ルール改定に駆けた男のロード   作:龍流

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18.「嘘じゃありませんよ」

 ポーカーフェイスという言葉がある。

 心を隠す、無表情な顔つきという意味だ。ゲームにおいて、相手の表情、相手の息遣い、相手の視線は貴重な情報。だが、今回の相手はそんな情報を与えてはくれない。

 

 ちっ、とラルフは舌打ちした。

 

 想像以上にやり難いと思った。目の前の女の顔は、完全にヘルメットに隠れている。表情どころか、視線も読めない。

 

「……その珍妙な衣装は、決闘をするのに不誠実だな」

「……はやくしろ」

 

 ボイスチェンジャーによって変えられた、無機質な声。何の感情も感じられないその声は、ラルフを苛立たせる。

 

「……俺の先攻、ドロー!」

 

 ラルフが殴り倒した男達の様子を見るに、この女は幹部クラスの存在なのだろう。決闘もかなりの腕のはずだ。でなければ、元全日本チャンプに決闘を挑めるわけがない。

 

「モンスターをセット。リバースカードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

 場にカードを2枚出し、まずは様子見。表情が見えないなら、決闘で相手を分析するしかない。

 

「……私のターン。ドロー。私は『魔導戦士ブレイカー』を召喚」

 

 女のフィールドに現れたのは真紅の鎧を身に纏った騎士。召喚の成功と同時に、彼の剣には魔力が溜まる。

 

『魔導戦士ブレイカー』

ATK1600→1900

 

 

「魔力カウンターか……」

 

 『魔導戦士ブレイカー』は最近発売されたばかりの、かなりのレアカードだ。『魔力カウンター』と呼ばれるカウンターを溜めることで、力を発揮する。これもまず間違いなく、グールズのコピーカードだろう。

 

「私はブレイカーの効果を発動。このカードの魔力カウンターを1つ取り除く事で、お前の魔法・罠カードを1枚破壊する」

 

 その効果はもちろん強力。ほぼノーコストの『サイクロン』の様なものだ。

 

 

『魔導戦士ブレイカー』

ATK1900→1600

 

 

 魔力を利用し『魔導戦士ブレイカー』はリバースカードを狙い撃った。ラルフの『炸裂装甲』が砕かれ、破壊される。

 

「ふん……」

「……バトル。『ブレイカー』でセットモンスターに攻撃」

 

 『ブレイカー』に斬りかかられ、セットモンスターは破壊される。だが、それでいい。このモンスターは、破壊されるのが仕事のようなものだ。

 

「『UFOタートル』の効果発動。戦闘で破壊された時、デッキから攻撃力1500以下の炎属性モンスターを特殊召喚する。2体目の『UFOタートル』を特殊召喚」

 

 モンスターが戦闘破壊されれば、相手との戦力差にカード1枚分の差が生まれる。だが、こうした『リクルーター』は戦闘破壊されても後続を残す事ができる。

 

「……私はリバースカードを2枚伏せ、ターンを終了」

「俺のターン!」

 

 デッキの目星は大体ついた。おそらく『魔力カウンター』を主軸とした魔法使いデッキ。だとしたら、はっきり言って、ラルフのデッキとの相性は最高に近い。『ホルスの黒炎竜』さえ呼び出すことができれば『魔法カード』は完封できるからだ。

 

「フィールド魔法『バーニングブラッド』を発動」

 

 フィールドが火山が噴火する灼熱地獄に早変わりする。これでラルフの炎属性モンスターは守備力を下げる代わりに、大幅に攻撃力を増強できる。

 

 

「『バーニングブラッド』の効果で炎属性モンスターの攻撃力は500ポイントアップする」

 

 

『UFOタートル』

ATK1400→1900

 

 

 このまま攻撃してもいいが、モンスターは追加したい。

 

「更に『プロミネンスドラゴン』を召喚!」

 

 竜の姿をしていても、種族は炎。赤い体躯をくねらせながら、そのモンスターはフィールドに……

 

「リバースカードオープン。『奈落の落とし穴』」

 

 ……降りることは出来なかった。

 

 

『奈落の落とし穴』

罠カード

通常罠

相手が攻撃力1500以上のモンスターの召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時に発動することができる。その攻撃力1500以上のモンスターを破壊しゲームから除外する。

 

 

 攻撃力1500以上のモンスターを除外する、強力な召喚反応系罠。少々迂闊だったか。

 

「くっ……まあいい。バトルだ。『UFOタートル』で『ブレイカー』を攻撃!」

 

 UFOを背負った珍妙な亀が魔法剣士に突撃する。何かあるかと警戒したが、剣士はなんの抵抗も出来ずに、そのまま破壊された。

 

女 LP4000→3700

 

「……俺はリバースカードを1枚セット。ターンエンド」

 

 

ラルフ LP4000 手札2

《モンスター》

UFOタートル

《魔法・罠》

バーニングブラッド(発動中)

リバース1

 

グールズ LP3700 手札3

《モンスター》

なし

《魔法・罠》

リバース1

 

 

 激しい攻防という訳ではなない。まだ小手調べ。ラルフも相手の女も、お互いに手の内を晒していない。

 だが、ラルフの勘がこの相手は強い、と警鈴を鳴らす。なんの根拠もないが、ラルフは気を引き締めた。

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 ソファーに寝転がりながら、ヴォルフは部下の報告を聞いていた。1人始末したのはいいが、セレスを倒した男は見付けることができず、最後の1人はフィーネと交戦中。街を下手に出歩いて、警察の御用になるのも面白くない。

 結局一度、アジトに戻って来たというわけだ。

 

「で、セレスはどうなった?」

「はい。どうやらあの後、童実野病院に搬送された様です」

「………回収は?」

「難しいでしょうね……病院の周りには、既に警察が……」

「そっちじゃねぇよ」

「え?……ぐっ!?」

 

 すっと、ヴォルフはソファーから起き上がり、肩を抱く様な気軽さで、部下の首を鷲掴みにした。

 

「あのなぁ……今更説明するなんて、本当にバカみたいで、アホらしくて、やってられねぇけどよぉ……そのからっぽの脳ミソの中には、何も入ってねぇ様だから教えてやるよ?」

「あ………が……」

「今回の、この計画の、最大にして唯一の目的は『三幻魔』の完全使用の為の『魔力(ヘカ)』集めなんだよ」

「り……理解しております」

「そうだよなぁ? 曲がりなりにも、俺は『魔力(ヘカ)』に精通している人間しかメンバーに選んでねぇんだから」

 

 みしみしと音が聞こえてくるほどに、部下の男の首が更に強く絞まる。

 

「あ……あぁ……が」

 

 

「だったらよぉ…俺が回収は可能か、と聞いたら、セレスではなくて『ウリア』の事だっていうこと位は分かるだろ? 『三幻魔』が奪われたら計画が元も子もないんだから」

「も……申し訳……ございません」

「それくらい分かれ。カス」

 

 そう言ってヴォルフは、部下を床に下ろした。

 

「げほっ……ごほっ……しかし、現状では『ウリア』の奪還も難しい状況で……」

「そう。そうやって俺が聞きたい事を理解して、きちんと報告すればいいんだよ。そしたら俺も無闇に怒ったりはしねぇよ」

 

 それにしても……と、ヴォルフは再びソファーにもたれ掛かった。

 『三幻魔』の1枚がインダストリアル・イリュージョン社に渡ってしまったのは、正直かなり痛い。セレスの敗北は、ヴォルフにとっても予想外だった。

 このままでは計画の最終段階にも入れないだろう。

 

「……セレスのバカ野郎はどうせ自力で脱出するから、放って置くとして、後はフィーネがどこまで『魔力(ヘカ)』を集めて来るかだな」

「……お言葉ですが、フィーネ様に任せて本当に大丈夫なのですか?」

「あぁ? フィーネの『魂(バー)』の容量は俺やセレスの比じゃねぇぞ?」

「しかし……今決闘している相手は、我々を簡単に倒した決闘者です。『魔力』の扱いや『魂』の質はともかく、決闘で負けてしまっては元も子もありません」

 

 部下の男は、普段のフィーネしか見ていない。物腰が柔らかで、犯罪組織に所属しているなんて、考えられない女性だと思っているのだろう。

 

 だからヴォルフは、それを鼻で笑った。

 

「それこそいらねぇ心配だな。お前は本当に何も分かっていない」

「……分かっていない?」

「あぁ。お前はフィーネをそこら辺の女と同じ存在に見ている様だが……」

 

 ヴォルフの口元が大きくつり上がる。昔の事を思い出すと、込み上げて来るものが止まらないのだ。

 

 

 

「……アレは中々どうして、結構狂ってるぜ」

 

 

 

 その頬笑みもまた、信頼の一つの形と言うべきか。

 ヴォルフの言葉に、部下の男は薄ら寒いものを覚えた。

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

「……私のターン、ドロー。モンスターをセット。ターンを終了」

 

 機械を通した声であるのも理由の一つだろうが、女の声はどこまでも無味乾燥だ。感情というものが、まるで込もっていない。

 

「……俺のターン、ドロー」

 

 ドローカードは上級モンスター。相手はモンスターを守備表示でセットしただけで、何の対抗策も打って来なかった。

 

 今が攻め時か。

 

「俺は『UFOタートル』を生け贄に捧げ、『炎帝テスタロス』を召喚!」

 

 爆炎の中から姿を見せたのは、四属性全てに存在する『帝』モンスターの1体。

 

『炎帝テスタロス』

炎属性/炎族

ATK2400

DEF1000

このカードが生け贄召喚に成功した時、 相手の手札をランダムに1枚捨てる。捨てたカードがモンスターカードだった場合、そのモンスターのレベル×100ポイントダメージを相手ライフに与える。

 

 

 上級モンスターを召喚する為には生け贄が必要。

 『生け贄召喚』をルールとして採用させたのはラルフだ。勿論、生け贄召喚にどんなリスクが伴うかも、よく承知している。

 

 ディスアドバンテージ。

 カードを使えば、手札は減る。手札が減れば、取ることができる選択肢が減る。選択肢が無くなれば、そのプレイヤーは敗北する。生け贄召喚はある意味、最もプレイヤーが手持ちのカードを減らしやすい行為と言える。

 

「俺は『テスタロス』の効果発動。召喚成功時に相手の手札を1枚捨てさせ、モンスターならレベル分のダメージを与える!」

「………………」

 

 だが、『帝』シリーズは召喚と同時に発揮する効果を持っており、生け贄召喚時の1枚分の損失を即座に取り返すことができる。

 ランダムに選択された、女の手札に炎が灯る。墓地に送られたのは、モンスターカード『霊滅術士カイクウ』

 

「ふん。運にも見放された様だな。400ポイントのダメージを受けてもらおう!」

「…………ぐっ」

 

 この決闘中、はじめて女の口から感情を持った声が洩れた。先ほどもダメージは受けていたが、今度は堪えきれなかったのだろう。

 痛みを堪える声。

 

 それが、ラルフに女性を傷つけているという事実を再認識させる。罪悪感で胸が締め付けられる。

 だが、やめるわけにはいかない。

 

「……バトル。『テスタロス』で守備モンスターを攻撃!」

 

 ラルフの胸中とは関係なしに、炎の帝は命令に従い、敵を焼く。

 

「……破壊されたのは『キラートマト』 デッキから攻撃力1500以下の闇属性モンスターを攻撃表示で特殊召喚する。私は『キャノン・ソルジャー』を特殊召喚」

 

 ルースもよく使用するリクルーターである『キラートマト』

 闇属性という優秀な属性でもあるが、その『キラートマト』から出てきたのは『キャノン・ソルジャー』

 最近エラッタされたカードであり、モンスター1体を生け贄に捧げて直接攻撃可能な能力が、モンスター1体を生け贄に捧げる度に500のバーンダメージに変わっている。

 

 

『キャノン・ソルジャー』

闇属性/機械族

ATK1400

DEF1300

自分フィールド上に存在するモンスター1体を生け贄に捧げる事で、 相手ライフに500ポイントダメージを与える。

 

 

 なぜ他にモンスターが存在しないこの状況で『キャノン・ソルジャー』を特殊召喚したのか。その答えは、女のリバースカードにあった。

 

「俺はリバースカードを1枚セット。ターンエンドだ」

「リバースカードオープン。『スケープ・ゴート』」

「……やはり。そういうことか」

 

 女のフィールドに子羊達が4匹現れる。端から見れば微笑ましい光景だが、ラルフにとっては頭を抱えたくなるような状況だ。

 

「私のターン、ドロー。私は『キャノン・ソルジャー』の効果発動。モンスター1体を生け贄に捧げ、相手に500ポイントのダメージを与える」

 

 『スケープ・ゴート』は生け贄召喚に使えないだけで、他の生け贄には問題なく使用できる。『キャノン・ソルジャー』にとって羊達は弾丸。弾は4発。たっぷりある。

 

「………………1発目」

 

 女の指示にあわせて羊が1匹フィールドから消え、『キャノン・ソルジャー』に装填。発射された。

 

「ちっ……!」

 

ラルフ LP4000→3500

 

 たかが500ポイントとはいえ『黒い決闘盤』による衝撃は中々のものだ。無駄とは分かっていても、体の前で腕を交差し、守る姿勢になってしまう。

 

 

「……………2発目」

「ぐっ……」

 

ラルフ LP3500→3000

 

 ライフ差が逆転した。砲撃はまだ続く。

 

「……3発目」

「ぐぅう……」

 

ラルフ LP3000→2500

 

 連続で来る衝撃に思わず片膝をつく。

 

「……『キャノン・ソルジャー』を生け贄に捧げて……4発目」

「なにっ……ぐぁあ!?」

 

 ラルフのライフポイントが、2000まで削られる。

 

 それは不可解な行動だった。確かに『キャノン・ソルジャー』は自身を生け贄に捧げることが可能だし、そうしてくるだろうとラルフも考えていた。だが、女のフィールドにはまだ弾丸となる『羊トークン』が残っている。なのに何故、『キャノン・ソルジャー』自体を撃ち出したのか。

 

「……私は『羊トークン』を攻撃表示に変更し、手札から『強制転移』を発動」

「な……に?」

 

 

『強制転移』

通常魔法

お互いはそれぞれ自分フィールド上のモンスター1体を選び、そのモンスターのコントロールを入れ替える。そのモンスターはこのターン表示形式を変更できない。

 

 

「私の場には『羊トークン』のみ。あなたの場には『炎帝テスタロス』のみ。コントロールを入れ換える」

「くっ……」

 

 攻撃力0の無防備な状態の『羊トークン』と『バーニングブラッド』によって強化された『炎帝テスタロス』が入れ換わる。力の差は歴然だ。

 

「そして私はコントロールを得た『炎帝テスタロス』を生け贄に捧げ、『人造人間サイコ・ショッカー』を召喚」

「ここで『サイコ・ショッカー』だと!?」

 

 バチバチと周囲に電流を流しながら、そのモンスターはフィールドに立った。おそらく今現在、最強のエンドカードの1枚。罠カードを完全封殺する機械族モンスター。

 

 

『人造人間-サイコ・ショッカー』

闇属性/機械族

ATK2400

DEF1500

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、お互いに罠カードは発動できず、フィールド上の罠カードの効果は無効化される。

 

 

「……バトル。サイコ・ショッカーで攻撃表示の羊トークンに攻撃。サイバーエナジーショック!」

 

 『サイコショッカー』の胸の前で黒いエネルギーボールが形成され、『羊トークン』に向かって放たれる。

 『羊トークン』の攻撃力は0。『サイコショッカー』の攻撃力は2400。ラルフの残りライフは2000。罠カードは封じられている。

 この状況で、ラルフに『サイコショッカー』の攻撃を防ぐ手立ては無かった。

 

 

「まだだ! 速効魔法『収縮』を発動!『サイコ・ショッカー』の攻撃力を半分にする!」

 

『人造人間サイコ・ショッカー』

ATK2400→1200

 

 しかし、ダメージを軽減する手立てならある。相手ターンに発動できるカードは罠カードだけではないのだ。攻撃は直撃し、ラルフの体は爆炎に包まれる。だが、ライフを削り切るには至らない。

 

「ぐぅ……この程度で仕留めた気になるな!」

 

ラルフ LP2000→800

 

 ダメージを受けても怯まず、ラルフは女を睨んだ。

 

「……ふん。俺は大きな間違いをしていたな……」

 

 

「……なんの話だ?」

「デッキの話だ。最初に出てきたのが『魔導戦士ブレイカー』だったから、勝手に魔法使い族主体のデッキだと思い込んでいた」

 

 実際は違った。その後使用されたのは『奈落の落とし穴』に『キラートマト』

 『強制転移』や『スケープ・ゴート』は多少コンボ色が強いが『キャノン・ソルジャー』が採用されているなら、おかしな事ではない。

 『テスタロス』で墓地に送ったカードは『霊滅術士カイクウ』

 極めつけは、このターンに出てきた『人造人間-サイコ・ショッカー』だ。

 

 

「貴様のデッキは『スタンダード』だな?」

 

 

 『スタンダード』

 もしくは

 『グッドスタッフ』

 

 そう呼ばれるデッキがある。単体での性能が強力なカード。汎用性が高いカードをかき集めたデッキ。

 強力なカードが多く、単体で機能するカードが多い為、手札事故を起こしにくい。また、基本的にどんな状況でも柔軟に対応できる。

 ただし、これといった勝ち筋はモンスターの攻撃によるビートダウンしかないので、デッキの組み方や使い手によって、その性能は大きく異なってくる。

 

「プレイングが問われるデッキだ。貴様が強いのは認めてやる。だが、グールズらしいデッキとも言えるな」

「……なに?」

「当然だろう。『スタンダード』に求められるのは、その時期に合わせた強力なカードだ。デッキ内のレアカードの比率はそれなりに高い」

 

 

 

『死者蘇生』

『大嵐』

『サイクロン』

『聖なるバリア-ミラーフォース』

 

 こういったデッキの必須カードはもちろん、『スタンダード』はここに更に強力なカードを落とし込んでいく。

 

『魔導戦士ブレイカー』

『霊滅術士カイクウ』

『人造人間-サイコ・ショッカー』

 

 カードの組み合わせによるコンボはデュエルモンスターズの醍醐味だが、『スタンダード』はそれを捨てている面がある。

 ある意味、最も勝つことに拘り、楽しむことを捨てたデッキだ。

 

「勝つことに拘るのはプレイヤーの勝手だ。だが、軸となるカードもない。デッキテーマもない。そんなデッキは俺は好きになれん。だから言ったのだ。強いカードにものを言わせた、グールズらしいデッキだとな?」

 

 これはあからさまな挑発だ。正直に言って、今の状況はラルフに不利。追い詰められている。ならば少しでも相手を怒らせ、冷静さを失ってくれた方がいい。

 

 ラルフはそう思っていた。

 

「……フ……フフフ」

 

 

 女が肩を震わせている。激昂するかと、ラルフは思った。

 

 

 

「……アハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

 

 

 違った。

 それは、弾けるような笑いだった。

 

「な……何がおかしい!?」

「フフフ……」

 

 この決闘で、はじめて対戦相手の女が発した笑い声。機械を通して聞こえてくるそれは、想像以上に不気味なものだった。

 

「だって……おかしいじゃないですか?」

 

 様子がおかしい。女の口調がガラリと変わっている。

 

「テーマだの拘りだの……バカらしくて仕方がありませんよ。デュエルモンスターズは自由なゲームでしょう。どんなデッキを組もうと人の勝手ですよ?」

 

 

 

 女がヘルメットに手を掛けた。ラルフ達から正体を隠す為のものだと思っていたが、まさか脱ぐ気なのか。

 

「貴様、何を考えて……?」

「……演じているのが馬鹿らしくなりました」

 

 ふわり、と。色素の薄いブロンドの髪が広がる。白磁の様な白い肌が、闇の中ではっきりと見えた。

 

「馬鹿な……どうして……どうして君がここにいる?」

 

 

 出会いは偶然だった。

 だが、助けたその日に仲は深まり、もっと話したい、もっと知りたい、と連絡先まで渡した。

 仕事の合間に、電話が来ないかと、気を揉んでいた。

 

 そんな女性が。

 

 

 

「なぜだ……フィーネ」

 

 

 

「それは私がグールズだからです」

 

 ラルフ・アトラスを真正面に見据えて、フィーネ・アリューシアは言い切った。

 

「馬鹿な……あの時君は……デュエルモンスターズが大好きだと……好きなカードを使って決闘をしたいと……そう言っていた。あれは全て嘘だったのか!?」

 

 騙された。そう思い、溢れ出るように止まらない、ラルフの叫び。

 フィーネの返事は即答だった。

 

 

「嘘じゃありませんよ」

 

 

「なに……?」

「デュエルモンスターズが大好きなのも、『モリンフェン』のカードがお気に入りなのも、好きなカードで決闘したいと言ったのも、全て真実。私の本心から出た言葉です」

 

 そして、ラルフともっと喋りたい、ラルフとまた会いたいと思ったことも事実だ。フィーネはそれは口には出さず、心の中で付け加えた。

 

「……だったら君は!」

 

 

「でもね」

 

 

 呟くような『でもね』という言葉。しかしラルフは何も言えなくなり、押し黙る。

 

「あの時は言えなかったけど……私、それ以上に大事にしていて、それ以上に大好きなことがあるんです」

 

「………なんだ?」

 

 絞り出すような声で、すがり付くような眼でフィーネを見ながら、ラルフは聞いた。

 

 

 

 

「勝つことです」

 

 

 

 

 ラルフは絶句する。声を出そうと、何かを言おうとしているのに、声が出せない。

 

 

 

 

「私は、勝つことが大好きなんです」

 

 

 

 

 ラルフが声を出せなかったのは、フィーネの言葉に驚いたからではない。

 

 勝つことが大好きだと語る、彼女の微笑み。

 

 その微笑みが自分と話していた時の、彼女のどの笑顔よりも輝いていたことが。

 

 

 ラルフを絶句させた。

 

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