「奇術師……だと?」
「如何にも。これでも世界最高と称えられ、名声を欲しいままにした時期もありました……昔の話ですがねぇ」
パンドラは自嘲気味に笑うと、シルクハットを被り直した。暗闇に包まれた部屋の中で、彼の周囲にだけスポットライトの光が当たる。パンドラが何かを操作した素振りはない。どういう仕組みでライトが作動したのか、ラルフには皆目見当もつかなかった。
だからこそ、彼は自信満々に奇術師を名乗るのだろうが。
「さて……どうしましょうか。そこで倒れている人の処理……」
仮面の奥から覗く爬虫類のような目を細めて、
「……よりも、貴方の処理を優先した方が良さそうですねぇ」
クツクツとパンドラは笑う。対するラルフは、音が漏れそうなほどに歯噛みして、言葉を紡いだ。
「貴様は……」
「ん?」
「貴様は、こんなことを繰り返しているのか?」
「こんな、こと? あァ、そこに倒れているような男のことですか」
そんなことか、とパンドラはつまらなそうに鼻を鳴らした。もはや動かない男に僅かに視線を向けて、
「ソレがどうかしましたか?」
人間に対して用いるべきではない代名詞を使って、返答をした。
ラルフの表情が歪む。これ以上ないほどに、歪む。人を人と捉えない屑を前にして、表情に出すなという方が無理な話だ。
「そんなに怒らないでください。こんな光景はこのような場所では日常茶飯事です。むしろ、赤いコントラストに彩られていないだけ、観客の皆さんへの配慮があると言うべきでしょう」
ラルフの反応自体が滑稽なのか、パンドラは手を叩いて喜んだ。
「貴方がどこから私のステージに入ったのかは存じ上げませんが土足で、しかも入場料なしで踏み込んだのです。代金はきちんとお支払い願いますよ」
「……黙れ」
これ以上、下らない話を長々と聞いている気はなかった。
足に力を入れ、姿勢を下げ、ラルフは一気に踏み込んだ。パンドラとの距離はそこまで離れていない。数秒後には拳が届く距離だった。実際、既にラルフは拳を振り上げていた。
「ぐっ……!?」
にも関わらず。
「やれやれ。暴力はいけませんね。スマートじゃない」
奇術師は肩を竦める。彼はその場から一歩も動かず、一方のラルフはパンドラの目前で動きを止められていた。
それこそ、まるでマジックのように。
ラルフの足には、太い鎖が巻き付いていた。
「さてさて、どうしましょうか。貴方とは決闘で決着……というのも面白そうですが、この場所を嗅ぎ付けられたのなら、そんな悠長なことも言っていられませんね」
「貴様ッ……」
迂闊だった、と歯噛みするラルフに追い打ちを掛けるべく、パンドラがパチンと指を鳴らす。
「騒がないで下さい。あまり動くと『食い込み』ますよ?」
パンドラの忠告に、思わず疑問符が浮かぶ。
食い込む? 何が?
その疑問に即答するかのように、天井から床に向かって鎖が2本伸びて、ラルフの周囲をぐるぐると周り始めた。先に重しが付けられたそれは、振り子を連想させる運動を繰り返す。
「がっ……!?」
服の上からでも分かる、固い鉄の感触。当然の結果として、ラルフの体はがんじがらめに縛り上げられた。
「フフフ……貴方にはこのまま人質になって頂きます。まさか1人でこの場所を突き止めたとは、私も思っていません。協力者がおられるのでしょう? 彼らにもきちんと、迷惑料をお支払い願いましょうか」
体は動かない。通信も妨害された。打つ手がなかった。
焦るラルフの様子を、奇術師は舐めるようにじっくり見詰めて、
「大丈夫です。代金さえ頂戴できれば、最終的には皆様を同じ場所にお連れしますよ」
それがどこなのか、言わなくても分かるだろうと笑う。
今度は隠す必要がないのか、ゆっくりと通信機を取り出して、
「私です。周辺に鼠が何匹か紛れ込んでいるハズです。駆除してください」
ラルフにきちんと聞こえるように、ゆっくりと告げた。
◇◆◇◆
他人が忙しく働いているのに自分が何もしていないと、なんとも言えない罪悪感に苛まれる。
「クソッ! ラルフとの通信が切れたぞ!」
「発信機の電波まで妨害されたっす。先輩の位置が分かりません」
「至急本社に連絡を入れる。サイトウ、こっちのシステムはお前に任せる!」
「了解っす」
モクバとサイトウが話すも惜しんで手を動かしている中で、フィーネだけは何も出来ずにその場に立っていた。
罪悪感だけではない。続けて押し寄せてくるのは無力感。心の中で焦りが募り、そして後悔する。
どうして、何も言わずに見送ってしまったんだろう?
ラルフが、危険に晒されているかもしれない。
それを考えただけで、胸が締め付けられるようだった。
「サイトウさん、ラルフさんは……」
「通信は途中で切れたっす。しかも、最後の口振りから察するに……」
「あの遊戯はニセモノだ。踏んだり蹴ったりだぜ、まったく!」
「ラルフさんは敵と遭遇した……ということですね」
事態は、限りなく最悪に近かった。状況によっては強力な味方になってくれるかもしれなかった遊戯は、ここにはいない。おそらくここにいるのは施設を運営している『グールズ』の残党だけ。全てが悪い方向に転がりつつあった。
「……私が」
「ダメだ」
今にも駆け出しそうなフィーネに、モクバが釘を刺した。
「どうして!?」
「アンタ1人でラルフを助けられるわけがないだろ? とりあえず応援を呼んで……」
「それよりも副社長、花澤さんに引き上げるように言ってください。はやくここから離れないとヤバいっす」
見れば、サイトウは既に機材をまとめてこの場から離れる準備をしていた。それはつまり……
「ラルフさんを見捨てるんですか!?」
「すいません、フィーネさん。でも、俺らだけでラルフ先輩を助けるのは無理っす。おそらく奴らには、俺らがいることもバレてるっす。はやくここを離れないと……」
「ちょっと遅いかねぇ、それは」
降り注いだ声に、モクバとサイトウは固まった。
フィーネも声をした方に視線を向ける。スーツ姿の男が10人。ゆっくりと近づいてきていた。
「あー。確かに遅かったすね……」
「最悪だぜ……」
今この場には、ラルフも花澤もいない。ろくに抵抗できる人間がいないことを承知しているのか、男達は下卑た笑みを浮かべている。
いつの間にか、完全に取り囲まれていた。
「コイツは驚いたな。海馬コーポレーションの副社長様がいらっしゃるとは」
「身代金がたっぷり取れますよ……フヒャヒャ!」
男達は手にナイフなどの得物を携えている。抵抗しても無駄なことは明白だ。モクバとサイトウは観念して両手を挙げた。
だが、
「……あ?」
「何の真似だ? キレイなお嬢さん?」
「……見て分かりませんか?」
ただ1人だけ。立ち上がって抵抗の構えを見せたフィーネに、男達は呆れた様子で鼻を鳴らした。
「そのキレイなお顔をキズモノにしたいのかい?」
「……モクバ副社長、サイトウさん、目を瞑ってください」
男の言葉には答えず、背後の2人に指示を出して、フィーネは『決闘盤』を展開した。
「ちょ……やめてくださいフィーネさん!」
「決闘なんて受けてくれるわけないだろ!」
「そうだぜお嬢さん。俺達はゲームのおままごとに付き合う気はねぇんだ」
『決闘盤』はあくまでゲームの為の道具であり、人を刺せるわけでもないし、弾が出るわけでもない。ただの鉄の塊だ。
「大丈夫です。無理にでも付き合ってもらいます」
もっともそれは『普通の人間』が使った場合の話である。
彼らは気づいていない。彼女の腕に装着されている機械が玩具ではなく、文字通りの武器であることに。
――瞬間、閃光が弾けた。
「ぬっ……お!?」
「目がッ……」
光の爆発の中で、男達は目を覆った。閃光手榴弾、スタングレネード。混乱の中で男達は、使用された武器を思い浮かべていたが、どれも正解ではない。この場にいる者は誰1人として、それが1枚の『カード』によってもたらされた結果だとは想像もしていない。
フィーネ・アリューシアが行った動作はワンアクションだけ。カードを『決闘盤』のスロットに差し込んだだけだ。
『閃光弾』
罠カード
相手モンスターの直接攻撃によって自分が戦闘ダメージを受けた時に発動できる。このターンのエンドフェイズになる。
「……しばらく、寝ていてください」
視覚を封じられた男達の耳に届いたのは、何枚かのカードが風を切る音のみ。
それでも、彼らにとっては死神が鎌を振り上げるような、得体の知れない恐怖を掻き立てる音だった。
◇◆◇◆
「うっわー。みてみてセレスさん! あんなに派手に『魔力(ヘカ)』使っちゃってるよ!」
「……アレはそういう女だ。出所したとは聞いていたが、海馬コーポレーションのイヌになっていたとはな」
彼らが次々に倒れ伏していくのを、隣の少女は腹を抱えて笑って見ている。この騒がしさはどうにかならないものかと、セレス・ゴドウィンは眉間に皺を寄せた。
「セレスさんは、元々私達のターゲットが『武藤遊戯』じゃないことに気付いていたの?」
瑞葉が振り返ると、艶やかな黒髪が風で舞った。セレスと瑞葉がいるのはフィーネ達が大立ち回りを演じている場所から、50メートルほど離れた建物の屋根の上だ。この距離ならまず気付かれる心配はない。
セレスは双眼鏡から目を離すと、落ち着きのない相棒に向かって放り投げた。
「半信半疑といったところだ。そもそも今回の目的は『武藤遊戯』ではない別の人物。その人物を見つける為の目印が『武藤遊戯』だったというだけだ。はっきり言って『武藤遊戯』が本物かどうかはどうでもよかった」
「ふーん、そうなんだ……って、私まだその目標の人物とやらを聞いてないんだけど」
「簡単な話だ。話を聞く限り、お前を襲った三下の『決闘盤』は私達が『バトルシティ』で使ったものの改良品だ」
「それが?」
「あんな悪趣味な代物にせっせと改良を加える人物など、1人しかいない。その開発者の確保が、我々が影丸殿から命じられた任務だ」
そうなんだー、と瑞葉は双眼鏡を覗きながら気のない返事をして、
「でもさぁ、フィーネお姉さんとかラルフオジサマの方は放っておいていいの? セレスさん的に言えば、裏切り者と宿敵が目の前にいるわけでしょ?」
「……貴様が奴らと遊んでいる時に私に連絡を入れれば、それで済んだのだがな」
「んー、ごめんなさい。私、自分を置いてきぼりにするような人に親切に連絡回すほど大人じゃないんだー。まだ子供だからね」
皮肉の籠った言葉にまともな返事をする気はなかった。瑞葉の方こそ、勝手にラルフ・アトラスやフィーネ・アリューシアと接触しているのだ。セレスだけが独断行動を咎められる理由はない。それでも、いつまでも子供のように意地を張っているわけにはいかないので、セレスは嫌々ながら口を開いた。
「……まぁ、いい。とにかく任務遂行を優先する」
「あの2人は放っておくんだね。海馬モクバとかもいるみたいだけどいいの?」
「勝手に誘拐事件など起こしてみろ。私達が影丸殿に首を切られるぞ」
影丸にも表の顔というものがある。なによりもあの老獪なら、元グールズ幹部だろうと年端のいかない少女だろうと、失敗すれば簡単に切り捨てるだろう。迂闊な行動を起こす気は毛頭なかった。
「あ、フィーネお姉さん、中に入って行ったよ。オジサマ助けに行ったのかな? 一途だね!」
「……フン」
瑞葉に悟られぬように、セレスは拳を握り締めた。
正直に言えば、口惜しい。手の届く距離にヴォルフを殺した怨敵がいるのだ。セレスは今にも飛び出しそうな自分を、必死に理性で押さえつけていた。
海馬コーポレーションの人間達の様子を見るに、ラルフは潜入をしくじったようだ。あの中には『奇術師』もいる。生きては出られないだろう。
自ら手を下すことが出来ないのは甚だ不快だが、感情に身を委ねて考え無しの行動をしても、大きな利はない。
「あの女が内部を掻き乱してくれるなら好都合だ。我々も混乱に乗じて中に入るぞ」
「りょーかい!」
2人は『決闘盤』を起動すると、周囲に人目がないことを確認して、屋根の上から飛び降りた。
◇◆◇◆
奇術師パンドラは顔に張り付けた表情とは裏腹に、焦りを感じていた。彼はあくまで舞台の役者の1人に過ぎない。この『地下決闘場』という大ステージを管理運営している人物は別にいる。この場所が知られたとなれば、その人物と連絡を取り、対策を話し合うのが普通だ。だが、なぜかその人物との連絡が途絶えているのだ。
(こんな非常時に、相変わらずいい加減な人ですね。しかし、私が指示を出したおかげで暫くは誤魔化せるでしょう……問題は目の前の彼をどうするか、ですが)
パンドラはそこで一旦思考を打ち切ると、再び通信機を取り出した。そろそろ、外にいるネズミを捕まえたころだろう。この場所を知られたからには、無事に帰すわけにはいかない。
どう口封じしてやろうか。
パンドラは小難しい思考ではなく、そんな楽しい想像に埋没しながら通信機を操作していたが――それはすぐに中断されてしまった。
何故か?
――耳に飛び込んできたのは、圧倒的な破砕音。
「……ぁあ!?」
生易しい擬音では到底表現できないような、全身を揺さぶる轟音が地下室を襲った。音源である天井を仰ぎ見て、パンドラは絶句する。
ぽっかりと穴が空いたそこから、人影が舞い降りる。巻き上がる粉塵の中から見え隠れする顔は、パンドラにとって見覚えのあるものだった。
「……確かに、貴女がいたのなら、この場所がバレた理由も納得できます。それで、今日は何の御用ですか?」
努めて平静を装いつつ、パンドラは数年振りに、
「……フィーネ・アリューシア」
彼女の名を口にした。
「……私も納得できました。『武藤遊戯』の正体があなたなら、何の不思議もありません。ブラック・マジシャン使いとして、あなたの実力は彼に匹敵していますから」
「お褒めの言葉、嬉しく思います。しかし貴女はもう『こちら側』の人間ではないのでしょう?」
「……あなたは全く変わっていないようですね」
フィーネは鎖に囚われたラルフの様子を見て、軽蔑の視線をパンドラに向けた。
「フィーネ……どうしてここに……」
「私に『そういう力』があるのは知っていましたよね?」
「いや、しかしこれは……」
「見ての通り、床をぶち抜いて来ました。この部屋から見ると天井ですけど」
ラルフは唖然とした。
いくらフィーネがカードに関連する特別な力を持っているとはいえ、その方法は少々過激に過ぎる。
「大丈夫ですよ、ラルフさん」
ラルフに向けられたのは、パンドラの時とは違う微笑。フィーネは左腕の『決闘盤』を構える。
「すぐに助けます」
力強い宣言は、今までのどの言葉よりも部屋によく響いた。
「……ククク、イッヒヒ……アハハハハハハハ!」
そして、それを掻き消すように、奇術師は嘲笑の花を咲かせた。
「……何かおかしなことがありましたか?」
「おかしい? そりゃあもちろん、サイッコーにおかしいですよ!」
ゲラゲラと遠慮なく、パンドラはフィーネを指さした。
「あの、あの下品極まりないヴォルフ・グラントの忠実な犬だった女が、今度はそこに縛られてる男にホイホイと乗り換えたんですよ! そんな甘ったるい笑顔を目の前で見せられて、笑わずにはいられませんよ。ああ、とても面白い! あなたには喜劇の才能があったようです!」
「…………言いたいことはそれだけですか」
品のない笑いを遮り、フィーネをカードを引き抜き、決闘盤に叩き付けようと振り上げ、
「おぉっと、ストップ! ストップですよ!」
ピタリと、動きを止めた。
パンドラの右手にいつの間にか握られていたのは、鏡のような光沢を持つナイフ。その切っ先は、ラルフの喉元に突き付けられていた。
「分かりやすいことこの上なく、やり易いことこの上ないですねぇ。こんな丸分かりの弱点、滅多にないですよ。しかも、その弱点は今は私の手元にある! そんなことも理解できていなかったとは!」
「でも、ラルフさんは縛り付けられて動けない。今頃、私達の味方が警察を呼んでくれているハズです。いつまでもここで私とにらみ合っていたら、あなたは逃げそびれてしまいますよ?」
「相変わらず、下らない浅知恵だけはよく回るようだ。ならば……」
奇術師は、頭のシルクハットを天井に向かって放り投げた。一瞬、ラルフとフィーネの視線はそこに引き付けられる。
「こうするとしましょう!」
その一瞬は、マジックの仕込みをするには十分過ぎる一瞬だった。
フィーネの足に巻きついたのは、ラルフと同じ太い鎖。同時にパンドラにも同様の鎖が巻きついた。
「……本当に3年前から変わっていませんね。手癖悪さも相変わらずなんて」
吐き捨てるようにフィーネは言う。
パンドラはシルクハットを器用にキャッチすると、ニヤリと悪辣な笑みを浮かべて、
「いやいや、とんでもない。昔よりもバージョンアップしていますよ!」
ゴォン!
身も凍るような空気を切り裂く音と共に、振り子刃が闇から現れた。
フィーネが破壊した天井以外の場所を起点として、ゆっくりと振り子の運動をするそれらの数は8つ。それぞれが立っている場所に届くのは4つ。今は2人に刃を突き立てることなく、宙をさまよっていた。
「今はランダム運動を続けていますが、ライフポイントの変動に応じてこの刃は軌道を変えます。そして……ゼロになったプレイヤーには4つの避けられぬ刃が同時に襲い掛かる! シャレが効いているでしょう?」
「そんな御託はいりません。始めるならはやくしましょう」
「ええ、同感です。観客が1人だけというのは興を削がれますが、それでも盛り上げるのがプロというものです!」
パンドラも『決闘盤』を展開し、決闘の準備が整う。
「くそっ……」
ラルフは唇を噛み締めた。自分はこんな情けない姿で、ただ見ていることしかできない。
「フィーネ!」
堪えきれず、名前を呼んだ。
「心配しないでください」
彼女は、ラルフの方を振り返らず、
「必ず勝ちます」
簡潔に、決意だけを述べた。
「フヒャハハハハ。甘いですねぇ。壊し甲斐がありますよ! それでは……It's showtime!」
「「決闘!」」
フィーネ LP4000
パンドラ LP4000
「先攻は頂きますよ。私のターン! 『マンジュゴッド』を攻撃表示で召喚!」
万の手を持つ仏は、敵を威嚇するかのごとく腕を広げた。
『マンジュゴッド』
光/天使族
ATK1400/DEF1100
このカードが召喚・反転召喚に成功した時に発動できる。デッキから儀式モンスター1体または儀式魔法カード1枚を手札に加える。
「私はこのモンスターの効果で最上級マジシャンである『マジシャン・オブ・ブラックカオス』を手札に加える。さらにカードを1枚伏せ、一幕目は終了としましょう!」
「……いきます、私のターン、ドロー!」
フィーネはパンドラのフィールドを冷静に分析する。
彼の決闘者としての腕前は、マリク・イシュタールやリシド・イシュタールに次ぐほどのものだ。実質的な、グールズのナンバースリー。マジシャン使いとしての実力は、純粋に高い。
だが……それが何だというのか。
「私は『魔導戦士ブレイカー』を召喚。その効果で、魔力カウンターがこのモンスターに乗ります」
『魔導戦士ブレイカー』
ATK1600→1900
「更に効果を発動! 魔力カウンター1つを取り除き、リバースカードを破壊します。マジックブレイク!」
紅の甲冑に身を包んだ魔法騎士は、携えた剣の魔力を放出し、裏側のカードを一刀両断。破壊されたのは『炸裂装甲』だった。
「やはり攻撃反応型罠でしたか。『マンジュゴッド』上級モンスターを手札に呼び込みつつ、罠を張って待ち構えていたつもりでしょうが……見え見えです。ブレイカーで攻撃!」
先ほどの魔力放出で多少力は落ちていても、『ブレイカー』の攻撃力は『マンジュゴッド』よりも上。万の手を持つ仏は一撃で切り捨てられた。
「ぐっ……先手を取られましたか」
パンドラ LP4000→3800
僅か200ポイントとはいえ、ダメージはダメージ。振り子刃は敏感に反応を示し、唐突にその軌道を変えた。
「おおっと! これは危ない!」
迫る刃を、パンドラを身を捻ってかわした。彼のタキシードに、うっすらと切り傷が刻まれる。
「危ない、危ない。ショーの開始から命を落としてしまうところでした」
「そんなことを言って、どうせあなたはこの仕掛けを熟知しているのでしょう? だから避けられたのでは?」
「いやいや、とんでもない。そんな無粋な真似はしていませんよ……フフフ」
この奇術師の言葉は信用ならない。フィーネは気を引き締めるように深呼吸すると、カードを2枚選び出した。
「私はリバースカードを2枚セットしてターンエンドです」
決闘はまだ序盤。
状況はどちらの優位というわけでもない。切り札の召喚、手数での有利。決闘において、流れを掴むことは勝利に直結する。今はどちらも、その流れを手繰り寄せている状態だった。
「私のターン、ドロー! では、こちらから仕掛けさせて頂きましょうか!」
だが、先のターンにパンドラはデッキからカードをサーチしている。仕込みを終えている、という点ではパンドラの方が早かった。
「私は『魔道化リジョン』を召喚! このモンスターを召喚したターン、私は上級マジシャンを通常召喚に加えてもう1度召喚できます!」
5枚の手札の内から1枚を抜き出すと、パンドラは口元を三日月に歪ませた。
「フィーネ。貴女は先ほど私が変わっていない……と言っていましたが、それは大きな間違いです」
「間違い?」
「ええ。私は3年前の『バトルシティ』で敗北しました。私は奇術師であるのと同時に、決闘者でもあるのです。決闘者たる者、敗北から学び、より強くならねばなりません」
「……何が言いたいのですか?」
「分かりませんか? 私はもう昔の『奇術師パンドラ』ではないということですよ! 『魔道化リジョン』を生け贄に捧げ――」
手足の長い道化師は一礼すると、自らが生け贄になるのも構わず、舞台を次の役者に譲る。まるで『彼女』の方が、このショーにはお似合いだとでも言いたげに。
「――出でよ、我がしもべ。ブラック・マジシャン・ガール!」
金の髪を振り乱し、魔法少女は舞台に舞い降りた。
チェーン・リゾネーター、シンクローン・リゾネーター、OCG化決定に乾杯。