ポイント交換だけで成り上がる!? -ダンジョンの回収屋が無双中- 作:鳥獣跋扈
まさかの遅れで一日ずれ込みました。。。。
眼前に広がる灰色の群れ。
敵──巨大な狼と、その取り巻きたちは、まるで精鋭の兵のように統率されていた。
半円を描くように、じりじりと距離を詰めてくる無数の狼たち。
その眼は、光の届かぬ深淵のように濁りなく、ただこちらを“狩りの対象”として見定めている。
中央奥に鎮座する巨躯の狼は、まるで動く気配を見せない。
だがその両目だけが、氷のように冷たく、明確な殺意をもってこちらを見据えていた。
……あれが“親玉”か。
圧倒的な気配の差に、呼吸がわずかに乱れそうになる。
だが、そんな俺たちを上空から観察している存在──管理人──の視線の方が、むしろ厄介だった。
浮かんだまま、胡坐をかき、飄々とした顔で俺たちを見下ろしている。
(……今のところ、手出しはしてこなさそうか)
“最悪のパターン”を頭の中で切り捨て、そっと息を吐いた。
あいつがちょっかいを出してきたら詰む。そう思わせるだけの余裕が、あの態度から滲み出ていた。
俺はメイリンにだけ聞こえるように、声を落として言った。
「まずは様子見で突っ込んで雑魚を散らす。後ろのデカいのに注意しておいてくれ」
メイリンは小さく頷く。
その視線は、すでに戦場の一点へと結ばれていた。
──いくか。
呼吸と心拍を同調させ、一歩目を踏み出した瞬間。
脚に込めた力が、爆発のように全身へと伝わる。
守主戦、ネズミ型のときと比べ、明らかに“走り出し”が違う。
滑るような加速、重力に縛られないような身体の軽さ。地面を抉るどころか、風のように地を滑っていく。
──俺自身が、驚くほどに“消えていた”。
取り巻きの狼たちは、俺を見失ったまま、空を切るように牙を鳴らしている。
だが奥の巨狼だけは、動かぬ体のまま、しっかりと俺の“本当の位置”を見据えていた。
いや……管理人も、だ。やはり俺の気配を捕らえている。視線の先で、ぴたりと気配が重なるのを感じた。
──構うな、今は“雑魚”だ。
すり抜けるように、三体の取り巻きに接近。
刀身を閃かせる。首筋へ、喉元へ、骨の繋ぎ目へ──迷いなく刃を滑らせた。
ぴしゃり、と斬撃が走る。
……その刹那、切りつけた三体の狼の体が、青白い光を帯びて震え出した。
「……っ!?」
ピリピリと音を立て、帯電した体から稲妻がほとばしる。
近くにいた別の狼たちに向かって、雷が鎖のように伸びていく──
連鎖放電。
思わず足を止めた俺の頭上目掛け、一匹の狼が跳んだ。
電撃の範囲から逃れた一体が、こちらの隙を見逃さずに飛び掛かってきたのだ。
俺はすぐさまバックステップで後退。
着地と同時に、再び戦線の後方へと戻る。
「……ふう。雷の連鎖……鳥顔さんが掛けてくれたのは、こういうことか」
切った相手に雷属性を“付与”する──
そしてその雷は、隣接する対象に連鎖して痺れを与える。
電撃を食らった狼たちは、バチバチと音を立てて身をよじらせ、その場で硬直していた。
チャンス、だが、追撃は俺ではない。
空気を裂く音とともに、空中をいくつもの光が駆けた。
──魔力をまとった矢。しかも、一本や二本ではない。
雷を纏ったそれらが、硬直した狼たちに容赦なく突き刺さる。
ズドン、と重い音が響いたかと思うと、雷が重なるように爆ぜ、閃光の中、焼け焦げた狼たちが黒煙を上げて崩れ落ちる。
矢が刺さった狼の一体は、力なくドサリと倒れ、痙攣したまま動かなくなった。
目を向けると、メイリンが矢を放った残身の姿勢を保っていた。
放った勢いで舞った空気で髪が風に揺れ、額には薄く汗。
だがその目はまっすぐに次の標的を捉えていた。
「いい感じだ。この調子なら、雑魚はすぐにいなくなりそうだな」
軽く肩を回しながら口にした俺の言葉に、メイリンがやや語気を強めて返してくる。
その声には、余裕というより、緊張の混じった張り詰めた響きがあった。
「そっちはまだ余裕かもしれないけど、私の方は結構いっぱいいっぱいなんだからね? 鳥顔さんのバフが効いてる今のうちに、さっさと片付けるわよ」
そう言って、腰のポーチから取り出した魔力回復薬の瓶を、勢いよく口に含む。
ごく、という喉の動きがこちらにも伝わってくる。
思ったよりも、魔力の消費が激しかったようだ。あれだけの速射と重ね撃ちを放てば当然か。
親玉の巨狼は、まだ動いてはいないが……確かに、俺の突撃に反応できるほどの実力者だ。
今は様子見に徹しているが、油断はできない。
長引かせれば、展開は悪くなる可能性もある。
そう結論づけて、俺はメイリンの方を見た。
「さっきのでわかったわ。速射で動きを止めてから大技に繋げば、雑魚くらいなら私でも仕留められる。そっちは奥の……アレをお願い」
飲み干した薬瓶を片手で軽く振ると、くるりと後ろへ放り投げ、カシャンと音を立てて地面へ落とす。
その手はすでに魔力の矢を数本、番えていた。
「了解。任せろ」
頷くと同時に、俺は地を蹴った。
メイリンの矢が光の尾を引いて空を裂く。
その放たれた軌道の先に、じりじりと距離を詰めてきていた雑魚の狼たちがいる。
俺は矢の先導を追い抜くように、一直線に巨狼へ向かって突っ込んだ。
その黒く分厚い体は、まるで山のように不動のまま、こちらを睨んでいた。
正面突破──そう見せかけて、急制動。
足の裏で地を擦り、弾かれるように横へ滑る。
攻撃範囲のギリギリ外を掠めながら、さらにフェイントを入れて視線を外し、死角へと滑り込む。
──ここだ。
一瞬の隙に、懐へ踏み込む。
刃を引き抜き、巨狼の分厚い首筋へと全力で斬撃を叩き込んだ。
大の男が数人で抱えるほどの太さ──その半ば近くまで、手応えのある切断感が腕を通して返ってくる。
血飛沫が飛び、毛並みの下の肉が裂ける感触が確かにあった。
が。
その刹那、巨狼が──笑った。
視界の端で、裂けた口元がにたりと歪むのが見えた。
「──ッ!?」
次の瞬間、ぐらりと巨体が傾ぎ、その巨腕が唸りを上げて振るわれる。
避ける間もなく、俺は空中で腕を交差させて防御の体勢に入る。
だが──遅かった。
鉄骨が横なぐりに叩きつけられるような衝撃。
重力と反動に吹き飛ばされ、空中でぐるりと一回転しながら、背から壁へと突き刺さった。
「ぐっ……!」
肺の中の空気が抜け、口の中が鉄臭く染まる。
「イトウさん!!」
メイリンの叫び声が、どこか遠くで聞こえる。
それでも俺は、壁を蹴って体を引きはがし、再び前へと飛び出した。
口の端から垂れた血を、ぺっと吐き捨てる。
アイテムボックスから回復薬の瓶を取り出すと、そのまま一気に飲み干した。
「ふう……少し油断したみたいだ。にしても、あの傷で反撃してくるなんてな」
肩を竦めるようにして、片手をひらひらと振ってみせる。
メイリンが安堵したように、胸に手を当てて息をついた。
周囲を見ると、狼の群れはすでに半数以上が倒れていた。
メイリンが仕留めたのだろう、矢が突き刺さったままの狼たちが、黒煙を上げて地に伏している。
残るは二体。だが──
巨狼へと目を向ける。
その首は、俺の一撃によって半ばまで切断され、皮一枚で辛うじて繋がっている状態だった。
(やったか……?)
一瞬、勝利を確信しかけた──そのとき。
遠くで、雑魚の一体が、けたたましく吠えた。
「──うおおおおおん!!」
獣じみた咆哮が、空気を震わせる。
その声に呼応するかのように、巨狼の裂けた首が、みるみるうちに閉じていく。
傷口から、肉が再生し、皮膚が這い寄り、血すら止まっていく。
それだけではない。
地に伏していた狼たちが、一頭、また一頭と起き上がる。
中には、毛皮が焦げ、肉が黒ずみ、骨が露出した個体もいる。
それでも、呻きながら、無理やりに身体を引き起こす。
さらに──完全に首を斬り落とされたはずの個体までもが、頭部のないまま、四肢で立ち上がった。
「……げぇっ! 気色悪っ……!」
メイリンが、思わず顔をしかめ、吐き捨てるように言った。
その声に、俺も小さく息を呑んだ。
(……なんだコイツら。まさか……全員、不死か?)
──これは、まずい。
ただの“群れ”ではない。
“死なない”集団だとしたら……
「なんて──インチキ!」
メイリンが苛立ちを隠せぬ声で叫びながら、矢を番えて放つ。
その矢が着弾するや否や、稲妻の閃光が狼たちの間を駆け巡った。バチバチと連鎖する雷光が、立ち上がろうとしていた数体を再び地面に叩き伏せる。
皮膚を焦がし、毛並みを焼く音。鼻をつく焼けた肉の匂いが、さらに濃く立ち込めていた。
しかし、それも束の間だった。
他の狼たちは既に立ち上がり、濁った目でこちらを睨みつけてくる。喉を鳴らして威嚇する者もいれば、無言のままただ首なしのまま身体を震わせて立つ個体もいた。
その異様な光景に、思わず息を呑む。
「……耐久は下がってる、みたいね。でも……このままじゃ、埒があかないわ」
メイリンの声が震えていた。焦りと、恐怖とが入り混じった声。
俺も歯を食いしばった。この再生能力は異常だ。まるで、命そのものを循環させているような、常識外れの仕組みが背後にある。
ジリジリと削られていく。時間をかければかけるほど、こちらが不利になるのは明白だった。
「……! そうだ!」
メイリンが弾かれたように顔を上げ、目を見開いた。
「さっき、吠えてたやつ! もしかして……アイツが本当の親玉なんじゃない!?」
俺も思い出す。そう、あのとき狼たちが復活した直後、吠えたのは、巨狼ではなく雑魚の一頭──。
「……なら、あいつだ!」
すぐさま脚に力を込め、雷をはね上げる勢いで駆け出す。
吠えていた狼は、群れの中でも焦げ跡が目立ち、毛並みがまだらに剥げた個体だ。
見た目は他と変わらない。だが──それが隠れ蓑である可能性はある。
一気に懐に飛び込み、首筋を狙って斬り上げる。
咆哮すら許さず、鋭く閃いた刃が骨ごと断ち切った。
「……どうだ……?」
切り抜けた先で体勢を整え、振り返る。
手応えは確かにあった。もしあいつが中枢なら──これで止まるはず。
一瞬、部屋に沈黙が訪れる。
だが、その静寂を破ったのは、別の個体の、くぐもった唸り声だった。
ボロボロになった焦げた狼が、再び吠える。
「っ……!」
次の瞬間、倒れていた個体が、またも立ち上がってくる。
俺が首を刎ねたばかりの奴すら、むくりと身体を起こした。
「なんだ……こいつら……。まさか、同時に全部倒さなきゃいけないってことかよ……!」
背筋に冷たいものが走る。
その言葉に、メイリンが食い気味に叫ぶ。
「それなら──これで!!」
魔力が収束する音が聞こえる。メイリンの手には、これまでで最多の矢が番えられていた。
一本一本に雷の力が宿り、弓全体が淡く紫の光を放っていた。
「雑魚はこれで一掃する! イトウさんは大物を、同じタイミングで!!」
「了解だ!」
俺の返事を待たず、メイリンが矢を放つ。
放たれた光は天井まで舞い上がり、無数の光の雨となって狼たちに降り注いだ。
その場の空気が焼ける。
矢が地面や狼に突き刺さり、そこから雷が連鎖して全体を包み込む。
俺はその一瞬を見極め、遅れて動く。
放電が収まったタイミングで巨狼に突進。今度は逆方向から、かつての傷の縁を切り裂くように刃を振るった。
ブチィッ──
鈍い音とともに、巨狼の首が宙に跳ねた。
「これで……今度こそ!」
荒い息の中で、全体を見渡す。
狼たちは地に伏せ、ピクリとも動かない。
ようやく終わった──その思った。
喉の奥でぐるぐると音がする。
視線を向けると、首だけになった巨狼が、まるで嗤うように口角を吊り上げていた。
──まさか。
体が、首がないまま立ち上がる。
それに呼応するように、周囲の狼たちも、ボロボロの身体のままのそりと立ち上がってきた。
首のない狼。
皮膚が剥がれ、骨が露出した狼。
どれも、生き物の“常識”から逸脱していた。
「……なんなんだ、こいつら……」
思わずこぼれた言葉が、広い部屋にむなしく反響するだけだった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
不死身(?)の狼軍団。
突破口は果たして。
次もお読みいただけますと幸いです。
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