ルール改定に駆けた男のロード   作:龍流

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55.「キミの相手がボクで、本当によかった」

 もしも。

 取り返しのつかない、多くの人間を巻き込んだ犯罪者になってしまったとしよう。

 裁判に掛けられ、被告人として供述を求められた時、

 

「自分の中には『もう1人』の自分がいた。この事件はそいつが起こしたものだ。だから自分は悪くない」

 

 と、発言した場合、それを聞いた人間は何を思うだろうか。

 下らない言い逃れだ。

 減刑を求める浅ましい悪知恵だ。

 精神疾患の疑いがあるかもしれない。

 人それぞれに考えは異なるだろうが、誰1人として罪を犯したその男の中に、本当に『もう1つの人格』があったとは思わないだろう。

 マリク・イシュタールは二重人格者である。

 正確には二重人格者『だった』と言った方が良い。二重人格、ひいては多重人格はメジャーな精神疾患としてメディアで取り上げられることが多いが、医学的な分析とは別に『オカルト』の要素も合わせて語られる。

 有名なところでは、イギリスの連続殺人鬼『ジャック・ザ・リッパー』は多重人格者だったという説がある。中には彼が使用した凶器自体に意思があり、彼の体を操っていたという創作まであるのだから、人間の想像力は恐ろしい。もっとも、彼は実在事態が怪しいので、そこまで突っ込むのは野暮というものだろう。

 『多重人格』は医学的に立証されている精神疾患だが、人々がそこにオカルトの要素を持ち込むのは、人間の心に、まだ解明出来ていない部分があるからなのかもしれない。

 

 さて。多重人格が『病』である以上、マリクが『もう1人の自分』とも言える存在を生み出したのには、明確な理由がある。

 虐待と暴行。『イシュタール家』の墓守として過剰なまでにマリクに『教育』を施した父親は、もうこの世にはいない。自分自身を守る為に、マリクが殺したからだ。

 

 『千年ロッド』の金属ピックを突き立てた瞬間の、肉の感触。噴き出した血液の、どす黒い赤。倒れ込んだ父親が自分へと向けた、最後の視線。

 

 マリクには、これらの記憶は一切ない。気づいた時には目の前に血溜まりが広がっており、自分を抱き締める姉と、リシドがいた。

 『それ』を行うにはマリクは優し過ぎた。故にマリクは『もう1人』の自分にその役目を押し付けた。彼の『闇人格』誕生の経緯である。

 この事件から数年後。マリクは偽造カード集団であった『グールズ』を掌握。自身の運命をねじ曲げた『名もなきファラオ』への復讐を誓い、数多の犯罪に手を染めた。

 今も彼の背中には、決して消えない『石盤』のタトゥーが刻まれている。

 

 

◇◆◇◆

 

 

「罪を償う為に我々のような『カード犯罪集団』を狩る……ずいぶんと、泣ける話ではありませんか」

 

 バトルシティ大会で『エクゾディア使い』として『武藤遊戯』と戦った男。かつて『レアハンター』を名乗っていた男は目を細めてマリクを見た。

 

「しかしあなたは世間的にはまだ『バトルシティ大会準優勝』の栄光に輝いた決闘者だ。小汚ない犯罪者の私達とは違って……ね」

「……言い訳をするつもりはない。ボクはボクの意思で『グールズ』を発展させ、あれだけの規模になるまで肥太らせた。ボクもお前達と同じ、いやお前達以上のクズだ」

「それを分かっていながらいまさら正義の味方ごっことは、ますます度し難い」

 

 レアハンターが射出したワイヤーを、マリクは何も言わずに決闘盤で受け止めた。

 

「念の為に聞いておきましょう。我々の元へ帰ってきては来て頂けないのですか? マリク『様』?」

 

 あからさまに付け加えられた単語に対しても、マリクは反応を見せずに淡々と返した。

 

「思ってもいないことを口に出すなよ。お前達はボクが『無理矢理』従わせていたに過ぎない。恨みこそすれど、尊敬の念なんてこれっぽっちもないだろう?」

「ククク……ヒャハハハハハハ! よく分かっているじゃないか『マリク』! ああ、そうだ。ここにいる全員が、お前が憎くくて憎くくて仕方がない!」

 

 狂った笑い声が重なって、耳を塞ぎたくなるような不協和音が響き渡る。レアハンターだけではない。紫のローブの全員が、肩を震わせて笑っていた。

 

「安心しろ。私はお前と違って紳士なんだ。他の奴らに手は出させない。1対1で倒してやろう!」

「偉くなったな、レアハンター。それでお山の大将気取りかい? そもそもキミって……」

 

 褐色の人差し指が、レアハンターに向けられる。表情は固いまま、しかしあからさまに語調を変えて、マリクは言い放った。

 

「名前なんだっけ? 忘れてしまったな」

 

 病的なまでに白い額に、くっきりと毛細血管が浮き上がる。

 

「……潰す。潰してやろうじゃないか! マリク・イシュタール! 私の新たなデッキに、お前は成す術なく敗れ去るのだ!」

「やれるものなら、やってみろ」

 

 言葉の応酬を重ねる2人の決闘者は、

 

「「決闘!」」

 

 開始の宣言だけはピタリと合わせて、闘いを開始した。

 

レアハンター LP4000

マリク LP4000

 

「ボクの先攻、ドロー。モンスターを裏側表示でセット、カードを2枚セットしてターンエンド」

 

 3枚のカードが裏側で、マリクのフィールドに並ぶ。

 

「消極的だな。面白くない。私のターン、ドロー! ククッ……やはり天は私に味方をしている! 私は『おろかな埋葬』を発動。デッキからカードを1枚墓地に送る。そして装備魔法『早すぎた埋葬』を発動! ライフを800支払い……」

 

レアハンター LP4000→3200

 

 ギョロリと目を剥いて、レアハンターは叫んだ。彼のデッキの新たな『核』となるカードの名を。

 

「『王立魔法図書館』を特殊召喚ッ!」

 

 

◇◆◇◆

 

 

 マリク・イシュタールには罪から逃れようという気は微塵もなかった。自身の罪を真摯に受けとめ、償う気でいた。それを許さなかったのは、彼を取り巻く環境の方だった。

 詰まる所、バトルシティ大会準優勝者という称号は、犯罪者のものにするにはあまりにも輝き過ぎていたのだ。海馬コーポレーションとインダストリアル・イリュージョン社、多数の企業と警察組織が表には出せないような数々の取引の末に出した結論は――――デュエルモンスターズ界からの、永久追放。

 マリクには選択の自由などなかった。ただ告げられた罪を受け止め、受け入れ、デュエルモンスターズから手を引くことを誓った。

 『名もなきファラオ』を見送ったあとのマリクの生活は、変化もなければ刺激もない、安穏とした日常だった。退屈、と言ってしまえばそれまでだが、姉であるイシズや、自分の最も良き理解者であるリシドと過ごす静かな時間は、マリクにとっては幸せ以外の何物でもなかった。

 定められた宿命の通り、エジプトの地で墓守としての使命を全うする。不満はなかった。むしろそれだけが、今はいない『名もなきファラオ』と、自分が傷つけた人々に対する唯一の償いだと思っていた。

 

 だが、ある日。

 久しぶりに街まで買い物に出た時のことだった。

 

「すごい人だね」

 

 エジプトのバザールはとにかく人が多く、雑多だ。賑やかと言えば聞こえはいいが、観光国の中でも郡を抜いて置き引きやスリが多いのも特徴である。

 

「いつも墓守の谷に引き篭ってばかりなのもよくないでしょう。たまにはこうして外に出ることも大切です」

 

 隣を歩くイシズが言う。心なしか、いつもよりも笑顔が明るかった。

 

「そうだね、姉さん」

「マリク様、私から離れないようにお気をつけ下さい」

「おいおい、リシド。いくらなんでもボクを子供扱いし過ぎだよ」

 

 リシドの忠告を、マリクは笑って相手にしなかったのだが……

 

 ――数分後。

 

「……迷ったな」

 

 最近は墓守の谷に引き隠っていたせいか、マリクにとってエジプトのバザールの人混みは、荒れ狂う濁流と同じだった。文字通り人の波にあっという間に流され、気がついた時にはイシズやリシドとはぐれていた。その結果が、地元で迷子になるというなんとも間抜けな状況である。

 

「参ったな……姉さんとリシドはどこだ?」

 

 辺りを見回しても、人、人、人の渦。正直言って見つけられる自信がない。イシズもリシドも、あれで中々の心配性だ。今頃はマリクを探して、あちこちを駆けずり回っているに違いない。

 

「どうしたものかな……」

 

 さすがに帰り道が分からないほど子供ではないので、1人で帰ってしまっても構わないのだが、そうするとリシド達とは入れ違いになってしまうだろう。急に姿を消したマリクのことを、あの2人は「何かあったのでは?」と考えているかもしれない。自分の過去を振り返ると、その可能性がないとも言い切れないのが辛いところだ。

 連絡できればそれで済むのだが、こんな時に限ってマリクは携帯電話を置いて来ていた。何から何まで、色々とついていない日だ。

 とにかく2人を探そう、とマリクは人の流れに沿って歩き出したのだが、

 

「いやっ! 離して!」

 

 市場の喧騒に紛れて、聞こえてきた声。ともすれば聞き逃してしまうであろうそれに、思わず足が止まった。さっきまでとは完全に逆方向、人の流れに逆らって、声が聞こえてきた方へと向かう。店の脇を抜け、明らかに人気がない路地まで入って、マリクは声を張り上げた。

 

「おい! 誰かいるのか!」

 

 返事はない。ただ、人が揉み合う剣呑な気配がした。

 

「おい!」

「助けてっ!」

「うおッ!?」

 

 さらに路地を曲がろうとした直後、胸に何かが飛び込んできた。ぶつかった反動で広がった髪に鼻をくすぐられ、ただでさえ混乱していたマリクはますます動揺した。

 

「だ、大丈夫か? どうした?」

「わたし……わたし」

 

 胸にしがみついたまま、少女は顔を上げた。まだ若い。成人もしていない、本当にあどけない少女だ。目に涙を一杯に溜めて、必死に言葉を紡ごうとしている。

 マリクはそんな彼女を押し止めた。

 

「落ち着いて、大丈夫。事情を聞きたいのは山々だけど、とりあえず今は逃げるのが先決だ」

「う、うん……」

「そこにいやがったのか!?」

 

 少女の手を引いて、走り出そうとした瞬間。野太い声に邪魔をされた。

 いかにもカタギではありません、といったチャラチャラした格好。具体的には紫のシャツに金のブレスレット、それにサングラスまで身に付けている男は、地元の人間ではないように思えた。

 

「逃げられると思ったのか? あぁん?」

「ひっ……」

 

 身を竦ませた少女の胸元からバラバラと、何かがこぼれ落ちた。マリクが手を引くと誓い、触れることすら避けていたモノ。

 

「デュエルモンスターズの……カード?」

 

 『光の護封剣』『死者蘇生』『サイクロン』『聖なるバリア-ミラーフォース』

 比較的メジャーなカード達が、地面に散らばっていた。

 

「…………その嬢ちゃんに売り物を盗られちまってな。今からお話合いをしなくちゃいけないんだ。ちょっとどいてくれねぇか? なんならお礼として、何枚かくれてやってもいいぜ、そこのカード。兄ちゃんもデュエルモンスターズはやるだろ?」

「騙されちゃだめっ! そいつのカードは全部にせものよ!」

 

 ニセモノ。

 その言葉の響きに、マリクは自分でも驚くほどに体が固まった。

 

「偽物って……それはどういう……」

「こいつの店で買ったカードは『決闘盤』が反応しなかった! 偽造カードだったの! 私が、弟にはじめて買ってあげられたカードだったのに……」

 

 怯えを押し殺し、気丈に叫ぶ少女。けれど男は、鼻を鳴らすだけだった。

 

「お前らみたいな貧乏人が色気を出して『決闘盤』なんぞで決闘しようとするからだ、バーカ! 貧乏人は貧乏人らしく、机の上でちまちま遊んでりゃよかったんだよ」

 

 さあ、と男は腕を差し出した。

 

「はやくそのカードを返しな。今ならウチの店を出禁にするだけで許してやるよ」

「ふざけないで! このカードはインダストリアル・イリュージョン社に届け出て……」

「そんなことされたら商売あがったりなんだよ! ガキが商売の邪魔すんじゃねぇよ!」

 

 光が当たらない路地裏の中でも、男が取り出したナイフは爛々と輝いていた。

 マリクは唇を噛み締めた。通報はできない。携帯電話を忘れたことをこれほど後悔したことはなかった。いや、そもそも今から通報したところで間に合うわけもないが。

 

「キミは逃げろ」

 

 背後の少女に、振り向かずに言った。

 

「でもっ!」

「いいからはやく行けっ!」

「っ……」

 

 走り去る少女の背中を見届けることはできなかった。間髪入れずにナイフを構えて突っ込んできた男に、マリクも真正面からぶつかっていった。

 

 

―――――――――――――――

 

 

「どういうことだ!?」

 

 マリクは姉から借りた携帯電話に向かって、怒鳴り声をあげた。すぐ側でイシズに付き添われていた少女が、ビクリと肩を震わせる。周囲の警官達も何事かとマリクの方を見たが、構わずに話を続けた。

 

「ボクが知っている『グールズ』に関する情報は全て教えたはずだ。なんでこんな場所にまで偽造カードが出回っている?」

『なるほど。確かにエジプトの片田舎は盲点だったな。我が社の監視の目も及んでいなかったのだろう』

 

 声の主はマリクの剣幕に気圧されることもなく、尊大な調子で言った。

 

『とにかく犯人の確保はご苦労だった。あとは海馬コーポレーションの担当部署と現地警察で、この件は処理する』

 

 あの後。マリクはなんとか男を取り押さえた後、警察に通報。少女を保護してもらい、無事にイシズやリシドと合流できた。男と揉み合った時に多少怪我はしたが、そんなことはどうでもよかった。

 

「……待て。ボクはまだお前に聞きたいことがある」

『手短にまとめろ』

「はっきり答えろ、海馬。『グールズ』は壊滅したんじゃなかったのか?」

 

 電話越しでも、失笑の気配が分かった。

『壊滅、か。貴様は本当に自分が率いていた組織の規模を理解しているのか?』

「……どういう意味だ?」

 

 海馬瀬人は、今度こそ本当に呆れたように息を吐いた。

 

『グールズは各国に支部が存在し、さらにその下に小規模のグループが枝分かれしていた。今では逆に、その後釜になろうと画策している勢力もあるらしい』

「後釜……」

『貴様が今回捕まえた男も、そんな小汚ないハイエナのうちの一匹に過ぎん。取引していた偽造カードは『決闘盤』にも反応しない、『グールズ製』には遠く及ばないお粗末な代物だったようだがな』

 

 小規模組織の台頭。少し考えれば、思い至ることができたかもしれない。けれどマリクは、微塵もそんな想像をしていなかった。

 マリクは『千年ロッド』の力を使って『グールズ』を掌握した。いきなり組織のトップに立ったところで何が出来るわけでもなく、具体的な組織運営は元々のリーダーであった『ヴォルフ・グラント』に委ねてあった。『三幻神』のコピーカード以外には、ほとんど関わってすらいない。興味もあまりなかった。

 結局、マリクはまだ『子供』だったのだ。

 

 ――金ピカの杖で格好だけつけている、お飾りの頭だよ、アンタは。

 

 当時は負け犬の遠吠えだと思って、相手にすらしなかった。だが、あの忌々しい男の言葉は、痛いほどに的を得ていたのだ。

 自分は何も、分かってなどいなかった。

 

『自覚が足りんようだから、教えてやろう。貴様がデュエルモンスターズに与えた影響は、貴様が思っている以上に大きいということだ』

 

 熱を持っていた頭が、一気に冷える。まるで脳の芯に、氷の柱を押し込まれたように。海馬の皮肉めいた言葉の響きが、耳の奥で反響する。

 ファラオへの復讐。それだけを目的にして、その為の足掛かりとして、マリクは『グールズ』という組織に偶然目を付けた。適当な手駒が欲しかった。たった、それだけの理由。

 もう終わったと思っていた。

 違った。

 何一つ、終わってなどいなかった。

 マリクが育てたデュエルモンスターズ界の闇は、いまだに肥大を続けている。純粋にゲームを楽しむプレイヤー達に、暗い影を落としている。

 呆然となって、マリクは腕をだらりと下げた。

 

「お兄さん! 話は終わったの?」

 

 笑顔で近寄って来る、この少女もそうだ。

 この子も被害者だ。

 彼女は幼いながらも必死に働いて、弟にカードを買ってあげたのだと語っていた。

 この子に偽物に売りつけ、笑顔を取り上げたあの男を、マリクはついさっきまで心の底から嫌悪していた。

 

「ねぇ! お兄さんって『バトルシティ』で準優勝したマリク・イシュタールさんなんでしょ? すごいね!」

 

 違う。

 

「あの『武藤遊戯』と決闘したんでしょ? すごく強いんだよね!」

 

 違う。

 ボクは弱い。

 

「さっき助けてくれた時も、本当にかっこよかった!」

 

 違う。

 かっこよくなんか、ない。

 

「ありがとう!」

 

 違う。

 自分が本当に受けるべき言葉は、もっと違うものだ。

 罵りであるべきだ。

 糾弾であるべきだ。

 断じて、感謝などではない。

 ないハズなのに、

 

「助けて貰って、こんなお願いするのって、図々しいかもしれないんだけど……」

 

 どうしてこの子は、こんなにもキラキラした目で自分を見てくれるのだろう。

 

「もしよかったら……サインくださいっ! 弟の分も!」

 

 自分の処遇を言い渡された時の、あの冷たい言葉よりも。

 この少女にこんな目で見られる方が、何倍も辛い。何倍も、何十倍も、罪を自覚させられる。

 

「……ごめん」

「マリク……さん?」

 

 こんな子の瞳の中に、自分の姿が写っていることが堪えられなかった。

 だから側に引き寄せて、抱き締めた。 

 

「ごめん……本当に、ごめん」

「どうして、マリクさんが謝るの?」

 

 少女の疑問に、素直に答えられたらどんなに楽だろうか。全てを吐き出せれば、どんなに楽だろうか。

 けれど、それで楽になるのはマリクだけだ。

 問題は何も、解決しない。

 少女の耳元で、小さな声でマリクは言った。

 

「ボクのサインなんかでよければ、いくらでも書くよ」

「本当に? やった! ありがとう!」

「あとできれば、キミの弟に会わせてくれないかな?」

「それは嬉しいけど……どうして?」

「本物の……本物のカードのデッキを、プレゼントさせて欲しいんだ」

「そんな……いいの!?」

「ああ、もちろん」

 

 抱き締めていた腕を弛めて、顔を向かい合わせる。本当にキラキラした、かわいい笑顔だった。

 

「ただ、ひとつだけ。頼みたいことがある」

「頼みたいこと?」

「キミと、約束をさせてほしい」

 

 右の小指を立てても、少女はキョトンとした顔のままだった。無理もない。マリクも、日本ではじめて知った習慣なのだから。

 

「指切りっていうんだ。日本のおまじないだよ。絶対に約束を守るっていうね」

「日本のおまじないかぁ……何を約束してくれるの?」

 

 小指を合わせて、繋ぐ。

 

「ニセモノのカードは、ボクが全部なくしてみせる」

 

 

◇◆◇◆

 

 

「なにを呆けている、マリク・イシュタール? まさかもう戦意喪失か?」

「――ああ。すまない。キミのターンがあまりにも長くてね。いや、別に構わないよ。続けてくれ」

 

 レアハンターの言葉に我に返ったマリクは、不敵に笑みを浮かべて両手を広げた。どこからでもかかって来い。そう言わんばかりの身振りに、レアハンターは舌打ちをしてプレイを続行する。

 

「私は『成金ゴブリン』を発動。相手ライフを1000ポイント回復させ、デッキからカードを1枚ドローする」

 

マリク LP5000→6000

 

「2枚目か……」

 

 本来ならば既にターンが二巡していてもおかしくないほど時間が経過しているが、マリクのターンはまだ訪れていない。

 レアハンターのターンが、異常に長いのだ。

 

「『天使の施し』を発動。デッキから3枚ドローし、2枚を墓地に送る」

 

 ドロー加速カードによる、手札の入れ換え。『成金ゴブリン』も『天使の施し』も、それだけならただのデッキ圧縮だ。1枚で2枚分以上の働きをする強力なドローカードは近年見直しの動きが出ており『強欲な壺』なども、もれなく制限指定を受けている。

 魔法カードの連続プレイは、通常ならば大した意味はない。だがレアハンターのフィールドには、最初に呼び出された『あのモンスター』がいる。

 

「私は『死者蘇生』を発動。今の『天使の施し』で墓地に送った2体目の『王立魔法図書館』を特殊召喚する!」

 

『王立魔法図書館』

光/魔法使い族

ATK0/DEF2000

このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分または相手が魔法カードを発動する度に、このカードに魔力カウンターを1つ置く(最大3つまで)。このカードの魔力カウンターを3つ取り除いて発動できる。自分はデッキから1枚ドローする。

 

「1体目の『図書館』にはこれでカウンターが貯まった。私は『王立魔法図書館』のカウンターを3つ取り除き、効果発動! デッキからカードを1枚ドローする」

 

 これでレアハンターの手札は6枚。フィールドには2体の『王立魔法図書館』が存在し、手札と場の合計は8枚。既にマリクと比べて2枚分のアドバンテージを得たことになる。

 デッキを使いこなし、カードを巧みに回している証拠だ。

 

「なるほど。大将を気取るだけあって、面白い戦術を使うようになったな」

「……なぁにを偉そうに、上から目線で私の戦術を品評している」

 

 レアハンターは血走った目でマリクを凝視した。同時に、彼の口元が三日月に歪む。

 

「くく……その余裕に満ちている顔! すぐにでも塗り替えてやろう! 私は魔法カード『トゥーンのもくじ』を発動!」

「『トゥーン』だと!?」

「その効果により、私はデッキから『トゥーン』と名のついたカードをデッキから手札に加える! 私が選択するのは2枚目の『トゥーンのもくじ』だ!」

 

 マリクも当然、知っていた。『トゥーン』とはデュエルモンスターズの生みの親、ペガサス・J・クロフォードが作り出した、いわば彼専用のカード群だ。当然レアハンターが使用しているものが『本物』であるわけがない。

 

「どうして……」

 

 マリクもほんの好奇心で『トゥーン』のコピーカードの制作を命じたことがあった。だが、オリジナルの原本が入手できなかった為に、当時のグールズの技術ではコピーの作成は不可能。マリク自身もそこまで『トゥーン』に執着していたわけでもなく、作れないのなら仕方がないと制作を断念し、より強大な力を持つ『三幻神』のコピーに力を注ぐようになった。

 1枚のカードに記録されている情報の中には『オリジナルのカード』にしか記されていない固有のコードが存在する。それを読み込み『ソリッドヴィジョンシステム』はカードを認識、立体映像として反映させる。つまり、本来『コピーカード』とは『オリジナルのカード』がなければ作成できないものなのだ。

 だがそれを今、この男が使っているということは、

 

「コピーカードの製造設備が……まだ生きている? いや、そうじゃない……まさか『改良した製造設備』を持っているのか?」

「それを答える義理はない。知りたければ私を倒して聞けばイイ。もっとも、そんなことは不可能だがなァ! 2枚目の『トゥーンのもくじ』を発動! 3枚目を手札に!」

 

 『トゥーンのもくじ』は本来、カテゴリーの専用サーチカード。しかしレアハンターの使用法は違う。1ターンに1度の制限がないことを利用した、同名カードの連続サーチ。それに伴うデッキ圧縮。

 そして、

 

「3枚目を発動! 永続魔法『トゥーン・ワールド』を手札に加え、これにより2体の『王立魔法図書館』にカウンターが3つ貯まった。全て取り除いて2枚ドローする!」

 

 魔力カウンターの、効率的な充填。

 レアハンターの手札は8枚にまで膨れ上がった。

 

「私は『一時休戦』を発動! お互いにデッキからカードを1枚ドローし、次のターンのエンドフェイズまでお互いが受ける全てのダメージをゼロにする!」

「やれやれ、本当に好き勝手にやってくれるな」

 

 デッキから1枚を引きながら、マリクはうんざりとして言った。

 

「そろそろ揃ってきたかい?」

 

 並みの決闘者ならこの時点で、マリクの言葉の意味。即ちレアハンターの狙いにも気付くだろう。

 否定すらせず、レアハンターはむしろマリク向かって誇らしげに、3枚のカードをひけらかした。

 

「『右腕』に『左脚』に『本体』だ。私の手にはもう3枚が手中にある。恐ろしいか、マリク?」

 

 ライフポイントを先にゼロにした方が勝つ。それが、決闘のルールの根幹である。だが、そんなルールの道理に反するカード達も、確かに存在する。

 2000ポイントの代償を求めながらも、20ターンの時間を刻むことによって確実に使用者に勝利を与える火時計。『終焉へのカウントダウン』

 5枚のカードをターン毎にフィールドに浮かび上がらせ、相手に死の宣告を啓示するメッセージプレート。『ウィジャ盤』

 そして、封印された四肢を手札に揃えてはじめて、真の力を発揮する幻の召喚神。『エクゾディア』

 

「これだけ回しておいて、まだ3枚か。『エクゾディアパーツ』の3枚積みはどうした、レアハンター?」

「やめてくれ。それは『ルール』に抵触するだろう。紳士的な私のプレイの理念に背くよ」

「その口でよくほざくな」

 

 『エクゾディアパーツ』は強力過ぎるが故に、それぞれが1枚しかデッキに投入できない『制限指定』を受けている。かつてレアハンターはそれらをデッキに3枚フル投入していたが、現在では今言った通り、1枚ずつのみだ。その言葉に、嘘偽りはない。

 

「パーツが早期に手札に溜まると『回しにくく』なってしまうのでね。だが問題はない」

 

 言いつつレアハンターは、4枚のカードを場に伏せた。マリクの片眉が、僅かに釣り上がる。

 

「その時点で不要なカードは、捨てて入れ換えてしまえばイイ。捨てたカードは後から回収すればイイ。単純な話だ」

 

 レアハンターは確信していた。

 このデッキ。この戦術。やはり『エクゾディア』は最強だ。

 

「『手札抹殺』を発動」

 

 『死者転生』や『闇の量産工場』に加え、シナジーは多少落ちるが『補充要員』

 『パーツ』の回収手段はいくらでもデッキに搭載してあった。

 仮に墓地から除外されたとしても『異次元からの埋葬』も用意してある。武藤遊戯との対戦で受けた『連鎖爆撃』も恐れるに足りない。

 

「私は手札を3枚捨て、3枚ドロー! さあマリク、お前は6枚捨てて6枚ドローしろ!」

「ああ、分かった」

 

 マリクは手札を全て墓地へ送り、新たに6枚をドローした。レアハンターが、唯一警戒していたリバースカードも、開かれる素振りはない。

 

「……正直言って、舐めていたよ。まさかキミが、ここまでやるとは」

 

 顔を伏せて、マリクは言う。

 レアハンターの全身を喜びが揺さぶった。

 あのマリク・イシュタールに。自分達を洗脳し、手駒として扱っていた、あの傲慢な男に。

 今、敗北という最大の屈辱を叩き付けようとしている。

 なんという快感。なんという愉悦。この瞬間を、どれだけ待ち望んだことか。

 

「ククク……ああ、そうだろう。そうだろうとも! お前は私を馬鹿にしてきた! どうだ!? 自分が好きなように使っていた手駒に、王手を掛けられた気分は!」

「ああ、本当に、」

 

 緩慢な動作で、マリクは伏せていた顔を上げる。

 レアハンターは、目を疑った。

 悲壮な決意を語り、決闘を開始してから今まで、厳戒な雰囲気からぴくりとも動かなかった、マリクの表情が、

 

 

「――――最高だよ」

 

 

 狂気を孕んだ、満面の笑みに彩られていた。

 

「ア……?」

 

 雷鳴が轟いた。

 白刃が閃いた。

 気が付いた時には2体の『王立魔法図書館』は跡形もなく消し飛び、逆にマリクのフィールドには2体の悪魔が立ち並んでいた。

 

「なに……が」

「キミの相手がボクで、本当によかった」

 

 白髪を掻き上げ、薄く薄く薄く――極限まで感情を研ぎ澄ました酷薄な笑みを浮かべながら、マリク・イシュタールは告げる。

 

「カード効果によって手札から捨てられた時、このモンスター達は特殊召喚できる。そして『相手のカード効果』によって捨てられた時は、更なる追加効果を得る」

 

 巨大な戦斧を携えた金色の悪魔が、主人に応えるように咆哮した。

 

「『暗黒界の武神ゴルド』は、特殊召喚成功時に相手フィールドのカード2枚を破壊する。キミの『王立魔法図書館』はコイツの雷撃で穿たせてもらった」

 

 さらに、とマリクは付け加える。

 

「『暗黒界の軍神シルバ』が特殊召喚成功にした場合、相手プレイヤーは手札を2枚選択してデッキの1番下に置く。選んでもらおうか?」

 

 レアハンターの喉元に、カタールのように婉曲した白刃が突き付けられる。銀の悪魔は静かに、選択を迫っていた。

 

「キサマ……」

「さらに補則事項だ。『暗黒界の狩人ブラウ』が相手のカード効果によって捨てられたので、俺はデッキからカードを2枚ドローする」

 

 涼しげな顔で2枚ドローするマリクとは対称的に、レアハンターは脂汗を浮かべながら、2枚の手札をデッキボトムに送った。

 フィールドには4枚のカード。しかし手札はたったの1枚。なによりもデッキのメインエンジンである『王立魔法図書館』が破壊された。

 

「いいデッキだ。『王立魔法図書館』を軸にして、デッキの残りは『エクゾディアパーツ』以外はほとんどが魔法カード。精々『クリッター』くらいか? デッキに投入されている他のモンスターは」

 

 軽い調子で語られる、その予測すらも的を得ていた。ギリ、とレアハンターは歯を噛み締める。

 

「だがそのデッキの特性上、どうしても『王立魔法図書館』を引き込めなければデッキは回転できない。ドローカードの枚数は限られている。手札にダブついた『パーツ』を交換するカードも必要だ。『おろかな埋葬』で『王立魔法図書館』を間接的にサーチするギミックも積んでいる以上、必ず『手札抹殺』を使ってくれると信じていたよ」

 

 レアハンターは信じられなかった。

 たったそれだけで。

 デッキの特性を見抜き、この瞬間を待っていたというのか。

 

「さあ、どうした? プレイを続けてくれ」

 

 彼は失念していたのだ。

 マリク・イシュタールという決闘者の特徴を。

 『神のカード』を最大限に活用するデッキビルド。コンボの発想。実際にそれをやってのけるプレイング。

 その根底にあるのは、デッキとカードの特徴を見極める観察眼。

 失念していたのだ。この男も『決闘王』を追い詰めた『伝説』の1人だということを。

 

「まだっ……だ」

 

 それでも、レアハンターは諦めない。

 相手がいくら強かろうと、自分が負ける理由にはならない。

 

「リバースカードオープン! 『ソウルチャージ』だ! 私は2000ポイントのライフを支払い、『王立魔法図書館』を」

「却下だ。リバースカード、オープン」

「ッ……!?」

「『闇の取引』」

 

『闇の取引』

通常罠

相手の通常魔法発動時に1000ライフポイントを払って発動する事ができる。 その時相手が発動した通常魔法の効果は「相手はランダムに手札1枚を捨てる」となる。

 

「カード効果をっ……書き換えて……?」

「また選んでくれ。どれがいい?」

 

 7枚のカードが扇のように広げられる。マリクの視線は、小揺るぎもしない。真っ直ぐと、レアハンターの顔を見据えている。

 

「ま、真ん中だ。真ん中のカードを墓地に送れ!」

「ふむ……」

 

 くるり、と。カードが裏返される。

 

「残念」

 

『サイクロン』

速攻魔法

相手フィールド上の魔法・罠カードを1枚破壊する。

 

「はっ……はは」

 

 冷や汗を拭い、レアハンターは笑った。

 

「どうやら私も、まだ運に見放されたわけではないらしい! 私はこれでターンエンドだ!」

 

 レアハンターのデッキにはまだ『強欲な壺』などのドローカードが残されており、手札にある残り1枚のカードは2枚目の『一時休戦』である。マリクのフィールドに上級悪魔族モンスターがいようとも、関係ない。次のターンや、その次のターンのドロー次第で、まだ挽回は充分に可能だ。

 

「ボクのターン、ドロー。ボクはリバースカードを2枚伏せ、フィールドにセットされたモンスターを反転召喚する」

 

 そういえば、とレアハンターは裏側のカードを見た。マリクがこの決闘で最初に出したセットモンスター。今まで存在を忘れていたカードが、表に変わり正体を晒す。

 

「『メタモルポット』を反転召喚」

「は…………な、に?」

 

 古びた壺の中から、醜悪なナニカが顔を覗かせた。

 

「効果によりボクは手札を全て捨て、デッキから5枚ドロー。捨てられた『暗黒界の尖兵ベージ』2体を特殊召喚。加えて『暗黒界の狩人ブラウ』の効果で1枚ドローする」

「くっ……私は1枚捨てて、5枚ドローだ!」

 

 マリクのフィールドに新たに悪魔が現れる。だが、無意味だ。いくらモンスターを並べたところで、レアハンターのライフには傷ひとつもつけることはできない。むしろ手札補充はレアハンターにとって、ありがたいくらいだ。

 

「『一時休戦』の効果を忘れたわけではあるまい? 貴様は私にはダメージを与えられない!」

 

「そうだな、その通りだ。確かにダメージを与えることはできない。で、それが何だというんだい?」

「なに……?」

「リバースカードオープン『暗黒界の取引』だ。お互いにデッキから1枚ドローし、1枚捨てる」

 

 普通に使えば1枚分のディスアドバンテージ。その名の通り、暗黒界と組み合わせてはじめて真価を発揮する魔法カードだ。

 

「ボクは『ベージ』を捨て、効果で特殊召喚」

 

 モンスターゾーンが、5体の悪魔達で埋まる。しかし、レアハンターは微塵も恐怖を感じない。

 

「はっ! いくら並べたところで結果は変わらん! 無駄なことを……」

「御託はいらないよ。2枚目の『暗黒界の取引』を発動」

 

 全く同じ効果を繰り返す。マリクのカードを操る手は、少しも緩まない。

 

「続けて『墓穴の道連れ』を発動」

 

『墓穴の道連れ』

通常魔法

お互いのプレイヤーは、それぞれ相手の手札を確認し、その中からカードを1枚選んで捨てる。その後、お互いのプレイヤーは、それぞれデッキから1枚ドローする。

 

「ちっ……」

 

 苦虫を潰したかのような顔で、レアハンターは手札を提示した。

『魔力掌握』

『闇の量産工場』

『異次元からの埋葬』

『強欲な壺』

『ソウルチャージ』

 

「では『闇の量産工場』を捨ててもらおう」

「お前は『死者蘇生』を墓地に送れ」

 

 お互いに1枚捨て、再び1枚ドローする。

 

「さらにもう1枚。『墓穴の道連れ』だ。『ソウルチャージ』を捨てろ」

「くどい奴め……『大嵐』を墓地に送れ」

 

 悪態を吐きながらも、レアハンターは内心ではほくそ笑んでいた。

 2枚目の『墓穴の道連れ』で、ついにデッキに眠っている最後の『エクゾディアパーツ』である『封印されし者の左腕』をドローしたのだ。フィールドには『死者転生』と『闇の量産工場』が1枚ずつセットしてある。

 レアハンターは確信した。この決闘の勝利は、もはや決定付けられた、と。

 

「次のターン……次のターンだ。貴様に引導を渡してやる!」

 

 しかし同時に、マリク・イシュタールも確信していた。

 

「なにを勘違いしている? キミのターンはもう来ないよ」

 

 自分自身の、絶対的な勝利を。

 

「『手札抹殺』を発動」

 

 そのカードは、この決闘で2回目の発動だった。

 

「ふん……」

 

 なにを今さら、とレアハンターは目を細めて嘲笑った。どうせ『異次元からの埋葬』や『魔力掌握』は、今は不要なカード。躊躇いもなく全ての手札を墓地へ捨て、新たに5枚をドローする。

 1枚、2枚、3枚、4枚……

 そうして、ようやく気が付いた。

 

「あ……あ、あああっ……」

 

 5枚。

 それで終わりだった。

 レアハンターの決闘盤のデッキスロットには、もう1枚たりとも、カードは残されていなかった。

 

「な、ない。私の、私のデッキが、残ってな、い。あ、あ……ああああ!?」

「ライフポイントを削るだけが決闘の勝利条件ではない。キミが最もよく理解していると思っていたが、どうやらボクの買い被りだったようだ」

 

 心底残念そうに、マリクは告げた。

 

「キミの負けだよ、悪党。ターンエンド」

 

 ドローフェイズ。

 レアハンターは、カードを引くことができない。

 

「嘘だっ! 嘘だ嘘だ! 私のっ……私のエクゾディアが負けるハズがないんだぁああああぁ!?」

 

 絶叫が途切れた。

 声もなく。いやむしろ、途中から敗北の絶叫が悲鳴に変わっていたのか。

 レアハンターはそのまま、前のめりに冷たい床に倒れた。

 

「さあ……次は誰だ?」

 

 満面の笑みで、マリク・イシュタールは残りの敵へ決闘盤を向けた。

 

 

◇◆◇◆

 

 

「うっわー。これはひどいなぁー」

 

 決闘の経過を映し出していたモニターから顔を上げて、鬼柳瑞葉は嘆息した。

 

「この私が腕によりをかけて組み上げた、アレで勝つくらいなら壁に向かって1人で決闘していた方がマシに思えるスーパー自己満足デッキ、図書館エクゾミズハスペシャルを使って、まさか負けるなんて……」

「ネーミングセンスに突っ込みたいけど、そうも言ってられない状況ね」

 

 忙しなくキーボードを叩きながら、十六夜美夜は頷いた。瑞葉は、出店で買い占めて来たたこ焼きやら焼き鳥やらを摘まみながら、言葉を続けた。

 

「ちょっとマズいんじゃない? あれでもうまく『洗脳』できた人達の中では1番強かった……名前なんだっけ? 忘れちゃった」

「私も覚えてないわよ。なんか爬虫類みたいな顔だったし」

「まぁ、いいや。とにかく、私お手製のスペシャルデッキを持たせてあげたレアハンターAさんが負けたんじゃ、残ってる人達でマリクさんとかに勝てないよ?」

 

 最後のたこ焼きを口に放り込んで、瑞葉はレジャーシートに寝転がった。彼女達がいるのは島を見渡せる山の頂上近くであり、見ようによってはピクニックに来ている親子に見えなくもない。

 

「……海馬コーポレーションが秘密裏に設立したと噂されていた『カード犯罪特殊対策チーム』か。まさか実在していたとはな……」

 

 巨木に背を預け、目を閉じたままセレス・ゴドウィンは平淡な声で呟いた。

 

「実在していたとはな……じゃないわよー! どうするのよ、コレ。相手がこんなに戦力を揃えていたなんて」

「私が出よう」

「…………え?」

 

 立ち上がったセレスを、美夜はポカンと見上げた。

 

「い、いいの? だって今回は……」

「かまわん。知っている顔だ。挨拶に行かねばなるまい」

「セレスさんが行くなら私も行くよー。腹ごなしにちょうど良さそうだしね」

「それだけ食べたんだ。少しは働け」

 

 セレスと瑞葉は決闘盤を装着した。軽口を叩きあっている2人を美夜はしばらく黙って眺めていたが、意を決したように立ち上がった。

 

「そうねぇ……じゃあ折角だし……」

 

 彼女は白く長い指をピンと伸ばして、手を叩いた。

 

「総力戦といきましょうか」

 




オマケ

図書館エクゾミズハスペシャル

封印されしエクゾディア
封印されし者の右腕
封印されし者の左腕
封印されし者の右足
封印されし者の左足
王立魔法図書館 3
クリッター 
死者蘇生
はやすぎた埋葬
おろかな埋葬 2
トゥーンワールド
トゥーンのもくじ 3
成金ゴブリン 3
ソウルチャージ 3
一時休戦 3
魔力掌握 3
闇の量産工場 3
強欲な壺
天使の施し
手札抹殺
手札段札
天よりの宝札(原作)
死者転生 2
補充要員

禁止とか制限とか細かいことは気にしないでください。時代が時代です(遠い目)

作中でひどい言いようでしたが、エクゾディアは好きです。シンクロエクゾソウルチャージ搭載型で、フィールドに幻の召喚神を並べた友人のバカプレイには、心の底から感動しました。
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