機動戦士ガンダムSEED FREEDOM REVERSE 作:meitoken
自宅でラクスは久しぶりに帰るキラのために料理をしていた。コロッケやハンバーグ、エビフライ、キラの母から学んだレシピなど少し多すぎるくらいだ。部屋の中ではブルーだけでなく、アスランが送ってくれたハロや彼女の赤いハロが遊んでいる。
ラクスにとって、一番好きな時間だ。マルキオ導師の教会でアスランやカガリが来ていた頃も、こうして子供達の料理を作ってあげていて、カガリとお菓子作りをしてキラとアスランに試食してもらった。あの頃、レナもキラに会いに来た際に強烈に苦いコーヒーを出してキラとアスランを悶絶させ、その様子にユリは首をかしげて、何度か来ていたシオンも顔をしかめ、子供達に至っては泣き出していた。懐かしい日々だ。
あの子達は今、どこで何をしているのだろうか?
そんな中、電話が鳴った。キラだ
入港したミレニアムでキラは新装備プラウドディフェンダーの調整についてアルバート・ハインライン大尉と意見交換をしていた。最初のフリーダムとジャスティスの開発にも携わっていた彼の意見はとても参考になる。一部のクルー達からは取りつきにくいという意見もあるが、実際に優秀な技術者で仕事への熱意も誠意もある。それに、人間として悪いわけではない。
「プログラムは僕が担当しますので、ハインライン大尉はセンサーをお願いします。」
「すみません、准将。」
アルバートとメカニックが敬礼し、全員プラウドディフェンダーに向かった。
「よろしいのですかな、お帰りにならなくて?クライン総裁がお待ちなのでは?」
ミレニアム艦長のアレクセイ・コノエ大佐が来た。大した戦果があるわけではないが、生き残ることにかけては非常に優秀な指揮官で、「彼の艦に乗れば生きて帰れる」という噂もあるほどだ。教師という職業もあってか、色々と助言もしてくれている。
「でも、早くこれを使えるようにしたいから。」
「敵を圧倒する力が事態解決の早道、ということですか?」
「そんなんじゃないんです。でも、僕達は何も守れてない。」
コノエの言葉もキラには重くのしかかる。より強力な兵器…その結果を何度も見てきたのに、今キラはミケールのテロ鎮圧に有効な強力な武器を開発している。
オーブ……久しぶりに戻ったアークエンジェルは休息を取り、ユリは恋人のシュウ・タキカワと一緒に両親のいる実家を訪問し、久しぶりに母の料理を堪能できた。『エイプリルフール・クライシス』で両親を喪ったシュウも母の料理を気に入っており、コペルニクス時代に母のロールキャベツを喜んで食べていたアスランを思い出す。
「ファウンデーションに行く件…まとまりそうみたいね。」
「そうか……でも、キラは大丈夫なのか?」
その問いに、ユリは顔を伏せる。
「……正直言って、不安だわ。ラクスとの時間さえ…大事に出来ているかどうか。」
コンパスが創設される少し前まではうまく行っていると思っていた。だが、ここのところミケールのテロ鎮圧に二人共忙殺されている。特にキラは……
「あの子、アスランの時みたいにまた抱え込んでなきゃ良いけど。」
「……確かに、いい加減に俺も付き合い長いからな。そういう性分はキラの一番の問題だな。」
「宿題サボって、私やアスランに泣きついていたあの頃の方がまだ可愛げがあったわ。悪い方向で大人になりすぎよ。」
ブレンドした紅茶を一口飲んだ。少々風味がきつい。ふと、あの女の言葉が蘇る。
『私とラウがやらなくても、こうなっていた!世界は!人がそれを望んでいるからよ!』
レイス・シェイド…レイラの遺伝子上の娘はラウ・ル・クルーゼと共に世界を滅ぼすべく誘導した。そう、道筋は作ったが歩むことを望んだのは人。
今回も同じ。二人はもういない、デュランダルもいない。だが、結局続いている。
シオン・クールズは実家を出てマンションで暮らしていた。といっても、お互いにオーブだから両親とも妹とも会う機会は多い。
プラントに留学するつもりで学んでいた植物学……そちらはもはや閉ざされてしまったようなものだが、せめて植物に関わりたいと花の栽培や家庭で育てられる野菜を育てていた。
丁度良い具合に熟れたハーブを切り取った。これで何か肉か魚の香り付けが出来ると思い、シオンは一息つく。
「どうなの?」
ミサキ・グールドが入ってきた。あの後、ミネルバで精神を摩耗したシオンは除隊し、政府からむしり取った慰謝料を貯金し、アスハ家のエージェントとして働いている。
「ああ、花もあと数日で咲く頃だろう。」
「…そっちじゃなくて、ファウンデーションのこと。」
「……フブキから頼まれて、俺とレナも行くことにした。」
それを聞き、ミサキが表情を険しくする。
「あの国、デスティニープランを導入してるんじゃないかって噂よね?」
「ああ……認めたくないが、職業を斡旋することにかけていえば、アレは最適すぎる。」
実際、その遺伝子で最適の職業を見繕ってその才能を磨けばほぼ確実に成功する。それだけはシオンも認めざるを得ない。
「だが………あぶれたり再起不能になったらどうなることか。」
アスランが以前言ったように、淘汰された人々はどうなる?
レナはイリア・カシムにフブキとカガリに頼まれた件を伝えていた。
「本当にお前らだけで良いのか?」
「ええ、もしもの事があったらカガリとフブキの傍に誰もいなくなるから。」
行政府には学友のサイ・アーガイルがいるし軍にもミリアリア・ハウとメイ・ハーベストがいる。とはいえ、いざという時に守れる人間がいない。そういう意味では現役軍人だったイリアとミサキ・グールドが適任だ。
「しっかし、その国聞けば聞くほど胡散臭いな。『ブラックナイツ』だっけ?」
「ええ、フリーダムを撃墜したMSの名前で王室親衛隊の通称。」
どうもレナは嫌な予感がする。それを踏まえ、レイラがオーブ軍からの人材派遣という名目で今回は参加する。
「まあ、お前のコーヒーを当分飲まずにすむならそれはそれで助かるが。」
「ちょっと、私のブレンドのどこが不満なのよ?」
「あんな猛烈に苦いのを喜ぶのはバルトフェルド隊長くらいだよ。」
些細な喧嘩をして、二人は眠りにつくことにした。
日付が間もなく変わろうという時間、キラは帰ってきた。台所にはパンと一緒に鍋があり、テーブルにはラップで包まれた食事の数々と開けていないワイン。一人で食べることをせず、ずっと待っていたのだろう。だが、疲れてしまったのかラクスはソファーで眠っている。
コノエが気にかけていたように、帰った方がよかったのだろうか?
ラクスに毛布を掛けたあと、アークエンジェルの仲間やヘリオポリス時代の写真、こちらに来てからの写真を軽く見てキラは端末のあるデータを見る。
デスティニープラン……遺伝子によって職業や配偶者までも決める社会システム。コーディネイターの世界の究極にして、彼が人類存続の最後の防衛策として導入実行を試みた……
『だが、誰も選ばない。人は忘れる。そして、繰り返す。』
メサイアで対峙したデュランダルの言葉が再び蘇る。
『こんなことはもう二度としないと、こんな世界にはしないと。一体誰が言えるんだね?』
『誰にも言えはしない。君にも、無論彼女にも。』
『君が言う世界と私が示す世界。皆が望むのはどちらかな?』
今度はあのプラン発表時の演説が蘇る。
『有史以来、人類の歴史から戦いのなくならぬ訳。常に存在する最大の敵。それは…いつになっても克服することの出来ない我ら自身の無知と欲望だということを。』
『この憎しみの目と心と、引き金を引く指しか持たぬ者達の世界で何を信じる?何故、信じる!?』
『そしてあるべき正しき世界へと戻るんだ!人は、世界は!』
あの仮面の男、ラウ・ル・クルーゼともう一人の彼…シンの仲間だったレイ・ザ・バレルの言葉もキラの心をむしばむ。
僕は、僕達は間違っていた?あのままプラン導入を受け入れれば、こんなことに。僕のせいなのか!?
リュウ・アスカは慰霊碑を訪れていた。
「久しぶりね……こっちは相変わらず忙しいわ。」
家族が死んだこの地に花を添え、近況を知らせる。
「シンは…コンパスで頑張ってる。まあ、まだ私も許すつもりはないけど。」
あの頃に比べれば、少しはマシになったと言えよう。だが、それでもシンのやったことはリュウにとっては許しがたい。姉として、もう暫く厳しくしてやらねば。
「……アークエンジェルとミレニアムがファウンデーションに行くわ。私は行かないけど………」
あの小国がなんでフリーダムを撃破できる程のMSを開発できたのだろう?聞いた話だが、シンでさえスペックの劣るインパルスでフリーダムを撃破するのに相当対策を練った。それをいきなり出てきて、撃破できるMSなど。
デスティニー・プランで選別された技術者がいるのか?
キラとラクスは久しぶりのツーリングに出ていた。公園でラクスが作った弁当を広げながら、ミケールについても話す。彼はユーラシアとファウンデーションの国境付近のエルドア地区に潜んでいるという。そして、その逮捕に協力したいとファウンデーションのアウラ女帝が親書を送ってきたと。
「キラは、どう思われますか?」
「……どうして、聞くの?」
どうして……どうしてって。
先日、新たに就任したワルター・ド・ラメント議長とも話したことだが、キラは優しすぎる。きっと、オルドリン自治区でも心を砕き、昨日帰ってこなかったのも……それで……このままだと、彼の優しさが彼自身を壊してしまうのでは?
「それで終わりに出来るのなら、僕が反対する理由はないよ。」
「え?」
「この戦いは終わりが見えない。人は簡単には変われない。」
そう、変化を拒むものが常にいる。自分達とて、デスティニープランによる変革を拒んだのだ。
「何が出来て、何が出来ないのかも分かってない。僕に出来ることは……」
戦うことだけ。あの頃、友達を守りたくて必死に乗った。怖いのに………相手が人間であることも忘れてしまうほどに。そして、アスランと本気で殺し合った。それを終わらせるには………
「誰かがやらなきゃいけないんだ。誰かがやらないと。」
そして、ファウンデーションの申し出に応じることになったコンパスは宇宙からミレニアム、地上からアークエンジェルが向かう。コンパスの宇宙と地上の最大戦力を二隻とも投入することになる。これで終わりに出来るなら、最大の戦力で望むべきだからだ。ミケールが潜伏するなら、守りも堅いはずだからだ。
アークエンジェルの士官室……カインとクレムは同じベッドに入っていた。クレムは初めて会ったときよりも豊かになったように見える身体にシーツを巻いたまま、カインが開いている端末を読んでいた。
「総裁が行くって事は、やっぱりユーラシアとの政治的な交渉?」
クレムの問いにカインも答える。
「だと思う。あそこはコンパスを承認していないからな……ユーラシアの政府や軍もかなり頭を悩ませたんじゃないか?」
只でさえ『ファウンデーション・ショック』が続いている上に、ミケールだ。あちらとしても国内の安定はしたいところ。そのために敢えてファウンデーションとコンパスの両方が協力することにも条件付きで合意したのだろう。
「ふぅん……あたしはファントムペイン時代あのあたりには行ってないけど、やっぱりオーブみたいにコーディネイターとナチュラルが一緒に住んでる国なのかしら?」
「多分ね………宰相なんて二十歳でここまでやれるんだから、コーディネイターじゃないのか?」
と、クレムがカインの頬に手を添えた。
「ねえ、あんたも政界に出る気ない?そしたら、あたしその奥様。」
それにカインは彼女の首を軽く触った。
「なら、プライベートの派手な格好を少し控えないと…」
「いうじゃない。」
クレムはカインの唇に自分の唇を重ねた。
同じ頃、グレンに当てられた士官室でアリスは端末を見ていた。内容はファウンデーションだ。
「ミケールはエルドアにいるのよね……」
「ああ、ユーラシアの軍事緩衝地帯。ファウンデーションとの国境に近い。」
「そんな場所に隠れるって事は……ユーラシアとファウンデーションに協力者がいるって事かしら?」
アリスでなくても、そう考えるだろう。
「ファウンデーションの独立もコンパスも承認していないユーラシアが今回の捕縛作戦を容認したのも、そうした背景があるのかもしれないな。実際、オルドリンにもデストロイがいたって事はエクステンデットの研究施設もまだあるって事だ。」
エクステンデット……連合がコーディネイターを殺すためだけに作られた生きた兵器。孤児達を薬や記憶操作、肉体改造で身体能力を底上げした、兵士。否…消耗品だ。
あのアーモリーワンを襲撃したのもエクステンデットだ。その一人は…シンが銃殺覚悟で帰した彼女だ。その彼女と同じような子供がまだいる。
「ユーラシアもそうした施設の摘発はしたいでしょうね。」
「ああ、あの後…俺達みたいな兵士の育成で連合も非難を浴びたからな。奴を抑えれば、未だ隠れている研究施設の情報も手に入るだろう。」
そう言ったグレンの方にアリスは少しもたれかかった。
「ねえ……今更だけど、コーディネイターの私と付き合うの…嫌?」
「…………昔の俺なら、コーディネイターと知ったら殺すはなくても、別れていたな。」
「今は?」
「…お前に会って、コーディネイターにもナチュラルにも善人と悪人がいることを学んだ。だから、お前に会えて良かったと思っている。」
その言葉にアリスは安堵した。
しかし、彼らはまだ知るよしもなかった。この捕縛作戦が最悪の事態の幕開けだということを。
キラとラクスの休日だけでなく、ユリとシュウ、シオンとミサキ、イリアとレナ、フブキがソロだったのでリュウもソロ。
で、アークエンジェルでグレンとアリスはまだ健全、カインとクレムは既に……本編ではシンとルナマリアは失敗したようですが。
地道にゆっくり行くアリス、躓いたシン、先を行くカイン。ミネルバ最強の三人、恋愛模様も三者三様?
そして、キラをむしばむ呪いにデュランダルだけでなく、レイやラウも加えました。特にラウは。