ルール改定に駆けた男のロード   作:龍流

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13.「神を超える悪魔」

 バトルシティ予選が終了した。

 

『武藤遊戯』

『海馬瀬人』

『城之内克也』

『漠良了』

『孔雀舞』

『マリク・イシュタール』

『リシド・イシュタール』

『イシズ・イシュタール』

 

 以上の8名が決勝トーナメントに進出。もっとも、この時点ではマリクは『ナム』と名乗っており、その正体を隠しているのだが、それに気づいている者はいない。

 決勝トーナメント進出者が集まったスタジアム。そこに一隻の『飛行船』が舞い降りる。

 

「な、なんだぁ!?」

「飛行船…!?」

 

 驚きの声をあげる城之内や遊戯。海馬は降りて来る飛行船を指差し、叫んだ。

 

「我々の決闘の舞台は天空だ。乗り込むがいい、選ばれし決闘者達よ!」

 

 海馬の号令で、決闘者達は飛行船に乗り込んで行く。

 

海馬瀬人は、栄光と力を手に入れる為に

 

城之内克也は、友との約束を果たす為に

 

マリク・イシュタールは復讐を遂げる為に

 

イシズ・イシュタールは弟を止める為に

 

リシド・イシュタールはマリクの願いを叶える為に

 

孔雀舞は、仲間との決闘の為に

 

漠良了…バクラは、邪悪な願いの為に

 

武藤遊戯…名もなきファラオは、己の過去を知る為に

 

 

 それぞれの人物の思いを乗せて、バトルシップは夜空へと飛翔する。

 『神のカード』を巡る大会の最終決戦。

 強者達が飛び立った童実野町。そこにある『脅威』がまだ去っていないことを、彼らは知るよしもなかった。

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

「へい。醤油ラーメンお待ち!」

 

 

「…おお…これが…」

「はい。これがそうっす…」

「やっぱりあれだな。本物は違うんだな…見た目からして格が違うぜ…」

「ふん。今回ばかりは君達の下らない提案にのって正解だったようだ」

 

 ラルフは思わずごくり、と生唾を飲み込んだ。それは湯気をたて、芳醇な香りを周囲に届けている。色とりどりの具材が心を沸き立たせる。アメリカで食べていたものとは、比べものにならない。

 

「これが日本の……ジャパンのラーメンか……」

 

 

 

 バトルシティ予選が終了し、ラルフ達は夕食をとるためにサイトウ行き付けのラーメン屋を訪れていた。

 店に来たのはいいが「おい、中華そばとはなんだ?ラーメンと何が違うんだ?」「味噌と醤油と塩と…俺は何を頼めばいい…?」「サイトウくん、ワインはないのかい?」と、はじめてのラーメン屋で好き勝手言う先輩達に、サイトウは大いに手こずった。

 完全に日本に観光に来た外国人旅行客のようになっているが、実際そんな感じである。カウンター席に外国人が3人並んでいる絵面はなんとも面白い。

 ラルフは醤油ラーメンをじっと見詰めている。

めったに見られないであろう、期待に胸を膨らませた顔をしながら割りばしをとった。パキン、と小気味良い音が響く。

 

「…先に食べていいか?」

 

「どうぞどうぞ。麺がのびるっすよ」

「遠慮すんなよ」

「好きにするがいいさ」

 

「…すまん。では頂こう…」

 

 まだ注文の品が届いていない仲間達に気を使ったラルフだったが、我慢しきれない。お言葉に甘えてまずは一口。音をたてて麺をすすった。

 

「こ……これは……」

 

「どうっすか……?」

「うまいか?」

 

 興味深々といった様子で聞いてきたサイトウとルースに、ラルフは大きく頷いた。

 

「…うまい…カップラーメンとは全く違う…」

 

 

「お~それはよかったっす!」

「あ~俺も味噌ラーメンをはやく食いたいぜ…」

「…えぇい…僕のつけ麺はまだか…?」

 

 実に幸せそうなラルフの顔を見て食欲が刺激されたのか、ルースとジョンから落ち着きがなくなる。サイトウは心の中で、ガキかこの人達は……と思った。

 

「へい!味噌、豚骨、つけ麺お待ち!!」

 

 

「お、きたっす、きたっす~」

「おいサイトウ。どっちが俺のだ?違いがわかんねぇ……」

「どういうことだ!?僕のはスープとメンが別になっているぞ!?」

「だぁあぁ!!もう!!ちょっと落ち着くっす!」

 

 やたらと騒ぐルースとジョン。これが文化の違いか…と、サイトウは溜め息を吐く。そんな中、ラルフは周りを気にせず、黙々とラーメンをすすっている。

 

 平穏な食事の一時だった。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

「はぁはぁ…はぁ…」

 

『ますたー?しっかり!』

「大丈夫…まだ……」

 

 体が重い。まるで全身に鉛を背負わされた様な、そんな重さ。少しでも気を抜けば、倒れそうになる。

 

「……よく粘るな」

「はぁ…はぁ…それが取り柄なんですよ……」

「安心しろ。お前もすぐに地面に這いつくばらせてやる。そこに倒れている相棒の様にな」

「くっ……」

 

 ホワイトは、すぐ横で倒れているブラックに視線を移す。ライフポイントを0にされてから、全く動く気配がない。最悪の想像が脳裏をかすめる。

 

『……大丈夫です。息はあります。命に別状はありません』

「そうか…よかった…」

 

 ピケルの言葉にほっと息をつき、再び相手を見据える。この男との決闘、途中までは互角……いや、ホワイト達が押していたと言ってもいい。

 

しかし……

 

「……ありえない。なんだこのモンスターは……?」

 

 たった1体のモンスター。そのモンスターの登場で、決闘の流れが変わった。互角だった勝負が、守りに徹するしかない戦いに変わった。そして今、身を守る為のカードも尽きようとしている。

 

「私のターン。ドロー」

 

 長髪の男の場に存在しているのは、紅の竜。

 朱に染まった体躯には炎を纏い、そのオーラだけで周囲を圧している。

 

「いいコンビネーションだった。私もヴォルフ様からお預かりしたこのカードがなければ、負けていたかもしれない」

 

「……それは嬉しいですね。誉められるのは今日で2度目ですよ……」

「そうか」

 

 まるで感情の籠らない眼。ホワイトには、この竜を操る男が人形か何かに思えた。少しも顔色も変えずに、これだけのプレッシャーを持つ竜を従えている。

 いや、このモンスターは竜と呼ぶのもおこがましいのかもしれない。

 

 

例えるなら…神。

 

 

「このモンスターが神に見えるか?」

 

 

「神…か。確かに間違いではない。このモンスターには神に匹敵する力がある」

 

 

 長髪の男の言葉を聞き、まるで喜んでいるかの様に、竜が首をもたげる。

 

「だが…このモンスターは神ではない。『三幻神』よりも更に上位の存在…より強く、より凶悪なモンスター」

 

 男の指がまっすぐ伸び、天を……今は自分が従えている、モンスターを指差す。

 

 

「神を超える悪魔…それが我々が創造した『三幻魔』だ」

 

 

 確かにふさわしいかもしれない。ホワイトは改めて紅の竜を見る。

 

 

こいつは悪魔だ。

 

 

「バトル…『神炎皇ウリア』の攻撃」

 

 あまりにも大きすぎる炎が『ウリア』の口から迸る。数値で言うならば、初期ライフの2倍。

 

 8000ポイント。

 

 

「紅炎の葬送」

 

 

 炎が、放たれた。

 

 

『ますたー!?』

 

「ごめんな…ピケル」

 

 手札に持っていた『白魔導士ピケル』を放り投げ、ホワイトは笑う。気休めかもしれないが、大切なカードがこんな炎に灼かれるのは、我慢ならなかった。

 

 

「また勝てなかった」

 

 

ホワイト LP4000→0

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

「あぁ。お前のミスだ。だがまぁ……テメェでケリをつけたのなら、俺は何も言わねぇ。後は好きにしろ」

 

 扉越しにヴォルフの声が聞こえる。セレスは失敗を挽回できたのだろうか?

 長い時間を過ごして来た仲間が目の前で処分されるのは見たくない。フィーネはそっと胸を撫で下ろした。

 

「そうか、完全ではないとはいえ……『三幻魔』は規格外の力か……ヒャハハ!」

 

 機嫌の良さそうなヴォルフの声。それを聞いて改めて安心したフィーネは、トランクケースを開いた。中には黒光りするスーツが収められている。着ていた服を脱ぎ、ツナギの様なワンピース構造のスーツに足を入れた。身体にまとわりつく様なスーツの感覚。あまりに気持ちいいものではないが、これを着ることも自分の役割の内だ。フィーネは前のファスナーを上げた。

 

「おい、フィーネ」

 

 

「えっ?」

 

 突然扉が開けられ、ヴォルフが部屋に入って来た。

 

「ヴォルフ様…着替え中だと言いましたが…」

「あぁ?いいじゃねぇか?硬いことを言うなよ」

 

 不意に顔を近づけ、ヴォルフが耳元で囁く。

 

 

「お前は俺の所有物だぜ?」

 

 

 胸の中で心臓が跳ねる。

 

 ヴォルフらしい傲慢な言い草だった。だが不思議と魅せられる、その引力は認めざるを得ない。

 

「手伝ってやるよ」

 

 そう言ってヴォルフは別のトランクケースを開き、いくつかの機器を取り出した。これらはフィーネが着ているスーツの上に取り付けるものだ。

 

「自分でできます」

「…つれねぇなぁ…」

 

フィーネの言葉に特に怒りをみせるわけでもなく、ヴォルフは手に持った機器をトランクの中に戻した。

 

「分かってるよなぁ?お前の今回の役割は?」

「はい。ヴォルフ様達が『闇決闘盤(ダークディスク)』で集めた『魔力(ヘカ)』をこの装置で私の身体に集める…」

 

 『魔力(ヘカ)』の量は『魂(バー)』に比例する。『魔力』を水に例えるならば『魂』は器。『魂』が大きければ大きいほど、その身に宿す『魔力』は増す。フィーネの『魂』は周囲の『魔力』を扱える者と比べても、かなり大きなものだった。

 

 

「そうだ。集めた『魔力』は一旦お前に集め、お前から『三幻魔』に『魔力』を注ぎ込む。お前は『魔力』の中継装置だ」

 

「はい」

 

 色のない声でヴォルフに返事を返しながら、フィーネは機器を取り付けていく。足や腕を黒のスーツの上から、更に機械で覆う。

 まるで全身が拘束されている様だ。部屋の鏡で自分の全身像を見て、いい気分にはなれなかった。

 

「ヒャハ……かわいいぜ、フィーネ」

 

 かわいい。その言葉で、一緒にコーヒーを飲んだ男のことを思い出す。金髪で、やたらとコーヒーに拘る彼のことを。

 

 彼が自分に言ってくれた『かわいい』という言葉と、ヴォルフが言った『かわいい』という言葉は、まるで違うものに聞こえた。

 

 また会えるとは思えない。

 また会いたいとも思っていなかった筈だ。あの時、あの場で、彼の連絡先は破り捨てたのだから。

 それでも今になって、彼と会いたいと思う自分は、やはり馬鹿なのだろう。

 

 インダストリアル・イリュージョン社とグールズ。

 

 ラルフ・アトラスとフィーネ・アリューシアは対極の組織に所属しているというのに。

 

「どうした?」

「……なんでもありません」

 

 ヴォルフの質問には答えず、フィーネは頭の後ろで薄いブロンドの髪をまとめた。身体のラインが分かるスーツを隠すために、上からコートを羽織る。

 

「女ってのはわかんねぇな……そんなもんを着なくても『ミスト・ボディ』なり『光学迷彩アーマー』やらを使えばいいだろう?」

「『魔力』を無駄使いするわけにはいきませんから」

「あぁ。それもそうだな」

 

 頷いているヴォルフを他所に、最後にトランクケースからヘルメットを取り出す。バイクのヘルメットに似た形状で、バイザーを下ろせば顔は完全に隠れる。

 

「おっと、それを被るのは少し待てよ?」

 

「…ッ!?」

 

 

 それは一瞬のこと。すばやい動きでヴォルフはフィーネの腰に腕を回す。顔が近づき、唇が触れた。

 長い時間ではない。本当に一瞬。ほんの刹那。それでもフィーネはヴォルフの腕から、さっと身を引いた。ヴォルフの感情が読み取れない眼がフィーネを射抜く。

 

 

「フィーネ、お前は誰に拾われた?」

「ヴォルフ様です」

 

 事実なので即答する。この問いに対するそれ以外の答えを、フィーネは持っていない。

 

「お前は誰のお陰で飯が食えている?」

「ヴォルフ様です」

 

 またもや即答。

 じわり、じわりと言葉にできない何かがフィーネの体に染みていく。

 

「お前は何の為に生きている?」

「……ヴォルフ様の為です」

 

 一瞬遅れた返答。フィーネの『魔力』がヴォルフの背後で揺らめいた『精霊(カー)』を捉える。身を固くしながら、より大きな声でフィーネは言った。

 

「私は…ヴォルフ様の願いを叶える為に生かされています」

 

「…あぁ…そうだ」

 

 ヴォルフの背後から『精霊』の気配が消える。

 

「分かっているなら、もう特に言うことはねぇ…いけ」

 

「はい」

 

 命令に大きく頷き、フィーネはヘルメットを被り、バイザーも閉めた。これで外からはフィーネの顔は見えない。表情も分からない。

 

 

 もはや、そこに立っているのは、フィーネ・アリューシアではない。

 

 ヴォルフ・グラントの命令で動く、忠実な人形の姿がそこにはあった。

 

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