ポイント交換だけで成り上がる!? -ダンジョンの回収屋が無双中-   作:鳥獣跋扈

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第76話 オーストラリア迷宮での戦闘

「よーし、これでOKだ」

 

 乾いた声が荒野に響いた。先ほど“神々の試練”を地面に叩きつけた男を横目に、指示役らしい男が声を上げる。

 

「エリオ、道中の雑魚はお前がやれよ。試練前にはそのまま直帰でいい、いつも通りだ」

 

 エリオ──そう呼ばれたのは、無言であの球体を使った男だった。

 口数は少なく、表情もほとんど変えない無骨な風貌。どこかの軍人出身かと思わせる雰囲気で、ただそこにいるだけで威圧感があった。

 

 俺はそんなやり取りを見つつ、ふと気づく。

 三鷹迷宮で使われた“試練”との違いだ。

 

 ……そうだ。あの時使われたのは“最下級”だった。使用者の命を代償に、迷宮の階層を一時的に変化させる。とてもじゃないが軽い覚悟で扱えるものではなかった。

 だが、今ここで使われたものは“中級”だ。

 

 代償として提示されたのは“経験点”。

 

 命と経験点。比較するまでもなく、天秤は大きく傾いている。

 もちろん、どれほどの経験点を失うのかは分からない。もしかすれば相当のレベルダウンもありえるほどの大きな損失かもしれない。だが、それでも命に比べたらはるかに軽い。

 

 ……このグループは、その違いを理解した上で使っている。言い換えれば、“代償の安い試練”を活用できる戦力と経験がある、ということだ。

 試練を使う理由。それが力を求めてのことなのか、あるいは何かを検証するためなのかは分からない。けれど、リスクとリターンが見合っているならば、それは合理的な選択だ。

 

 そんなことを考えていると、先ほどエリオに指示を飛ばした男が、再び声を上げた。

 

「案内はシドがやる。で、さっき言った通り、道中の雑魚はエリオが。俺たちは最後の“試練”担当だ。楽なもんだろ」

 

 肩の力が抜けたような調子で言うその男は、恐らくこのグループのリーダー格だろう。決して威圧的ではないが、言葉の端々に慣れを感じる。場慣れした人間特有の温度感がある。

 彼が目線で合図を送ると、すぐにひとりの男が応じた。

 

 シド、と呼ばれたらしいその男は、既に手に地図を持っている。

 風で紙が少しはためくたびに、それを無造作に抑えながら歩き始める。

 

 他の連中も無言でついていく。無駄口もなく、訓練された部隊のように動きが整っていた。

 俺も遅れまいと歩を進める。並びとしては──

 

 先頭がシド。やや後方にエリオが位置し、その後ろにジョンと俺。そして最後尾に先ほど指示を出していた男。

 俺たちを挟むように行進する。ジョンも一言もしゃべらず、表情を引き締めている。

 

「……」

 

 誰に話しかけるでもなく、ただ砂を踏みしめながら前を歩く。俺もそれに合わせて無言で進むが、頭の中では別のことを考えていた。

 そういえば、あの地図──確か宝箱の残り数が表示される機能があるって言ってたな。

 

 この一行、まさかそれも全部回収するつもりなんだろうか? 

 だとすれば、何か探索専門のような人間も──

 そんなことを思っていると、はるか下方からの気配を感じる。

 

 ガガッ……! 

 

 地面の下から、耳の奥を震わせるような振動が響いた。

 

「!」

 

 反射的に足を止め、周囲に視線を走らせる。

 砂の下──いや、やや深い層から、這い上がってくるような“気配”がある。重く、鈍く、だが確実にこちらに向かってくる存在の圧がある。

 

「来るか……!」

 

 俺は即座に腰の装備へと手をかけた。同行者たちも、ほぼ同時に構えを取る。

 敵の姿はまだ見えない。けれど、地面の振動が確かにそれを告げている。

 

 ドパァァァン! 

 

 空気が爆ぜた。

 警戒していた地面が、爆発するように盛り上がり、土と岩が跳ね飛ぶ。

 

「ッ!」

 

 思わず一歩、後ずさる。

 

 土煙の向こうから、見上げんばかりの巨体が、ズルリと這い出てくる。

 

 全体像はまだ確認できない。それでも、露出した胴体部分だけで、すでに二、三メートルはある。まるで装甲車のようにごつごつとした殻に覆われ、顎の部分が異様に発達している。いや、あれは……ハサミだ。巨大な蟷螂の腕を逆さまに付け替えたような、恐ろしく分厚い“顎”。

 

「……でかいな、おい……」

 

 頭部をこちらに向けて、カチカチと顎を打ち鳴らしている。警戒しているのか、それとも……獲物と認識されたのか。

 しかし、俺以外の連中は驚きもせず、各々が静かに、戦闘態勢を整えていた。

 

 焦りも、混乱もない。

 “これが日常”とでも言いたげな、無駄のない動き。

 

 その中で、ひときわ目を引いたのは──

 

「おおおおおおおおお!」

 

 叫び声とともに、背丈ほどもある大剣を振り上げたのは、エリオだった。

 声に合わせて、踏み込み。

 

 大上段から振り下ろされる、質量そのものが武器になった一撃。

 ギン、と風を裂く音すら重々しく響く。

 

 敵はそれに気づいて顎のハサミを持ち上げ、迎撃しようとするが──間に合わなかった。

 

 ズガァン! 

 

 金属と肉が同時に裂けるような音が響く。

 顎の根元から、真一文字に割れる。そのまま怪物は地面をのたうち、硬質な脚をジタバタと振り回した。

 

「グギャァァ……ッ!」

 

 咆哮とも悲鳴ともつかぬ声をあげ、再び地中へ潜ろうとするが、それすらも許されなかった。

 エリオは既に次の一手を打っていた。

 

 斬り払った勢いを殺すことなく、足を一歩進め、そのまま体をひねって横薙ぎ──

 風を切る音が、また一閃。

 

 首が、ポン、と音を立てて宙を舞った。

 胴体が地響きを立てて崩れ落ちる。

 

 残されたのは、ピクピクと痙攣を続ける緑がかった胴体と、数メートルほど先に転がった巨大な頭部だけだった。

 

 戦闘、終了。

 

 エリオはというと、飛び散った緑色の体液をまとい、ややしかめ面になりながらも、どこから取り出したのか布を使って大剣を丁寧に拭っていた。

 冷静だ。まるで機械のように感情を交えず、一連の動作を粛々とこなしていく。

 

 他の連中も、戦闘が終わったことを察すると、何事もなかったかのように構えを解いている。

 中々やるもんだ。

 

 実際に俺が戦ったわけじゃないが、あの敵──ハサミ顎の巨大生物は、反応速度や特殊能力を見る限り、飛び抜けて強いというわけではなかった。

 けれど、それでもあのサイズとパワーだ。低層の探索者じゃ、近づくのすら躊躇するだろう。

 

 俺の感覚で言えば、第三層レベル。第一や第二ではまず出てこないタイプの相手だ。

 ……だとすれば、試練で上がっている難易度は相当か。

 

 それにしても、エリオ──経験点を代償に“試練”を発動した状態で、それでもなお単騎であれを仕留めるとは。

 少なくとも、レベル的にはメイリンと同程度か上。

 

 そして、彼が“最前線”ではなく“道中の雑魚”担当、ということは……

 

「……他の連中も、かなりやるみたいだな」

 

 思わず小声でつぶやいた。

 その瞬間、シドが再び地図を開き、無言で歩き出す。エリオも、何事もなかったかのようにそれに続いた。

 

 ジョンも無言のままついていき、最後に指示役の男が動き出す。

 俺もすぐに後を追った。

 

 並びはさっきと同じ。先頭にシド、その後ろにエリオ。俺とジョンが中列、最後尾にあの男。

 歩きながら、ちらりと地図を盗み見る。

 

 何か明確な目的地に向かっているような軌道。試練の発動場所が決まっているのか、それとも──

 

 とりあえずは、今は観察と分析。

 この階層の敵の傾向、彼らの実力、そして試練の真意。

 

 わからないことは多いが、進みながら拾っていくしかない。

 そんなことを考えつつ、俺は再び黙々と、その背中を追った。




最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

オーストラリア迷宮を進む一行。
果たして彼らの目的は。
次もお読みいただけますと幸いです。

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