
「……ん……ぅ……」
薄くまぶたが開き、鈴科の姿がぼんやりと映る。まだ夢の中にいるのか、それとも現実に戻ってきたのか、彼女の視線はまだ定まらない。
「……あ」
ゆっくりと目を覚ましたインデックスは、小さく瞬きを繰り返しながら隣にいる鈴科を認識した。すると自然と柔らかな微笑みが浮かぶ。
「おはよう、鈴科」
「起こしたか?」
鈴科の問いに、インデックスは小さく首を振った。動きはまだゆっくりとしていて、夢の余韻を引きずっているのが見て取れた。
「久しぶりに……ゆっくり眠れた気がする」
彼女の声はかすれているが、目を細めながら呟いたその言葉には、眠気の残り香と確かな安らぎが感じられた。
「鈴科が隣にいたから、かな」
その言葉に鈴科は視線を伏せ、小さく鼻を鳴らす。表情は無表情に近いが、どこかほっとしたような色を含んでいた。
「……バカ。疲れてりゃ、誰だって寝られるっつーの」
その言葉は乱暴で冷たく響くが、声にはわずかな優しさが混じっている。長い時間を共にしてきた者だけが感じ取れる、鈴科の素直になれない優しさだった。
インデックスはその照れ隠しに気づいて、にっと笑みを返す。
「そっか、じゃあ次も疲れてるフリ、してみるね」
「……勝手にしとけ」
鈴科は肩をすくめて、そっぽを向く。夕日の光が、ソファの上にいる二人をやわらかく包み込んでいた。
しばらくの沈黙が部屋に流れ、カーテン越しの陽は徐々に沈んでいく。部屋の色合いは深い橙色へと変わっていった。
そんな静けさを破るように、玄関の鍵がガチャリと回る音が響いた。
「……帰ってきたか」
鈴科が小さく呟くと、インデックスもゆっくりと顔を上げ、その音に耳を澄ませる。
ドアが開き、買い物袋を抱えた上条の姿が見えた。
「ただいま――って、なんだこの空気……?」
上条は戸惑ったように部屋の中を見渡す。普段とは違う重い空気に、不思議そうな顔をしている。
「お、顔色だいぶ良くなったな。朝よりずっと良さそうだ」
買い物袋をそっと床に下ろし、鈴科とインデックスの前に一歩踏み込み、柔らかく声をかける。
インデックスはゆっくり目を開け、上条の声に反応して顔を向ける。まだ言葉は発せず、ただ静かに見つめ返すだけだ。その瞳には、警戒や好奇心の色はなく、淡い感情が揺れていた。
上条は軽く微笑みながら、手を腰に当てたまま口を開く。
「そういえば、自己紹介まだだったな。俺は上条当麻。君は?」
インデックスは一瞬戸惑い、目をぱちぱちと瞬かせたが、すぐにゆっくりと口を開く。
「えっと……私の名前はインデックス」
鈴科はそっと二人の会話を見守りながら、微かな緊張を感じていた。
上条はにこりと笑って、短く返す。
「よろしくな」
インデックスの瞳に、わずかに安心の色が宿り、部屋の空気がふっと和らいだ。
言葉のやりとりが終わると、鈴科はふと視線を買い物袋に向けた。
「なあ、その袋何買ってきたんだ?」
鈴科の問いに、上条は肩をすくめて笑いながら答えた。
「今日は夕飯の材料と、ちょっとした日用品だ。まだ買い足りてないけどな」
インデックスは静かに聞きながら、興味深そうに袋の中を覗き込む。
「人参と牛肉……?」
「そうだ、カレーにしようと思ってな」
上条は牛肉と人参を手に取り、にこっと微笑んだ。
インデックスの目が一気に輝きを増し、すぐに興味津々で返した。
「カレー……好きなんだよ」
鈴科はその様子を見て、肩の力がすっと抜けていくのを感じていた。
「よかったな」
上条は微笑みながら頷き、声をかける。
「腹も減ってるだろ。早く作ろうぜ」
インデックスは嬉しそうに頷き、鈴科もゆっくりと体を起こした。
夕日の中、三人の間にほんのりと温かな空気がゆっくり満ちていった。
上鈴ってか鈴インじゃね??