ルール改定に駆けた男のロード   作:龍流

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35.「作っちゃいました」

 会社には忙しい時期がある。いわゆる繁忙期という期間がそれに当たるが、数年前に比べてラルフが統括する『ルール開発部』の業務進行は、比較的余裕が出てきていた。

 バトルシティ以後、穴だらけ、矛盾だらけ、特殊処理だらけだったルールを煮詰め続けて3年。デュエルモンスターズのルール整備は、一区切りがついたと言っていい段階に到達した。少なくとも、テキスト外の効果はもう存在しない。ラルフの悲願だった誰にでも分かるルールの基準を、ようやくはっきり定めることができたのだ。

 

「……ふむ」

 

 人が少ないオフィスの中で、ラルフは顎に手を当ててコンピューターの画面を見詰めていた。表示されているのはネット上の大型掲示板の1つ。スレッド名、俗に言う『スレ』のタイトルは『昔の決闘ってよかったよな……』となっている。

 分かりやすいルールの整備は大多数の決闘者に受け入れられたが、世の中にはニーズというものがある。昔のデュエルモンスターズの方が面白かった、と言うユーザーが一定数存在しているのも事実であり、このスレには『旧ルール』を支持する書き込みが多数されていた。

 

『最近のデュエルモンスターズは何が起こるか分からない、ハラハラ感が足りない』

『TRPGっぽさがなんとも言えなかった』

『属性相性とか楽しかったよな』

『月落としてぇ……』

 

 等々。

 

「……むぅ」

 

 ラルフは呻いた。

 ゲームを制作する者として、プレイヤーの意見を取り入れ、参考にするのはとても大切なことだ。プレイヤーの望むゲームを作っていくことが、制作者の義務なのだから。

 

 しかし、残念ながらこれは実現できない類いの要望だ。

 

 良く言えば自由度が高い、悪く言えば『なんでもあり』なルールは、それだけで混乱を招く。

 やっとここまで漕ぎ着けたのだ。今さらルールを昔に戻すことなどできるわけがない。

 要望が多いのは事実だが、切り捨てるしかない。ラルフは溜め息をついた。

 

「ラ~ルフ先輩ッ!」

 

 若干沈んでいた気分は、無遠慮な呼び声に水を差された。振り向かなくても分かる声の主を思い浮かべ、ラルフはまた溜め息を吐く。浮かんできた感情はただひとつ。

 

 めんどくさい。

 

「……何だ、サイトウ?」

「なんすか? その如何にも『めんどくせぇ』と言いたげな顔は? ちょっとひどくないですか?」

「分かっているなら面倒事を俺に持ち込むな。それとも今回は頭を痛めずに済む案件なのか?」

「あ、実は今回もラルフ先輩にお願いがあってですね……」

 

 それみたことか。

 予想通りの言葉に、ラルフは頭を抱えた。サイトウの『お願い』はいつもロクなものがない。このボサボサ頭の白衣オタクは仕事はできるのだが、常に事件の台風の目だ。

 

「なんだ? 今日はなにをしたいんだ?」

「ちょっと『デュエルリング』をお借りしたいっす」

「……駄目だ」

 

 3秒悩んで却下した。

 

「なんでっすか!?」

「……前にソリッドヴィジョンを使って、18禁モノの映像を垂れ流したのは、どこのどいつだ?」

「……あははは。アイツ、ソイツ、コイツ、ドイツ? ……なんちゃって?」

「貴様だろうがぁあああ!」

 

 テーブルを拳で叩き、ラルフは吠えた。爆発した怒りに、サイトウは身を縮める。

 ちなみに前回は『デュエルモンスターズのソリッドヴィジョンでエロゲーを作ることはできるのだろうか?』という疑問に真正面から挑み、馬鹿正直に立体投影したことで、社内に嵐が巻き起こった。具体的には女性社員は悲鳴をあげドン引きし、男性社員は無言で見入っていた。ラルフが仲介に入らなければ、サイトウは減給どころでは済まなかったかもしれない。

 

 

「はい! すんませんでしたぁー!」

「反省しているのかっ!?」

「はい、反省しております。だからお願いです、『デュエルリング』を使わせてください!」

 

 直立不動の姿勢から、サイトウは90度頭を下げる。いつも猫背な男が見せた真摯な態度に、ラルフも若干溜飲が下がった。

 

「……何に使うんだ?」

「きっとラルフ先輩も興味があるものっすよ」

「俺も興味があるもの?」

 

 顔を上げ、ラルフが開いていたパソコンをちらりと見てサイトウは笑った。

 

「社内の有志で開発した、デュエルシミュレーターっす」

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

「ふっふふ……よく来たな、ラルフ・アトラス」

 

 ラルフとサイトウが『デュエルリング』に赴くと、ステージには既に先客がいた。

 

「ラルフよ。今持ち得る最高の戦術で挑んできな……だが、俺のデッ……」

「サイトウ、説明を頼む」

「ういっす!」

「おい! 最後まで言わせろよ!」

 

 『武藤遊戯』のモノマネをしていたルースは、2人にスルーされてガックリと肩を落とした。

 

「なんだよ、つれないじゃねぇか……久々に対戦するんだから、ちょっとはノッてくれてもさぁ……」

「ラルフせんぱーい、まずは渡したパネルをテーブルのコネクタに接続してほしいっす」

「うむ、分かった」

「ガン無視かよ!?」

 

 ガーン、という効果音が出そうなルースは無視して、ラルフは準備を進める。正直言って馬鹿2人を同時に相手にするのは骨が折れる。ラルフの堪忍袋がキャパシティオーバーだ。

 

「よし、画面が出たぞ」

「じゃ、ラルフ先輩の好きなように、サクサクっとカードをチョイスしてください」

 

 ボタンを操作すると、大量のカードが表示されている画面に切り替わった。今はモンスターカードがずらりと表示されているが、ラルフはその画面を見て違和感を覚えた。

 

「効果モンスターがほとんどいないのはどういうことだ? 通常モンスターばかりじゃないか」

「あー。それはこっちで用意したソフトの容量不足のせいっすね」

「……容量不足?」

「まぁ、それはあまりお気になさらず、とにかくカードを40枚選んでください」

 

 なにやら歯切れの悪い物言いが気に掛かったが、とりあえずラルフはカードを選ぶことにした。画面を操作してカードを選ぶというのは、なかなか新鮮である。これで決闘を行うというのだから、確かに発想は面白い。サイトウが自信ありげに、ラルフが興味を持つと言ったのも頷ける。

 

「……よし、とりあえずこれでいいだろう。準備はいいか、ルース?」

「ん? ああ、ハイハイ。じゃあ始めますかね?」

 

 完全にやる気をなくしていたルースが顔を上げる。ちょっと悪いことをしたな……と思わないでもない。

 

「……ルース」

「あーなんだよー? 別に俺は拗ねてませんよー?」

 

 

「俺に勝ったらカフェテリアで昼飯を奢ってやろう」

「よぉし! 絶対勝つ!」

 

 一瞬でやる気を復活させ、ルースはにっと笑った。つくづく単純な男である。

 もちろんお前が負けたら俺に奢るんだぞ、とラルフは口には出さない。

 

「よし、ではいくぞ!」

「ヘイ、カモン!」

 

 リンクしているソフトのシミュレーターが起動し、同時に『デュエルリング』のソリッドヴィジョンシステムも起動する。

 

 

「「決闘!」」

 

 

ラルフ LP2000

ルース LP2000

 

 

「ん!?」

 

 ライフカウンターを見て、ラルフは口から思わず声を洩らした。

 

「どうしたぁ? なんかあったか?」

「……ライフポイントの数値がおかしくないか?」

「いや、これでいいだろ。じゃ、俺の先攻、ドローっと」

 

 質問をしてもルースは軽く流し、ターンを始めた。その口元が軽くニヤついていることに、ラルフは気付けなかった。

 

「まずはコイツだ! 『砦を守る翼竜』」

 

 

『砦を守る翼竜』

レベル4

風/ドラゴン族

ATK1400/DEF1100

 

 

 青い体躯のワイバーンがフィールドに現れる。

 

「おぉ……こっちのソフトとソリッドヴィジョンシステムのリンクも問題ないようっすね。よしよし」

 

 ニコニコと笑顔を浮かべてサイトウが言う。

 

「俺はこれでターンエンド。さ、お前のターンだぜ?」

 

 モンスターを1体出しただけでターンを終えたのは、カードプールが不足しているからか。

 若干警戒レベルを吊り上げつつ、ラルフはカードをドローした。もっとも、ドローと言ってもドローを行うボタンを押すだけだ。これは少々味気ない。

 

「俺は『ミノタウルス』を召喚! そのまま攻撃だ、いけ!」

 

 

『ミノタウルス』

レベル4

地/獣戦士族

ATK1700/1000

 

 

 半獣の凶戦士は斧を振り上げ、翼竜に挑みかかる。あの海馬瀬人も使用していたカードだけあって、能力値はそれなりに高い部類に入る。

 普通に戦闘を行えば、このまま『砦を守る翼竜』は撃破だ。

 

「ふっふふ……ラルフよ。ここはこのセリフを言わせて貰うぜ」

「なに?」

 

 ――普通に戦闘を行えば。

 

「それはどうかな?」

 

 ルースが得意気に笑ったのと同時、翼竜は翼を広げて宙に舞い、『ミノタウルス』の斧を回避した。

 

「……は?」

 

 もう1度言おう。『回避』したのである。

 

「……これ……は?」

「おいおいラルフくん。地上戦闘で斧が武器の『ミノタウルス』で『砦を守る翼竜』に挑みかかっちゃ駄目だろぉー」

 

 まさか、まさか。ラルフの背を嫌な汗が伝う。

 

「しっかりしてくれよ。『砦を守る翼竜』は『飛行モンスター』だぜ?」

 

 久しく耳にしていなかったその単語を聞き、ラルフはようやく自分が置かれている状況を理解した。

 

「……サイトウ……ルース。貴様ら、ぐるになって俺を嵌めたな……」

「はてさて、なんのことやら」

「大丈夫っすよ、先輩。ちゃんと『砦を守る翼竜』の『回避率30%』は機能してるっす。ご安心ください!」

 

 

 

 ラルフは目眩を覚えた。それが大いに『大問題』である。

 ラルフは対戦相手であるルースから、観客席のサイトウの方へ向き直った。

 

「い……一応確認を取るぞ?」

「はいはい、何でしょうか?」

「このデュエルシミュレーターは……『旧ルール』を採用しているのか?」

 

 苦悶の表情を浮かべながら問うたラルフに、サイトウは満面の笑みで答えた。

 

 

「イエース。その通りっす。ほら、操作画面のはしっこを見てください」

 

 サイトウに促されて画面を見てみると、端の方にこのソフトのタイトルが薄く表示されていた。

 

「ちゃーんと『ReturnofKingdom』っていうタイトルが出てますよね?」

 

 こんなもの、注意して見なければ分かるわけがない。

 

「いやーちょっと今回は張り切りまくってですねぇ……『旧ルール』もとい『王国ルール』のゲームを作っちゃいました」

「……ど、どうしてこんなものを……」

「え? だって……」

 

 首を傾げながら、しかしサイトウははっきり返答をした。

 

「これはこれで楽しいじゃないっすか?」

 

 作るのにどれだけ掛かったのかとか、どうやって作成したのかなど、ツッコミどころは大量にある。

 が、だがまぁ……楽しいと思ったから作ったという姿勢は、評価してもいい気がする。

 呆れながらも、ラルフは内心感心した。

 

 だが、しかし。忘れてはならないのは、

 

「よぉし、ラルフが納得したところで俺のターン! 俺は手札から『魔霧雨』のカードを発動! さらに『エレキッズ』を召喚してコンボ攻撃だ!」

 

 まだ決闘中だということだ。

 

「ちょ……ちょっと待てルース! 久しぶり過ぎてカードの特性が……」

「問答無用! 『エレキッズ』の電撃攻撃をくらぇええ!」

「うおおおぉ!?」

 

 とりあえずこのソフトをどうするかは、昼飯を奢ってから考えることになりそうだった。

 




ちょっと短めで申し訳ないです。地味に次回に続きます。

【次回に向けての王国ルールのおさらい】

1.ライフ2000で直接攻撃なし。
2.直接攻撃がなくても、守備モンスターを出さないと負けになる(っぽい)
3.属性の相性やフィールドパワーソースがある。油断していると強引に融合されて属性反発作用でモンスターがやられるので、わりと重要。
4.効果でモンスターが破壊されてもライフが減る。『ミラーフォース』で破壊されてももちろん減る。
5.モンスターを魔法・罠ゾーンに伏せることができる(時の魔術師など)。アーティファクトじゃなくても大丈夫。
6.場に出したカードには要注意。月や城を落とされる可能性もあり。
7.モンスターには隠された効果がある。正しく把握し、プレイヤーは適切な指示を心掛けよう。


以上。次回も王国ルールでデュエルスタンバイ!
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