ありがとうございます!
昔のカードばかりな作品ですが、これからも読んで頂けると嬉しいです。
「で、そちらはどうだ?」
「いたって順調。3人確保したよ。そっちは?」
「……まだ1人だな」
「やれやれ。この分だと僕が全員を狩ってしまいそうだね」
「別にそれでもいいぞ?」
「……張り合いがないな。君達も頑張ってくれよ?」
「……あぁ、わかった」
そこまで話して、ラルフは電話を切った。
「おう。どうだった?」
「ジョンは3人確保したらしい。ご機嫌だな」
「……あいつのデッキはなぁ……回れば速攻でケリがつくだろ?」
ラルフの隣でタバコをふかしていたルースが、なんとも言えない顔で呟く。確かに『シモッチバーン』ならば、4000のライフなど一瞬で削り取れる。
「デッキの強さは認めよう。だが、なぜ奴はもう3人も見つけているんだ? 俺達は1人しか捕まえてないぞ?」
「それはあれだろ。運だよ運」
「運か……俺もグールズさえ見つかれば、速攻で勝ってやる」
「なんだよ?なんだかんだ言ってジョンと張り合うわけ?」
「……負けるのは納得がいかん」
「負けず嫌いだねぇ……」
ニヤニヤと笑う友人の頭を小突く。仕事は仕事と割り切っているつもりだが、ラルフとしてはジョンに露骨に勝ち誇られるのも、面白くない。
ラルフはベンチから立ち上がった。
「いつまで休憩しているつもりだ。行くぞ」
「えぇ~? もう1本吸わせてくれよ」
「だめだ」
今、ラルフ達がいるのは童実野公園。バトルシティ開始から3時間ほどが過ぎ、一休みしているところだ。ラルフに急かされて、ルースは嫌そうな顔をしている。
はやくグールズを見つけたいという気持ちもあるのだが、ラルフはタバコを吸わないので、ルースが一服している間はやることがない。手持ち無沙汰なのだ。
「はぁ~やれやれしょうがない。じゃあ行きますか」
携帯吸殻にタバコを突っ込み、ルースもベンチから立ち上がった。
「やはり『マリク・イシュタール』を捕まえたい。グールズも頭を押さえられれば、動けなくなるだろう」
「簡単に言うけどよ~なんの手掛かりもないんだぜ?」
「確かにな……」
武藤遊戯との決闘に負けて発狂したレアハンターは、別人のようだった。まるで『マリク・イシュタール』が乗り移ったかの様に喋り出し、自分が大会に参加している事を告げると、糸が切れた人形のように倒れ込んだ。
「あのレアハンターは本当に操られているようだった……」
「おいおい、やめてくれよ。俺はオカルトは苦手なんだよ」
肩を竦めながらルースが言う。確かにあのレアハンターに『マリク・イシュタール』が乗り移ったと考えるのは、あまりにも非科学的すぎる。
「……とにかく、この大会にマリクが参加しているのは確かな様だ。童実野町を駆けずり回ってでも、探し出すぞ」
「へいへい……」
「そこのお兄さん達~」
「ん?」
急に声をかけられ、振り返ってみれば『決闘盤』をつけた決闘者が2人。どうやら参加者のらしい。だが……
「俺達と決闘しませんか?」
なんというか……珍妙な格好をしている。2人ともコートのような上着を着ていたが、1人は全身白一色、もう1人は全身黒一色。決闘盤を構え、ノリノリで決闘を求めてきた。日本人のようだ。
「すまないが、俺達は参加者ではなく、インダストリアル・イリュージョン社の監視員だ。他を当たってくれ」
ラルフはきっぱりと言い切った。白い方の男が頭を抱える。
「あちゃ~そうなんだ……それは参ったな~」
「悪いなお前ら。決闘盤つけてるから、勘違いしちまったんだろ? 他を当たってくれよ」
「いやいや大丈夫ですよ。問題ありません。そうだよな~相棒?」
「……ああ、そうだな」
白い方の男に笑いながら聞かれ、黒い方の男は、はじめて口を開いた。
「………ようやく見つけた。大当たりだ」
その瞬間、男達の腕から『ワイヤー』が伸び、ラルフとルースの『決闘盤』に巻き付いた。
◇◆◇◆
「グールズ狩りだぁ?」
「はい。どうやら既に4人が敗北し、身柄を拘束された模様です」
「情けねぇな……」
童実野町のとある高級ホテル。その部屋の中には3人の人物がいた。
グールズの偽造カード製造最高責任者。『ヴォルフ・グラント』
ヴォルフの側近である、白い長髪の男『セレス』
そしてもう1人、『フィーネ・アリューシア』
「マリクの手駒って誰がいたんだっけか?」
「今回の大会には『エクゾディア使い』や『奇術師パンドラ』など。この2人も既に『武藤遊戯』に敗北しているようですね」
「けっ、雑魚かよ」
ヴォルフがグラスを掴み、中身を一気に飲み干す。すかさずフィーネがボトルを取り、追加を注いだ。
「現在『海馬瀬人』と『武藤遊戯』がタッグを組み、『光の仮面・闇の仮面』と決闘をしています」
「あぁ……それも駄目だな。負けんだろ?」
「おそらく……」
ヴォルフは鈍く光る銀髪の頭をガクリと下げた。
「マリクちゃんもよぉ……しっかりしてくれよ。もう童実野町には入ったんだろ?」
「はい。私の部下から童実野埠頭にマリクのプライベートボートが入ったと連絡がありました。足がつくことを恐れて、空路ではなく、海路で童実野町に入った様です」
「あぁ……じゃあ俺達が動いて『グールズ狩り』をしている連中を消しに行くわけにもいかねぇな。マリクに俺がこの町にいることが、ばれちまう」
心底面倒そうにヴォルフがソファーに寝転がる。セレスが眉根を寄せてヴォルフを見下ろした。
「御心配なく……既に手は打ってあります。腕利きの『賞金稼ぎ』を雇いました」
「あぁん? 賞金稼ぎだぁ?」
「はい。奇しくも先ほど話に出た『光の仮面・闇の仮面』のような『タッグデュエル』に秀でた決闘者。彼らなら、邪魔な狩人達の足止め程度にはなるでしょう」
「……まぁ、期待せずに待ってやるよ」
「彼らは少々特殊でして……『インダストリアル・イリュージョン社の社員。グールズを探している決闘者に決闘を挑め』と依頼を出しました。彼らの資料です」
セレスが決闘者データが記載された書類を取りだし、ヴォルフに渡した。
「……ク……ヒャハハ! なんだコイツら? 『精霊(カー)』を持ってるじゃねぇか? 面白いな!」
「はい。彼らには『闇決闘盤(ダークディスク)』も渡してあります。決闘内容によっては、いい『魔力(ヘカ)』が摂れるでしょう」
「いやぁ…よくやったセレス。仕事熱心だな、お前は」
「勿体なきお言葉。恐悦至極に存じます」
ヴォルフは満足気に部屋の隅に置かれている、『装置』に眼をやる。
「少しでも『魔力(ヘカ)』が貯まるといいな……なぁフィーネ?」
「はい、ヴォルフ様」
ヴォルフとフィーネの視線の先、透明なカプセルの中で、『3枚のカード』が静かに胎動していた。
◇◆◇◆
「くそっ……なんだこのワイヤーは? 外れんぞ?」
「おいおい……おいおいおい。こりゃあ、あちらさんから出向いて来た感じか?」
『決闘盤』にがっちりと絡みついたワイヤーを見て、ため息をつきながら、ルースは2人組の男を見る。
「お前ら……グールズか?」
「さぁ~? グールズなんて俺達は知りませんね~」
「……知りたければ、決闘で語れ。そこに我らの全てがある」
ラルフとルースが顔を見合わせる。こんな公園で、白昼堂々勝負を仕掛けられるとは思っていなかったが、どうやらやるしかないらしい。
「よかったなラルフ。探す手間が省けたぜ?」
「ふん。それもそうだな。俺はラルフ・アトラス! 貴様ら、名前は?」
「そうですね~『ホワイト』とでも名乗っておきましょうか?」
「……『ブラック』」
「嘘くせぇ名前だな……俺はルース・フォックスター! 俺達に喧嘩を売ったことを、後悔させてやるぜ!」
お互いに決闘盤を構え、臨戦態勢に入る。
「ふふ……ラルフさん、ルースさん。準備はOKみたいですね。決闘は『タッグデュエル』でいきますよ? よろしいですか?」
「いいだろう! 受けて立ってやる!」
「「「「決闘!!」」」」
タッグルールでは、ライフはそれぞれ4000ポイント。プレイヤー全員は最初のターンは攻撃できない。
また、場のカードは共用。パートナーのカードを生け贄にも攻撃にも使用することができる。
「いくぜ! 俺のターン、ドロー!」
一番手はルースだ。
「キラートマトを攻撃表示で召喚!」
跳び跳ねながらルースの場に現れたのは、熟れた真っ赤なトマト。人面がついている為、美味しそうという感想は持てない。
『キラートマト』
闇/植物族
ATK1400/DEF1100
「なるほど。いいモンスターを使いますね~」
「………闇属性軸か」
『キラートマト』をみて、ホワイトとブラックが口々に感想を漏らす。
『キラートマト』は『リクルーター』と呼ばれているモンスターだ。戦闘で破壊された時に、攻撃力1500以下の闇属性モンスターをデッキから特殊召喚できる。戦闘破壊されても戦線を維持できる、優秀なカードであり、この効果を持つモンスターは、各属性に1体ずつ存在している。
「俺のトマトちゃんを優秀なモンスターと言ってくれるか……気をつけた方がいいぜ、ラルフ。こいつら中々に場数を踏んでやがる」
「ああ。そのようだな」
『リクルーター』の重要性を理解し、それが『キラートマト』であることから、ルースのデッキカラーを『闇』と予想する、先ほどの発言。どうやら気を引き締めた方がよさそうだ。
「俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ」
手堅いスタート。腕を組みルースのプレイを眺めていた、ブラックが動いた。
「……我のターン、ドロー」
無表情、無感動。これまで感情を表に出してこなかった彼の表情が、ドローカードをみて、わずかながら喜びの色を醸し出す。
「………ゆくぞ、我の『切り札』をお見せしよう」
「なんだ?いきなり大物か?」
「ルース、何か来るぞ」
ラルフとルースが身構える。ブラックはカードを持った手を翻した。
「漆黒の魔女よ……その鞭で戦慄と絶望の音を奏でよ!」
口上と共に、勢い良く決闘盤にカードが置かれる。
「……出でよ! 『黒魔導師クラン』」
漆黒の衣……ウサギをイメージした、可愛らしいゴスロリ服に身を包み
戦慄と絶望の音を奏でる鞭……縄跳びにもみえるピンク色の小さな鞭を持って。
ブラックの『切り札』はフィールドに登場した。
『黒魔導師クラン』
闇/魔法使い
ATK1200
DEF0
「…………」
「…………」
「クランちゃんかわいいね~」
目を細めているホワイトを尻目に、ラルフとルースは沈黙。いつの間にか集まっていた、周囲のギャラリーも、さっきまでとは別の緊張感でフリーズしている。
「……我のクランたんの前に声も出せぬか、それならそれでよい」
ブラックの言葉にフィールドのクランが「えっへん!」と胸を張る。
そのかわいらしい仕草に、ギャラリーの何人かが胸を打たれた。それはもう激しく胸を打たれた。ちなみにその中には稀代の頭脳を持ちながらも犯罪に手を染めてしまった、後に『ドクターコレクター』と呼ばれる男がいるのだが、それはまた別の話である。
「……バックにカードを3枚出し……ターン終了」
何事もなかったかの様にブラックはターンを終えた。ラルフとルースは戸惑いと動揺で、まだ動けない。
「……ルース」
「何も言うな、ラルフ。強敵だと思った敵が変人だっただけだ。俺らは俺らの決闘をしようぜ」
はっきり言って毒気を抜かれ、やる気を削がれたが、敵は(色々な意味で)得体が知れない相手。油断するべきではない。
「……よし。俺のターンだ!ドロー!」
「この瞬間、我がフィールドのリバースカードをオープン!」
「なにっ!?」
「このタイミングかよ?」
ブラックの場のカードが開かれる。そこから3匹のモンスターが飛び出した。
「踊れ『おジャマトリオ』」
『おジャマトリオ』
通常罠
相手フィールド上に「おジャマトークン」(獣族・光・星2・攻0/守1000)を3体守備表示で特殊召喚する(生け贄召喚のための生け贄にはできない)。
「おジャマトークン」が破壊された時、このトークンのコントローラーは1体につき300ポイントダメージを受ける。
『おジャマしまーす』
『ちょっとせまいわねぇ~』
『住めば都じゃ~』
勝手なことを言いながら、ラルフの場に3体の『おジャマトークン』がやってくる。
「ちぃ……また厄介なカードを」
「どうするラルフ? これ以上モンスターを増やせば、『クラン』のダメージ量も増えるぜ」
『黒魔導師クラン』は自分のスタンバイフェイズ時、相手フィールド上に存在するモンスターの数×300ポイントのダメージを与える。現在、ラルフとルースの場には、『おジャマトークン』3体と『キラートマト』がいる。このままではどちらかが1200ポイントのダメージだ。
「ちょっとちょっと~タッグデュエル中に相談はなしですよ~」
「おっと、こりゃ失敬」
「……俺は『UFOタートル』を攻撃表示で召喚。リバースカードを2枚伏せ、ターンエンド」
『UFOタートル』
炎/炎族
ATK1400/DEF1100
召喚されたのは、ルースの『キラートマト』と同じ『リクルーター』だ。ラルフがルースに目配せする。ルースはラルフに向かって、ゆっくりと頷いた。
(……手数を増やすから次のブラックのターンが来る前に、俺のターンでなんとかクランを処理してくれって感じかね?)
ターンが最後のプレイヤーである、ホワイトに移る。
「ふむふむ。金髪の彼は炎属性デッキですか。俺のターン、ドロ~! そしてスタンバイフェイズ! クランちゃんの効果!」
「なにっ!?」
「ふざけんな! クランはお前のモンスターじゃないだろ!?」
「テキストをよく見てくださいな~」
『黒魔導師クラン』
闇/魔法使い族
ATK1200/DEF0
自分のスタンバイフェイズ時、相手フィールド上に存在するモンスターの数×300ポイントのダメージを与える。
「……しまった……俺としたことが……」
「おい、どういう事だ。ラルフ?」
「バトルシティで採用したタッグルールでは、カードのコントロールの権利は、パートナープレイヤーにもある。モンスターの攻撃、生け贄召喚の利用、効果の使用……『黒魔導師クラン』のテキストの『自分のスタンバイフェイズ』は……パートナープレイヤーのターンも含まれる」
「なっ……なにぃ!?」
カードの『コントローラー』
ややこしい話になるが、バトルシティのタッグルールでは、フィールドに出ているカード、つまりプレイヤーがコントロールしているカードは、パートナーも自由に使用できる。フィールドのカードを共有している以上、クランはどちらのプレイヤーも『コントロール』している事になる。クランの効果の『自分』とは、ブラックとホワイトの2人なのだ。
「なんでそんなややこしい『裁定』を出したんだ!? ふざけんなバカ野郎!」
「仕方なかろう!? タッグルールに基づいてテキストを解釈していったら、こうなったんだ!」
「本社に帰ったら、まずこの裁定を変えろ!ややこし過ぎるわ!」
『裁定』とはカード1枚1枚に対する効果処理を説明したものである。基本ルールに乗っ取って解釈しても、まず理解できない効果処理に出される。
「お二人さ~ん。よろしいですか~? クランちゃんの効果で1500ダメージですよ~」
クランの「くらえっ!」という掛け声と共にピンクの鞭がラルフを捉えた。ギャラリーの何人かは、俺も叩かれたいと思った。
「ぐっ……ぬぁあ!?」
ラルフLP4000→2500
ラルフの体に通常ではありえない痛みがはしる。
(くっ……なんだ? こんな事はソリッドヴィジョンではありえないぞ?)
心の中で疑問を浮かべるが、ラルフに構わずターンは進行していく。
「じゃあいきますか~ラブリーキュンキュン! 愛で世界を癒しちゃえ! 白の衣の魔法使い! 『白魔導士ピケル』召喚!」
白い衣装に身を包み、羊の被り物をした少女が「えいっ!」という声と共に場に舞い降りる。
『白魔導士ピケル』
光/魔法使い
ATK1200
DEF0
「か……かわいい……」
「いいじゃないか……ピケル」
「くっ……俺はピケルちゃんとクランちゃん……どっちを選べば……」
「選べない……俺には……どっちもかわいすぎて……」
既にギャラリーの半数以上がクラン派になるか、ピケル派になるか悩んでいる。
「……日本人はロリコンが多いのか?」
「知らねぇ……今度サイトウにでも聞いてみろよ」
冷や汗をかきながらのラルフの問いに、ルースは俺に振るなと肩を竦めた。
一方のブラックは騒ぎだしたギャラリー達を冷ややかな眼で見ている。
「……観客よ。下らんことで悩むな」
「みなさーん! フィールドにご注目!」
ブラックとホワイトの言葉で、頭をかきむしり、絶望して座り込んでいた観客達がフィールドを見る。
『クランちゃん!』
『……なによピケル、何しにきたのよ』
『クランちゃんを助けにきたの!』
『うっさいわね! あんたの助けなんていらないわよ!』
フィールドのピケルがクランに駆け寄っていた。
「おい……なんだこれは……演出か?」
「あぁ……なるほどな。そういうことか」
こんなことをする男は1人しか思い浮かばない。ラルフとルースの脳裏に「ロリは最高っすよ~」という声が響く。
『でも……クランちゃんは、私のたった1人の姉妹だから……助けたいの! いっしょにがんばりたいの!』
『ピ……ピケル』
「「な、なんだってー!?」」
ギャラリー達が驚きの声をあげる。
「今明かされる衝撃の真実なのです~!」
「……ピケルとクランは姉妹なのだ」
嬉しそうに解説を入れるブラックとホワイト。
すでにラルフとルースの彼らへの評価は『得体の知れない強敵』から『得体の知れないロリコンな強敵』にシフトチェンジしている。
「そんなことかよ……」
「とっくに知ってるぜ……」
ちなみにギャラリーの中には「なにを当たり前のことを……」と言いたげに動じていない人間も何人かいた。どうやら彼らはもう、ピケルとクランに毒されているようだ。
『ふ、ふん! 好きにすれば? あたしの邪魔だけはしないでよね!』
『ありがとうクランちゃん!』
嬉しそうに笑うピケルと、顔を赤らめ、そっぽをむくクラン。
「あぁ……かわいい」
「これが……愛か」
「クランちゃんマジツンデレ」
その微笑ましい様子を見てギャラリー達は生きててよかった……と心から思った。
「……分かったか、観客共よ。ピケル派とクラン派かで争うな」
「彼女達はそんなことは望んでませんよ~」
ブラックとホワイトの言葉に大きく頷くギャラリー達。中には涙を流している者までいた。
「おい、白の貴様! 1ターンの思考時間は3分だぞ!」
「これは失礼を致しました。俺はカードを3枚伏せてターンエンドです~」
ようやくターンが一巡した。
ルース LP4000 手札4
《モンスター》
キラートマト
《魔法・罠》
リバース1
ブラック LP4000 手札2《モンスター》
黒魔導師クラン
《魔法・罠》
リバース2
ラルフ LP2500 手札3
《モンスター》
UFOタートル
おジャマトークン
おジャマトークン
おジャマトークン
《魔法・罠》
リバース2
ホワイト LP4000 手札2
《モンスター》
白魔導師ピケル
《魔法・罠》
リバース3
「やべーな……このままじゃ、毎ターン1500のバーンダメージか……」
このまま行けば、ブラックのターンでラルフに1500ポイントのダメージ。そのままラルフがクランを破壊出来ずに、ホワイトにターンを渡せば、ラルフの敗北は確定である。
「このターンで、黒いカワイコちゃんには退場してもらいたいぜ……俺のターン!」
ルースのドローフェイズ、待ってましたとばかりにホワイトの伏せカードが開かれた。
「リバースカードオープン!『ピケルの読心術』で~す」
「んん!?」
『ピケルの読心術』
罠カード
相手の2回目のエンドフェイズまで、相手はドローしたカードを公開してから手札に加える。
「ドローカード見せてください」
「……マジかよ」
ルースがドローカードを公開する。ドローしたのはフィールドの魔法・罠カードを一掃する『大嵐』だ。
「うっわ、あぶな~ブラック、はやくして~」
「……皆まで言うな。ルールに反するぞ。こちらのリバースもオープンする。『マインドクラッシュ』だ」
「あぁあ!?」
「ちっ、やるな……いいコンビネーションだ……」
『マインドクラッシュ』
罠カード
カード名を1つ宣言する。相手は手札に宣言したカードを持っていた場合、そのカードを全て墓地へ捨てる。持っていなかった場合、自分はランダムに手札を1枚捨てる。
『マインドクラッシュ』はカードを当てる事ができなければ、1枚カードを捨てなければならないが『ピケルの読心術』とのコンボで、ルースのドローカードは把握されている。
「……宣言するのは『大嵐』だ。手札を見せてもらおうか?」
「ふふふ……俺達のコンビネーションの前には、手も足も出ませんね~」
「あぁーあ。こいつはキツイぜ……」
ルースは『大嵐』を墓地へ送り、ブラックとホワイトに手札を見せた。
「………ん?」
「……ん~?」
ブラックとホワイトが突然黙り、じっとルースの手札を見る。その中には、何枚か見慣れないカードがあった。
ルースの手札
増援
黒蠍-強力のゴーグ
黒蠍団召集
命削りの宝札
「……黒蠍、だと?」
「なんですか、そのカード?」
「あらら、ご存知なかったか?まだあんまり出回ってないからな~こいつらは……」
ブラックは眼を見開いて驚く。ルースはニヤリと笑った。
「でもまぁ、安心しろよ……俺のデッキはお前らの『ロックバーン』のような特殊なデッキじゃねぇからな」
「……我々のデッキが『ロックバーン』だと決まったわけではあるまい」
「舐めんな。ここまで決闘したら分かる。どうせ伏せられてるのは『グラヴィティバインド』あたりだろ? ピケルで回復し、クランでダメージを与える。コンビネーションもバッチリだ。あんた達は強いよ。けどな……」
やれやれと言いたげにルース肩を竦める。
「俺はそういう決闘は、いまいち好きじゃない」
その言葉にホワイトがピクリと反応する。
「俺達がどんなデッキで、どんなモンスターで戦おうと、俺達の勝手ですよ~?」
「……笑止。我らの決闘を否定するとは、貴様それでもインダストリアル・イリュージョン社の社員か?」
「あぁ、悪い悪い。そういう意味で言ったわけじゃねぇんだ。ただ、あんた達がそういう戦術でくるなら……俺も好き勝手にやらせてもらうぜ」
ふっーと、ルースは大きく深呼吸した。
敵には十二分に翻弄された。
ここからは……逆襲だ。
「……俺達3人の中で俺のデッキは唯一正統な『ビートダウン』だ。やっぱり決闘は殴り合わないとな? まずはカードを2枚セット! 更に魔法発動!『命削りの宝札』」
ルースが発動したのは超強力なドロー加速カード。
『命削りの宝札』
魔法カード
手札が5枚になる様にカードをドローする。5ターン後の自分スタンバイフェイズ時に手札のカードを全て捨てる。
「俺は4枚ドロー!」
ブラックとホワイトのフィールドには、合計3枚の伏せカードがある。十中八九、攻撃を止めるカードがあるだろう。
それを打ち破る。
「まずはコイツだ『首領・ザルーグ』を召喚!」
『首領・ザルーグ』
闇/戦士族
ATK1400
DEF1500
このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、 以下の効果から1つを選択して発動する事ができる ●相手の手札をランダムに1枚捨てる。●相手のデッキの上からカードを2枚墓地へ送る。
二丁拳銃を携えた、隻眼の盗賊。手札破壊の能力を備えた優秀なモンスターだ。ブラックがバカにしたように鼻を鳴らす。
「……そのモンスターでは1体ではどうにもなるまい?」
「ああ、そうだぜ。確かにザルーグ1人ではどうにもなならねぇ。だが……仲間がいればどうかな?」
「……なに?」
ルースの場で魔法カードが開かれる。それは先程伏せたカード。
「『増援』を発動! デッキから『黒蠍-罠はずしのクリフ』を手札に加える。さぁ……いくぜ野郎共! 魔法発動!『黒蠍団召集』」
フィールドに突如現れる、4つの影。
「1人目!『黒蠍-罠はずしのクリフ』」
眼鏡を掛けた神経質そうな男。しかし、罠はずしの腕は超一流。
「2人目!『黒蠍-逃げ足のチック』」
逃げ足は天下一品。お宝探しの嗅覚も一流。黒蠍団きってのお調子者。
「3人目!『黒蠍-棘のミーネ』」
艶やかな長髪をなびかせ、1人の美女が舞い降りる。黒蠍団の紅一点は華麗に鞭をしならせた。
「さぁ、4人目!」
「……ふざけるな」
「あなたのフィールドはもう埋まっていますよ~?」
怒涛の大量展開に言葉を失っていた、ブラックとホワイトが指摘する。確かにルースのモンスターゾーンは、もう埋まっている。これ以上モンスターを出すことはできない。
「おいおい、ふざけてんのはそっちだろ? これは『タッグデュエル』なんだぜ? 受けとれラルフ!」
ルースが黒蠍団最後の1枚をラルフに投げ渡した。
「ふん!仕方あるまい。俺のフィールドを間借りさせてやる! 来い、4人目!『黒蠍-強力のゴーグ』」
ルースのモンスターゾーンは埋まった。だが、ラルフのモンスターゾーンには、まだ1ヶ所空きがある。
最後の1人は丸太のような腕、チックの倍はある身の丈。彼にしか扱えないであろう、巨大なハンマーを持ってフィールドに立つ。
「……やるな」
「パートナーのフィールドに呼び出すとはね~!」
「これにて全員集合! これが、黒蠍盗掘団!」
ルースの声に合わせて『ザルーグ』を中心に『クリフ』『チック』『ミーネ』『ゴーグ』がフィールドの中央に集まり、ポーズを決めた。
「おぉ~すげぇ!? 一気に4体もよびだしたぞ?」
「かっこいいじゃん、黒蠍盗掘団!」
「だがっ……それでも勝つのは……ピケクラッ!」
「どっちも頑張れ~」
ピケルとクランの虜だったギャラリー達からも、歓声があがる。流れもラルフ達に向いて来たようだ。
「大量展開しただけでいい気にならないで欲しいですね~」
「……勝つのは我らだ。リバースカードオープン『グラヴィティ・バインド-超重力の網-』」
ブラックの場の最後の伏せカードが開かれ、フィールドが緑色の『ネット』に覆われていく。ルースの場の『クリフ』と『チック』以外のモンスターは動きを封じられた。
「やっぱり伏せてたか……」
『グラヴィティ・バインド-超重力の網-』
永続罠
フィールド上のレベル4以上のモンスターは攻撃できない。
「これで動けませんね~?」
「……貴様の『チック』は攻撃力1000。『クリフ』は攻撃力1200。我のクランたんと相討ちをとるかね?」
露骨な挑発。ブラックの横で、ホワイトが笑みを浮かべる。
(俺の伏せカードは『ドレインシールド』 どちらにせよ、攻撃は届きませんよ。ブラックはそれを分かっての挑発ですね)
ホワイトは笑いが止まらず、口元を手札で隠した。派手な登場をした盗賊団だったが、攻撃が通らなければ意味がない。
「な~んか、勘違いしてねぇか?」
「……なんだと?」
そう、そんな事はルースも百も承知だ。攻撃は通らなければ意味がない。『グラヴィティ・バインド』が張ってあるのは、予想の範囲内だった。
「リバースカードオープン!」
ルースの場に1ターン目から伏せられていたカード。今まで、使わなかったのではなく『使えなかった』
このカードこそ、状況をひっくり返す『必殺』の1枚。
「いくぜ……『必殺!黒蠍コンビネーション』」
――反撃開始。