機動戦士ガンダムSEED FREEDOM REVERSE 作:meitoken
エルドアの惨劇から四日が経ち、オーブ行政府のカガリとフブキはコンパス理事国の代表と報告書を確認していた。
「第二爆心地の東1.5㎞の地点にアークエンジェルと思われる残骸を確認しました。フリーダム、ジャスティス、ブレイブ、トゥルース、アフェクション及び作戦行動中のMSは未だ確認できず、こちらからの呼びかけにも応答ありません。」
トーヤが読み上げた報告書にコンパス理事国の代表者が表情を重く、固くする。モニターでは確かにアークエンジェルの残骸があった。カガリ、フブキ、リュウの三人…そして同席しているサイ・アーガイルの四人は無残な姿になったアークエンジェルに表情を暗くする。この四人もアークエンジェルに長く乗っていた。彼らにとっても、アークエンジェルはもう一つの我が家だっただろう。
プラントのワルター・ド・ラメント議長が深いため息をついてもう一つの問題を問う。
〈それで、クライン総裁はご無事なのですな?〉
「ええ、ミレニアムの報告によればファウンデーション高官らと共に脱出したと…プラントにまだ連絡が来てないのですか?」
〈いえ、まだ。〉
が、今度は大西洋連邦大統領のフォスターが声を荒げる。
〈どうしてくれるのです!ユーラシアからは厳重な抗議が来ていますよ!全てはヤマト隊長が協定を破り、軍事境界線を越えたためだと!〉
〈だからといって、核を撃って良い理由にはならない!それは全人類に対する重大な背信行為だ!〉
プラントにとってはあの『血のバレンタイン』、そして幾度となく撃たれた核だ。それを今度はよりにもよって地球で撃つなど。
「ヤマト隊長の件も納得できない!報告書を読んだ限りでは不可解な点が多すぎる!何が起きたのか、さっぱり分からない!」
実際のところ、いくら何でもおかしい。突然ミケールが逃げると言い出して軍事境界線に向かったなど……キラのメンタルの脆さはアークエンジェルに乗っていた四人が知っている。一体、何故?
〈真実は闇の中だ!ヤマト隊長なりミケールらが生きて口を割らぬ限りはな!〉
〈都合の良いことですね、誰も責任の追及をしようがないとは。〉
〈何が言いたいのです?〉
フォスターがラメントを遠回しに避難しているのが分かる。
〈ヤマト隊長の件は、本当に彼の独断だったのかと言うことです!今回の件はプラントがユーラシアに介入する絶好の…〉
〈言いがかりはやめていただきたい!〉
「キラがそんなことをするものか!!」
遂にカガリは限界を超えた。政治の世界で何度も見た。誰に責任を求めるか……しかも、今度はよりにもよって大西洋連邦の大統領ともあろうものが昔のようなプラント陰謀論を持ち出すとは!
「カガリさん…!」
リュウが窘めるが、遅かった。
〈なるほど…では、我が国は今後一切コンパスと関わるつもりはありません!〉
〈我らもだ!このように痛くもない腹を探られるのでは!〉
全員から通信が切られてしまい、カガリは机に倒れ込んだ。
「カガリ…やってしまったな。」
フブキが哀れんで声をかける。
「ええ…やってしまいました。」
ミレニアムではキラ、シン、アグネス、ヒルダ達三人更にアークエンジェルの全員にMIAが認定されて遺品が整理されていた。そのシンの部屋でルナマリアはラクスのハロを抱えてベッドに倒れ込む。
「なんで、帰ってこないのよ。シンの馬鹿…」
レイとルゥがメサイアで死に、エルドアでカインとアリスが、シンがいなくなった。アグネスも……あの頃のミネルバのMS隊のメンバーはもうルナマリア一人になってしまった。
机には彼が大事にしている妹の形見の携帯電話が置かれている。あれだけは箱の中にしまわず、そのままにしておいた。
一方、ブリッジでは……
「そうか、やはりファウンデーションが。」
「ジャミングのタイミングからして黒である確率は98%。『ブラックナイツ』の仕業です。」
アルバートはあの時まだ実用化に至っていないNJダズラーによるジャミングが行われたと言っていた。コンパスにもないし、あったとしてもあそこで使う理由がない。勿論協定を結んだユーラシアにも使う理由はなく、ブルーコスモスだって可能性が低い。となれば、消去法で状況的にも犯人はファウンデーションになる。
「ああ、『ブラックナイツ』だけに黒……ええええ!?じゃあ、あの核攻撃もファウンデーションが…!!」
くだらない洒落を言ったかと思えば、ミネルバのアビー・ウィンザーも見慣れたリアクションをにらみつけた。いや、全員が睨んだ。
みだりに口に出すものではない。どこの世界に、自国を核攻撃する馬鹿がいるというのだ。連合を牛耳っていた頃のブルーコスモスならやりそうだが、今の連合はブルーコスモスと切り離されているし、やってしまえば逆にコンパスどころか地球圏規模で攻撃される。
「だが、我々にはそれを証明する手段がない。」
全て状況証拠に過ぎない。事実として、キラが暴走して軍事境界線を越えてユーラシアが対抗措置として核を撃ったという事になっているのだ。真相を知っているであろうキラやアークエンジェルのクルー達はあの核に巻き込まれた。
「ミレニアムには帰投命令、手持ちのMSはゼロ。アークエンジェルも墜とされてクルーの生存は絶望的…」
「……そうかな?そう簡単に死ぬかな、あの連中が。」
根拠などない。だが、アークエンジェルのクルー達の修羅場の数と熾烈さならば連合とザフト、どちらにもその密度で勝てる者などそうそういない。何せあのヘリオポリスから孤軍奮闘でクルーゼ隊、砂漠の虎を退けてアラスカでは敵と味方の両方に襲われて生き残り、そしてあのヤキン・ドゥーエ。更にあの大戦でも生き残ったばかりかミネルバまで撃破してのけた。
マリュー・ラミアスとキラ・ヤマトを中心に奮戦したクルー達だ。まして、今度は因縁の敵だったミネルバのパイロット達までいる。案外、何人か生き残っているかもしれない。
会談が終わった後、フブキは個人的に大西洋連邦のホール准将に連絡を取っていた。士官学校から来たナタルも立ち会っている。
〈やはり、コンパスの活動は当分凍結ですか。〉
「ええ、こうなってしまった以上は…ただ。」
〈ただ?〉
「キラ・ヤマトの暴走から間もなくNJダズラーによるジャミングがあったという報告がミレニアムから上がっております。」
〈NJダズラーを?〉
「オーブやザフトは勿論…連合でもまだ実用化に至っていない。それは事実ですね?」
〈……ええ。〉
ホール准将は何かを察したようだ。
「コンパスにもユーラシアにもブルーコスモスにもそれはない。となれば…」
〈分かりました。有事に備え、こちらも動けるようにいたします。〉
「何もないなら、それに越したことはないのですが…お願いします。」
通信が切られ、ナタルを見る。
「アークエンジェルが…」
「副長、私も同じ気持ちだ。」
副長の彼女にとっても、あの艦は特別な意味を持つ。それはヤキン・ドゥーエでより強固になっていた。
「……しかし、君と代表は本当にファウンデーションを疑っているのか?いくら何でも自国を核攻撃など。」
「サイクロプスで本部ごと敵と味方を消すような連中を知っているだろう?」
アラスカの事例を持ち出され、ナタルは顔を伏せる。そう、彼女は居合わせなかったがそれを知っている。そしてベルリン………仮にも連合構成国の都市相手にだ。
「人間、やろうと思えば馬鹿なことはいくらでもやるよ。そうした愚挙を俺達は嫌と言うほど見てきただろう?」
実際、連合でもザフトでも枚挙に暇がないのだ。自分達だって滅びかねないようなことをやっておいて、自分達だけは大丈夫だという根拠のない自信であれだけの暴挙に出ている。オーブだって、そうだったのだから。
アークエンジェルのクルーとミレニアムのパイロット達はアカツキ島の秘密ドックに隠れていた。そして、今エルドアとファウンデーションの惨状を伝えるニュースを見ていた。
レナが入れたコーヒーを持っているが、誰も殆ど飲まない。
〈既にコンパスの活動は当分の間凍結とされ…〉
キャスターの説明にシンは息をのんで、アスランに問う。
「本当なんですか!?コンパス凍結って!!」
「そうだ…カガリとフブキは頑張ったが今は世界中の非難が集中しているからな。」
そう、キラが軍事境界線を越えたのが核攻撃の発端になってしまったのだ。二度の大戦を止めた英雄がそんな暴挙に出てしまったのだ。それを擁するコンパスに非難が集中するのは当然の帰結だ。
「あいつら…くそっ!!」
だが、シンは知っている。あいつらが突然暴走を始めたキラだけでなく、全員に襲いかかってその果てにアークエンジェルも沈められてしまった事を。
「……あの、どうして貴方達はファウンデーションに?」
カインがシオンに恐る恐る問う。あの大戦でのシン達の暴挙が原因でシオンはプラントへの訪問どころか会話も、同じ空気を吸うのも拒むほどにプラントの人間を敵視している。親戚やクルーゼ隊の仲間の墓参りでもなければ行くことさえしない。もし、ミネルバにアグネスとフロア、アリーナの三人がいたらシオンはもっと早く脱走していたのでは?と思うほどだ。
「…フブキとカガリさんに頼まれてファウンデーションの裏を取っていた。」
なんとか口を開いた。シンとアリスも目を丸くするが、シオンは何も言わずに資料を出す。
「ターミナルの調査資料だ。」
その中の一枚の写真…一人の女性に名前を記されてチェックが入っている。それを見て、マリューが凝視する。
「これは…アウラ女帝?」
確かに顔は似ているが、この女性は明らかに成人している。見たところ、三十前後だろう。
「十九年前にメンデルの遺伝子研究所にいた頃の彼女だそうです。」
レナの説明を聞いて、アリスが復唱する。
「え、十九年前って……」
シンも同じ意見だ。
そんな馬鹿な……十九年前ならあの女帝どころかシンだって生まれていない!キラやアスラン、あの『ブラックナイツ』のメンバーの何人かが生まれて間もない頃のはずだ。
「私達の想像だけど…アンチエイジングの研究をしていたんじゃないかしら?」
アンチエイジング…老化抑制の研究で人類が宇宙に出る前からの課題だ。
「事故か自分で実験台になったかは分からないけど、ファウンデーションであの名前の子供は確認されなかったの。」
あの女帝は十年前に生まれていない?つまり……何かの方法でこの姿からあの子供の身体に若返ったとでも!?
「だが、それとは別に本懐の研究テーマがあった。」
「本懐の…研究テーマ?」
シンの問いにアスランが頷く。
「彼女の研究テーマはコーディネイターを超える種を作り出すこと。」
コーディネイターを……超える?
そんなことが可能なのか?プラントで一般的に信じられているコーディネイターの優位性。実際にコーディネイターはナチュラルより免疫機能も高いし、身体能力や得られる知識も上だ。だが…それを超える?
「そっちはまだ分からないけど……私達は『ブラックナイツ』がその成果なんじゃないかと思うの。」
「あの連中が?」
カインの言葉にシンは同意できた。確かに、あいつらがその研究テーマの成果だとすれば……あいつらは異常なまでに強い。乗っているMSもあいつらが開発したと考えれば、うなずける。実際に連合でもザフトでもオーブでも実用されていない無人機まである。思い当たる要素が多すぎる。
「恐らく、全てがアウラの…彼らの計画だったんだ。」
アスランの説明にマリューは頷く。
「核攻撃もね。」
マリュー達の説明によると、アークエンジェルが攻撃されたのは核が発射された地点から『ブラックナイツ』のMSが飛び立ったのを目撃された。つまり、口封じのためだ。
「少なくとも、核を撃たせたことで口実は出来る。」
「口実って…なんの?」
ユリの問いにアスランはゆっくりと口を開く。
「彼らがユーラシアを撃つための口実だ。」
シンは絶句した。
つまり、俺達はミケールを餌に誘い出された?
キラを暴走させて境界線を越えさせ、そのための対抗措置としてユーラシアの仕業に見せかけて王城に核を撃つ。
デュランダルでさえ、あのベルリンやプラントへの攻撃だって前々から情報を掴んでいたという説がある。それを自分に有利にするために座視していた。事前に止められたのに止めようとしなかった。だが、今回のファウンデーションのやったことはそれより遙かに悪辣だ。自作自演で被害者を気取るために自国を核攻撃するなんて!
「だが…只報復をするためだけに自国の首都に核攻撃をするなんて!!」
「そうよ……それに、首都を失ったのなら内政機能だって!!宇宙に行ったとしてもどこに!」
カインとアリスもファウンデーションの余りの暴挙に声を荒げる。そう、シンでも分かる。これだけのことをして、報復をしたところで何のメリットがあるんだ?自分達の国がなくなってしまっては元も子もないではないか。
「……ファウンデーションがどこへ逃げたかはまだターミナルに調査してもらってるわ。」
「だが……これだけ念入りに準備を進めていたんだ。地上に核ミサイルの雨が降るくらいはあり得るぞ。」
地上に核の雨…シオンの言葉にシンは背筋が凍った。確かに、自国に核を撃つ連中ならそれくらいやりそうだからだ。
ユーラシア連邦首都モスクワ……ブリュッセルから首都機能を移転したこの都市で人々はエルドアの惨劇を遠い地の出来事のように感じながら過ごしていた。
しかし………突然、彼らの身体は炎に包まれた。赤ん坊も老人も誰一人として例外なく。何が起こったかも分からないまま焼き殺された。
それは巨大なビームだった。ビームはモスクワの街を焼き払い、最後に巨大なキノコ雲が上がった。
アウラについての考察…そして、シン達との会話すら嫌がるシオンですが、流石に今回はそうも言ってられないから我慢して話しています。
尚、カインが分析しているアグネスに加えてこちらのアリーナとフロアの二人がいたら、絶対にシオンはもっと速く逃げています。アグネスから逃げる意味でもですが、アークエンジェルの件を馬鹿にされたりアグネスがこれ幸いとアスランかシオンに言い寄ること確実でしょう。
シオンだったら、アグネスはほぼ確実に殺されています。
ちなみにグレンとクレム、イリアとミサキはムウやレイラ同様にもういません。