ポイント交換だけで成り上がる!? -ダンジョンの回収屋が無双中-   作:鳥獣跋扈

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第47話 回収回収また回収

 目の前で、重そうな戦斧が蒼い粒子となって弾け、空中に溶けるように消えた。

 ……間違いない。この力、俺のスキルの応用。武具を破壊するんじゃない、回収してるんだ。

 ならば、あえて戦う必要はない。こいつの武器を消してしまえば、攻撃手段そのものを奪えるかもしれない……! 

 

「……やれる!」

 

 俺は口の中で呟いた。

 もちろん、全部がうまくいくとは限らない。武具を消したことで、逆に守主が本気を出してくる可能性だってある。だが、このままじりじりと攻撃をかわし続けていても、どのみちジリ貧なのは変わらない。

 

 ──打開するなら今しかない! 

 

 決意とともに、俺はメイリンへと声を張り上げた。

 

「メイリン! 俺はこのまま駆けながら、武具を回収する! サポート頼む!」

 

 視線を交わす。メイリンは一瞬、ぽかんと目を見開いた。理解が追いつかない──だろうな、そりゃそうだ。

 

「……!? ちょっと何言ってるか分かんないけど、わかった! 後でちゃんと説明してもらうからね!」

 

 彼女は瞬時に表情を引き締め、背中の弓を翻すと、躊躇なく魔力を込めた。

 空気がざわつく。彼女の矢に宿った気配が、皮膚の上を焼くように伝わってきた。

 

「……魔力充填──」

 

 ぎゅ、と弓弦を引き絞る。が、矢は一本ではなかった。

 いつの間にか、彼女の周囲には十数、いや、二十を超える矢が浮かび上がっていた。まるで弦など存在しないかのように、空間に均等に、静かに待機している。

 

「──流星群……!」

 

 その名を告げた瞬間、彼女の全身から鋭い魔力が奔る。

 

「いけぇっ!!」

 

 メイリンの叫びとともに、空を切り裂くような音が響き、幾十もの魔力矢が一斉に解き放たれた。

 風を切る音、空を貫く閃光。それはまさしく流星のように、複雑に軌道を描きながら忌廃の守主へと襲い掛かっていく。

 

「今だ……!」

 

 俺は跳ねるように床を蹴った。

 まず手を伸ばしたのは、足元に転がっていた錆びた黒剣。握った瞬間、それが微かに脈打ち、粒子となって崩れ落ちていく。

 情報が走馬灯のように脳裏をよぎる。

 

 ──【血潮の黒剣(破損)  : 5,200P】

 

 次に目に入ったのは、床に突き刺さっていた細身の刃。柄を掴むと、抵抗なく引き抜けた。古びた装飾と欠けた刃先から、それが長く使われた名品であることがわかる。

 

 ──【千鳥の小刃(破損)  : 11,230P】

 

 視界の端で、メイリンの矢が守主の腕をかすめて爆ぜた。短い叫び声が木霊する。

 

 構っていられない。俺は駆けた。呼吸を忘れるほどの速度で、室内をひた走る。

 

 突き刺さっていた大槍を蹴り飛ばすようにして回収し、柱の陰に立てかけられていた輪盾に手を伸ばす。どれも一瞬のうちに光の粒子と化し、俺の背後で霧散していく。

 

 ──【地裂きの突槍(破損) : 29,300P】

 ──【白銀の輪盾(破損)  : 10,850P】

 

「こっち、まだあるわよ!」

 

 メイリンの声が飛ぶ。視線を向けると、瓦礫の山の中に、ひときわ大きな武器の柄が突き出ていた。

 あれは……鎚か。

 

 俺は呼吸を整えず、一直線にそこへ跳び込んだ。瓦礫を踏みしめ、手に取った巨鎚はすでに柄がひび割れていたが、それでもなお威圧感があった。

 

 ──【巨腕の鎚(破損)   : 4,400P】

 

「おおおおおおおおお!」

 

 吼えながら、俺は駆け続ける。

 拾い上げ、砕き、回収する。

 走った軌跡が、まるで尾を引く流星のように光の粒子で彩られていく。俺の体も、もはや風の一部のようだ。

 

 忌廃の守主は、まだその場を動かずにいた。だが、メイリンの矢を弾きながらも、こちらを一瞬だけ見たその眼差しに、確かに揺らぎがあった。

 戸惑いか、あるいは恐れか。

 

「動かないうちに、どこまで回収できるか……!」

 

 焦りと興奮が入り混じる。脳が焼けつくような速度で思考を回転させ、次に狙うべき武具を見定める。

 メイリンの矢が、俺の背を守るように飛び交い、守主の視線を再び逸らす。

 

「メイリン、もう少しだけ、頼む!」

 

「任せて……っ、今が正念場でしょ!」

 

 矢が飛ぶたび、金属の弾ける音が響く。

 その合間を縫って、俺はさらに数本の剣と、割れた盾、砕けた斧を回収する。

 

 駆ける足音の合間に、ちらりとメイリンの方を見やる。

 

 彼女は立ち止まることなく、矢を番え、放ち、そして腰のポーチから瓶を取り出しては喉に流し込む。その動作に一切の迷いはない。あれは──恐らく魔力回復薬か。喉を鳴らす音まで聞こえてきそうな勢いで、彼女は次の一射へと移っていく。

 

 俺たちが駆け抜けるたび、地面に突き刺さったままの武具が徐々に減っていく。斧も剣も、盾も、いずれも腐蝕し朽ちかけてはいるが、忌廃の守主がそれらに魔力を込め、次々と飛ばしてくるせいだ。俺たちはその度に身を翻し、転がり、時には互いを引き寄せて回避し続けていた。

 

 だが──あいつは、まだ動かない。忌廃の守主はその場にじっと立ったまま、余裕すら感じさせる構えで、まるで俺たちの疲弊を待っているかのようだ。

 

 焦りが胸を焼く。

 このままでは、まずい。

 

 そんな時だった。

 

 ──ギギ……ギチ……。

 

 金属が軋む音が、低く響いた。

 

 忌廃の守主が、ついに動いた。山のような上半身がぐらりと揺れ、背中に突き刺さっていた武器のひとつ……ひときわ巨大な大剣を、ゆっくりと抜き取る。その刃は、どこか黒ずみ、禍々しい光をまとっていた。人間なら両手でようやく扱えるような大剣。だが、あいつが持つと、まるでただの長剣にしか見えない。

 

 そして、その一撃は、メイリンに向けて放たれた。

 

「っ……!」

 

 放たれたばかりの矢が空を裂き、メイリンの弓がほんの一瞬、休まった隙を突いた攻撃だった。

 彼女の目がわずかに見開かれる。間に合わない──そう思った。

 

 考えるよりも早く、俺は手元にあった錆びた槍をつかみ取っていた。すぐ傍で回収されかけていたそれを、全力で──全身全霊で──振りかぶる。

 

「……間に合ええええッ!!」

 

 雄叫びと共に、俺の腕がうなりを上げる。筋肉の筋が悲鳴を上げ、皮膚の下でブチッと嫌な音すら感じる。それでもかまうものか。俺は投げた。

 槍が風を裂き、一直線に飛ぶ。びゅおん、という破裂音のような衝撃が耳を打った。

 

 ──ギィン!! 

 

 刹那、守主の振り下ろす剣の刃が、微かにずれた。わずかに角度が逸れたことで、地面が抉られ、土埃が激しく巻き上がる。砕けた槍の破片が火花と共に散り、俺の目に飛び込んできた。

 

 メイリンは、ぎりぎりで身を翻していた。

 

「……助かった……」

 

 彼女の呟きが、かすかに風に乗って聞こえた気がした。全身の力が抜ける。その隙に倒れていたら、きっと次は俺がやられていた。

 けれど、命のやりとりは、まだこれで終わりじゃない。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 あれから、どれほどの時間が経ったのだろうか。

 

 一分か、それとも十分か──感覚がもう狂っていて、うまく測れない。

 ただ、メイリンが掛けてくれたバフの効果がまだかすかに残っているように感じた。脚の軽さと、わずかに薄れた痛みが、それを物語っている。

 つまり、少なくとも十分は経っていないということか。

 

 ようやく、部屋中に散らばっていた武具──忌廃の守主が投擲武器として使った剣や斧、槍や盾、果ては折れたハンマーの柄まで──その大半を回収し終えた。

 守主の胴体に刺さったままのそれらだけはどうにもならなかったが、それ以外はほとんど拾い集めて、ポイントへと変換した。

 

 その間、俺はほとんど立ち止まることなく、ひたすらに駆け回っていた。

 体の節々が軋み、肺が焼けるように苦しい。口はぱっかり開いて、舌を突き出すようにして呼吸を繰り返す。その姿は、きっと犬のようだったに違いない。

 

 しかも、すべての投擲を避け切れたわけじゃない。

 

 右肩、左脇腹、太もも、頬、背中。

 どこもかしこも切り傷だらけで、動くたびにピリピリと皮膚の奥が痛んだ。服はすでにぼろぼろで、血が滲んで黒ずんでいる。

 

 ちらりと、メイリンのほうを見やった。

 

 彼女もまた、俺と同じようにぼろ雑巾みたいな姿だった。

 弓を構える左腕が細かく痙攣している。顔色はひどく青白く、唇の端がうっすら震えている。魔力の使いすぎだろう、何とか立ってはいるが、今にも膝を折りそうな気配が伝わってくる。

 

 それでも、俺の視線に気づいたのか、メイリンがふと顔を上げ、苦笑を浮かべた。

 

「……生きてる?」

 

 掠れた声で、それでもどこか冗談めかして。

 俺も力ない笑みで返す。

 

「……なんとかね」

 

 それだけのやり取りでも、言葉にするには勇気がいった。息が苦しくて、喉が焼けていて、それでも確認し合いたかった。お互いが、まだ無事でいるということを。

 

 そして──

 守主は、部屋の中央に立ち尽くしていた。

 

 頭をわずかに仰ぎ、天井を見上げたまま、まるで彫像のように微動だにしない。

 さっきまでの投擲ラッシュが嘘だったかのような静寂が、あの巨体の周囲にまとわりついていた。

 

(……今なら、攻撃できる)

 

 そう思っても、体が動かなかった。

 こちらの消耗も、限界に近い。さっきまで回避に全力を尽くしていた足も腕も、震えて言うことを聞いてくれない。

 

 せめて、回復を……。

 

 俺は治癒魔法を唱えた。掌から緑色の微光が立ち上り、皮膚の表面をなぞるように傷を塞いでいく。すべてを癒すには足りないが、ひとまず動ける程度には戻せた。

 メイリンも、腰のポーチから回復薬の瓶を取り出して、一気に煽っていた。手が震えて、中身の半分ほどはこぼれていたけれど、それでも彼女の頬にわずかな赤みが戻る。

 

「……まだ終わっちゃいない」

 

 そう心の中で呟いて、俺はもう一度、守主を見据えた。

 

 ぴたり、と空気が凍りついたように感じた。

 

 天を仰いで動かなくなっていた守主が、まるで誰かの声に応じるように、低く、しかし確かな響きで言葉を紡ぎ出す。

 

「──古の戦士たちよ」

 どこか遠くを見るような虚ろな目。だが、その声は俺の鼓膜を震わせるほどの重さを帯びていた。

 

 思わず俺は身構えた。何が起きるのか、次の一手はどこから飛んでくるのか──だが、守主は俺たちに構う様子もなく、淡々と語り続ける。

 

「魂の欠片が……そちらに向かった」

 

 魂の欠片? 一瞬意味が呑み込めなかったが、そのまま問う間もなく、守主の視線がふいに動いた。

 

 カクン、と機械仕掛けのような動作で首が傾き、その仮面越しの瞳が俺たちのほうへ、すっと下りてくる。

 

 その瞬間、全身の毛穴が開くような感覚に襲われた。

 

「我が身と契りを交える戦士たるか」

 

 その言葉に、無意識のうちに喉が鳴る。足の裏が粘土に埋もれたように重くなり、空気がさらに一段階、圧縮されていくのを感じた。

 

「確かめる」

 

 守主が呟いた瞬間だった。

 カチリ、と骨のきしむような音とともに、あの大剣が再び右手に構えられる。先ほどとは違う。構えたというだけで、空間ごと押し潰されそうな“圧”があった。

 

 静かな威圧──いや、これは静寂の仮面を被った殺気だ。

 俺も、メイリンも、息を呑んだまま動けなかった。

 

 本番は、これからだ。




最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

なんとか周囲の武具を回収し終えたイトウくん。
だがこれからが本戦っぽいぞ!頑張れ!
次もお読みいただけますと幸いです。

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