ポーカーフェイスという言葉がある。
心を隠す、無表情な顔つきという意味だ。ゲームにおいて、相手の表情、相手の息遣い、相手の視線は貴重な情報。だが、今回の相手はそんな情報を与えてはくれない。
ちっ、とラルフは舌打ちした。
想像以上にやり難いと思った。目の前の女の顔は、完全にヘルメットに隠れている。表情どころか、視線も読めない。
「……その珍妙な衣装は、決闘をするのに不誠実だな」
「……はやくしろ」
ボイスチェンジャーによって変えられた、無機質な声。何の感情も感じられないその声は、ラルフを苛立たせる。
「……俺の先攻、ドロー!」
ラルフが殴り倒した男達の様子を見るに、この女は幹部クラスの存在なのだろう。決闘もかなりの腕のはずだ。でなければ、元全日本チャンプに決闘を挑めるわけがない。
「モンスターをセット。リバースカードを1枚伏せ、ターンエンドだ」
場にカードを2枚出し、まずは様子見。表情が見えないなら、決闘で相手を分析するしかない。
「……私のターン。ドロー。私は『魔導戦士ブレイカー』を召喚」
女のフィールドに現れたのは真紅の鎧を身に纏った騎士。召喚の成功と同時に、彼の剣には魔力が溜まる。
『魔導戦士ブレイカー』
ATK1600→1900
「魔力カウンターか……」
『魔導戦士ブレイカー』は最近発売されたばかりの、かなりのレアカードだ。『魔力カウンター』と呼ばれるカウンターを溜めることで、力を発揮する。これもまず間違いなく、グールズのコピーカードだろう。
「私はブレイカーの効果を発動。このカードの魔力カウンターを1つ取り除く事で、お前の魔法・罠カードを1枚破壊する」
その効果はもちろん強力。ほぼノーコストの『サイクロン』の様なものだ。
『魔導戦士ブレイカー』
ATK1900→1600
魔力を利用し『魔導戦士ブレイカー』はリバースカードを狙い撃った。ラルフの『炸裂装甲』が砕かれ、破壊される。
「ふん……」
「……バトル。『ブレイカー』でセットモンスターに攻撃」
『ブレイカー』に斬りかかられ、セットモンスターは破壊される。だが、それでいい。このモンスターは、破壊されるのが仕事のようなものだ。
「『UFOタートル』の効果発動。戦闘で破壊された時、デッキから攻撃力1500以下の炎属性モンスターを特殊召喚する。2体目の『UFOタートル』を特殊召喚」
モンスターが戦闘破壊されれば、相手との戦力差にカード1枚分の差が生まれる。だが、こうした『リクルーター』は戦闘破壊されても後続を残す事ができる。
「……私はリバースカードを2枚伏せ、ターンを終了」
「俺のターン!」
デッキの目星は大体ついた。おそらく『魔力カウンター』を主軸とした魔法使いデッキ。だとしたら、はっきり言って、ラルフのデッキとの相性は最高に近い。『ホルスの黒炎竜』さえ呼び出すことができれば『魔法カード』は完封できるからだ。
「フィールド魔法『バーニングブラッド』を発動」
フィールドが火山が噴火する灼熱地獄に早変わりする。これでラルフの炎属性モンスターは守備力を下げる代わりに、大幅に攻撃力を増強できる。
「『バーニングブラッド』の効果で炎属性モンスターの攻撃力は500ポイントアップする」
『UFOタートル』
ATK1400→1900
このまま攻撃してもいいが、モンスターは追加したい。
「更に『プロミネンスドラゴン』を召喚!」
竜の姿をしていても、種族は炎。赤い体躯をくねらせながら、そのモンスターはフィールドに……
「リバースカードオープン。『奈落の落とし穴』」
……降りることは出来なかった。
『奈落の落とし穴』
罠カード
通常罠
相手が攻撃力1500以上のモンスターの召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時に発動することができる。その攻撃力1500以上のモンスターを破壊しゲームから除外する。
攻撃力1500以上のモンスターを除外する、強力な召喚反応系罠。少々迂闊だったか。
「くっ……まあいい。バトルだ。『UFOタートル』で『ブレイカー』を攻撃!」
UFOを背負った珍妙な亀が魔法剣士に突撃する。何かあるかと警戒したが、剣士はなんの抵抗も出来ずに、そのまま破壊された。
女 LP4000→3700
「……俺はリバースカードを1枚セット。ターンエンド」
ラルフ LP4000 手札2
《モンスター》
UFOタートル
《魔法・罠》
バーニングブラッド(発動中)
リバース1
グールズ LP3700 手札3
《モンスター》
なし
《魔法・罠》
リバース1
激しい攻防という訳ではなない。まだ小手調べ。ラルフも相手の女も、お互いに手の内を晒していない。
だが、ラルフの勘がこの相手は強い、と警鈴を鳴らす。なんの根拠もないが、ラルフは気を引き締めた。
◇◆◇◆
ソファーに寝転がりながら、ヴォルフは部下の報告を聞いていた。1人始末したのはいいが、セレスを倒した男は見付けることができず、最後の1人はフィーネと交戦中。街を下手に出歩いて、警察の御用になるのも面白くない。
結局一度、アジトに戻って来たというわけだ。
「で、セレスはどうなった?」
「はい。どうやらあの後、童実野病院に搬送された様です」
「………回収は?」
「難しいでしょうね……病院の周りには、既に警察が……」
「そっちじゃねぇよ」
「え?……ぐっ!?」
すっと、ヴォルフはソファーから起き上がり、肩を抱く様な気軽さで、部下の首を鷲掴みにした。
「あのなぁ……今更説明するなんて、本当にバカみたいで、アホらしくて、やってられねぇけどよぉ……そのからっぽの脳ミソの中には、何も入ってねぇ様だから教えてやるよ?」
「あ………が……」
「今回の、この計画の、最大にして唯一の目的は『三幻魔』の完全使用の為の『魔力(ヘカ)』集めなんだよ」
「り……理解しております」
「そうだよなぁ? 曲がりなりにも、俺は『魔力(ヘカ)』に精通している人間しかメンバーに選んでねぇんだから」
みしみしと音が聞こえてくるほどに、部下の男の首が更に強く絞まる。
「あ……あぁ……が」
「だったらよぉ…俺が回収は可能か、と聞いたら、セレスではなくて『ウリア』の事だっていうこと位は分かるだろ? 『三幻魔』が奪われたら計画が元も子もないんだから」
「も……申し訳……ございません」
「それくらい分かれ。カス」
そう言ってヴォルフは、部下を床に下ろした。
「げほっ……ごほっ……しかし、現状では『ウリア』の奪還も難しい状況で……」
「そう。そうやって俺が聞きたい事を理解して、きちんと報告すればいいんだよ。そしたら俺も無闇に怒ったりはしねぇよ」
それにしても……と、ヴォルフは再びソファーにもたれ掛かった。
『三幻魔』の1枚がインダストリアル・イリュージョン社に渡ってしまったのは、正直かなり痛い。セレスの敗北は、ヴォルフにとっても予想外だった。
このままでは計画の最終段階にも入れないだろう。
「……セレスのバカ野郎はどうせ自力で脱出するから、放って置くとして、後はフィーネがどこまで『魔力(ヘカ)』を集めて来るかだな」
「……お言葉ですが、フィーネ様に任せて本当に大丈夫なのですか?」
「あぁ? フィーネの『魂(バー)』の容量は俺やセレスの比じゃねぇぞ?」
「しかし……今決闘している相手は、我々を簡単に倒した決闘者です。『魔力』の扱いや『魂』の質はともかく、決闘で負けてしまっては元も子もありません」
部下の男は、普段のフィーネしか見ていない。物腰が柔らかで、犯罪組織に所属しているなんて、考えられない女性だと思っているのだろう。
だからヴォルフは、それを鼻で笑った。
「それこそいらねぇ心配だな。お前は本当に何も分かっていない」
「……分かっていない?」
「あぁ。お前はフィーネをそこら辺の女と同じ存在に見ている様だが……」
ヴォルフの口元が大きくつり上がる。昔の事を思い出すと、込み上げて来るものが止まらないのだ。
「……アレは中々どうして、結構狂ってるぜ」
その頬笑みもまた、信頼の一つの形と言うべきか。
ヴォルフの言葉に、部下の男は薄ら寒いものを覚えた。
◇◆◇◆
「……私のターン、ドロー。モンスターをセット。ターンを終了」
機械を通した声であるのも理由の一つだろうが、女の声はどこまでも無味乾燥だ。感情というものが、まるで込もっていない。
「……俺のターン、ドロー」
ドローカードは上級モンスター。相手はモンスターを守備表示でセットしただけで、何の対抗策も打って来なかった。
今が攻め時か。
「俺は『UFOタートル』を生け贄に捧げ、『炎帝テスタロス』を召喚!」
爆炎の中から姿を見せたのは、四属性全てに存在する『帝』モンスターの1体。
『炎帝テスタロス』
炎属性/炎族
ATK2400
DEF1000
このカードが生け贄召喚に成功した時、 相手の手札をランダムに1枚捨てる。捨てたカードがモンスターカードだった場合、そのモンスターのレベル×100ポイントダメージを相手ライフに与える。
上級モンスターを召喚する為には生け贄が必要。
『生け贄召喚』をルールとして採用させたのはラルフだ。勿論、生け贄召喚にどんなリスクが伴うかも、よく承知している。
ディスアドバンテージ。
カードを使えば、手札は減る。手札が減れば、取ることができる選択肢が減る。選択肢が無くなれば、そのプレイヤーは敗北する。生け贄召喚はある意味、最もプレイヤーが手持ちのカードを減らしやすい行為と言える。
「俺は『テスタロス』の効果発動。召喚成功時に相手の手札を1枚捨てさせ、モンスターならレベル分のダメージを与える!」
「………………」
だが、『帝』シリーズは召喚と同時に発揮する効果を持っており、生け贄召喚時の1枚分の損失を即座に取り返すことができる。
ランダムに選択された、女の手札に炎が灯る。墓地に送られたのは、モンスターカード『霊滅術士カイクウ』
「ふん。運にも見放された様だな。400ポイントのダメージを受けてもらおう!」
「…………ぐっ」
この決闘中、はじめて女の口から感情を持った声が洩れた。先ほどもダメージは受けていたが、今度は堪えきれなかったのだろう。
痛みを堪える声。
それが、ラルフに女性を傷つけているという事実を再認識させる。罪悪感で胸が締め付けられる。
だが、やめるわけにはいかない。
「……バトル。『テスタロス』で守備モンスターを攻撃!」
ラルフの胸中とは関係なしに、炎の帝は命令に従い、敵を焼く。
「……破壊されたのは『キラートマト』 デッキから攻撃力1500以下の闇属性モンスターを攻撃表示で特殊召喚する。私は『キャノン・ソルジャー』を特殊召喚」
ルースもよく使用するリクルーターである『キラートマト』
闇属性という優秀な属性でもあるが、その『キラートマト』から出てきたのは『キャノン・ソルジャー』
最近エラッタされたカードであり、モンスター1体を生け贄に捧げて直接攻撃可能な能力が、モンスター1体を生け贄に捧げる度に500のバーンダメージに変わっている。
『キャノン・ソルジャー』
闇属性/機械族
ATK1400
DEF1300
自分フィールド上に存在するモンスター1体を生け贄に捧げる事で、 相手ライフに500ポイントダメージを与える。
なぜ他にモンスターが存在しないこの状況で『キャノン・ソルジャー』を特殊召喚したのか。その答えは、女のリバースカードにあった。
「俺はリバースカードを1枚セット。ターンエンドだ」
「リバースカードオープン。『スケープ・ゴート』」
「……やはり。そういうことか」
女のフィールドに子羊達が4匹現れる。端から見れば微笑ましい光景だが、ラルフにとっては頭を抱えたくなるような状況だ。
「私のターン、ドロー。私は『キャノン・ソルジャー』の効果発動。モンスター1体を生け贄に捧げ、相手に500ポイントのダメージを与える」
『スケープ・ゴート』は生け贄召喚に使えないだけで、他の生け贄には問題なく使用できる。『キャノン・ソルジャー』にとって羊達は弾丸。弾は4発。たっぷりある。
「………………1発目」
女の指示にあわせて羊が1匹フィールドから消え、『キャノン・ソルジャー』に装填。発射された。
「ちっ……!」
ラルフ LP4000→3500
たかが500ポイントとはいえ『黒い決闘盤』による衝撃は中々のものだ。無駄とは分かっていても、体の前で腕を交差し、守る姿勢になってしまう。
「……………2発目」
「ぐっ……」
ラルフ LP3500→3000
ライフ差が逆転した。砲撃はまだ続く。
「……3発目」
「ぐぅう……」
ラルフ LP3000→2500
連続で来る衝撃に思わず片膝をつく。
「……『キャノン・ソルジャー』を生け贄に捧げて……4発目」
「なにっ……ぐぁあ!?」
ラルフのライフポイントが、2000まで削られる。
それは不可解な行動だった。確かに『キャノン・ソルジャー』は自身を生け贄に捧げることが可能だし、そうしてくるだろうとラルフも考えていた。だが、女のフィールドにはまだ弾丸となる『羊トークン』が残っている。なのに何故、『キャノン・ソルジャー』自体を撃ち出したのか。
「……私は『羊トークン』を攻撃表示に変更し、手札から『強制転移』を発動」
「な……に?」
『強制転移』
通常魔法
お互いはそれぞれ自分フィールド上のモンスター1体を選び、そのモンスターのコントロールを入れ替える。そのモンスターはこのターン表示形式を変更できない。
「私の場には『羊トークン』のみ。あなたの場には『炎帝テスタロス』のみ。コントロールを入れ換える」
「くっ……」
攻撃力0の無防備な状態の『羊トークン』と『バーニングブラッド』によって強化された『炎帝テスタロス』が入れ換わる。力の差は歴然だ。
「そして私はコントロールを得た『炎帝テスタロス』を生け贄に捧げ、『人造人間サイコ・ショッカー』を召喚」
「ここで『サイコ・ショッカー』だと!?」
バチバチと周囲に電流を流しながら、そのモンスターはフィールドに立った。おそらく今現在、最強のエンドカードの1枚。罠カードを完全封殺する機械族モンスター。
『人造人間-サイコ・ショッカー』
闇属性/機械族
ATK2400
DEF1500
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、お互いに罠カードは発動できず、フィールド上の罠カードの効果は無効化される。
「……バトル。サイコ・ショッカーで攻撃表示の羊トークンに攻撃。サイバーエナジーショック!」
『サイコショッカー』の胸の前で黒いエネルギーボールが形成され、『羊トークン』に向かって放たれる。
『羊トークン』の攻撃力は0。『サイコショッカー』の攻撃力は2400。ラルフの残りライフは2000。罠カードは封じられている。
この状況で、ラルフに『サイコショッカー』の攻撃を防ぐ手立ては無かった。
「まだだ! 速効魔法『収縮』を発動!『サイコ・ショッカー』の攻撃力を半分にする!」
『人造人間サイコ・ショッカー』
ATK2400→1200
しかし、ダメージを軽減する手立てならある。相手ターンに発動できるカードは罠カードだけではないのだ。攻撃は直撃し、ラルフの体は爆炎に包まれる。だが、ライフを削り切るには至らない。
「ぐぅ……この程度で仕留めた気になるな!」
ラルフ LP2000→800
ダメージを受けても怯まず、ラルフは女を睨んだ。
「……ふん。俺は大きな間違いをしていたな……」
「……なんの話だ?」
「デッキの話だ。最初に出てきたのが『魔導戦士ブレイカー』だったから、勝手に魔法使い族主体のデッキだと思い込んでいた」
実際は違った。その後使用されたのは『奈落の落とし穴』に『キラートマト』
『強制転移』や『スケープ・ゴート』は多少コンボ色が強いが『キャノン・ソルジャー』が採用されているなら、おかしな事ではない。
『テスタロス』で墓地に送ったカードは『霊滅術士カイクウ』
極めつけは、このターンに出てきた『人造人間-サイコ・ショッカー』だ。
「貴様のデッキは『スタンダード』だな?」
『スタンダード』
もしくは
『グッドスタッフ』
そう呼ばれるデッキがある。単体での性能が強力なカード。汎用性が高いカードをかき集めたデッキ。
強力なカードが多く、単体で機能するカードが多い為、手札事故を起こしにくい。また、基本的にどんな状況でも柔軟に対応できる。
ただし、これといった勝ち筋はモンスターの攻撃によるビートダウンしかないので、デッキの組み方や使い手によって、その性能は大きく異なってくる。
「プレイングが問われるデッキだ。貴様が強いのは認めてやる。だが、グールズらしいデッキとも言えるな」
「……なに?」
「当然だろう。『スタンダード』に求められるのは、その時期に合わせた強力なカードだ。デッキ内のレアカードの比率はそれなりに高い」
『死者蘇生』
『大嵐』
『サイクロン』
『聖なるバリア-ミラーフォース』
こういったデッキの必須カードはもちろん、『スタンダード』はここに更に強力なカードを落とし込んでいく。
『魔導戦士ブレイカー』
『霊滅術士カイクウ』
『人造人間-サイコ・ショッカー』
カードの組み合わせによるコンボはデュエルモンスターズの醍醐味だが、『スタンダード』はそれを捨てている面がある。
ある意味、最も勝つことに拘り、楽しむことを捨てたデッキだ。
「勝つことに拘るのはプレイヤーの勝手だ。だが、軸となるカードもない。デッキテーマもない。そんなデッキは俺は好きになれん。だから言ったのだ。強いカードにものを言わせた、グールズらしいデッキだとな?」
これはあからさまな挑発だ。正直に言って、今の状況はラルフに不利。追い詰められている。ならば少しでも相手を怒らせ、冷静さを失ってくれた方がいい。
ラルフはそう思っていた。
「……フ……フフフ」
女が肩を震わせている。激昂するかと、ラルフは思った。
「……アハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
違った。
それは、弾けるような笑いだった。
「な……何がおかしい!?」
「フフフ……」
この決闘で、はじめて対戦相手の女が発した笑い声。機械を通して聞こえてくるそれは、想像以上に不気味なものだった。
「だって……おかしいじゃないですか?」
様子がおかしい。女の口調がガラリと変わっている。
「テーマだの拘りだの……バカらしくて仕方がありませんよ。デュエルモンスターズは自由なゲームでしょう。どんなデッキを組もうと人の勝手ですよ?」
女がヘルメットに手を掛けた。ラルフ達から正体を隠す為のものだと思っていたが、まさか脱ぐ気なのか。
「貴様、何を考えて……?」
「……演じているのが馬鹿らしくなりました」
ふわり、と。色素の薄いブロンドの髪が広がる。白磁の様な白い肌が、闇の中ではっきりと見えた。
「馬鹿な……どうして……どうして君がここにいる?」
出会いは偶然だった。
だが、助けたその日に仲は深まり、もっと話したい、もっと知りたい、と連絡先まで渡した。
仕事の合間に、電話が来ないかと、気を揉んでいた。
そんな女性が。
「なぜだ……フィーネ」
「それは私がグールズだからです」
ラルフ・アトラスを真正面に見据えて、フィーネ・アリューシアは言い切った。
「馬鹿な……あの時君は……デュエルモンスターズが大好きだと……好きなカードを使って決闘をしたいと……そう言っていた。あれは全て嘘だったのか!?」
騙された。そう思い、溢れ出るように止まらない、ラルフの叫び。
フィーネの返事は即答だった。
「嘘じゃありませんよ」
「なに……?」
「デュエルモンスターズが大好きなのも、『モリンフェン』のカードがお気に入りなのも、好きなカードで決闘したいと言ったのも、全て真実。私の本心から出た言葉です」
そして、ラルフともっと喋りたい、ラルフとまた会いたいと思ったことも事実だ。フィーネはそれは口には出さず、心の中で付け加えた。
「……だったら君は!」
「でもね」
呟くような『でもね』という言葉。しかしラルフは何も言えなくなり、押し黙る。
「あの時は言えなかったけど……私、それ以上に大事にしていて、それ以上に大好きなことがあるんです」
「………なんだ?」
絞り出すような声で、すがり付くような眼でフィーネを見ながら、ラルフは聞いた。
「勝つことです」
ラルフは絶句する。声を出そうと、何かを言おうとしているのに、声が出せない。
「私は、勝つことが大好きなんです」
ラルフが声を出せなかったのは、フィーネの言葉に驚いたからではない。
勝つことが大好きだと語る、彼女の微笑み。
その微笑みが自分と話していた時の、彼女のどの笑顔よりも輝いていたことが。
ラルフを絶句させた。