ルール改定に駆けた男のロード   作:龍流

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10.「マナーも守れないプレイヤーがルールを語るな」

 その日、童実野町は騒がしかった。

 街のあちこちで『戦い』が起こっている。

 

「な……なんじゃあこりゃ?」

 

 童実野町で店を開いて30年。魚屋の店主は、今まで見たこともない光景に眼を丸くした。そんな店主の様子を見て、近くにいた青年が話しかけてくる。

 

「なんだ? じいさん知らないのか? これはデュエルモンスターズだぜ」

「でゅ……デュエルモンスターズ?」

 

 確かカードゲームだったか。店主はなんとなく聞いたことはあったが、実際にやっているところは見たことがなかった。

 

「す、すごいのぉ……まるで怪物がそこにいるみたいじゃないか……」

「へへっ! 気をつけた方がいいぜ、じいさん」

 

 青年はニヤニヤと笑いながら、腕につけた機械を得意気に見せた。

 

「今日からこの街は……戦場になるのさ!」

 

 

◇◆◇◆

 

 

 バトルシティ。

 街全体を舞台とした、この大規模大会の開催に海馬コーポレーションとインダストリアル・イリュージョン社は、多額の予算を注ぎ込んだ。一般企業なら頭を抱えそうな、莫大な金額である。

 しかし、両社がこの大会にそれだけ『賭けている』のには、理由がある。

 バトルシティ後に一般販売を企画している『決闘盤(デュエルディスク)』

この『決闘盤』を用いた決闘をデュエルモンスターズのプレイヤー以外の人々、決闘者ではない人々にみせることが最大の目的だ。

 ゲームというのは、ある程度ルールが分からなければ、観ている側は面白くない。例えば将棋のルールを知らない人には、名人の一手の凄さが分からないし、素人がバスケットのNBAの試合を見ても派手なプレイばかりに目がいくだろう。

 極論になるが、サッカーのルールを知らない状態で観戦したら、ただボールを蹴りあっているだけの様に思える。

 

 ゲームのルールというのはそういうものだ。

 

 だが、『決闘盤』と『ソリッドヴィジョンシステム』は、その常識を覆す。 

 

 颯爽とフィールドに現れるモンスター。

 まるで魔法使いのように、次々と繰り出される魔法。

 対戦相手の意表を突く、反撃の罠。

 

 決闘の派手な演出とリアリティーは、観客の心を掴んで離さないだろう。『ソリッドヴィジョンシステム』があれば、観客はルールを理解していなくても『観る』だけで決闘を楽しむことができる。そこからデュエルモンスターズに興味をもって貰えれば、儲けものである。『決闘盤』が普及すれば、プレイヤーは爆発的に増えるだろう。

 そして今。記念すべきバトルシティ最初の1戦が決着しようとしていた。

 

「さあ、これでお前の壁モンスターはなくなった。いけ、デーモン、マグネットウォーリアα! ダイレクトアタック! 合体攻撃で200ポイントアップ! サンダーマグネットソード!」

「ぎゃああぁあ!? バカな……崩れる? 私のエグゾディアがぁあ……?」

 

 童実野町の中心地に当たる広場、そこで行われていた決闘の勝敗が決まる。

 グールズの一員、エグゾディアを操る『レア・ハンター』を打ち倒したのは、決闘王国の優勝者『武藤遊戯』

 周囲の観客達から歓声が上がる。そんな中、盛り上がる人々から少し離れてその様子を眺めている男がいた。

 ラルフ・アトラスである。その手には携帯電話が握られており、通話中だ。

 

 

「……海馬社長、決闘の決着がつきました。勝ったのは武藤遊戯です」

 

 ラルフとしては最後の遊戯の攻撃……デーモンと磁石の戦士による『属性相性』を利用した『合体攻撃』が納得いかないのだが、仕方がない。バトルシティの開催にルール整備の全ては間に合わず、一部の特殊ルールは効果処理として残ってしまったのだ。その為、水属性モンスターに対する『雷の剣』などの電撃攻撃も効果抜群のままだ。ルール改定が間に合わなかった事は、心残りである。

 そんな不満気なラルフに対して、海馬は上機嫌だ。

 

『ふぅん、当然だ……遊戯はこの俺のライバル、こんな所で敗れる様な男ではない』

「はい。海馬社長が彼に拘る理由が分かった気がします」

『クックク……待っていろ遊戯。この俺の『オベリスク』が貴様を打ち砕く……フフフ……ワハハハハハハ!』

 

 勝手に盛り上がっている高笑いがうるさいので、思わず携帯を耳から離した。どうやら海馬は相変わらずのようで、ラルフとしては嬉しいやら悲しいやら、微妙なところだ。

 

「ところで、海馬社長」

『ワハハハ……なんだ?』

「我々は本当に『神のカード』の回収に協力しなくていいのですか?」

『何度も言わせるな。『神のカード』は俺が必ず手にいれる。貴様らの手は借りん』

「しかし……」

『くどい! 俺がなんのためにこの大会で、アンティルールを採用したと思っている!』

 

 やはり『神のカード』を手にいれる為のルールだったのか……とラルフは頭を抱えたが、口には出さない。

 

『安心しろ。既に海馬コーポレーションの力で、参加決闘者の所持カードの調査にあたっている。すぐに神を見つけ出してくれるわ……』

 

 それはルール違反の職権乱用ではないか……とラルフは頭が痛くなったが、口には出さない。

 だが、一応釘はさしておく。

 

「まさか決勝戦の会場の場所も、もう知っているんじゃないでしょうね?」

『そんなセコい真似をこの俺がすると思うのか? 俺も『パズルカード』を集めなければ、決勝戦の会場を知ることはできん』

 

 『パズルカード』

 今回のバトルシティ大会はデッキのレアカードと、この『パズルカード』を賭けて戦うことになっている。『パズルカード』を集め、『決闘盤』に読み込ませれば、決勝戦の舞台がソリッドヴィジョンで表示されるという仕様だ。

 

「……安心しました」

『俺は小細工をして決勝まで行く気はない。邪魔をする者は全てなぎ倒し、初代決闘王の座を手に入れてみせる』

 

 その言葉に思わず苦笑する。『海馬瀬人』はこういう男だった。

 ラルフがふと横を見ると、武藤遊戯が城之内克也にカードを渡していた。

 

「城之内くん。真紅眼は確かに取り返したぜ」

「遊戯……」

 

 どうやら『決闘王国』で入賞を果たした城之内も、グールズにレアカードを奪われていたようだ。遊戯が持つカードを見て、ラルフは顔をしかめた。かつての自身の切り札である『真紅眼の黒竜』だったからだ。

 決闘者の思いが詰まったカードを狩る組織『グールズ』

 そんな奴らに大会をいいように利用されのは……面白くない。

 

『貴様らは余計な心配はせず、大会の円滑な進行の為にグールズを全力で狩れ』

 

「……はい」

 

 静かに、しかし強い意思を込めた返答を海馬に返す。

 

 

 

「失礼します」

 

 電話を切り、ラルフが歩きだそうとした……その時。

 

 

「ヒッ……ヒ……ヒィイィア、く、くる……くる……マ……マリク様がくるゥ!!」

 

 敗北したレアハンターが発狂した。

 

 

◇◆◇◆

 

 

 ジョン・ハイトマンはイライラしていた。理由はハッキリしている。目の前の女性が原因だ。

 

「ねぇ……いいでしょ? 私と決闘しなさいよ!」

「何度も言わせるな。断る。僕は運営側の人間だ」

 

 ジョンはグールズを探す為、決闘盤を身に付け、童実野町を散策していた。グールズがジョンを大会参加者と勘違いして狙ってくれば、決闘に持ち込める。そう考えていたのだが……

 

「何よ! 決闘者の癖に挑まれた決闘を断るわけ?」

「僕は参加者ではない! 何度言えば分かる!?」

 

 バトルシティの参加者と思われ、1人の女性決闘者に非常にしつこく絡まれていた。

 

「はは~ん……負けるのがこわいのね? 決闘王国上位入賞者であるこのアタシ、孔雀舞に!」

 

(面倒臭いな…)

 

 胸を張る女性……『孔雀舞』を見ながら、ジョンは深いため息をつく。こんな事になるなら、決闘盤を装着せずにグールズを探せばよかった。舞は女だから嘗められたと思ったのか、ジョンと決闘するまで動きそうになかった。しかしこちらとしては、グールズ以外の決闘者と決闘しても意味がないので、適当に受け流すことにする。

 

「悪いが僕はおしとやかな女性が好みなんだ」

「決闘に女性の好みもクソもないでしょう!?」

「女性が軽々しくクソなんて言葉を使わないでくれ。それに君は化粧が濃すぎる」

「だから関係ないでしょ!?」

「よく見ると君……ケバいな」

「……あんた、絶対ぶっ倒す……」

 

 ……逆効果のようだ。先程よりギラギラとした眼を向けてくる舞に、ジョンは思わずたじろぐ。女性は女性でも、決闘者か。

 

「………ん?」

「……なによ?」

 

 舞の後ろの木陰で、何かがガサッと動いた。

 

「……成る程。隠れてないで出てきたらどうなんだい?」

「あんた、誰に話してるの?」

 

 怪訝な顔をする舞。しかしジョンの言葉に反応して、木陰から人影がムクリと起き上がった。

 

「気づいていたか……」

「なっ……何よコイツ?」

 

 驚く舞を他所に、ジョンは笑みを浮かべる。

 

「グールズかい?」

「如何にも」

 

 低く、深い声。ローブにフードという怪しげな出で立ちのこの男は、左腕をジョンと舞に向けた。その腕には当然『決闘盤』が装備されている。

 

「探す手間が省けたね。僕は『パズルカード』を持っている。決闘しよう」

「……いいだろう。元々孔雀舞を狙っていたが、貴様から相手をしてやる」

 

 ローブの男が決闘盤を構える。ジョンもデッキを決闘盤にセットした。

 

「……コイツ、何者なの?」

「ちょっとした犯罪者集団だ。君は下がっていてくれ」

 

 恐らくこの男は、舞のレアカードを狙って来たのだろう。だとしたら、中々の実力者の筈だ。舞も薄々それを察したのか、ニヤニヤしながらジョンに問いかける。

 

「勝てるんでしょうね? ボクちゃん?」

「茶化さないでくれ。僕は今から『仕事』だ」

 

 時間を無駄にしたと思ったが、どうやら逆にラッキーだったようだ。

 

「はじめようか?」

「ああ」

 

「「決闘!!」」

 

ジョン LP4000

グールズ LP4000

 

「ふむ、先行は頂こう。私のターン、ドロー!」

 

 グールズの男は慣れた手つきでカードをドローする。躊躇いもせず、カードを選び取った。

 

「私は『闇魔界の戦士ダークソード』を召喚」

 

 

『闇魔界の戦士ダークソード』

闇/戦士族

ATK1800/DEF1500

 

 

 グールズの男の場に現れたのは、漆黒の鎧に身を包んだ騎士。その攻撃力は下級モンスターにしては、中々高いものだ。

 しかし、このモンスターの強みはそこではない。

 

「私は永続魔法『前線基地』を発動する。その効果で『漆黒の闘竜』を特殊召喚だ!」

 

 

『漆黒の闘竜』

闇/ドラゴン族

ATK700

DEF400

 

 

「へぇ……合体(ユニオン)モンスターじゃないか」

 

 ジョンが感心したように男のモンスターを見る。合体(ユニオン)モンスターはごく最近に発売したカード。まだ流通している量は少ない。

 

「それもコピーだったりするのかい?」

「……貴様、我々の組織の事を知っているな?」

「どうだろうね?」

「……まぁいい。私は『ダークソード』と『漆黒の闘竜』を合体!」

 

 命令を受け、騎士がドラゴンに飛び乗った。

 

ATK1800→2200

 

「攻撃力が上がった? 『融合』とは違うの?」

 

 ダークソードの変化に舞が驚きの声を上げる。

 

「これは融合ではない。よく見ておけ、孔雀舞。この男を倒したら、次は貴様だ」

「余計な事は言ってないで、早くターンを進めてくれないか? そこの女性と違って、僕には合体モンスターなんて珍しくもなんともないんだ」

「私はカードを1枚伏せて、ターンエンド。……貴様、何者だ? なぜ合体モンスターや我々の組織の事を知っている?」

 

 フードの中のグールズの視線が、ジョンを射抜く。その場を包む緊迫した空気。舞は思わず、ゴクリと唾を飲み込んだ。

 

 ジョンがフッと笑う。

 

「なぜか……か。教えてやろう。なぜなら僕は君達『グールズ』を狩る、正義と愛の決闘者……ジョン・ハイトマンだからだ!」

 

「……あ?」

「……へ?」

 

「いくぞ! 僕のターン!」

 

 呆気にとられるグールズと舞を気にもせず、ジョンは全身を使ってカードをドローした。

 

「ふ……カードを3枚伏せてターンエンドだ」

「……なにぃ?」

 

 わずか3秒。たったそれだけで、ジョンのターンは終了してしまった。

 

「貴様、モンスターも出さないとは……私を舐めているのか!?」

「勘違いするな。僕は決闘で手抜きはしない。これは君を倒す為の最も効率的な一手だ」

「面白い……ならば私の合体モンスターの力で、その一手とやらを破ってやろう。私のターン!!」

 

 

 3枚のリバースカード。 場にモンスターはなし。明らかに誘っている状況だ。セオリー通りなら、あの中に攻撃反応型の罠カードがあるだろう。グールズの男はそこまで考え、このターンの行動を決めかねていた。

 だが、先に動いたのは意外にもジョンだった。

 

「リバースカード、トリプルオープン!!」

 

「な……!?」

「3枚同時ですって!?」

開かれたカードは3枚。

 

『ギフトカード』

『ギフトカード』

 

 そして最後の1枚。

 

 

『シモッチによる副作用』永続罠

相手のライフポイントを回復する効果は、ライフポイントにダメージを与える効果になる。

 

 

 もしもこの場にラルフがいたら「きちんとチェーンを組んで発動しろ!」と言われていただろう。ジョンは内心で苦笑いしていた。しかしグールズにそんな事まで語ってやる必要はない。これはグールズという悪を倒す為の『演出』だ。残念ながら観客は1人しかいないが、ただ事実を告げてやればいい。

 

 

「『ギフトカード』は相手に3000のライフを回復させる。だが……『シモッチによる副作用』は回復効果をダメージに変える」

 

「回復をダメージに変えるだと!?」

「そんな効果があるの!?」

 

 発動された『ギフトカード』は2枚。合計6000ポイント。グールズの手札には、このダメージを止めるカードはなかった。つまり……

 

 既に勝負は決している。

 

「ふ……ふざけるな! バトルシティルールでは、プレイヤーへの直接攻撃系の魔法カードは……はッ!?」

 

「気がついたかい? 『ギフトカード』は『回復系カード』だ。それを『シモッチによる副作用』でダメージに変えている。そもそも『ギフトカード』は罠カードだ。残念だけど、ルールには抵触しないよ?」 

 

 バトルシティでは、プレイヤーとモンスターへの直接攻撃系魔法カードの使用は禁止されている。だが、ジョンの戦法は一切ルールに違反していない。

 

「き、きさまぁ……こんなルールの穴を突くような戦い方をして……」

「ルールの穴を突く? 犯罪者集団が随分勝手なことを言うじゃないか」

 

 ズルいと言われるような戦法なのは理解している。小賢しいとも思われるだろう。しかし目の前の男には、それを言う資格はない。

 

 カードの強奪、偽造。

 

 デュエルモンスターズを汚す組織。『グールズ』

 

 許してはおけない。

 

「マナーも守れないプレイヤーがルールを語るな」

「ぐっ……」

 

「終わりだ。6000のダメージをくらえ」

 

グールズ LP4000→0

 

 激戦になると思われた決闘は、あまりにもあっさりと決着がついた。

 

「くそっ! こんなところで……」

「君から大会の参加資格を剥奪する。『パズルカード』を渡してもらおうか?」

 

「ちぃ! 覚えていろ!  いつかこの借りは必ず返してやる!」

 

 グールズの男はそう叫ぶと、『パズルカード』を地面に叩きつけ、走り出した。

 走り出したが……

 

「おいおい……何を勘違いしているんだ?」

 

 どこからともなく現れた黒服の男達が、グールズの男を取り囲んだ。これでは逃げる事ができない。

 

「な、なんだ……?」

「君、もう社会的なライフポイントもゼロだから」

 

 黒服の男がグールズの腕をつかむ。

 

「カード偽造、違法取引であなたが所属している組織に罪状が出ています。任意同行を願えますか?」

「あ……あぁあ……」

 

 

 気の抜けた様な声を出し、座り込むグールズ。ジョンは意気揚々と言った。

 

「『グールズ狩り』は僕が一番乗りかな?」

 

 

 

 

 

「……で、どうする?今から決闘するかい?」

「遠慮しとくわ……その性格悪そうなデッキとやりたくないもの……」

 

 孔雀舞はそう言って踵を返すと、足早にその場を去った。

 

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