先週から始まった遊戯王アークファイブディーズにハートがバーニングソウルし、5Dsをちょっと見返してました(姑息な言い訳)
「しっかし、今回も面白いもん作ったよなぁ、サイトウは」
昼下がりのカフェテラス。目玉スイーツである『キングダムパフェ(1200円)』をスプーンで崩しながら、ルースはサイトウを誉め称えた。
「はっははー。それほどでもあるっす」
「ふん。貴様は少し自重というものを覚えろ」
上機嫌なサイトウとは対称的に、ラルフは腕を組んで眉間に皺を寄せていた。ルースが昼食にデザートまで付けたので、予想以上の出費になったのだ。
「負けて不機嫌になるなんて、ラルフ先輩もまだまだ子供っすねー」
「そもそも不公平だ! ルースには事前に説明していたくせに、どうして俺にはなかったんだ!?」
「いやー。ラルフ先輩は『ルール開発部』のリーダーですからね。デュエルモンスターズのルールには新旧問わず、当然精通していらっしゃるものかと……」
「どんな嫌みだ!?」
鼻息荒くサイトウを一喝し、コーヒーを煽る。心なしか、いつもより苦い。
「でもまぁ、発想自体はかなり面白いと思うぜ? 俺も『王国ルール』で戦えて懐かしい気持ちに浸れたしな。ラルフだってそう思うだろ?」
「それは否定せんが……しかしサイトウ、どうしてこんなものを作った?」
「だからさっき言ったじゃないすか。面白そうだったから作ったって。そもそもラルフ先輩だって、ネットの掲示板をみて眉根寄せてたでしょ? 『王国ルール』も面白いって意見があることは、こっちでもリサーチ済みっす」
まさか、そこまでみられていたとは。溜め息をつき、ラルフは天井を仰いだ。
「……それで? このソフトは一般販売まで持ち込む気なのか?」
「うーん。片手間に作った割には、ウチの開発チームとこっちの開発チーム……両方のメンバーが協力したおかげで、いい出来には仕上がったと思うんすよ」
サイトウが言うウチのチームというのは、海馬コーポレーションの社員達を指す。ゲーム開発のスペシャリストである海馬コーポレーションとインダストリアル・イリュージョン社が協力すれば、それなりのゲームが作成できることは当然とも言えた。
「いや、それにしても片手間で作っちまうのがすげぇよ。他の仕事もあっただろうに……」
「コイツの場合はサボりまくっているがな」
「あははは。まぁ、俺の話は置いといて……実はこのソフト、ちょいと問題もありましてね……」
ラルフのさりげない追求から逃れる為、サイトウはキーボードを叩いてディスプレイの画像を切り替えた。
「これをみて貰えれば分かると思うんすけど、このゲームはかなり容量がギリギリなんですよ」
近年、コンピューター関連の技術は目覚ましい進歩を遂げているが、本来『王国ルール』の『決闘』は大型の『デュエルリング』を本社サーバーと接続して行っていた。そのデータ量は莫大なものであり、現在の『決闘盤』を用いた決闘も海馬コーポレーションの通信衛星を通じて、本社ビルの『デュエルリングサーバー』からデータを引き出している。
『ソリッドヴィジョンシステム』を使用した決闘は、最新技術の塊と言って間違いない。
「そんな莫大なデータ容量を、こんなディスク1枚に納めるなんて不可能っす」
サイトウは見せびらかすようにして、パソコンからディスクを取り出す。それをみて、ラルフは首を傾げた。
「だが事実、そのパソコンを『デュエルリング』に接続して、さっきは決闘をしたではないか」
「確かになぁ。収録カードが少ないのも、データ容量ギリギリだっていうなら納得できるぜ。でもちゃんとデッキを組める程度には、カードデータも入ってるだろ?」
ルースも疑問の言葉を重ねる。分からない、という言葉を素直に口にしない2人に向かって、サイトウはニヤリと笑いかけた。
「おふたりにも分かるように説明すると、俺達が作ったソフト、要するにこの『ディスク』にはソリッドヴィジョンのデータは一切入ってないっす」
「入って……いない?」
「……ああ。なるほど、そういうことか」
ルースはいまだにちんぷんかんぷんといった様子だが、ラルフは納得して頷いた。これでサイトウが『デュエルリング』を使いたいと駄々をこねた理由も説明がつく。
「要するにお前達が作った『ソフト』は、プレイ中のゲームの『結果』だけを演算する、ということか?」
「正解っす」
「え、なに? どういうことか全く分かんねぇんだけど……」
「そんなに混乱することはないぞ、ルース。例えばこのソフトを『デュエルリング』に接続せずに、そのままプレイしてみたとする」
サイトウからパソコンを受け取り、ラルフはソフトを再びセットした。先ほどの決闘のデータを呼び出し、リプレイしていく。
「うわ……なんだこれ? 文字の羅列が出てくるだけじゃん」
「だから言っただろう。この『ソフト』単体で決闘をプレイした場合、結果だけが処理されていくんだ」
画面にはいくつかの項目が表示されている。モンスターの戦闘結果、攻撃力の変動、カードの組み合わせによる特殊処理などだ。それらが文字で表示され、画面を流れていた。
「なんか……なんかこう、味気ないなぁ……」
「そうっすよねー。これじゃまるでTRPG(テーブルトークアールピージー)っすよ。あれはあれで面白いですけど、文字だけだとデュエルモンスターズの魅力は半減っす」
「だから『王国ルール』のシステムが残っている『デュエルリング』に接続して、ソリッドヴィジョンのデータを取りたかった、というわけか」
「そういうことっす。でもぉ……まだデータが取り足りないんですよねぇ……」
サイトウは上目遣いにラルフを見上げた。女がやれば魅惑的だが、男にやられても気色悪いという感想しか浮かんでこない。
「……だから?」
「これはもういっそのこと、製品化に向けて一致団結するということで、社内で『王国ルール』の決闘大会を開いたらどうっすか?」
また随分と、奇抜な提案が飛び出してきた。
「……決闘大会か」
「いいじゃん、いいじゃん。面白そうじゃん。俺は賛成だぜ!」
「ですよねー。ルース先輩もそう思うっすよねー。絶対盛り上がるっすよ」
「だが、業務に支障が出ては本末転倒だぞ? そんな時間をいつ作る?」
「固いこと言うなよ。そこら辺のスケジュール調整はラルフなら出来るだろ?」
「そうっすよー」
「貴様ら……何でもかんでも俺にぶん投げおって……」
ピキ、とラルフの額に青筋が浮かぶ。こういった社内全体を巻き込んだレクリエーションのような企画は、まずセッティングが大変だ。ラルフの心のメーターは『面倒臭い』という方向に振り切っている。どうせ、関係各所との予定の擦り合わせに苦労するのは自分なのだ。
ここは2人を説得して、大人しく普通にコツコツとテストプレイをさせようと、ラルフは心に決めた。
「Oh……それはとても楽しそうデース」
しかし、現実は残酷だ。
聞き慣れた、というより聞き間違えようのない特徴的な声が背後から響いた。まるで油が切れたロボットのように、ラルフはゆっくりと振り向く。そして、驚愕でまたフリーズした。
「ペ、ペガサス会長……どうしてここに?」
「私は先ほどからワインとチーズを楽しんでいたのデース。たまにはカフェテラスで社員達と触れ合うのも、会長として大事なことデース」
グラスを掲げて、ペガサスはにこやかに笑う。もう一方の手には、読みかけのコミックが握られていた。
「ははは……い、いつから居られたのですか?」
なんとか顔に笑みを貼り付け、ラルフは問う。
「ノープロブレム。心配ありませんよ。ユー達の話は最初から最後まで聞かせて貰いました」
「……そうですか。はは……」
「ペガサス会長! ど、どうでしょうか、コレ!? 採用して頂けないでしょうか!」
薄っぺらい笑顔が剥がれつつあるラルフを押し退けて、サイトウが前に出る。多忙なペガサスに直談判できる機会など早々ない。
遠慮もなしに突き出されたディスクを、ペガサスはあっさり受け取った。
「もちろんデース。こんな面白いアイディアを逃す手はありまセーン。通常の決闘とはルールも違って、差別化が図られているのもグッドなポイントデース」
「ありがとうございます!」
「海馬ボーイには私から話しておきまショウ。本格的に開発チームを召集してくだサーイ。人選はユーに一任しマース」
「分かりました!」
とんとん拍子に話は進んだ。ぽん、とサイトウの肩を叩き、ペガサスは自分の席に戻っていく。
よし、これはセーフか。ラルフは安堵の息を吐いた。
「ああ、そうそう。いい忘れていました。データ収集の為の社内大会、あれも面白そうだからやりまショウ」
フェイント。振り向いたペガサスが言った内容を聞き、再び体が固まる。
「もちろん、スケジュール調整とその他諸々はラルフに一任しマース」
分かっていない。その、その他諸々がどれだけ大変なのか、この人は全く理解していない。
イベントが大好きな会長に反論することも出来ず、やらなければならないことを想像して、ラルフは膝から崩れ落ちた。
サイトウとルースが満面の笑みだったのは、言うまでもない。
◇◆◇◆
――2週間後。
「さぁ、非常に盛り上がっております! インダストリアル・イリュージョン社、社内大会!」
この日の為に整えたという特徴的なモヒカン頭を振り乱して、実況役のMCが熱く叫んだ。
普段はテストに使用している『デュエルリング』の周りは、社員達で埋め尽くされている。
『現在、11ターン目! 状況はルール開発部リーダー、優勝候補のラルフ・アトラスが一歩リードか。解説のアーサー社長はどう思われますか?』
『ふむ、確かに盤面の状況はラルフのリードだ』
MCと一緒にアーサーは解説席に違和感なく溶け込んでいた。多忙な社長が直々に解説を担当しているのは、かなり珍しい光景だ。
ちなみに、本来そこに座るはずだったペガサスの姿はない。「私も昔の『トゥーン』で出場しマース!」と駄々をこねた為、アーサーによって執務室に放り込まれたのだ。今頃は執事のミスタークロケッツの監視の下、書類とにらめっこをしているだろう。
『だが、相手はデザイナーの中でも屈指の実力を誇る『ディル・フェニックス』だ。このまま終わるとも思えん』
『フェニックスさんは最近新作のシリーズモンスターもデザインしている、ベテランデザイナーですからね。このターンで逆転をみせてくれるでしょうか!?』
解説から意識を戻し、ラルフは対戦相手を見据えた。人の良さそうな彼は、リングの向こう側で微笑んでいる。
「やれやれ。アーサー社長もハードルを上げてくれたな。このまま負けるわけにはいかなくなってしまったよ」
ディルはそう言いながら、指を軽やかにはしらせる。
「魔法発動『死者蘇生』だ。このカードのエフェクトにより、セメタリーからモンスター1体を蘇らせる。舞い戻れ『スーパー・ウォー・ライオン』」
赤い鬣を翻し、獣人となった獣の王は吠える。
『スーパー・ウォー・ライオン』
地/獣族
ATK2300/DEF2100
『なんと! ここで獣族最強レアカード『スーパー・ウォー・ライオン』がまさかの復活だ!』
『ラルフも先ほどは倒すのに苦労していたからな。こういったレアカードを使えるのも、このゲームの面白いところだ。しかし、この場面で『死者蘇生』は大きいぞ』
そんなことは言われなくても分かっている、とラルフは愚痴を言いたくなった。
「バトル!『スーパー・ウォー・ライオン』で『炎の剣豪』に攻撃! キング・オブ・ウォーロード!」
獣の王は受けた雪辱を晴らす為、フィールドを駆ける。鋭い爪と牙が、ラルフの目前まで迫った。
「やらせん! 罠発動『シフトチェンジ』」
「なに!?」
「攻撃対象をセットされているモンスターに変更する!」
攻撃の軌道は変わらず、けれど『炎の剣豪』は一瞬で姿を消し、入れ替わったセットモンスターに爪が突き刺さった。
「かわされたか……やるじゃないか、ラルフ」
「ふっ……悪いな、フェニックス。それだけではないぞ?」
「ん? ……これは!?」
ディルは目を疑った。『スーパー・ウォー・ライオン』が破壊したはずのセットモンスターから『腕』が伸びていた。醜い土気色のそれは、獅子をがっちりと掴んでいる。
『死者の腕』
レベル2/闇/アンデット族
ATK600/DEF600
混沌の沼から腕をのばし、生ける者を中へと引きずり込む。
「しまった……私のウォーライオンを沼に引きずり込む気か!?」
「そういうことだ」
「くっ……だが、たかが低級モンスターの能力でウォーライオンを倒せると思うな! 振り切れ、ウォーライオン!」
沼に嵌まった『スーパー・ウォー・ライオン』は主の命令に従い、なんとか脱出しようともがく。だが、混沌の沼は獅子の王を倒すことは出来なくても、確実に力を奪っていく。
『スーパー・ウォー・ライオン』
ATK2300→1800→1400
「沼に足を取られて……ウォーライオンの攻撃力が下がるっ!?」
「もう遅い! 俺のターン、バトルだ!『炎の剣豪』で『スーパー・ウォー・ライオン』を攻撃! 炎刀一閃!」
動けない獅子の首を狩るのは容易い。炎を宿した日本刀が閃いた。
ディル LP300→0
『決着ぅうう! 準決勝を制したのは、ラルフ・アトラスだぁああ!』
テンションが高過ぎる実況に、ラルフは思わず苦笑いした。リングを降りて、ディルと握手を交わす。
「ありがとう。いい決闘でした」
「こちらこそ。私もエドにいいところを見せたかったんだが……残念、及ばなかったよ」
「……それはなんというか、お父さんを負かした俺がエドくんに嫌われそうだ」
「あははっ。私としては、君がこんな決闘の機会を作ってくれただけでも嬉しいよ。大変だったろ?」
「それはまぁ……色々と」
暖かい言葉が身に染みる。全く、筆舌に尽くしがたい苦労があった。
「頑張ってくれ。優勝したら豪華景品だろ?」
「……正直に言うと、それを狙っている」
「私としても、君が優勝してくれた方がエドに言い訳がつくよ」
「フェニックスさんも新シリーズのカードデザイン、期待していますよ」
「ああ、ありがとう」
ディル・フェニックスは片手を挙げて応じると、足早にリングから離れた。これから観客席でグズっている息子を慰めに行くのだろう。彼の家は父子家庭だと聞いている。
父親を倒した悪役(ヒール)になった気がして、ラルフはなんとなく申し訳ない気持ちになった。
「よぉ、ラルフ。決勝進出おめでとさん!」
「……ルースか」
ディルと入れ違いにルースがやってきた。ラルフと同じく、これから準決勝だ。
「流石だな。きっちり決勝まで残ってるじゃねぇか」
「ふん、当たり前だ」
「俺に負けたくせによく言うねぇ」
「最初からルールが違うと分かっていれば、俺は負けんぞ。絶対にだ」
「おお、いいねいいね。その強気は嫌いじゃないぜ」
ラルフの言葉を聞くとルースは頷き、拳を前に突き出した。
「せっかくのお祭りだ。ルールは違っても、条件は同じで真剣勝負だ!」
「いいだろう。先に待っているぞ」
拳を合わせ、リングに上がっていくルースをラルフは見送った。
――――――――――――――――――――――
「ぐぁああああ!?」
『決着ぅうう!? これは大波乱! ルール開発部同士の対決になると思われていた決勝戦、ルース・フォックスターがまさかの敗北!』
『意外な展開だ。しかし身内事になるが、私も少し嬉しい』
『はい! 決勝戦進出を決めたのは、アーサー社長の甥、カード開発部チームリーダー『ジョン・ハイトマン』さんです!』
あまりにも早い決着。飲み物を買って戻ってきたラルフは、呆気に取られて缶コーヒーを取り落とした。
すぐに我に返り、観客席代わりのスペースから、階段を使って足早に『決闘リング』がある階へ降りる。
そのまま進んでいくと、とぼとぼと歩いて来るルースが視界に入った。腹に力を入れて、ラルフは力の限り吠えた。
「何を負けとるんだ貴様ぁ!」
「いや……マジすんません」
やっぱアレは死亡フラグだったか……と、ルースは訳の分からないことを呟いている。
「どうした? なぜこんなにもあっさりと……?」
「いや……あれはもう……マジ無理」
ラルフの言葉には答えず、ルースはがっくりと首を落とした。言い訳めいた口ぶりに、ラルフはイラッとくる。何もできずに負けてきただけでなく、イジけているのがまた男らしくない。
「えぇい、もういい! 情けないお前の代わりに、ジョンは俺が倒してやる!」
「ちょ……ちょっと待てラルフ! アイツの、ジョンのデッキは……」
「事前情報などいらん! 俺は勝つ!」
肩を怒らせ、決勝の舞台に上がっていくラルフを見送り、ルースはぽつりと呟いた。
「気を付けろ、ラルフ。アイツの戦術は……」
――――――――――――――――――――
『さぁ、楽しかった今回の大会も、いよいよ大詰めです』
『奇しくも、我が社の若手2人の対決となったな』
『解説席には、今回の『王国ルール』を採用したゲームを開発中のサイトウさんに来てもらいました』
『いやーどうもっす』
アーサーとMCの隣に、いつもと変わらぬ白衣姿でサイトウが座る。
『今回の大会で取れたデータは、今後の開発に役立てるそうですね?』
『うっす。皆さん、ご協力ありがとうございました!』
サイトウが観客席に向かって頭を下げると、まばらながらも拍手の音がした。少しは人望も回復したのだろうか。
『残念ながら、サイトウさん自身は1回戦敗退でしたね』
『いや、俺は俺の信じるモンスターと戦えただけで満足っすよ』
余談になるが、サイトウが使用したデッキは『フルハーレム』
モンスター全てが女性型という恐るべきデッキだ。具体的には『水の踊り子』などが3積みである。相変わらず女性陣は引いていたが、男性陣からのウケはかなり良かった。
『決勝戦、サイトウさんはどちらが勝つと思いますか?』
『個人的にはラルフせ……ラルフさんに頑張って欲しいっすね。ジョンさんはその……中々独創的な戦術だったので』
『なるほど。それでは決勝戦をはじめます!』
BGMがスタートし、観客からも声援が飛ぶ。ちなみに今回の社内大会の参加人数は約50人。無駄に大規模なものとなっている。
これだけの参加者がいれば、決勝が盛り上がるのも必然だ。
「やあ、よく来たね」
既に対戦相手は、臨戦体制で待っていた。デッキリストを改めて確認しながら、ラルフも口を開く。
「お前がルースを破って、決勝まで来るとはな」
「当然さ。僕は君を倒す為にここにいる!」
ジョンは人差し指を立て、宣戦布告した。相変わらずルースやサイトウとは別のベクトルで元気な男だ。レクリエーションの大会で、そこまで気負わなくても……とラルフは思った。
「バトルシティの時は、僕だけが撃たれて途中リタイア……無様な姿を晒してしまった」
「いや待て。何年前の話だ?」
むしろ、あの負傷で生還したのがすごいというのに。
「だが、この大会で君に勝ち、証明しよう! 僕の方が強いということを!」
「……いいだろう。相手になってやる」
それにしても、とラルフは考える。ジョンの実力は確かに高いが、ルースがあっさり負けてしまったのが信じられない。だが事実、ルースはラルフが缶コーヒーを買いに行っている間に瞬殺されている。
そもそもこのゲームには『デッキキャパシティ』と呼ばれるシステムが採用されている。例えば『ワイト』ならば10ポイント、『青眼の白龍』なら130ポイントといった具合にカードごとに『コスト』が設定されているのだ。このシステムにより、デッキの強さの差はほとんどないと言っていい。
ならば、ジョンが取った『戦術』にルースを倒したカラクリがあるハズ。
「「決闘!」」
ラルフ LP2000
ジョン LP2000
『さぁ、遂に始まった決勝戦! 先行はジョン・ハイトマンだぁ!』
「僕のターン。モンスターを守備表示。さらにカードを伏せる。ターンを終了だ」
裏側でカードを2枚出し、ジョンはターンを終えた。堅実な一手と言うべきか。
「俺のターン! 俺は『エア・イーター』を攻撃表示で召喚!」
6つの手足を持つ風の悪魔。深緑の体色も相まって、昆虫族と言った方がしっくりくるかもしれない。
『エア・イーター』
レベル6/風/悪魔族
ATK2100/1600
「カードを1枚伏せ……バトルに入る! 『エア・イーター』で攻撃!」
戦術が分からないなら、最初から高攻撃力のモンスターで押して行く方が良い。『エア・イーター』は裏守備モンスターに飛び掛かった。
「ふっ……迂闊な攻撃だね!」
「なに?」
『エア・イーター』が作り出した真空の刃は、裏守備モンスターに弾かれた。
「僕の守備モンスターは『岩石カメッター』だ! その程度の攻撃では岩石の甲羅に傷ひとつ付かないよ?」
『岩石カメッター』
レベル6/水/水族
ATK1450/2200
全身が岩石でできているカメ。非常に高い守備が特徴。
ラルフ LP2000→1900
「くっ……やるな。俺はこれでターンエンドだ」
まさかジョンも高ステータスのモンスターで待ち構えていたとは。計算が狂い、ラルフは唇を噛んだ。
まだ焦るような時間ではない。あの程度のカードを突破する手段なら、ラルフのデッキにいくらでもある。
だが、ジョンはラルフをちらりと見て、鼻で笑った。
「この程度のモンスター、突破してやるって思っているのかもしれないけど……」
心の内を見透かしたように、ジョンはピンと指を立て、
「君に次のターンは来ないよ」
宣言した。
「ふっ……何を馬鹿な、そんな下らんハッタリを……」
『ああ……これは』
『うむ。これは決まったかもしれんな』
『はい。決まった気がするっす』
「……は?」
解説、実況役の3人の諦めたような言葉に、ラルフは顔を上げた。勝負はこれからだというのに、一体何を言っているのだろうか。
「ふふふ……残念だけど、ラルフ。君はもう詰んでいるんだよ」
「……どういう意味だ?」
「言葉通りの意味さ」
よくよく周囲を見渡してみれば、解説の3人だけでなく盛り上がっていた社員達も静まり返っている。
おかしい。なんだというのだ。この通夜のような雰囲気は。
「僕のターンだ。悪いがこれで終わりだよ。リバースカードオープン!」
力強い声と共に、開かれたのは罠カード。それは、ラルフもよく知るカードだった。
「『シモッチによる副作用』発動!」
が、いくらよく知っているカードでも、ラルフの体は戦慄で固まった。
「は……?」
「ふふ……何を呆けているんだい? 王国ルール? 関係ないよ。ライフが2000? 最高じゃないか。僕は僕の決闘をするだけさ!」
勝利を確信し、高笑いするジョンを見て、ラルフは思った。
こいつ、ぶれなさ過ぎだろ、と。
無駄に長い王国ルールの話は次回でおしまい。間章もあと2話で終了です。
今回出てきたモンスターを知っている人は何人いるのだろう……?