ルール改定に駆けた男のロード   作:龍流

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間章
34.「私、働きたいんです」


「つ、つかれた」

 

 そう言いながら、ルースはデスクに倒れこんだ。弛みきった体からは、ぐだっ……という擬音が聞こえてきそうだ。

 そんな様子が目に入り、ラルフはやれやれと椅子から立ち上がった。何年経ってもこういうところは変わらないらしい。

 

「まったく……気を弛めるのはいいが、ほどほどにしておけよ」

 

 ルースの目の前にコーヒーが入ったカップを置く。勿論淹れたのはラルフだ。

 

「……サンキュー。でも、しょうがないだろ。めちゃくちゃ緊張したんだから」

「なんの商談だったんだ?」

「違う違う。商談じゃなくて、オブライエンさんと会ってきたんだ」

「ああ……なるほどな」

 

 自分のコーヒーを注ぎながら、ラルフは納得して相槌を打った。マイルズ・オブライエンは凄腕の傭兵。戦場で培われたあの威圧感だ。向かい合っているだけで息が詰まるのも分かる。

 バトルシティの事件の時に世話になったから、かれこれ2年近い付き合いになるのだが、慣れないものは慣れないのだろう。

 ルースはコーヒーを一口啜ると、溜め息をついた。

 

「『グールズ』関連の組織は根こそぎ壊滅したと思ってたんだけどなぁ……オブライエンさんの話だと、最近は『地下決闘』なんてものがまた流行りだしてるらしいぜ?」

「地下決闘? なにか違法な決闘をしている連中がいるのか?」

 

 地下、という言葉に良いイメージはない。どうしても悪いことばかり思い浮かぶ。

 

「なんでも成金の金持ちを観客に集めて、決闘の勝敗で賭け事をしているらしい」

「……そういう馬鹿は、いつの時代もいなくならない……か」

 

 ラルフが苦々しく吐き捨てるように言うと、対称的にルースは笑った。

 

「フィーネちゃんも、違法な決闘のせいで辛い思いをしたもんな。愛しの彼女の為にそんなやつらは全員駆逐してやる、って顔してるぜ?」

「別にそんなんじゃない。俺は純粋に……」

「また照れちゃって……素直になれよー。結局、一緒に住むことになったんだろ? おアツいじゃないの」

 

 妙な方向に話題が横滑りした。こんな風に絡み出したルースはしつこく、そして面倒くさい。

 

「お前ん家にフィーネちゃんが来てから、かれこれ1週間だろ? どうなんだよ、どこまで進展したんだよ!」

「えぇい、うるさい。駄目だ。プライバシーだ!」

「そんなツレないこと言わないでほしいっすよ~。俺も聞きたいっす!」

「駄目だ! プライベートだ!」

「ラルフさん、今後の参考の為にも、ぜひお願いします!」

「駄目と言ったら駄目だ! どうして……」

 

 執拗な追求を避けていたラルフの言葉が、ふと止まる。あらためて周囲を見渡してみると、ルース以外にもう2人。ボサボサ頭に白衣の男と、服のあちこちに絵の具をつけた優男。

 いつの間にか、馬鹿が増えていた。

 

「……サイトウ、創司。いつからいた?」

 

 クールダウンしたラルフが努めて冷静な声で問うと、創司はサイトウの方を振り返った。

 

「いつからでしたっけ?」

「んん……確かルース先輩が、つかれた……って情けない声出して机に倒れ込んだ辺りからっすね」

「最初からじゃないか……」

 

 ラルフは頭を抱えた。ルースも苦笑いを浮かべてはいるが、内心は野次馬が増えて大歓迎だ。

 こういう話を聞き出すには、人数が多い方が良いと相場が決まっている。

 

「さあ、ラルフ。お前はフィーネちゃんとどんなラブラブ生活を満喫しているんだ!」

「同棲生活、超気になるっす。リア充死ねって感じですけどね!」

「どこまで進展しているんですか!? 僕、気になります!」

 

 ぐいぐいと3人に迫られて、ラルフは後退する。

 1人だけならいくらでも言い訳して逃れられたが、3人に囲まれるとどうしょうもない。

 進退窮まり、遂にラルフは口を開いた。

 

 

「……なにもないんだ」

 

 

「……へ?」

「ん……?」

「あれ?」

 

 三者三様。ルース達は各々が違った反応で首を傾げている。居たたまれなくなり、ラルフはさらに続けた。

 

「……どう言えばいいか分からんが……いきなり2人でいるのは気まずいというか、なんというか……恋人らしいことはなにもしてないんだ」

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

「ふぁああ……くしゅん!」

 

 平日、昼の1時過ぎ。真っ当な社会人なら、昼休みを終えて働き出す時間帯。もうひと頑張りしよう、と仕事を再開する時間帯だ。

 しかし、フィーネ・アリューシアはソファーの上で横になり、カードを弄りながらゴロゴロしていた。

 

「……ラルフさん、私の話でもしているのかな?」

 

 前に聞いたことがある東洋の故事を思い返し、そんなことを呟く。風邪を引いたらいけないので、自分の部屋から毛布を引っ張りだし、ソファーの上でくるまった。

 ついでにラルフから好きに食べていいと言われたお菓子を戸棚から取り出し、これまたラルフが用意してくれたコーヒーをマグカップに注ぐ。

 

「ふぅ……」

 

 昔のような心労からくる溜め息ではなく、ほっとするような。気の弛んだ溜め息をフィーネは吐いた。

 

 出所から1週間。行く当てのなかったフィーネに、ラルフは「俺の家に来ないか」と言ってくれた。自分も好きだし、相手も好きだと言ってくれたとはいえ、一方的に世話になるのは気が退けた。だが、ここで断ったらラルフの気持ちをまた無下にすることになるし、フィーネはラルフと暮らすのが嫌なわけではない。結局フィーネは了承し、ラルフの家に住むことになった。

 ラルフの住まいは都市部に近いマンションだった。インダストリアル・イリュージョン社という一流企業に勤めているだけあって、それなりに広く、中々に高級なマンションだ。1人暮らしには広すぎる位で、リビング以外にも部屋が2つあった。ラルフは「ここはお前の部屋だと思って使ってくれ」と言い、倉庫代わりだった部屋を整理して、フィーネの個人スペースにしてくれた。

 こうして、ラルフとフィーネの共同生活はスタートしたわけである。

 

 が、しかし。

 

「……困ったな」

 

 デートを重ねたわけでもなく、一緒に泊まった経験もない。にも関わらず、いきなりの同棲。

 

 はっきり言って、気まずかった。

 

 お互いがお互いに妙に遠慮しあい、距離が縮まらない。今朝、朝食を食べている時も、ソースを取ろうとしたふとした瞬間に手が重なり、

 

『あっ……ごめんなさい!』

『いや……すまん』

 

 と、変な空気になってしまった。結局今朝はそれ以来、まともな会話をしていない。

 ラルフを、傷つけてしまったかもしれない。

 

「うぅん……」

 

 そう思って後悔しても、どうしたらいいか分からない。毛布にくるまったまま、フィーネはクッションに顔を突っ込む。

 すると、ピッという音がして、テレビがついた。

 

「あ……リモコン、ここにあったんだ」

 

 誰がいるわけでもないのに呟いて、クッションの裏からリモコンを掘り出す。日中はラルフがいないせいで、フィーネは独り言が増えている。自覚はない。

 

『最近の若者、部屋に引きこもりがちなのが問題になっています』

 

 チャンネルを変えようとした手が止まる。

 画面の中にはデカデカと『働かない若者。ニートの実態!!』というテロップが流れていた。

 

『ニート、などとも呼ばれていますが、彼らはどのような生活をしているのでしょうか』

『まず外に出ませんね。ソファーに座り込んだら、1日中そこでTVを見ているような生活をしています。テレビ的には視聴率が稼げるからありがたいですね』

 

 コメンテーターの茶目っ気のある発言にスタジオで笑いが起こる。しかし、フィーネは全然笑えない。

 

『彼らはなぜ、外に出ようとしないのでしょうか?』

『よく最近の若者は傷つきやすい、感受性が強いと言われています。しかし彼らが引きこもり、働かない理由は、彼らの環境にあると私は考えます』 

『環境、と言いますと?』

『簡単な話です。彼らは自分達を養い、保護してくれる存在がいるから働かないのです。人間という生き物は、楽ができるなら楽な方に流されます。働かずに食事ができ、働かずに生きていけるなら、働かなくなるのは当然とも言えますね』

 

 はっ、としてフィーネは手元を見た。ラルフが淹れてくれたコーヒーに、ラルフが買ってくれたお菓子。テーブルの上に広げているのも、ラルフのカードだ。

 一応、今着ているのはラルフに『借りた』お金で買ったパジャマなのだが……

 

『なるほど。彼らが1日中パジャマ姿で家に籠るのも頷けますね』

 

 フィーネは即刻パジャマを脱ぎ捨てた。着ていたパジャマとくるまっていた毛布を掴み、部屋に戻る。

 5分ほどで身支度を整え、シャツとジーンズ姿になって再びリビングのソファーに腰掛けた。

 

『まあ、中にはカフェで時間を潰すニートもいるようですが……』

『まだ外に出る活動的なニートの方が良いでしょう。ですが、目的も持たずに外に出る位なら、まずは自分の身の回りをきちんと整理することから始めた方が良いと思いますよ』

『なるほど』

 

 番組の最後まで観ることはなく、テレビの電源を切る。いつもならこの後はじまるドラマを観るのだが、そんな気分ではない。

 

「なにかしなくちゃ……」

 

 なんでもいい。

 とにかく、ソファーで寝転がってカードを弄るのはやめよう。お菓子を摘まむのもやめよう。テレビを観るのもやめよう。

 なにか。なにかしよう。フィーネはそんな気持ちに突き動かされていた。

 

「……まずはお掃除かな」

 

 とはいえ、ここに来てまだ1週間。掃除用具の場所も分からない。

 とりあえず、リビングのあちこちを漁ることから始めることにした。

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

「つ、つかれた……」

 

 

 

 ルース達の執拗な追求からようやく逃れ、ラルフは会社を出た。1日の仕事よりも、根掘り葉掘りフィーネのことを聞かれたことの方が、よっぽど疲労の原因になっている気がする。

 

「くそ……好き勝手に言われたな……」

 

 先ほどの会話を思い返していると、思わず毒を含んだ愚痴が漏れる。

 ラルフとフィーネの仲が少しも進んでいないことを知るやいなや、ルース達はラルフのことを責め立てた。

 

『まだキスしかしてない!? ハイスクールの学生かよ……このヘタレめ!』

『なに? 告白に成功したらラブラブな生活が過ごせるのではないのか!?』

『ラルフさんはダイグレファーくらいの積極性を持った方がいいと思いますよ』

 

 取り囲まれ、口々に文句を言われた。ある意味疲れるのも当たり前かもしれない。

 

「だが、どうして俺があそこまで言われなければならんのだ……」

 

 既婚者のルースに言われるならまだしも、サイトウや創司にまでしたり顔で説教されたのが、また腹ただしい。むきになったラルフが、じゃあお前らはまともな恋愛経験があるのか、と聞いたところ、サイトウから変なディスクを渡された。

 

「それにしても、これは意味があるのか……?」

 

 なんでも最近発売され、日本で大ヒットを記録しているソフトらしい。ピンクの可愛らしい丸文字で『霊使い、ぷらす!』とタイトルが書いてある。

 サイトウ曰く、これで女心を掴む術がばっちり分かるそうだ。創司とルースも既にプレイ済みらしく「お前ら誰派?」「エリア派です」「俺アウスだわ」「うわ、ないっすわ。ヒータちゃん一択でしょ」「は!?」と軽く揉めていた。その混乱に乗じて逃げ出してきたので、ある意味このソフトには感謝しなければなるまい。暇な時間が出来たらプレイしようと思い、ラルフはソフトを鞄にしまいこんだ。

 

「……さて、帰るか」

 

 ヘルメットを被り、キーを差し込み、愛車のエンジンをスタートさせる。インダストリアル・イリュージョン社からラルフの家までは、大体30分くらいだ。

 前は会社に泊まり込むことが多かったのに、こうして毎日帰ろうと思えるのは、やはりフィーネの存在が大きい。ぎこちない笑顔でも「お帰りなさい」という言葉が聞けるのは嬉しいものだ。それが惚れた女なら尚更である。

 ラルフは決心した。

 ルース達に言われるまでもない。今日はきちんと夕食を作って、2人で食べよう。なにか土産を買っていくのもいいかもしれない。

 いつもより少しだけ楽しい気分で、ラルフは暗くなり始めた街を愛車で疾走した。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 結果から言えば、帰宅したラルフを待っていたのは凄まじい惨状だった。

 まず玄関の扉に手を掛けた時点でおかしいと思った。

 

「鍵があいている……?」

 

 フィーネは1日中家にいるはずだから、鍵のかけ忘れはあり得ない。

 泥棒ではない……まさか強盗か。

 

「フィーネッ!」

 

 扉を開き、ラルフは絶句した。なぜか廊下には靴が散らばっており、床は水浸し。雑巾やバケツ、靴磨きのスプレーまで散乱している。

 

「フィーネ、どこにいるっ!」

 

 手前のフィーネを部屋を開けるが、誰もいない。が、ここにもパジャマと毛布、それにカードが散乱していた。

 頭が芯まで冷えていく。やはり強盗なのか。

 

「くそっ」

 

 無事でいてくれ。頼むから無事で。頭に思い浮かんだ最悪の事態を振り払う。

 水浸しの廊下を駆け抜け、ラルフはリビングの扉を蹴り開いた。

 

 

 

「……わたし、頑張ろうとしたんです。でも、でも……こんなになっちゃって……」

「しょうがないさ。誰にだって失敗はあるんだよ」

 

 

 

 結論から言えば、強盗なんていなかった。

 玄関、廊下と同じく、しっちゃかめっちゃかになったリビングの中央には、泣きじゃくって座り込んでいるフィーネと、それを慰めている褐色の女性がいた。

 

「どういう……ことだ?」

 

 安心感と、違う意味の衝撃から、ラルフは手に持っていた食材とお土産(新パック3つ)を取り落とした。

 

 

 

「……つまり、フィーネは部屋の掃除をしようとしてこうなった、と?」

「まあ、そういうことだね」

 

 ミーサ・ギャルソンはうんうんと頷きながら、持ってきたお茶を啜った。彼女は隣の部屋に住んでいる年配の女性であり、ラルフもなにかと世話になっている。というか、いつも一方的に食材やらなにやらをお裾分けしてくるので、いつの間にか年の離れた茶飲み友達になっていた。

 1週間前にラルフのところにフィーネが来たことも、ミーサは把握している。

 

「びっくりしたわよ、なんかすごい音がしたもんだから。心配になって私がノックしてみたら、涙目のフィーネちゃんが出てきてねぇ……あんたの彼女さん、かわいいけど、家事はちょっと苦手みたいだね」

 

 ミーサはころころと笑っているが、今の発言は部屋の隅で体育座りしているフィーネにクリーンヒットしているハズだ。ちらりと見てみると、縮こまっていた肩がさらに小さくなっていた。

 

「それにしてもこれは、どうして……」

「ホントにねぇ……なにをどうしたらこうなるんだろうね。ちょっとひどいね、こりゃ」

 

 ミーサは昔教師として働いていたせいか、駄目なところははっきり駄目と言う節がある。退職した今も孤児院に通って子供達の面倒をみているらしい。

 

「ほら、あんたも隅っこでイジけてないで、こっちおいで」

「うぅ……はい」

 

 泣き腫らした目をこすりながら、フィーネはラルフ達がいるソファーに座った。顔も涙でぐちゃぐちゃだが、絹糸のように綺麗な髪も、この惨状を作り出す過程で乱れに乱れている。

 

「じゃ、なにをしたのか話してごらん」

「ぐすっ……この家に来てから私、なにもしてなかったので……せめて家事くらいは役に立とうと思って……」

 

 まずは部屋の掃除をしようと思い、フィーネは掃除用具を探したそうだ。バケツと雑巾を見つけ、廊下をピカピカにしよう、と張り切っていた。ついでに靴も磨くつもりだった。

 

「でも、ご飯も作ったら、ラルフさんは喜ぶかなって思って……」

 

 次に、鍋でシチューを作ろうとし、野菜を煮出した。掃除が終わってからやればいいものを、時間短縮になると思ったらしい。

 ちなみに台所は今、吹き零れた野菜と散らばった残りカスでカラフルに彩られている。もちろん鍋は黒焦げだ。

 

「……フィーネ、お前はシチューを作ろうとしたのか?」

「はい……一応」

 

 台所を見たところ、『ブルーポーション』か『レッドポーション』を作ろうとして暴発したようにしか思えなかった。

 どんな調理手順で作ろうとしたかも問い詰めたかったが、これ以上フィーネの精神ポイントを削ってもしょうがないので、追求するのはやめておく。

 

「それで……廊下の拭き掃除に戻ろうと思ったんですけど、電灯が汚れているのが見えて拭こうとしたんです。でも私、野菜を煮る時にセットしたタイマーの音に驚いちゃって……」

「で、乗った椅子ごと台所の方に倒れちゃったってわけかい?」

「はい……」

 

 なるほど。これでカウンターテーブルのコーヒーメーカーが大破していた理由も理解できる。フィーネに怪我がなかったのがなによりだが、それでもショックは隠し切れず、ラルフはがっくりと頭を垂れた。

 

「駄目だよ、火を点けている時はそこから離れちゃあ……ちなみに何分くらい離れてたんだい?」

「え……と。適当にタイマーをセットしたから思いだせません……」

 

 一体何を測るためにタイマーを使ったのだろうか。

 

「まぁ……あとは大体分かるね。落っこちて痛がってる間に鍋が沸騰して……」

「……熱かったので水を掛けて冷やそうとしたら……バケツに足を突っ込んで転びました……ごめんなさい」

 

 もはやどこから突っ込んでいいのか、見当もつかない。

 

「本当にごめんなさい……」

 

 自分がしでかしたことを思い返し、フィーネはまた涙目になりかけている。ラルフも慰めてあげたいのだが、どこからフォローすればいいのか分からない。掃除と料理をしようとしだけで、これだけの事故のコンボに繋げるのは一種の才能にすら思える。

 

「ねぇ、ラルフ?」

「……なんだ、ミーサ?」

「あんた、ドジッ子好きなのかい?」

 

 ラルフはずっこけた。まさか60を過ぎたばあさんの口から、そんな言葉が出てくるとは。思っても普通は口に出さない。

 その表現が的確なこの状況も、色々とおかしいのではあるが。

 

「……別に俺にそんな趣味はない。彼女とはゲームを通じて知り合ったが、対戦している時はもっと凛としていた」

 

 凛とした表情以外に、人を殺せそうな笑顔などもたっぷり見ているのだが、そこは割愛する。

 

「なるほどねぇ。フィーネちゃんの家事の壊滅具合は、ラルフもはじめて知ったってわけかい」

「まぁ……そうなるな」

「……すいません。実は私、包丁も握ったことがなかったんです」

 

 羞恥で顔を真っ赤に染めて、フィーネは言う。それで料理をしようとしたのが、またすごい。

 

「……あんた、すごい個性的な子を連れてきたね」

「うるさい。母親じゃあるまいし、そんなことを言われる筋合いはない」

「なぁにを言ってんだい。ラルフは私の息子みたいなもんだよ」

「勝手に俺と血縁関係を結ぶな!」

「でもまぁ、アレだね。ラルフが息子なら、フィーネちゃんは私の娘みたいなもんさ」

「人の話を聞け!」

 

 ラルフの言葉は全てスルーし、ミーサはフィーネに向かってにっこり笑った。

 

 

「掃除やら料理やらは、これから私がじっくり仕込んでやるから、覚悟しなよ」

 

 

 一瞬呆気にとられたフィーネだったが、言葉の意味を理解し、居住まいを正した。

 

「はい! よろしくお願いします、ミーサさん」

 

 笑顔が戻ったフィーネを見て、ラルフはほっとした。

 やはりどんな理由でも、フィーネに泣かれるのは居心地が悪い。

 笑顔でいてくれるなら、それに越したことはない。

 

 

「……ところでミーサさん?」

「なんだい?」

「私、働きたいんです。ラルフさんの迷惑や負担にならないように。今の私でも、どんな仕事ならできると思いますか?」

 

 ラルフとミーサは顔を見合わせた。あまり言いたくはないが、ラルフはフィーネが履歴書に書かなければならないであろう経歴を思い浮かべ。

 ミーサは部屋の惨状をあらためて見渡し。

 

 

「「まだはやい」」

 

 

 重なり、完璧にシンクロした2人の言葉を聞き、フィーネは撃沈した。

 




次回予告があったな。アレは嘘だ(土下座)


すいません。アカデミア設立準備編に入る前に、4~5話の間章を挟みます。とっとと話を進めろよ!と思う方もいるかもしれませんが、シリアスを書き疲れた作者にお付き合いください……

あ、ちなみに霊使いはエリア派です。モンスターとタッグを組めるようなギャルゲー……じゃなくて、タッグフォースは出ませんかね?
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