墓地に永続罠を貯めての一撃必殺は魅力的ですし、今の環境でも罠モンスターなどを使って活躍させてあげたいですね!
だから羽箒はヤメテくれ……
4/14 加筆修正
ルース・フォックスターは自由な人間だった。
酒もタバコも、悪い遊びは大体やった。
大学を卒業してからは、どっぷりハマっていたギャンブルに現を抜かし、ろくに働きもしなかった。そんな生活をしていても、食べるのに困ることはなかった為、余計に質が悪い。
要するにルースには、それなりのゲームのセンスがあったのだ。
気がつけば、世界中の街を転々とする、気ままなギャンブラーになっていた。しかし、酒と煙の匂いが立ち込めるカジノを転々する生活をおくりながら、心の中には釈然としないものを抱えていた。
なぜだろう。
今の生活にはスリルがある。
今の生活に不満なんてない。
それなのに、何かが足りない。
「あー面倒くせぇ……」
考えはまとまらない。
ルースはその日も、カジノで食いぶちを稼いでいた。雰囲気がいつもと違い、やけにザワついていた。おそらく、どこかのVIPが来ているのだろう。しかし、そんなことはルースには関係ない。ポーカーのテーブルで、ただ淡々とゲームを続けていた。
「オ~、ポーカーですか……最近やっていませんネ。ミーもまぜてくだサーイ」
その男は、突然現れた。
白い長髪で片目は隠れ、真っ赤なスーツを着ている。よくも悪くも、目立つ格好をしていた。
「なんだよアンタ?」
「そんなに睨まないでくだサーイ。チップならたくさんありマース」
剣呑な声を出したルースに対して、その男はニコリと微笑み、指を鳴らした。何処からか黒服の男が出てきて、大量のチップをテーブルに載せる。
「マジかよ……」
「こいつはすげぇ……」
他のプレイヤー達もその量に目を剥く。これから始まるであろうゲームに恐れをなし、残りのチップが少ない者はテーブルを離れた。しかし、ルースは動かなかった。
コイツはいいカモだ。
この時はその男の事を、そんな風にしか捉えていなかった。こんな場末のカジノによく来たものだ。いつもよりも金が稼げるだろうな、と思っただけ。
その男は浮き浮きとした様子で、ルースの隣の席に座った。
「おや? これからゲームが始まるというのに、つまらなそうな顔ですネ」
「あん?」
「ゲームは楽しむものデース。覚えておくといいでショウ。楽しむ余裕をなくしたプレイヤーはゲームに負けマース」
その男は得意気な顔でそう言ったが、ルースは的外れな意見だと思った。自分は楽しむ余裕がないのではなく、ただ現状に、今の生き方に、言葉に出来ない不満を抱いていたのだから。
ケースの封が切られ、カードが配られ始める。
楽しめないからといって、ルースはゲームに負けるつもりは毛頭なかった。
「ゲームの前には自己紹介デース!」
「……ここはカジノだぜ?」
「子供とのババ抜きも、カジノのポーカーも、同じゲームデース。違いマスか?」
ルースは肩を竦めた。変わった男の酔狂な提案だったが、なぜか名乗ってやってもいい気になった。
「つくづく変わってるぜ、アンタ。俺はルース・フォックスターだ」
「ルース……いい名前デース」
「いいからそっちも名乗れよ」
ふっ……と笑ってその男は髪を揺らした。隠れていた左目にチラリと見えたのは、金色の義眼。趣味がいいとは言えない代物を見て、ルースは背筋に寒気を感じた。
「ミーはペガサス・J・クロフォード。いいゲームをしまショウ」
この日、この時、この出会いが、ルースの人生を変えた。
◇◆◇◆
「よく防いだな……前言撤回だ。お前は面白い。私をもっと楽しませてくれ。私はリバースカードを1枚伏せて、ターンエンド」
体の芯から沸き立つ興奮に身を委ねながら、セレスはターンを終える。その瞳は爛々と輝いていた。
ルース LP4000 手札4
《モンスター》
首領・ザルーグ
《魔法・罠》
なし
(残りデッキ3枚)
セレス LP4000 手札1
《モンスター》
神炎皇ウリア
《魔法・罠》
最終突撃命令(発動中)
リバース1
(残りデッキ3枚)
目の前には攻撃力18000の『神炎皇ウリア』
『最終突撃命令』でモンスターを守備表示で出すことも出来ず、モンスターを壁にして時間稼ぎをする事は不可能だ。
今のルースの状況は、喉元に刃が突きつけられていると言っても、過言ではない。
そして、ルースを敗北へと誘う刃はもうひとつ。
残りのデッキ枚数。
ターンプレイヤーはドローフェイズにカードをドローしなければならない。自分のドローフェイズにカードをドロー出来なかった時、プレイヤーは敗北する。このまま『ウリア』の攻撃に耐え続けたとしても、先にデッキが尽きるのはルースの方だ。
「……おいおい、こいつは本当にキツイな。やっぱ『最終突撃命令』は強すぎだわ……」
攻撃力18000を相手に真っ向勝負など挑めない。なんとか耐えたとしても、相手より先にデッキが尽きる。
攻めても駄目。
守っても駄目。
状況は正に絶望的だ。しかし、そんな絶望的な状況だからこそ、ルースは―――
「……ほう」
―――笑った。
「『三幻魔』と相対するこの状況で、笑うか……よっぼど大物か、あるいはただの馬鹿か?」
「昔、教わったんだよ。常に笑える位の余裕を持っていないと、ゲームには勝てないってな」
「いい格言だ……だが、強がりと余裕は違う。貴様には本当に逆転の可能性はあるのか?」
「そりゃあ、あれだろ? ドローしてみなきゃ、分からねぇだろう? いくぜ、俺のターン、ドロー!」
躊躇いなく、残り3枚のデッキからカードを1枚引く。ドローカードを確認することもなく、ルースはセレスに向かってニヤリと笑いかけた。
「おっと……忘れてたぜ。残りのデッキの3枚は、俺が選んだカードだった」
「……何が言いたい?」
「別に。まあ強いて言うなら、下らない質問をするんじゃない、と言いたいな」
ドローカードはそのまま手札に加え、ルースは別の1枚を手に取る。
「逆転の可能性? あるに決まってんだろ! 俺は手札を1枚墓地へ送り、装備魔法『閃光の双剣-トライス』を『首領・ザルーグ』に装備!」
『閃光の双剣-トライス』
装備魔法
手札のカード1枚を墓地に送って装備する。装備モンスターの攻撃力は500ポイントダウンする。装備モンスターはバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。
『ザルーグ』が二丁拳銃を双剣に持ち替える。しかし、僅かながら攻撃力は逆に下がってしまった。
『首領・ザルーグ』
ATK1400→900
「連続攻撃能力の付与か…だが、たった900の攻撃力で18000の『ウリア』にどう挑む?」
「俺はそんなバケモノに挑む気はさらさらねぇよ。手札から『財宝への隠し通路』を発動!」
ルースが発動したのは、先ほど手札に加えたドローカード。デッキから選び抜いた、最後の3枚の内の1枚。
『財宝への隠し通路』
通常魔法
表側表示で自分フィールド上に存在する攻撃力1000以下のモンスター1体を選択する。このターン、選択したモンスターは相手プレイヤーを直接攻撃する事ができる。
セレスが感心したように頷いた。
「なるほど。装備魔法で攻撃力を下げ、魔法の発動条件を満たし、直接攻撃に繋げたか……」
「そういうことだ! バトル!『首領・ザルーグ』でダイレクトアタック!」
ルースの指示を受け、双剣を構えた『ザルーグ』がセレスに向かって走り出す。突如、その姿はセレスの眼前から消える。『ウリア』を避け、確実に剣戟を浴びせる為に。
『くらえ!』
「ぐ……」
刃が、セレスの体に突き刺さった。
セレス LP4000→3100
体を切り裂かれる痛みが襲ってくる。だが、それはたったの900ポイント。あと一撃残っているとはいえ、決闘の行方を左右するダメージではない。
しかし、そんなセレスに冷や水を浴びせかける言葉が、ルースの口から出た。
「この瞬間『首領・ザルーグ』の効果発動! 相手プレイヤーに戦闘ダメージを与えた時、相手の手札を1枚墓地へ送るか、相手のデッキを2枚墓地へ送る!」
「な……に?」
「俺はライフをもらう気はない……その代わり、デッキをイタダくぜ!」
得意気にルースは宣言する。セレスは呻いた。『閃光の双剣-トライス』も『財宝への隠し通路』も決して強力なカードではない。むしろ手札消費が激しく、扱いはかなり難しい。しかしこの状況において、この2枚と『首領・ザルーグ』の組み合わせは最大限の効力を発揮する。
セレスのデッキは残り3枚。『ザルーグ』の効果で削られれば、残りは1枚。それだけでも充分に危険域だが、攻撃はまだ残っている。
「さあ、デッキトップから2枚を墓地に送ってもらおうか?」
「…………」
セレスは、無言でデッキから2枚を墓地へ送る。送られたカードは『手札抹殺』と『メタモルポット』
「あぶねぇ……このままターンを渡していたら、俺の負け確定だったのかよ」
墓地へと落ちた2枚のカードを見て、ルースは内心冷や汗をかいた。この期に及んで、デッキに残してあるカードが『手札抹殺』とは質が悪過ぎる。次のターンにドローされ、発動されれば、ルースはそれだけで詰みだった。
「しかし、墓地に送ってしまえば、関係ない!こいつで止めだ!」
『おう!』
ルースの声に応え『ザルーグ』が再び剣を振るう。
セレスのフィールドには伏せカードが1枚あったが、それが開かれることはない。『ザルーグ』の初撃で発動されなかった事から、攻撃反応系でないことは分かっている。
セレスは『ザルーグ』の攻撃を受けるしかなかった。
「…………」
セレス LP3100→2200
「これで終わりだ。残りの1枚を墓地に送れ」
最後の1枚が墓地に消える。セレスのデッキは0枚。ドローフェイズでの敗北が確定した。
「俺はリバースカードを1枚伏せ、ターンエンド」
ルースはターンを終える。これでどうにか勝ちだ。攻撃力18000の『神炎皇ウリア』には圧倒されたが、逆に考えればいい。
敵が圧倒的なら、無理をして倒す必要などないのだ。ただ勝つ為に、他の弱点を突けばいい。
ルースは、ほっと息を吐いた。
だが、気を抜くのはまだ早かった。
「何を勘違いしている?」
安堵した心を穿つ、冷たい声。ルースは思わず聞き返した。
「なに?」
「認めてやろう。素晴らしいコンボだった。しかし、まだ足りない。私の決闘は、貴様の一歩先を行く。リバースカードオープン」
ルースのエンドフェイズ。
わこの特殊なタイミングで、セレスのフィールドの伏せカードは開かれた。
「『転生の予言』を発動!」
『転生の予言』
通常罠
お互いの墓地のカードを合計2枚選択して発動できる。選択したカードを持ち主のデッキに戻す。
確かにセレスには『ザルーグ』の攻撃を防ぐ手段はなかった。だが、追い詰めた相手がデッキ破壊という戦術をとる事を、予測していなかった訳ではない。
念には念を。足元をすくわれない為に。用意していたリカバリーの手段が『転生の予言』
「まさかこれを使うことになるとはな……用意はしておくものだ」
「……マジかよ」
勝利の確信は一気に崩れた。ルースは残り2枚のデッキを見る。こうなっては次の手に賭けるしかない。
「私は『神の宣告』と『隠された魔導書』をデッキに戻す」
「つくづくチョイスにかわい気がねぇ……」
ルースは吐き捨てるように言った。
ほぼ全てのカードのプレイに対して、カウンターを放つ『神の宣告』
墓地から魔法カード2枚をデッキに戻す『隠された魔導書』
セレスはどちらかを次のターン、確実にドローすることになる。ルースに見せつけながら2枚のカードはシャッフルされ、デッキに戻された。これにより、セレスのデッキの残り枚数は2枚。デッキ切れによる敗北はなくなった。
「私のターン、ドロー」
どちらがドローされたか、ルースには知る術はない。無表情なセレスの顔を見ても、予測するのは困難だ。今はとにかく、このターンの『ウリア』の攻撃を防ぐ為に手を打っておく。
「お前のスタンバイフェイズにリバースカードオープン!『和睦の使者』」
発動されたのは、先ほど『ウリア』によって破壊された罠カード。2度と同じ轍を踏まない為に、今回はメインフェイズでの発動だ。その効果により、このターンの全ての戦闘ダメージは0になる。
「メインフェイズでは『ウリア』に破壊される事を的確に理解し、スタンバイフェイズで発動したか……」
『神炎皇ウリア』には『三幻神』と同じく、魔法・罠・効果モンスターの効果に対する耐性が備わっている。まだ『魔力(ヘカ)』を吸いきれていない為、『ウリア』も100%の力を出しきれてはいない。『三幻魔』は『魔力』を吸うことによって少しずつ、能力を解放しているのだ。
「…もっとも…魔法・罠の耐性があろうとなかろうと、ダメージが与えられない『和睦の使者』のようなカードを使われては意味がないがな……」
そういう意味では目の前の男は『三幻神』や『三幻魔』の効果の穴を的確に突いていると言える。セレスは、益々この対戦相手が面白いと思った。
「……ダメージが与えられないのならば、仕方あるまい。私はリバースカードを2枚伏せ、ターンエンドだ」
ルース LP4000 手札1
《モンスター》
首領・ザルーグ
《魔法・罠》
閃光の双剣-トライス
(残りデッキ2枚)
セレス LP2200 手札0
《モンスター》
神炎皇ウリア
《魔法・罠》
リバース2
(残りデッキ1枚)
ルースはデッキを見る。次のドローカードは分かっている。逆転は可能だ。しかし、相手のフィールドのリバースカードが『あれ』だった場合、勝機はない。
「ギリギリだぜ……やれやれ」
意を決し、ターンを始めようとするルース。しかし意外にも、セレスがそれを止めた。
「待て」
「……なんだよ?」
「……貴様に1つ質問をしたい」
「別にいいが……その前にアンタの名前を聞かせてもらおうか?」
怪訝な顔をしながらも、問いには応じた。
「セレスだ」
「ふーん、セレス……ね。で、俺に聞きたいことっていうのは?」
緊迫していた空気が少し弛む。それは妙な感覚だ。今までは名も知らない『敵』だった人間だが、名前を知れば固有の存在として認識できる。
「純粋な疑問だ、ルース。貴様は私に対して勝機があるのか?」
「ゲームの途中にそれを聞くのは愚問だな。アンタは俺の『敵』なんだからよ」
「そうだな。だが私には分からない。これだけ不利な状況でなぜ貴様は『三幻魔』に立ち向かおうとしている?」
セレスは手元に視線を落とす。既に5人の決闘者を始末したが『神炎皇ウリア』が召喚された瞬間に戦意を喪失し、サレンダーする者もいた。だがらこそセレスは、今までの決闘に満足出来なかったのだ。
しかし、目の前の男。ルース・フォックスターは違う。攻撃力18000の『ウリア』を前にしても退かず、『ウリア』を掻い潜ってでもセレスに攻撃し、勝利をもぎ取ろうとしてきた。
セレスは何がこの男をここまで戦わせるのか、純粋に興味があった。
「貴様はなぜ諦めない?」
「……面倒くせぇな」
こうもゲームの途中に会話をすると、どうにも調子が狂う。しかし、ルースは自分の意思を率直に口にした。
「仕事だからだよ」
◇◆◇◆
「ふざけんな! お前、さっきのポーカーでズルをしていやがったな!?」
「なぜそんな事が分かるのデスか?」
「とぼけるな!俺にははっきりみえ………」
駄目だ。これ以上は言えない。まさか自分の瞳も特別だから、他の不思議な力が分かるなんて、言えるはずもない。ルースは途方に暮れた。
ペガサスと名乗ったこの男は、ポーカーで勝ちまくっていた。それこそ、まるで相手の手札が全て分かっているかの様に、他のプレイヤーを翻弄したのだ。
そのおかげで、むきになったルースは、あっという間にすっからかんである。
「あぁああ、もう! とにかくだ! アンタは相手の手札が見えていたんだろ?」
「イエース。ミーにはユー達の手札が見えていたのデース」
「おう! そうだよな……って、えぇええ!?」
あまりにもあっさりとペガサスが認めた為、ルースはあんぐりと口を開けた。
「ミーの『千年眼』は相手の心を読むことができるのデース。実にワンダフ~ル。すばらしい力だとは思いまセンか?」
「ふ……ふざけんな!そんなのはフェアじゃない!ただのイカサマじゃねぇか!」
「イエ~ス。ミーの力はある意味ではイカサマデース。しかし、ユーは面白いデスね」
「……何がだよ?」
「ユーは自分がズルをされてチップを取られた事よりも、ミーがフェアな勝負をしなかった事にアングリー! 怒っていマース」
「……なんでそんな事が分かるんだよ?」
「当然デース。ミーは心が読めるのデスから」
当たり前のようにそんなことを言うペガサスに、ルースは恐怖を覚えた。ペガサスから離れる為に、一歩下がる。
「ふふ……ユーは今、コワイと思いましたね?」
「信じたくはないが、本当に嫌な力だな……」
「そう言って貰えると嬉しいデース」
「誉めてねぇよ」
本当になんなんだ……とルースは肩を落とした。この気持ちもペガサスに読まれているのだろうが、知ったこっちゃない。どうにでもなれ、という感じだ。
「……なるほど。ユーは今の人生に満足していないのデスね?」
「そんな事まで分かるのかよ。アンタ、占い師か人生相談所でも開いたらどうだ?」
「オゥ! それはナイスなアイディアデース! ぜひ開いてみたいデスね!」
「……ハイハイ」
このひょうきんなアメリカ人の発言をまともに取り合っていては、キリがない。ルースは肩を竦めた。
「では、ユーをミーの人生相談のお客さんの第一号にしマース!」
「………は?」
ますます意味が分からない。何を言っているんだ。
様々な言葉が浮かんだが、ルースは口に出さなかった。どうせ心を読まれているのだから、口に出す必要もない。ただ心の中で不満をさらけ出せばいい。
別に食べるのには困ってない。
ゲームをするのも嫌いじゃない。一生ゲームに付き合ってもいい位だ。
友達や知り合いはいるし、酒を一緒に飲めば楽しい。
じゃあ、俺には何が足りない?
ペガサスをじっと見る。ペガサスもこちらをじっと見詰めていた。
「……簡単な話デース」
「何がだよ? 俺にも分からないこの不満の、何が簡単だっていうんだよ?」
「ユーは自分を分かっていない」
これまでチャラチャラとふざけた口調で喋っていたペガサスが、ハッキリと言い切った。雰囲気に気圧されて、ルースはまた黙り込む。
「ユーはゲームを愛していマース。センスもある。仲間や友人も少なからずいる様デスね。人を集める力もあるようデース」
「………だから?」
「ユーが今の生活に満足できない理由。ミーにはもう分かりマシた。今からユーに解決策を教えてあげまショウ」
ペガサスはにこりと笑って、こう言った。
「ミーの会社で働きなサーイ」
「………は?」
ルースは今度はポカンと口を開けた。
まるで意味が分からない。それが一体何の解決になるというのか?
「それではお願いしマース。彼を連れていきなサーイ」
「えっ? ちょっと!?」
黒服達に抱え込まれ、抵抗する間もなくルースはペガサスの車へと放り込まれた。
この日から、ルース・フォックスターは、インダストリアル・イリュージョン社の一員になったのだ。
◇◆◇◆
「仕事だから……だと? ふざけているのか、貴様?」
「……別にふざけてねぇよ。マジもマジ。大真面目な答えだぜ?」
セレスはルースの答えを下らない回答だと思っているようだが、これが正真正銘、ルースの答えだった。
しかし、もう少し別の言い方が出来るかもしれない。もっとかっこいい感じで。
「じゃあ、お前が好きそうな言葉で分かりやすく言い直してやるよ」
「……なんだ?」
「責任だよ」
それがルースの、戦う理由だ。
「……責任?」
「ああ、責任だ」
なぜ若かった自分はあの生活に満足できなかったか。それはあの頃の生活が自分1人のものだったからだ。仕事もせず、ただ自分の為に金を稼ぐ、無生産な日々。
だが、今は違う。
今のルースには、インダストリアル・イリュージョン社で積み上げてきたものがある。
デュエルモンスターズ。
ラルフと、ジョンと、サイトウと、創司と。ペガサスが創造し、ルース達が一丸となって作り上げてきたカードゲームだ。
今、この瞬間も、世界中で多くの人達が笑顔でこのゲームをプレイしている。
だからこそ、ルースには責任がある。
「忠誠を誓ったボスの為に戦う。自分が楽しむ為に戦う。大いに結構だぜ。けどな、お前達のそれと、俺達が背負っているものでは、少し重さが違い過ぎる」
グールズという組織は私利私欲を満たす為に、自分達の目的の為だけにデュエルモンスターズを利用している。
仕事をする中で、ようやく見つけることができた、誇りと責任。自分が一生付き合っていくと決めたこのゲームを、これ以上汚させるわけにはいかない。
共にインダストリアル・イリュージョン社で働く仲間の為に。
デュエルモンスターズを楽しんでくれる、世界中のプレイヤーの為に。
「だから俺は負けねぇ」
デッキに手をかける。ドローカードは分かっている。迷う必要は一切ない。
「俺のターン、ドロー。リバースカードを1枚伏せ、ターンエンドだ」
ドローカードを確認することもせず、そのまま伏せた。あまりにもあっさりと、ルースのターンは終わる。
「最後まで立ち向かうか……」
真正面からぶつかる、両者の瞳。だが、ルースにこれだけの思いがあるように、セレスにも譲れないものはある。
「……いいだろう。貴様の責任とやらが、私のヴォルフ様への忠誠心よりも重いのか、見せてもらおう。私のターン、ドロー!」
―――ここだ。
「1000ポイントのライフを払い、リバースカードオープン!」
ルース LP4000→3000
最後のチャンス。
ルースが発動したのは、逆転の罠カード。
あらゆる意味で、全てを逆転させるカード。
「さあ……勝負だ! 罠発動! 『現世と冥界の逆転』発動!」
「馬鹿な!? ここで……ここに来て『現世と冥界の逆転』だと!?」
セレスの顔が、はじめて驚愕で歪んだ。
『現世と冥界の逆転』
通常罠
自分の墓地にカードが15枚以上ある時、1000ライフを払い発動。 お互いに自分の墓地と自分のデッキのカードを全て入れ替える。その際、墓地のカードはシャッフルしてデッキゾーンにセットする。
ここまで来れば、シンプルな話だ。デュエルの行方はこのカードの発動の是非にかかっている。
通れば、ルースの勝ち。
止めれば、セレスの勝ち。
セレスのフィールドのリバースカードは2枚。1枚は『最終突撃命令』が破壊された時、最後の詰めとして使う『メテオ・レイン』
もう1枚は、先ほどのターンのドローカード。
「さあ……そのリバースカードは『神の宣告』か? それとも『隠された魔導書』か? どっちだ?」
「…………リバースカードオープン!」
「……ッ!?」
セレスは動いた。
『現世と冥界の逆転』にチェーンして、伏せカードは開かれる。
それは……
「『隠された魔導書』を発動」
『隠された魔導書』
通常罠
このカードは自分のターンのみ発動する事ができる。自分の墓地に存在する魔法カード2枚を選択し、デッキに加えてシャッフルする。
意地か。あるいは最後の足掻きか。このカードの発動に意味がないことはわかっていても、発動せずにはいられなかった。
「……ヒヤヒヤさせやがって」
「私は墓地から『手札抹殺』と『手札断札』をデッキに戻す。後は好きにしろ」
いや、少なくとも意味はある。この状況でドローしても役に立たないカードを、デッキに戻すこと。
セレスのプレイは矛盾しているようだが、今はこれが正しい。
「じゃあ遠慮なく……『現世と冥界の逆転』の効果発動だ」
なぜならこれから、死者と生者は入れ替わる。
『現世と冥界の逆転』のカードが、妖しい光を放った。
『決闘盤』の墓地スペースから大量のカードが吐き出される。それらのカードは全てデッキに戻り、逆にデッキのカードが墓地へと送られる。
まさに大逆転。
そして、フィールドを圧倒的な攻撃力で支配してきた、『神炎皇ウリア』にも変化が表れる。
「お前の『ウリア』の攻撃力は、墓地の永続罠カードの数×1000ポイント。だが、これでお前の墓地には3枚のカードしかない」
『三幻魔』はある程度『三幻神』を意識して生み出された存在だ。
『神炎皇ウリア』と対になるのは『オシリスの天空竜』
エジプト神話において、オシリスは天空と冥界の神。故に『神炎皇ウリア』も墓地に依存して、その力を発揮する。
冥界の力に頼る炎の悪魔が、現世と冥界が逆転したらどうなるのか。
結果は、火を見るよりも明らかだ。
『神炎皇ウリア』
ATK18000→0
「まさか……な。『ウリア』が完全に無力化されるとは……私はリバースカードを1枚伏せ、ターンエンド」
『最終突撃命令』によって、セレスは『ウリア』を守備表示にする事すらできない。完全な無防備だ。
「いくぜ、俺のターン、ドロー! 俺は『キラートマト』を召喚!」
「やらせん! リバースカードオープン!『神の宣告』」
セレス LP2200→1100
ルースの召喚した『キラートマト』に対しての『神の宣告』
召喚を許し、攻撃されれば負けだ。だからセレスは『神の宣告』を発動した。
しかし、結果的には何も変わらない。
「バトルだ! 『首領・ザルーグ』で『神炎皇ウリア』を攻撃!」
己の何倍もの身の丈の悪魔に向かって、『ザルーグ』が飛ぶ。しかしその悪魔は今、欠片ほどの力も有してはいない。たった900ポイントの攻撃にも敵いはしない。
閃光の剣によって赤い体躯は切り裂かれ、断末魔の叫びがあがる。
「『神炎皇ウリア』撃破!」
「……見事だ……」
今この決闘で、『三幻魔』は初めて正面からの戦闘で敗れ、破壊された。
セレス LP1100→200
「私の思いが……忠義が……貴様の思いに負けたという事か……」
「ああ……」
『ザルーグ』が再び剣を振り上げる。
「俺の勝ちだ」
セレス LP200→0
決着。
セレスの体を電撃が襲う。全身を舐めるようにして流れていくそれは、セレスの『魔力(ヘカ)』を根こそぎ吸い取っていく。
「申し訳ありません……ヴォルフ様……」
「おい!? お前!」
懺悔の言葉を口にしながらも、胸の内には確かな満足感を抱いて。
走り寄って来る、ルースの姿を見ながら。
セレスの意識は闇へと落ちて行った。
現世冥界の逆転は旧効果です。