ポイント交換だけで成り上がる!? -ダンジョンの回収屋が無双中-   作:鳥獣跋扈

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第46話 ギリギリの闘い

 巨人──いや、“忌廃の守主”と名乗ったその存在を、俺はじっと睨みつけた。

 

 どう考えても分が悪い。目の前のそれは、まるで巨大な絶望の塊だ。真正面からぶつかれば、こちらが粉々になる未来しか見えない。ならば、どう動くか。先んじて攻めるべきか、それとも一手様子を見るか。

 

 考える暇も惜しい。

 そのとき、奴の右腕が、ゆっくりと──まるで儀式のような動作で、空へと掲げられた。

 

「来る……!」

 

 本能が叫ぶより早く、俺の身体は反応していた。

 双剣を構え、腰を落とす。全神経を刃先へと集中させ、腕の一本一本にまで意識を注ぎ込む。何が来ても対応できるように、心臓の鼓動さえも抑え込む勢いで身を固めた。

 

 ……だが、正直、メイリンの方まで気を配る余裕はなかった。

 目の前のそれが放つ威圧感は尋常じゃない。視界の端すら奪われる。全てを、ただこの瞬間に集中させるしかない。

 

 そして──振り下ろされた。

 

 その空の右腕が、無造作に、しかし途轍もない圧を込めて振り下ろされる。

 同時に、ゴオッと風が渦巻き、部屋の空気が捻じれる。

 

 次の瞬間、残されていた壁の槍の一本が──いや、まるで“引き抜かれる”ようにして宙を駆け、俺に向かって一直線に飛んできた。

 

「──ッ!!」

 

 認識するのと、飛びのくのとがほぼ同時だった。

 回避はギリギリ間に合ったが、槍が通過した空間に残った熱気と圧力が、顔を撫でていく。

 

 耳元で空気が焼けるような錯覚がした。肌に感じるのは、冷や汗と震え。

 

(クソ……一発目でこれか……!)

 体中がギチギチに張り詰めている。筋肉も神経も、今や手のひらの震えすら情報として流れ込んでくる。全身を走る電気信号が、まるで自分が機械になったかのように明瞭だった。

 そんな中、視界の端でメイリンの姿がちらりと映る。

 

 片腕をこちらに向け、何かを発動した直後のように肩で息をしていた。

 

「集中スキル……っ! 一回で十分くらいしか持たないから……!」

 声が震えていた。だが、その中にも意思が宿っていた。

 バフスキル! あの瞬間、回避できたのは、メイリンの支援あってこそだ。……助かった。

 

 相手からこれ以上視線は外せない、こくりと頷き目のまえに集中し直す。

 

 

 忌廃の守主は、飽きもせず、執拗に瓦礫の山から武具を引き抜き続けていた。剣、斧、果ては歪んだ盾まで──次々に投げ放つそれは、重さや形状の常識を無視して、まるで訓練された兵士の槍のような鋭さで迫ってくる。

 

「こっち、来るッ!」

 メイリンの鋭い声に、反射的に体を捻って左へと跳ねた。その瞬間、俺のすぐ背後の床を盾が抉り、地を裂いたような音が響く。息を飲む間もなく、間髪入れず次の剣が空を裂いて突き刺さってくる。

 

「はや……ッ」

 まるで間断のない豪雨のような攻撃だった。バフで研ぎ澄まされた集中力で、何とか紙一重で避けているが、それだけで限界が近いのが分かる。俺も、メイリンも。

 

「左から! 跳んで!」

 叫ぶように指示を出すと、メイリンが即座に身を沈めた。その頭上を、まるで切り裂くように重厚な斧が唸りを上げて通過していく。その風圧に彼女の髪が舞ったのを視界の端でとらえながら、俺はすぐに飛んでくる別の槍を跳躍でかわす。

 

 ……跳んだことを、すぐに後悔した。

 

 宙にある身体は、狙い放題。頭でそれを理解した瞬間、視界いっぱいに広がる巨大な盾が、壁のように俺を押し潰しにかかってきていた。

 

(やば──っ!)

 

 本能が警鐘を鳴らす。足を突き出して衝撃を逸らそうとした、その時。

 

 ビューッ──と風を裂く音と共に、後方から一本の矢が飛んできて、盾のど真ん中に突き刺さった。魔力を込めた矢だ。わずかに減速した盾の動き。そこを逃さず、俺は盾に足裏を当てて反発を利用し、空中で軌道を逸らすように飛びのいた。

 

 着地の衝撃が下半身に鈍く響く。まるで高所からコンクリの地面に叩きつけられたかのようだった。それでも、何とか両足で着地し、膝をつきながらも体勢を立て直す。すぐ隣には、弓を構えたまま肩で息をするメイリンの姿があった。

 

「助かりました……!」

 短く礼を告げると、彼女は浅く頷いて、口元を引き結びながら守主を睨みつける。

 

「まだまだ……こっちは避けてばっかだからね……!」

 

 その言葉に、俺も奥歯を噛み締める。──そうだ。今のままじゃ、ジリ貧だ。

 避けて、耐えて、消耗するだけじゃ……こっちが先に潰れる。やるなら──そろそろ打開の一手を考えなきゃならない。

 

 だけど、どうする? 

 

 

 忌廃の守主──黒き巨躯は、今なお微動だにせず、広場の中央で廃棄された武具の山を背に静かに佇んでいた。

 その不動の姿が、逆にこちらの焦燥を煽る。

 

 俺たちは、ただひたすらに投擲される武具の嵐を避け続けているだけ。あの巨人にとって、今の攻撃は“準備運動”程度でしかないのかもしれない。

 一方的に放たれる圧力に、ただ耐えることしかできていない──それが、苛立ちにも似た焦りとして、胸を焼く。

 

(このままじゃ、潰されるだけだ)

 

 俺は歯噛みしながら、守主の巨体を見据える。あの巨躯の懐に飛び込むのは、あまりに危険だ。空を舞う剣や盾をすり抜けるだけでも困難なのに、近寄った瞬間、あの腕が振り下ろされる未来しか見えない。

 

 それでも、何か──一矢報いる方法があるはずだ。

 

「……!」

 

 矢が放たれる音。横目にメイリンの弓が三度しなり、次の瞬間、三本の矢が連射で走る。狙いは、守主の頭部──あの闇に包まれた兜の奥。もし貫けるなら、あれが唯一の“急所”かもしれない。

 

 だが。

 

「ッ!?」

 金属の鳴動と共に、空から飛来した盾がその全てを遮る。まるで守主がこちらの狙いを予見していたかのような、的確なカウンターだった。

 

「くそっ……!」

 メイリンが悪態をつくのも当然だ。せっかくの好機が、あっさりと潰された。

 

 ならば──。

 

「メイリン!」

 叫びながら、俺は駆け出していた。

 

「速度重視の矢でもう一度! 囮になります!」

 言い終わる頃には、俺はすでに武具が散らばる広場を跳ねるように駆けていた。狙いはあえて、大きく開けた右側の回り込み。わざと大きく足音を鳴らし、目立つように動く。

 

「引きつけろ……こっちを見ろよ、守主!」

 刹那、忌廃の守主の頭部が、ギギ……と鈍くこちらに向いた。その動きに合わせて、背後の武具がざわりと不穏に揺れる。

 

(来る!)

 

 次の投擲を予測しながら、俺はさらにステップを踏む。狙われている今なら、守主の防御は崩れるはず! 

 

 撃て──メイリン! 

 

 心で叫びながら、俺は宙に躍った。次の瞬間、空気が裂ける音とともに、鋭い光の矢が、再び、闇を貫こうと放たれる。

 

 流星のような──まさにそう形容するしかない速度だった。

 メイリンが放った光の矢は、先ほどの数倍の速さで一直線に、忌廃の守主の頭部へと突き進んでいく。

 

(……いった……!)

 

 俺は、守主の反撃に備えて宙を飛ぶ槍と剣を避けながらも、その一撃の行方を見守っていた。確信に近い手応えがあった。だが。

 

 守主の巨体が、ふわりと揺らぐようにして身体を逸らす。矢は掠めるようにして、目標を外れた。

 

(避けやがった……!)

 次の瞬間、矢が飛翔の先にあった、空中に浮かんでいた一本の剣にぶつかる。

 

 ──ガリッ! 

 

 乾いた衝突音と共に、剣の中央にビキッと亀裂が走り……それは、まるで砂に還るかのように、粒子になって霧散した。

 

(……消えた?)

 一瞬、あの外で戦った剣の魔物の姿が脳裏をよぎる。似た反応……だが、あれよりも脆い。

 

(耐久が……低い?)

 ならば、あれらの武具は"本体"ではない。破壊可能な、投擲武器に過ぎないということだ。

 が、それがどうした。反撃に転じられるわけでもない。手がかりにはなるが、打開にはまだ遠い。

 

 ……そう思っていた。

 

 しかし、その時だ。

 

 守主が、矢で破壊された剣のあった空間に、静かに視線を向けた。

 まるで、懐かしむような、あるいは悼むような……奇妙な沈黙。

 

「……剣豪ルウドよ……」

 

 低く、くぐもった、誰に聞かせるでもない呟き。

 何の意味かはわからない。が、確かにあの巨人の動きが止まった。

 

 チャンス──! 

 

 メイリンが素早く次の矢を射るが、それは反応した浮遊盾によって容易く防がれる。けれど、それでも守主の視線は、剣が消えた空間に注がれたままだった。

 

(……動かないなら、仕掛けるしかない!)

 

 思考が身体を追い越す。俺は地面を蹴った。

 全速で加速、守主との距離を詰めていく。足元から風が巻き上がる。

 途端に飛んでくる武具の群れ──だが、明らかに、先ほどよりも鋭さが鈍っていた。

 

(いける──!)

 迫る短剣。咄嗟に双剣で叩き落とすように薙ぐ。

 

 ──ガンッ! 

 

 音と共に、手応え。次の瞬間、短剣はひと筋の光の粒子になり、霧散した。

 

(……やっぱりだ。壊せる)

 俺は食らいつくように、さらに一歩踏み込む。

 守主の視線が、今度は俺に向けられた。否──俺ではない。今、俺が壊した短剣の消えた空間を見ている。

 

 まるで、死者の墓標でも見るように──。

 

 その“間”を突き、俺は跳び上がった。

 

「喰らえ──!」

 

 叫びと共に、双剣を交差させて一気に振り下ろす──

 

「っ……ぐぅおッ!」

 

 だが、次の瞬間、視界が傾く。

 守主の巨腕が、まるで反射のように振るわれた。鋼の壁のような一撃。

 

 双剣を構えたままの俺の身体は宙に弾かれ、何もできないまま後方へ吹き飛ぶ。

 視界がぐるりと回転し、背中から壁へ激突。

 

「ぐっ……が……ッ!」

 

 肺が、空気を失う。視界が滲み、耳鳴りが響く。

 それでも俺は、地に崩れ落ちるまいと膝に力を込めた。

 

(まだ……終わってない)

 

 気配を感じる。守主は、こちらにとどめを刺す気配を見せない。

 治癒をかけながら、見上げる。

 

 

「……在りし日のツィードよ……」

 

 まただ。

 忌廃の守主が、朽ちた武具に何かを重ねるように、ぽつりと呟く。

 

 その声を耳にしながら、俺は、肺の奥からこみ上げてくる鉄の味に顔をしかめた。

 ──ゴホッ、ゴホッ……! 

 

 血と、胃液のようなものが口からあふれる。熱い液体が顎を伝い、床に滴り落ちた。

 

「大丈夫ですかっ……!」

 

 メイリンが駆け寄ってくる。心配そうな瞳に、片手を軽く挙げて応じると、彼女はすぐさま虚空から一本の瓶を取り出して差し出してくれた。

 赤褐色に澄んだその液体。恐らく回復薬だろう、だが色からして最下級ではない。

 

「……悪い、助かります」

 受け取って、迷いなく一気に喉へ流し込む。

 直後、ずしりとした癒しが身体の奥からじわりと広がっていく。さっきまで焼けついていた内臓が、すぅっと冷めていくような感覚に包まれた。

 

「中級の回復薬です。……虎の子なんで、乱用はナシでお願いしますね」

 

「最初に渡しといてくれりゃ助かったんですけどね……」

 苦笑交じりに呟く。が、今は咎める気力もなかったし、タイミング的にもベストだった。

 それに、守主の様子がまたおかしい。

 

 俺たちのことなど眼中にないかのように、さっきからずっと、空間の一点──破壊された武具のあった位置を見つめている。

 

「……あれ、武具を壊すと何か起きてますよね」

 メイリンが俺の横で、まだ警戒を解かないまま訊ねてくる。

 

「……ええ。剣に続いて短剣も──壊した時の反応が明らかに違ってた」

 けど……その先が、見えない。

 

「もし全部壊す必要があるって言われたら……」

 思わず目をやった部屋の隅々まで、散乱する武具。床にも、壁にも、天井にまで突き刺さっている。

 見えるだけでも優に百は超える。それを一つ一つ破壊するなど、現実的ではない。

 

 ──そう、思っていた、その時だった。

 

 ふと、頭の奥底で灯るような感覚。

 脳裏に、自分のスキルの存在が浮かんだ。

 

(……ポイント変換……アイテムを“回収”できるあの能力。もし……)

 

 俺は、立ち上がった。

 

「……!」

 

 メイリンが驚いた顔でこちらを見ている。だが説明している暇はない。

 守主は、こちらをちらりと見ただけで何もしてこない。今のうちだ。

 

(頼む……うまくいってくれ……!)

 

 目標は明確だった。壁に突き刺さった一本の斧。

 俺はそこに向かって駆け出し、武具の柄に手を伸ばす。指がかかり、力を込めて引き抜いた──

 

 ずしりと手に伝わる重さ。

 

 だが、それはほんの一瞬。

 

 次の瞬間には手からふっと斧が消え、脳裏にあの感触が走った。

 俺だけが知る、アイテムがポイントへと変換されたときの独特の感覚。

 

 目の前に、光のパネルが静かに浮かび上がる。

 

 

 

 

 ──【灰牙(はいきば)の斧(破損): 3,350P】

 

 

 

 

「……いける……!」

 




最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

何とか耐えていたイトウ君たち。いまこそスキルを使うのです。。。!
次もお読みいただけますと幸いです。

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