ルール改定に駆けた男のロード   作:龍流

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12.「黒き炎をその眼に刻め」

『神のカード』

 

『オベリスクの巨神兵』

『オシリスの天空竜』

『ラーの翼神竜』

 

 ペガサス・J・クロフォードがデザインした、デュエルモンスターズ界において最強のカードとして君臨する、この3枚。

 

『三幻神』

 

 これらの神のデザインは、エジプトでのペガサスの体験が元になっている。

 大地にそびえ立つオブジェクト『オベリスク』

 冥界の神として崇められた『オシリス』

 エジプト文明における最高神『ラー』

 

 ペガサスは何かに取り憑かれたように『三幻神』をデザインし、この世に生み出し、そして後悔した。

 余りにも圧倒的なパワー。

 

 敵の存在を許さぬ雷撃。

 

 全てを焼き尽くす不死鳥の炎。

 

 『三幻神』は、デュエルモンスターズというゲームのバランスを簡単に覆し得るカードだった。

 そして『三幻神』はテストプレイの時点で様々な不具合をみせた。テストプレイヤーの突然の昏倒、事故。そもそも効果テキストの翻訳ができない『ラー』の存在。まるでエジプトの神々に呪われているかのような、不吉な出来事の数々。

 悩み抜いたペガサスは『三幻神』の封印を決意し『神のカード』は伝説の存在となり、デュエルモンスターズの表舞台から姿を消した。

 しかし、バトルシティの開催と共に『神のカード』は人々の前に、再び姿を現す。

 

 観客は興奮するだろう、その圧倒的な力に。

 決闘者は欲するだろう、その圧倒的な力を。

 

 人々の信仰を集め、平和と安定をもたらす存在であるはずの『神』が争いの火種となる。なんたる皮肉か。

 

 『神のカード』を擁するグールズに対抗する為に、ペガサスは『ラルフ・アトラス』に託すことにした。『三幻神』をデザインした後、触れることをためらい続けてきた『エジプト神話』からインスピレーションを受けたカード。

 『真紅眼の黒竜』と、ある意味では共通点を持つカード。

 

 ペガサスは脳裏に浮かんだ閃きをカードにぶつけた。

 これで『三幻神』に対抗できるとは思わない。こちらには『海馬瀬人』も『武藤遊戯』もいる。だが、ペガサスは『ラルフ・アトラス』にそのカードを託す事を選んだ。

 

「……バトルシティ。何も起きてないといいのデスが……」

 

 会長室の窓から空を見る。漆黒の空に浮かぶ星に、願いを託すことしか、今のペガサスにはできなかった。

 

 

◇◆◇◆

 

 

「……黒蠍……コンビネーションだと?」

「なんですか? その安っぽい戦隊モノみたいなカードは~?」

 

 ホワイトはバカにした様に軽口を叩く。しかしルースは、そんなことを露とも気にせずニヤリと笑った。。

 

「安っぽいかどうかは……くらってみてから、判断してもらうぜ?」

 

 『グラヴィティ・バインド』の影響を受けていない『罠はずしのクリフ』がブラックに向かって突っ込む。

 

「……直接攻撃効果か!」

「そういうことだ!ダメージは400ポイントになっちまうけどな!」

 

 

『必殺!黒蠍 コンビネーション』

通常罠

自分フィールド上に『首領・ザルーグ』『黒蠍-罠はずしのクリフ』『黒蠍-逃げ足のチック』『黒蠍-強力のゴーグ』『黒蠍-棘のミーネ』が表側表示で存在する時に発動する事ができる。これらのカードは発動ターンのみ相手プレイヤーに直接攻撃をする事ができる。その場合、相手プレイヤーに与える戦闘ダメージはそれぞれ400ポイントになる。

 

 

 

 罠はずし。その名前から、罠破壊効果を持っている事は、容易に想像できる。ならば、この攻撃を通すわけにはいかない。ホワイトは伏せカードを開いた。

 

「やらせませんよ~リバースカードオープン! 『ドレインシールド』」

 

 ブラックの前に半透明のシールドがあらわれ、『罠はずしのクリフ』のナイフを弾き返す……しかし、その刹那

 

「リバースカードオープン!カウンタートラップ『トラップ・ジャマー』だ!」

 

 開かれたのは、彼らの罠カードだけではなかった。

 

「な……しまった!?」

 

 派手にモンスターを展開していたルースにばかり注意が向いていた。その隙を突く、ラルフからの『カウンター』

 

『トラップ・ジャマー』

カウンター罠

バトルフェイズ中のみ発動する事ができる。

相手が発動した罠カードの発動を無効にし破壊する。

 

「俺がいるのを忘れないでもらおうか?」

「……そっちも中々いいコンビネーションしてるじゃないですか」

 

 苦笑いを浮かべるホワイト。対するルースは相棒に向かって笑いかける。

 

「サンキュー、ラルフ! さぁ、攻撃続行だぜ!」

「……致し方あるまい。ライフで受けてやろう」

 

 鈍く光る盗賊のナイフが、黒のコートにめり込んだ。

 

「……むぅう」

 

ブラック LP4000→3600

 

「大丈夫ですか~?」

「……やはり通常の『決闘盤』より少々刺激が強いようだな」

 

 攻撃を受けた箇所を押さえながら、ブラックはホワイトの問いに応じた。

 

「なんだあいつら?」

「ルース、気をつけろ。奴らの『決闘盤』は違法改造されているようだ。ダメージがかなり大味だぞ」

「……お前さぁ、そういうことはダメージ受けた時にちゃんと言えよ。まがりなりにもパートナーなんだからよ」

「……すまん」

「いきなり痛かったら、俺びっくりしちゃうもん!」

「……そっちが本音か」

 

 謝って損した……と、ラルフはガクッと肩を下げた。ルースはその様子をみてニヤニヤしつつ、バトルを続行する。

 

「俺は『罠はずしのクリフ』の効果発動!『グラヴィティ・バインド』を破壊するぜ!」

 

「あーこれまずいですね~」

「………」

 

 見事な手捌きで『罠はずしのクリフ』は『グラヴィティ・バインド』を解除。他のモンスター達を解き放った。

 

「続けて『首領・ザルーグ』のダイレクトアタック。ダブルリボルバー!!」

 

 

 一瞬の内に、2度の銃撃音。

 目にも止まらないはや撃ちがブラックを襲った。

 

「……ぐっ……」

 

ブラック LP3600→3200

 

「さらにザルーグの効果発動だ! 手札をランダムに1枚墓地送りにさせてもらう!」

「……なるほど、いい効果だ」

 

 ザルーグが鍵縄を投げつけ、ブラックの手札からカードを奪う。これで残りの手札はたったの1枚。

 

「さらにさらに!『逃げ足のチック』と『棘のミーネ』のダブルダイレクトアタック!」

 

 普段は逃げてばかりのお調子者も、ここぞとばかりにハンマーを振るい、気の強そうな女盗賊も、鞭を叩きつける。

 

「……集中狙いか……」

 

 

 

ブラック LP3200→2400

 

「まずは『ミーネ』の効果を発動! 相手に戦闘ダメージを与えた時、墓地の『黒蠍』と名のついたカードを手札に戻す。俺は『必殺!黒蠍 コンビネーション』を手札に戻すぜ!」

「……これで次のターン……」

「また必殺技がきますね~」

 

 黒蠍盗掘団は戦闘ダメージを与えた時に、その効果を発揮する。このままでは次のターンにもう一度『必殺!黒蠍 コンビネーション』を受けることになる。

 

「まだまだ!『逃げ足のチック』の効果! 黒い方の奴のデッキトップを確認して、そのままにするか、デッキの1番下に置く!」

「……デッキトップの操作か……」

 

 決闘では1枚のドローカードが勝敗を左右する。それを作為的に入れ換えるこの効果は、かなり強力だ。ブラックがデッキトップのカードをめくる。

 

「……『光の護封剣』だ」

「おぉ、あぶねぇ……デッキの1番下に送ってもらうぜ」

「……むぅ」

「ま……そんな顔をするなよ…」

 

 まるで、獲物を奪う盗賊のような獰猛さを、ルースは覗かせた。

 

「どっちにしろ……このターンであんたは終わりだ。バトル! 『強力のゴーグ』で『黒魔導師クラン』を攻撃だ」

「……なんだと? このターンの黒蠍団の攻撃は、全て直接攻撃のはず……?」

「ちゃーんとテキストをみてくれよ? このターン直接攻撃『できる』だぜ?モンスターにアタックするのに、何の支障もない」

 

 ルースはしてやったり、といった顔で告げた。黒蠍団随一の剛腕をもつ男が『クラン』を叩き潰そうとハンマーを振り上げる。

 

 

「うわぁああ!?」

「やめろぉお!?」

「クランちゃんがぁー!?」

「お前は人じゃないのか?」

 

 

 阿鼻叫喚の悲鳴がギャラリー達からあがる。ルースは困った様子で頭を掻くと、なんでもないように言った。

 

「わりぃな……けど……盗賊は悪者なんだぜ?」

 

 無慈悲にもハンマーがクランに直撃する。ダメージを与えた事により、追加効果も発揮された。

 

 

ブラック LP2400→1800

 

「ゴーグの効果で『白魔導士ピケル』を手札に戻す!」

「バウンスですか~」

 

 ピケルとクランがフィールドから消え、ギャラリー達があからさまに落胆する。「ゴーグぶっころす…」という不穏な呟きが聞こえてくるほどだ。しかしこの場に、この男以上に怒りを覚えている人物はいなかった。

 

 

「……おのれぇえ……よくも我のクランたんを破壊してくれたな……覚えておけよ……このハゲ筋肉達磨め……必ず……必ず貴様を八つ裂きにしてこの屈辱を果たす……いや……八つ裂きにする程度では済まされん……我のクランたんへの愛はその程度ではない……かくなる上は……」

 

 今までの威厳はどこへやら……いや、今までよりも鬼気迫る表情でブラックは恨みの言葉を吐く。ハゲ筋肉達磨と言われ、ゴーグの表情がかなりひきつっている様にみえるが、おそらく気のせいだろう。

 

「ブラック~どうどう。落ち着いてくださ~い」

「……やべぇ。爆弾踏んだか……どうしよう?」

「破壊したのはお前だ。責任はお前がとれ」

「いや、『強力のゴーグ』がいるのはお前のフィールドだからな?」

「俺に押し付けるな!?」

 

 

 押し付けるな、とまで言われ、ゴーグがかなり傷ついた表情になる。多分気のせいだろう。

 

「ま……このターンで決めちまえば、逆襲もないよな? 『キラートマト』でダイレクトアタック!」

 

 残っているのは攻撃力1400の『キラートマト』と『UFOタートル』の攻撃。全て通れば、このターンでブラックは脱落だ。

 

「これ以上は通せませんね……リバースカードオープンです!『スケープ・ゴート』」

 

 だが、パートナーの防御を補うのが、タッグデュエルの醍醐味の1つ。当然ホワイトが黙って見ているわけがない。フィールドに飛び出たのは4匹の可愛らしい子羊。攻撃力と守備力は0だが、壁としては有用だ。

 

「残りの攻撃は俺の羊ちゃん達でうけま~す!」

「ちっ……しぶといな……『UFOタートル』と『キラートマト』で羊トークンを攻撃だ!」

 

 子羊の数が4匹から2匹に減る。ルースが悔しげにパチンと指を鳴らした。このターンでブラックだけでも倒したかったのだが、どうにもならない。

 

「仕留めきれなかったぜ……リバースカードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

 しかし、止めをさせなかったとはいえ、フィールドの状況はブラック、ホワイト側がかなり不利だ。黒蠍盗掘団の連続攻撃で、もはや彼らのフィールドには、羊トークンが2体のみ。

 それでも、ブラックの眼から、闘志は消えていなかった。

 

「……我のターン、ドロー!」

 

 ドローカードを確認、迷いもせずにスロットに差し込む。

 

「……『強欲な壺』を発動。デッキから2枚ドロー」

 

「うわ……マジかよ?」

「おい……トップ操作などしない方がよかったのではないか?」

 

 ラルフにじろりと睨まれ、ルースは身を縮める。そんな事を言われても、敵の運がよかったのだから、どうしようもない。

 

「……魔法カード『死者蘇生』を発動! 我が傍らに再び甦り、勝利を示せ!黒魔導師クランたん!」

 

「キター!!」

「おかえりクランちゃん!」

「ピケルちゃんはまだか…」

 

 クランの再登場に再び沸く、ギャラリー達。ラルフはいい加減頭が痛くなってきた。

 

「装備魔法『王女の試練』をクランたんに装備。攻撃力が800アップする」

 

『黒魔導師クラン』

ATK1200→2000

 

 一方でブラックは淡々と決闘をすすめる。彼の目標はただひとつ。前のターンで、愛するクランを粉々にしたモンスター。

 

「……バトルだ……クランたんでハゲ筋肉達磨に攻撃!!」 

 

 名前もまともに呼ばれず、もはや泣きそうな表情のゴーグに向かって、クランは鞭を振るう。その見た目に反して、今ののクランはゴーグよりも攻撃力は上。

「ちぃ……」

 

 

ラルフ LP2500→2300

 

 

「……戦闘によってレベル5以上のモンスターを破壊した……これによりクランたんは『王女の試練』を突破した」

「なに? どういうことだ?」

 

「……クランたんの魔力は進化する。見るがいい!」

 

『王女の試練』

装備魔法

『白魔導士ピケル』『黒魔導師クラン』にのみ装備可能。装備モンスターの攻撃力は800ポイントアップする。装備モンスターがレベル5以上のモンスターを戦闘によって破壊したターン、装備モンスターとこのカードを生け贄に捧げる事で、『白魔導士ピケル』は『魔法の国の王女-ピケル』を『黒魔導師クラン』は『魔法の国の王女-クラン』を手札またはデッキから1体特殊召喚する。

 

 

 戦闘破壊した『強力のゴーグ』のレベルは5。クランは王女になるための課題をクリアした。小さな体に少しずつ、だが確実に魔力が溜まっていき、新たな姿へ進化する。

 

「……刮目せよ! 黒き魔女の真の姿に恐れ戦け!『魔法の国の王女-クラン』降臨!」

 

 漆黒のドレスはより優美に、よりしなやかに。

 ウサギの従者を引き連れて悠々とフィールドに歩み出る。

 その姿は、まさにプリンセス。

 

『魔法の国の王女-クラン』

闇/魔法使い族

ATK2000

DEF0

 

「か……かわいい」

「ふつくしい……」

「なんと神々しい……」

「これが……モンスターの進化なのか」

「いや……クランたんはモンスターなんかじゃない!」

「プリンセスだぜ!」

 

 

 もはやギャラリーに突っ込む気力はないので、ラルフもルースも聞き流す。

逆にブラックとホワイトはギャラリーの反応に満足していた。

 

「当然……マジカルプリンセスとなった、クランたんの効果は進化している……我らのスタンバイフェイズに貴様らのモンスターの数×600のダメージを与える……」

 

「600ポイント……」

「奴らにスタンバイフェイズを渡しちまったら、その時点で終わりか……」

 

 ラルフ達のフィールドには計9体のモンスター。合計ダメージは5400ポイント。無傷のルースも、この効果をくらえば確実に敗北する。

 

「我はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

 敵のフィールドは『魔法の国の王女-クラン』と伏せカードが1枚。普通に考えれば、突破するのは難しくない。だが、ブラックの眼光がラルフ達を射ぬく。

 

 くるなら来い。

 そう言いたげに。

 

「おい……貴様ら、本当にグールズではないのか?」

 

「……なに?」

「どうしたんですか~唐突に?」

 

 ラルフの口から思わず洩れた質問。ブラックとホワイトは訝しげな表情になる。

 

「お前達の決闘は素晴らしい。コンビネーションも戦略も。ギャラリーを魅力する決闘だ」

「おいおいラルフ。敵さんを誉めてどうすんだよ?」

 

 『ピケル』と『クラン』という決して強くないカードを活用した決闘。タッグデュエルの変則ルールを活かした戦法。ここまで戦ってラルフは彼らに、明確な敬意を抱いていた。

 

「だからこそ……惜しい。貴様達はそれだけの腕を持ちながら、グールズの様な汚い組織に手を貸すのか?」

 

 ブラックとホワイトは戸惑ったように顔を見合せる。

 

「……すいませんね~俺達はしがない『賞金稼ぎ』です。依頼人の秘密は守らなければなりません」

「……だが、我らの決闘への称賛。心より礼を言おう」

 

 

 そう言うとブラックは黒い決闘盤のボタンを押した。

 

『systemchange』

 

 電子音声が響き、ラルフとルースの決闘盤を拘束していたワイヤーがパージされる。

 

「これは……?」

「おっ……外れた。もしかして俺は痛い思いせずにすむ?」

 

「ちょ……何やってんですか? ブラック!?」

「……我らの決闘に敬意を示してくれたのだ。我々も礼を返すのが道理というものだろう?」

 

 慌てる相棒の言葉を意に介さず、ブラックはそう言った。

 

 

 

「……我々の戦法は卑怯者と謗りを受けてもおかしくないものだ。そんな我らの決闘を『ギャラリーを魅力する決闘』と言ってくれた……こんなモノを使うのは無礼にあたる」

「はぁ~あなたは本当にもう…振り回される俺の身にもなってほしいですね~クライアントの依頼はこの『機能』を使った決闘だったというのに……」

 

 ホワイトも溜め息をついてはいるが、ブラックの行動を咎める気はないらしい。

 

「……来い、ラルフ・アトラス。これでお互いに痛みを気にせず、グールズなど関係ない、純粋な決闘だ」

「……いいだろう。お前が示してくれた意思に、俺も全身全霊をもって答えよう! 俺のターン!」

 

 ドローに力を込める。対戦相手の思いに応える為か、デッキは望んだカードを引かせてくれた。

 やっときた。正真正銘、このデッキの『切り札』だ。

 

「俺は『UFOタートル』を生け贄に捧げ……」

 

 それはペガサスが託したカード。

 『真紅眼の黒竜』と同じく、黒き炎を操る。

 エジプト神話においては『オシリス』の子。

 大空を支配した、天空の神。

 

 その名は……

 

 

「『ホルスの黒炎竜LV6』を召喚!!」

 

 

 白銀に輝く体。隼をモチーフとしたその姿は、ドラゴンと呼ぶにはあまりに異形。しかし、どこか見惚れてしまうような神威を纏っていた。

 

「……素晴らしいモンスターだ。だが、我のプリンセスクランの攻撃力を越えるモンスターを出してくるのは予想の範囲内だ……リバースカードオープン!」

 

 ラルフのモンスター召喚に対して、ブラックは伏せカードを開く。

 

「……速攻魔法『死者への供物』」

 

 

死者への供物

速攻魔法

フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を破壊する。

次の自分のドローフェイズをスキップする。

 

 

 発動されたのは、フリーチェーンの速攻魔法。何らかの対応をしなければ『ホルスの黒炎竜』は破壊され、ラルフ達は『クラン』を突破する手段を失う。

 だが、ラルフもルースも伏せカードに手をかけることもせず、微動だにしない。

 

 そして『ホルスの黒炎竜』には、何の変化もなかった。

 

「……バカな……?」

「ちょっとちょっと~なんで効いてないんですか?」

 

「俺の『ホルスの黒炎竜』は魔法攻撃に対して絶対の耐性を持つドラゴン。魔法効果は一切受けない」

 

「……なん……だと?」

「魔法効果を受けない……?」

 

 『耐性』と呼ばれる効果を持つモンスター達が存在する。

 例えば戦闘では破壊されない『戦闘破壊耐性』

 対象をとるカードに対する『対象効果耐性』

 『ホルスの黒炎竜』が魔法カードに対して持つ効果は、カードの効果を『受けない』という、耐性効果の中でも最上位にあるものだ。

 

「だが……これはホルスの真の姿ではない。今から、お前がクランを成長させた様に、俺もホルスを進化させる」

「……進化だと?」

 

「魔法カード発動!『レベルアップ!』」

 

 手抜きはしない。全力全開で相手をする。ラルフはホルスの真の姿をみせる為、『ホルスの黒炎竜』自身が描かれた、そのカードを発動させた。

 

「このカードは自分フィールド上の『レベルモンスター』を召喚条件を無視してひとつ上のレベルにアップさせる!」

 『ホルスの黒炎竜』の胸部が開き、中から腕が生える。足も翼もより成長し、強靭な姿へと変化していく。

 ペガサスが発案した新システム『レベルモンスター』

 一定の条件を満たし、進化するモンスター達。

 その第一号が『オシリス』や『ラー』と並ぶ、エジプトの神『ホルス』

 

 今、この瞬間。

 決闘の場において、はじめてその姿を現す。

 

 

「天を舞う王者の威光! 白銀の翼、黒き炎をその眼に刻め! 降臨せよ! 『ホルスの黒炎竜LV8』」

 

 現れたのは1体のドラゴン族モンスター。

 しかしブラックは、ホワイトは、この場にいる全ての人々は、そのプレッシャーに気圧された。

 そして、疑問を抱かずにはいられない。

 このカードは、本当にただのモンスターなのか、と。

 

『ホルスの黒炎竜LV8』

炎/ドラゴン族

ATK3000/DEF1800

 

「これが俺の切り札。世界にまだ1枚しか存在しない『レベルモンスター』最強の姿だ」

「……見事だ……」

 

 呻くように呟き、ブラックはホルスを見上げる。神々しい白銀の体躯には、眼を離せない不思議な魅力があった。

 

「『ホルスの黒炎竜LV8』の攻撃! 神滅のブラック・フレア・ストリーム!」

 

 渦巻く黒い炎が『クラン』を一瞬で飲み込み、消し飛ばす。

 

「……すまない、クラン」

 

ブラック LP1800→800

 

「続けて『棘のミーネ』と『逃げ足のチック』で羊トークンを攻撃!」

 

 ホルスの黒炎竜の下を潜り抜け、盗掘団がダイレクトアタックのための道を開く。

 

「これでフィールドはがら空き! 『キラートマト』でダイレクトアタック!」

 

 赤いトマトがはね飛び、ブラックに突撃する。

 

 

「……無念…」

 

ブラック LP800→0

 

 ついに、タッグデュエルから1人が脱落する。しかし、膝をつく相棒を見ながらも、ホワイトは冷静だった。

 

(残りの攻撃は『罠はずしのクリフ』と『首領・ザルーグ』だけ……まだ俺のライフは残る)

 

 あきらめない。そう思ったホワイトの眼前に、ナイフが迫る。

 

「『罠はずしのクリフ』と『首領・ザルーグ』のダイレクトアタック!」

 

「ぐっ……」

 

 

ホワイト LP4000→1400

 

 ライフが大きく削られる。だが、凌いだ。ザルーグの効果で手札が1枚減らされるが、まだチャンスはある。そう思ったホワイトだったが……

 

「最後まで勝負を捨てないその眼……気に入った。だが……」

「……だが?」

「このターンで終わりだ」

「ッ!?」

 

「リバースカードオープン!『火霊術-「紅 」』」

 

 『ホルスの黒炎竜』がその身を捧げ、炎に変える。

 

『火霊術-「紅 」』

通常罠

自分フィールド上の炎属性モンスター1体をリリースして発動できる。 リリースしたモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

 

 

「たった1ターンで……無傷だった俺のライフを……」

「いいデュエルだった……俺達の勝ちだ! 3000のダメージをくらえっ!」

 

ホワイト LP1400→0

 

 決着。

 

 はじめて見るモンスター。一進一退の攻防。かわいいピケルとクラン。そんな決闘の終了にギャラリー達が歓声をあげる。

 

「俺達の負け……ですね~」

「……我らのピケクラを破るとはな……」

 

 負けたというのに、ブラックとホワイトはどこか清々しい表情だ。

 ラルフも同じ気持ちだ。いい決闘だった。それはもちろん事実なのだが……

 

「さて……それでは話を聞かせてもらおうか?」

 

「……へ?」

「……む?」

 

 少々悪い笑顔を浮かべながら、ラルフはブラックとホワイトに詰め寄る。

 

「その『黒い決闘盤』の出所と、俺達を襲う指示を出した依頼主のことを喋ってもらおう」

「あ~いや……それはちょっとですね~」

 

 ホワイトの頬を冷や汗が伝う。

 

「知っていることは全て喋ってもらう。俺達は『社会人』で、これは『仕事』なのでな……」

「おいおいおい……決闘終わって仲良くなって終了、なわけないだろ?」

 

 バキバキと拳を鳴らしながら、ルースもブラックとホワイトに歩み寄る。

 

「………窮地」

「いや~なんというか…すいませんね~残念ですが……」

 

 ホワイトが立ち上がり、白のコートを翻した。

 

「またお会いしましょう~♪」

 

 ボンッ!!

 

 突然何かが炸裂し、視界が真っ白に染まる。公園は白い煙に包まれた。

 

「なっ……しまった!?」

「あの野郎! 古い手使いやがって!?」

 

 慌てて後を追おうとするが、もはや手遅れ。煙が晴れる頃には、ブラックとホワイトの姿はなかった。

 

「に……逃げられた」

「決闘には勝ったけどよ……一杯食わされたぜ……ん?」

 

 ルースがしゃがみ込み、地面に落ちていたモノを拾い上げる。

 

「これは……」

「なんつーか……あいつら、素直じゃないな」

 

 苦笑いしながらルースは拾い上げたモノをラルフに放り投げる。片手でキャッチすると、重さは通常の『決闘盤』とそれほど変わらない。

 

「『黒い決闘盤』か……」

「ま、手掛かり位にはなるんじゃねぇの?」

 

 

◇◆◇◆

 

 

「ダメっすね。よく分からないっす」

 

「「はぁああ!?」」

 

 

 童実野町にある、海馬コーポレーションの本社。ソリッドヴィジョン研究室。

 『決闘盤』を調べていたサイトウの言葉に、ラルフとルースは思わず声が重なった。

 

「分からないってなんだよ?」

「何かしらの手掛かりや仕組みはあるだろう?」

 

 今回、アメリカから日本に来ているのはラルフ達だけではない。バトルシティの開催に伴い、インダストリアル・イリュージョン社に出向していた海馬コーポレーションの社員達も、大部分が呼び戻されていた。サイトウもその1人である。

 ブラックとホワイトとの決闘の後、ラルフとルースは海馬コーポレーションに向かった。

 ソリッドヴィジョンの管理システムである『デュエルリングサーバー』の調整に掛かりきりだったサイトウに無理を言い、『黒い決闘盤』の解析を依頼したのだ。

 しかしその結果が……

 

「分からないとはどういうことだ! 貴様ァ!」

「ちょ…ストップ!ラルフ先輩落ち着くっす!」

 

 

 ラルフに胸ぐらを掴まれ、サイトウはじたばたと抵抗する。

 

「も……もちろんラルフ先輩が言っていた『痛み』の原因は分かったっすよ! 簡単に言うなら、ソリッドヴィジョンに連動する衝撃増幅装置みたいなものっす!」

 

 サイトウによると、この『決闘盤』はワイヤーで接続した相手の『決闘盤』のシステムを乗っ取り、『衝撃』を発生させることができるという。

 

「なんだ……分かったことがあるなら最初から言え!」

「ラルフ先輩がいきなり怒るからっすよ~」

「じゃあなんで分からないなんて言ったんだ?」

 

 ルースが興味深そうに『黒い決闘盤』を持ち上げながら聞く。

 

「……あまりにも分からない部分。ブラックボックスとでも言えばいいのか……何の為に備え付けられているのか見当もつかない部分が多すぎるんす」

 

 サイトウは『ソリッドヴィジョンシステム』に関するスペシャリストだ。『決闘盤』の内部構造についても、熟知している。『決闘盤』を分解すれば、どこが何の為のパーツか理解しているのだ。

 しかしこの『黒い決闘盤』に使われているのは、見たこともないパーツ。分解しても解析のしようがない。

 

「むぅ……」

「こりゃあ……振り出しに戻っちまったか?」

 

 分からない部分が多すぎる手掛かりだ。ルースにしては珍しく、げんなりとした顔で溜め息をついた。

 

「そんなことより! 敵の決闘者がピケルとクランを使ったってマジすか?」

 

「お? ああ。マジだぜ。結構強かったしな」

「あぁあ……見たかったっす。ピケルちゃんとクランちゃん……萌え……」

 

 相変わらずこの男の脳みそのほとんどは『萌え』で構成されているようだ。

 そういえば、とラルフが口を開く。

 

「お前がソリッドヴィジョンに拘るのは勝手だが……モンスターに喋らせるのはやりすぎだぞ?」

「へっ? 喋った?」

「ああ。ピケルとクランがフィールドに揃ったら、いきなり喋りだした。確かにリアルだったが……」

 

「なぁに言ってるんすか、ラルフ先輩? ソリッドヴィジョンが喋るわけないっすよ?」

 

「なん……だと?」

 

 決闘中、ラルフは確かに『ピケル』と『クラン』が喋ったように聞こえた。周囲のギャラリーも聞こえていた。

 

「……じゃあ、あれはなんだったんだ?」

「さぁ? よくわかんねぇけど……」

 

 呆然としているラルフと、よく分からんという顔をしているサイトウ。

 ルースは2人に向かってニヤッと笑った。

 

 

「カードの精霊だったんじゃねぇの?」

 

 

◇◆◇◆

 

 

『もう、アンタは本当にバカなんだから! あの決闘盤は危険な感じがするって、アタシが忠告したでしょ?』

「……仕方なかろう……謝礼の額がよかったのだ」

『結局タダ働きじゃない! しかも何負けてんのよ?』

「……我等の力不足だ…すまない……」

『本当よ! ピケルも何か言ってやりなさいよ!』

『もうやめてあげようよ~ますたー達もがんばったんだよ』

「そうですよクランちゃ~ん。いい加減、機嫌をなおしてくださいよ~」

 

 童実野町の郊外の道を走る1台の車。そこには2人の人間しか乗っていない。端から見れば、誰もいない後部座席に向かって喋っているように見えるだろう。

 

 

 だが、彼らの目には後部座席に座る『彼女達』の姿が見えている。

 ぷりぷりと怒っている『黒魔道師クラン』

 おろおろしている『白魔導士ピケル』

 彼らの大切なパートナーである『精霊』達だ。

 

『本当にもう、どうするのよ? お金貰えないじゃない!』

「……非力な我を許してくれ……クランたん」

『アンタなんかもう知らないんだから!』

「……クランたん」

 

 露骨に落ち込む相棒を見て、ホワイトは心の中で合掌した。流石にかわいそうなので、フォローをいれる。

 

「まぁまぁ。それ以上はやめてあげて~クランちゃん。ブラックのMP(メディカルポイント)が0になっちゃいますよ?」

『何言ってんの? 決闘に負けてライフは0。アタシに責められて心も0。おまけに財布も0ポイントでしょ?』

「む……うまいこと言いますね」

『うまくなーーい!』

『クランちゃん、落ち着いてよ~』

 

 クランの怒りは収まらない。しかし、クランが言ったことは事実であり、財布はすっからかんだ。空を見上げればもう夕暮れ。なんとも哀愁が漂う。

 この道を走っているのは、ホワイト達の車だけだ。

 

「……次は必ず勝って稼ぐから……許してくれ……クランたん」

『当然よ! はやくアタシにお菓子をいっぱい買いなさい!』

「……御意」

 

 完全に使い走りじゃないか、相棒よ……ホワイトは苦笑いしながら、ハンドルを切った。

 

「とりあえず、童実野町からは出ますよ~クライアントにこのことが知れたら、まずいですしね~」

『大丈夫、ますたー?』

「問題ないよ~ピケルたん。もう童実野町からで……!?」

 

 穏やかな空気を切り裂く、耳をつんざく音。車は急ブレーキをかけて止まった。

 

『何よいきなり!?』

「……どうした?」

『ますたーあれ……』

「ん~まずいね~」

 

 道路の真ん中に立っているのは1人の男。白い長髪。腕にはあの『黒い決闘盤』をつけている。

 ブラックとホワイトは車から降りた。

 

「いや~危ない危ない。轢いてしまうところでした」

「……契約違反の我々を消しにきたか?」

 

「分かっているなら、答える必要はないだろう。ここまで使えない奴等だったとはな……よくも私の顔に泥を塗ってくれた」

 

 長髪の男は顔色を変えずに淡々と語る。

 『黒い決闘盤』からワイヤーが伸び、ブラックとホワイトの『決闘盤』を拘束した。

 

「……1人で我等を相手にする気か」

「舐められてますね」

 

 対戦に応じるために、ブラックとホワイトも『決闘盤』を展開させる。ピケルがふわふわとホワイトに近づき、耳打ちした。

 

『ますたー、きをつけて……あの人のデッキから、さっき戦ったドラゴンさんよりも強い『魔力(ヘカ)』を感じるの……』

「……マジですか?」

 

 ピケルがそう言うのならば間違いない。長髪の男のデッキには『ホルス』を超えるモンスターが眠っていることになる。

 

「……全力でいきますよ~」

「……無論だ」

「馬鹿な奴等だ。貴様らごときでは……敵うはずもないというのに」

 

 長髪の男がデッキを撫でる。愛しそうに。畏怖するように。

 その気持ちは、デッキの中のただ1枚のモンスターに向けられていた。

 

 

 

「完全ではないが……『神を超える悪魔』をみせてやろう」

 

「「「決闘!!」」」

 

 夕暮れの空の下で、一方的な蹂躙がはじまろうとしていた。

 

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