機動戦士ガンダムSEED FREEDOM REVERSE 作:meitoken
ラクスはイングリットとフェイトに案内され、オルフェとアウラの待つ部屋に案内された。どこかの宇宙要塞なのは分かっている。なら、相手の誘いに乗って少しでも相手から情報を引き出そう。
「長くお一人でお待たせしてすみませんでした、姫。」
相変わらず気取った態度だ。
「お詫びいただけるというのなら、私を出来るだけ早く帰していただけるようお願いいたしますわ。」
どうせ、そんな気などないだろう。ラクスなりの皮肉だ。
「帰る?…貴方の本来あるべき場所はここですよ。」
本来あるべき…体よく攫っておいてよくヌケヌケと!
「それが貴女のお母様の意志でもある。」
アウラの言葉にラクスは思わず、反論を忘れた。
「母の?」
何故、そこで既に死んでいる母が出てくる?そう言えば…初めて会ったときから気になっていた、オルフェの指輪。ラクスの指輪が銀色に対してオルフェのは金色……色以外のデザインは全て同じ。まるで結婚指輪のように。
アカツキ島のドックでアスラン達が新たに獲得した情報を伝えていた。そして、ファウンデーションの声明を。
「遺伝子で人を選別し、適正によって役割を定めるデスティニープラン。デュランダルとアウラはその仕組みを管理し、人々を導く者達を作った。それがアコードだ。」
「人々を導くため……まるでエクステンデットね。」
アリスが連合の所業とアコードを重ねて吐き捨てる中、キラはデュランダルの姿を思い浮かべる。まさか、デスティニープラン導入後の世界を前提にしたコーディネイターを既に生み出していたなんて。
最高のコーディネイター、後継者目当てのクローンと妻の分身、デスティニープラン、そして今度はアコード。
アウラが父やデュランダルと同じメンデルの研究員で、何かの要因であの子供の姿になったことは既にキラも知った。
またしても…メンデルだ。
「人間の欲望の聖地だな、メンデルは。」
シオンもまた、吐き捨てる。そう…本当に、ラウが言っていた『禁断の聖域』という表現がよく似合う場所だ。
「貴女は人々のために生まれた。全ての民に愛され、彼らに道を示すために。……そのように私が作った。」
全ての人に愛され、道を示すために?
「私を…作った?」
どういう…父と母は一世代目のコーディネイター。アスランのように両親の結婚で生まれたのではない?
「そして、彼らアコードの一番の要がオルフェ・ラム・タオ。そして…ラクスだ。」
「ラクスが…要?」
ユリもあの声明を見ていた。アコードがプラン導入後の世界を管理するために作られたならば『ブラックナイツ』のあの異常な強さも連合、ザフト、オーブを凌ぐ技術の数々もうなずける。それが出来るだけの能力を得られるように遺伝子調整されたからだ。
「貴女達二人が全ての人類の頂点に立つべき存在。最後に組み合わさるピースの一対なのです。」
オルフェと自分が…人類の頂点に立つ?最後のピース……デスティニープランの?
「私と貴女で共にこの世界を統治するのです。感じるでしょう?」
オルフェの手が重ねられ、指輪が触れた。
また、あの感覚が……
『共に、貴方と?』
『我らは互いに引かれ合い、結ばれる運命…』
歓談の夜、オルフェを通して自分の中に流れ込んだ光景の数々。あれは、幻や錯覚ではなかった。自分とオルフェの遺伝子に刻まれた共鳴のようなものか?そして、アウラが自分を作ったという意味……あの女帝は見た目通りの人間ではない。母と共にそうした研究をしていたのだ。
ラクスは悟った。自分が何者かを……何故、彼がこんなにも………
「だから、彼らはラクスを攫った。彼らのプランに必要だったからだ。」
「そのために…ミケールを餌にしてコンパスを誘き寄せた。」
レナの言葉にキラは言葉を失う。そして、王城での光景を思い出す。
ラクスはオルフェを特段、拒んで等いなかった。それは相手への礼節などではない。最初から、そういう風に作られた者同士で惹かれ合っていた。
「でも…待ってください、それならなんでデュランダル議長は総裁を殺そうとしたんですか?」
カインは引っかかった。アスランの言うとおりならば、ラクスはデュランダルにとっても欠かせない人材のはず。何故世界を統べる女王の彼女を殺し、代弁者の贋者を用意したんだ?
シオンがにらみつけ、深呼吸をして口を開いた。
「それは分からないが、ラクスがプラントで育ったことを考えるとシーゲル・クラインや母親との間でアウラとの決裂があったのかもしれない。恐らくラクスは何も知らず、知らされずに育った。最初からそういうことだけを教えられて育ったアコード達…これが要因かもしれない。」
シオンが自分達に向かって…いや、本人としてはシンや自分はいないも同じ。キラに話しているつもりか。
だが、そういうことか。彼女がもし、両親の元で何も知らずに育ったのだとすればデュランダルとアウラの思想の外だ。デュランダルの意にそぐわない可能性は充分にある。
「だから、贋者を用意したのね。」
「付け加えるなら、デュランダルはアコードなしでプラン導入後の世界を管理し、反抗する者を抑える者達を選んだ可能性もある。そのために、俺やアスランに白羽の矢を立てた。」
アリスは相変わらず、シオンが自分達をいないように扱うことが苦しかった。当然だからだ……が、今はそんなことを気にしている場合ではない。
私達はアコードの替え玉だった。プランを導入した後の世界を力でねじ伏せるために……シンは正にその中でも突出していた。そのためにデュランダルは数々の問題行動を不問にすることでシンを増長させ、自分の影響下に置こうとしていた。いや、もしかしたらミネルバそれ自体が『ブラックナイツ』の発想だったのかもしれない。アスランやシオンをも影響下に置くことで、それをより強力にしようとしていたのだろう。
レイとルゥがアカデミーに入学したのもそれが含まれていたのだろうか。だが、少なくともアカデミーで過ごしていた頃のあの二人はとても楽しそうだった。訓練は厳しいが…アカデミー時代にレイの演奏とルゥの歌を何度か聞いた。アレは二人が最も自由でいたようにも思える。
キラの声が聞こえたような気がした。ラクスは反射的にオルフェを突き飛ばした。
「私の愛する人は貴方ではありません!」
そうだ。例え、対になるように生み出されたのだとしても今自分が愛しているのはキラだ。キラとオルフェが似ているような気がしたのも遺伝子的にそう感じ取ったからかもしれないが…
「っ…、キラ・ヤマトのことを気にしているのですか?残念ながら、彼はもうこの世におりません。貴女が撃ってもよいと言われたのではありませんか。」
そうだ……私が、キラを殺した!
ラクスは崩れ落ちた。あの時、コンパス総裁としての判断を優先してキラを止めてと彼らに託してしまった。攻撃を受ければ、すぐに正気に戻ると思っていた。だが、それを確かめる前にキラは死んでしまった。
「どのみち、彼はもう必要ない。これからの世界には。」
必要ない?違う!
「必要だから……!必要だから愛するのではありません…!愛しているから必要なのです!」
「え?」
イングリットは思わず、口に出てしまった。
愛しているから…必要?一体、何を。
確かにキラ・ヤマトはMSパイロット以外の分野でも優れた資質を持っている。アコードさえいなければ、彼が世界の頂点に立つと言っても過言ではない。だが、オルフェと出会った以上キラはもうラクスに必要ない。愛する理由などない。
なのに…この歌姫は愛しているからこそ、キラが必要だと言っていた。
二度の大戦での連合とプラントの暴走を止めるために、コンパスに必要だから愛しているわけではない?
フェイトはラクスの言葉が理解できなかった。なんだ、愛しているから必要?
それは間違いだ。優れた力を身につけ、それを示してこそ愛する資格が…愛される資格がある。
フェイトはイングリットがどのような役割で生み出されたのかを知っている。だが、いつの頃からかイングリットがオルフェに向けている感情にも気付いた。フェイトがイングリットにその感情を向けたのはそれより前だ。
オルフェは世界の頂点に立つべき生み出された。ならば、自分がシュラを…オルフェを超えればイングリットを手に入れ、世界を手にする。
ナチュラルや自分達こそ選ばれたと錯覚する只のコーディネイター共に囲まれて、そんな世迷い言に傾倒しているのか。
「おやめなさい!ナチュラルのような世迷い言は!」
オルフェも同じ考えだ。それはそうだ。
「出撃する。シュラ、イングリット。母上と姫を頼んだぞ。」
結局、こうか。オルフェは俺など眼中にない。それはそうだろう……フェイトはアコードで言えばシュラとイングリットより下だ。
だが、いい気になるよオルフェ。お前も姫も、シュラも排除してやる。そうすれば、世界は…イングリットは俺のものに!
アスランは更に情報を伝える。プラントでは軍によるクーデターが発生し、議長を初め評議会との連絡が取れていない。まだ、首謀者も分からない。
「首謀者が誰かは分からないけど……レクイエムを修理してファウンデーションに渡したのはそいつでしょうね。」
レナの言うとおり。クーデター派はファウンデーションと結託していた。このタイミングでそんなことが起こるということは、あのオーブとプラントの停戦条約締結から間もなくファウンデーションが接触していた可能性が高い。
「……後、連合は既にエンデュミオン基地からダイダロス基地へ艦隊を発進させた。」
シオンは連合側の動向を伝える。あんな声明を発表されれば、プランを拒否する側はレクイエムを破壊するだろう。恐らく、それを見越した上でプラントの不満分子を引き込んだのだ。レクイエムの防衛をやらせ、戦力を増強するために。
「だが、私達は現状動きようがない。MSも艦もないしな。」
「つまり、ここにいる私達はみんな死人も同然という事よね。」
ヒルダとマリューが言うとおり、こちらは動こうにも動けない。
「…これは推測だがアコード達は俺達の心が読める。」
「心を…読む?」
「ああ、恐らく人の精神にまで干渉する。」
「それで、隊長が!」
シンは確信した。それならば、あの時の暴走もうなずける。精神に干渉するなら、いもしないミケールの幻を見せることも可能なはずだ。
「そんな相手にどうやって対抗すれば…」
「でも、手立てがないからってこのまま指をくわえてみているわけにはいかないでしょ?」
カインは弱腰だが、アリスは反論する。そうだ、このまま行けばデスティニープラン導入の五日が過ぎてしまう。
「ラクスを救出しよう、それしか方法がない。この状況を打開し、プラントを止めるには彼女の言葉がいる。」
「確かに、他にないわね。」
アスランの提案にユリはうなずく。シン達元ミネルバパイロットも…だが
「無駄だよ…」
「キラ君?」
「どうせ同じだ…僕らが何をやったって。」
何も変わりっこない。
「結局、また繰り返しだ。あんなに苦しんで、迷って、戦って戦って…戦って!」
ラウのいうとおり、『いつかは、やがていつかはと甘い毒に踊らされて戦い続けて』その結果がこれだ。何一つ変わっていない。
「でも、何も変わらない…!」
「キラ、どうしたの?」
レナが問うが、キラはそれを睨んだ。レナが思わず怯んだ。
「それは…僕が間違ってるからなのか!?」
結局、正しかったのはラウやデュランダルだ。ラウの言うとおり『憎しみの目と心と引き金を引く指しか持たない者達の世界』で、デュランダルが言うように『人は忘れて、繰り返す』。キラもそれをやった。
「だから、ラクスは僕を捨てて彼を選んだ!僕じゃ駄目なんだ!」
もう、ラクスはオルフェ・ラム・タオのものだ!最初からそういう風に作られたなら自分より彼を選んで当然だ!
「ラクスが望むものを何一つあげられない!平和どころか、彼女を笑わせることも出来ない!僕には幸せに出来ない!!だから彼女は僕を裏切ったんだ!!」
「キラ!」
「あんたいい加減に…」
シオンとユリが声を荒げるがそれより先にアスランが動いた。気付いたときには拳がたたき込まれた。
「くだらない泣き言はやめろ!自分が、自分がばっかりで彼女の気持ちなんか一つも考えてないだろう!お前は!」
アスランが…それを言うのか!?あの時、カガリの気持ちなんか考えないで、カガリを信じないでデュランダルの言いなりになっていたくせに!!
「もう、いい!そんなに戦うのが嫌なら、ここでいじいじ腐ってろ!!」
「何も分からないくせに…君にそんなこと言われたくない!」
キラは反撃に出る。だが、キラの拳はことごとく躱されて逆にアスランに反撃される。
「自分だけが戦ってるつもりか!?」
「仕方ないだろう!君らが弱いから!」
「ふざけるな!それで世界を一人で背負って、思い通りにならなきゃ放り出すのか!大したヒーローだな!!」
「違う!!」
キラが再び反撃に出るが、所詮キラは素人。正規の訓練を受けたアスラン相手に手も足も出ない。遂にシンは見かねて止めに入る。
「やめろ、アスラン!隊長は!!」
隊長が必死になっていたのを知らないわけがないだろうに!!
が、アスランとキラの二人に同時に殴り飛ばされた。
「くそ!」
「やらせときな。」
ヒルダが止めに入った。
「へたれた野郎は修正してやるのが友達ってものさ。」
カインは固唾を呑んで見守るが、ユリに問う。
「…良いんですか?」
「良いのよ…まあ、私も一発喰らわせたいけど。」
「喰らわせるんですか?」
アリスが呆れたような口調になる。
「後で私とレナも言ってやるから…それに。」
「それに?」
カインはユリが何か可愛いものを見ているような目をしている。
「あの子達の殴り合いなんて、新鮮だからね。」
なんて姉だ。幼馴染みと弟の喧嘩を止めるのではなく、敢えてやらせるなんて。そういえば、シンの姉のリュウもアークエンジェルにいてクレタで一度シンを完膚なきまでに負かして、シオンやオーブの件で未だに手厳しいという。同じ姉でもルナマリアと違い、滅茶苦茶だ。
「僕が…僕がやらなきゃ駄目なんだ!嫌だけど、必死で!」
「なんで言わない!?頼まない!?誰かに!お前一人で何が出来る!!」
キラの拳をいなし続けたアスランがまた一発たたき込み、遂にキラが吹き飛んだ。まだやるか、と思われたが……
「ラクスに…会いたい。」
レナはそれを見て、少し安堵した。殴られ続けて、ようやく落ち着いたようだ。
「ラクス…只隣で笑っていて欲しいだけなのに。僕にはもう、どうしたら良いのか分からない!!」
「キラ…」
「暫く会わないうちにラクスは随分変わったんだな。」
アスランが今度は冷ややかな口調になる。
「こうしてやらないと幸せになれないとか、出来ないと駄目とか。俺の知ってるラクスはそんなこと言わなかったはずだ。」
え?レナはきょとんとした。いや、全員がそんな眼で見ている。いくら、婚約者でもそこまで付き合いがあったか?
アスランがにらみつけ、全員が慌てて目をそらす。
「ラクスは…世界が平和になるのを望んでた。」
「でも、誰かに平和をポンとプレゼントしてもらおうと思ったわけじゃないでしょ?」
マリューが穏やかに問い、ユリもようやく入る。
「ねえ、キラ…私、あんたのことでラクスに相談されたけど……ラクスはあんたのこと『世界を平和にしてくれない』とか『自分が望むものをくれない』なんて私には言わなかったわよ?むしろ、私が知る限りでも…あんたが無理しているのを心配してたわ。」
「私もそうよ……それに、さっき『僕がやらなきゃ』って言ってたけど、アークエンジェルにいた頃自分一人でやってたつもりだった?」
少し、厳しい口調で問う。あの頃、キラだけでなくユリやレナも一緒だった。確かにキラが一番苦しく、頑張っていたのは分かる。だけど……そんなキラをここにはいないミリアリアもサイもトールも見てきた。だから、少しでもキラの負担を減らそうとトールもパイロットになった。
言われて、ようやくキラもはっとなる。
「ねえ、さん…レナ…」
「キラ…ラクスは確かに平和を望んで、その歌を歌っている。でも、私達にMSをくれたあの時もだけど…ラクスが一番欲しかったのは、平和よりもまず…」
ユリがチラリとアスランを見て、応えるようにアスランが頷く。
「そこへ向かってともに歩んでくれる人を求めていたんじゃないのか?一歩一歩、例え小さくとも。」
そう……彼女が望んでいたのは平和だが、それ以上に一緒にそこへ向かう人を求めていたはずだ。同じ形の平和を望んで、だから敵だったアスランやシオンもあの時アークエンジェルに来てくれた。
「今も…そう思ってるかな?ラクスは…」
「不安なら会って聞いてみろよ。」
その通りだ。そこまで思い詰めているなら、一度腹を割って話すべきだ。あのオーブ戦でキラとアスランが、シオンとレナがそうだったように。
「行こう、キラ。ラクスを助けよう、俺達で。言葉にしないと伝えられないこともあるから。」
アスランが手を差し伸べ、キラはそれを取って立ち上がった。
随分手間がかかったが、ようやく立ち直ってくれた。隣に立つシオンが苦笑しているのが見えた。
長めになりましたが、キラ復活。こっちではアスランだけでなく、アークエンジェルで一緒に頑張っていたユリとレナも一言加えました。
そして、シオンは無言ですがキラの復活に安堵しました。
この頃の「君らが弱いから」が「やめてよね」に重なった。そして、長い間ファンだから「ラクスが望んでいたのは平和だけど」とも見たとき思いました。
この手のアニメで長いファンはある程度察する人はいますよね。
ちなみにフェイトもいつからかは自分では分からないけどイングリットを……つまりは下剋上を狙っているアコードです。自分とイングリットが世界を統べるという…もっと健全な方向になっていれば。