『神』とは何か。
絶対的な力を持つモノか。
人々から信仰を得たモノか。
様々な回答があるだろうが、神と呼ばれるモノはこの世界に確かに存在している。人間の常識を越えた大いなる意思、と言ってもいい。それらの神と呼ばれる存在は、様々な形で人間の世界に影響を与えていた。
ある時は預言者に未来を託し
ある時は愚かな人々に天災を下し
ある時は神の存在そのものが、戦争の引き金となる。
『神』と呼ばれる存在は良いモノも悪いモノも、常に世界に干渉しているのだ。
ルース・フォックスターは幼い頃から、他の人間達には見えないものが見えていた。それは神に愛された結果、神に選ばれた結果だ。それが彼の『ルーンの瞳』である。
後に『三極神』と呼ばれることになる、北欧の神々。人間を通じて世界を覗いている彼らは、今回の事態を深く憂いていた。
『三幻神』にも匹敵する悪魔、『三幻魔』の創造。 それは世界に、災いしかもたらさない。例え本来の力の目覚めがまだ先の事だとしても『眼』を預けている人間に、力を貸すこと位はできる。
それほどまでに、神々すらも恐れていたということだ。『三幻魔』の存在を。
◇◆◇◆
「今の質問、どういう意味だ? お前は俺の『眼』について知っているのか?」
「……ふん……」
「ちっ……質問しといてダンマリかよ……」
セレスは顔に喜色を浮かべながらも、ルースの問いに応じようとはしない。はっきりしない態度に、思わず舌打ちが出る。
『落ち着け、ボス。仕事の前には平常心だ。いつも言っているだろう』
「ザルーグ……」
結界の突破に協力した『罠はずしのクリフ』と入れ替わりで、1体の『精霊』が現れる。ルースのデッキ、黒蠍盗掘団のまとめ役『首領・ザルーグ』だ。
「そうは言うが…薄気味悪いぜ、コイツ。無表情だと思ったら、いきなり笑いだしやがって」
『ボスの『ルーンの瞳』についても何か知っている様子だ。おそらく魔術に縁の深い家系なのだろう』
ルースはそもそも、この力を預けた『神』とやらに会ったことはない。この特別な力の名前も、出会った精霊達から聞いたことだ。29年という歳月を生きてきて、自分の『ルーンの瞳』に関する知識はたった2つ。
1つ目は『魔力(ヘカ)』に対する探知と干渉が行えるということ。
2つ目はこの力を精霊達が『三極神』と呼ぶ存在が貸し与えたということ。
しかし、ルースはそれで充分だと考えていた。別に魔法使いになる気はなかったし、この力で世界征服をする気もなかった。
とある事情でインダストリアル・イリュージョン社に入社し、愛する女性と結婚。このまま平凡ながらも、楽しい人生を歩めればそれでいい。
「……とか考えてた訳だが、仕事でこの力が役に立つ日が来るなんてなぁ……」
力があっても、オカルト関連の事件には極力関わらない様にしてきたルースである。が、仕事ならば仕方ない。
「お喋りしてても、はじまらねぇや。いくぞ、ザルーグ」
『任せておけ』
信頼を寄せている相棒がデッキの中へと姿を消すのを確認し、ルースは決闘盤を構えた。
「ふふ……ようやく楽しめそうな相手と出会えた……『魂(バー)』の容量も『魔力(ヘカ)』の質も申し分ない」
だらりと下がっていた、セレスの左腕が持ち上がる。
「一滴残らず貴様の『魔力』を吸わせてもらおう」
「お前には悪いが、一滴たりとも渡す気はないぜ」
「「決闘!!」」
激戦の幕開けを告げる様に、冷たい風が吹き抜けた。
◇◆◇◆
「僕のターン、ドロー。魔法カード『成金ゴブリン』を発動。相手ライフを1000回復させ、デッキから1枚ドローする」
ジョンの宣言と共に、金貨が対戦相手の男に向かって飛んで行く。本来ならライフ回復効果をもたらすそれは、フィールドに満ちている妖しげな大気により、ダメージに変わる。
「もちろん『シモッチによる副作用』で回復効果はダメージに変わる」
「ぐぁあああ!?」
男のライフが残り1000ポイントにまで減った。ジョンのデッキに対して、その数値は既に危険域だ。
「うん。これはいいカードを引いた。『強奪』を発動しようか」
「ごっ……強奪!?」
『強奪』
装備魔法
このカードを装備した相手モンスター1体のコントロールを得る。相手のスタンバイフェイズ毎に相手は1000ライフポイント回復する。
「おや、どうしてそんなに顔を青くしているんだい? 君達グールズの大好きな『強奪』だろ?」
「あ……あぁ……」
「では……君の『デーモンの召喚』をSnatchsteal!!」
男の場から『デーモンの召喚』がジョンのフィールドへと移る。悪魔族最強のレアカードだ、と自慢気に召喚していたモンスターだが、奪われては意味がない。もっとも、どうせ偽造カードだろうが。
「さて、攻撃もできるが……このままターンを終了してみようか」
「……あ、あぁあ……やめろ……」
もはや確定しつつある敗北に、グールズの男は震えはじめる。
「どうした? はやくカードを引きたまえよ。決闘者として、その程度のプライドも残っていないのかい?」
「くっ……う……ドロー!」
男は、わずかな望みを掛けてカードを引く。
ドローカードは――『ジャイアント・オーク』
「う…嘘だ…」
「当然だね。決闘の女神が犯罪者に微笑むわけがない」
あまりにも冷たい、刺す様な視線。グールズを見下しながら、ジョンは終わりを告げる。
「スタンバイフェイズ。『強奪』の効果で君は1000ライフポイント回復する」
「い……嫌だ。俺が……俺から吸われちまう……」
「チェックメイトだよ」
「うわぁああぁああ!?」
グールズ LP1000→0
男が装着していた『黒い決闘盤』から電流が放出される。それは男の体を纏わりつく様に流れ、『魔力』を奪い去った。
生気を失った顔で男は呟く。
「……申し訳ございません……ヴォ……ルフ様」
そして、倒れた。
最後に主への謝罪を言い残す、その忠誠心だけは認めてやらんでもない。ジョンはふん、と鼻を鳴らした。
「……ラルフ。こっちは終わったよ。はやくしてくれないか?」
決闘盤を畳みながら、後ろに向かって声を張り上げる。ノーダメージの完璧な決闘。『黒い決闘盤』はダメージを増幅すると聞いていたが、1ポイントもダメージを受けなければ、何の問題もない。決闘の結果に、ジョンは満足していた。
同時に決闘を開始したラルフに声を掛けたが、返事がない。まさかやられたのか、と振り向いてみるが……
「……全く心配なかったな」
ラルフの決闘も、決着がつくところだった。
ラルフ LP3600 手札3
《モンスター》
ホルスの黒炎竜LV8
プロミネンスドラゴン
プロミネンスドラゴン
《魔法・罠》
王宮のお触れ(発動中)
グールズ LP800 手札2《モンスター》
ビッグバンドラゴン
《魔法・罠》
リバース2
「なんだジョン?もう終わったのか?」
「ああ。そっちもはやく済ませてくれ」
「安心しろ。もう終わる」
ラルフはジョンのいる方を振り返りもせずに、言い切った。
「そういうことだ。連れを待たせている。ターンエンドか?」
「くっ……くそ! くそがぁ!」
「ターンエンドだな? 俺のターン、ドロー。このままターンエンドだ」
ラルフのターンエンド宣言と同時に、ホルスの黒炎竜の傍らの2体のドラゴンが動き出す。
『プロミネンス・ドラゴン』
炎/炎族
ATK1500
DEF1000
自分フィールド上にこのカード以外の炎族モンスターが存在する場合、このカードを攻撃する事はできない。自分のターンのエンドフェイズ時、このカードは相手ライフに500ポイントダメージを与える。
「2体のプロミネンスの効果で1000ポイントのダメージを与える! やれっ! フレイムトルネード・ダブル!」
「がぁああぁ!?」
紅蓮の炎がグールズを焼き尽くす。ジョンの時と同様に『黒い決闘盤』が敗者の『魔力(ヘカ)』を奪い去る。糸が切れた人形の様に、その男も倒れた。
「えげつないな……『ホルスの黒炎竜』で魔法を、『王宮のお触れ』で罠を封じ、『プロミネンス・ドラゴン』で攻撃を止めつつ、バーンダメージか……性格の悪さが滲み出てるね」
「この際だからハッキリ言うぞ。お前にだけは言われたくない」
ジョンの嫌みにラルフも即答で返す。『シモッチによる副作用』と『強奪』の組み合わせなど、恐ろしいことこの上ない。戦術の嫌らしさなら、相当いい勝負だろう。
「認めたくないけど、よく馴染んでいる様だね。そのデッキ」
「ああ。今のコンボが決まれば、ほぼ封殺できる。さしずめ『お触れホルス』とでも言ったところか」
デュエルモンスターズのカードは、その組み合わせによって強力なコンボを生み出すことができる。『ホルスの黒炎竜』は魔法を封じる単体でも充分に強力なカードだが、罠カードを封じる『王宮のお触れ』とのコンボで、相手プレイヤーへの拘束力が段違いに増す。
様々なカードの可能性を見出だし、強力なコンボを発案する。決闘者の腕の見せ所だ。
「まだ決闘者を襲っているグールズは残っている。ここからは二手に別れて奴等を探すぞ」
「了解だ」
ラーメン屋でラルフは、海馬コーポレーションからの連絡を受けた。
童実野町でグールズが人を襲っている。
それも決闘者なら無差別に。『決闘盤』を持っていない小学生にまで『決闘盤』を渡し、決闘に持ち込む。そして敗北した決闘者は意識を失ってしまうというのだ。
ラルフとジョンが現場へ向かった時には、既に犠牲者は8名。その内の3人はバトルシティの参加者だった。
まだグールズ側にも、腕の立つ決闘者が残っていることは、容易に想像できる。
「まずは2人……だけど」
「ああ。恐らくまだ格上の決闘者がいる」
ラルフが連絡を受けてから、まだそこまで時間は経っていない。海馬コーポレーションの情報網で見つけた2人をまず仕留めたが、残りのグールズが2人だけだとは思えない。
「油断するなよ」
「そっちもね」
軽口を叩き合いながら、ジョンは右へ、ラルフは左へ走り出す。この間に、また決闘者が襲われているかもしれないのだ。とにかく急がなければならない。
「……こんな時になぜ連絡がつかん……ルース」
ラルフは走りながら携帯を取り出した。ルースの携帯には3回以上コールを掛けているが、全く繋がらない。
「何かあったのか……?」
暗くなった空を見上げる。ラルフの嫌な予感は、見事に的中していた。
◇◆◇◆
「先攻は私だ。ドロー」
決闘者のデッキ、戦術は1ターン目によく表れる。ルースはセレスの行動を注視する。
「……そうだな。リバースカードを4枚セット。ターンを終了する」
「モンスターは無しか…」
1ターンに1度の召喚権の放棄。通常の決闘者なら考えられない。手札に召喚できるモンスターがいなかったのか……何か別の目的があるのか。この相手は、恐らく後者だろう。
「ま、考えていてもしょうがない。俺のターンだ!」
ルースは思索を中断し、カードをドローする。敵の場には3枚の伏せカード。迂闊に飛び込めば、罠にかかるのは分かりきった事だ。
「が……飛び込んでみなきゃアイツがどんなデッキなのかも分からない。まずはお前に任せるぜ。『首領・ザルーグ』を召喚!」
呼び出したのは黒蠍盗掘団の首領。ルースの相棒であり、デッキの核となるモンスターだ。
『罠に飛び込めということか……まあ、盗賊らしい仕事ではあるか』
肩を竦めながら、ザルーグはフィールドに降り立つ。その仕草はどこか主であるルースに似ている。
「すまねえ、ザルーグ。だが任せた。ザルーグでダイレクトアタック! ダブルリボルバー!」
『おう!!』
二丁の拳銃を抜き放ち、セレスに向ける。しかしそれは……
「通すわけがないだろう? リバースカード、オープン。『グラヴィティ・バインド-超重力の網-』を発動する」
蛍光色に光る網によって阻まれた。
「おいおい、またそれかよ……」
『先ほどといい……うざったいことこの上ない網だ』
『グラヴィティ・バインド-超重力の網-』
永続罠
フィールド上のレベル4以上のモンスターは攻撃できない。
「仕方ないな……ま、小手調べとしちゃ、こんなもんか。リバースカードを1枚伏せてターンエンドだ」
結局先制はならず、ターンを終了する。開かれた罠カードは1枚だけ。デッキタイプも全く把握できない。
はっきり言ってルースは焦っていた。『ルーンの瞳』はセレスのデッキに眠っている規格外の『魔力(ヘカ)』を捉えている。恐らくあの『バケモノ』が召喚されれば、ルースの勝ちはない。ならばやる事はひとつ。
出てくる前に決着をつけるしかない。
決意を固めたルースの心中に構わず、セレスは淡々とカードを引く。
「私のターン、ドロー。小手調べとしてこんなもの、か。下らんな。実に下らん」
「……なに?」
「決闘者という生き物は自信家が多い。まずは先制だの、本気はこれからだの、そんなことばかりほざく……」
「……何が言いたい?」
「別に、気にしなくてもいいさ。独り言だと思ってくれ。私は『強欲な壺』を発動。デッキからカードを2枚ドローする」
制限カードの強力なドローソースにより、セレスの手札は4枚まで増強される。
「そういえば、先程貴様は私のことを突然笑い出して気味が悪い、と言っていたが、あれは強者に会えて嬉しいとか、闘いを楽しみたいといった、決闘者の感情からきた笑いではない」
「……は?」
いきなり言葉を紡ぎ出したセレスに、ルースは場違いな声を洩らした。
「勿論骨のある決闘者との決闘は私の数少ない娯楽ではある……だが、そんなことは二の次でいい」
「じゃあ、お前はなんで笑ったんだよ?」
「純粋に嬉しかったからだ。貴様ほどの『魔力(ヘカ)』があれば、我が主の計画は一気に完成に近付く」
セレスは再び笑みを浮かべる。それは自分の為の笑みではない。ヴォルフの計画が進むことへの喜びの表れだ。自分の感情も、自分の欲求も、全てどうでもいい。
ヴォルフ・グラントが望むこと。それが完遂できるのならば、あらゆる手を尽くし、この身を捧げる。
「故に……私の決闘には小手調べも、様子見も存在しない。全力で、最も効率良く、貴様を最短時間で倒す」
フィールドで1枚のカードが開かれる。それは序盤戦で発動されるには、あまりにも異色のカード。
「『最終突撃命令』を発動する」
「は!? おいおい……本気かよ!?」
『最終突撃命令』
永続罠
このカードの発動時にお互いのプレイヤーはデッキからカードを3枚選び、残りは全て墓地へ送る。このカードがフィールド上に存在する限り、フィールド上に存在する表側表示モンスターは全て攻撃表示となり、表示形式は変更できない。
ルール開発部でも『エラッタ』が検討されていた、異色の永続罠カード。
その性能は凶悪の一言に尽きる。
「さあ、3枚選べ」
「くっ……」
セレスは躊躇いもなく3枚を選び取り、決闘盤に再びセットする。ルースはしばらく悩み、慎重に選んだ3枚をデッキから抜き取り、セットした。34枚残っていたデッキは、残りわずか3枚。つまりこの決闘の決着は、たった3ターンで決するということ。
「私は時間が惜しい。貴様が小手調べや策を練るのに時間を要するのは勝手だが……」
セレスの望みは、目の前の相手の『魔力』を一刻もはやく抜き取り、一滴残らず『三幻魔』に捧げること。
「この決闘。私の本気に貴様がついて来られなければ、そこで終わりだ」
手札から発動するのは、セレスのデッキに投入された、数少ない『魔法カード』
「『死者転生』を発動する。私は手札から『無差別破壊』を墓地へ送り、墓地からモンスターカード、『神炎皇ウリア』を手札に加える」
「そのカードは!?」
ルースは驚きで眼を見開く。無理もない。なぜなら『神炎皇ウリア』のカードはモンスターカードであるにも関わらず、デュエルモンスターズの常識を覆したことを示す様に、深紅に染まっていたのだから。
「何をそんなに驚いている?聞くところによると『オシリスの天空竜』のカードも朱に染まっているそうだな。それと同じだ」
「……ふざけんじゃねぇ。ペガサス会長がデザインした『三幻神』がお前らの悪魔と同格だとでも言いたいのか?」
「同格か……ふざけているのは貴様だ」
セレスのフィールドで、さらに2枚の永続罠カードが開かれる。
「私は『旅人の試練』と『スピリットバリア』を発動。そして『グラヴィティバインド』を含めたこれら3枚の罠カードを墓地へ送ることで、このカードは特殊召喚することができる」
「……来るか?」
『グラヴィティバインド』
『旅人の試練』
『スピリットバリア』
3枚の罠カードが渦巻く火炎に飲み込まれ、一本の炎の柱となる。
「燃え盛り、渦巻き、天を貫く紅蓮の炎。
愚かな神への反逆の狼煙を上げよ!!
『神炎皇ウリア』降臨!」
天から舞い降りたのは紅の竜。その体躯から迸る炎は『魔力(ヘカ)』の塊。『ルーンの瞳』を通して見れば、邪悪なオーラがはっきりと視える。
「これが、お前らの……」
「そう。これが我々の『三幻魔』だ」
セレスの宣言に呼応するかの様に『ウリア』が嘶く。余りにも大きなプレッシャー。ルースは思わず1歩後退した。
「ちょっと待て……攻撃力0だと?」
「はやまるな。『神炎皇ウリア』の攻撃力は私の墓地の永続罠カード1枚につき、1000ポイントアップする」
「……1枚につき1000ポイント?」
「今の私のデッキは『ウリア』を運用することに特化している。『最終突撃命令』によってデッキのカードは殆どが墓地だ。私の墓地に存在する永続罠カードは18枚。よって『ウリア』の攻撃力は……」
『神炎皇ウリア』
ATK0→18000
「マジかよ……」
海馬が操る『青眼の究極竜』ですら、攻撃力は4500ポイント。あの三つ首の竜の2倍を優に越える、規格外の攻撃力。
「これでもまだ『三幻神』と同格などと、寝言を言うか?」
「ちっ……リバースカードオープン!!」
ルースの場には攻撃表示の『ザルーグ』がいる。一撃でも受ければ、たった4000のライフなど吹き飛ぶ。ルースは身を守る為にリバースカードを――
「な……リバースカードが発動しない!?」
――発動できなかった。
セレスが馬鹿にした様にせせら笑う。
「貴様、決闘のルールも理解していないのか? 私はまだ『優先権』を放棄していない。『ウリア』の効果を発動させてもらう」
「起動効果……そういうことかよ……」
『優先権』
デュエルモンスターズにおいて、カードをプレイした時、フェイズを終了した時、ターンプレイヤーはこの権利を放棄する。逆に言えばこの権利を放棄しない限り、相手はカードを発動することができない。
『神炎皇ウリア』の効果はこの『ルール』を最も活用していると言っていい。
「1ターンに1度、『ウリア』は相手フィールド上の罠カードを破壊できる。そして、この効果に対して罠カードを発動できない」
「なるほどな……『チェーン』を封じる効果ってわけか」
『ミラーフォース』や『炸裂装甲』などの攻撃反応系の罠カードは、バトルフェイズに入る前に破壊される恐れがある。
しかしそれは、発動タイミングが限定されているからであって、『フリーチェーン』と呼ばれる罠カードは好きなタイミングで効果を発動できる。
「やれ、ウリア! 奴を守る盾を破壊しろ。トラップ・デストラクション!」
『ウリア』の効果によって、破壊されたのは『和睦の使者』
発動タイミングを限定しておらず、そのターンのプレイヤーとモンスターへの戦闘ダメージを0にできる罠カード。相手に『サイクロン』を使われたとしても、チェーンして発動すれば、確実に1ターン身を守ることができるのだ。これが『フリーチェーン』の罠カードの強みである。
だが、『神炎皇ウリア』はそれを許さない。
「くそっ! 優先権の行使と合わせれば、確実に1枚罠カードを破壊できるじゃねぇか。なんて効果だ……」
「そうだ。『神炎皇ウリア』に対して防御は無意味。貴様を守る小賢しい罠カードはもうない」
ルースのフィールドには『首領・ザルーグ』のみが存在している。もはや場に攻撃を防ぐカードは残されていない。
圧倒的な攻撃力を誇りつつも、相手に防御を許さない。これが『三幻魔』の力。
「貴様も所詮は雑魚か。せめてその豊富な『魔力』だけでも『三幻魔』へ捧げて逝け。バトル。『神炎皇ウリア』で『首領・ザルーグ』に攻撃」
『ウリア』の口腔に溢れんばかりに迸る炎は、真紅の獄炎。
相対するもの、全てを焼き尽くす。18000ポイントの攻撃。
「紅炎の葬送!!」
「うわぁあああぁあ!?」
ルースの断末魔の叫び。彼の姿を最後まで見ることなく、セレスは視線を足下に落とした。人が炎に焼かれて苦しんでいる姿を嬉々として見るほど、悪趣味ではない。
心の中には、ヴォルフの為に目的を達成したという大きな高揚感がある。
だがそれと同時に、どうしても拭いきれない感情。
また期待外れだった。
「……下らん…」
セレスは、己の全てをヴォルフの為に捧ぐと決めている。
それなのに心の何処かで、ヴォルフの言う『欠陥ゲーム』である、デュエルモンスターズを楽しんでいる自分がいる。
逃れられない自己嫌悪。中身のない、圧倒するだけの空虚な決闘。
だからなのだろうか。
失望に心を沈めていたセレスが顔を上げた時。
「なーんてな!」
ルース・フォックスターが無傷で立っている。その光景は――
「貴様………」
――沈んでいた心を沸き立たせた。
「……『ウリア』の一撃をどうやって防いだ?」
「正解はコイツだ。お前の『最終突撃命令』の効果で墓地に送った『超電磁タートル』」
『超電磁タートル』
光/機械族
ATK0
DEF1800
このカードが墓地に送られたターンのバトルフェイズを強制終了させる事ができる。
驚愕に目を見開く。
ぞわりと。
セレスの心の中で、何かが熱を持つ。久しく忘れていたそれが、目覚める。
「残念だったな。一発で仕留められなくて。でも焦んなよ。僅か3ターンの付き合いとはいえ、決闘はまだ始まったばかりだぜ」
まだまだ余裕があると言いたげに、ルースは不敵な笑みを浮かべる。その不遜な態度も、セレスの闘争心をさらに燃やした。
「……面白い……」
無意識の内に洩れ出たのは、久しく口にしていなかった言葉だった。