ルール改定に駆けた男のロード   作:龍流

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31.「倒してみろよ」

 人間は『物』にも愛着を持つ。

 恋人から贈られたペンダント、ずっと乗り続けてきた愛車、使い古したペン1本にさえ人は情を抱く。

 

 ヴォルフ・グラントがフィーネ・アリューシアという少女を拾った理由は主に3つある。

 

 ひとつ。彼女が高い『魔力(ヘカ)』の素質を持っていたこと。

 ふたつ。まだ『グールズ』という組織は生まれたばかりの雛鳥であり、なるべくメンバーを増やしたかったため。

 みっつ。単純に、ヴォルフが彼女の境遇を気の毒に思ったから。

 

 同情、憐れみ。ヴォルフという人間にこれほど似合わない言葉はないし、ヴォルフ自身も己の辞書にそんな言葉を記しているつもりはなかった。

 だが、あの時あの状況で、リスクを冒してまで年端もいかない少女を拾った理由を説明するとしたら、そういった言葉しか思いつかないのだ。

 もしもフィーネが普通のテーブルゲームをしていて、その上で敗北していたら、ヴォルフは彼女のことを歯牙にもかけなかっただろう。弱いから負けたのだ、と。気にもせずに賭博場を去っていたはずだ。

 

 そのゲームが『デュエルモンスターズ』だったから。

 そのゲームが、ヴォルフの最も嫌いなゲームだったから。

 

 ヴォルフはフィーネという少女を、救うことにした。

 

 フィーネのデッキはひどいものだった。こんなデッキで勝てるわけがない。ヴォルフに言わせれば、火にくべて薪の代わりにした方がまだ有効活用できそうな『紙束』だった。

 実力で、時の運で、負けるのならば納得はできる。だが、最初から負けると決まっている勝負。そんなものに一体何の意味があるのか。フェアではない勝負で相手を負かして、何が満たされるのか。

 

 ゲームは勝たなければ意味がない。

 

 敗北が定められた勝負に挑んだ1人の少女を、ヴォルフは見捨てることができなかった。

 

 全て教えた。

 ヴォルフが持つデュエルモンスターズの知識、戦術、技術、全てを徹底的に教え込んだ。

 それだけの労力を注ぎ込み、フィーネはヴォルフが使う『道具』の中では最高の仕上がりとなったのだ。

 決闘においては、セレスを負かすほどの実力を持つに至り、勝利への執着はヴォルフ以上。

 

 自分に従順な、完璧な道具。

 

 5年以上も生活を共にし、手元に置き、それなりに手入れも怠らなかった。

 信頼もした。信用もした。ペガサスから奪った強力なカードなどは、真っ先に与えてやった。

 

 

 それなのに、何故?

 アレは今更、自分に対して反抗するのか?

 

 

 納得できない。

 理解できない。

 看過できない。

 フィーネは変わった。変わってしまった。それには必ず、原因があるはずだ。そして、少なくともヴォルフが思い当たる原因は、ひとつしかない。

 

 ラルフ・アトラス。

 

 フィーネとラルフの間にどんなやり取りがあったのか、ヴォルフには知る術がない。知りたくもないし、知る必要もない。

 重要なのはこの2人が、負けた方は死が待っている、極限の決闘に放り込まれたにも関わらず、肩を寄せ合い生還してきたという事実だ。

 この時点でフィーネが、『愛』などという馬鹿な感情に流されて、自分と袂を分かつ気でいることは予想できた。

 それでもヴォルフはチャンスを与えたのだ。

 女が男をくわえこんで戻って来たのなら、男ごと仲間に引き入れてしまえばいい。

 

 だからラルフ・アトラスに仲間になるよう提案した。まさか声を揃えて否定の返事を返されるとは、思ってもいなかったが。

 

 残念なことだ。

 

 使えなくなった道具は、処分するしかない。

 たとえ愛着があっても、使えない道具はただのガラクタ。

 

「あぁ……うぜぇ」

 

 面倒なゴミ処理だ。わざわざ決闘をする必要はなかったのかもしれない。それでも、自分で直接叩き潰さなければ気が済まない。

 

「潰してやる」

 

 ヴォルフの言葉が届いていないのか、よほど集中しているのか、ラルフは返答する素振りも見せずデッキに手を掛けた。

 が、その呟きが対戦相手に聞こえているかなど、ヴォルフにとってはどうでもいいことだった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 夜風が吹いた。冷たい風だ。しかし、頬を撫でるそれは、ラルフの火照った体を冷やすには到底足りない。

 ヴォルフを倒さない限り、この燃え上がるような怒りは決して収まらない。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 先攻を取ったのはラルフ。

 先手必勝。この言葉が示す通り、決闘の序盤戦はいかに相手よりはやく攻撃のテンポを掴むかが重要である。

 低級モンスターによるビートダウンで速攻を狙うか。大型モンスターの召喚やコンボを狙う為に、キーカードを集めるか。

 ヴォルフが取る戦術は、まず間違いなく後者だ。召喚できれば『三幻神』並みの制圧力を誇る『三幻魔』がデッキにある以上、『三幻魔』のサーチと召喚の準備に序盤は全力を注ぐ筈。

 

 『三幻魔』が出てくる前に勝負をつけてしまうのが、ラルフにとっては最も望ましい。

 

 そして、なによりも

 

「……フィーネ」

 

 ようやく分かり合えた彼女はまたも危機に陥り、タイムリミットは着々と迫っている。長期戦など持っての外。

 

「俺は『プロミネンス・ドラゴン』を召喚!」

 

 速効でケリをつける。

 

「リバースカードを2枚伏せ、ターンエンド。この瞬間、プロミネンスの効果が発動する!」

 

 

『プロミネンス・ドラゴン』

炎/炎族

ATK1500

DEF1000

自分フィールド上にこのカード以外の炎族モンスターが存在する場合、このカードを攻撃する事はできない。自分のターンのエンドフェイズ時、このカードは相手ライフに500ポイントダメージを与える。

 

 

「貴様に500のダメージを与える! フレイムトルネード!」

 

 炎の鱗を靡かせ、竜が口を開く。吐き出された炎はヴォルフを直撃した。

 

ヴォルフ LP4000→3500

 

「はっ……ぬりぃな」

 

 痛みはあるはずなのに、ヴォルフは顔を歪めもしない。だが、一発一発が小さくても、確実にダメージを重ねれば勝てる。

 少なくとも『三幻魔』に挑むよりは、まだ希望がある。

 

「クク……ちまちまダメージを与えていれば、俺に勝てるとでもおもってんのか?」

 

 そんなラルフの考えを言い当て、ヴォルフは嘲笑う。

 

「俺のターン、ドロー! はじめるとするかぁ……魔法発動『デビルズ・サンクチュアリ』」

 

 

 

『デビルズ・サンクチュアリ』

速効魔法

「メタルデビル・トークン」悪魔族・闇・星1・攻/守0)を自分のフィールド上に1体特殊召喚する。このトークンは攻撃をする事ができない。「メタルデビル・トークン」の戦闘によるコントローラーへの超過ダメージは、かわりに相手プレイヤーが受ける。自分のスタンバイフェイズ毎に1000ライフポイントを払う。払わなければ「メタルデビル・トークン」を破壊する。

 

 

 地面から黒煙が噴出する。銀色に鈍く光る不気味な人形は、相対するラルフの姿を映し取り、そっくりに変化した。

 

「ふん……また悪趣味なカードだな」

「誉めてもらえて恐悦至極だ。コイツの戦闘によるダメージは相手プレイヤーが受ける」

 

 悪魔の聖域の名を冠するこの魔法カードを、元々ヴォルフは対『ラーの翼神竜』用に準備していた。

 実は海馬瀬人も『ラー』への対抗策としてこのカードを見出だしており、なんの運命のいたずらか、時を同じくして武藤遊戯が彼から託された『デビルズ・サンクチュアリ』を発動していたのだが、ラルフとヴォルフはそんなことは知るよしもない。

 遊戯は『神』打倒の切り札にこのカードを使用した。しかし、ヴォルフの使用法は遊戯とは真逆だ。

 

「が……そんな効果はどうでもいい! 俺は更に『幻銃士』を召喚する!」

 

 

『幻銃士』

闇/悪魔族

ATK1100

DEF800

このカードが召喚・反転召喚に成功した時、自分フィールド上に存在するこのカード以外のモンスターの数まで自分フィールド上に「銃士トークン」(悪魔族・闇・星4・攻/守500)を特殊召喚する事ができる。また、自分のスタンバイフェイズ毎に自分フィールド上に表側表示で存在する「銃士」と名のついたモンスター1体につき相手ライフに300ポイントダメージを与える事ができる。この効果を発動するターン、自分フィールド上に存在する「銃士」と名のついたモンスターは攻撃宣言をする事ができない。

 

 

 奇形の悪魔は不気味な笑い声を響かせながら、フィールドに降り立つ。

 

「『幻銃士』の効果により、俺の場に『銃士トークン』を特殊召喚!」

 

 悪魔はさらに分裂する。後攻1ターン目にも関わらず、ヴォルフのフィールドには一気に3体の悪魔族モンスターが並んだ。どのモンスターの攻撃力も『プロミネンス・ドラゴン』には及ばない。しかし、グールズの長とも言える男が、雑魚モンスターを並べただけでターンを終える筈がない。

 考えられる中で最悪の可能性に思い至り、ラルフは驚愕で目を見開いた。

 

「まさか……」

「安心しろよ……俺もゴミ処理に無駄な時間を掛ける気はさらさらねぇんだ。だからさぁ……」

 

 ニィ、とヴォルフは背筋が凍るような笑みを浮かべ、手札から1枚を手に取る。

 

「はやく終わらせようぜ?」

 

 そして、悪魔達は生け贄となる。

 

「砕け、潰せ、踏みにじれ!」

 

 立ち上る3本の柱。色は青。『三幻神』において破壊を司る神の色は、『三幻魔』にとっては『皇』の色だ。

 

「幻魔の皇よ。漆黒の魂を糧とし、その拳を振るえ!」

 

 ヴォルフの背後、大地が割れた。

 ゆっくりと。ソレは地上に姿を現す。

 

 チカラ。ただ力を示す存在は、腕を持ち上げ、翼を広げ、目を開くだけで大気を震わせる。

 

 

「降臨せよ――『幻魔皇ラビエル』」

 

 

 ヴォルフの呼び掛けに応じるかの如く――瞬間、咆哮が響いた。

 

「ぐっ……!?」

 

 ラルフの周囲で土煙が巻き上げられる。ただのプレッシャーではない。現実に目の前の悪魔の叫びは、大気を震わせ、風を起こしているのだ。

 

「……化け物か」

 

 辛うじて、そんな言葉しか吐けなかった。

 

 

『幻魔皇ラビエル』

闇/悪魔族

ATK4000

DEF4000

 

 

「アッヒャハハハハハ! どうだぁ? 俺の『ラビエル』は? コイツのモチーフは天使として有名な『ラファエル』なんだぜ。美しいだろ?」

 

 筋肉が盛り上がった太い腕に鋭い爪。確かに背には全身を覆うほどの翼はあれど、ところどころが破けており、まともに羽ばたくことなどできそうになかった。

 

「美しい? 貴様は美的感覚まで破綻しているな。悪いが欠片も共感できん」

 

 天使、などという言葉は微塵も浮かばない。『ラビエル』と向き合えば、人はみな口を揃えて言うだろう。

 

 『悪魔』だと。

 

「ひでぇなぁ……まぁ、見た目の感想はそれでいいさ。なら早速、拳の方も味わって貰うとするかぁ!」

 

 青い悪魔は、拳を握り締めた。紅蓮の双眸は炎の竜を捉える。

 疾風怒涛。天波狂乱。

 逃れ得ぬ一撃が、その拳から放たれる。

 

「『幻魔皇ラビエル』の攻撃! 天界蹂躙拳!」

 

 幻魔皇の攻撃は、単純で原始的なものだ。純粋な打突。生粋の力。だからこそ、強い。

 

「リバースカードオープン! 『聖なるバリア-ミラーフォース』」 

 

 通じるかは分からない。しかし、使わないよりはマシだ。ラルフはデュエルモンスターズの『最強の楯』とも呼べる罠カードを開いた。

 

 耳を裂く衝突音。

 

 吹き荒れる突風。

 

 腕を交差し、衝撃に耐えながら、ラルフは前を見る。膨大な拳のエネルギーは、確実に『ラビエル』に反射している。跳ね返している。

 

「あぁ? ミラーフォースか……ふざけやがって」

 

 跳ね返しているのに――

 

 

「効くわけねぇだろぉおおぉ!」

 

 

 ――砕かれた。

 

「ぐっ……あぁああああぁあ!?」

 

 蟻を潰したかのように『プロミネンス・ドラゴン』は細切れとなり、ラルフ自身もダメージで吹き飛ばされた。

 

ラルフ LP4000→1500

 

 宙に舞う身体、薄れゆく意識を――繋ぐ。

 

 ――まだ、終われない。

 

「がっ……ぁあ!」

 

 固い床に叩きつけられながらも受け身をとり、衝撃を殺す。1度倒れてしまえば、2度と起き上がれないだろう。間髪入れずに足に力を入れ、立つ。

 

「はぁ……はぁ……」

「いいぜぇ……いい根性だ。それでこそ張り合いがある。ポッキリ折れるのが楽しみで仕方ない!」

 

 1ターン目からの三幻魔の召喚。ラビエルの一撃によって既にラルフは大きく消耗している。戦術的に見れば十分な滑り出しだが、まだだ。まだ足りない。ラルフの心まで砕くため、ヴォルフは次の一手を繰り出す。

 

「やはり悪魔が戦うには悪魔に相応しいフィールドを用意すべきだ……いくぜぇ、フィールド魔法『失楽園』を発動!」

 

 

 ソリッドヴィジョンとは思えないほどにリアルな……いや、実際にそこにあるのかもしれない、不気味な園に周囲が変わっていく。

 

「このフィールド魔法には、実にイイ効果がある。俺の場に『三幻魔』が存在している時、デッキからカードを2枚ドローできる!」

「2枚……だと!?」

 

 

『失楽園』

フィールド魔法

フィールド上に「神炎皇ウリア」「降雷皇ハモン」「幻魔皇ラビエル」の内1体以上が存在している場合、そのカードのコントローラーは1ターンに1度だけデッキからカードを2枚ドローできる。

 

 

 デッキからカードを引き抜き、ヴォルフは高らかに笑う。これで手札は4枚。実質2枚のカード消費で『ラビエル』を呼び出した計算になる。

 

「くそ……」

 

 『三幻魔』の攻撃をいなすだけでも、ラルフは大きく消耗させられる。それに加えてハンドアドバンテージの差まで広げられては、本当に勝ち目がゼロになってしまう。

 

「バカが。お前には勝ち目なんざ最初からねぇんだよ。けど、安心しな。俺は諦めろだの、サレンダーしろだの、そんなお優しい言葉を言ってやる気は全くない」

 

 『ラビエル』の背後にリバースカードを伏せ、ラルフをねめつけながら、ヴォルフは言う。

 

「精々みっともなく最後まで足掻け。その上で負けろ。ターンエンド」

 

 人を見下すその言葉に、ぎりっと音が鳴る程に奥歯を噛み締めた。

 

 足掻け?

 負けろ?

 

 なにを、勝手なことを。

 

 

ラルフ LP1500 手札3

《モンスター》

なし

《魔法・罠》

リバース1

 

ヴォルフ LP3500 手札3

《モンスター》

幻魔皇ラビエル

《魔法・罠》

リバース1

失楽園(発動中)

 

 

「俺のターン!」

 

 最後まで、などと言われるまでもない。もとよりラルフの選択肢に、サレンダーはない。

 フィーネを助ける為には、勝つしかないのだ。この決闘に。

 

「『UFOタートル』を守備表示で召喚!」

 

 今はまだ打開策はない。故に守備を固めるしかない。

 しかし『三幻魔』は、そんな考えまで見透かしたような力を持っていた。

 

「ハッ! この瞬間、ラビエルの効果が発動するぜ!」

「なに!?」

「お前がモンスターを召喚、特殊召喚した時、俺のフィールドに『幻魔トークン』を特殊召喚する。来い!」

 

 『ラビエル』がそのまま小さく、非力になったような悪魔が産み落とされた。実際、その力は親の四分の一程度だ。

 

『幻魔トークン』

闇/悪魔族

ATK1000

DEF1000

 

「……モンスタートークンの生成能力か」

「防御に躍起になってモンスターを増やせば、俺のフィールドもあっという間に埋まるぜ?」

「ちっ……」

 

 取るに足らないモンスタートークンとはいえ、数が増えれば生け贄などに利用される可能性がある。モンスターを増やして防御を固めたいラルフにとっては、厄介極まりない効果だ。

 とはいえ、動き出さなければ何も始まらない。時間も刻々と過ぎている。

 

「リバースカードオープン!『リビングデッドの呼び声』を発動。墓地から『プロミネンス・ドラゴン』を蘇生する」

「あぁ、いいのかぁ? なら、こっちの効果も発動だ!」

 

 炎の竜の復活に呼応して、またも悪魔が産まれる。

 

「構わん! 俺はリバースカードを1枚伏せターンエンド! そしてエンドフェイズに『プロミネンス・ドラゴン』の効果が発動する。フレイム・トルネード!」

 

ヴォルフ LP3500→3000

 

 1ターン前をリピートしたかのように、同じ光景が流れる。

 少しずつ。確実に。ラルフはヴォルフのライフを削っていた。

 

「ぐっ……ちまちまチマチマしゃらくせぇなぁ。俺のターン、ドロー!」

 

 体に纏わりつく炎を振り払い、ヴォルフはカードをドローする。

 

「さらに『失楽園』の効果で2枚ドローだ! ハッハァ!」

 

 圧倒的なアドバンテージの暴力。止める術はなく、手札は枚数制限の6枚まで膨れ上がる。

 開いていくこの差は、ある意味『三幻魔』よりも厄介だった。

 

「さて、手札も潤ったことだし、次の役者を呼ぶ準備を整えさせてもらうぜ。俺は手札から3枚の永続魔法『強者の苦痛』『暗黒の扉』『悪夢の蜃気楼』を発動!」

「なッ……まさか!?」

「そうよ、そのまさかだぁ!」

 

 一気に展開される永続魔法。効果はバラバラでシナジーも薄いそれらは、すぐにフィールドから消失する。

 

 雷皇の降臨のために。

 

「輝け、響け、轟け!」

 

 空が暗雲で覆われ、月が隠れる。暗い夜の中で、さらに闇が深まる。

 

「雷の皇よ。大いなる魔の力を糧とし、神速の雷撃で全てを撃ち抜け!」

 

 ヴォルフの背後に稲妻が落ちた。一瞬の光がフィールドを照らす。明滅する視界の中で、ラルフは水晶の結晶を見た。

 

 

「降臨せよ――『降雷皇ハモン』」

 

 

 結晶が割れた。

 全身から放電し、有り余るエネルギーを持ったそれは容赦なく周囲の大地を抉り取る。

 2体目の悪魔も、雷鳴に負けないほどの咆哮を響き渡らせた。

 

 

『降雷皇ハモン』

光/雷族

ATK4000

DEF4000

 

 

「ヒャハハハハハ! さぁさぁさぁさぁ! 『ラビエル』に続いて『ハモン』の登場だ!」

「これが……『降雷皇ハモン』」

 

 並び立つ悪魔。4つの瞳がラルフを見下ろし、見下していた。

 

「このターンで終わらせてやるよ。俺は『幻魔皇ラビエル』の効果発動! 自分フィールド上のモンスター2体を生け贄に捧げ、その攻撃力分、自身の攻撃力をアップする!」

 

 『ラビエル』は腕を伸ばし、自身が産み出した眷属を掴む。そして拳の中であっさりと握り潰した。

 腕の筋肉が隆起し、見ているだけで力が増したのが分かる。

 

『幻魔皇ラビエル』

ATK4000→6000

 

「ククク……『オベリスク』の力には到底及ばないが、お前を倒すにはこれで充分だ。バトルフェイズ! 『降雷皇ハモン』でウザったい亀を攻撃! 失楽の霹靂!」

 

 目にも止まらぬ速さで『ハモン』の雷撃が『UFOタートル』を撃ち抜いた。

 『ラビエル』並みの威力にラルフは戦慄するが、同時に胸を撫で下ろしていた。表示形式が守備表示だったおかげでダメージは――

 

「この瞬間『ハモン』の効果発動! 相手モンスターを破壊した時、相手プレイヤーに1000ポイントのダメージを与える。ぶち抜け! 地獄の贖罪!」

 

 ――全身を、形容し難い痛みがはしった。

 

「が……あ」

 

ラルフ LP1500→500

 

 ラルフの体に降り注いだのは雷。光の速度は音の百万倍だ。効果ダメージがくる、と身構えた時にはもう遅かった。

 

「ゆ……『UFOタートル』の効果……2体目の『プロミネンス・ドラゴン』を……」

 

 視界が、暗転する。

 手から、カードがこぼれ落ちる。

 身体が、前へと倒れ出す。

 まるでスローモーションのように、時が流れる。地面が近づいていく。押さえつけていた感情が溢れ出す。

 

 痛い。

 苦しい。

 辛い。

 

 やめてしまおうか?

 

 自分で自分に問いを出す。

 

 

 ――だめだ。

 

 

 驚くほどにあっさりと、答えはすぐに出た。

 

 倒れれば終わる。

 自分の命も。

 フィーネの命も。

 デュエルモンスターズも。

 

 だから、まだ終われない。

 

 

 

「――俺は『プロミネンス・ドラゴン』を特殊召喚!」

 

 

 

 こんなことで、この程度で、終わるわけにはいかない。

 ラルフ・アトラスは倒れない。

 

「アッハハハ! わりぃわりぃ。危うく効果ダメージでノックアウトしちまうところだったなぁ!」

 

 よかった、よかった、とヴォルフは手を叩く。

 

「じゃあ、次は……」

「『プロミネンス・ドラゴン』の効果!」

「なにぃ?」

 

 2体の竜はとぐろを巻き、炎の壁を形成する。

 

「自分フィールド上にこのカード以外の炎族モンスターが存在する場合、相手モンスターはこのカードを攻撃する事はできない!」

「……なるほどな。お互いがお互いを守り、ロックを作るってわけか」

「そうだ!」

 

 息も絶え絶えにラルフは宣言する。『ミラーフォース』は通用しなかった。だが、モンスター効果なら。

 

「……『幻魔皇ラビエル』で『プロミネンス・ドラゴン』を攻撃!」

「なんだと!?」 

 

 

 威力を増した拳が炎の壁にぶつかる。火の粉が舞い散る。

 破れるはずがない。『プロミネンス・ドラゴン』の効果は『攻撃対象』に選択できない効果。そもそも『攻撃』という行為ができない筈なのだ。

 

「だからさぁ……まだわかんねぇのか?」

 

 それは『ルール』だ。

 デュエルモンスターズというゲームのバランスを、崩さないために存在している。

 

 『ルール』とは縛るもの。特別なモノを。特殊なモノを。例外を。

 

 常識という括りに、縛りつけておくものだ。

 

 ヴォルフが生み出したのは、そんなものに縛られない存在。『神』にすら届きうる『悪魔』だ。

 

「……もう1度だけ言ってやるよ」

 

 『ルール』に縛られた決闘では『神』も『悪魔』も止められない。

 

 

 

「効くわけねぇだろうがぁあああ!」

 

 

 

 打突が再び壁を破る。

 6000ポイントの衝撃が竜を襲い、粉々に砕いた。

 

 直撃した。

 

 衝撃波によって粉塵が舞い上がり、フィールドを包み込む。

 煙が晴れる頃には、勝負の結果は明らかになっていた。

 

 

「……あぁ?」

 

 

『ガード・ブロック』

通常罠

相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 

 

「はぁ……はぁ……『ラビエル』の攻撃時に『ガード・ブロック』を発動した。戦闘ダメージは0だ」

 

 晴れた煙の先で、ラルフは立っていた。

 まだ勝負はついていない。

 

「ククク……ハハハハハ! すげぇな。本当に諦めねぇんだな! 大したもんだぜ、お前!」

 

 信じられない、とでも言いたげにヴォルフは賞賛の言葉を送る。嘘はない。純粋な感想だ。

 

「あぁ……いいぜ、本当にいい。潰し甲斐がある」

「こんな……」

「あぁ?」

「こんなモンスターを……『力』を使って勝って……お前は楽しいのか?」

「楽しいぜ?」

 

 ラルフの問いは、即答で返された。

 

「楽しいが……誉められた行為じゃない。お前の言いたいことも分かるさ。コイツらは理不尽に過ぎる力だ。だから俺はコイツらを使って『デュエルモンスターズ』を変えるんだ」

 

 『三幻神』を倒し。

 『精霊』は全て排除し。

 カードを全てリセットして。

 

「全く新しい平等なゲームにしてやる」

「……今『力』を使うお前が、そんな言葉を吐くか!」

「あぁ……まぁ、そうだな。正直言ってそんなものは、今この場に置いては建て前だよ」

「たて……まえ?」

「あぁ、そうだ」

 

 肩の力を抜き、ヴォルフは笑った。

 

 

 

「俺は、お前がウザい」

 

 

 

 今までで、最も純粋な笑みだったかもしれない。

 

「は……?」

「だぁから、ウザいんだよ。俺の計画を邪魔して、使える道具をたらしこんで奪って、アジトにまで乗り込んで来て」

 

 顔には微笑みを浮かべたまま、ヴォルフは言葉を紡ぐのをやめない。

 

「俺はお前が大嫌いだ。だからこうして、一方的に潰してやるのが本当に楽しい」

 

 大義はある。

 目的はある。

 

 矛盾がある。

 

 だが、今ゲームをしているヴォルフは

 

「単純に、俺はお前を潰すのが楽しくてゲームをしているんだ」

 

 力を振るうことを、心の底から楽しんでいるのだ。

 

「俺を否定したいのなら、倒してみろよ。俺の『三幻魔』を」

 

 ヴォルフのフィールドにいる悪魔は、歪んだ力の塊だ。

 

「倒してみろよ。歪んだ理想の為に、歪んだ手段を使う俺を」

 

 ヴォルフという男は、自分に嘘はつかない。

 つまらないものはつまらないし、楽しいものは楽しい。

 少なくともこの決闘は、ヴォルフにとっては楽しいものだった。

 

「倒してみろよ。そこにいる死にかけの女を救いたいのなら」

 

 ラルフの表情が歪む。

 フィーネを見る。苦しそうに息をしていた。

 

 時間がない。

 

「殺す気で来やがれ。持てる手段は全て使え。切れるカードは全て切れ。出し惜しみすんなよ?」

 

 持てる全てを注ぎ込んで、挑むしかない。

 

「最高のゲームをしようぜ」

 




『デビルズ・サンクチュアリ』『幻銃士』『幻魔皇ラビエル』『降雷皇ハモン』はアニメ効果です。

『ラビエル』の効果耐性もアニメ版。マジックシリンダーで攻撃を跳ね返されても無事なオシリスや、上級魔法効果は受けてしまうオベリスクのイメージ。


次回決着。
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