デュエルモンスターズ。
世界中で人気を獲得した、そのカードゲームを知らない者などいないだろう。モンスター、魔法、罠を駆使し、対戦相手と文字通りの『決闘』を繰り広げる。そんなデュエルモンスターズの魅力は、挙げていけばきりがない。
カードを引くスリル。時に力強く、時に美しいモンスター達。魔法や罠が織り成す奥深い戦術。だが、このゲームの最も偉大な点は、ゲームとしての進化の歩みを止めなかったことだろう。
融合。
シンクロ。
エクシーズ。
ペンデュラム。
様々な世界で様々なカードが、多種多様な進化を遂げていった。それこそ千差万別と言っていい。
しかし、進化したカードで決闘を繰り広げる決闘者達は知っているのだろうか?
デュエルモンスターズ黎明期の決闘を。その問題点を。
最初期のデュエルモンスターズには個々のモンスターに特殊能力が与えられていた。
例えば、元全米チャンピオンであるバンデット・キースが使用した『ガーネシアエレファンティス』
象をモチーフとしたこのモンスターは地割れ攻撃が可能であり、2400という攻撃力も強力だ。しかしある有名なデュエルでは、対戦相手である少年、トムの出した『飛行エレファント』によって地割れ攻撃を無効にされている。もちろんどちらも、今で言うただの通常モンスターである。
プレイヤー各々が使用するモンスターの特性を把握し、理解した上で決闘を行う。そう言えば聞こえはいいが、当時のデュエルモンスターズはこうした『テキスト外の効果』がまかり通っていたのである。
そんな時代において、この状況を良しとせず、デュエルモンスターズのルールに異議を唱える男がインダストリアル・イリュージョン社にいた。
この物語は『デュエルモンスターズ』というゲームのルールの為、奔走し、戦い抜いた、1人の男の生き様を描いたものである。
◇◆◇◆
「ホワッツ? これはどういうことですか?」
「どうもこうもありません。どういうことなのか?というセリフはそっくりそのまま、あなたにお返ししましょう」
「オゥ……相変わらず、手厳しいのデース」
その日、インダストリアル・イリュージョン社の社長室に2人の男の姿があった。
1人は言わずと知れたデュエルモンスターズの生みの親、ペガサス・J・クロフォード。椅子に座り、腕を組み、もう1人の男を見つめているが、その表情はいつもの飄々としたものではなく、どこか苦々しい。
対するもう一人の男。髪の色は見事な金髪。肩まで伸ばしたそれを後ろで縛り、纏めていた。顔立ちも整っており、道を行けば女性が思わず振り返りそうな、魅力的な風貌をしている。しかし、今の彼に女性は一人も寄り付くことはないだろう。そう断言できるほどに彼は……怒っていた。
「そんなに怒らないでくだサーイ。そもそも一体何が不満なのデース?」
「フン! あまりにも性急な海馬コーポレーションとの提携事業! 決闘盤(デュエルディスク)の正式採用と実用化! それに伴う商品展開! はやい……どれもこれもがはやすぎる!!」
そう言って手に持った書類を机に叩きつける金髪の男。会長の前だと言うのに、大した度胸である。
逆にペガサスはカトゥーンアニメのキャラクターの様に怯えきっている。これでは立場がまるっきり逆だ。
「し、しかし、ソリッドヴィジョンシステムを利用したゲーム進行にはユーも賛成したハズ。私もユーの意見を取り入れ、携帯可能な決闘盤をhurryに採用したのデース!」
決闘盤。腕に装着しデュエルを行うその装置は、海馬コーポレーションが開発したものだ。決闘盤があればソリッドヴィジョンシステムと呼ばれる立体映像装置を用いた、スリリングで迫力のあるデュエルが可能となる。ペガサスは元々、このソリッドヴィジョンシステムを使用し『恋人の蘇生』を行おうとしていたのだが、決闘王国(デュエリストキングダム)という大会を経て、その野望は潰えた。今やペガサスも『恋人の蘇生』などという人の摂理に反した計画に未練はなく、前を向き、デュエルモンスターズのより一層の普及に勤めようと考えていた。
「賛成はしたが、はやすぎると言っているのです!はやすぎるっ! Nothurry!」
「お……オオゥ。sorry……」
しかし、決闘王国で受けた傷を癒し、会社に復帰早々にこれである。ペガサスの表情はげんなりとしていた。そんなペガサスの顔を見て男は一つ咳払いをして話を続けた。
「失礼ながら、決闘王国でのデュエルデータは全て拝見させて頂きました」
「……それは構いまセーン。いかがでしたか?決闘王国での決闘者達のデュエルは?どれもwonderfulなものばかりで……」
やっと少し話が逸れたと、怒りの矛先を外そうとするペガサス。だが……
「話にならぁん!!」
「What!?」
美しく光る金髪を振り乱し、またもや男がペガサスを一喝する。
「なんですかあれは!? 月を攻撃する? 空中浮遊する城の浮遊リングを壊してモンスターを下敷きにする? 挙げ句の果てには迷宮内での変則タッグ? ルールはどうしたのですか!? ルールは!!」
「す……少し落ち着き……」
「落ち着いてなどいられるかぁ!」
「アンビリバボー!!」
最早敬語も尊敬の念もなくペガサスに烈火の如く怒りをぶつける男。その言動はとても20代後半のものとは思えない威厳を醸し出していた。
「海馬コーポレーションとの提携も結構! 決闘盤の採用、商品化、発売、大いに結構! しかし! それよりも優先すべきことがあると前にも申し上げたはずです!」
「ゆ……優先すべきことトハ……?」
「知れたこと! ルールの整備です!」
その男、流れる様な金髪と端正な容姿とは裏腹に、その仕事ぶりは炎の様に激しく、その采配は王の様に大胆。若くしてインダストリアル・イリュージョン社のゲーム部門、デュエルモンスターズ開発部のチームリーダーにまで登り詰めた男。
名は『ラルフ・アトラス』
「ワカリマシタ……これから先、ルール整備はあなたに一任しマス……」
「ありがとうございます! では、失礼します」
ようやく出ていく男……ラルフの姿を見ながらペガサスは溜め息を1つついた。
もちろん、ラルフ・アトラスに問題がないと言えば嘘になる。困った男ではある。今も会長であるペガサスに怒鳴り散らし、用が済めば出ていくのだから、失礼もいいところだ。だが、それでもペガサスは彼を使い続けていた。彼がデュエルモンスターズを思い、愛する気持ちは本物だと分かるからだ。ならば、上に立つものとして自分は彼の意見や行動のの1つや2つに怒っていても何にもならない。それを受け入れる器量を示すべきなのだ。
「……でもコワイのデース」
「会長!」
再びドアを開け、入って来たのはラルフだった。出ていったばかりだというのにとんぼ帰りされて、ペガサスは驚き、飛び上がりそうになった。
「ど、どうしたのデース? まだ何か用件が?」
「私としたことが……言い忘れたことがありました」
「言い忘れたコト?」
「はい」
首をかしげるペガサスに、表情をピクリとも動かさずラルフは告げた。
「やはり『トゥーン』は強すぎます。ルール整備が一段落するまで、使用を禁じます」
「ハ……?」
「では」
何ごともなかったかのように退室するラルフを尻目にペガサスは叫んだ。
「NoooOooo!!??」