ルール改定に駆けた男のロード   作:龍流

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17.「クソイラつくだけだ」

 倒れたセレスは動かない。ルースは首の脈をとった。問題ない。息はあるようだ。

 ならば、と今度は『ルーンの瞳』を通してセレスの体を視る。ルースは呻いた。

 

『ひどいのか?』

 

 主人の心の乱れを察してか、先ほどの決闘で大活躍をした『首領・ザルーグ』が再び顔を出す。眼帯をした強面な面構えの彼だが、その表情は心配そうだ。

 

「本当に厄介な『決闘盤』だぜ……人の身体から『魔力(ヘカ)』だけを吸い取るなんてな」

『すまん。そういったことは俺の管轄外だ。ボスに任せる他ない』

「お前が気にすることじゃねぇよ。俺には便利な『眼』があるしな」

 

 盗掘団の首領に『ボス』と呼ばれ、ルースは苦笑した。長い付き合いでその呼び方だけはやめろと言っているのだが、ザルーグは直さない。ザルーグは豪胆だが、義理と礼儀はたてる男なのだ。

 

「さてと……」

 

 セレスはひどい状態ではあるが、命に別状はない。この『黒い決闘盤』以外にも、気になっていた事を調べる必要がある。ルースはセレスの『決闘盤』の墓地スペースから、1枚のカードを抜き取った。

 

「むせかえる様な『魔力(ヘカ)』だな……」

『俺でも分かる。悪意の塊だな、これは』

 

 ルースの言葉にザルーグが頷いた。『神炎皇ウリア』のカードは決闘が終わったのにも関わらず、カードの状態で周囲にプレッシャーを放っていた。勘が鈍い者でも、これが『特別なカード』だという事は分かるだろう。

 

「なあ、ザルーグ。『三幻魔』なんて存在、聞いた事があるか?」

『俺は聞いた事がない。そもそもこれは『三幻神』や『三極神』などとは、違うベクトルの存在なのではないか?』

「ん? どういう意味だよ?」

『ボスも知っていると思うが、我々の『精霊界』と『人間界』は密接な関わりがある』

 

 ザルーグ達、『カードの精霊』は、元々この世界とは別の次元の存在だ。最初に聞いた時はルースも信じられなかったが、この世界はなんと『12の次元』に分かれているらしい。人間がいないそれらの世界を『精霊界』と呼び、デュエルモンスターズのカードは精霊と人間を繋ぐ、架け橋とも呼べる道具なのだ。

 

「……つくづくスピリチュアルなゲームだぜ」

『そんなスピリチュアルな瞳を持っているボスがそれを言うな』

 

 確かに、とルースは肩を竦めた。

 

『話を戻そう。『人間界』で強い信仰を受けている神は『精霊界』でも強大な力を有する……と言われている。知り合いの魔法使いから聞いた話だが、これは当てはまるな?』

「ああ。『三幻神』はエジプト神話の神様だし、『三極神』は……見たことはないが、ロキやオーディンというからには、北欧神話の神様なんだろう」

 

 ルースは『三極神』と会ったことはない。トール、ロキ、オーディンと呼ばれる彼らは世界に危機が訪れた時、目覚めるという。これも精霊達からの又聞きだが、どうせ自分にこんな力を与えるなら、カードになって力を貸して欲しいものだ。

 

『と……なるとだ。この『神炎皇ウリア』という存在は一体なんなんだろうな? そういう名前の神や天使、伝説上の存在をボスは聞いたことがあるか?』

「『ウリア』か…いや、すぐには思いつかないな」

 

 ルースは記憶を探ってみるが、思いあたる節はない。『三幻魔』もおそらく3体存在しているはずだ。残りの2体の情報を得れば、何か分かるかもしれない。

 

 

 

 

『知らないのなら……このモンスターは奴らが作り出した、人工の悪魔ということになる』

「人工の悪魔……か」

 

 不吉な、嫌な響きだ。そんなモンスターを作って、グールズは何をするつもりなのか。

 

「とりあえず……ラルフ達に連絡だな。あいつらも、もう事態を察知して動いてるはずだ」

『何をしていた、と大目玉をくらいそうだな』

「土産にこれを見せれば、納得してくれるだろ」

 

 ぴらぴらと『神炎皇ウリア』のカードを振りながら、ルースは携帯電話を取り出した。

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 童実野町を流れる川。

 太陽は沈み、それに伴って水面は青から黒に染まっている。

 その川に架かる橋の上で、ジョン・ハイトマンは大きな溜め息を吐いていた。

 

 理由は二つ。

 

「………疲れた」

 

 一つ目は単純に疲労。今日だけで何回決闘したのか分からない。腕と指にそれなりの痺れがきていた。

 

「それにしても……なんて厄介なんだ。この『黒い決闘盤』は……」

 

 二つ目は『黒い決闘盤』

 ダメージを実際のものにして、敗者を気絶させるそれは、ジョン達にとって大きな障害になっていた。

 

 勝っても負けても、捕まえたグールズから情報を聞き出せないのだ。

 

 これではいくら決闘で勝っても、グールズという組織の頭を抑えることができず、根本的な解決には至らない。グールズのボスは『マリク・イシュタール』という説が有力だが、彼は今、空を飛ぶバトルシップで決勝トーナメントの真っ最中だ。通信機器で地上の部下に指示を出すこともできるだろう。しかし、必ず地上で今夜の襲撃の指揮を取っている人物はいるはずだ。

 

 第一に決闘者達の安全の確保。

 第二に指揮を取っている人物の確保。

 

 珍しく、ジョンとラルフの意見は一致していた。

 

「手掛かりが欲しい……」

 

 そんな呟きが空に吸い込まれて消える。ここで愚痴っていてもしょうがない。手掛かりがないなら、足で探すしかないだろう。ジョンは橋の欄干に寄りかかっていた体を起こし、歩き出した。が、数歩動いて、歩みを止める。

 

 

 

「よぉ、兄ちゃん。何か悩み事か?」

 

 

 

 ジョンが移動しようとした方向の向かい側から、1人の男が歩いて来た。

 髪の色は夜の闇に映える銀髪。黒いジャケットにダークカラーのジーンズ。耳にピアスをつけたその姿は、お世辞にもカタギには見えない。

 

「溜め息はいけねぇなぁ……溜め息を吐いたら幸せが逃げるってのは、イタリア人の言葉だったか?」

 

 ジャラジャラと腰のチェーンを揺らしながら、その男は近づいてくる。ジョンは警戒し、『決闘盤』を構えた。

 男の左腕にも装着されていたからだ。あの『黒い決闘盤』が。

 

「次から次へと……ご苦労なことだね」

「それはこっちのセリフだぜ。飼い慣らされたペガサスの犬は、よく働くよなぁ? 尊敬するぜ」

 

 尊大な物言いをする男に向かって、ジョンは吐き捨てた。

 

「黙れ、犯罪者」

「うっせーよ。クソ社畜が」

 

 男の左腕からワイヤーが伸び、ジョンの『決闘盤』を拘束した。今日で何度目になるだろうか。

 

 

 

 

「けどよかったなぁ……テメェは運がいい。これで悩みが1つ解消したな」

「……なんの話だ?」

「『頭』を探してたんだろ? 俺がそうだ。今回の襲撃は全て俺が計画した」

 

 銀髪の男は手を広げ、心底愉快そうにせせら笑う。

 

「俺はヴォルフ・グラント。グールズのNo.2だ。俺を倒せば、この童実野町を舞台にしたゲームは終わるぜ?」

 

 親指をたて、ヴォルフは自分の首を掻き切る仕草をしてみせた。

 やれるものなら、やってみろ。そういう意思表示だろう。  

 

「それはラッキーだ」

 

 ジョンが『決闘盤』を展開する。これは願ってもない展開だ。相手の方から出て来るとは、思いもしなかった。

 

「キングを取ってこのゲーム……チェックメイトだ」

 

 

「「決闘!!」」

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 インセクター羽蛾は焦っていた。この状況に、全身が警鈴を鳴らしている。

 

「へっへへ。どうしたんだよ。元日本チャンプさんよぉ……」

「そんなに怖がらないでくれよ。俺達に決闘のイロハを教えてくれ」

「そうですよ~羽蛾さん。レアカードが欲しいんでしょ~?」

 

 レアカードに釣られ、ファミレスで出会った青年の提案に乗ったが、気がつけばこんな路地裏に連れ込まれた。なんだかヤバい雰囲気だったので「用事を思い出したぜ~」と言ってエスケープしようとしたが、新しく現れた男2人に挟み込まれた。もう逃げられない。

 

「ヒョ……ヒョヒョ……デュ……決闘をするじゃなかったかなぁ?」

 

 リアルファイトでも始まりそうな場の空気に、羽蛾はたじろいでいた。羽蛾は決して喧嘩は強くない。どこぞの凡骨と違って、彼は頭脳派なのだ。

 

「安心しろよ。決闘してほしい人がいるっていうのは本当だぜ?」

「あんたの相手はこの人だ」

 

 男達が道を開く。路地の奧から出て来たのは、トレンチコートを着た人物。顔はフルフェイスのヘルメットを被っているせいで見ることができない。身体のラインから見て、女だろうか。

 

「……決闘だ」

 

 ヘルメットの機能なのか、声には特殊なエコーがかかっている。ボイスチェンジャーか何かだろう。

 

「ひ……ヒィ…」

 

 羽蛾は思わず後退する。

 これはまずい。確実に何かまずいことに巻き込まれつつある。なんとか決闘せずに切り抜けなければならない。

 

「そ……そうだぁ!キミ達には特別にオレのサインをやるよぉ!」

 

「いらねぇ」

「金にならん」

「ふざけんな」

 

「……いらない」

 

「ヒィイイィイ!!」

 

 もう駄目だ、おしまいだ……と、羽蛾が頭を抱え、座り込んだその時。

 

 

「そこまでだ!」

 

 

 救世主が現れた。

 突然上から、1人の男が降ってきたのだ。羽蛾とコートの女の間を、割る様に飛び込む。

 

「ひょ………ヒョ?」

 

 突然の出来事に羽蛾はついていけない。唖然としてその金髪の男を見上げている。

 

「なにもんだテメェ!」

「邪魔すんな!」

 

「……貴様ら、グールズか?」

 

 唐突な金髪の男の問い。しかし、羽蛾を取り囲んでいた男達はその質問を聞き、固まった。図星だったからだ。

 

 

 

「だったらどうしたぁ!」

 

 焦りを隠すように、羽蛾を取り囲んでいた男の1人が吠える。

 

「俺も交ぜてもらおうか?」

「けっ……交ぜてくれだと?」

「俺達はそこの虫野郎に用があるんだ」

「いきなり飛び込んできやがって、なんだお前は!」

 

 金髪の男は、首元のネクタイを弛めながら言った。

 

 

「ただの会社員だ」

 

 

 足が跳ね上がった。

 それはグールズの男の顎を正確に捉え、直撃する。

 

「がっ…………?」

 

 顎は人間の急所の一つ。男は泡を吹いて倒れた。

 

「な……なんだぁ?」

「何をぼさっとしている、インセクター羽蛾。はやく逃げろ」

「ぼ……ボクの名前を……?」

「ラルフ・アトラスだ。礼は今はいい」

「お……恩に着るぜぇ~!」

 

 羽蛾は肉体派ではないが、逃げ足は早い。路地裏から抜け出し、あっという間に見えなくなった。

 

「てめぇ……何を勝手に!」

「こうなったら……お前に決闘に付き合ってもらうぜ!」

 

 グールズの男が『黒い決闘盤』を取り出し、左腕に装着する。ラルフの対応は、はやかった。

 

 

「断る」

 

 

「は……?」

 

 ラルフの拳が唸る。右ストレートが見事に男の顔面に入り、吹っ飛ばした。

 グールズの構成員と何回も決闘して、ラルフは一つの結論に達した。彼らが使用している『黒い決闘盤』はプレイヤーにかなりの衝撃を与える。敗者の気絶はまず免れない。捕まえても、情報を得ることが出来ないのだ。ラルフ達にとってグールズの決闘を受けるのは、百害あって一利なし。決闘をするのにも時間がかかる。ならば、あのワイヤーに拘束される前に、もっと単純な方法で倒してしまった方がよっぽど効率がいい。

 

 要するに、殴り倒してしまえばいいのだ。

 

 大会期間ならば、決闘を挑まれたら受けざるを得ないが、バトルシティ予選は既に終了している。決闘を受けてやる義理も義務もない。

 

「お……お前、それでも決闘者か!?」

「決闘者だが……社会人だ」

 

 最後の男の1人に回し蹴りを叩き込む。首筋に強力な一撃をくらって、男は目を剥いて倒れた。

 

「さて……もう1人」

 

 トレンチコートの女を見て、ラルフの動きは一瞬止まった。ヘルメットを被ったその姿に戸惑ったこともあるが、なにより女性に手をあげる事を、躊躇ったのだ。

 

 だから隙ができた。

 

 女の『黒い決闘盤』から伸びたワイヤーに、ラルフは反応する事ができなかった。

 

「ちっ………」

 

 がっちりとラルフの『決闘盤』が拘束される。

 

「貴様、女か? 悪いが俺はグールズならば、女だろうと容赦はしない」

「………………」

 

 コートの女は無言で『決闘盤』を持ち上げた。

 

「……いいだろう、いくぞ」

 

 

「「決闘!!」」

 

 

 この時、対戦相手が唇を噛み締めながら、胸を裂くような気持ちで決闘を始めた事を、ラルフは知るよしもなかった。

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 ヴォルフ・グラントは馬鹿ではない。自分達『グールズ』を探している、インダストリアル・イリュージョン社の人間の前に姿を見せることが、どれだけ愚かな行為かは理解している。

 

 

 正体を明かし、決闘をするなど愚の骨頂。

 しかし、ジョンの先攻で決闘はスタートする。

 

「先攻は僕が貰う、ドロー」

 

 決闘をするリスクを分かっていても、それでもヴォルフがこの様な行動をとったのには、彼の中に確信があったからだ。

 

 こいつらを野放しにしておけば、自分の計画に必ず狂いが生じる。

 

 ペガサスの犬など意にも介していなかったが、腹心であるセレスは敗れ、恐らく『ウリア』は彼らの手に渡ったのだろう。

 

「……クハハ」

「……気持ち悪いな、一体なんだい?」

「いやぁ……まぁ気にするなよ。ただお前らの事が……」

 

 これ以上、自分の『三幻魔』の計画を邪魔される訳にはいかない。だから、ヴォルフ自ら始末するのだ。

 

 

「クソイラつくだけだ」

 

 

「……口が悪い男だ」

 

 軽口を叩きながらも、ヴォルフと相対するジョンは、彼に対する警戒心を、最大レベルにまでつり上げる。

 この男はどこか『壊れている』と。

 

「僕はモンスターをセット。リバースカードを2枚伏せてターン終了だ」

 

 即断即決。ジョンは手札とドローカードを鑑みて、手堅い布陣を敷き、ターンを終わらせる。

 

「なんだぁ。随分こじんまりしてるじゃねぇか?」

「無駄口を叩いてないで、はやく自分のターンを始めてくれないか?」

「けっ……俺のターン、ドロー」

 

 相手はグールズの中でも、トップに近い男。ジョンはプレイングに注視し、緊張感は否応なしに高まる。

 

「……最初はお前のペースに合わせてやるよ。俺もモンスターをセットし、リバースカードを2枚セット、これでターン終了だ」

 

 両者共に動かず。決闘において、情報アドバンテージとは大きいものだ。ヴォルフのプレイングは決闘の初期段階で、デッキや戦術を相手に晒すのを嫌っての事だろう。やはり油断はならない。

 

「僕のターン、ドロー」

 

 ジョンは思わず笑みを浮かべた。デッキの回りはいい。ヴォルフが仕掛けて来ないなら、こちらからいくまでだ。

 

「先に仕掛けさせてもらうよ。リバースカードオープン!『シモッチによる副作用』を発動!」

「ほぉ……」

 

 発動したのは『シモッチによる副作用』

 ジョンのデッキのキーカードだ。『サイクロン』等を警戒したが、ヴォルフが動く様子はない。

 

「更に『成金ゴブリン』を発動!」

 

 通常なら1000ライフを相手に与え、1ドローする通常魔法。『強欲な壺』や『天使の施し』と比べれば、ドローソースとしての有用性は低い。しかし『シモッチによる副作用』の発動下なら話は違ってくる。

 

「ぐぅ……」

 

ヴォルフ LP4000→3000

 

 まずは一撃。ヴォルフのLPが4分の3に減る。

 単発の直接攻撃魔法では最大火力を誇る『デス・メテオ』

 それに1ドローのおまけ付きだ。これが弱いわけがない。

 

「僕はリバースカードを1枚セットし、ターンエンド。先制は頂いたよ。君の力はそんなものかい?」

「好きに言ってろよ。今から俺の力をたっぷり見せてやるからよぉ? 俺のターン、ドロー!」

 

 ヴォルフは勢い良くカードをドローする。ジョンはそれをどこか冷めた目で見ていた。理由は単純明快。

 

 

 

 これで終わりだからだ。

 

 

「悪いけど、見せて貰う気はない。リバースカードオープン!『ギフトカード』」

 

 1枚で3000ポイントのダメージという、強力無比なカード。ジョンはこのカードを発動した時点で、勝利を確信していた。

 

 

 

「クックク……ヒャッハハハハハハ!!」

 

 

 

 だから足元を掬われる。

 

「ッ!?」

 

 ジョンのミスは二つ。

第一に、ヴォルフのフィールドにはリバースカードが2枚もあるにも関わらず、『シモッチによる副作用』にチェーンがなかった時点で、今は使えないカードだと判断したこと。

 

 

「いいねぇ! そうやって焦って、いきなり仕掛けてくるわけだ!」

 

 ヴォルフが『決闘盤』に手をかける。リバースカードが開かれた。

 

「通るわけねぇだろぉ!? リバースカードオープン! 『地獄の扉越し銃』」

 

「なっ…!?」

 

 

 第二に、ジョンは『情報アドバンテージ』というものを甘く見過ぎていた。

 

 

『地獄の扉越し銃』

カウンター罠

ダメージを与える効果が発動した時に発動する事ができる。自分が受けるその効果ダメージを相手に与える。

 

 

 ヴォルフが発動したのは『地獄の扉越し銃』

 ダメージを相手に反射するカウンター罠カード。ジョンのバーンデッキと最高に相性が悪い『メタカード』だった。

 『シモッチによる副作用』で回復効果がダメージ効果に変わった『ギフトカード』は、このカードでカウンターする事が可能である。

 

「さぁ、3000のダメージをたっぷり喰らいなぁ!」

 

「ぐぁああぁああ!?」

 

 

ジョン LP4000→1000

 

 一気にライフの4分の3が持っていかれる。『闇決闘盤』によって実際のダメージに変わる痛みは、かなりものだ。

 

「ヒャハハハ……バカだろお前。今日何人の俺の部下が、テメェのバーンデッキにやられたと思っていやがる?」

「ぐっ……うぅ……」

「お前のデッキは、俺がもうとっくに、メタメタにメタってんだよぉ!」

「……きさまぁ……」

 

 膝をついたジョンが、苦しげに顔を上げる。

 

「悔しいかぁ? 悔しいよなぁ? だが、戦いってのは、殺り合う前から始まってるんだぜ?」

 

 ヴォルフの笑いは止まらない。相手を蹂躙する事に、相手の悔しげな顔に、堪えようのない愉悦を覚えながら、決闘を続けていく。

 

「コイツで終わりだぁ! 逝っちまいな。反転召喚!『ステルスバード』」

 

 

『ステルスバード』

ATK700

DEF1700

このカードは1ターンに1度だけ裏側守備表示にする事ができる。このカードが反転召喚に成功した時、相手ライフに1000ポイントダメージを与える。

 

 

 『シモッチバーン』に限らず『バーンデッキ』というものは、その性質上戦闘ダメージに対する防御手段は豊富に用意してあっても、効果ダメージに対する防御は薄い。

 ジョンのデッキを予め把握しているからこそできる、悪辣な戦術だ。

 

 もう1枚の伏せカードは『威嚇する咆哮』

 今のジョンに、この効果を防ぐ術は無かった。

 

 

 

 

「しまっ……ぁあぁああ!?」

 

 

ジョン LP1000→0

 

 

 あっさりと決着はついた。

 あまりにもあっさりと。ジョンは膝から崩れ落ちた。

 

「ヒャハハハ。あれだけ決闘したんだ。デッキ位変えておけよ」

 

 たとえ狡いと言われようと。どんな手段を用いようと、勝てばいい。

 

 これはゲームだ。

 

「ゲームってのは勝たなきゃ楽しくねぇし、意味がねぇんだよ」

 

 誰に言うわけでもなく、ヴォルフは自分の理想を口にする。だから彼は求めるのだ。『三幻魔』という存在を。

 

「さてと、次に行くかぁ……1人位はフィーネが始末していると、楽なんだがな……」

 

 

「……………待て」

「あん?」

 

 あり得ない。そう思いつつも、ヴォルフは振り返った。

 

「……すげぇなお前。意識を失わずにまだ立てるのかよ……大した精神力だぜ」

 

「……はぁはぁ……もう一度」

 

 息も絶え絶えに、しかしヴォルフをはっきりと見据えて、ジョンは再び『決闘盤』を構える。

 

「おう……いいぜ。そんなに死にたきゃ、いくらでも相手してやるよ」

 

 そう言ったヴォルフの右手は、ジャケットの懐に吸い込まれた。抜き出された右手に握られているのは……

 

 

「……とでも言うと思ったか?」

 

 

パン、と。

 

 

 乾いた音が響いて。

 ジョンは腹に衝撃を受けた。

 

 

 ゆっくりと。ゆっくりと。

体は後ろに倒れていく。

 

 欄干に寄りかかるが、体はそれを乗り越えて、落ちていく。

 

 

「一度負けた奴が何言ってやがる。クソめんどくせぇ」

 

 そう言うヴォルフの右手には、黒光りする拳銃が握られていて。

 

 それをジョンが認識する頃には。

 

 彼の体は水の中へと落下していた。

 




来年もよろしくお願いします。
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