ルール改定に駆けた男のロード   作:龍流

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活動報告でも書きましたが、文に段落をつけたり、決闘のフィールド描写を少し変えました。これで少しは読みやすくなったはず…

文章の構成などで御意見があれば、感想やメッセージでお気軽にどうぞ!


22.「うぜぇ」

『トゥーン・ワールド』

 

 それはペガサスが制作した、ペガサスの為のカード。モンスター全てを漫画のキャラクターに変えてしまう、魔法の絵本。

 中から飛び出して来るモンスター達は、剣で切られようと、銃弾を何発受けようと死ぬことはない。そんな『トゥーン・モンスター』のことを、かつてペガサスは完璧な生命体と言い切った。

 なぜなら彼らは漫画の中のキャラクターであり、現実の干渉を受けない。モンスターの攻撃を受けない。不死身の存在なのだ。ゲームのバランスを著しく崩す『反則』とも言えるカード。

 

 それが『トゥーン・ワールド』

 

「なぜ、ペガサス会長は『トゥーン』を作ったのですか?」

「なぜ…デスか?」

 

 ラルフからこの質問を受けたのは『バトルシティ』の準備が忙しくなっていた頃だった。ペガサスは戸惑った。今まで会長であるペガサスに対して、面と向かってそんな質問をする人間はいなかったからだ。

 

「安心してくだサーイ。ユーに言われてから『トゥーン・ワールド』は使っていまセーン」

「…質問を誤魔化さないでください。私はなぜ作ったのか、と聞いたのです。それでは答えになっていませんよ」

「オゥ…相変わらず手厳しいのデース。but…私自身、『トゥーン・ワールド』をなぜ作ったか…と聞かれれば、情けない解答をすることになってしまいマース」

「…情けない解答とは?」

 

 苦笑しながら、ペガサスは答えた。

 

「必ず勝つため、デース」

 

「必ず勝つため…?」

「笑ってくれて構いまセーン。ゲームの『創造主』として、必ず勝てるカードを作るなど、最も愚かな行為デース。しかし、私は勝ちたかった。自分が負けることを、心のどこかで恐れていたのデース」

 

 それは『神のカード』に対する恐怖か。

 あるいは、自分を超えるタクティクスを持つ決闘者に対する恐怖か。

 

 いずれにせよペガサスは、負けない為に『トゥーン・ワールド』のカードを作った。そして事実、負けなかった。『千年眼』の『マインドスキャン』の力もあり、ペガサスは無敗を誇った。

 『武藤遊戯』が現れるまでは。

 

「私は負けました…『トゥーン・ワールド』は破られ、さらに奥の手として用意していたモンスターすら、遊戯ボーイは倒しました」

 

 『トゥーン・ワールド』だけではなく、その上の『切り札』すらも『武藤遊戯』は撃破した。創造主であるペガサスが見向きもしなかった『クリボー』というカードを使って…

 

「私は戦慄しシマた…これでも勝てないのか、と。いや、これだけのカードを使っても負けるのか、とね」

「それだけ『武藤遊戯』が強かった、ということですか」

「もちろんそれもありマース。しかし私は、私自身の敗北に光を見いだしたのデース」

「…光…ですか?」

「yes。希望デース」

 

 遊戯に負けて気がついた。デュエルモンスターズは、ペガサスの予想を遥かに超える進化を遂げていた。

 ゲームを作った自分自身ですら、考えもしなかった可能性。プレイヤーの数だけ生み出されるコンボとデッキ。その歩みに行き止まりはない。新たなカードが生まれる度に、デュエルモンスターズは無限に進化していく。

 

「遊戯ボーイは私に打ち勝つことで、可能性を見せてくれたのデース。最強のカードなど存在しない。デュエルモンスターズの進化は止まらないということを」

「…彼は素晴らしい決闘者なのですね」

「フフフ…ユーもいつか対戦できるといいデスね。きっと得るものがあるはずデース」

「そう願っています…では『トゥーン・ワールド』のカードは…?」

 

 ラルフは話をこれまでの事から、これからの事に移した。ペガサスは『トゥーン・ワールド』のカードをどうするつもりなのか。

 

「過ぎた力を持つカードとはいえ、私のお気に入りでもあるカードデース。ユーの進言通り、エラッタすることに決めました」

「…我々は『バトルシティ』の準備で、しばらく手が離せませんが…」

「構いまセーン。気長に待つことにしマース。かわいい部下に過労で倒れられても困るのデース」

「…分かりました。『トゥーン』関連のカードについては、手が空いた時に処理することにしましょう」

 

「あ…でも新カードも作りたいのデース。あとはモンスターにきちんと『トゥーン』のカードが加われば、よりgoodデスね!」

「…今の話を聞いていましたか…?」

 

 子供のようにはしゃぐペガサスに、ラルフは頭を抱えた。さすがはカードクリエイター。新カードの話となると心が踊るのだろう。それが自分のカードなら、尚更のはずだ。

 

「…そこまで楽しみなら、ご自分でデザインしたらいかがですか? ペガサス会長なら簡単に出来るのでは?」

「私1人で制作すると、またバランスを壊しそうなカードになる気がして、少し怖いのデース」

「……………」

 

 否定できない。ペガサスの発言は自虐的なものだったが、こればかりは本当に否定できない。むしろ自覚はあったのか、とラルフは少し安心した位だ。

 

「それに…」

「それに?」

 

 どこか恥ずかしげに、ペガサスは言った。

 

「…私も創造主としてではなく、1人のプレイヤーとして、デュエルモンスターズを楽しみたくなったのデース」

 

 ペガサスの言葉を聞き、ラルフは嬉しそうに笑った。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 だが、今は楽しむ決闘ではない。これは勝たなければならない決闘。『闇のゲーム』だ。

 必死に己の剣を『トゥーン・マーメイド』に当てようとする『デーモン・ソルジャー』の姿を見ながら、ペガサスはそんなことを考えていた。

 

「ちっ…いくらやっても駄目だな…戻れ『デーモン・ソルジャー』」

 

 主であるヴォルフの言葉を聞き、悪魔の騎士は剣を収めて自分のフィールドに戻った。 

 

「くそうぜぇ…テメェの専用カードか?」

「さぁ…どうでショウね?」

「ちっ……」

 

 悪態をつきながらも、ヴォルフは冷静にモンスターを観察していた。未知のカードと遭遇した場合は、とにかくそのカードの能力を見極めなければならない。

 まず『デーモン・ソルジャー』の攻撃が届いていないことから、戦闘に対してなにかしらの耐性を得ていることが分かる。だが、戦闘ダメージをペガサスに与えることができなかった。この事から戦闘破壊耐性というより、そもそも『攻撃対象に選択できない』と考えた方が無難だろう。

 つまり、あのアニメチックなモンスターを、戦闘で破壊するのは不可能。正直言って、厄介極まりない効果だ。

 

 

「仕方ねぇか…リバースカードを2枚伏せてターン終了だ」

 

 1枚、2枚と多少悩む素振りをみせてリバースカードをフィールドに出し、ヴォルフはターンを終えた。

 

 

ヴォルフ LP4000 手札3

《モンスター》

デーモン・ソルジャー

《魔法・罠》

リバース2

 

ペガサス LP4000 手札4

《モンスター》

トゥーン・マーメイド

(弓を引くマーメイド)

《魔法・罠》

トゥーン・ワールド(発動中)

 

 

「私のターンデース。ドローしマース」

 

 ヴォルフの場には2枚のリバースカード。十中八九罠カードが仕掛けられているだろう。ペガサスのトゥーンがいくら強力とはいえ、魔法・罠カードによる反撃を受ければひとたまりもない。

 

「ユーの場にはリバースカードが2枚。オォ…必ずなにか罠カードがありそうデスね」

「さぁ…? 攻撃してみれば分かるんじゃねぇか? もっとも、そのコミカルな人魚じゃ俺の『デーモン・ソルジャー』を倒すことすらできねぇだろうがな。ザコはザコらしく本の中に閉じ籠もってるのがお似合いだぜ」

 

 ヴォルフの挑発を聞いて、フィールドの『トゥーン・マーメイド』は「むきー!」といきり立った。中々にご立腹のようだ。確かにペガサスも、自分のモンスターを何度も馬鹿にされるのは、面白くない。

 

「では…まずこれを使うとしまショウか。魔法カード『サイクロン』を発動しマース」

 

 発動したのは、魔法・罠カード破壊の基本とも言えるカード。相手フィールド上の魔法・罠カード1枚を破壊することができる。

 

「はっ…いいぜ…どっちを破壊する?」

 

 またもやヴォルフが挑発するように腕を広げた。視線は全く泳いでいない。表情を読み取って、破壊するカードを選ぶのは難しそうだ。

 だが、最初から破壊するカードは決まっていた。

 

「右のカードにしマース」

「…くっ…」

 

 文字通りのサイクロンが吹き荒れ、ヴォルフのリバースカードを引き剥がした。破壊されたのは『聖なるバリア-ミラーフォース』

 ピンポイントで強力な除去カードが破壊されてしまい、ヴォルフの顔が歪む。

 

「くそ…どういうことだ…お前にはもう『千年眼』の力はないハズ…? ただの勘か?」

「ユーの仰る通り、私の左眼はもう使いものになりません。ですが、私が右側のカードを選んだのは、勘でもありまセーン」 

「勘じゃない…だと?」

 

 とんとん、とペガサスはヴォルフに挑発を返すように『決闘盤』を指で叩いた。

 

「ユーは先ほどのターンにカードを伏せる時、迷いマシたね? 私から見て右側の1枚目はすぐにセットしたにも関わらず、左側の2枚目をセットするのは躊躇った。それなら答えは簡単デース。右のカードは、今の状況ですぐに出番がくる罠カード。左のカードは使うタイミングがない『ブラフ』だということデース」

「涼しい顔して俺のプレイをじろじろ観察していやがったのか…趣味の悪い野郎だぜ」

「ひどい言い掛かりデース。しかし、力を失った今になって思いマース。やはりゲームは、こういった『駆け引き』がなければ面白くありまセーン」

 

 『千年眼』の力があった頃は、相手のリバースカードはもちろん、手札まで把握することができた。

 その力はある意味では、ペガサスのプレイヤーとしての『力』を殺していたのかもしれない。相手のカードを予測し、戦略を立てる必要がないのだ。勘が鈍るのも無理はない。

 だから『千年眼』のない今のペガサスは相手を観察し、先の戦略を読み、手を打っている。『闇のゲーム』であるにも関わらず、カードの読み合いを無意識に楽しんでいるのだ。

 そんなペガサスの様子は、少なからずヴォルフにプレッシャーを与えていた。

 

「さらに私は『ヂェミナイ・エルフ』を召喚デース。もちろんこのモンスターも、私のかわいい『トゥーン』に変身しマース」

 

 妖艶な魅力を持った魔法使いも『トゥーン・ワールド』に挟まれ、本の世界の住人になる。

 

「トゥーンの世界の新たな住人は双子の魔法姉妹。『トゥーン・ヂェミナイ・エルフ』デース!」

 

 再び本が開いた時にはマーメイドと同様に、その姿は大きく変わっていた。

 

『トゥーン・ヂェミナイ・エルフ』

地/魔法使い族

ATK1900

DEF900

 

「では、バトルに入りマース。『トゥーン・ヂェミナイ・エルフ』で攻撃デース!」

「俺の『デーモン・ソルジャー』と相討ち狙いか…」

 

 このままでは続く『トゥーン・マーメイド』にダイレクトアタックを受けてしまう。そう思って言葉を漏らしたヴォルフだったが…

 

 

「ユーはなにか勘違いしているようデスね?」

 

 

 ペガサスはそれを小馬鹿にしたように鼻で笑った。

 

「私の『トゥーン』はコミックの世界の愉快な住人。ユーのモンスターとの戦闘など、成立するわけがありまセーン」

 

「な…なにぃ?」

 

 ペガサスの言葉通り、迎撃体勢をとっていた『デーモン・ソルジャー』を嘲笑いながら通り過ぎ、『トゥーン・ヂェミナイ・エルフ』はヴォルフの元へ直進した。

 

「まさか…」

 

「そのまさかデース。『トゥーン・ヂェミナイ・エルフ』のダイレクトアタック!」

 

 混乱するヴォルフもけたたましい声で嘲笑いながら、『トゥーン・ヂェミナイ・エルフ』は攻撃を放った。

 

「ッ…がぁあああ!?」

 

ヴォルフ LP4000→2100

 

 『闇のゲーム』の衝撃は並大抵のものではない。当然ゲームを始めたヴォルフの身体にも、ダメージによる激痛が与えられる。

 

「続けていきマース。『トゥーン・マーメイド』のダイレクトアタックデース!」

 

 先ほど馬鹿にされた恨みを晴らすために、『トゥーン・マーメイド』は嬉々として弓矢を放つ。

 

「ぐぁあああぁ!?」

 

ヴォルフ LP2100→700

 

 一気に残りライフが4ケタを割る。ヴォルフは堪らず片膝をついた。

 

「くそがぁ……意味わかんねぇカードを使いやがって…」

「神を超えるモンスターを作ろうとしている組織が、よくそんなことを言えたものデスね。勘違いしないでくだサーイ」

 

 今の今まで飄々としていたペガサスの視線が一瞬、ほんの一瞬だけ険しいものに変わった。

 

 

 

「これは私が作ったゲームデース。青臭いボーイに好き勝手に利用されて黙っていられるほど、私は穏やかではありまセーン」

 

 

 

 ペガサスの後ろに控えていたアーサーが、びくりと震えた。その眼はまるで、昔のペガサスのようだった。左眼はないにも関わらず、その眼光はなによりも鋭くヴォルフを刺す。

 

 

「テメェ………」

 

「私はカードを2枚伏せ、ターンエンドデース」

 

 怒りで震えているヴォルフにそれ以上言葉はかけず、ペガサスはターンを終えた。その態度がまたヴォルフを苛立たせる。

 

「いいぜぇ…そのチートカードの上から、テメェをぶっ潰してやる! 俺のターン!」

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

「それで、海馬社長とはまだ連絡がつかんのか?」

「はい。完全に通信が遮断されています。『バトルシップ』の現在位置も不明です」

 

 海馬コーポレーション、通信統括室。そこでは1人の男が頭を抱えていた。

 彼の名は花澤。海馬がいない間、海馬コーポレーションの留守を任されている責任者である。

 

「海馬社長と連絡が繋がらない…磯野や河豚田とも連絡が繋がらない。一体どうすればよいのだ…」

 

 花澤は途方に暮れていた。決勝トーナメントが始まった後も、グールズの襲撃事件は続いた。首領である『マリク・イシュタール』は遥か上空の『バトルシップ』にいるにも関わらずだ。その結果、10名を越える被害者が出た。しかもグールズに対抗する為の戦力である、インダストリアル・イリュージョン社の社員達も2人が負傷し、病院で治療を受けている。

 この事態に対応する為に、花澤は海馬の指示を仰ぎたかった。だが、肝心の海馬と連絡がとれない。それどころか、決勝トーナメントの舞台となっている『バトルシップ』の現在位置すら分からないのだ。まるで海上で突然消えたかのように、レーダーから消えてしまった。

 

「どうしますか…? 情報を公開しますか?」

「そんなことができるわけないだろう…海上で大会参加者を乗せた飛行船が消えた、とマスコミに知られたら、どんな叩き方をされるか分かったものじゃない。この情報は絶対に外部に漏らすなよ」

「……はい」

 

 はぁ…と溜め息を吐いて、花澤は目頭を押さえた。中間管理職はこういう時に辛い。トップがワンマン社長の海馬だと尚更だ。

 

「…なら、ペガサス会長に連絡を繋いでくれ。こちらの上層部だけで判断を下すよりはいいだろう…」

「いや……それが…」

「…今度はなんだ?」

「…インダストリアル・イリュージョン社の本社とも連絡がつきません…」

 

「なんだと…」

 

 海馬に続き、ペガサスまで連絡がつかないなど、普通なら考えられない。

 確実に、何かが起こっている。

 

「…海馬社長も、ペガサス会長も無事なのか…?」

 

 

――もしも。もしもこの時。

 

 『海馬乃亜』と『海馬剛三朗』

 死んだはずの2人の亡霊の策略によって、海馬達が暗い海の底に囚われていなければ…

 この事件の結果は、また変わったものになったのかもしれない――

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

「俺は手札から魔法カード『手札抹殺』を発動!」

 

 ヴォルフはドローカードを一瞥すると、すぐにアクションを起こした。

 

「俺は3枚の手札を捨て、同じ枚数分だけドローする!」

「私は2枚捨ててドローしマース」

 

 『手札抹殺』がもたらす効果は、お互いのプレイヤーの手札交換。不要なカードを墓地へ送り、新しいカードを補充できる有用なカードだが、使用したプレイヤーは単純に手札1枚分のディスアドバンテージを負うことになる。

「続けて俺は『悪夢の蜃気楼』を発動!」

 

『悪夢の蜃気楼』

永続魔法

相手のスタンバイフェイズ時に1度、自分の手札が4枚になるまでデッキからカードをドローする。

この効果でドローした場合、次の自分のスタンバイフェイズ時に1度、ドローした枚数分だけ自分の手札をランダムに捨てる。

 

 なるほど、とペガサスは発動された永続魔法カードを見る。どうやら手札補充の手段もきちんと用意していたらしい。

 

「さらに…永続魔法『暗黒の扉』も発動する」

 

『暗黒の扉』

永続魔法

お互いのプレイヤーは、バトルフェイズにモンスター1体でしか攻撃する事ができない。

 

 ペガサスとヴォルフのフィールドを遮る形で、黒い門が現れた。戦闘を行う際はモンスター1体しか、あの門を通過出来ない。中々厄介なカードだ。

 

「しかし…そのカードをプレイするのは、1ターン遅かったのではないデスか?」

「うるせぇ。俺の勝手だ。リバースカードを1枚伏せてターンを終了だ」

 

 

ヴォルフ LP700 手札0

《モンスター》

デーモン・ソルジャー

《魔法・罠》

悪夢の蜃気楼(発動中)

暗黒の扉(発動中)

リバース2

 

ペガサス LP4000 手札2

《モンスター》

トゥーン・マーメイド

(弓を引くマーメイド)

トゥーン・ヂェミナイ・エルフ

(ヂェミナイ・エルフ)

《魔法・罠》

トゥーン・ワールド(発動中)

リバース2

 

 

 ペガサスもヴォルフも、フィールドにカードを多めに展開している。だが、満身創痍のヴォルフに対して、ペガサスのライフポイントは無傷。手札も残っている。

 この決闘、流れはペガサスにあった。

 

「私のターン、ドロー!」

「スタンバイフェイズに『悪夢の蜃気楼』の効果が発動するぜ。手札が4枚になるようにカードをドローする!」

 

 乏しかったヴォルフの手札が4枚まで増強される。だが、関係ない。次のターンを渡さなければいいだけだ。このターンで、決める。

 もはや追加のモンスターを呼び出す必要もない。ヴォルフに攻撃を防ぐカードがなければ、それで詰み。

 

「私はこのままバトルフェイズに入りマース」

 

 『トゥーン・ヂェミナイ・エルフ』に攻撃を指示しようとした、その瞬間。

 

 

「……ここだぁ!! リバースカードオープン!! 『サイクロン』」

 

 

 ヴォルフのフィールドで、ペガサスも使用した『サイクロン』のカードが開かれた。

 

「テメェのトゥーンモンスターの弱点は見切った! そいつらが本の世界の住人なら、『トゥーン・ワールド』自体を破壊すればいい!」

 

 吠えるようにヴォルフが叫ぶ。

 

「……なるほど…いいセンスデース。確かに『トゥーン』の弱点は『トゥーン・ワールド』自体を破壊されること……」

 

 『トゥーン・ワールド』の本に向かって、突風が迫る。『トゥーン・ヂェミナイ・エルフ』と『トゥーン・マーメイド』が両手を挙げて慌てはじめた。『トゥーン・ワールド』が破壊されてしまえば、彼らも破壊されてしまうのだ。

 

「ヒャハハハ!! 吹きとべぇ!!」

 

「しかし……」

 

「ッ…!?」

 

 突風でペガサスの長髪も舞い上がる。ヴォルフがそこからはっきりと見たペガサスの表情は……

「それは前に遊戯ボーイにやられていマース」

 

 

 

 余裕の笑みだった。

 

 

「カウンター罠『マジック・ジャマー』発動デース!」

 

『マジック・ジャマー』

カウンター罠

魔法カードが発動した時、手札を1枚捨てて発動できる。その発動を無効にし破壊する。

 

 起死回生を懸けた『サイクロン』は、いとも簡単に打ち消される。ペガサスは、カウンター罠を仕掛けていた。つまり…

 

「…まさか…俺が『トゥーン・ワールド』を破壊しようとする事まで、予想していやがったのか…?」

「もちろんデース。私は以前の決闘で『トゥーン・ワールド』を破壊されて逆転されていマース。敗北から学び、対策を講じるのは、決闘者として当然の行為デース」

 

「くそっ…くそがぁ!!」

 

「あなたはよく頑張りマシた。『トゥーン・ワールド』の力を過信し、溺れていた以前の私なら、負けていたかもしれまセンね」

 

 だが、今のペガサスは違う。『武藤遊戯』との決闘で敗北を知り、学んだ。どんなカードにも弱点はある。ならば、そのカードの弱点を使用する自分自身が的確に理解し、他のカードで補えばいい。

 『ペガサス・J・クロフォード』という決闘者は、確実に強くなっていた。

 

 

「終わりデース。『トゥーン・ヂェミナイ・エルフ』のダイレクトアタック!」

 

 『トゥーン・ヂェミナイ・エルフ』の攻撃が、ヴォルフに迫る。もはやヴォルフに、魔法・罠を除去するようなカードは残されていなかった。

 

 

「あぁ…マジかよ…」

 

 

 ヴォルフは視線を下げる。直視できない。ペガサスも、モンスターも見ることができない。

 予想以上だった。ペガサスは、予想を遥かに超える強さだった。込み上げる感情を押さえて、ただ薄汚れた床だけを見ている。

 

 

何故なら――

 

 

 

 

「ここから逆転とか、クソおもしれぇじゃねぇか」

 

 

 

 

――笑いを必死に堪えていたからだ。

 

 

「ホワッツ!? 逆転!?」

 

「クックク…ヒャハハハ!! 俺の罠が1枚だけなわけがねぇだろう? 罠カード発動!『墓荒らし』」

 

『墓荒らし』

通常罠

相手の墓地にある魔法・罠カード1枚を選択し、自分のカードとして使用する事ができる。

 

 「ヒヒヒ!」と下品な笑い声を響かせながら、『墓荒らし』がペガサスの墓地に潜り込んだ。

 

 

「しまった…私の墓地から『サイクロン』のカードを!?」

「あぁ…普通にそれでもいいんだけどよぉ…さっきの『手札抹殺』で、もっと面白いカードが墓地に落ちていたよなぁ?」

「ま…まさか…?」

 

「せっかくチートカードがあるんだ…利用しない手はないよなぁ? 俺がテメェの墓地からもらうのは…」

 

 『墓荒らし』がお目当てのカードを見つけ、ヴォルフの元へと帰っていく。その手に1冊の本を抱え込んで。

 

 

「『トゥーン・ワールド』だ! ヒャハハハハ!! そのまま発動するぜ!」

 

 それは、想定されていない事態だった。

 『トゥーン・ワールド』はペガサスの専用カード。故に『トゥーン・モンスター』同士が、向き合って敵対することなど、絶対にないはずだった。

 しかし、この決闘で。

 ヴォルフ・グラントは『トゥーン・ワールド』を使用した、2人目の決闘者となったのだ。

 

「当然、俺のモンスターもトゥーン化するよなぁ!?」

「…ぐっ……」

 

 ヴォルフの言葉通り、『デーモン・ソルジャー』は本に挟まれ、中に消える。だが、次の瞬間には再び本の中から姿を現した。

 

「さしずめ『トゥーン・デーモン・ソルジャー』ってところか? だっせぇ見た目だぜ…」

 

 ファンシーな姿へと変貌した『トゥーン・デーモン・ソルジャー』は、主人の言葉に困ったように首を傾げながらも、腰の剣を抜いた。もちろん『トゥーン・ヂェミナイ・エルフ』を迎撃するためだ。

 

「なっ…!?」

「あぁ? なに驚いてやがる。俺のモンスターもお前と同じカワイイ『トゥーン』になったんだ。『トゥーン・モンスター』同士なら戦闘が成立するのは当たり前だろうがぁ!」

 

 『トゥーン・デーモン・ソルジャー』は『トゥーン・ヂェミナイ・エルフ』と激しくも、どこか微笑ましい攻防を繰り広げ、相討ちとなって破壊される。

 

「…こんな方法で私のトゥーンを迎え打つとは…」

 

 『トゥーン・ワールド』の破壊以外での、『トゥーン・モンスター』の対処法。それは自分も『トゥーン・モンスター』を使うことだ。同じ本の世界の住人同士なら、問題なく戦闘は成立する。

 『武藤遊戯』とはまた別の方法で、ヴォルフ・グラントは『トゥーン』を攻略した。

 

「ヒャハハハハ。なんだ? びびったかぁ?」

 

 実に楽しげに、馬鹿にしたようにヴォルフはペガサスに問う。決闘の流れは、確実にヴォルフの側に傾き始めていた。

 普通の決闘者ならば、顔を下げ、唇を噛み締めるだろう。だが、ペガサスは下を向かない。ペガサスの目は、まだ死んでいない。

 

 

 

「いいえ。実にワンダフル!」

 

 

 

 むしろ、笑っていた。

 

「……あぁ?」

 

 その答えはペガサスの意表を突き、動揺させたと考えていたヴォルフにとっては、大いに癪に触るものだった。

 

「ユーがグールズでなかったのなら、素直に称賛したいくらいデース。エクセレント、ヴォルフボーイ。『トゥーン』にはまだ、こんな突破方があったのデスね。素晴らしい可能性を見せてくれマシた」

「テメェ、なに楽しんでやがる…今の状況を理解してんのか?」

「…ユーの方こそ、今の状況を理解しているのデスか? ユーはまだ『トゥーン・ワールド』の突破口を開いたに過ぎまセーン。それで随分と機嫌が良さそうデスが…」

 

 ペガサスは先ほどやったように今度は首筋を、とんとん、と指で叩いた。

 

「私のライフを0にしなければ、決闘には勝てまセーン。ボーイはそんなことも分からないのデスか?」

 

 挑発。

 あまりにもあからさまで、あまりにも単純なものだったが、ヴォルフの神経を逆撫でするには、それで充分だった。

 

「テメェ……」

 

「私は『トゥーン・マーメイド』を守備表示に変更し、リバースカードを1枚セット、ターンエンドデース」

 

「あぁ…うぜぇ…うぜぇうぜぇうぜぇうぜぇ…うぜぇなぁ!」

 

 ターンを終えたペガサスを、ヴォルフは睨みつける。

 二転三転する状況の中で、ペガサスは余裕を崩さない。戦術の意表を突けば、驚きの表情は見せる。だが決して戦意は喪失しない。心まで折れることはない。まるでゲームを楽しんでいるかのように、ヴォルフの前でペガサスは微笑んでいる。

 それが無性に、ヴォルフを苛立たせる。

 いつぶりだろうか、ここまで誰かにコケにされたのは。とてもじゃないが、苛立ちが収まりそうにない。

 派手に潰さなければ、怒りの逃げ場がない。

 ならば徹底的に、完膚なきまでに、潰してやる。

 

「俺のターン! 俺はスタンバイフェイズに手札から『非常食』を発動。『悪夢の蜃気楼』を破壊してライフを回復する!」

 

ヴォルフ LP700→1700

 

 危険域に入っていたライフを回復させる以外に、今の一手は『悪夢の蜃気楼』の効果で手札を捨てるデメリットを回避している。これでヴォルフの手札は、4枚のままだ。

 

「俺は2枚目の永続魔法『暗黒の扉』を発動する…」

「ホワッツ…? なぜそのカードを2枚も…効果は重複する訳ではないし、意味はないはずデース」

 

 疑問を口に出したペガサスに、ヴォルフは薄く笑った。

 

「あぁ…そうだなぁ…普通のカードならそうだろうな」

「普通の…カード?」

「俺は戯れでお前の『トゥーン・ワールド』を奪ったわけじゃない。必要だったんだよ」

 

 ヴォルフが『墓荒らし』で『サイクロン』を奪ったのには理由がある。奪った『トゥーン・ワールド』を利用する為だ。

 

「なんせコイツの召喚コストは『3枚の永続魔法』だからなぁ!」

 

 手札から、1枚のカードが引き抜かれる。ペガサスはそのカードに、ただならぬプレッシャーを感じた。

 

「まさか…そのカードが…」

 

「さぁ…テメェに『悪魔』を拝ませてやるよ…俺は『トゥーン・ワールド』と2枚の『暗黒の扉』

3枚の永続魔法を墓地に送り、このモンスターを特殊召喚する!」

 

 それは一瞬。

 3枚の永続魔法が闇の中に呑まれ、消えたその瞬間に。

 それは天から落ちる稲妻のように、唐突に、光と共に姿を現した。

 

 

「轟け!『降雷皇ハモン』」

 

 

 黄金色の肌を雷鳴で輝かせながら、透き通った翼を広げ、『悪魔』は嘶いた。

 『三幻魔』の一柱。雷を司る皇が、決闘のフィールドに降り立つ。

 

「ヒャハハハ! これでもまだ笑っていられるかぁ?ペガサス!!」

 

 

「……Oh…NO……」

 

 

 このモンスターもまた、ペガサスが望んだデュエルモンスターズの『可能性』の1つだったのかもしれない。だが『降雷皇ハモン』が発する圧力からは、希望や光は欠片も感じることはできない。

 ペガサスが見上げるその巨体は、闇と絶望に塗れていた。

 

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