…とか言いながら、1日投稿が遅れた非力な私を許してくれ……
なぜか今までで1番長いお話になってしまいました。
一応、感想欄でご指摘を受けた設定の矛盾を解消するお話です。
時系列的にはバトルシティの後ですが、ネタバレはないので、安心して読んでください。
本編での出番が少ない、ブラック・マジシャン・ガールをデザインした彼が主役です。
4/14 加筆修正
「ふぅ……」
ボクは、キャンパスの上を走らせていたペンを一旦置いた。凝り固まった肩を回して揉みほぐす。
このカードのデザインはもう少しで完成……かな?
「おうおう……相変わらず仕事熱心だな~」
かる~い感じの声と一緒に、ボクのデスクに湯気をたてているコーヒーが置かれた。振り向かなくても、声の主は分かる。
「ルースさん、ありがとうございます」
「おう。礼ならラルフに言ってくれよ。このコーヒー淹れたのはアイツだから」
手に取って飲んでみると、なるほど。いつものラルフさんの味だ。相変わらずとてもおいしい。
「ん? な~んだ創司?
顔がニヤけてるぜ」
「いや……このコーヒーを飲んだらなんか、いつもの味だな……って、ふと思ったんですけど」
「それがどうした?」
ボクの言いたいことがよく分からないのか、ルースさんが不思議そうに聞いてくる。
「いえ……だからその。『いつもの味』だなんて思えるほどに、ボクはここに馴染んでいるんだなぁ……みたいな」
インダストリアル・イリュージョン社に来てから随分時間が経った。会社の先輩との何気ないやり取り。特に深い意味はないし、会社で同僚と話すのは当たり前のことだ。でも、この何気ないやり取りが、ボクが1番欲しかったものなのかもしれない。
「馴染んだ……か。お前がそう言ってくれると、こっちも嬉しいぜ。最初はおどおどしてたからなぁ……」
「……そうですね。最初は確かにひどかったです」
自分。『遠藤創司』という人間は意志が弱くて、人にまともに自分の気持ちも伝えられない、どうしようもない人間だった。
でも、ペガサス会長がボクに声を掛けてくれたから。
この会社の人達がボクを暖かく迎えてくれたから。
今のボクは少しずつ、変われている気がする。
「で、我が社で生まれ変わった、新進気鋭のスーパーカードデザイナー遠藤創司さんは、どんなカードを書いていたのかな?」
「もう…茶化さないでください」
苦笑しながら、まだ下書きのイラストをルースさんに渡した。
「そういやお前、まだ紙なんだな。下書きからコンピューターの奴もいるだろ?」
「あ、はい。まぁ、仕上げはデジタルでやることもあるし、便利なんですけど……ボクはやっぱり、デザインする時は紙に書き始めますね」
「ふーん。拘りってやつだな」
確かにこれは、ボクの拘りなのかもしれない。まずは紙に自分のイメージをぶつけないと、カードに命が宿らない気がする。駆け出しのイラストレーターが何言ってんだ、と思われるかもしれないけど。
「……てゆうかコレ。『ブラック・マジシャン・ガール』の関連カードか?」
「はい。『賢者の宝石』
魔法カードです」
「面白そうな効果だな。それにしてもすごいな創司は。次から次へとアイディアが出てくるじゃねぇか」
ルースさんが手放しで褒めてくれる。なんかこう、真正面から言われると、少しこそばゆい。
「いや~お前は『ブラック・マジシャン・ガール』という美少女魔法使いを生み出しただけで、デュエルモンスターズの歴史に名前を刻んだぜ。バトルシティでも大活躍してたしな」
「あれは『武藤遊戯』さんがすごいんですよ」
バトルシティで『ブラック・マジシャン』と『ブラック・マジシャン・ガール』を自在に操るその姿に、ボクも思わず興奮してしまった。画面越しだったけれど、大切に使ってもらっているのがひしひしと伝わってきた。
カードデザイナーとして、こんなに嬉しいことはない。
「でも……実は『ブラック・マジシャン・ガール』のアイディアは、ボクのものじゃないんです」
「へ……? 創司のじゃないって、どういうことだよ?」
ボクの目の前でルースさんは呆気にとられている。
やっぱり、みんな知らないんだな。サイトウさんですら知らなかったし。
「ルースさんは、演劇は観ますか?」
「げ…劇?いや全然?」
それなら知らないのも無理はない。ボクはデスクの引き出しを開けて、古い写真を取り出した。そこにはまだ小さな自分と……『ブラック・マジシャン・ガール』が写っている。
「な……なんで『ブラック・マジシャン・ガール』がいるんだよ……? え、なに? カードの精霊が時を越えたとか、そういうアレなのか?」
どういうかアレなのかよく分からないけど、ルースさんは相変わらず面白いな。
「『ブラック・マジシャン・ガールと賢者の宝石』っていう、ミュージカルがあったんです」
「ミュージカル?」
どうしようかな……。ちょっと長い自分語りになっちゃいそうだ。でも、ルースさんは興味津々だし、ボクの約束の時間までは、まだ余裕がある。ジョンさんが来たら素直に謝ることにしよう。
「少し長い話になりますよ?」
「おう、いいぜ」
ルースさんはどっかりと椅子に腰を下ろした。どうでもいいけど、他の部署なのに、よくこんなにくつろげるなぁ……。そういえば、ジョンさんとルースさん、ラルフさんはプライベートでも友達らしい。
前に3人だけで海馬ランドに行ったって、社内の女子達が噂してたし。
カップに残っていたコーヒーを飲み干して、デスクの上に置く。ルースさんが座っている方に、椅子を回して向き直った。
「まだボクが、中学生だった頃の話なんですけど…」
もう何年も昔の話だ。でも、当時の記憶は脳裏にはっきりと焼き付いていて、スムーズに話を始めることができた。
◇◆◇◆
ボクは人間が嫌いだった。
小学生の頃からボクはクラスで浮いていて、中学生になってもそれは変わらなかった。
いじめられていたわけじゃない。ただ周りから、空気の様に無視されるだけ。先生が注意すれば、クラスのみんなはボクを仲間に入れてくれた。でもそれは上辺だけ。彼らの方からボクに話し掛けて来ることはなかった。どうすれば話せるのかなんて、全然分からなかった。先生に相談してみても、何も変わらない。
「遠藤……もう少しみんなと積極的に関わってみたらどうだ?」
「すいません……でも、どうしたらいいか分からなくて」
「……難しいな。まあ、そういうところは、少しずつ治していかないとな?」
先生は笑ってそう言った。でも、その笑顔はまるで能面の様だった。
人の気持ちを理解できず
人に気持ちを理解されず
ボクはただ空気の様に生きていた。
そんなボクの事を両親は見かねたのか、冬休みにアメリカへの旅行に連れ出してくれた。
この頃にはボクは半分引きこもり状態の不登校。一応勉強はやっていたけど、後は部屋でゴロゴロしていた。数少ない趣味は、当時発売されたばかりのデュエルモンスターズとイラストを描くこと。本当にダメダメだった。
だから、アメリカに行ってこの舞台を観ていなかったら、ボクの世界は薄暗い部屋の中だけで終わっていたのかもしれない。
------------------------
「……こんなのってないよなぁ」
吐く息が白に染まる。ボクの心中とは裏腹に、夜のアメリカの街はキラキラと輝いている。
今日は12月25日。せっかくのクリスマスにこんな暗い気持ちでいるのは、アメリカ全土でもボク位だろう。
今日はブロードウェイでクリスマスミュージカルを観る予定だった。でも忙しい両親は急に仕事。結局舞台は1人で観るはめになってしまった。
「……しょうがないよね」
誰にも聞いていないのに、そんな事を呟く。根暗もここまで来ると本当に重症だ。
「何がしょうがないの?」
「へっ……え?」
突然降ってきた声。
話し掛けられた、という事実を認識するのに、たっぷり10秒以上の時間を要した。ちなみにボクはこの半年、両親とコンビニの店員としか喋っていない。
慌てて振り向くと、そこにいたのは女の子だった。
「え…えーと」
女の子と喋るとか、本当にどれだけぶりだろうか。
落ち着け。クールになるんだ、遠藤創司。こういう時はどうすればいいんだっけ。確か素数を数えればいいって、前に読んだ漫画に書いてあった。1…2…5…あれ、素数ってそもそもなんだろう?
「大丈夫?」
「う……うん。君は……名前はなんて言うの?ボクは遠藤創司っていうんだけど…」
あああああ。ダメだ。テンパッてる。「日本から来たんだ」とか「君かわいいね」とか気の利いたことは言えないのかボクは!?
「私はアン。アン・ハミングウェイ。あなた、日本人?」
「う……うん。日本から来たんだ」
「ミュージカルを観に来たの?」
「……うん。本当は両親と来る筈だったんだけど……」
「来られなくなっちゃたんだ」
「……うん」
なんだか、既に会話の主導権を握られている気がする。それにしても、このアンって子……かわいい。
ふわふわの赤毛は肩まで伸びていて、白いコートによく映えている。外国人の女の子って、みんなこんなにかわいいのかな?
「……ねぇ、あなた。今日の舞台のチケット持ってる?」
「今日の舞台の?それはもちろんあるけど……」
「お願い! 譲ってくれない?」
「え!? 譲る……?」
この子、いきなり何を言い出すんだろう。てゆうか、ボクより年下だよね……?
「お願い。私、今日の舞台のチケットをなくしちゃったの。だから……」
なるほど。そういうことか。しっかりしている様に見えて、そういうところはまだ子供なんだな。
「……うん。分かった。いいよ」
「本当に!? ありがとう!」
ちょ……ちょっと待って。いきなり手を握るとか……恥ずかしいんだけど。それにしても小さな手だ。ボクの一回りは小さい。
「じゃあ、ソウジ。行きましょ!」
アンがボクの手を握ったまま歩き出す。まさかいきなり呼び捨てにされるとは。ん……? ちょっと待って。これはこのまま一緒に舞台を観るという事ですよね。
マジか。これがボクの人生初のデートになるのか。
「春が来た……」
「spring? 何が?」
「あ……いや。なんでもないんだ」
ボクとアンは劇場に入った。今日の演目は『氷の女王』だ。
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「面白かったね」
「うん」
舞台が終わりカーテンが引かれる。
劇場に拍手が鳴り響いた。クリスマス公演なだけあって、会場は満席だ。アンはボクの隣、両親が座るはずだった席に座っている。劇の内容は全く頭に入ってこなかった。
……アンの横顔ばっかり見ていたせいだ。それにしてもこの子、あんまり顔色がよくない。
「顔色が悪いけど、大丈夫?」
「……ちょっと疲れたみたい。でも全然平気よ。本番はこれからだもの」
「これから……?」
何を言っているんだろう? 舞台は終わったばかりだ。今日はこれ以上の上演予定もない。
どういうこと?
そう問おうとした時、
「皆様、今宵の舞台の幕はまだ降りておりません」
突然、男の声が響いた。
「え? なに?」
「やった。はじまった!」
帰り仕度をしていた、会場内のお客さん達もざわついている。アンは何が始まるのか分かっているのか、とても嬉しそうだ。
舞台の幕が再び開かれる。
そこにいたのは……
「ぶ……ブラック・マジシャン!?」
最近発売されたカードゲーム。デュエルモンスターズのトップレアカードである『ブラック・マジシャン』
その衣装を纏った男が舞台に立っていた。
「ど……どうなってんのコレ?」
「もしかして、創司。デュエルモンスターズを知っているの?」
「あ……うん。一応」
「よかった! それならきっと今日の舞台を楽しめるわ」
アンがウキウキと顔を近づけてくる。ち……近いよ?
「だって今から始まるのは……私の為の舞台なんだもの!」
「君の為の……舞台?」
どういう意味か全然分からない。
『ブラック・マジシャン』に向かってスポットライトが当たった。
「皆さん。今宵はクリスマス。我々からのささやかな舞台のプレゼントをお受け取りください。もちろん、お急ぎのお客様は退出して頂いて結構です。それでは……」
舞台の上の『ブラック・マジシャン』がくるりと杖を回した。
「今夜、皆様を魔法の舞台へとお連れ致します」
ボクの前で、魔法の舞台の幕が上がる。隣に座っているアンは、さっきまでとは比べ物にならないほど、瞳を輝かせていた。
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ある所に。
孤独な魔法使いがいました。彼は優れた魔術の才を持っていましたが、決して弟子を取らず、『黒の魔法使い』と呼ばれていました。
「お願いします!私をあなたの弟子にして下さい」
「断る。私は弟子は取らない」
動物達も静まり返る、ある冬の日に。森の中の彼の家を、1人の女の子が訪ねました。
「私、マナっていいます。お母さんが病気なんです。魔法を覚えて、お母さんを助けたいの。お願いです。私に魔法を教えて下さい!」
「何度言っても、私の返事は変わらない。帰りたまえ」
黒の魔法使いはマナの言葉を聞き入れず、彼女を玄関で追い払いました。
しかし、翌日の朝。
「おはようございます、お師匠様!」
「ど……どういうことだ!? どこから入った?」
「朝ご飯が出来ていますよ。食べ終わったら、早速修行をつけてくださいね」
「おい。どういうことだ!? 私の質問に答えろ!」
黒の魔法使いは、なんとかマナを追い出そうとしましたが、マナは帰ろうとしません。仕方なく、彼はマナに魔法を教えることにしました。
「何をやっている!!
そうじゃない!!」
「す……すいません」
「魔法が使いたければ、心を殺せ。他に余計な事を考えるな」
「心を……殺す?」
「そうだ。私達、魔法使いは『闇』を力の元にして魔法を使っている。母への情など、心の片隅にも置くな。捨ててしまえ」
「……でも」
「魔法を使いたいんだろう?」
「……分かりました」
黒の魔法使いのアドバイスを聞き入れ、マナはめきめきと魔法の腕を上げていきました。彼女には魔法の才能があったのです。
「……中々やるじゃないか。君を弟子として認めてやる。より一層励め」
「はい!」
黒の魔法使いはマナを正式な弟子とし、より本格的な修行を始めました。マナと黒の魔法使いは厳しい修行を続けましたが、その仲は段々と親密なものになっていきました。
「私……最近思うんです」「なんだ?」
「私のお父さんは、私が生まれた時にはいませんでした。だから、お師匠様がお父さんみたいに思えてきて……」
「………」
「すいません。失礼なことを言って。もう寝ます!」
「……父親……家族か」
それはもうすぐ冬が終わるという頃のこと。孤独だった黒の魔法使いの心は、春の訪れと同じ様に少しずつ、少しずつ、暖かくなっていたのです。
しかし……
「くっ……」
「お師匠様!?」
今まで、黒の魔法使いは孤独を糧として魔法を使ってきました。彼の魔法の根源は闇。皮肉にも、マナとの生活で幸せを感じ始めた彼からは、魔法の力が消えてしまいました。
「……私は所詮、この程度の人間だ。黒の魔法使い……『ブラック・マジシャン』などと恐れられているが、その実態は人の気持ちも分からない、どうしようもない人間なんだ」
「そんなことないです! お師匠様は立派な人です」
「マナ……私は君との生活に幸せを感じてしまった。孤独を糧とする魔法を使ってきた私が、幸せになってはいけなかったのだ」
「そんなことありません!」
「マナ、お前の目的はお母様を助けることだろう? 魔法を使えなくなった私に、教えられることは何もない。ここから去りなさい」
黒の魔法使いは、悲しそうに言いました。
「……でも!」
「よく聞きなさい。今のお前の力では、まだお母様の病を治すことは出来ないだろう。『賢者の宝石』を探しに行きなさい」
「賢者の宝石……?」
「その宝石は強大な力を持ち、どんな願いも叶えてくれるという。賢者の宝石の力があれば、君のお母様の病気もきっと治る」
「……最後に…最後に1つだけ、質問をさせて下さい」
「……いいだろう」
「お師匠様は、何の為に魔法使いになったんですか?」
マナからの最後の問い。
しかし、黒の魔法使いはその質問に答えることができませんでした。
結局マナは、その質問の答えを得られぬまま、賢者の宝石を探す旅に出ることになったのです。
―――どうして、あなたは孤独を好むの?
人は1人では生きていけないのに。
お母さんやお父さん、妹や弟、友達も家族もみんな大切な存在なのに。
だけど。
あなたは全てを捨てないと、強くなれないと言う。
私の魔法は、あなたが教えてくれた魔法。
あなたが信じた、孤独の魔法。
私はあなたを信じたい―――
------------------------
舞台に見入っていた。俳優達の演技が、ボクの心を掴んで離さない。
マナの歌が、心にすっと入ってくる。
まるで……まるであの黒の魔法使いは、ボクみたいだ。人を信じず、人が分からず、自分が何の為に生きているのか分からない。
彼には、魔法を使う目的がない。
ボクは絵が大好きだ。だけど、ボクが絵を描く目的は……まだ分からない。
分からないから、最後まで観なくてはいけない。
ただのミュージカルの筈なのに。ボクのこれからの答えが、この舞台にある様な気がした。
------------------------
マナはとうとう、賢者の宝石を見つけました。母親の命は、もう長くは保ちません。はやく、はやく持って帰らなければ。マナは疲れきった体に鞭を打ち、故郷の村へと急ぎました。
ですが、そこでマナを待っていたのは、余りに残酷な光景でした
「さあ、その石をこちらに渡せ」
「マ……マナ……」
「お母さん!!」
以前の面影が微塵もない、荒れ果てた村。
そこにいたのは魔人テラ。暴虐非道で名を知られている悪魔。卑劣な彼は賢者の宝石を確実に奪う為に、マナの母親を人質に取ったのです。
「お母さんを離せ!!」
「それは出来んな。こんな事を認めるのはムカつくが、お前の力は俺より上だ。正面からやっては勝てん」
「ひ…卑怯者!!」
「なんとでも言え。母親を助けたければ、おとなしく賢者の宝石を渡せ」
「マ……ナ。私はどの道助からない……だから、あなたは逃げなさい」
「そんな……嫌だよ、お母さん。私は……私はお母さんを助ける為に魔法使いになったのに……」
マナの瞳から、涙が溢れます。母親を助ける為に、これまで頑張ってきた。なのに、ここで彼女の想いは潰えてしまうのでしょうか。
いいえ。マナの涙に反応し、光り始めたものがありました。それは……
「なっ……?」
「うそ……賢者の宝石が…」
眩いばかりの光を放ち、賢者の宝石は消えていきます。それはつまり、マナの願いを叶えたということ。
「ふっ……ふざけるな! 願いを叶える為に賢者の宝石を使ったな!?そうか……お前は母親より願いを取ったということか……なら、コイツは殺す!」
「きゃっ!?」
「お母さん!?」
テラが掴まえていた母親を手に掛けようとした、その時。
「やめておけ」
彼は現れました。
「き……貴様……『ブラック・マジシャン』か!?」
「お師匠様!?」
黒いローブをなびかせ、その場に立っているのは、最強の魔術師として名を馳せた、黒の魔法使い。
『ブラック・マジシャン』
「お師匠様……どうして?」
「お前が願ったのだ。その石にな。全く、せっかくの願いを私をこの場に呼ぶ為に使うとは……とんだ馬鹿弟子をもったものだ」
「バ……バカとはなんですか!バカとは!?」
「ふん……多少驚きはしたが……俺は知っているぞ! お前は今、魔法を使えなくなっているそうだな? 魔法が使えない魔法使いなど、剣を持たぬ戦士よりも恐れるに足りん!」
慌てた様子で、テラが叫びます。確かに彼の言う通り。マナは師匠を心配そうに見詰めました。
「お師匠様……」
「そういえば……まだ質問に答えていなかったな」
「え?」
「私が魔法使いになった理由か……すまないが、昔のことはよく覚えていないんだ。どうも最近は忘れっぽくていかんな」
軽口を叩きながらも、黒の魔法使いは杖をテラに向けます。
「だが、今この瞬間、魔法を使う理由は、はっきりしている」
使えないはずの魔法。しかしテラは、彼の杖に凝縮されていく魔力をはっきりと捉えていました。
「な……なぜ……なぜ魔法が使えるんだ!?」
集束していく魔力は、まるで彼の意思の強さを象徴するかのように、強く、気高く、美しい。
――漆黒。
「たった1人の愛弟子を守るためだ」
『黒・魔・導』
黒の魔法使いの必殺の一撃は、テラだけを正確に撃ち抜き、吹き飛ばしたのです。
「お母さん!」
「マナ!」
母と娘の、1年ぶりの再会。黒の魔法使いは、彼女達を少し離れた場所から見ています。
――なぜ自分に、魔法が使えたのか?
闇と孤独を隣人とし、奮う力は漆黒。
それでも私は、彼女を救えた。
私の魔法が彼女を救った。
それはなぜか?
それは――
「お師匠様は……孤独な人なんかじゃありません」
いつの間にかマナが、黒の魔法使いの方を振り向いていました。
「お師匠様が教えてくれた黒魔術は……闇だけど、人を包んでくれる様な、優しい闇なんです……」
「優しい……闇?」
「そうでなかったら……私みたいな人間が魔法をマスターできる訳がありません。だって私……」
マナの瞳から、再び涙が落ちました。でもそれは、さっきの涙とは違う、嬉し涙。
「お師匠様と一緒にいて……全然寂しくなかったんだもん……」
黒の魔法使いは気づきました。自分の魔法の糧が孤独だと決めつけていたのは、ただの思い込み。
闇の魔術だろうと、光の魔術だろうと、善も悪もない。
魔法を生み出す最大の糧は、人を想う気持ちなのだ、と。
「うっ……ごほっごほっ」
「お母さん!?」
マナの母が突然咳こみました。窮地は脱しましたが、病が治ったわけではありません。死は目前まで迫っていました。
「大丈夫だ」
「お師匠様……?」
黒の魔法使いがマナの母親に手をかざします。
本来は人を傷つける黒魔術。しかし、今の魔法はマナの母親を優しく癒し、段々と、呼吸を落ち着いたものにしていきました。
「どうして……?」
「お前は『母親を助けたい』と賢者の宝石に願ったのだろう?その結果として、私が来た。……お前のお母様が助からなければ、願いは叶ったことにならない」
「お師匠様……ありがとう」
マナは黒の魔法使いに抱き着きました。精一杯の感謝を込めて。
「とんだ石ころだったな……願いを自分が蓄えた魔力で叶えず、私を呼び出してやらせるとは……」
賢者の宝石には、膨大な魔力と共に、『意思』が宿っていると言われています。もしかしたら、こうなることは賢者の宝石の想定の内だったのかもしれません。
「……お師匠様は、これからどうするの?」
「……少なからず、私の魔法は人の役に立てることが分かった。まあ、色々とやってみるさ」
「私、お手伝いします!」
いきなり家に飛び込んできた、1人の少女。人と交わらず、人を信じることができなかった黒の魔法使いは、ようやく知ることができました。
諦めなければ、思いは届くということを。
人は繋がり、助け合い、愛し合う存在だということを。
「……ああ。よろしく頼む。お前は私の、たった1人の弟子だからな」
黒の魔法使い『ブラック・マジシャン』
その唯一の弟子『ブラック・マジシャン・ガール』
彼らは世界中を回り、闇の力を持ちながらも、人々を救っていくことになります。
残念ながら、今夜の物語はここまで。
『ブラック・マジシャン・ガールと賢者の宝石』はこれにて閉幕と相成ります。
また、彼女達と会える日まで。
どうぞ皆様、お元気で。
------------------------
会場中から拍手が上がった。立ち上がって拍手をしている人もいる。スタンディング・オベーションっていうやつだ。観劇していた人は最初の半分位になっていたけど、この熱気は、さっきの舞台の時とは比べものにならない。
「以上を持ちまして、有志によるスペシャルショーは終了とさせて頂きます」
「ありがとうございました!」
舞台の上で役者さん達がお辞儀をした。何回か手を振ったりしてくれた後に、舞台袖へと退いていく。
ボクは心の底から感動していた。はじめてかもしれない。人生でちゃんと感動したのは。
「ソウジ、行くよ!」
「えっ?」
アンがボクの手を掴んで、立ち上がる。また急にどうしたんだろう?
「ソウジ、感動した?」
「うん! すごく!」
「えへへ……」
アンが得意気に胸を張る。
「チケットのお礼。今からソウジをいい所に連れて行ってあげる」
「いいところ?」
「とにかく来て!」
アンは劇場の構造を完璧に把握しているのか、ずんずん進んで行く。関係者以外立ち入り禁止っていう所まで来てしまった。
「ちょ……ちょっと!?」
「着いたよ!」
勢いよく扉が開かれる。熱気が立ち込めるその場所には、さっきまでボクが夢中になっていた登場人物達がいた。
『ブラック・マジシャン・ガール』の『マナ』に師匠の『ブラック・マジシャン』や敵だった『魔人テラ』
そうか……ここは楽屋なんだ。
「お姉ちゃん!」
「アン! ちゃんと全部観てくれた?」
アンが『マナ』に抱き着いた。そうか……お姉ちゃんなんだ。
ちょっと待って!?
「お姉ちゃん!?」
思わず大声をあげてしまう。どういうことなんだろう……?
「ん~? なんだこのガキ? ここは関係者以外は立ち入り禁止だぜ」
『魔人テラ』がノシノシと近付いてきた。うわ……近くで見るとすごくコワイ。
「待って! ソウジは私にチケットをくれたの!」
「なるほど……そういうことだったのね」
アンから事情を聞いて納得したのか『マナ』もボクの方に来る。すごくカワイイ衣装だけど、近くで見るとそれに負けない位の美人だ。『マナ』は帽子を取ると、金髪のウィッグも外した。
中から出てきたのは、アンと同じ色の髪だ。
「はじめまして、ソウジ。アンの姉のエリーシャ・ハミングウェイよ。妹を助けてくれて本当にありがとう」
舞台の上では勇敢な『ブラック・マジシャン・ガール』だった彼女は、屈託なくボクに笑いかけてくれた。
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「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
暖かいココアをエリーシャさんから受け取る。ボクが座っているロビーの椅子の隣では、アンがすやすやと寝息をたてていた。
「ご両親には連絡したの?」
「はい。あと30分位で迎えに来てくれます」
「そう。よかったわ」
エリーシャさんもココアが入ったカップを持って、アンの横に座る。愛しそうに髪を撫でる。きっと本当に仲が良い兄弟なんだろう。
「いいですね。仲が良くて」
「ソウジは兄弟はいないの?」
「欲しいなって……思ったことはありますね。両親は忙しい人だし……ボク、コミュ障だから、兄弟がいたら少しは変わるかも……って」
「コミュショウ?」
「communication……人と話すのが、苦手って意味です」
ボクがそう言うと、エリーシャさんはクスクスと笑った。
「あら、おかしなことを言うのね? あなたは今、私とこんなに楽しくお喋りしてるのに?」
「それは……」
それは貴方がいい人だから。それは貴方がボクと接しようとしてくれているから……色々な言葉が浮かんだけれど、エリーシャさんになんて言えばいいか、分からない。
「あらあら。私達の舞台で感動したって言ってくれたのに。それじゃあ孤独な『黒の魔法使い』みたいよ?」
確かにその通りだ。いや、『魔法』という力がないボクの方が、よっぽど情けない人間だと思う。
「あなたにもあるはずよ。人を助けたり、感動させる様な魔法がね?」
エリーシャさんが『ブラック・マジシャン・ガールと賢者の石』のポスターを指差した。劇場に入った時は貼られていなかったものだ。エリーシャさん達のミュージカルは、有志達で企画したゲリラライブならぬ、ゲリラミュージカル。おそらく時間がなかったのだろう。ポスターは少々手抜き感が否めない出来だった。
あれだったら、ボクの方が上手く書けるかもしれない……。
黙っているボクに気まずくなったのか、エリーシャさんは立ち上がって、大きく伸びをした。
「突然でびっくりしたでしょう?私達のミュージカル」
「あ、はい……」
「本当になんの告知もなく上演したから、支配人もカンカン。前代未聞ってやつね。はっきり言って雑な出来だったし。プロの仕事と胸を張れるものではないわ」
自分の耳を疑った。あんなに素晴らしかったのに?
「色々と時間がなかったのよ。小道具とか演出とか。でも、演技に気持ちは込め過ぎなほどに込めたわ。それがお客様に伝わったんでしょうね」
最後まで観ていたお客さんは大興奮だった。明日の上演はないのか?と聞いている人がいた位だ。
「あなたみたいに感動してくれた人にこれを言うのは、いけないことかもしれないんだけど……『ブラック・マジシャン・ガールと賢者の宝石』はアンの為の舞台なの」
そういえば、上演前にアンもそんな事を言っていた。
「……アンは、もうあまり長くないの」
「え………?」
エリーシャさんの口から出た言葉は、あまりにも残酷な現実だった。
「長くない……って、どうして!?」
「心臓病なの。とても重くて、移植をしなくては助からない様な……手術をしたとしても、成功の確率はかなり低いそうよ」
安心しきった表情で眠っているアンを改めて見る。彼女の顔色が良くない様に見えたのは、ボクの気のせいじゃない。病気だったんだ。
「タイムリミットはあと1年。それまでにドナーが見付からなければ、そもそも手術ができない」
「……エリーシャさん達のご両親は?」
「アンが……私の最後の肉親なの。両親はまだ私達が小さい頃に亡くなったわ」
エリーシャさんは淡々と語っている。なのにその言葉は、ボクがこれまで聞いてきた、何よりも重い。
「今日の舞台は、私からアンへの最後のクリスマスプレゼント。アンも今日は特別に許可をもらって、病院を出てきたの。この子、途中でチケットを落としてしまったから、危うく舞台が観れないところだったわ。ソウジ、本当にありがとう」
「………いえ」
どうした?
なんか言えよ、ボク。
何かあるだろう。慰めの言葉とか、励ましの言葉とか。エリーシャさんに言わなくちゃいけない事は、たくさんあるだろう?
それなのに――
「……うっ……う……」
――なんでボクが泣いているんだ。
「……優しいのね。今日出会った、アンの為に泣いてくれるなんて」
「……ごめん……なさい」
「どうして謝るの?私は嬉しいわ。劇場の仲間と私以外に、アンの為に泣いてくれる人はいなかったもの」
ずっと病院生活。そんなアンには、同年代の友達がいないのだろう。ボクにも、同年代の友達なんていない。でも、ボクの事情とアンの事情は全く違う。アンがもし丈夫な体だったなら、きっとたくさんの友達がいただろう。
……やっぱりボクは最低だ。
「……アンはデュエルモンスターズが好きでね。特に『ブラック・マジシャン』がお気に入りなの。『彼にはきっと弟子がいるはずよ』って言って、アンがスケッチブックに書いたのが『ブラック・マジシャン・ガール』の『マナ』よ。おかしいでしょう?あの子、勝手に新しいカードを作っちゃったのよ?」
エリーシャさんがスケッチブックをみせてくれた。そこにはヘタクソな絵で、色々なモンスターが書いてあった。
間違いなく、ボクの絵の方が上手い。でもアンの絵は、ボクの絵よりずっと輝いている。ボクの絵にはないものが、そこにはあった。
「アンの願いは、アンが考えた物語を私達が演じること。仲間達は快く承諾してくれたわ。アンには、最高のクリスマスプレゼントを届けることができた……とっても嬉しいし、満足してる」
満足してる。
その言葉とは裏腹に、エリーシャさんはとても悲しげな顔をしていた。
「おいエリーシャ!!
はやく着替えて、お前も来い。支配人がカンカンだぜ!」
魔人テラを演じていた男の人が、エリーシャさんを大声で呼ぶ。
「ちょっと待って。お願いがあるんだけど」
「ん、なんだ?」
「写真を撮ってくれない?」
エリーシャさんは、金髪のウィッグと帽子を被り、舞台の『ブラック・マジシャン・ガール』の姿に戻った。
「写真? なんでだ……?」
「いいから。写真を撮ったら、私も謝りに行くわ」
そう言ってエリーシャさんはカメラを取り出して、テラ役の男の人に押し付けた。
「アンちゃんは寝てるじゃないか……どうするんだよ?」
「寝ているアンを挟んで撮ればいいのよ。ソウジ、はやくこっちに来て」
「え……あ、はい」
エリーシャさんに言われるがままに、ボクはロビーの椅子に座った。
「じゃあいくぜ。はい、チーズ!」
シャッター音が静かなロビーに響く。舞台の女優さんと写真を撮れて、すごく嬉しいはずなのに、ボクは全然笑えなかった。
「じゃあ、俺は先に行っているから、はやく来いよ」
「ええ」
テラ役の人の背中が見えなくなると、エリーシャさんはボクの方に振り向いた。
「ソウジ、住所を教えて。写真を送るわ。そうね……このスケッチブックに書いておいて」
アンのスケッチブックとペンが渡される。ボクの親もそろそろ迎えに来る頃だろう。エリーシャさんに、何か言わなくちゃ……アンはこのまま寝かせてあげておいた方がいいかな。
言葉が浮かんで来ない。
今ボクが何を言っても、それはただの空虚な言葉にしかならない気がする。
このまま……このまま何も伝えられずに、この出会いを終わらせていいのだろうか?
ダメだ。
「エリーシャさん」
「なに?」
ボクは口下手だ。
人に自分の気持ちを伝えられない人間だ。
『ブラック・マジシャン』の様に、魔法が使えるわけじゃない。
でも、
「エリーシャさん。このスケッチブックの残りのページ、全部使ってもいいですか?」
「……え?」
ボクはアンのスケッチブックに、今できる精一杯の、ボクだけの『魔法』をかけた。
◇◆◇◆
「うっ……ぐっ……ひっく………うぅうぅぅ……」
「え、え~と。ルースさん?」
「そうじぃ……お前……そんな悲しい思い出が……うっ……うぅ、ひっく……」
ルースさんがガチ泣きしている。もう涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃだ……
「ルースさん。ほら、ティッシュです」
「うぅ……サンキュ……」
それにしても、感情の発露が豊かな人だなぁ……
これもルースさんのみんなに好かれる人柄の所以……なのかな?
そういえば、話に夢中で時計を見てなかった。
…………ヤバい。
完全に約束の時間をオーバーしている。
「でもよぉ……お前はそういう辛い思い出を乗り越えてよ……アンちゃんの想いを継いで、『ブラック・マジシャン・ガール』をカード化まで漕ぎ着けたわけだろ? 本当にすげぇよ……」
なんかまた、シクシクと泣くモードに入るルースさん。
すいません。それどころじゃありません。マジで本当に時間がヤバいです。
「ルースさん、ボクちょっと、仕事の約束があるので失礼します」
「おう。お前はアンちゃんの想いを継いで、立派に仕事に励むんだぞ……うっ、うぅう……」
急がなくちゃ……
確か第2会議室に通してくれる様に、頼んでおいたんだけど……
「うふふ……どうする?
あなた、お話の中で勝手に死んだことになってるわよ?」
「契約相手との時間をすっぽかした挙げ句、勝手に人を殺すなんて、最低ね」
………あーあ。
待ちくたびれて来ちゃったようだ。
流石はミュージカル女優。声はとってもよく通る。
「え……なに? どちらさん?」
ルースさんが目を白黒させている。まあ、そりゃそうですよね。
「はじめまして。Mr.ルース。ソウジからお話は聞いています。エリーシャ・ハミングウェイです」
「今の感動的なお話のヒロインの、アン・ハミングウェイです。幽霊じゃありませんよ?」
直接会うのは、何年ぶりだろう。エリーシャさんはちょっと年を取ったけど、相変わらず美人だ。昔会った時と違って、髪はアップにしている。
アンも……見違える様に綺麗になった。昔のエリーシャさんと同じで、髪を後ろに流している。本当にこの姉妹はそっくりだ。
「えっ……あれって、エリーシャ・ハミングウェイじゃない?」
「うそぉ!? ブロードウェイの女優さんよ!?
なんでこんな所に……?」
「隣の人は妹さんよね? 最近舞台に出始めたっていう……」
同僚の女子達が騒ぎ始める。そりゃそうだ。有名人なんだから。むしろ、なんでルースさんは知らなかったの?っていう位で……
「は……はじめまして。ルース・フォックスターです。私のことを聞いていた……というのは?」
「そんなに固くならないで下さい。ソウジとは文通しているんです」
「彼の手紙に書いてありましたよ? 部署は違うけど、頼れる先輩だって!」
アンがにっこりと笑う。ルースさんはあんまり状況を飲み込めていないみたいで、カクカクと頷いた。
「あ、あぁ……なるほど。それで今日は、どうしてこちらに?」
「あら、ソウジから聞いていないんですか?」
「しょうがないわよ、姉さん。なんせ彼、思い出を語っている途中だったんだから」
うわわわ……恥ずかしい……
一体どこから聞かれていたんだろう?
穴があったら入りたい……
今度はエリーシャさんがにっこり笑って前に出た。その手には、何枚かの企画書が握られている。
「今日は『ブラック・マジシャン・ガールと賢者の宝石』の舞台公演の打ち合わせに参りました」
◇◆◇◆
エリーシャさんの『ブラック・マジシャン・ガールと賢者の宝石』は、大いに物議を醸したそうだ。
でも、お客さん達の評判がよくてあの後3回だけ、特別に上演した。
その後は、一切上演していない。当時発売されたばかりとはいえ、デュエルモンスターズのカードを勝手にモチーフにしたのは、著作権的に非常にまずかったらしい。ネットでの書き込みやレビューも全て削除。
『ブラック・マジシャン・ガールと賢者の宝石』は文字通り伝説の作品になった。
「それで、衣装のデザインは進んでるの?」
「一応これが……」
「あら……露出が多いわね……さすがに私は着られないわ」
「もう、姉さんったら。演じるのは私よ!」
「あらあら? まだオーディションも終わっていないのに、随分と強気なのね? 私は審査委員長だから、身内贔屓をする気はないわよ?」
「そんなの当たり前!!」
目の前で姉妹喧嘩を始めるのはやめてほしい。てゆうか、こんな大事な相談をボクのデスクでやるっていうのは、どうなんだろう。周りの視線もめちゃくちゃ気になるし……
「ソウジ!」
「うわっ……」
びっくりした……いきなり顔を近づけないでよ。もう昔みたいな子供じゃないんだから。
なんだか、ルースさんが無茶苦茶ニヤニヤしながらこっちを見ている。
さっきはあんなに泣いてたくせに……
「ありがとう! あなたのお蔭で、私は姉さんと同じ舞台で『ブラック・マジシャン・ガール』を演じることができるわ!」
「うふふ……アンは本当に気がはやいわね。もう受かった気でいるなんて」
「もう! 姉さんのイジワル!」
「……お礼を言わなくちゃいけないのは、ボクの方だよ」
インダストリアル・イリュージョン社に入社できたのは、ボクが書いた『ブラック・マジシャン・ガール』が、ペガサス会長の目に止まったからだ。エリーシャさんの演技と、アンのアイディアがなければ『ブラック・マジシャン・ガール』は生まれていない。
ボクは彼女達への感謝を込めて、ペガサス会長に、ひとつのお願いをしていた。
『ブラック・マジシャン・ガール』を主役にした、ミュージカルを作らせて欲しい。
少しずつ、少しずつ話を詰めていって、今やっと、ボクが感動をもらったミュージカルは、再び動き出そうとしている。
担当しているのは、衣装やモンスター、ステージのデザインだ。
「ボクがこの仕事に携われるなんて、本当に夢の様です。改めてお礼を言わせて下さい。ありがとう」
2人に向かって、精一杯の感謝の気持ちを込めて、頭を下げる。
「……ソウジのバカ」
バシッ!!
軽快な音と共に、ボクの頭は何かで叩かれた。
痛いなぁ…もう……。
「え……それ……?」
顔を上げて『それ』を見た時、ボクは言葉を失った。
「手紙では書かなかったケド、ず~っと大切にとってあるの。ソウジを驚かせたくてね!」
ボクの頭を叩いたのは、あの時のスケッチブックだった。
「お礼を言わなきゃいけないのは……本当に私の方なんだよ? 私の手術が成功したのも、ソウジが私に魔法をかけてくれたお蔭なんだから」
アンがスケッチブックを開く。中に所狭しと描かれているのは、ボクが限られた時間で書いた、デュエルモンスターズのモンスター達だ。
ボクは日本に帰った後、また学校に行き始めた。何をすればいいのかは分からなかったけど、健康な体のボクはそうしなきゃいけない気がした。
高校に入った1年後の春に、アメリカから手紙が来た。宛名は遠藤創司。だけど、送り主の名前は2人。
エリーシャ・ハミングウェイ
アン・ハミングウェイ
2つの名前が仲良く並んでいるのを見た時、ボクはまた泣いてしまった。
アンの手術は成功していた。
なんでも、あの舞台を見ていたお客さんがエリーシャさんとアンの身の上を知って、心臓のドナー探しに協力してくれたらしい。
『ブラック・マジシャン・ガールと賢者の宝石』という舞台は、姉妹に奇跡という魔法をかけたんだ。
「……ボクは何もしていないよ。ただ、短い時間で絵を描いただけ」
「あなたのその絵に、私は勇気づけられたの。色々な人に助けてもらったけど、私はあなたに1番感謝してるのよ?」
アンのスケッチブックは、とても汚れていて、所々破けていた。きっと何回も開いて、ボクの絵を見てくれていたんだろう。
「…アン。そろそろ時間よ。もう行かないと」
「もうそんな時間!? レッスンに間に合わない!」
エリーシャの声に、アンは慌てて立ち上がった。ボクが時間を守らなかったせいで、慌ただしくなってしまった。本当に申し訳ない。
「ごめん、アン、エリーシャさん。また次の機会にゆっくり打ち合わせしましょう」
「そうね、楽しみにしてるわ」
エリーシャさんはそれだけ言うと、部屋を出て行った。アンもその後を追う。
「ソウジ!!」
「え?」
彼女はくるりと振り向いた。まるで舞台の上のように。
「私、必ずオーディションで主役をとるわ! 絶対に『ブラック・マジシャン・ガール』になってみせる! ……だから」
……だから、なんだろう?
「……2人で、最高の舞台を作りましょうね!」
「……うん。もちろん!」
少しだけ頬を赤くしたアンは、走って部屋を出て行った。ボクは彼女の背中が見えなくなるまで、バカみたいに立っていた。
人の気持ちを理解できず
人に気持ちを理解されず
ボクはただ空気の様に生きていた。
そんなボクの人生を変えてくれたのは、間違いなく彼女達だ。
だから、そろそろボクも素直になって、自分の気持ちは、ちゃんと伝えられる様にならなくちゃいけない。
「いやぁ~美人の姉妹だったな」
「……ルースさん」
「ん? なんだ?」
意を決して、口を開く。
「……女性を食事に誘うには、どうしたらいいんでしょうか?」
「……おうおう……いいね、いいね。創司にも春がきたかぁ~?」
「ちゃ……茶化さないでください!」
季節は冬。
もうすぐクリスマス。
昔は、サンタクロースなんているわけないって思っていた。
だけどあの時。あの出会いがあってから。
サンタクロースはやっぱりみんなにプレゼントを届けてくれるんだって。
ボクはそう思っている。
おい、決闘しろよ
と、思われた方もたくさんいると思いますが、どうかご容赦を…
ラルフ「俺の出番はコーヒーだけか」
ルース「俺の決闘の続きをはやく書けよ」
サイトウ「爆ぜろリア充」
……色々といつもと違う感じで書いてみました。
ルースVSセレス戦は年内に頑張って投稿しようと思います!