ポイント交換だけで成り上がる!? -ダンジョンの回収屋が無双中-   作:鳥獣跋扈

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第16話 よくある話とお買い物タイム

 その後の道のりは、想像していたよりも順調だった。

 もちろん、敵との遭遇は何度かあった。が、それでも最初にアリと戦ったときのような、死の気配をまとった緊迫感は徐々に薄れていった。

 というのも、部隊のメンバーが一人、また一人とレベルアップしていったからだ。

 

 初めてレベルが2に到達した隊員が出たときは、まるで子どものように顔を輝かせていた。

 身体能力が上がったことを実感できるのだろう。

 数人はすでにレベル3に届いている。

 打たれ強くなり、体力も底上げされた彼らは、弾丸の節約のために徐々に近接戦闘へとシフトしていった。

 

 少し前までは、あの巨大なアリ一匹ですら脅威だったのに。今はもう、ナイフ一本で対処できることもある。

 物資は有限だ。弾丸が心もとないとなれば、当然その判断は妥当だった。

 

 無理は禁物とはいえ、回復薬のドロップ率が高いこともあって、軽い傷程度なら即座に治療できる。

 となれば、少しばかりリスクを取ることは、むしろ効率的とさえ言えた。

 

 そして、奥へ進むにつれ、新たな敵も現れ始める。

 

「新種です!」

 

 警戒していたミツイの声に、皆が一斉に視線を向けた。

 

 現れたのは、巨大なダンゴムシのような甲虫だった。

 丸まって突進してくるその姿は脅威だったが、外殻が異常に硬い代わりに、動きが直線的で読みやすい。

 初見こそ苦戦したが、要領さえつかめば、的確に部位を狙って対処できた。

 

 そしてもう一体、空中から不意に襲いかかってくるテントウムシ型の飛行種。

 こちらは敏捷でやや手を焼いたが、撃墜に成功した際にドロップしたアイテムには、皆がどよめいた。

 

 ──短剣(下級)。

 

 見た目は普通のナイフ。でも、使ってみるとその切れ味は段違いだった。

 

「……うわ、これ、すごい切れますよ! まるでスパッと入る感じです」

 

 最初に手にした隊員が、手元の皮を削りながら驚いた声を漏らす。

 聞きつけたほかの隊員たちが順にそれを試し、明らかに違う、と頷き合う。

 

 同時に、巨大なダンゴムシからは防具がドロップされた。

 

 ──革の脛あて(下級)。

 

 これも硬く、それでいて軽かった。

 迷宮内のモンスターが落とすアイテムは、通常の装備と一線を画す性能を持っている。それが明確になっていく。

 

 戦果としてのアイテムも少しずつ集まり始めていた。

 

≪現状の回収済みアイテム≫

 ・状態異常回復薬(最下級)×5

 ・回復薬(最下級)×12

 ・ステータスチェッカー ×2

 ・短剣(下級)×1

 ・革の脛あて(下級)×1

 

 小休止を取った場所は、幅の広い通路がわずかに開けた地点だった。

 天井からはぼんやりと淡い光が漏れていて、迷宮というより、どこか古代遺跡のような雰囲気すら感じさせた。

 

 岩に腰掛け、ぼそりとタケウチが呟く。

 

「よし……時間はかかったが、順調にアイテムは集まってきたな」

 その声は、満足というより、まだ先を見据えているような硬さがあった。

 

「状態異常回復薬……もう少し欲しいな。できれば十五、いや、二十は欲しいところだ」

 

 

 その時だった。

 

 

「隊長! たいへんです! た、宝箱です! あの、まさしく“あれ”みたいなやつが!」

 小用を済ませに脇道へ行っていた隊員が、目を見開き、肩で息をしながら駆け戻ってきた。

 すぐさまタケウチとミツイが反応し、俺たちはその後を追って細い通路を折れた。

 

 そして──そこで俺たちは見た。

 

 それは、まるで昔話の一幕のように、石の床の真ん中に鎮座していた。

 唐突すぎて、かえって現実感のない光景だった。

 硬い岩肌の上に、ぽつんと置かれた金属の箱。

 装飾こそ控えめだったが、その形、その質感……どこからどう見ても、「宝箱」だった。

 

「これが、あの……」

 

 誰かがそう呟いた。

 おそらく、調査報告にあった“例の宝箱”──アメリカで発見され、

《枯れることなき壺》が入っていたとされるものに、極めてよく似ていた。

 

 中身が同一とは思わない。

 だが、誰もが息をのむほどの“価値”がそこに宿っている可能性がある──そう思わせるには十分だった。

 

 タケウチが数歩前へ出ると、腕を上げて制止の合図を出した。

 

「……よし。慎重に行く。安全の確認を最優先。開けるのは一人。周囲は距離を保って待機だ」

 

 言葉どおり、宝箱の前に隊員一人が選ばれ、周囲の誰もが数歩下がる。

 緊張が空気を圧迫し、誰も言葉を発しなかった。

 

 箱の周囲を指でなぞり、軽く叩き、耳を澄ませ──隊員がついに意を決して、両手で蓋に触れる。

 

 ギィ……という、想像よりも静かな音。

 

 特別な仕掛けも、煙も、演出めいた音すらなかった。

 ただただ静かに、箱の蓋は持ち上がる。

 

 中に入っていたのは──たったひとつの布だった。

 

「……なにこれ?」

 思わず誰かが呟く。

 隊員が手を伸ばし、その布を掲げた。

 一辺1メートルほどの正方形。質素な生成り色で、刺繍も装飾もない。

 

 しかし次の瞬間、その布を持った隊員が小さく叫ぶ。

 

「出た! なんか、説明文が表示されてる!」

 

 皆がどっと近寄ろうとしかけたが、タケウチが手を挙げて制止する。

 

「声に出して読め」

 

 隊員がうなずき、目の前の浮遊表示に書かれた内容を読み上げる。

 

「《万能継ぎ布〈リペア・クロス〉》──

 “包めるサイズのものであれば新品状態に戻すことが可能です”……“使用制限は一日一回”……

 “一部アイテムには制限がかかり使用できない場合があります”……だそうです!」

 

「なっ……!?」

 

 タケウチの声が一瞬、裏返った。

 普段冷静な彼のそんな様子を見るのは初めてだ。

 それもそのはず。書かれている意味を額面通りに受け取るなら──それは、物質に対する“時間の逆行”だ。

 

「これは……なんとも……」とミツイも小さく呟く。

 興奮というより、混乱に近いものがにじんでいた。

 

 俺も見つめる。

 布の表面には何の異変もない。ただの一枚の布切れにしか見えない。けれど、その性能は──。

 

 隊員たちがざわめき始めた。興奮が空気を震わせる。その時だった。

 

「隊長っ! あそこにも! あそこにも宝箱あります!」

 先に布を拾った隊員が、近くの陰になった壁の裏手に目をやって叫ぶ。

 その指先の先、確かに──もうひとつ、同じ意匠の箱があった。

 

「まじか! 連続であるのか!」

 

 誰かがそう叫び、周囲の隊員たちが我先にと駆けていく。

 まるで子供がプレゼントを開けるかのような無邪気さだった。

 

「待て、まだ安全確認が……!」

「やめろ、迂闊に開けるなっ!!」

 

 タケウチとミツイが慌てて走り出す。だが、皆の勢いは止まらなかった。

 気がつけば、宝箱の前に、彼ら全員が集まっていた。

 

 ……俺は、その場にいた。だが、何かが胸騒ぎを覚えさせ、足が動かなかった。

 ただ、一歩も動けず、その場で立ち尽くしていた。

 

 そして、次の瞬間だった。

 

 ──バチィィィィンッ!! 

 

 宝箱の周囲に円形の閃光が走り、音もなく、光の壁のようなものが彼らを取り囲む。

 

 俺は、目を見開くしかなかった。

 目の前で。

 

 タケウチも、ミツイも、隊員たちも──皆、まるで蜃気楼のように、霧が晴れるように、消えた。

 気づけば、その空間には俺だけが取り残されていた。

 

「……っ、うそだろ……?」

 

 冷たい空気がひゅう、と吹き抜ける。

 

 音のない、誰もいない、迷宮の一角。

 そこに一人──俺だけが、立っていた。

 

 

 * * *

 

 

 

「……落ち着け」

 

 声に出すことで、なんとか気持ちを保とうとしていた。

 目の前で、まるで霧のように仲間たちが掻き消えたあの瞬間──。

 あの閃光と、円形に描かれた不可解な魔法陣めいた光の輪。

 まるで幻でも見たかのような、不自然すぎる消失だった。

 

 襲撃か? それとも転移か? 

 何にせよ、今は俺一人きりになってしまったことは間違いない。

 だが、妙な言い方になるが──これは、都合が良い。

 

「……今のうちだな」

 

 誰の目もないこの状況。

 ならば、ずっと確認したくてたまらなかった"アレ"を確認するには、絶好の機会だ。

 

 俺はポーチの奥に忍ばせていた《ステータスチェッカー》をそっと取り出した。

 

(迷宮に入る前、パネルに一瞬だけ表示された、あの文言──)

 

 脳裏に、はっきりと記憶がよみがえる。

 

【固有スキル付与該当者の迷宮侵入を確認しました】

【迷宮侵入に伴い、スキルを固着します】

 

 固有スキルとは、おそらく「ゴミをポイントに変える能力」のことだろう。

 すぐにでもステータスを確認したかったが、他の目があるところで大っぴらにはチェッカーを取り出せなかった。

 

(とはいえ、迷宮に入る前の検査所で出してたからな。遅かれ早かればれるか……)

 一応のカバーストーリは考えているが、信じる信じないの水掛け論になりそうな話ではあったし、

 できるだけ敵対されないように立ち回りたいと思っていた。

 

 

(この場で確認するのも少し緊張するな……)

 画面がゆっくりと明るくなり、いつものステータス情報が浮かび上がってきた。

 

【種族 :人間 】

【レベル:28   】

【経験点:154,004 】

【体力 :197  】

【魔力 :52   】

【筋力 :121   】

【精神力:182   】

【回避力:213   】

【運  :15   】

 

「……ふむ。数値的には、特に変化はなさそうだな」

 

 特に新しい項目が追加されているわけではなさそうだ。

 けれど、俺はふと、チェッカーの裏面──今まで"黒く沈黙していた面"に目をやった。

 

(まさか、とは思うが……)

 

 恐る恐る裏返す。

 すると、そこには──今まで見たこともない、白い文字が静かに浮かび上がっていた。

 

【種族 :人間 】

【レベル:28   】

【所持スキル   】

  <収集者の手《コレクターズ・タッチ》(固有スキル)>

 

「……おお、なんか、表示が増えてる……!」

 

 思わず声が漏れた。

 これまで幾度となく裏面を見ても、何も表示されなかったあの面に。

 今、この瞬間、"確かに"俺のスキルが記録されていた。

 

《収集者の手》。

 その下に(固有スキル)と明記されているがおそらく他にもスキルはあるのだろう。

 入手方法は不明だが、今後取得できる可能性も考えておく。

 

 

 俺は次にポイント変換パネルを起動した。

 

 すると、見慣れない表示がパネルの中央に浮かび上がる。

 

【迷宮第一層の侵入を確認しました】

【交換できるアイテムを更新いたします】

【種類別に内容を分割いたしました】

 

「……更新?」

 

 いつもはただアイテムがリスト形式で並ぶだけだったが、今回はどうやらバージョンアップが入ったらしい。

 タッチパネルのようなUIが目の前に展開されていて、カテゴリがきちんと整備されていた。

 

 ──【合計ポイント          : 21,249P】

 

 ──【現在交換可能なアイテム】

   >【消耗品】

   >【装備品】

 

 それぞれの項目を軽くタップしてみると、一覧がずらりと開いた。

 

「ああ、なるほど……」

 

 見覚えのあるアイテムたち──先ほど蛾や虫たちからドロップしたものが、ちゃんと並んでいた。

「短剣(下級)」「革の脛あて(下級)」といったものがそれぞれ250ポイントと表示されている。

 そこまでは予想の範囲内だったが、それに続く高額アイテム群が、ひときわ目を引いた。

 

 ──【毒よけの首飾り (下級) : 12,000P 】

 ──【硬殻のバックル      : 10,000P 】

 ──【クラムプレート・レッグ  : 9,500P 】

 ──【閃羽の短剣        : 9,500P 】

 

「高っ……」

 

 思わず口に出してしまう。

 他の装備がせいぜい数百ポイント台なのに対し、これらは桁が違う。

 それなり以上の性能を持っているのだろうとは想像がつくが、

 今の俺の残高では2つが限界。そもそも具体的な効果もわからずに余裕がない今購入するのは得策ではない。

 

「……ここは堅実にいこう」

 

 いつ何が起こるかわからない今の状況で、欲をかいて高額装備に手を出すのは悪手だ。

 最低限の防具と武器、それに回復手段。これらをきっちり揃えて、まずは生き延びることを最優先にすべきだ。

 

 俺が選んだのは以下のアイテムだった:

 

 ・短剣(下級)       :250P

 ・革の胸当て(下級)    :500P

 ・革の手甲 (下級)    :250P

 ・革の脛あて(下級)    :250P

 ・回復薬(最下級)     :10P ×3=30P

 ・状態異常回復薬(最下級) :15P ×3=45P

 

 ──合計 1,325P

 

 購入を確定させると、パネルに光が走り、次の瞬間、手元にアイテムが転送されたように出現した。

 すでに経験済みの光景だが、いざこの手で触れると、やはりどこか現実味が薄い。

 

「よし」

 

 短く呟きながら、装備を身につけていく。

 革の胸当ては少し硬めだが、それでも着け心地は悪くない。

 手甲と脛あてはやや使い込まれた風合いがあり、下級とはいえ十分実用的だ。

 

 装備を確認しながら、自分の姿を一度見下ろす。

 普段着と合わせると、奇妙な組み合わせの装備品たちだが、気持ち安心感が身を包む。

 

(迷宮から脱出できた時のことも考えておかないとな……)

 

 その後のことを考えながら、ちらりとアイテムたちを見る。

 

(不審に思われない程度のアイテムを手元に残しておいて、それ以外は処分してしまえばいい)

(壊すか、折るかしてポイントに還元してしまえば、痕跡も最小限で済む)

 

「……さあ、行くか」

 

 小さくつぶやいて、俺は再び進行方向を見据えた。

 




最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

罠にかかってしまったタケウチさんたち、どうなるんでしょうか。
いよいよ主人公くんが一人で迷宮に立ち向かいます。
次もお読みいただけますと幸いです。

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