ルール改定に駆けた男のロード   作:龍流

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遊戯王デュエルモンスターズ20thリマスターが放送開始!

地味に変わってるOP映像とかにもワクワクしますが、とにかく懐かしい……

タイトル通りの番外編です。


番外編「闇ジェネレーターって強すぎじゃないですか?」

 サイトウがそんなことを言い出したのは『バトルシティ』の前、新ルール制定の準備でルール開発部が大忙しだった時だ。

 

「なんだ? 藪から棒に?」

「いや、たまにはモンスター以外のカードを見ようかな……と。なんか興味本位でいろんなカードを見てたんすけど……このカード、おかしくないすか?」

 

 そう言ってサイトウは、1枚のカードをラルフに差し出した。黒い目玉が描かれた、あまり綺麗とは言い難いイラストだ。

 

 

『闇ジェネレーター』

通常魔法

『闇』属性モンスターに限り、攻撃力を3倍にする。

 

「強すぎじゃないですか? なんすかこのカード? 」

「ああ……そのカードか……」

「おかしいっすよ。『巨大化』ですら2倍になるだけっすよ!? 3倍ってどういうことですか?」

 

 はっきり言って壊れ性能もいいところのカードだ。どこぞの赤い彗星じゃあるまいし、3倍というのはいささか上昇値が高過ぎる。効果を見たサイトウは椅子から飛び上がりそうになり、ルール開発部に抗議に来たというわけだ。

 

「このカードを野放しにしちゃダメでしょ? こういうカードをエラッタしたり、調整したりするのが『ルール開発部』じゃないんすか?」

「あぁ……まぁ、うん」

 

 どうしたことか、珍しくラルフの返事の歯切れが悪い。後ろにいたルースも話から逃れるように、そっと部屋を出ていった。

 

「ははーん。こんな極悪カードを見逃していたことが気まずいんすね?」

「……なんというか」

「大丈夫っす。これからは俺も時々、おかしなテキストのカードがないかチェックを手伝いますよ!」

「……ちょっと来い」

 

 非常に複雑な気持ちを顔に滲ませながら、ラルフはサイトウを部屋の外に引きずり出した。

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

「えっと……なんでこんなところに?」

 

 10分後、ラルフとサイトウはインダストリアル・イリュージョン社内の『デュエル・リング』に移動していた。既に互いにデッキをセットし、いつでも決闘が始められる状況である。手が空いている社員は何事かと、周囲に集まっていた。

 

 

 

「デッキは俺が言った内容にしたか?」

「一応先輩に言われた通り、闇属性モンスター軸で『闇ジェネレーター』を3積みしたっす」

「よし、なら問題ない。決闘をはじめるぞ」

「いや、なんで?」

「いいか……サイトウ?」

 

 ラルフはどこか遠い目で、優しく言い聞かせるように言った。

 

「決闘をしなければ分からないこともあるんだ」

 

「……はぁ?」

 

「いくぞ。新ルールではなく、ライフは2000。ダイレクトアタックはなしだ」

「うっす! 久しぶりの決闘だから本気でいくっすよ!」

 

 ああ、成る程。決闘をするのは久しぶりなのか、とラルフは心の中で相槌をうった。もちろんそれがサイトウに届くことはない。

 

 

「「決闘!!」」

 

 

ラルフ LP2000

サイトウ LP2000

 

 

「先攻は俺だ」

 

 ラルフは落ち着いた様子でカードを引くと、手札の中から1枚を選び出した。

 

「まずはこのカード。『ホーリー・ドール』だ!」

 

 最初にフィールドに現れたのは、人形の白魔導士。下級モンスターとしては、まずまずの攻撃力を備えている。

『ホーリー・ドール』

光/魔法使い族

ATK1600

DEF1000

 

「俺はこれでターンエンドだ」

 

 ターンを終えたラルフは、ふと違和感を覚えた。いつものサイトウなら『ソリッドヴィジョン』で実体化したモンスターを見ておおはしゃぎしたり、動きの改善点やディティールの甘さ(女性モンスターがほとんどだが)を指摘する筈だ。なのに、今のサイトウは押し黙ったままラルフから表情を隠すように下を向いている。

 ラルフのターンエンド宣言を聞いて、ようやくサイトウは顔を上げた。その表情は、喜色に満ち満ちている。

 

「……ふっふふ。ラルフ先輩、ひとつ言っておくっす」

「なんだ?」

「俺の手札には既に必殺のコンボが揃ってるっす」

「だから?」

「宣言しましょう! このターンでラルフ先輩を倒す!」

 

 ワンターンキル宣言。サイトウが発した言葉に、少ないながらも集まっていた社員達から歓声があがる。ラルフ・アトラスは、社内でも屈指の実力を誇る決闘者。その決闘者を相手にワンターンキルを宣言したのだ。嫌が応にも期待は高まる。

 

「俺ターンっす。俺のモンスターは『ダーク・キメラ』です! もちろん攻撃表示!」

 

 灰褐色の体に、鋭い牙と爪。いかにも闇属性らしいモンスターが『ホーリー・ドール』を威嚇しながら、サイトウの場に現れる。

 

 

『ダーク・キメラ』

闇/悪魔族

ATK1610

DEF1460

 

 

「……さあ、ここからがショータイム! 手札から魔法カード『闇ジェネレーター』を使うっす!」

「な……もう手札にあったのか!?」

「ふふふ……俺はどうやら闇の住人達の寵愛を受けているようですねぇ!!」

 

 まるでボスキャラのように高笑いしながら、サイトウは勢いよくそのカードを叩きつけた。

 

 

『闇ジェネレーター』

通常魔法

『闇』属性モンスターに限り、攻撃力を3倍にする。

 

 

「ふふふ……わははははは! これで『ダーク・キメラ』の攻撃力は3倍!」

 

 力が、満ちていく。

 闇の住人の体に、漆黒のエネルギーが流れ込んでいく。生物としては異常なほどに体を膨らませながら、耳障りな叫びがフィールドを穿つ。

 その攻撃力は……

 

ATK1610→4830

 

 4830ポイント。『青眼の究極竜』すら霞むような威圧感。計算が面倒そうな数値でもある。

 

「わはははは! すごいぞー! かっこいいぞー! この圧倒的な力。力こそパワー! 力こそ正義! これぞ正しく、強靭、無敵、最強!」

 

 サイトウは興奮していた。血液が沸騰し、アドレナリンが体を駆け巡る。

 勝てる。ラルフに勝てる。攻撃宣言さえしてしまえば、2000ポイントのライフなど簡単に吹き飛ぶ。

 

 もしもラルフに勝ったら……社内の女子達は……

 

「サイトウさんすごーい!」

「私、強い男の人が好きなの」

「私のことも……ジェネレートしてほしいな?」

 

 頭の中が桃色の妄想で埋め尽くされる。

 素晴らしい。実に素晴らしい。夢に描いたハーレムがすぐそこに。

 

「我が世の春がきたぁああ!」

 

 素晴らしい。実に素晴らしい。『闇ジェネレーター』は素晴らしいカードだ。攻撃表示のモンスターにワンパンすれば、決着。これはもう禁止カード候補なのではないだろうか?

「だが……今は俺の勝利を繋ぐ1枚! 『闇ジェネレーター』で強化した『ダーク・キメラ』で攻撃!」

 

 魔物が、爪を振り上げる。強大すぎるその力を眼前の敵にぶつけようと。

 ラルフは魔物を見ていた。恐れず、退かず、ただ見詰めていた。その瞳には『焦り』など微塵もなかった。

 

 

 

 

 

「―――それはどうかな?」

 

 

 落ち着いた声が、響いた。

 

 

 

 

 

「なっ……なに!?」

「お前のモンスターを……『ダーク・キメラ』をよく見てみろ」

 

 ラルフの言葉を聞いて、逸る気持ちを押さえながら『ダーク・キメラ』を観察する。落ち着いて見てみれば、サイトウにも『ダーク・キメラ』の変化はすぐに分かった。

 

「こっ……これは……」

「お前が好きな、ゲームやアニメにもよくあるだろう?」

 

 崩れていく。

 規格外の力を迸らせていた、無敵の肉体が。

 ぼろぼろと無様に崩れていく。

 

 

「強すぎる力は……己の身を滅ぼす」

 

 

 断末魔の叫びをあげながら『ダーク・キメラ』は消滅した。

 

 

 

 

 

「……へ?」

「……ん?」

 

 いやいや、少し待ってほしい。どうして『ダーク・キメラ』は消えたのだろうか?

 

「ラルフ先輩?」

「なんだ?」

「俺の『ダーク・キメラ』ちゃんが消えたんですけど?」

「そうだな」

「なんでですか?」

「言っただろう。強すぎる力は……」

「そうじゃねぇよ!!」

 

 サイトウは叫んだ。

 

「ちゃんと納得できるように説明してくださいよ! 意味分からないっすよ!」

「ん……具体的に言うと『闇ジェネレーター』で攻撃力3000以上になったモンスターは自壊する」

「なんで!?」

「だから強すぎる力は……」

「それはもう分かったっす! でもそんな効果はどこにも書かれてないっすよ!?」

 

 ブンブンと『闇ジェネレーター』のカードを振りながら、サイトウは必死に抗議する。だがラルフは涼しげに言い切った。

 

 

 

「テキスト外効果だ」

 

 

 

「……は?」

「だから、テキスト外効果だ」

 

 

『テキスト外効果』

カードテキストに明記されていない、戦闘やカード効果の処理時に発生する効果を、総じてそう呼ぶ。

 飛行可能なモンスターは30%の確率で攻撃を回避できる効果を持っていることがあるし、光属性の魔法使い族は闇属性のアンデットを浄化する力を持っていたりする。ラルフのフィールドにいる『ホーリー・ドール』もそうだ。もちろん効果は明記されていない。

 そしてそれは、『魔法カード』や『罠カード』も例外ではない。

 『光の護封剣』には後から出したモンスターが攻撃可能なんて、一言も記されていないのだ。

 

「そんな……理不尽な……」

「このカードは海馬社長もデッキに投入していたそうだ」

「海馬社長も?」

「ああ。だが、簡単に3000を超える攻撃力を得られる魔法カードがあるのに、海馬社長が『青眼の白龍』を欲しがると思うか?」

「……全く思いません」

 

 がくり、とサイトウは首を折った。ふざけんなよ、テキスト詐欺だろ『闇ジェネレーター』

「……サイトウ。俺はデュエルモンスターズが好きだ。だが、こういうところは改善したいと思っている」

 

 具体的には月に攻撃できたり、勢いをつけて突っ込めば守備モンスターを突破できたり、敵モンスターを上空から落として下敷きにしたり。

 とにかく『ソリッドヴィジョン』がなければ処理が不可能な効果は、全てなくしたい、とラルフは考えている。

 

「なにより、お前のようにカード効果だけをみてプレイして、実際は違って焦ってしまう……そんなプレイヤーはこれ以上、生みたくない」

「ラルフ先輩……」

 

 じーん、と感動に瞳を潤ませながら、サイトウはラルフの名を呼んだ。

 

「任せておけ。こんなルールの理不尽は、俺が全て駆逐してやる!」

「うっす!頑張ってください!」

 

 

 

 

 

「決闘はどうする?」

「あ、サレンダーで」

「ん、分かった」

 

 『デュエル・リング』の周りには、もう人はいなかった。

 




《今日の問題カード》


海馬は『闇のジェネレーター』と言ってますが、カード名は『闇ジェネレーター』らしい……本当に意味が分からんカードだ。
OCGにはこんなカードもありましたね。


『闇・エネルギー』
通常魔法
悪魔族モンスターの攻撃力・守備力を300ポイントアップ!

(Vol.2収録)


遊戯「闇道化師?そいつの攻撃力じゃ……」
海馬「確かに翼竜の攻撃力は1400。コイツは600。そのままでは勝てない。だが、このカードを合わせて出すと!」
遊戯「魔法カード!?」
海馬「その通り!闇のモンスターの攻撃力をさん……はっ!?」


『闇・道化師のサギー』
闇/魔法使い族
ATK600
DEF1500


海馬「……できない……だと?」


おわり
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