ポイント交換だけで成り上がる!? -ダンジョンの回収屋が無双中-   作:鳥獣跋扈

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第72話 孤島

 ヘリが浮き上がってしばらく、地上が遠ざかっていく。眼下には空港の滑走路が小さくなっていき、やがて茶褐色の地面が切れ、光を跳ね返す海岸線が現れた。

 

 進路は、海へと向かっていた。

 窓の外に広がるのは一面の海。深い群青が地平線まで続いている。その中を、俺たちの乗ったヘリはひたすら進んでいた。南下した後、どうやら東寄りに旋回したようだったが、目的地の見当はつかない。

 

 国外ではない……か? 

 

 低く、独りごちる。インドネシアやマレーシアに向かっているなら、もっと別の方向のはずだ。国内の孤島かそれとも──

 だがそれも、全ては推測にすぎない。

 

 ヘリの中は、妙に静かだった。マシューは隣の座席でタブレット端末をいじっている。指先でリズムを取るように画面を叩いては、眉間に軽く皺を寄せる。その表情から読み取れる情報は乏しい。余計な言葉も、気配もない。

 

 他の二人の部下たちも同様だった。無言のまま、背もたれに深く体を預け、腕を組んでいる。会話は皆無。まるで、乗っているのが俺一人だけなんじゃないかと思えるほどの静けさだ。

 手持無沙汰だった。さっきメイリンには連絡を入れたばかりだし、迂闊に話しかける雰囲気でもない。仕方なく、視線を窓の外へ向けて、波のきらめきに意識を預ける。

 

 ──一体、何が待っている? 

 

 頭の中で、いくつかの仮説を立ててみる。だがそのどれもが、もやの中に手を伸ばすような感覚で、確かな像を結ばない。

 

 しばらくして、突然、プロペラの音が高くなった気がした。ヘリが徐々に高度を下げていく。

 

「……着いた、のか?」

 

 窓の外に目を凝らすと、島が見えた。

 小さな島だった。海にぽつりと浮かぶその姿は、人工物がなければ地図にも載らないような無名の島と見分けがつかないだろう。

 

 ぐるりと海に囲まれたその陸地は、端から端までせいぜい数キロといったところだ。中心には小高い丘がひとつ、周囲は森と荒れた草地が入り混じっている。

 島の中央部──丘の上あたりに、簡素な建造物がいくつか見えた。プレハブよりは多少しっかりしていそうだが、住宅というよりは施設。基地、あるいは研究所。そんな無機質な印象だった。

 ヘリはその丘の頂にある平地へ向かって降下していく。どうやら、そこがヘリポートになっているらしい。

 

 ローターの風圧が、機体の周囲を大きくうねらせる。ごうん、と機体が地面を噛んだ衝撃が伝わり、座席が軽く跳ねた。

 プロペラの回転音が次第に落ち着いていく中、ヘリの外に数人の影が近づいてくるのが見えた。

 

 扉が開けられ、乾いた声が飛び込んでくる。

 

「お疲れ様です!」

 

 作業着のような服装をした男たち。だがその表情や所作には、軍隊のような規律よりも、どこか荒っぽさが滲んでいた。言葉に礼儀はあるが、目つきや体の動きには獣じみた緊張感がある。傭兵、あるいはそれに準ずる何か……といったところか。

 

 俺たちが順にタラップを降りると、男たちは軽くマシューに挨拶を交わしただけで、早足で別の方向へと去っていった。

 

 俺のことは、一瞥だけだ。

 

 まるで──「俺がここにいるのは当然」とでも言いたげな、その態度に、やはり何とも言えない違和感が胸に残った。

 普通ならもっと、警戒するだろうに。

 

 マシューに続いてヘリを降りた後も、数人いた部下らしき男たちは俺たちのそばに残るわけでもなく、無言でそれぞれの方向へと散っていった。

 

 ──最初に出迎えた男たちとは違う方向だ。

 

 彼らが向かっていった先には、特に建物らしきものも見えない。森の縁が少し盛り上がっていて、その向こうは視界がきかない。が、丘を下っていった彼らの足取りは、迷いがなかった。

 

 ……何があるんだ、あっちには。

 

 そんなことを考えていた時だった。マシューの声が、久しぶりに耳に届いた。

 

「さ、こっちだ」

 

 いつものように淡々とした口調。振り向くこともなく、軽く顎をしゃくっただけで歩き出す。

 俺は遅れまいと数歩後ろを追う。

 

 向かった先には、この島に似つかわしくないほどの大きな建物がそびえていた。周囲に点在する一階建てのプレハブのような施設とは違い、そこだけ三階建てのしっかりしたコンクリート構造。妙に大仰で、異様な存在感を放っている。

 

 入口の自動ドアは、古びた機械音を立てながらゆっくりと開いた。中に足を踏み入れると、やや広めのロビーのような空間が広がっている。壁は灰色の塗装で統一され、どこか病院や古い研究施設のような無機質な空気が漂っていた。

 

 脇のスペースには、物資が入っていると思しき段ボール箱が無造作に積み上げられている。その横にはホワイトボードや折りたたみ式のデスクが数点並べられており、雑多な走り書きが所狭しと貼り付けられていた。

 

 マジックで書かれた文字、印刷された紙片、そして──何枚かの写真。

 

 一瞬足を止めて目を凝らすと、その写真のいくつかは、どうやら洞窟の入口のようだった。岩場の裂け目に、ヘッドライトの光が差し込んでいる構図。写真の下には地図が添えられており、そこから赤い線が何本か引かれている。

 

 ──あれがこの島の内部……? 

 

 考え込む暇もなく、マシューがそのまま二階へと上がっていく。慌てて俺も後を追った。

 階段を昇った先、最初の扉を開くと、そこは会議室のようだった。

 

 合わせた長机が中央にどっしりと配置され、ぐるりと周囲にはパイプ椅子が並んでいる。簡素だが、整えられていた。とはいえ、その空気は妙に緊張感に満ちていた。

 

 既に、何人かの先客が座っていた。

 葉巻をくゆらせる、年配の男性。白髪交じりの髪に彫りの深い顔立ち。迷彩服に身を包み、どこか軍人然とした雰囲気を感じさせる。

 

 その隣では、眼鏡をかけた男性が何やら文庫本を開いていた。眉間に皺を寄せながら、ページを指でなぞる仕草は神経質そうな印象を受ける。

 

 そしてもう一人──ぼさぼさの髪に、身体を縮めるようにして座る若い女性。東南アジア系の顔立ちで、周囲をおどおどと見回している。まるで自分がここにいていいのか分からないとでも言いたげな、そんな目つきだった。

 

 バラバラな印象の面々に、思わず目をぱちくりさせてしまう。

 

「……なんだ、この寄せ集めは」

 

 口には出さなかったが、顔には出ていたのかもしれない。だが、誰も俺に話しかけてこない。

 その時、隣で立ち止まっていたマシューがぽつりと呟いた。

 

「すぐ戻る。ここで待っててくれ」

 

 言い終えると、何の前触れもなくそのまま部屋を出ていった。足音が遠ざかる間もなく、扉が閉まる。

 俺は取り残された形で、静まり返った部屋の中に立ち尽くしていた。

 

 ──おいおい、どういうこったよ……。

 

 思わず心の中でぼやく。が、それ以上は何も言えず、無言のまま、空いていた椅子のひとつに腰を下ろすしかなかった。




最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

怪しげな島に連れてこられたイトウ君。
待ち受けるのはこれまた個性的な面々。これからなにをさせようというんだ。
次もお読みいただけますと幸いです。

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