ポイント交換だけで成り上がる!? -ダンジョンの回収屋が無双中-   作:鳥獣跋扈

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第34話 お楽しみのアイテム鑑定

 

 三鷹迷宮から出た俺たちは、それぞれ黙ったまま建物のロビーへと足を運んだ。

 身体にはまだ、戦闘と探索でかいた汗が残っていて、じっとしていると不快な湿り気が首筋を這う。

 建物の一角にある簡易シャワールームは、こういう時にはありがたい存在だった。

 

 壁も床も白いタイル張りの小部屋で、まるで工事現場の仮設施設のような作りだが、

 蛇口から流れるぬるま湯が、体の隅々までまとわりついた迷宮の埃と汗を洗い流してくれる。

 

 着替えを済ませて指定された部屋に向かうと、そこは以前も使ったタケウチの執務室だった。

 木製のデスクと、古びた革張りの椅子。室内は書類と資料で雑然としている。

 

「さて、それでは《識別の石板》でいろいろ確認していきましょうか」

 

 タケウチが静かに言って、横に控えていた隊員に目配せする。

 すると、重厚な鉄製のケースを運び入れてきた。

 鍵が二重に掛けられたそのケースを開くと、中からは薄い黒曜石のような、艶やかな板が姿を見せる。

 

《識別の石板》。

 

 先日発見したアーティファクトの一つであり、国家の重要物資とされた。

 当然ながら、普段は厳重な警備体制のもと、金庫のような場所に保管されているらしい。

 

 閑話休題。

 

「まずは、一層ボスのドロップから確認してみましょう」

 タケウチがこちらに視線を送ってくる。

 

 促されるまま、俺はアイテムボックスから大盾を引っ張り出した。さすがにサイズがあるので、床に置くとゴトリと鈍い音が響く。続けて、バックパックに入れておいたスキル球、それから掌にちょうど収まるくらいの、淡く光沢を帯びた水晶のような勾玉を取り出した。

 

「うわ、デカいな……」

 隊員の一人が低く唸り、もう一人と顔を見合わせる。二人がかりで大盾を抱え上げ、その表面をじっくりと確かめた。艶やかな黒光りが、部屋の照明を跳ね返している。

 

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【玄甲の壁盾】

 種別

 :防具(レア)

 

 効果

 :硬く艶やかな大盾。防御姿勢を取っている間はあらゆる攻撃の威力を半減させる。

 また、水属性の攻撃に対しては、攻撃された威力の一部で体力を回復する。

 防御力+15

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「おおっ! こりゃいいな!」

 ケイゴが、少年じみた声を上げた。

「一層ボスの亀と戦う時、これでヘイト取れれば楽勝じゃねぇか」

 

 言われてみれば確かに、あの化け物が延々とこの盾に攻撃を叩きつけるだけなら、こっちはほぼ無傷で済む。持ち手の耐久さえあれば、だが。

 

「さて、お次はスキル球か。こっちは、まあ名前通りだろうな」

 ケイゴが石板の前に歩き、スキル球を近づける。半透明の球体が、光を受けて青く揺らめいた。

 

 ────────────────────────────────────────

【スキル球:水流(下級)】

 種別

 :スキル球(アンコモン)

 

 効果

 :スキル《水流(下級)》を取得可能。

 術者から直線状に水流を打ち出す。威力や使用回数は使用者の魔力に依存する。

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「炎弾の水バージョン、といったところですね」

 ミツイが腕を組みながら言った。

 確かに、あの亀が吐き出していた水の奔流と似た効果だろう。

 防御的にも使えるし、探索での応用範囲は広そうだ。

 

 そして、最後の一品。

 俺の手の中で、小さな勾玉がひんやりとした感触を返してくる。淡く透き通ったその表面には、甲殻類のような細かい模様が刻まれていた。

 

<導殻の勾玉>──初回討伐限定。自然と期待が高まる。

 

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【導殻の勾玉】

 種別

 :装飾品(レア)

 

 効果

 :古代の甲殻生物の外殻を削り出し、勾玉状に磨き上げた探索者の護符。

 迷宮内で保持者が進むべき未踏破ルートを淡い光脈で示す。

 また、保持者が過去に通った道は、光の残滓として一定時間視認可能。

 ただし光は保持者にのみ見え、距離や詳細な地形までは示されない。

 発光は魔力を消費し、長時間の連続使用は不可。

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「ルート案内……か!」

 タケウチが、抑えきれない声で喜びを洩らした。

 

 確かに、これは便利だ。

 迷宮という迷路じみた構造の中、ボス部屋まで一直線に進めるのは大きい。

 魔力の消費が気になるが──それは実際に試してみてからだな。

 迷宮の中で光が走る様子を思い浮かべると──ちょっと楽しみだ。

 

 

「さすがはボスドロップといったところですか、では、次は三鷹の二層武器から見ましょうか」

 タケウチが言いながら、俺たちが手にした装備を石板の上に表示させる。

 

 画面に並んだのは、ずらりと八種類。

 剣、斧、槍、槌、弓、短剣、杖、盾。

 すべての名前の頭に「黒蟻の」とつけられた装備品たちだ。

 やはり、今回倒したアリ型の二足歩行体が落としたものだが、名前にその名称がついているようだ。

 

「うーむ、かなり高い数値だな」

 隣でケイゴが表示を覗き込みながらつぶやく。

 

 確かに、その通りだ。

 例えば、「黒蟻の斧」は攻撃力+20。

「黒蟻の短剣」でも攻撃力+11とある。

 現在主力の《短剣(下級)》が攻撃力+5だったことを考えると、

 同じカテゴリでも倍以上の性能を持っているということになる。

 

「第二層になって敵も強くなっているから、確かにこれくらいの装備にならないと厳しいか……」

 俺も画面を見つめながら、思わず声が漏れた。

 

 盾については防御+15と表示されていて、これも十分実用レベルだ。

 そして、魔法系の「黒蟻の杖」は攻撃力こそ低かったが、

 代わりに《魔力+5》という補正がついていた。

 まだ魔法を使用したことはないが、おそらく威力などが底上げされるのだろう。

 

「このあたり、ある程度の数を揃えられると、私たちとしても助かりますね」

 タケウチが腕を組みながら頷く。

 

 俺も小さく頷き返す。

 

「……しかし、今回もまた所有権はイトウだ。また"お願い"するんだろ」

 本人がいるのもお構いなしに、ケイゴがタケウチに向かって皮肉るように告げる。

 

「確かに、毎度のことで大変恐縮ですが、ご相談させていただきたい」

 そう言ってくるが、そもそも俺の装備は<閃羽の短剣>で現状は事足りている。

 何本か短剣をもらえれば、それでよかったので、いつものように頷いておく。

 

 タケウチが「ありがとうございます」と小さく頭を下げてくる。

 その礼に、俺は軽く顎を引いて頷き返すだけにとどめた。

 

 

 次に取り出したのは──スキル球。

 今回、俺たちが手に入れたものは二種類ある。

 

 ひとつは、<土棘(最下級)>。

 もうひとつは、<治癒(最下級)>。

 

 どちらも、クラスは最下級というくくり。

 だが、スキル球という存在自体が貴重なのは変わらない。

 

「では、これも見てみましょう」

 

 タケウチが再び《識別の石板》を操作し、手元に置いた二つの球体を順に乗せていく。

 淡い光が石板の表面を走り、すぐに情報がホログラムのように浮かび上がる。

 

 ────────────────────────────────────────

【スキル球:土棘(最下級)】

 種別

 :スキル球(コモン)

 

 効果

 :スキル《土棘(最下級)》を取得可能

 地面から尖った土塊を、直線状に突き出させる初歩的な土属性魔法。

 地面がある場所でのみ発動可能。威力・速度ともに限定的。

 

 

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【スキル球:治癒(最下級)】

 種別

 :スキル球(コモン)

 

 効果

 :スキル《治癒(最下級)》を取得可能

 対象のHPを微量回復。軽度の毒・疲労を取り除く効果あり。

 効果範囲は接触または半径1メートル以内。

 

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「ふむ……やはり、実用性としては限定的か」

 タケウチがそう言いながら、表示された説明文に目を通していく。

 

「土棘の方は、あの蟻が使ってたアレだな」

 隣のケイゴが呟く。俺も頷く。

 

「実際に見てたから、イメージしやすいな。突き出す位置とタイミングを合わせれば、足止めにもなるだろうし」

 少なくとも、遠距離攻撃の手段ができるのはでかい。

 特に迷宮内部のように狭い空間では、そういった攻撃は有効なはずだ。

 

 そしてもう一つ──治癒の方。

 こちらは正直、予想以上の効果だった。

 

「……毒の治療も、できるんだな」

 小さく呟いた俺の言葉に、ミツイが頷いた。

 

「ええ、説明文を見る限り、毒と疲労の緩和まで対応しているようですね。回復量は……まあ、最下級らしいですが」

 

「最低限、回復薬(最下級)と同じ程度ってとこか?」

「そう思っておけば、まず間違いはないかと」

 

 ──ありがたい。

 

 スキルとして持てば、荷物の圧迫を減らせる。

 特に回復薬は、数が増えれば増えるほど重量がかさむ。

 アイテムボックスもあるが、今のくらいは下級、所持個数制限もあるし、できれば重かったりでかいものを入れておきたい。

 何より、いざという時に飲む手順がいちいち面倒だ。

 

 その点、スキルとして持っておけば、意識操作だけで発動できる。

 仮に消費に魔力が必要だとしても──いずれ《魔力回復薬》のようなアイテムが手に入るようになるだろう、と想像はついた。

 

「治癒も、できれば複数手に入れておきたいところだな」

 ケイゴが少し顎をさすりながら言うと、

 

「贅沢を言えば、上級の回復スキルが欲しいですが。深い階層に期待ですね」

 

「まあ、まずは基礎から固めていきましょう」

 タケウチとミツイも続く。

 

 毒への対抗手段が少ない今の段階では、この“最下級”でも十二分に価値がある。

 下手な武器よりも、よほど命を救ってくれるかもしれない。

 

 スキル球、二つ。

 どちらも実用に足る“成果”だった。

 

 

 

「さて、では……メインディッシュといきますか」

 

 そう言って、俺はポーチの奥から、それを取り出した。

 

 掌に収まるほどの大きさの鍵。

 鈍く、そしてやや赤みを帯びた金属光沢。

 いかにも“銅”といった風情の素材に、簡素な装飾が彫り込まれている。

 だが、それ以上の情報は一切ない。手にしても、何かが起きるわけでもない。

 

 表示されていた名称は──<銅の鍵>。

 それだけだ。

 

 使用用途も、対象も、まったくの不明。

 

 俺は、その鍵をタケウチに手渡す。

 

「……お願いします」

 

 言葉少なにそう告げると、タケウチは頷き、すぐさま石板の前に立った。

 慎重な動きで、石板の中央に鍵をそっと乗せる。

 淡い光が一閃。

 その直後、石板に文字が浮かび上がった。

 

 ────────────────────────────────────────

【銅の鍵】

 種別

 :消耗品(レア)

 

 効果

 :迷宮内にて発生する宝物庫を開けるための鍵。

 銅の扉に対応している。

 

 ────────────────────────────────────────

 

「……宝物庫?」

 

 思わず、言葉が漏れた。

 それは、俺の内心の驚きが、声になった瞬間だった。

 

「おいおい! こりゃだいぶワクワクする代物じゃねえか!」

 

 隣でケイゴが目を輝かせる。

 その反応も無理はない。

 “宝物庫”──文字通り、宝の詰まった部屋。

 そんな響き、冒険者にとってこれ以上の甘美な誘惑はない。

 

 だが。

 その高揚感を、俺の胸の奥にある引っかかりが、静かに引き留めていた。

 

(……この一文だ)

 

 迷宮内にて発生する、という表記。

 

「……この文章のまま受け取るのであれば、すでに行ったことのある場所でも、この部屋が急に出てくる可能性があるのでしょうか」

 ミツイが、俺と同じ疑念に辿り着いたのか、顎に手を当てたまま静かに言う。

 

「あり得るな。『発生』って単語は、あらかじめ存在している、って意味ではなさそうだし」

「つまり、ランダムで──か」

「うん。条件は分からないけど、トリガー次第で“扉”が出てくるって可能性は高いと思います」

 

 ケイゴの言葉に頷きながら、俺は、鍵の表面に彫られた紋様を見つめた。

 

(宝物庫……。だけど、罠や敵がいる可能性もある)

 

 “銅の扉”と対応しているという記述が、どこかゲーム的だと思った。

 ということは、他にも“銀”や“金”、“黒”や“虹”みたいな鍵も存在するのかもしれない。

 それぞれ、開ける部屋のレアリティが異なっていたりするのだろうか──

 

「……となると、やっぱり“出現条件”を探る必要があるな」

 

「ですね。条件が分からないままだと、鍵だけが増えていく可能性もある」

 

「もしくは──」

 

 ミツイがぽつりと呟く。

 

「──鍵を持っていなければ、そもそも扉が発生しない……という可能性も、あるのでは」

 

「……それは、ありそうだな」

 

 もしそうなら、この“鍵”を持っていること自体がトリガーになる。

 いわば、迷宮が鍵に反応して変化する──そんな風に考えられなくもない。

 

「いずれにしても、探索の幅は一気に広がりそうだな」

 俺は、再び鍵を見つめた。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

「よし! じゃあ、今回の探索の結果はこんなもんだな!」

 ケイゴが両手を腰に当てて、大きく伸びをしながら声を上げた。

 その表情には満足感がにじんでいる。

 

 外を見やると、窓の向こうにはすっかり夜が訪れていた。

 夕暮れの残照もとうに消え、深い紺色の空が、ぼんやりと光る迷宮施設の照明を映している。

 昼間の熱気が嘘のように、じんわりと冷えが部屋に染み込んできていた。

 

「イトウさんのおかげで、だいぶ迷宮の情報も集まりました。改めて、ありがとうございます」

 

 タケウチが、静かに頭を下げた。

 

 だが、俺としても問題はない。

 実際に未知のモンスターやアイテムに出会い、回収という役目を果たすたびに、自分でも驚くほど胸が高鳴っていた。

 

 知らないことを知るという興奮。

 使い道の分からない何かを手に入れ、それが予想以上に価値あるものだったと知ったときの快感。

 それは、どんな報酬よりも俺を満たしてくれた。

 

「いえ、こちらこそ。……ところで、次はどうするんですか? レベルアップもしないといけないって、言ってましたよね」

 俺が尋ねると、タケウチは目を細めて一度深く頷いた。

 

「ええ。情報が集まったのは大きな成果ですが……同時に、やるべきことも見えてきました。選択肢が増えたという意味でも、今後の方針を整理する必要があります」

 その声は、少しだけ重みを帯びていた。

 

「で、最優先と判断したのが、やはりレベル上げです。私と、ミツイ、それにシミズの三人。全員、まだまだ“第二層”の攻略には足りていません。まずは戦力の底上げが急務です」

 

 俺は黙って聞いていた。

 正直、俺自身は彼らの判断に無理して従う必要はない。

 俺はあくまで協力者であり、所属隊員ではないからだ。

 

 ──だが、それでも彼らと行動を共にするメリットは大きい。

 装備、情報、施設利用、そして人員の支援。

 自由に探索するには、ある程度“組織”との融通を利かせた付き合いが必要だと思っている。

 

「そして、もう一つ。今回はスキル球や、例の<銅の鍵>といったアイテムも手に入りました。こうした発見は非常に貴重です。ですから、装備やアイテムの収集も並行して進める必要があると考えています」

 タケウチが続けた言葉に、俺は納得する。

 戦力と装備、両輪が揃ってこそ本格的な迷宮攻略が可能になる。

 

「それで、どうするんです?」

 

 問いかけると、タケウチは手元のタブレットを軽く叩いた。

 表示された地図には、複数のルートと拠点候補が細かく書き込まれていた。

 

「まずは三鷹の“第一層および二層”でレベリングと装備集め、それにスキル球と鍵の回収。これは、私たちの隊が担当します。具体的には、他の低レベル隊員たちを第二層で戦えるレベルまで引き上げ、その戦力で回収作業を継続できるようにします。準備期間は、一週間を予定しています」

 

 なるほど。

 その間に隊員たちの練度と装備が整えば、彼らだけでも第二層の維持と回収を行えるようになる。

 そうなれば、次に目指すのは当然──

 

「その後、イトウさんと合流し、三鷹“第三層”への本格的な探索に移行します」

 

「……第三層、か」

 

 自然と、声が低くなる。

 不安がないと言えば嘘になる。

 だがそれは俺より彼ら──タケウチたちに対してだ。

 

「……少し急では?」

 俺の問いに、タケウチはきっぱりと首を横に振った。

 

「我々も、一週間の間にしっかりとレベルアップを行います。その結果、もし第二層の攻略に不安が残るようであれば、当然その時点で予定を見直します。無理はしません」

 そこまで言うなら、こちらとしても異論はない。

 

「……了解です。じゃあ、一週間はフリーってことですか?」

 隊の行動には俺は含まれていない。

 彼らが三鷹の第二層で訓練と装備回収を行う間、俺は──? 

 

「はい。イトウさんには、七所迷宮の“第二層”に行っていただきたいです」

 

 タケウチが、迷いのない声で言い切った。

 

 七所迷宮。

 

 以前ケイゴとミツイとの三人で一層をクリアしたあの迷宮。

 その第二層。

 つまり、未知の階層。

 

「なるほど……わかりました」

 俺は、少しだけ口元を緩めた。

 

 




最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

さてさて、いろいろと判別していただきました。
酷使される石板くん。可哀想に。
さて、次は七所に行かされるイトウくん。どうなることやら。
次もお読みいただけますと幸いです。

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