ルール改定に駆けた男のロード   作:龍流

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15.「面白い」

 『神』とは何か。

 絶対的な力を持つモノか。

 人々から信仰を得たモノか。

 

 様々な回答があるだろうが、神と呼ばれるモノはこの世界に確かに存在している。人間の常識を越えた大いなる意思、と言ってもいい。それらの神と呼ばれる存在は、様々な形で人間の世界に影響を与えていた。

 

 ある時は預言者に未来を託し

 ある時は愚かな人々に天災を下し

 ある時は神の存在そのものが、戦争の引き金となる。

 

 『神』と呼ばれる存在は良いモノも悪いモノも、常に世界に干渉しているのだ。

 

 ルース・フォックスターは幼い頃から、他の人間達には見えないものが見えていた。それは神に愛された結果、神に選ばれた結果だ。それが彼の『ルーンの瞳』である。

 後に『三極神』と呼ばれることになる、北欧の神々。人間を通じて世界を覗いている彼らは、今回の事態を深く憂いていた。

 『三幻神』にも匹敵する悪魔、『三幻魔』の創造。 それは世界に、災いしかもたらさない。例え本来の力の目覚めがまだ先の事だとしても『眼』を預けている人間に、力を貸すこと位はできる。

 それほどまでに、神々すらも恐れていたということだ。『三幻魔』の存在を。

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

「今の質問、どういう意味だ? お前は俺の『眼』について知っているのか?」

「……ふん……」

「ちっ……質問しといてダンマリかよ……」

 

 セレスは顔に喜色を浮かべながらも、ルースの問いに応じようとはしない。はっきりしない態度に、思わず舌打ちが出る。

 

『落ち着け、ボス。仕事の前には平常心だ。いつも言っているだろう』

「ザルーグ……」

 

 結界の突破に協力した『罠はずしのクリフ』と入れ替わりで、1体の『精霊』が現れる。ルースのデッキ、黒蠍盗掘団のまとめ役『首領・ザルーグ』だ。

 

「そうは言うが…薄気味悪いぜ、コイツ。無表情だと思ったら、いきなり笑いだしやがって」

『ボスの『ルーンの瞳』についても何か知っている様子だ。おそらく魔術に縁の深い家系なのだろう』

 

 ルースはそもそも、この力を預けた『神』とやらに会ったことはない。この特別な力の名前も、出会った精霊達から聞いたことだ。29年という歳月を生きてきて、自分の『ルーンの瞳』に関する知識はたった2つ。

 

 1つ目は『魔力(ヘカ)』に対する探知と干渉が行えるということ。

 2つ目はこの力を精霊達が『三極神』と呼ぶ存在が貸し与えたということ。

 

 しかし、ルースはそれで充分だと考えていた。別に魔法使いになる気はなかったし、この力で世界征服をする気もなかった。

 とある事情でインダストリアル・イリュージョン社に入社し、愛する女性と結婚。このまま平凡ながらも、楽しい人生を歩めればそれでいい。

 

「……とか考えてた訳だが、仕事でこの力が役に立つ日が来るなんてなぁ……」

 

 力があっても、オカルト関連の事件には極力関わらない様にしてきたルースである。が、仕事ならば仕方ない。

 

「お喋りしてても、はじまらねぇや。いくぞ、ザルーグ」

『任せておけ』

 

 信頼を寄せている相棒がデッキの中へと姿を消すのを確認し、ルースは決闘盤を構えた。

 

「ふふ……ようやく楽しめそうな相手と出会えた……『魂(バー)』の容量も『魔力(ヘカ)』の質も申し分ない」

 

 

 だらりと下がっていた、セレスの左腕が持ち上がる。

 

「一滴残らず貴様の『魔力』を吸わせてもらおう」

「お前には悪いが、一滴たりとも渡す気はないぜ」

 

 

「「決闘!!」」

 

 

 激戦の幕開けを告げる様に、冷たい風が吹き抜けた。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

「僕のターン、ドロー。魔法カード『成金ゴブリン』を発動。相手ライフを1000回復させ、デッキから1枚ドローする」

 

 ジョンの宣言と共に、金貨が対戦相手の男に向かって飛んで行く。本来ならライフ回復効果をもたらすそれは、フィールドに満ちている妖しげな大気により、ダメージに変わる。

 

「もちろん『シモッチによる副作用』で回復効果はダメージに変わる」

 

「ぐぁあああ!?」

 

 男のライフが残り1000ポイントにまで減った。ジョンのデッキに対して、その数値は既に危険域だ。

 

「うん。これはいいカードを引いた。『強奪』を発動しようか」

「ごっ……強奪!?」

 

 

『強奪』

装備魔法

このカードを装備した相手モンスター1体のコントロールを得る。相手のスタンバイフェイズ毎に相手は1000ライフポイント回復する。

 

 

「おや、どうしてそんなに顔を青くしているんだい? 君達グールズの大好きな『強奪』だろ?」

「あ……あぁ……」

「では……君の『デーモンの召喚』をSnatchsteal!!」

 

 男の場から『デーモンの召喚』がジョンのフィールドへと移る。悪魔族最強のレアカードだ、と自慢気に召喚していたモンスターだが、奪われては意味がない。もっとも、どうせ偽造カードだろうが。

 

「さて、攻撃もできるが……このままターンを終了してみようか」

「……あ、あぁあ……やめろ……」

 

 もはや確定しつつある敗北に、グールズの男は震えはじめる。

 

「どうした? はやくカードを引きたまえよ。決闘者として、その程度のプライドも残っていないのかい?」

 

「くっ……う……ドロー!」

 

 男は、わずかな望みを掛けてカードを引く。

 ドローカードは――『ジャイアント・オーク』

 

 

「う…嘘だ…」

「当然だね。決闘の女神が犯罪者に微笑むわけがない」

 

 あまりにも冷たい、刺す様な視線。グールズを見下しながら、ジョンは終わりを告げる。

 

「スタンバイフェイズ。『強奪』の効果で君は1000ライフポイント回復する」

「い……嫌だ。俺が……俺から吸われちまう……」

 

「チェックメイトだよ」

 

 

「うわぁああぁああ!?」

 

グールズ LP1000→0

 

 

 男が装着していた『黒い決闘盤』から電流が放出される。それは男の体を纏わりつく様に流れ、『魔力』を奪い去った。

 生気を失った顔で男は呟く。

 

「……申し訳ございません……ヴォ……ルフ様」

 

 そして、倒れた。

 最後に主への謝罪を言い残す、その忠誠心だけは認めてやらんでもない。ジョンはふん、と鼻を鳴らした。

 

「……ラルフ。こっちは終わったよ。はやくしてくれないか?」

 

 決闘盤を畳みながら、後ろに向かって声を張り上げる。ノーダメージの完璧な決闘。『黒い決闘盤』はダメージを増幅すると聞いていたが、1ポイントもダメージを受けなければ、何の問題もない。決闘の結果に、ジョンは満足していた。

 

 

 同時に決闘を開始したラルフに声を掛けたが、返事がない。まさかやられたのか、と振り向いてみるが……

 

「……全く心配なかったな」

 

 ラルフの決闘も、決着がつくところだった。

 

 

ラルフ LP3600 手札3

《モンスター》

ホルスの黒炎竜LV8

プロミネンスドラゴン

プロミネンスドラゴン

《魔法・罠》

王宮のお触れ(発動中)

 

グールズ LP800 手札2《モンスター》

ビッグバンドラゴン

《魔法・罠》

リバース2

 

 

「なんだジョン?もう終わったのか?」

「ああ。そっちもはやく済ませてくれ」

「安心しろ。もう終わる」

 

ラルフはジョンのいる方を振り返りもせずに、言い切った。

 

「そういうことだ。連れを待たせている。ターンエンドか?」

「くっ……くそ! くそがぁ!」

「ターンエンドだな? 俺のターン、ドロー。このままターンエンドだ」

 

 ラルフのターンエンド宣言と同時に、ホルスの黒炎竜の傍らの2体のドラゴンが動き出す。

 

 

『プロミネンス・ドラゴン』

炎/炎族

ATK1500

DEF1000

自分フィールド上にこのカード以外の炎族モンスターが存在する場合、このカードを攻撃する事はできない。自分のターンのエンドフェイズ時、このカードは相手ライフに500ポイントダメージを与える。

 

「2体のプロミネンスの効果で1000ポイントのダメージを与える! やれっ! フレイムトルネード・ダブル!」

「がぁああぁ!?」

 

 紅蓮の炎がグールズを焼き尽くす。ジョンの時と同様に『黒い決闘盤』が敗者の『魔力(ヘカ)』を奪い去る。糸が切れた人形の様に、その男も倒れた。

 

「えげつないな……『ホルスの黒炎竜』で魔法を、『王宮のお触れ』で罠を封じ、『プロミネンス・ドラゴン』で攻撃を止めつつ、バーンダメージか……性格の悪さが滲み出てるね」

「この際だからハッキリ言うぞ。お前にだけは言われたくない」

 

 ジョンの嫌みにラルフも即答で返す。『シモッチによる副作用』と『強奪』の組み合わせなど、恐ろしいことこの上ない。戦術の嫌らしさなら、相当いい勝負だろう。

 

「認めたくないけど、よく馴染んでいる様だね。そのデッキ」

「ああ。今のコンボが決まれば、ほぼ封殺できる。さしずめ『お触れホルス』とでも言ったところか」

 

 デュエルモンスターズのカードは、その組み合わせによって強力なコンボを生み出すことができる。『ホルスの黒炎竜』は魔法を封じる単体でも充分に強力なカードだが、罠カードを封じる『王宮のお触れ』とのコンボで、相手プレイヤーへの拘束力が段違いに増す。

 様々なカードの可能性を見出だし、強力なコンボを発案する。決闘者の腕の見せ所だ。

 

「まだ決闘者を襲っているグールズは残っている。ここからは二手に別れて奴等を探すぞ」

「了解だ」

 

 ラーメン屋でラルフは、海馬コーポレーションからの連絡を受けた。

 

 童実野町でグールズが人を襲っている。

 

 それも決闘者なら無差別に。『決闘盤』を持っていない小学生にまで『決闘盤』を渡し、決闘に持ち込む。そして敗北した決闘者は意識を失ってしまうというのだ。

 

 

 

 ラルフとジョンが現場へ向かった時には、既に犠牲者は8名。その内の3人はバトルシティの参加者だった。

 まだグールズ側にも、腕の立つ決闘者が残っていることは、容易に想像できる。

 

「まずは2人……だけど」

「ああ。恐らくまだ格上の決闘者がいる」

 

 ラルフが連絡を受けてから、まだそこまで時間は経っていない。海馬コーポレーションの情報網で見つけた2人をまず仕留めたが、残りのグールズが2人だけだとは思えない。

 

「油断するなよ」

「そっちもね」

 

 軽口を叩き合いながら、ジョンは右へ、ラルフは左へ走り出す。この間に、また決闘者が襲われているかもしれないのだ。とにかく急がなければならない。

 

「……こんな時になぜ連絡がつかん……ルース」

 

 ラルフは走りながら携帯を取り出した。ルースの携帯には3回以上コールを掛けているが、全く繋がらない。

 

「何かあったのか……?」

 

 暗くなった空を見上げる。ラルフの嫌な予感は、見事に的中していた。

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

「先攻は私だ。ドロー」

 

 決闘者のデッキ、戦術は1ターン目によく表れる。ルースはセレスの行動を注視する。

 

「……そうだな。リバースカードを4枚セット。ターンを終了する」

「モンスターは無しか…」

 

 1ターンに1度の召喚権の放棄。通常の決闘者なら考えられない。手札に召喚できるモンスターがいなかったのか……何か別の目的があるのか。この相手は、恐らく後者だろう。

 

「ま、考えていてもしょうがない。俺のターンだ!」

 

 ルースは思索を中断し、カードをドローする。敵の場には3枚の伏せカード。迂闊に飛び込めば、罠にかかるのは分かりきった事だ。

 

「が……飛び込んでみなきゃアイツがどんなデッキなのかも分からない。まずはお前に任せるぜ。『首領・ザルーグ』を召喚!」

 

 呼び出したのは黒蠍盗掘団の首領。ルースの相棒であり、デッキの核となるモンスターだ。

 

『罠に飛び込めということか……まあ、盗賊らしい仕事ではあるか』

 

 肩を竦めながら、ザルーグはフィールドに降り立つ。その仕草はどこか主であるルースに似ている。

 

「すまねえ、ザルーグ。だが任せた。ザルーグでダイレクトアタック! ダブルリボルバー!」

 

『おう!!』

 

 二丁の拳銃を抜き放ち、セレスに向ける。しかしそれは……

 

「通すわけがないだろう? リバースカード、オープン。『グラヴィティ・バインド-超重力の網-』を発動する」

 

 蛍光色に光る網によって阻まれた。

 

「おいおい、またそれかよ……」

 

『先ほどといい……うざったいことこの上ない網だ』

 

 

『グラヴィティ・バインド-超重力の網-』

永続罠

フィールド上のレベル4以上のモンスターは攻撃できない。

 

 

「仕方ないな……ま、小手調べとしちゃ、こんなもんか。リバースカードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

 結局先制はならず、ターンを終了する。開かれた罠カードは1枚だけ。デッキタイプも全く把握できない。

 はっきり言ってルースは焦っていた。『ルーンの瞳』はセレスのデッキに眠っている規格外の『魔力(ヘカ)』を捉えている。恐らくあの『バケモノ』が召喚されれば、ルースの勝ちはない。ならばやる事はひとつ。

 

 

 出てくる前に決着をつけるしかない。

 決意を固めたルースの心中に構わず、セレスは淡々とカードを引く。

 

「私のターン、ドロー。小手調べとしてこんなもの、か。下らんな。実に下らん」

「……なに?」

「決闘者という生き物は自信家が多い。まずは先制だの、本気はこれからだの、そんなことばかりほざく……」

「……何が言いたい?」

「別に、気にしなくてもいいさ。独り言だと思ってくれ。私は『強欲な壺』を発動。デッキからカードを2枚ドローする」

 

 制限カードの強力なドローソースにより、セレスの手札は4枚まで増強される。

 

「そういえば、先程貴様は私のことを突然笑い出して気味が悪い、と言っていたが、あれは強者に会えて嬉しいとか、闘いを楽しみたいといった、決闘者の感情からきた笑いではない」

「……は?」

 

 いきなり言葉を紡ぎ出したセレスに、ルースは場違いな声を洩らした。

 

「勿論骨のある決闘者との決闘は私の数少ない娯楽ではある……だが、そんなことは二の次でいい」

「じゃあ、お前はなんで笑ったんだよ?」

「純粋に嬉しかったからだ。貴様ほどの『魔力(ヘカ)』があれば、我が主の計画は一気に完成に近付く」

 

 セレスは再び笑みを浮かべる。それは自分の為の笑みではない。ヴォルフの計画が進むことへの喜びの表れだ。自分の感情も、自分の欲求も、全てどうでもいい。

 ヴォルフ・グラントが望むこと。それが完遂できるのならば、あらゆる手を尽くし、この身を捧げる。

 

「故に……私の決闘には小手調べも、様子見も存在しない。全力で、最も効率良く、貴様を最短時間で倒す」

 

 フィールドで1枚のカードが開かれる。それは序盤戦で発動されるには、あまりにも異色のカード。

 

「『最終突撃命令』を発動する」

「は!? おいおい……本気かよ!?」

 

 

『最終突撃命令』

永続罠

このカードの発動時にお互いのプレイヤーはデッキからカードを3枚選び、残りは全て墓地へ送る。このカードがフィールド上に存在する限り、フィールド上に存在する表側表示モンスターは全て攻撃表示となり、表示形式は変更できない。

 

 ルール開発部でも『エラッタ』が検討されていた、異色の永続罠カード。

 その性能は凶悪の一言に尽きる。

 

「さあ、3枚選べ」

「くっ……」

 

 セレスは躊躇いもなく3枚を選び取り、決闘盤に再びセットする。ルースはしばらく悩み、慎重に選んだ3枚をデッキから抜き取り、セットした。34枚残っていたデッキは、残りわずか3枚。つまりこの決闘の決着は、たった3ターンで決するということ。

 

「私は時間が惜しい。貴様が小手調べや策を練るのに時間を要するのは勝手だが……」

 

 セレスの望みは、目の前の相手の『魔力』を一刻もはやく抜き取り、一滴残らず『三幻魔』に捧げること。

 

「この決闘。私の本気に貴様がついて来られなければ、そこで終わりだ」

 

 手札から発動するのは、セレスのデッキに投入された、数少ない『魔法カード』

 

「『死者転生』を発動する。私は手札から『無差別破壊』を墓地へ送り、墓地からモンスターカード、『神炎皇ウリア』を手札に加える」

「そのカードは!?」

 

 ルースは驚きで眼を見開く。無理もない。なぜなら『神炎皇ウリア』のカードはモンスターカードであるにも関わらず、デュエルモンスターズの常識を覆したことを示す様に、深紅に染まっていたのだから。

 

 

「何をそんなに驚いている?聞くところによると『オシリスの天空竜』のカードも朱に染まっているそうだな。それと同じだ」

「……ふざけんじゃねぇ。ペガサス会長がデザインした『三幻神』がお前らの悪魔と同格だとでも言いたいのか?」

「同格か……ふざけているのは貴様だ」

 

 セレスのフィールドで、さらに2枚の永続罠カードが開かれる。

 

「私は『旅人の試練』と『スピリットバリア』を発動。そして『グラヴィティバインド』を含めたこれら3枚の罠カードを墓地へ送ることで、このカードは特殊召喚することができる」

「……来るか?」

 

 

『グラヴィティバインド』

『旅人の試練』

『スピリットバリア』

 

 3枚の罠カードが渦巻く火炎に飲み込まれ、一本の炎の柱となる。

 

「燃え盛り、渦巻き、天を貫く紅蓮の炎。

愚かな神への反逆の狼煙を上げよ!!

 

『神炎皇ウリア』降臨!」

 

 天から舞い降りたのは紅の竜。その体躯から迸る炎は『魔力(ヘカ)』の塊。『ルーンの瞳』を通して見れば、邪悪なオーラがはっきりと視える。

 

「これが、お前らの……」

 

「そう。これが我々の『三幻魔』だ」

 

 セレスの宣言に呼応するかの様に『ウリア』が嘶く。余りにも大きなプレッシャー。ルースは思わず1歩後退した。

 

「ちょっと待て……攻撃力0だと?」

「はやまるな。『神炎皇ウリア』の攻撃力は私の墓地の永続罠カード1枚につき、1000ポイントアップする」

「……1枚につき1000ポイント?」

「今の私のデッキは『ウリア』を運用することに特化している。『最終突撃命令』によってデッキのカードは殆どが墓地だ。私の墓地に存在する永続罠カードは18枚。よって『ウリア』の攻撃力は……」

 

 

『神炎皇ウリア』

ATK0→18000

 

 

「マジかよ……」

 

 海馬が操る『青眼の究極竜』ですら、攻撃力は4500ポイント。あの三つ首の竜の2倍を優に越える、規格外の攻撃力。

 

「これでもまだ『三幻神』と同格などと、寝言を言うか?」

「ちっ……リバースカードオープン!!」

 

 ルースの場には攻撃表示の『ザルーグ』がいる。一撃でも受ければ、たった4000のライフなど吹き飛ぶ。ルースは身を守る為にリバースカードを――

 

 

「な……リバースカードが発動しない!?」

 

 

 ――発動できなかった。

 

 セレスが馬鹿にした様にせせら笑う。

 

「貴様、決闘のルールも理解していないのか? 私はまだ『優先権』を放棄していない。『ウリア』の効果を発動させてもらう」

「起動効果……そういうことかよ……」

 

『優先権』

デュエルモンスターズにおいて、カードをプレイした時、フェイズを終了した時、ターンプレイヤーはこの権利を放棄する。逆に言えばこの権利を放棄しない限り、相手はカードを発動することができない。

 『神炎皇ウリア』の効果はこの『ルール』を最も活用していると言っていい。

 

「1ターンに1度、『ウリア』は相手フィールド上の罠カードを破壊できる。そして、この効果に対して罠カードを発動できない」

「なるほどな……『チェーン』を封じる効果ってわけか」

 

 

 

 

 『ミラーフォース』や『炸裂装甲』などの攻撃反応系の罠カードは、バトルフェイズに入る前に破壊される恐れがある。

 しかしそれは、発動タイミングが限定されているからであって、『フリーチェーン』と呼ばれる罠カードは好きなタイミングで効果を発動できる。

 

「やれ、ウリア! 奴を守る盾を破壊しろ。トラップ・デストラクション!」

 

 『ウリア』の効果によって、破壊されたのは『和睦の使者』

 発動タイミングを限定しておらず、そのターンのプレイヤーとモンスターへの戦闘ダメージを0にできる罠カード。相手に『サイクロン』を使われたとしても、チェーンして発動すれば、確実に1ターン身を守ることができるのだ。これが『フリーチェーン』の罠カードの強みである。

 

 だが、『神炎皇ウリア』はそれを許さない。

 

「くそっ! 優先権の行使と合わせれば、確実に1枚罠カードを破壊できるじゃねぇか。なんて効果だ……」

 

「そうだ。『神炎皇ウリア』に対して防御は無意味。貴様を守る小賢しい罠カードはもうない」

 

 ルースのフィールドには『首領・ザルーグ』のみが存在している。もはや場に攻撃を防ぐカードは残されていない。

 圧倒的な攻撃力を誇りつつも、相手に防御を許さない。これが『三幻魔』の力。

 

「貴様も所詮は雑魚か。せめてその豊富な『魔力』だけでも『三幻魔』へ捧げて逝け。バトル。『神炎皇ウリア』で『首領・ザルーグ』に攻撃」

 

 『ウリア』の口腔に溢れんばかりに迸る炎は、真紅の獄炎。

 相対するもの、全てを焼き尽くす。18000ポイントの攻撃。

 

 

「紅炎の葬送!!」

 

 

「うわぁあああぁあ!?」

 

 ルースの断末魔の叫び。彼の姿を最後まで見ることなく、セレスは視線を足下に落とした。人が炎に焼かれて苦しんでいる姿を嬉々として見るほど、悪趣味ではない。

 心の中には、ヴォルフの為に目的を達成したという大きな高揚感がある。

 だがそれと同時に、どうしても拭いきれない感情。

 

 

 また期待外れだった。

 

 

「……下らん…」

 

 セレスは、己の全てをヴォルフの為に捧ぐと決めている。

 それなのに心の何処かで、ヴォルフの言う『欠陥ゲーム』である、デュエルモンスターズを楽しんでいる自分がいる。

 逃れられない自己嫌悪。中身のない、圧倒するだけの空虚な決闘。

 

 だからなのだろうか。

 

 失望に心を沈めていたセレスが顔を上げた時。

 

 

 

「なーんてな!」

 

 

 

 ルース・フォックスターが無傷で立っている。その光景は――

 

 

「貴様………」

 

 

 ――沈んでいた心を沸き立たせた。

 

 

「……『ウリア』の一撃をどうやって防いだ?」

「正解はコイツだ。お前の『最終突撃命令』の効果で墓地に送った『超電磁タートル』」

 

 

『超電磁タートル』

光/機械族

ATK0

DEF1800

このカードが墓地に送られたターンのバトルフェイズを強制終了させる事ができる。

 

 

 驚愕に目を見開く。

 

 ぞわりと。

 

 セレスの心の中で、何かが熱を持つ。久しく忘れていたそれが、目覚める。

 

 

「残念だったな。一発で仕留められなくて。でも焦んなよ。僅か3ターンの付き合いとはいえ、決闘はまだ始まったばかりだぜ」

 

 まだまだ余裕があると言いたげに、ルースは不敵な笑みを浮かべる。その不遜な態度も、セレスの闘争心をさらに燃やした。

 

 

「……面白い……」

 

 

 無意識の内に洩れ出たのは、久しく口にしていなかった言葉だった。

 

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