ルール改定に駆けた男のロード   作:龍流

17 / 66
遥か昔……神炎皇ウリアは優先権の併用で最強の罠キラーでした……
墓地に永続罠を貯めての一撃必殺は魅力的ですし、今の環境でも罠モンスターなどを使って活躍させてあげたいですね!

だから羽箒はヤメテくれ……

4/14 加筆修正


16.「だから俺は負けねぇ」

 ルース・フォックスターは自由な人間だった。

 酒もタバコも、悪い遊びは大体やった。

 大学を卒業してからは、どっぷりハマっていたギャンブルに現を抜かし、ろくに働きもしなかった。そんな生活をしていても、食べるのに困ることはなかった為、余計に質が悪い。

 

 要するにルースには、それなりのゲームのセンスがあったのだ。

 

 気がつけば、世界中の街を転々とする、気ままなギャンブラーになっていた。しかし、酒と煙の匂いが立ち込めるカジノを転々する生活をおくりながら、心の中には釈然としないものを抱えていた。

 

 なぜだろう。

 今の生活にはスリルがある。

 今の生活に不満なんてない。

 それなのに、何かが足りない。

 

「あー面倒くせぇ……」

 

 考えはまとまらない。

 ルースはその日も、カジノで食いぶちを稼いでいた。雰囲気がいつもと違い、やけにザワついていた。おそらく、どこかのVIPが来ているのだろう。しかし、そんなことはルースには関係ない。ポーカーのテーブルで、ただ淡々とゲームを続けていた。

 

「オ~、ポーカーですか……最近やっていませんネ。ミーもまぜてくだサーイ」

 

 その男は、突然現れた。

 白い長髪で片目は隠れ、真っ赤なスーツを着ている。よくも悪くも、目立つ格好をしていた。

 

「なんだよアンタ?」

「そんなに睨まないでくだサーイ。チップならたくさんありマース」

 

 剣呑な声を出したルースに対して、その男はニコリと微笑み、指を鳴らした。何処からか黒服の男が出てきて、大量のチップをテーブルに載せる。

 

「マジかよ……」

「こいつはすげぇ……」

 

 他のプレイヤー達もその量に目を剥く。これから始まるであろうゲームに恐れをなし、残りのチップが少ない者はテーブルを離れた。しかし、ルースは動かなかった。

 

 コイツはいいカモだ。

 

 この時はその男の事を、そんな風にしか捉えていなかった。こんな場末のカジノによく来たものだ。いつもよりも金が稼げるだろうな、と思っただけ。

 その男は浮き浮きとした様子で、ルースの隣の席に座った。

 

「おや? これからゲームが始まるというのに、つまらなそうな顔ですネ」

「あん?」

「ゲームは楽しむものデース。覚えておくといいでショウ。楽しむ余裕をなくしたプレイヤーはゲームに負けマース」

 

 その男は得意気な顔でそう言ったが、ルースは的外れな意見だと思った。自分は楽しむ余裕がないのではなく、ただ現状に、今の生き方に、言葉に出来ない不満を抱いていたのだから。

 

 ケースの封が切られ、カードが配られ始める。

 楽しめないからといって、ルースはゲームに負けるつもりは毛頭なかった。

 

「ゲームの前には自己紹介デース!」

「……ここはカジノだぜ?」

「子供とのババ抜きも、カジノのポーカーも、同じゲームデース。違いマスか?」

 

 ルースは肩を竦めた。変わった男の酔狂な提案だったが、なぜか名乗ってやってもいい気になった。

 

「つくづく変わってるぜ、アンタ。俺はルース・フォックスターだ」

「ルース……いい名前デース」

「いいからそっちも名乗れよ」

 

 ふっ……と笑ってその男は髪を揺らした。隠れていた左目にチラリと見えたのは、金色の義眼。趣味がいいとは言えない代物を見て、ルースは背筋に寒気を感じた。

 

 

 

「ミーはペガサス・J・クロフォード。いいゲームをしまショウ」

 

 この日、この時、この出会いが、ルースの人生を変えた。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

「よく防いだな……前言撤回だ。お前は面白い。私をもっと楽しませてくれ。私はリバースカードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

 体の芯から沸き立つ興奮に身を委ねながら、セレスはターンを終える。その瞳は爛々と輝いていた。

 

 

ルース LP4000 手札4

《モンスター》

首領・ザルーグ

《魔法・罠》

なし

 

(残りデッキ3枚)

 

 

セレス LP4000 手札1

《モンスター》

神炎皇ウリア

《魔法・罠》

最終突撃命令(発動中)

リバース1

 

(残りデッキ3枚)

 

 

 目の前には攻撃力18000の『神炎皇ウリア』

 『最終突撃命令』でモンスターを守備表示で出すことも出来ず、モンスターを壁にして時間稼ぎをする事は不可能だ。

 今のルースの状況は、喉元に刃が突きつけられていると言っても、過言ではない。

 そして、ルースを敗北へと誘う刃はもうひとつ。

 

 残りのデッキ枚数。

 

 ターンプレイヤーはドローフェイズにカードをドローしなければならない。自分のドローフェイズにカードをドロー出来なかった時、プレイヤーは敗北する。このまま『ウリア』の攻撃に耐え続けたとしても、先にデッキが尽きるのはルースの方だ。

 

「……おいおい、こいつは本当にキツイな。やっぱ『最終突撃命令』は強すぎだわ……」

 

 攻撃力18000を相手に真っ向勝負など挑めない。なんとか耐えたとしても、相手より先にデッキが尽きる。

 

 攻めても駄目。

 守っても駄目。

 

 状況は正に絶望的だ。しかし、そんな絶望的な状況だからこそ、ルースは―――

 

 

「……ほう」

 

 

―――笑った。

 

 

「『三幻魔』と相対するこの状況で、笑うか……よっぼど大物か、あるいはただの馬鹿か?」

「昔、教わったんだよ。常に笑える位の余裕を持っていないと、ゲームには勝てないってな」

「いい格言だ……だが、強がりと余裕は違う。貴様には本当に逆転の可能性はあるのか?」

「そりゃあ、あれだろ? ドローしてみなきゃ、分からねぇだろう? いくぜ、俺のターン、ドロー!」

 

 躊躇いなく、残り3枚のデッキからカードを1枚引く。ドローカードを確認することもなく、ルースはセレスに向かってニヤリと笑いかけた。

 

「おっと……忘れてたぜ。残りのデッキの3枚は、俺が選んだカードだった」

「……何が言いたい?」

「別に。まあ強いて言うなら、下らない質問をするんじゃない、と言いたいな」

 

 ドローカードはそのまま手札に加え、ルースは別の1枚を手に取る。

 

「逆転の可能性? あるに決まってんだろ! 俺は手札を1枚墓地へ送り、装備魔法『閃光の双剣-トライス』を『首領・ザルーグ』に装備!」

 

 

『閃光の双剣-トライス』

装備魔法

手札のカード1枚を墓地に送って装備する。装備モンスターの攻撃力は500ポイントダウンする。装備モンスターはバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。

 

 

 

『ザルーグ』が二丁拳銃を双剣に持ち替える。しかし、僅かながら攻撃力は逆に下がってしまった。

 

 

『首領・ザルーグ』

ATK1400→900

 

 

「連続攻撃能力の付与か…だが、たった900の攻撃力で18000の『ウリア』にどう挑む?」

「俺はそんなバケモノに挑む気はさらさらねぇよ。手札から『財宝への隠し通路』を発動!」

 

 ルースが発動したのは、先ほど手札に加えたドローカード。デッキから選び抜いた、最後の3枚の内の1枚。

 

 

『財宝への隠し通路』

通常魔法

表側表示で自分フィールド上に存在する攻撃力1000以下のモンスター1体を選択する。このターン、選択したモンスターは相手プレイヤーを直接攻撃する事ができる。

 

 

 セレスが感心したように頷いた。

 

「なるほど。装備魔法で攻撃力を下げ、魔法の発動条件を満たし、直接攻撃に繋げたか……」

「そういうことだ! バトル!『首領・ザルーグ』でダイレクトアタック!」

 

 ルースの指示を受け、双剣を構えた『ザルーグ』がセレスに向かって走り出す。突如、その姿はセレスの眼前から消える。『ウリア』を避け、確実に剣戟を浴びせる為に。

 

『くらえ!』

「ぐ……」

 

 刃が、セレスの体に突き刺さった。

 

セレス LP4000→3100

 

 体を切り裂かれる痛みが襲ってくる。だが、それはたったの900ポイント。あと一撃残っているとはいえ、決闘の行方を左右するダメージではない。

 しかし、そんなセレスに冷や水を浴びせかける言葉が、ルースの口から出た。

 

「この瞬間『首領・ザルーグ』の効果発動! 相手プレイヤーに戦闘ダメージを与えた時、相手の手札を1枚墓地へ送るか、相手のデッキを2枚墓地へ送る!」

「な……に?」

 

「俺はライフをもらう気はない……その代わり、デッキをイタダくぜ!」

 

 得意気にルースは宣言する。セレスは呻いた。『閃光の双剣-トライス』も『財宝への隠し通路』も決して強力なカードではない。むしろ手札消費が激しく、扱いはかなり難しい。しかしこの状況において、この2枚と『首領・ザルーグ』の組み合わせは最大限の効力を発揮する。

 セレスのデッキは残り3枚。『ザルーグ』の効果で削られれば、残りは1枚。それだけでも充分に危険域だが、攻撃はまだ残っている。

 

「さあ、デッキトップから2枚を墓地に送ってもらおうか?」

「…………」

 

 セレスは、無言でデッキから2枚を墓地へ送る。送られたカードは『手札抹殺』と『メタモルポット』

 

「あぶねぇ……このままターンを渡していたら、俺の負け確定だったのかよ」

 

 墓地へと落ちた2枚のカードを見て、ルースは内心冷や汗をかいた。この期に及んで、デッキに残してあるカードが『手札抹殺』とは質が悪過ぎる。次のターンにドローされ、発動されれば、ルースはそれだけで詰みだった。

 

「しかし、墓地に送ってしまえば、関係ない!こいつで止めだ!」

『おう!』

 

 ルースの声に応え『ザルーグ』が再び剣を振るう。

 セレスのフィールドには伏せカードが1枚あったが、それが開かれることはない。『ザルーグ』の初撃で発動されなかった事から、攻撃反応系でないことは分かっている。

 

 

 セレスは『ザルーグ』の攻撃を受けるしかなかった。

 

「…………」

 

セレス LP3100→2200

 

「これで終わりだ。残りの1枚を墓地に送れ」

 

 最後の1枚が墓地に消える。セレスのデッキは0枚。ドローフェイズでの敗北が確定した。

 

「俺はリバースカードを1枚伏せ、ターンエンド」

 

 ルースはターンを終える。これでどうにか勝ちだ。攻撃力18000の『神炎皇ウリア』には圧倒されたが、逆に考えればいい。

 敵が圧倒的なら、無理をして倒す必要などないのだ。ただ勝つ為に、他の弱点を突けばいい。

 ルースは、ほっと息を吐いた。

 

 だが、気を抜くのはまだ早かった。

 

 

「何を勘違いしている?」

 

 安堵した心を穿つ、冷たい声。ルースは思わず聞き返した。

 

「なに?」

「認めてやろう。素晴らしいコンボだった。しかし、まだ足りない。私の決闘は、貴様の一歩先を行く。リバースカードオープン」

 

 ルースのエンドフェイズ。

わこの特殊なタイミングで、セレスのフィールドの伏せカードは開かれた。

 

 

「『転生の予言』を発動!」

 

 

『転生の予言』

通常罠

お互いの墓地のカードを合計2枚選択して発動できる。選択したカードを持ち主のデッキに戻す。

 

 

 確かにセレスには『ザルーグ』の攻撃を防ぐ手段はなかった。だが、追い詰めた相手がデッキ破壊という戦術をとる事を、予測していなかった訳ではない。

 念には念を。足元をすくわれない為に。用意していたリカバリーの手段が『転生の予言』

 

「まさかこれを使うことになるとはな……用意はしておくものだ」

「……マジかよ」

 

 勝利の確信は一気に崩れた。ルースは残り2枚のデッキを見る。こうなっては次の手に賭けるしかない。

 

「私は『神の宣告』と『隠された魔導書』をデッキに戻す」

「つくづくチョイスにかわい気がねぇ……」

 

 ルースは吐き捨てるように言った。

 ほぼ全てのカードのプレイに対して、カウンターを放つ『神の宣告』

 墓地から魔法カード2枚をデッキに戻す『隠された魔導書』

 セレスはどちらかを次のターン、確実にドローすることになる。ルースに見せつけながら2枚のカードはシャッフルされ、デッキに戻された。これにより、セレスのデッキの残り枚数は2枚。デッキ切れによる敗北はなくなった。

 

「私のターン、ドロー」

 

 どちらがドローされたか、ルースには知る術はない。無表情なセレスの顔を見ても、予測するのは困難だ。今はとにかく、このターンの『ウリア』の攻撃を防ぐ為に手を打っておく。

 

「お前のスタンバイフェイズにリバースカードオープン!『和睦の使者』」

 

 発動されたのは、先ほど『ウリア』によって破壊された罠カード。2度と同じ轍を踏まない為に、今回はメインフェイズでの発動だ。その効果により、このターンの全ての戦闘ダメージは0になる。

 

「メインフェイズでは『ウリア』に破壊される事を的確に理解し、スタンバイフェイズで発動したか……」

 

 『神炎皇ウリア』には『三幻神』と同じく、魔法・罠・効果モンスターの効果に対する耐性が備わっている。まだ『魔力(ヘカ)』を吸いきれていない為、『ウリア』も100%の力を出しきれてはいない。『三幻魔』は『魔力』を吸うことによって少しずつ、能力を解放しているのだ。

 

 

 

「…もっとも…魔法・罠の耐性があろうとなかろうと、ダメージが与えられない『和睦の使者』のようなカードを使われては意味がないがな……」

 

 そういう意味では目の前の男は『三幻神』や『三幻魔』の効果の穴を的確に突いていると言える。セレスは、益々この対戦相手が面白いと思った。

 

「……ダメージが与えられないのならば、仕方あるまい。私はリバースカードを2枚伏せ、ターンエンドだ」

 

ルース LP4000 手札1

《モンスター》

首領・ザルーグ

《魔法・罠》

閃光の双剣-トライス

 

(残りデッキ2枚)

 

 

セレス LP2200 手札0

《モンスター》

神炎皇ウリア

《魔法・罠》

リバース2

 

(残りデッキ1枚)

 

 

 ルースはデッキを見る。次のドローカードは分かっている。逆転は可能だ。しかし、相手のフィールドのリバースカードが『あれ』だった場合、勝機はない。

 

「ギリギリだぜ……やれやれ」

 

 意を決し、ターンを始めようとするルース。しかし意外にも、セレスがそれを止めた。

 

「待て」

「……なんだよ?」

「……貴様に1つ質問をしたい」

「別にいいが……その前にアンタの名前を聞かせてもらおうか?」

 

 怪訝な顔をしながらも、問いには応じた。

 

「セレスだ」

「ふーん、セレス……ね。で、俺に聞きたいことっていうのは?」

 

 緊迫していた空気が少し弛む。それは妙な感覚だ。今までは名も知らない『敵』だった人間だが、名前を知れば固有の存在として認識できる。

 

「純粋な疑問だ、ルース。貴様は私に対して勝機があるのか?」

「ゲームの途中にそれを聞くのは愚問だな。アンタは俺の『敵』なんだからよ」

「そうだな。だが私には分からない。これだけ不利な状況でなぜ貴様は『三幻魔』に立ち向かおうとしている?」

 

 セレスは手元に視線を落とす。既に5人の決闘者を始末したが『神炎皇ウリア』が召喚された瞬間に戦意を喪失し、サレンダーする者もいた。だがらこそセレスは、今までの決闘に満足出来なかったのだ。

 しかし、目の前の男。ルース・フォックスターは違う。攻撃力18000の『ウリア』を前にしても退かず、『ウリア』を掻い潜ってでもセレスに攻撃し、勝利をもぎ取ろうとしてきた。

 セレスは何がこの男をここまで戦わせるのか、純粋に興味があった。

 

「貴様はなぜ諦めない?」

「……面倒くせぇな」

 

 こうもゲームの途中に会話をすると、どうにも調子が狂う。しかし、ルースは自分の意思を率直に口にした。

 

 

 

 

「仕事だからだよ」

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

「ふざけんな! お前、さっきのポーカーでズルをしていやがったな!?」

「なぜそんな事が分かるのデスか?」

「とぼけるな!俺にははっきりみえ………」

 

 駄目だ。これ以上は言えない。まさか自分の瞳も特別だから、他の不思議な力が分かるなんて、言えるはずもない。ルースは途方に暮れた。

 ペガサスと名乗ったこの男は、ポーカーで勝ちまくっていた。それこそ、まるで相手の手札が全て分かっているかの様に、他のプレイヤーを翻弄したのだ。

 

 

 

 そのおかげで、むきになったルースは、あっという間にすっからかんである。

 

「あぁああ、もう! とにかくだ! アンタは相手の手札が見えていたんだろ?」

「イエース。ミーにはユー達の手札が見えていたのデース」

「おう! そうだよな……って、えぇええ!?」

 

 あまりにもあっさりとペガサスが認めた為、ルースはあんぐりと口を開けた。

 

「ミーの『千年眼』は相手の心を読むことができるのデース。実にワンダフ~ル。すばらしい力だとは思いまセンか?」

「ふ……ふざけんな!そんなのはフェアじゃない!ただのイカサマじゃねぇか!」

「イエ~ス。ミーの力はある意味ではイカサマデース。しかし、ユーは面白いデスね」

「……何がだよ?」

「ユーは自分がズルをされてチップを取られた事よりも、ミーがフェアな勝負をしなかった事にアングリー! 怒っていマース」

「……なんでそんな事が分かるんだよ?」

「当然デース。ミーは心が読めるのデスから」 

 

 当たり前のようにそんなことを言うペガサスに、ルースは恐怖を覚えた。ペガサスから離れる為に、一歩下がる。

 

「ふふ……ユーは今、コワイと思いましたね?」

「信じたくはないが、本当に嫌な力だな……」

「そう言って貰えると嬉しいデース」

「誉めてねぇよ」

 

 本当になんなんだ……とルースは肩を落とした。この気持ちもペガサスに読まれているのだろうが、知ったこっちゃない。どうにでもなれ、という感じだ。

 

「……なるほど。ユーは今の人生に満足していないのデスね?」

「そんな事まで分かるのかよ。アンタ、占い師か人生相談所でも開いたらどうだ?」

「オゥ! それはナイスなアイディアデース! ぜひ開いてみたいデスね!」

「……ハイハイ」

 

 このひょうきんなアメリカ人の発言をまともに取り合っていては、キリがない。ルースは肩を竦めた。

 

「では、ユーをミーの人生相談のお客さんの第一号にしマース!」

「………は?」

 

 ますます意味が分からない。何を言っているんだ。

 様々な言葉が浮かんだが、ルースは口に出さなかった。どうせ心を読まれているのだから、口に出す必要もない。ただ心の中で不満をさらけ出せばいい。

 

 

 別に食べるのには困ってない。

 ゲームをするのも嫌いじゃない。一生ゲームに付き合ってもいい位だ。

 友達や知り合いはいるし、酒を一緒に飲めば楽しい。

 

 じゃあ、俺には何が足りない?

 

 

 ペガサスをじっと見る。ペガサスもこちらをじっと見詰めていた。

 

「……簡単な話デース」

「何がだよ? 俺にも分からないこの不満の、何が簡単だっていうんだよ?」

「ユーは自分を分かっていない」

 

 これまでチャラチャラとふざけた口調で喋っていたペガサスが、ハッキリと言い切った。雰囲気に気圧されて、ルースはまた黙り込む。

 

「ユーはゲームを愛していマース。センスもある。仲間や友人も少なからずいる様デスね。人を集める力もあるようデース」

「………だから?」

「ユーが今の生活に満足できない理由。ミーにはもう分かりマシた。今からユーに解決策を教えてあげまショウ」

 

 ペガサスはにこりと笑って、こう言った。

 

 

 

「ミーの会社で働きなサーイ」

 

「………は?」

 

 ルースは今度はポカンと口を開けた。

 まるで意味が分からない。それが一体何の解決になるというのか?

 

「それではお願いしマース。彼を連れていきなサーイ」

「えっ? ちょっと!?」

 

 黒服達に抱え込まれ、抵抗する間もなくルースはペガサスの車へと放り込まれた。

 この日から、ルース・フォックスターは、インダストリアル・イリュージョン社の一員になったのだ。

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

「仕事だから……だと? ふざけているのか、貴様?」

「……別にふざけてねぇよ。マジもマジ。大真面目な答えだぜ?」

 

 セレスはルースの答えを下らない回答だと思っているようだが、これが正真正銘、ルースの答えだった。

 しかし、もう少し別の言い方が出来るかもしれない。もっとかっこいい感じで。

 

「じゃあ、お前が好きそうな言葉で分かりやすく言い直してやるよ」

「……なんだ?」

 

 

 

「責任だよ」

 

 

 

 それがルースの、戦う理由だ。

 

「……責任?」

「ああ、責任だ」

 

 なぜ若かった自分はあの生活に満足できなかったか。それはあの頃の生活が自分1人のものだったからだ。仕事もせず、ただ自分の為に金を稼ぐ、無生産な日々。

 

 だが、今は違う。

 

 今のルースには、インダストリアル・イリュージョン社で積み上げてきたものがある。

 

 デュエルモンスターズ。

 

 ラルフと、ジョンと、サイトウと、創司と。ペガサスが創造し、ルース達が一丸となって作り上げてきたカードゲームだ。

 今、この瞬間も、世界中で多くの人達が笑顔でこのゲームをプレイしている。

 だからこそ、ルースには責任がある。

 

「忠誠を誓ったボスの為に戦う。自分が楽しむ為に戦う。大いに結構だぜ。けどな、お前達のそれと、俺達が背負っているものでは、少し重さが違い過ぎる」

 

 グールズという組織は私利私欲を満たす為に、自分達の目的の為だけにデュエルモンスターズを利用している。

 

 仕事をする中で、ようやく見つけることができた、誇りと責任。自分が一生付き合っていくと決めたこのゲームを、これ以上汚させるわけにはいかない。

 

 共にインダストリアル・イリュージョン社で働く仲間の為に。

 デュエルモンスターズを楽しんでくれる、世界中のプレイヤーの為に。

 

 

「だから俺は負けねぇ」

 

 

 デッキに手をかける。ドローカードは分かっている。迷う必要は一切ない。

 

「俺のターン、ドロー。リバースカードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

 ドローカードを確認することもせず、そのまま伏せた。あまりにもあっさりと、ルースのターンは終わる。

 

「最後まで立ち向かうか……」

 

 真正面からぶつかる、両者の瞳。だが、ルースにこれだけの思いがあるように、セレスにも譲れないものはある。

 

「……いいだろう。貴様の責任とやらが、私のヴォルフ様への忠誠心よりも重いのか、見せてもらおう。私のターン、ドロー!」

 

 

―――ここだ。

 

 

 

 

 

「1000ポイントのライフを払い、リバースカードオープン!」

 

ルース LP4000→3000

 

 最後のチャンス。

 ルースが発動したのは、逆転の罠カード。

 あらゆる意味で、全てを逆転させるカード。

 

 

 

 

「さあ……勝負だ! 罠発動! 『現世と冥界の逆転』発動!」

 

 

 

 

「馬鹿な!? ここで……ここに来て『現世と冥界の逆転』だと!?」

 

 セレスの顔が、はじめて驚愕で歪んだ。

 

 

『現世と冥界の逆転』

通常罠

自分の墓地にカードが15枚以上ある時、1000ライフを払い発動。 お互いに自分の墓地と自分のデッキのカードを全て入れ替える。その際、墓地のカードはシャッフルしてデッキゾーンにセットする。

 

 

 ここまで来れば、シンプルな話だ。デュエルの行方はこのカードの発動の是非にかかっている。

 

 通れば、ルースの勝ち。

 止めれば、セレスの勝ち。

 

 セレスのフィールドのリバースカードは2枚。1枚は『最終突撃命令』が破壊された時、最後の詰めとして使う『メテオ・レイン』

 

 もう1枚は、先ほどのターンのドローカード。

 

「さあ……そのリバースカードは『神の宣告』か? それとも『隠された魔導書』か? どっちだ?」

 

 

「…………リバースカードオープン!」

 

 

「……ッ!?」

 

 

 セレスは動いた。

『現世と冥界の逆転』にチェーンして、伏せカードは開かれる。

 

 

 それは……

 

 

 

 

 

「『隠された魔導書』を発動」

 

 

『隠された魔導書』

通常罠

このカードは自分のターンのみ発動する事ができる。自分の墓地に存在する魔法カード2枚を選択し、デッキに加えてシャッフルする。

 

 

 意地か。あるいは最後の足掻きか。このカードの発動に意味がないことはわかっていても、発動せずにはいられなかった。

 

 

「……ヒヤヒヤさせやがって」

「私は墓地から『手札抹殺』と『手札断札』をデッキに戻す。後は好きにしろ」

 

 いや、少なくとも意味はある。この状況でドローしても役に立たないカードを、デッキに戻すこと。

 セレスのプレイは矛盾しているようだが、今はこれが正しい。

 

「じゃあ遠慮なく……『現世と冥界の逆転』の効果発動だ」

 

 なぜならこれから、死者と生者は入れ替わる。

 『現世と冥界の逆転』のカードが、妖しい光を放った。

 『決闘盤』の墓地スペースから大量のカードが吐き出される。それらのカードは全てデッキに戻り、逆にデッキのカードが墓地へと送られる。

 

 まさに大逆転。

 

 そして、フィールドを圧倒的な攻撃力で支配してきた、『神炎皇ウリア』にも変化が表れる。

 

「お前の『ウリア』の攻撃力は、墓地の永続罠カードの数×1000ポイント。だが、これでお前の墓地には3枚のカードしかない」

 

 『三幻魔』はある程度『三幻神』を意識して生み出された存在だ。

 『神炎皇ウリア』と対になるのは『オシリスの天空竜』

 エジプト神話において、オシリスは天空と冥界の神。故に『神炎皇ウリア』も墓地に依存して、その力を発揮する。

 

 

 冥界の力に頼る炎の悪魔が、現世と冥界が逆転したらどうなるのか。

 結果は、火を見るよりも明らかだ。

 

 

『神炎皇ウリア』

ATK18000→0

 

 

「まさか……な。『ウリア』が完全に無力化されるとは……私はリバースカードを1枚伏せ、ターンエンド」

 

 『最終突撃命令』によって、セレスは『ウリア』を守備表示にする事すらできない。完全な無防備だ。

 

「いくぜ、俺のターン、ドロー! 俺は『キラートマト』を召喚!」

「やらせん! リバースカードオープン!『神の宣告』」

 

セレス LP2200→1100

 

 ルースの召喚した『キラートマト』に対しての『神の宣告』

 召喚を許し、攻撃されれば負けだ。だからセレスは『神の宣告』を発動した。

 しかし、結果的には何も変わらない。

 

「バトルだ! 『首領・ザルーグ』で『神炎皇ウリア』を攻撃!」

 

 己の何倍もの身の丈の悪魔に向かって、『ザルーグ』が飛ぶ。しかしその悪魔は今、欠片ほどの力も有してはいない。たった900ポイントの攻撃にも敵いはしない。

 閃光の剣によって赤い体躯は切り裂かれ、断末魔の叫びがあがる。

 

 

「『神炎皇ウリア』撃破!」

 

 

「……見事だ……」

 

 今この決闘で、『三幻魔』は初めて正面からの戦闘で敗れ、破壊された。

 

 

セレス LP1100→200

 

 

「私の思いが……忠義が……貴様の思いに負けたという事か……」

 

「ああ……」

 

 『ザルーグ』が再び剣を振り上げる。

 

 

「俺の勝ちだ」

 

 

セレス LP200→0

 

 

 決着。

 

 

 セレスの体を電撃が襲う。全身を舐めるようにして流れていくそれは、セレスの『魔力(ヘカ)』を根こそぎ吸い取っていく。

 

「申し訳ありません……ヴォルフ様……」

「おい!? お前!」

 

 懺悔の言葉を口にしながらも、胸の内には確かな満足感を抱いて。

 走り寄って来る、ルースの姿を見ながら。

 

 セレスの意識は闇へと落ちて行った。

 




現世冥界の逆転は旧効果です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。