ルール改定に駆けた男のロード   作:龍流

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更新遅れてすいません!
先週から始まった遊戯王アークファイブディーズにハートがバーニングソウルし、5Dsをちょっと見返してました(姑息な言い訳)


36.「もう詰んでいるんだよ」

「しっかし、今回も面白いもん作ったよなぁ、サイトウは」

 

 昼下がりのカフェテラス。目玉スイーツである『キングダムパフェ(1200円)』をスプーンで崩しながら、ルースはサイトウを誉め称えた。

 

「はっははー。それほどでもあるっす」

「ふん。貴様は少し自重というものを覚えろ」

 

 上機嫌なサイトウとは対称的に、ラルフは腕を組んで眉間に皺を寄せていた。ルースが昼食にデザートまで付けたので、予想以上の出費になったのだ。

 

「負けて不機嫌になるなんて、ラルフ先輩もまだまだ子供っすねー」

「そもそも不公平だ! ルースには事前に説明していたくせに、どうして俺にはなかったんだ!?」

「いやー。ラルフ先輩は『ルール開発部』のリーダーですからね。デュエルモンスターズのルールには新旧問わず、当然精通していらっしゃるものかと……」

「どんな嫌みだ!?」

 

 鼻息荒くサイトウを一喝し、コーヒーを煽る。心なしか、いつもより苦い。

 

「でもまぁ、発想自体はかなり面白いと思うぜ? 俺も『王国ルール』で戦えて懐かしい気持ちに浸れたしな。ラルフだってそう思うだろ?」

「それは否定せんが……しかしサイトウ、どうしてこんなものを作った?」

「だからさっき言ったじゃないすか。面白そうだったから作ったって。そもそもラルフ先輩だって、ネットの掲示板をみて眉根寄せてたでしょ? 『王国ルール』も面白いって意見があることは、こっちでもリサーチ済みっす」

 

 まさか、そこまでみられていたとは。溜め息をつき、ラルフは天井を仰いだ。

 

「……それで? このソフトは一般販売まで持ち込む気なのか?」

「うーん。片手間に作った割には、ウチの開発チームとこっちの開発チーム……両方のメンバーが協力したおかげで、いい出来には仕上がったと思うんすよ」

 

 サイトウが言うウチのチームというのは、海馬コーポレーションの社員達を指す。ゲーム開発のスペシャリストである海馬コーポレーションとインダストリアル・イリュージョン社が協力すれば、それなりのゲームが作成できることは当然とも言えた。

 

「いや、それにしても片手間で作っちまうのがすげぇよ。他の仕事もあっただろうに……」

「コイツの場合はサボりまくっているがな」

「あははは。まぁ、俺の話は置いといて……実はこのソフト、ちょいと問題もありましてね……」

 

 ラルフのさりげない追求から逃れる為、サイトウはキーボードを叩いてディスプレイの画像を切り替えた。

 

「これをみて貰えれば分かると思うんすけど、このゲームはかなり容量がギリギリなんですよ」

 

 近年、コンピューター関連の技術は目覚ましい進歩を遂げているが、本来『王国ルール』の『決闘』は大型の『デュエルリング』を本社サーバーと接続して行っていた。そのデータ量は莫大なものであり、現在の『決闘盤』を用いた決闘も海馬コーポレーションの通信衛星を通じて、本社ビルの『デュエルリングサーバー』からデータを引き出している。

 『ソリッドヴィジョンシステム』を使用した決闘は、最新技術の塊と言って間違いない。

 

「そんな莫大なデータ容量を、こんなディスク1枚に納めるなんて不可能っす」

 

 サイトウは見せびらかすようにして、パソコンからディスクを取り出す。それをみて、ラルフは首を傾げた。

 

「だが事実、そのパソコンを『デュエルリング』に接続して、さっきは決闘をしたではないか」

「確かになぁ。収録カードが少ないのも、データ容量ギリギリだっていうなら納得できるぜ。でもちゃんとデッキを組める程度には、カードデータも入ってるだろ?」

 

 ルースも疑問の言葉を重ねる。分からない、という言葉を素直に口にしない2人に向かって、サイトウはニヤリと笑いかけた。

 

「おふたりにも分かるように説明すると、俺達が作ったソフト、要するにこの『ディスク』にはソリッドヴィジョンのデータは一切入ってないっす」

「入って……いない?」

「……ああ。なるほど、そういうことか」

 

 ルースはいまだにちんぷんかんぷんといった様子だが、ラルフは納得して頷いた。これでサイトウが『デュエルリング』を使いたいと駄々をこねた理由も説明がつく。

 

「要するにお前達が作った『ソフト』は、プレイ中のゲームの『結果』だけを演算する、ということか?」

「正解っす」

「え、なに? どういうことか全く分かんねぇんだけど……」

「そんなに混乱することはないぞ、ルース。例えばこのソフトを『デュエルリング』に接続せずに、そのままプレイしてみたとする」

 

 サイトウからパソコンを受け取り、ラルフはソフトを再びセットした。先ほどの決闘のデータを呼び出し、リプレイしていく。

 

「うわ……なんだこれ? 文字の羅列が出てくるだけじゃん」

「だから言っただろう。この『ソフト』単体で決闘をプレイした場合、結果だけが処理されていくんだ」

 

 画面にはいくつかの項目が表示されている。モンスターの戦闘結果、攻撃力の変動、カードの組み合わせによる特殊処理などだ。それらが文字で表示され、画面を流れていた。

 

「なんか……なんかこう、味気ないなぁ……」

「そうっすよねー。これじゃまるでTRPG(テーブルトークアールピージー)っすよ。あれはあれで面白いですけど、文字だけだとデュエルモンスターズの魅力は半減っす」

「だから『王国ルール』のシステムが残っている『デュエルリング』に接続して、ソリッドヴィジョンのデータを取りたかった、というわけか」

「そういうことっす。でもぉ……まだデータが取り足りないんですよねぇ……」

 

 サイトウは上目遣いにラルフを見上げた。女がやれば魅惑的だが、男にやられても気色悪いという感想しか浮かんでこない。

 

「……だから?」

「これはもういっそのこと、製品化に向けて一致団結するということで、社内で『王国ルール』の決闘大会を開いたらどうっすか?」

 

 また随分と、奇抜な提案が飛び出してきた。

 

「……決闘大会か」

「いいじゃん、いいじゃん。面白そうじゃん。俺は賛成だぜ!」

「ですよねー。ルース先輩もそう思うっすよねー。絶対盛り上がるっすよ」

「だが、業務に支障が出ては本末転倒だぞ? そんな時間をいつ作る?」

「固いこと言うなよ。そこら辺のスケジュール調整はラルフなら出来るだろ?」

「そうっすよー」

「貴様ら……何でもかんでも俺にぶん投げおって……」

 

 ピキ、とラルフの額に青筋が浮かぶ。こういった社内全体を巻き込んだレクリエーションのような企画は、まずセッティングが大変だ。ラルフの心のメーターは『面倒臭い』という方向に振り切っている。どうせ、関係各所との予定の擦り合わせに苦労するのは自分なのだ。

 ここは2人を説得して、大人しく普通にコツコツとテストプレイをさせようと、ラルフは心に決めた。

 

 

 

「Oh……それはとても楽しそうデース」

 

 しかし、現実は残酷だ。

 聞き慣れた、というより聞き間違えようのない特徴的な声が背後から響いた。まるで油が切れたロボットのように、ラルフはゆっくりと振り向く。そして、驚愕でまたフリーズした。

 

「ペ、ペガサス会長……どうしてここに?」

「私は先ほどからワインとチーズを楽しんでいたのデース。たまにはカフェテラスで社員達と触れ合うのも、会長として大事なことデース」

 

 グラスを掲げて、ペガサスはにこやかに笑う。もう一方の手には、読みかけのコミックが握られていた。

 

「ははは……い、いつから居られたのですか?」

 

 なんとか顔に笑みを貼り付け、ラルフは問う。

 

「ノープロブレム。心配ありませんよ。ユー達の話は最初から最後まで聞かせて貰いました」

「……そうですか。はは……」

「ペガサス会長! ど、どうでしょうか、コレ!? 採用して頂けないでしょうか!」

 

 薄っぺらい笑顔が剥がれつつあるラルフを押し退けて、サイトウが前に出る。多忙なペガサスに直談判できる機会など早々ない。

 遠慮もなしに突き出されたディスクを、ペガサスはあっさり受け取った。

 

「もちろんデース。こんな面白いアイディアを逃す手はありまセーン。通常の決闘とはルールも違って、差別化が図られているのもグッドなポイントデース」

「ありがとうございます!」

「海馬ボーイには私から話しておきまショウ。本格的に開発チームを召集してくだサーイ。人選はユーに一任しマース」

「分かりました!」

 

 とんとん拍子に話は進んだ。ぽん、とサイトウの肩を叩き、ペガサスは自分の席に戻っていく。

 よし、これはセーフか。ラルフは安堵の息を吐いた。

 

「ああ、そうそう。いい忘れていました。データ収集の為の社内大会、あれも面白そうだからやりまショウ」

 

 フェイント。振り向いたペガサスが言った内容を聞き、再び体が固まる。

 

「もちろん、スケジュール調整とその他諸々はラルフに一任しマース」

 

 分かっていない。その、その他諸々がどれだけ大変なのか、この人は全く理解していない。

 イベントが大好きな会長に反論することも出来ず、やらなければならないことを想像して、ラルフは膝から崩れ落ちた。

 サイトウとルースが満面の笑みだったのは、言うまでもない。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 ――2週間後。

 

 

「さぁ、非常に盛り上がっております! インダストリアル・イリュージョン社、社内大会!」

 

 この日の為に整えたという特徴的なモヒカン頭を振り乱して、実況役のMCが熱く叫んだ。

 普段はテストに使用している『デュエルリング』の周りは、社員達で埋め尽くされている。

 

『現在、11ターン目! 状況はルール開発部リーダー、優勝候補のラルフ・アトラスが一歩リードか。解説のアーサー社長はどう思われますか?』

『ふむ、確かに盤面の状況はラルフのリードだ』

 

 MCと一緒にアーサーは解説席に違和感なく溶け込んでいた。多忙な社長が直々に解説を担当しているのは、かなり珍しい光景だ。

 ちなみに、本来そこに座るはずだったペガサスの姿はない。「私も昔の『トゥーン』で出場しマース!」と駄々をこねた為、アーサーによって執務室に放り込まれたのだ。今頃は執事のミスタークロケッツの監視の下、書類とにらめっこをしているだろう。

 

 

『だが、相手はデザイナーの中でも屈指の実力を誇る『ディル・フェニックス』だ。このまま終わるとも思えん』

『フェニックスさんは最近新作のシリーズモンスターもデザインしている、ベテランデザイナーですからね。このターンで逆転をみせてくれるでしょうか!?』

 

 解説から意識を戻し、ラルフは対戦相手を見据えた。人の良さそうな彼は、リングの向こう側で微笑んでいる。

 

「やれやれ。アーサー社長もハードルを上げてくれたな。このまま負けるわけにはいかなくなってしまったよ」

 

 ディルはそう言いながら、指を軽やかにはしらせる。

 

「魔法発動『死者蘇生』だ。このカードのエフェクトにより、セメタリーからモンスター1体を蘇らせる。舞い戻れ『スーパー・ウォー・ライオン』」

 

 赤い鬣を翻し、獣人となった獣の王は吠える。

 

『スーパー・ウォー・ライオン』

地/獣族

ATK2300/DEF2100

 

『なんと! ここで獣族最強レアカード『スーパー・ウォー・ライオン』がまさかの復活だ!』

『ラルフも先ほどは倒すのに苦労していたからな。こういったレアカードを使えるのも、このゲームの面白いところだ。しかし、この場面で『死者蘇生』は大きいぞ』

 

 そんなことは言われなくても分かっている、とラルフは愚痴を言いたくなった。

 

「バトル!『スーパー・ウォー・ライオン』で『炎の剣豪』に攻撃! キング・オブ・ウォーロード!」

 

 獣の王は受けた雪辱を晴らす為、フィールドを駆ける。鋭い爪と牙が、ラルフの目前まで迫った。

 

「やらせん! 罠発動『シフトチェンジ』」

「なに!?」

「攻撃対象をセットされているモンスターに変更する!」

 

 攻撃の軌道は変わらず、けれど『炎の剣豪』は一瞬で姿を消し、入れ替わったセットモンスターに爪が突き刺さった。

 

「かわされたか……やるじゃないか、ラルフ」

「ふっ……悪いな、フェニックス。それだけではないぞ?」

「ん? ……これは!?」

 

 ディルは目を疑った。『スーパー・ウォー・ライオン』が破壊したはずのセットモンスターから『腕』が伸びていた。醜い土気色のそれは、獅子をがっちりと掴んでいる。

 

『死者の腕』

レベル2/闇/アンデット族

ATK600/DEF600

混沌の沼から腕をのばし、生ける者を中へと引きずり込む。

 

「しまった……私のウォーライオンを沼に引きずり込む気か!?」

「そういうことだ」

「くっ……だが、たかが低級モンスターの能力でウォーライオンを倒せると思うな! 振り切れ、ウォーライオン!」

 

 沼に嵌まった『スーパー・ウォー・ライオン』は主の命令に従い、なんとか脱出しようともがく。だが、混沌の沼は獅子の王を倒すことは出来なくても、確実に力を奪っていく。

 

『スーパー・ウォー・ライオン』

ATK2300→1800→1400

 

「沼に足を取られて……ウォーライオンの攻撃力が下がるっ!?」

「もう遅い! 俺のターン、バトルだ!『炎の剣豪』で『スーパー・ウォー・ライオン』を攻撃! 炎刀一閃!」

 

 動けない獅子の首を狩るのは容易い。炎を宿した日本刀が閃いた。

 

ディル LP300→0

 

『決着ぅうう! 準決勝を制したのは、ラルフ・アトラスだぁああ!』

 

 

 

 テンションが高過ぎる実況に、ラルフは思わず苦笑いした。リングを降りて、ディルと握手を交わす。

 

「ありがとう。いい決闘でした」

「こちらこそ。私もエドにいいところを見せたかったんだが……残念、及ばなかったよ」

「……それはなんというか、お父さんを負かした俺がエドくんに嫌われそうだ」

「あははっ。私としては、君がこんな決闘の機会を作ってくれただけでも嬉しいよ。大変だったろ?」

「それはまぁ……色々と」

 

 暖かい言葉が身に染みる。全く、筆舌に尽くしがたい苦労があった。

 

「頑張ってくれ。優勝したら豪華景品だろ?」

「……正直に言うと、それを狙っている」

「私としても、君が優勝してくれた方がエドに言い訳がつくよ」

「フェニックスさんも新シリーズのカードデザイン、期待していますよ」

「ああ、ありがとう」

 

 ディル・フェニックスは片手を挙げて応じると、足早にリングから離れた。これから観客席でグズっている息子を慰めに行くのだろう。彼の家は父子家庭だと聞いている。

 父親を倒した悪役(ヒール)になった気がして、ラルフはなんとなく申し訳ない気持ちになった。

 

「よぉ、ラルフ。決勝進出おめでとさん!」

「……ルースか」

 

 ディルと入れ違いにルースがやってきた。ラルフと同じく、これから準決勝だ。

 

「流石だな。きっちり決勝まで残ってるじゃねぇか」

「ふん、当たり前だ」

「俺に負けたくせによく言うねぇ」

「最初からルールが違うと分かっていれば、俺は負けんぞ。絶対にだ」

「おお、いいねいいね。その強気は嫌いじゃないぜ」

 

 ラルフの言葉を聞くとルースは頷き、拳を前に突き出した。

 

「せっかくのお祭りだ。ルールは違っても、条件は同じで真剣勝負だ!」

「いいだろう。先に待っているぞ」

 

 拳を合わせ、リングに上がっていくルースをラルフは見送った。

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

「ぐぁああああ!?」

 

 

『決着ぅうう!? これは大波乱! ルール開発部同士の対決になると思われていた決勝戦、ルース・フォックスターがまさかの敗北!』

『意外な展開だ。しかし身内事になるが、私も少し嬉しい』

『はい! 決勝戦進出を決めたのは、アーサー社長の甥、カード開発部チームリーダー『ジョン・ハイトマン』さんです!』

 

 あまりにも早い決着。飲み物を買って戻ってきたラルフは、呆気に取られて缶コーヒーを取り落とした。

 すぐに我に返り、観客席代わりのスペースから、階段を使って足早に『決闘リング』がある階へ降りる。

 そのまま進んでいくと、とぼとぼと歩いて来るルースが視界に入った。腹に力を入れて、ラルフは力の限り吠えた。

 

「何を負けとるんだ貴様ぁ!」

「いや……マジすんません」

 

 やっぱアレは死亡フラグだったか……と、ルースは訳の分からないことを呟いている。

 

「どうした? なぜこんなにもあっさりと……?」

「いや……あれはもう……マジ無理」

 

 ラルフの言葉には答えず、ルースはがっくりと首を落とした。言い訳めいた口ぶりに、ラルフはイラッとくる。何もできずに負けてきただけでなく、イジけているのがまた男らしくない。

 

 

 

「えぇい、もういい! 情けないお前の代わりに、ジョンは俺が倒してやる!」

「ちょ……ちょっと待てラルフ! アイツの、ジョンのデッキは……」

「事前情報などいらん! 俺は勝つ!」

 

 肩を怒らせ、決勝の舞台に上がっていくラルフを見送り、ルースはぽつりと呟いた。

 

 

 

「気を付けろ、ラルフ。アイツの戦術は……」

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

『さぁ、楽しかった今回の大会も、いよいよ大詰めです』

『奇しくも、我が社の若手2人の対決となったな』

『解説席には、今回の『王国ルール』を採用したゲームを開発中のサイトウさんに来てもらいました』

『いやーどうもっす』

 

 アーサーとMCの隣に、いつもと変わらぬ白衣姿でサイトウが座る。

 

『今回の大会で取れたデータは、今後の開発に役立てるそうですね?』

『うっす。皆さん、ご協力ありがとうございました!』

 

 サイトウが観客席に向かって頭を下げると、まばらながらも拍手の音がした。少しは人望も回復したのだろうか。

 

『残念ながら、サイトウさん自身は1回戦敗退でしたね』

『いや、俺は俺の信じるモンスターと戦えただけで満足っすよ』

 

 余談になるが、サイトウが使用したデッキは『フルハーレム』

 モンスター全てが女性型という恐るべきデッキだ。具体的には『水の踊り子』などが3積みである。相変わらず女性陣は引いていたが、男性陣からのウケはかなり良かった。

 

『決勝戦、サイトウさんはどちらが勝つと思いますか?』

『個人的にはラルフせ……ラルフさんに頑張って欲しいっすね。ジョンさんはその……中々独創的な戦術だったので』

『なるほど。それでは決勝戦をはじめます!』

 

 BGMがスタートし、観客からも声援が飛ぶ。ちなみに今回の社内大会の参加人数は約50人。無駄に大規模なものとなっている。

 これだけの参加者がいれば、決勝が盛り上がるのも必然だ。

 

「やあ、よく来たね」

 

 既に対戦相手は、臨戦体制で待っていた。デッキリストを改めて確認しながら、ラルフも口を開く。

 

「お前がルースを破って、決勝まで来るとはな」

「当然さ。僕は君を倒す為にここにいる!」

 

 ジョンは人差し指を立て、宣戦布告した。相変わらずルースやサイトウとは別のベクトルで元気な男だ。レクリエーションの大会で、そこまで気負わなくても……とラルフは思った。

 

「バトルシティの時は、僕だけが撃たれて途中リタイア……無様な姿を晒してしまった」

「いや待て。何年前の話だ?」

 

 むしろ、あの負傷で生還したのがすごいというのに。

 

「だが、この大会で君に勝ち、証明しよう! 僕の方が強いということを!」

「……いいだろう。相手になってやる」

 

 それにしても、とラルフは考える。ジョンの実力は確かに高いが、ルースがあっさり負けてしまったのが信じられない。だが事実、ルースはラルフが缶コーヒーを買いに行っている間に瞬殺されている。

 そもそもこのゲームには『デッキキャパシティ』と呼ばれるシステムが採用されている。例えば『ワイト』ならば10ポイント、『青眼の白龍』なら130ポイントといった具合にカードごとに『コスト』が設定されているのだ。このシステムにより、デッキの強さの差はほとんどないと言っていい。

 ならば、ジョンが取った『戦術』にルースを倒したカラクリがあるハズ。

 

「「決闘!」」

 

ラルフ LP2000

ジョン LP2000

 

『さぁ、遂に始まった決勝戦! 先行はジョン・ハイトマンだぁ!』

 

「僕のターン。モンスターを守備表示。さらにカードを伏せる。ターンを終了だ」

 

 裏側でカードを2枚出し、ジョンはターンを終えた。堅実な一手と言うべきか。

 

「俺のターン! 俺は『エア・イーター』を攻撃表示で召喚!」

 

 6つの手足を持つ風の悪魔。深緑の体色も相まって、昆虫族と言った方がしっくりくるかもしれない。

 

『エア・イーター』

レベル6/風/悪魔族

ATK2100/1600

 

「カードを1枚伏せ……バトルに入る! 『エア・イーター』で攻撃!」

 

 戦術が分からないなら、最初から高攻撃力のモンスターで押して行く方が良い。『エア・イーター』は裏守備モンスターに飛び掛かった。

 

「ふっ……迂闊な攻撃だね!」

「なに?」

 

 『エア・イーター』が作り出した真空の刃は、裏守備モンスターに弾かれた。

 

「僕の守備モンスターは『岩石カメッター』だ! その程度の攻撃では岩石の甲羅に傷ひとつ付かないよ?」

 

『岩石カメッター』

レベル6/水/水族

ATK1450/2200

全身が岩石でできているカメ。非常に高い守備が特徴。

 

ラルフ LP2000→1900

 

「くっ……やるな。俺はこれでターンエンドだ」

 

 まさかジョンも高ステータスのモンスターで待ち構えていたとは。計算が狂い、ラルフは唇を噛んだ。

 まだ焦るような時間ではない。あの程度のカードを突破する手段なら、ラルフのデッキにいくらでもある。

 だが、ジョンはラルフをちらりと見て、鼻で笑った。

 

「この程度のモンスター、突破してやるって思っているのかもしれないけど……」

 

 心の内を見透かしたように、ジョンはピンと指を立て、

 

「君に次のターンは来ないよ」

 

 宣言した。

 

「ふっ……何を馬鹿な、そんな下らんハッタリを……」

 

『ああ……これは』

『うむ。これは決まったかもしれんな』

『はい。決まった気がするっす』

 

「……は?」

 

 解説、実況役の3人の諦めたような言葉に、ラルフは顔を上げた。勝負はこれからだというのに、一体何を言っているのだろうか。

 

「ふふふ……残念だけど、ラルフ。君はもう詰んでいるんだよ」

「……どういう意味だ?」

「言葉通りの意味さ」

 

 よくよく周囲を見渡してみれば、解説の3人だけでなく盛り上がっていた社員達も静まり返っている。

 おかしい。なんだというのだ。この通夜のような雰囲気は。

 

「僕のターンだ。悪いがこれで終わりだよ。リバースカードオープン!」

 

 

 力強い声と共に、開かれたのは罠カード。それは、ラルフもよく知るカードだった。

 

 

 

「『シモッチによる副作用』発動!」

 

 

 

 が、いくらよく知っているカードでも、ラルフの体は戦慄で固まった。

 

「は……?」

「ふふ……何を呆けているんだい? 王国ルール? 関係ないよ。ライフが2000? 最高じゃないか。僕は僕の決闘をするだけさ!」

 

 

 

 勝利を確信し、高笑いするジョンを見て、ラルフは思った。

 

 こいつ、ぶれなさ過ぎだろ、と。

 

 




無駄に長い王国ルールの話は次回でおしまい。間章もあと2話で終了です。

今回出てきたモンスターを知っている人は何人いるのだろう……?
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