ポイント交換だけで成り上がる!? -ダンジョンの回収屋が無双中-   作:鳥獣跋扈

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第75話 オーストラリア迷宮

「それじゃあ、段取りだ」

 

 声を発したのは、さっき俺に“愛想がねぇ野郎”と言ってきた口の悪い男だった。肩幅が広く、使い込まれたベストの隙間から迷宮素材らしき鎧がちらりと覗いている。粗野だが、場数を踏んだ雰囲気はある。

 

「ジョンはいつも通りでいいが……新入りには説明してやらねぇとな」

 そう言って、男は腰のポーチから一枚の紙を取り出した。半ば雑に広げられたそれは、新聞紙ほどの大きさ。だが、表面にはなにも書かれていない。ただの白紙──かと思った。

 

「……白紙?」

 つい、そんな言葉が口から漏れる。

 

「ふっ、そう見えるだろ?」

 男はにやりと笑った。

 

「だがこいつは、ただの紙じゃねぇ。今いるダンジョンの階層地図を表示してくれるアイテムだ。しかも、所有者よりレベルの高い魔物の位置も浮かび上がるし、今いる階層の宝箱の数まで教えてくれる」

 

 ……マジか。

 思わず、息を呑む。

 

 そんなもん、探索屋からしたら宝そのものじゃないか。正確な地図、強敵の警告、そして宝の位置までわかるなんて……死ぬほど有用だ。

 

「ま、もちろんそれなりに制限はある。けどな、それをてめぇらにいちいち説明する義理はねぇ。俺らが使いこなせばいい話だ」

 そう言って、再び紙を畳み、懐に仕舞い込む。

 情報の独占。……まあ、当然といえば当然か。

 

「さて、本題に入るぞ」

 男は顎をしゃくって、俺たちの背後にある巨大な洞窟の口──ダンジョンの入口を示した。黒々と開いたその口は、獣の咆哮のような風音を鳴らしていた。

 

「今からあそこに潜る。目的は二つだ。ひとつ、アイテムの回収。もうひとつ──ある“敵”を倒す」

 

 “ある敵”? 

 ……アイテムの探索はわかるが、ピンポイントで敵を指定するのは珍しい。ドロップ目的なのか? それとも何かの試験……あるいは命令か。

 

「やることは単純明快だ。楽勝だろう?」

 

 あっさりした説明。いや、雑すぎる。

 俺は思わず口を開いた。

 

「……その、“敵”ってのは?」

 

 男は、わずかに驚いたように眉を動かしたが、すぐに鼻を鳴らした。

 

「……ま、いいか。敵の種類は日によってバラバラだ。だから『こんな奴だ』って説明はできねぇ。ただな、共通して言えるのは──“その階層にしては場違いなほど強い奴”ってことだ」

 

 その言葉のあと、男の視線が横にいるジョンへと流れた。

 

「とはいっても、今んところは“第一層”がメインだ。ジョンと俺たちでなんとかなるレベルのやつばかりだな」

 

 第一層か……たしかに、それならそこまで危険でもないはずだ。だが、“その階層にしては強い敵”ってのが気になる。どれくらい強いのか、まるで基準が分からん。

 

「ただな……そろそろ、第二層での活動も始めるらしい。どうなるかはまだ未定だがな」

 

 聞く限りでは、俺やジョン達に強制させてまでやるようなことでもなさそうだが、なんなんだ? 

 

「……わかった」

 

 できるだけ平静を装って、そう返す。

 

「よおし、そんじゃ行くか」

 

 男が軽く手を振ると、後ろに控えていた二人の仲間が無言で動き出した。身のこなしは無駄がなく、まるで訓練された犬のように迷いがない。

 ジョンもそれに続いて歩き出す。何も言わず、振り返ることもなく。

 

 ……ったく。

 

 仕方なく、俺もその背中を追って、ダンジョンの入り口へと足を向けた。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 洞窟の中に足を踏み入れた瞬間、ひんやりとした空気が肌を撫でる。

 内部は意外にも広く、天井は高く、岩壁が四方を囲んでいた。まるで広場のような空間だった。薄暗いが、岩の割れ目から漏れる自然光のおかげで、完全な暗闇というわけでもない。

 

 三鷹迷宮……あそこに最初に入ったときの印象と、どこか似ている。

 だが、決定的に違うのは雰囲気だ。あちらは封鎖された静けさがあったが、ここは……なにか、呼吸音のような、地鳴りのような、不気味な気配が常に足元を這っている感じがある。

 

 俺たちは警戒なんて必要ないかのように、実際に何度も来ていて慣れているのだろう、そのまま奥へと進む。

 

 すると──

 唐突に、壁の一部に巨大な石扉が現れた。まるで最初からそこにあったかのように、自然にそこに存在している。

 

「さて、この扉の先が“迷宮内”ってことになる。行くぞ」

 

 先頭を歩いていた男が、立ち止まって振り返りもせずに言い放つ。言葉と同時に、両手で石扉の取っ手を掴み、ぐっと引く。

 

 ずずず──。

 

 低く、重々しい音を立てながら、扉が左右に開いた。

 そして現れたのは──

 

「……うわ」

 

 思わず声が漏れた。

 目の前に広がっていたのは、まるで異世界の風景だった。

 

 乾いた風が吹き抜ける。太陽のような光が高い空から降り注ぎ、地平線の彼方までむき出しの大地が続いている。岩が点在する荒野、遠くには小高い丘が幾つか連なり、草一本生えていない土地に淡い陰影を作っていた。

 

 第一層からこれほど周囲の状況が変わったことはないので、思わず面喰ってしまった。

 扉のこちら側とあちら側で、ぱっきりと空間が違うという状況、なんとなく、どこでも行けるドアを思い浮かべてしまう。

 

「立ち止まってんな、新入り」

 

 先を行く男の声に、ハッと我に返る。

 慌てて歩を進め、重い扉をくぐると、背後でずずずず……と音を立てて扉が自動で閉まりはじめた。

 

「……っ!」

 

 思わず振り返って身構えそうになるが、それを見越していたのか、男が肩越しに言った。

 

「大丈夫だ。閉じ込められたわけじゃねぇ。一定時間で閉まるだけだ。開けたきゃ、また押せば外に出られる」

 

 その言葉に、ようやく少しだけ緊張が解けた。とはいえ、よくある閉じ込められるギミックと思っても仕方ないだろう。

 なんとなく、今までの迷宮とは少しばかり趣が異なるように感じられた。

 

「よし、それじゃあ──“例のヤツ”だ」

 

 男が振り返り、合図のように後ろの仲間に声をかける。

 無言で頷いた男が、アイテムボックスから何かを取り出した。

 

 シュンッ、と空間が軽く揺れ、男の手に光沢のある球体が出現する。

 それは──金属のような、宝石のような、光を淡く反射する丸い球。どこかで見たことがある気がする……。

 

 そして次の瞬間──

 

 男はその球を、躊躇なく地面に叩きつけた。

 

「っ──!」

 

 パキィィィン! 

 

 氷を叩き割ったような鋭い破裂音が空間に響くと同時に、地面が、空気が、そして重力すら一瞬歪んだかのように感じる。

 視界がわずかに揺れ、足元の感覚が数秒、ふわりと浮いた。

 

 そして──

 

《ピコン》

 

 目の前に、何もなかった空間から、淡い青の光を帯びたパネルが浮かび上がる。

 その文字が、淡々と情報を告げてきた。

 

【アイテム「神々の試練(中級)」が使用されました】

【使用者の経験点を代償に、迷宮のランクが一時的に上昇します】

【使用に伴い、迷宮への新規侵入、および撤退が禁止されました】

【安全圏の排除ができない迷宮のため、安全圏に影響はありません】

【一定期間経過、あるいは“試練”の討伐により、上記は解除されます】

 

 俺は、表示された内容をゆっくりと読み返し──それから、喉の奥がひとつ、乾いた音を立てた。

 

 ……おいおい、冗談だろ? 

 

 三鷹迷宮で行われた、"あの出来事"が思い起こされる。

 そうだ、思い出した。あの球体、あの時使われたのと同じような見た目。

 

 ──ただの探索じゃなかったのか? 

 

 すぐ隣で、ジョンが静かに息を吐いたのが聞こえた。どうやら、これは予定通りの流れらしい。

 まさか……また“試練”に向き合うことになるとは思ってもみなかった。




最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

お久しぶりの神々の試練さん。
元気にしてましたか!
次もお読みいただけますと幸いです。

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