機動戦士ガンダムSEED FREEDOM REVERSE 作:meitoken
ラクスはオルフェに誘われて、庭園に出ていた。どれも見事に咲き乱れた薔薇だ。
「…これほど見事な花々も貴女の目にはまるで映っていないようですね。」
気取った言い回しだが、不思議と彼が言うと何の違和感もなく受け入れられる。
「貴女のために咲いたのです…どうぞ。」
「ありがとうございます…とても綺麗ですわ。」
「よかった、もしお気に召していなければ薔薇たちがみんながっかりしてしおれてしまうところでした。」
どうしてだろう。先ほどから古い時代の貴族のような言い回しなのに、彼はそれを言っても全く問題がないほどに品格を身につけている。そして、何故かそれを好ましく思う自分がいる。
薔薇の香りを嗅ぐ…とても良い香りだ。丹念に育てられた証拠だ。
「やはり、貴女には笑顔が似合う。」
今、一瞬だけ胸が高鳴った。どうして……キラに言われるのが一番嬉しいはずなのに?
「貴女のお悩みは私にもわかります。」
悩み?
「誰しもそうでしょう?今を生きる者、未来への道筋を探し求める者ならば。人は争いを望んでいない。しかし一方で争いはなくならない。」
そうだ……二度もあれだけの戦争をしたというのに、未だ人は争っている。
「コーディネイターもナチュラルも同じ人間なのですけどね。」
その言葉にラクスは思わず顔を上げた。地上ではコーディネイター迫害が強い。地上に住んでいるコーディネイターだってそれを隠しているというのに。この国ではそれを憂える…宰相という最上位の地位に立つ人間が。
先ほど、アウラから出身を問わない優秀な人材を登用していると言っていた。そうした体制からこの発言は来ているのだろうか?
「悲しいことです…人はそんな些細な事を争う理由にする。」
「はい…」
その言葉にラクスは揺れた。遺伝子操作を些細と言い切ってしまうこの青年に。
「でも、僕はこう思うのです。些細な違いが問題なのではなく、真に公正ではない社会が問題ではないかと。」
真に公正でない社会……ふと、ミーア・キャンベルを思い出した。自分と声が似ているという理由だけで、歌手になる夢を閉ざされてしまった。ある意味、それは公正でない社会だ。
「今は誰しも戦火の陰を引きずっています。不平は不満はそういうときに醜い形になる。」
そう、ミーアの不平や不満もデュランダルのラクスという形になって、最悪の形になって彼女自身を殺してしまった。
「富の分配が不公平だから、命の重さが違うから、適切に評価される社会でないから、だから人は争うのではないかと!」
オルフェは次第に熱を込めていく。
「誰もが誰かに必要とされる社会、公正で平等な社会を提示できればコーディネイターやナチュラルの違いを乗り越えて、世界はよりよい方向へ向かうと僕は思うのです!」
「素晴らしいお考えです。」
「姫にそう言っていただけると、施政を担う者として自信が持てます。」
「僕は貧困も差別もない世界を作りたいのですよ。そのために生を受けたと。そして、貴女も…」
オルフェの手が触れたとき、最初に会ったときと同じ感覚がした。一瞬、呑まれそうになったラクスは我に返った。
「申し訳ありません、オルフェ閣下。少し旅の疲れが出てしまったようで…これにて失礼いたします。今日は過分なおもてなしをありがとうございました。」
パーティーが閉幕した後、キラは出撃に備えてMSの調整を行う中……アグネスが夜食を持ってきた。だが、アグネスは用が済んだのに出て行かない。
「何?」
「私、隊長がお気の毒で。あの人、みんなの前で他の男とチャラチャラ踊ったりして!隊長がこれから危険な戦場に向かうのに。」
「それは…どっちもそれが仕事だし。」
「どうして怒らないんですか!?あの人、隊長の優しさに付け込んでるんですよ!?」
「私を見て!あの人を見返してやりたいんでしょう!?」
突然、アグネスは顔を近づけた。明らかにキスを迫っている。反射的に吉良はアグネスを押しのける。
「っ…なんのつもりだ、君は!」
「どうして、あんな人が良いの!?私ならしない!愛する人を戦場に送り出して、自分は安全な場所でただ見てるなんて事を!」
「そういうことじゃないんだ!君は何も分かってない!!」
アークエンジェルでアリスはグレンと共に上部デッキに出て風に当たっていた。少し、酒を飲んで酔いが回っていたか?
「良い風だな…」
「ええ…月も綺麗。」
自然とグレンの肩にもたれ、アリスは空を見上げる。作り物の空であるプラントではこれは絶対に見られないものだ。ここだけは絶対にコーディネイターの技術では再現できない。
地球での任務が多い中、天気が気まぐれなのは面倒だがこの夜空や晴天の空はいい。自然の恵みを感じる。
「ん?あれ、キラじゃないか?」
グレンがミレニアムのデッキから出てくる人影を見た。アリスのコーディネイターとして優れた視力はそれを捕えた。
「確かに、キラさんだけど……総裁と何かあったのかしら?……って、アグネス?」
別の方向でアグネスが歩いている。泣いている?
「まさか、あの子…キラさんにちょっかい出して振られたから泣いてるの?」
クレムとカインはアークエンジェルのデッキでMSの調整を行っていた。
「はい、コーヒー。」
「ありがとう。」
コーヒーを受け取り、カインはトゥルースの調整を一区切りした。
「ねえ…今夜は駄目?」
「あのな……」
「分かってる。これが終わったらその分たっぷり。」
と、頬にキスをした。
「だから、今日はこれだけ。」
ルナマリアは自室で不貞腐れていた。
「シンの馬鹿…ガキ。」
そして、そのシンはミレニアムのデッキで落ち込んでいた。
ユリは後部デッキで風に当たっていたところでキラを見つけた。そういえば、さっきラクスも出てきた。二人が気になって、艦を降りたところへ…『ブラックナイツ』のフェイト・ヴォウジェが現れた。
「フェイト・ヴォウジェさん…何か。」
「いえ、只ちょっと散歩をね。」
フェイトは月を見上げた。
「君は何故生まれた?」
「え?」
「……世の中には必要とされて生まれるべき人が多い。だが、君はどうなんだ?」
「何を…」
「君の弟は必要とされて生まれたのかな?そして、君は?」
必要とされて?何を言っている。
「私もキラも…父と母からちゃんと」
「育てられた?だが、本当にそうかな?人は誰だって必要とされたい…認められたい。」
必要とされたい…認められたい。それは確かに承認欲求として、人の感情にあるものだが。
「必要とされるべくして、人は生まれる。だが、君達姉弟はどうかな?必要としてくれる者はいるかな?」
「な…!?」
ユリの脳裏にアークエンジェルに乗った頃の記憶が蘇る。あの頃は、自分達がやらないとみんな死んでしまう状況だった。必要とされた?
否、コーディネイターの自分達が乗る以外に生き残る手立てがなかった。それでも、トール・ケーニヒが死んでしまった。
「デスティニープランはそれを明確化してくれる。君達のような者でも、必要としてくれる者を用意してくれるのだよ。どんなに劣ったナチュラルでも、欠陥を持ったコーディネイターでもね。」
この男は…デスティニープランの支持者なのか?いや、何か……そうだ。この男はこの国に来たときに感じた……!
この人は…私やキラのことを知っているの?
アグネスはミレニアムを飛び出し、とぼとぼと歩いていた。
どうして…なんで、私の価値が分からないの?
今まで、どんな男も自分に靡いた。ミネルバに配属されていればシオン・クールズだって自分を見てくれたし、アスラン・ザラだってそうなったはずなのに。
だが、キラは自分を拒んだ。安全な場所で戦わせているラクス・クラインを選んだ。
どこを歩いていたか分からないうちに、昼間に会った『ブラックナイツ』のシュラ・サーペンタインと遭遇した。
思わず、アグネスは抱きついた。
「ねえ、私綺麗じゃない?魅力ない?」
キラが拒んだのは自分に魅力がないから?ラクス・クラインより下という事実がアグネスのプライドを打ちのめしていた。
「君は美しいよ、『月光のワルキューレ』。」
シュラのその言葉に、アグネスは救われた。
この人は、私を認めてくれている。私の価値を理解してくれる。
ラクスは港の東屋で海を眺めていた。先ほど、アグネスが言っていた言葉が突き刺さっていた。平和の歌を歌う…等と言って、やっていることは結局、只キラやアスランにMSを任せているだけ。
共に戦うのを望んだ。それに嘘偽りはない。だから、コンパスの総裁になることを引き受けた。ミーアのような悲劇を繰り返さないために。だが…実際はどうだろう?
「眠れないのですか?」
「オルフェ閣下。」
「どうぞ、私のことなど月の作った影とでも思っていただいて。」
庭園の時と同じ気取った言い方だ。しかし、今はそれでも彼の心遣いが嬉しかった。
「どうすれば、これら全てが終わるのでしょう?…誰も戦わず、許し合って暮らすことが何故こんなにも難しいのでしょう?」
オルフェの手が触れた途端、最初に会ったときの感覚がした。まるで、意識だけ別の場所に飛んでいるような……
『終わらせることが出来ますよ、我々には。』
我々?
『私は貴女をお助けするためにここにいる。ただ、そのためだけに』
『貴方は…誰なのですか?』
『私はオルフェ・ラム・タオ。貴女と対になり、この世界に平和を取り戻すことが出来る者。』
ラクスの脳裏に突然、いくつもの光景が流れ込んだ。若い頃の父と母?どこかの研究所?
その中に一瞬だけ、誰かに似た女性がいた。それだけではない。四年前にメンデルで回収した写真……キラとカガリの実の父の姿も浮かんだ?
『…そのような、ことが……でも。』
『私はそのために生を受けたのです。与えられた使命を果たすために、そして貴女も。』
ラクスを探しに出たキラは東屋にいるラクスとオルフェを見た。オルフェがラクスに迫っているように見える。だが、ラクスはそれを拒む様子はない。
『君は彼女に相応しくない。』
『世界が平和になったら、その血塗られた手で彼女の手を取るつもりかい?』
つい先ほどにオルフェに言われた言葉がキラの胸に突き刺さる。
キラを探しに行く気力さえ失ったユリはシュウの元を訪ねた。
「シュウ…私がMSに乗れなくなったら、もういらない?」
「いきなり何を言い出すんだ?」
シュウは意味が分からない様子だ。当然だろう…自分でも、何でこんな言葉が出るのか分からない。
「……MSに乗れなくなったって、死んだわけじゃないんだろう?生きていてくれるのが、俺は嬉しいよ。」
MSに乗れなくなっても、死んだわけじゃない。……
「ごめん、変なこと聞いて。」
そう、よね。私はナチュラルだからシュウと付き合って優越感に浸りたいんじゃない。あの時、シュウのまっすぐな気持ちの込められたキスに胸を打たれたんだ。
ユリのことを愛しているから、あの連合のオーブ侵攻の時にシュウは残ることを選んだ。
イングリット・トラドールは東屋のラクスとオルフェを見ていた。会話は聞こえないが、二人共通じ合っているのが分かる。
苦しい…自覚したときから、ずっと苦しい。
私は……許されない。あそこに、オルフェの隣に座ることは。
それを隠れて見ているフェイトの姿にイングリットは気付いていなかった。そして、フェイトの視線はオルフェに嫉妬という感情が乗せられていることも。
「参ろう、子供達よ。新たな未来へ…」
アウラの私室に『ブラックナイツ』だけでなく、オルフェやイングリットも集まっていた。
ベッドに腰掛けるアウラの膝にダニエル・ハルパーとリデラート・トラドールがもたれている。まるで、母親に甘える幼子のように。
「そなた達の運命のままに。全てはじめから決まっていたとおりに…世界がそなたらを待っておる。」
アウラはその外見からは想像もつかない様子で二人の頭をなで、両脇に座るオルフェとシュラも…入り口にいる双子の姉弟スズネ・タネガシマとユウト・タネガシマ……グリフィン・アルバレストとリュー・シェンチアン、机の写真を見つめるフェイトも……コンパスの面々の前で短剣の訓練を行っていたカルロ・ダガーとドミニク・フランシスカも、コンパスの士官の後ろから回って挑発したハイデマリー・ドライゼも、イングリットもその光景を当然のように受け入れている。
アウラの机にはいくつかの写真があった。プラント最高評議会議長ギルバート・デュランダル……ラクスとうり二つの女性。アウラが後20年前後経てば到達していたであろう年齢の女性と……今と全く同じ姿のアウラが幼い頃の『ブラックナイツ』と共にデュランダルと歩く写真が………
キラとラクスはオルフェとイングリットに加え、フェイトまで加わったもはや収拾のつかない泥沼状態。
かたや、躓いたシンとルナマリアに今夜はお預けのカインとクレム、夜風でラブラブのアリスとグレン……そして、一度は揺らいだユリとシュウ、キラとラクスみたいになることはなかったです。
あと、オリジナルMSでブラックナイツを忘れていたので今やりました。